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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025079902
(43)【公開日】2025-05-23
(54)【発明の名称】チューブ保持治具
(51)【国際特許分類】
   B25B 27/10 20060101AFI20250516BHJP
【FI】
B25B27/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192761
(22)【出願日】2023-11-13
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】ブイタン タン
(72)【発明者】
【氏名】足立 智大
(72)【発明者】
【氏名】土屋 祐人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 三平
【テーマコード(参考)】
3C031
【Fターム(参考)】
3C031DD28
(57)【要約】
【課題】チューブを滑らせることなく保持し続ける性能の向上を、大型化も製造コストの上昇も抑えたままで実現可能なチューブ保持治具を提供する。
【解決手段】チューブ保持治具は、チューブの開口端の中へスリーブ等の部材を押し込む作業の間、チューブを保持する治具であり、クランプとリングとを備えている。クランプは、円錐台面状の穴の中に物体を挟むように構成されている。リングは、チューブに対する摩擦係数がクランプよりも高く、外周面が円錐台面状である。リングは更に、外径が広い側をチューブの開口端へ向けてチューブを同軸に囲んでいる状態でクランプの穴の中に外径が広い側を穴の直径が広い側へ向けて同軸に挟まれるように構成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブの開口端の中へ部材を押し込む作業の間、前記チューブを保持する治具であって、
円錐台面状の穴の中に物体を挟むように構成されているクランプと、
前記チューブに対する摩擦係数が前記クランプよりも高い、外周面が円錐台面状であるリングと
を備え、
前記リングは、外径が広い側を前記チューブの開口端へ向けて前記チューブを同軸に囲んでいる状態で前記クランプの穴の中に、前記外径が広い側を前記穴の直径が広い側へ向けて同軸に挟まれるように構成されている
ことを特徴とするチューブ保持治具。
【請求項2】
前記クランプは、
ヒンジにより互いに揺動可能に接続されている2つの部材
を含み、
前記2つの部材は、
それぞれが表面に半円錐台面状の凹部を含み、
前記ヒンジのまわりでの揺動により互いの前記表面を重ね合わせて、前記凹部で前記円錐台面状の穴を形成するように構成されている、
請求項1に記載のチューブ保持治具。
【請求項3】
前記クランプの穴は直径が狭い方の端部に、内周方向へ突出している円環状の段部を含み、
前記リングは、外径が狭い方の端面を前記段部の円環面に密着させる
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ保持治具。
【請求項4】
前記リングは、
外径が狭い方の端面から軸方向へ突出しており、前記段部と前記チューブとの隙間に挟まれる環状の突起
を含む
ことを特徴とする請求項3に記載のチューブ保持治具。
【請求項5】
前記クランプの穴は直径が狭い方の端部に、周方向へ伸びている円環状の溝を含み、
前記リングは、
外径が狭い方の端部の外周面から外周方向へ突出しており、前記溝に嵌められている円環状のフランジ
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ保持治具。
【請求項6】
前記クランプの穴は直径が狭い方の端部に、内周方向へ突出している円環状の突起を含み、
前記リングは、
外径が狭い方の端部の外周面を周方向へ伸びており、前記突起が嵌められている環状の溝
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ保持治具。
【請求項7】
前記リングは、内周面を周方向へ伸びている環状溝を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のチューブ保持治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブを管継手に接続する作業で使用される工具に関し、特に、チューブの開口端の中へ管継手の部材を押し込む作業の間、チューブを保持する治具に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいては、ウェハへのレジストの塗布、ウェハの洗浄等に様々な薬液または超純水が使用される。これらの薬液等を扱うチューブ、管継手、バルブ、ポンプ等の配管設備が半導体製造装置には含まれる。この配管設備の特徴としては、薬液等に直に触れる部分がすべて樹脂等の非金属で構成される点と、洗浄等のメンテナンスが比較的頻繁である点とが挙げられる。前者は、金属汚染による半導体の結晶欠陥、および電気的特性の劣化を防ぐことを目的とし、後者は、微粒子による配線の加工不良、および有機物による成膜異常を防ぐことを目的とする。これらの特徴を踏まえて配管設備には高いシール性に加え、組み立てと分解との作業の容易性が求められる。
【0003】
配管設備の中でも管継手には、チューブの接続にスリーブ(インナーリングともいう。)と呼ばれる部材を利用するものが含まれる(たとえば特許文献1参照)。スリーブは軸方向における一端部(以下、「先端部」と呼ぶ。)に、外径がチューブの内径よりも広く膨らんだ部分(以下、「膨出部」と呼ぶ。)を含む。スリーブの先端部がチューブの開口端の中へ押し込まれると、その開口端をスリーブの膨出部が内側から拡げる。この拡張に逆らうチューブの弾性力によりチューブの開口端が膨出部を抱き込むので、開口端がスリーブの先端部にしっかりと固定されると共に、開口端と先端部との隙間がシールされる。
【0004】
チューブの開口端の中へスリーブの先端部を押し込む作業、すなわちチューブに対するスリーブの圧入作業には、一般に専用の工具が使用される(たとえば特許文献2、3参照)。この工具は主に、圧入作業の間チューブを保持する治具(以下、「チューブ保持治具」と呼ぶ。)と、その治具に保持されているチューブの開口端にスリーブの先端部を押し込む機構(以下、「スリーブ押圧機構」と呼ぶ。)とで構成されている。チューブ保持治具はクランプとリングとを含む。クランプは一般に金属製であり、円柱面状の穴の中に物体を挟むように構成されている。リングは一般に非金属製の円筒部材であり、チューブを同軸に囲むように構成されている。
【0005】
リングの役割は主にチューブの滑り止めにある。チューブを構成する非金属、典型的にはフッ素樹脂は滑り性が高いので、クランプで直に挟むと、圧入作業の間にクランプの穴の中を滑りやすい。これにより、チューブに対するスリーブの圧入が不完全になるおそれがあり、チューブがクランプの穴から抜け落ちる危険さえある。そこで、リングを、チューブに対する摩擦係数がクランプよりも高い非金属、典型的にはゴムで形成し、リングにチューブを同軸に通した上で、リングをクランプの穴の中に挟む。リングがクランプよりもチューブに対して滑りにくいので、クランプの穴とチューブとの隙間にリングが挟まれていれば、クランプの穴からのチューブの抜け落ちはもちろん、チューブに対するスリーブの不完全な圧入も防ぐことができる。好ましくはクランプの穴の表面がゴム製の膜で覆われ(たとえば特許文献2参照。)、またはブラスト処理等により穴の表面粗さが高く加工されている(たとえば特許文献3参照)。これにより、リングはクランプの穴の中を更に滑りにくい。リングは更に、チューブとクランプとの直接の接触に伴うチューブの金属汚染を防止する効果も兼ね備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-332070号公報
【特許文献2】特許第3182690号公報
【特許文献3】特許第4580948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リングは非金属製、典型的にはゴム製であるので、一般に、経年劣化に伴う摩擦係数の低下が避けられない。したがって、チューブ保持治具の使用年数が嵩むと、チューブがリングに対して滑りやすくなる。また、チューブとスリーブとの間のシール性を向上させる目的でチューブの内径とスリーブの膨出部の外径との間の差が拡げられると、チューブに対するスリーブの圧入作業ではチューブの開口端の中へスリーブが更に強く押し込まれねばならないので、チューブがリングに対して滑りやすくなる。これらの場合においてもなおチューブの滑りを防ぐには、チューブに対してリングが与える摩擦力の強化が必要である。それには、たとえば、クランプでチューブを締め付ける力を強めてチューブに対するリングの垂直抗力を強めればよく、または、チューブの長さ方向におけるクランプとリングとの各幅を拡げる等によりチューブとリングとの間の接触面積を大きくすればよい。しかし、これらの対策はいずれも治具の大型化を招く。その他に、リングの材料として摩擦係数が更に高いゴムが選択されてもよい。しかし、この対策はリングの製造コストを上昇させる。
【0008】
本発明の目的は上記の課題を解決することであり、特に、チューブを滑らせることなく保持し続ける性能の向上を、大型化も製造コストの上昇も抑えたままで実現可能なチューブ保持治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの観点におけるチューブ保持治具は、チューブの開口端の中へスリーブ等の部材を押し込む作業の間、チューブを保持する治具であり、クランプとリングとを備えている。クランプは、円錐台面状の穴の中に物体を挟むように構成されている。リングは、チューブに対する摩擦係数がクランプよりも高く、外周面が円錐台面状である。リングは更に、外径が広い側をチューブの開口端へ向けてチューブを同軸に囲んでいる状態でクランプの穴の中に、外径が広い側を穴の直径が広い側へ向けて同軸に挟まれるように構成されている。
【0010】
たとえばクランプが、ヒンジにより互いに揺動可能に接続されている2つの部材を含んでいてもよい。これら2つの部材は、それぞれが表面に半円錐台面状の凹部を含み、ヒンジのまわりでの揺動により互いの表面を重ね合わせて、凹部で円錐台面状の穴を形成するように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明による上記のチューブ保持治具では、クランプの穴も、その穴とチューブとの隙間に挟まれるリングの外周面も、従来の円柱面状に代えて円錐台面状である。この場合、チューブに対するスリーブの圧入作業においてリングがチューブからの摩擦力により、クランプの穴が成す円錐台面の直径が広い側(以下、「広径側」という。)から直径が狭い側(以下、「狭径側」という。)へ向かって軸方向に押されると、リングが「くさび」のように、外周面でクランプの穴の表面を軸方向に対して斜めに押圧する。この押圧力に対する反力も軸方向に対して斜めであるので、リングの外周面が軸方向だけでなく、内周方向へも押し返される。この内周方向の反力がチューブに対して垂直抗力として作用するので、リングがチューブに対して与え得る摩擦力が強まる。すなわち、チューブとクランプの穴との隙間でリングがくさびのように作用することにより、チューブがリングを軸方向に強く押すほどチューブがリングに対して滑りにくくなる。このように、本発明はチューブ保持治具に「クランプの穴とリングの外周面とを円錐台面状にする」という設計の比較的小さな変更だけで、チューブを滑らせることなく保持し続けるという性能の向上を、大型化も製造コストの上昇も抑えたままで実現させることができる。
【0012】
クランプの穴は直径が狭い方の端部(以下、「狭径端部」という。)に、内周方向へ突出している円環状の段部を含み、リングは外径が狭い方の端面(以下、「狭径端面」という。)を段部の円環面に密着させていてもよい。さらに、リングが、狭径端面から軸方向へ突出している環状の突起を含んでもよい。この突起は段部とチューブとの隙間に挟まれる。チューブに対するスリーブの圧入作業の間、チューブからリングが受ける摩擦力により、リングの狭径端面がクランプの段部の成す円環面に押し付けられる。これにより、リングの狭径端部では径方向の応力が増大するので、チューブに対する垂直抗力が更に強まる。こうして、リングがチューブに対して与え得る摩擦力が更に強まる。
【0013】
クランプの穴が狭径端部に周方向へ伸びている円環状の溝を含み、リングが円環状のフランジを含んでもよい。フランジは、リングの狭径端部の外周面から外周方向へ突出しており、クランプの穴の溝に嵌められている。逆に、クランプの穴が狭径端部に内周方向へ突出している円環状の突起を含み、リングが環状の溝を含んでもよい。溝は、リングの狭径端部の外周面を周方向へ伸びており、クランプの穴の突起が嵌められている。いずれの場合も、チューブに対するスリーブの圧入作業の間、チューブからリングが受ける摩擦力により、リングのフランジがクランプの溝の表面に押し付けられ、または、リングの溝の表面がクランプの突起に押し付けられる。これにより、リングのフランジの狭径側、またはリングの溝に対して広径側では径方向の応力が増大するので、チューブに対する垂直抗力が更に強まる。こうして、リングがチューブに対して与え得る摩擦力が更に強まる。
【0014】
リングが、内周面を周方向へ伸びている環状溝を含んでもよい。この場合、リングがクランプから受ける反力に伴って内周方向へ加える圧力は、環状溝の両側でチューブに接触する各部分に集中する。これらの部分ではチューブに対する垂直抗力が更に強まるので、リングがチューブに与え得る摩擦力が更に強まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態が対象とする管継手の縦断面図である。
図2】(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、本発明の実施形態による工具の上面図、正面図、底面図、および左側面図である。
図3図2が示すチューブ保持治具の斜視図であり、クランプが開いているときの外観を示す。
図4図2が示すチューブ保持治具の斜視図であり、クランプが閉じているときの外観を示す。
図5】(a)は、図3図4が示すリングの斜視図であり、(b)はそのリングの左側面図であり、(c)は(a)が示す直線c-cに沿った縦断面図である。
図6】(a)は、図2が示すスリーブ押圧機構がスリーブをチューブに押し込む直前の状態を示す正面図であり、(b)は(a)の示す破線部の縦断面図である。(c)は、スリーブ押圧機構がスリーブをチューブに押し込み切った状態を示す正面図であり、(d)は(c)の示す破線部の縦断面図である。
図7】スリーブ押圧機構がスリーブをチューブに押し込む作業中におけるチューブ保持治具のクランプとリングとの模式的な縦断面図である。
図8】(a)は、図5が示すリングの効果の検証に使用された簡易クランプの正面図であり、(b)はその簡易クランプの構成部材の斜視図である。
図9】(a)、(b)はそれぞれ、本発明の実施形態によるチューブ保持治具のクランプとリングとの変形例1、2を示す縦断面図である。
図10】(a)、(b)はそれぞれ、本発明の実施形態によるチューブ保持治具のクランプとリングとの変形例3、4を示す縦断面図である。
図11】本発明の実施形態によるリングの変形例5を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[管継手の構造]
【0017】
図1は、本発明の実施形態による工具が対象とする管継手100の縦断面図(すなわち中心軸を含む平面に沿った断面図)である。管継手100はチューブ500を別のチューブ、または、バルブもしくはポンプ等の流体機器に接続する。チューブ500は非金属、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素樹脂から成る。管継手100は、継手本体110、スリーブ120、およびユニオンナット130を含む。
【0018】
継手本体110は、非金属、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PTFE、PFA等のフッ素樹脂から成る円筒部材である。継手本体110の端部のうち、スリーブ120に接続される方(図1では左方)を先端部といい、反対の方を基端部119という。基端部119は別のチューブまたは流体機器に接続される。先端部は外筒111と内筒112との二重構造である。外筒111と内筒112とは基端部119から同じ軸方向(図1では左方)へ同軸に突出している。外筒111は外周面に雄ねじ114を含む。内筒112の先端116は外筒111の先端115よりも短く、軸方向(図1では左右方向)に対する傾斜面117を含み、継手本体110の基端部119から軸方向(図1では左方)へ離れるほど内径が増している。外筒111の内部空間のうち外筒111の先端115から内筒112の先端116までの範囲にはスリーブ120が収められる。外筒111の内周面と内筒112の外周面とが向かい合う部分は環状溝118を形作っている。
【0019】
スリーブ120は、非金属、好ましくは、PTFE、PFA等のフッ素樹脂から成る円筒部材であり、継手本体110と同軸に配置されている。スリーブ120の端部のうち、チューブ500に接続される方(図1では左端)を先端部121といい、継手本体110に接続される方(図1では右端)を基端部122という。スリーブ120の先端部121はチューブ500の開口端501の中に圧入で嵌められており、基端部122は継手本体111の内筒112と環状溝118とに嵌め合わされている。これにより、継手本体110の基端部119と内筒112、スリーブ120、およびチューブ500それぞれの内部空間が連通して、薬液または超純水等の流体の流路を形成している。
【0020】
スリーブ120の先端部121は膨出部123を含む。膨出部123は、軸方向(図1では左右方向)の位置に応じて外径がなだらかに増減している部分であり、軸方向における中央部に外径が最大となる部分、すなわちピークを含む。このピークの外径はチューブ500の内径よりも大きいので、膨出部123がチューブ500の開口端501の中へ押し込まれることにより、開口端501を内側から拡げる。この拡張に逆らうチューブ500の弾性力は、チューブ500の開口端501がスリーブ120の膨出部123を抱き込むように作用するので、開口端501がスリーブ120の先端部121にしっかりと固定されると共に、開口端501と先端部121との隙間がシールされる。
【0021】
スリーブ120の基端部122は環状突起124と環状溝125とを含む。環状突起124は基端部122の周全体から軸方向(図1では右方)へ同軸に突出しており、継手本体110の環状溝118の中に圧入で嵌められている。すなわち、環状突起124の内径は継手本体110の内筒112の外径よりもわずかに小さいので、環状突起124の内周面と内筒112の外周面とが密着している。スリーブ120の環状溝125は環状突起124の基端の内側に同軸に配置されている。環状溝125の中には継手本体110の内筒112の先端116が挿入されている。環状溝125は表面に、内筒112の先端116の傾斜面117と同じ方向に傾斜した部分を含む。この部分が内筒112の傾斜面117に接触している。
【0022】
ユニオンナット130は、非金属、好ましくは、PTFE、PFA、PVDF等のフッ素樹脂から成る円筒部材であり、継手本体110、スリーブ120、およびチューブ500を同軸に囲む。ユニオンナット130の端部のうち、継手本体110に近い方(図1では右端部)を先端部131といい、反対の方(図1では左端部)を基端部132という。基端部132にはチューブ500が同軸に挿入される。先端部131の内周面には雌ねじ134があり、基端部132の内周面には段部135がある。雌ねじ134は継手本体110の雄ねじ114と噛み合っている。段部135は、雌ねじ134よりも内径が狭い部分であり、チューブ500のうちスリーブ120の膨出部123によって拡げられた部分に接触している。これにより、ユニオンナット130の雌ねじ134が継手本体110の雄ねじ114にねじ込まれた際、ユニオンナット130からの圧力が段部135からチューブ500に加わり、スリーブ120を通してスリーブ120の環状突起124と環状溝125とへ伝わる。その結果、環状突起124の内周面は継手本体110の内筒112の外周面に対する圧力を更に上昇させ、環状溝125の表面は継手本体110の内筒112の傾斜面117と隙間なく圧着する。こうして、継手本体110とスリーブ120との隙間がシールされる。
[工具の構造]
【0023】
図2の(a)、(b)、(c)、(d)はそれぞれ、本発明の実施形態による工具200の上面図、正面図、底面図、および左側面図である。工具200はチューブ500に対するスリーブ120の圧入作業に専用であり、本体210、チューブ保持治具300、およびスリーブ押圧機構400を備えている。
-本体-
【0024】
本体210は、アルミニウム合金等の金属から成る細長い矩形板である。本体210の一端部(図2では左端部)211の上面にはチューブ保持治具300が、たとえばボルト212で固定されている。本体210の中央部から他端部(図2では右端部)にかけて細長いスリット213が開けられており、それに沿って摺動可能であるようにスリーブ押圧機構400がスリット213に嵌め込まれている。
-チューブ保持治具-
【0025】
図3図4はいずれもチューブ保持治具300の斜視図である。チューブ保持治具300はクランプ310とリング330とを含む。図3は、クランプ310が開いているときの外観を示し、図4は、クランプ310が閉じているときの外観を示す。
<クランプ>
【0026】
クランプ310は全体が矩形板状であり、固定部311と可動部321とを含む。固定部311と可動部321とはそれぞれが、アルミニウム合金等の金属から成る矩形板であり、好ましくは厚みが等しい。固定部311は上面に凹部312(以下、「固定凹部」という。)を含み、可動部321は底面に凹部322(以下、「可動凹部」という。)を含む。固定凹部312と可動凹部322とは同サイズの半円錐台面状であり、軸方向が固定部311の板面313または可動部321の板面323に対して垂直である。いずれの凹部312、322も、母線が軸方向に対して傾斜角θc(0°<θc<90°)を成すので、直径が軸方向における一端(図3では左端)から他端(図3では右端)へ向かうにつれ、最小値Dmnから最大値Dmxまで増大する。好ましくは、いずれの凹部312、322も、ニトリルゴム(NBR)等のゴム製の膜340で覆われている。膜340は各凹部312、322に接着されている。
【0027】
固定部311は底面が本体210の一端部211の上面に密着した状態で固定されている。可動部321は、その底面の端部が固定部311の上面の端部にヒンジ314で揺動可能に接続されており、ヒンジ314のまわりでの揺動により、図3が示す開位置と、図4が示す閉位置とに変位可能である。開位置ではクランプ310が開く。すなわち、固定部311に対して可動部321が成す角度が最大になる。したがって、可動凹部322が固定凹部312から大きく離れるので、固定凹部312の中へチューブ500とリング330とを置き、または固定凹部312の中からチューブ500とリング330とを取り出すことができる。閉位置ではクランプ310が閉じる。すなわち、固定部311の上面に可動部321の底面が重なって固定部311の板面313と可動部321の板面323とが1枚の平面を成し、固定凹部312と可動凹部322とがほぼ完全な円錐台面状の空間(以下、「穴」という。)を成す。固定凹部312の中にチューブ500とリング330とが置かれているときには、固定凹部312と可動凹部322とが成す穴の中にチューブ500とリング330とが挟まれる。
【0028】
固定部311は、ヒンジ314とは固定凹部312を挟んで反対側に、回転軸315、掛け金316、およびレバー317を含む。これらはいずれも、アルミニウム合金、ステンレス鋼等の金属から成る棒状部材である。回転軸315は固定部311を板面313に対して垂直に貫通しており、自身の中心軸のまわりに回転可能である。回転軸315の一端部(図3図4では左端部)からは突起318が軸方向へ突出している。突起318は回転軸315に対して偏心しているので、回転軸315が回転すると、その中心軸のまわりで変位する。突起318には掛け金316の基端部316aが回転可能に接続されている。掛け金316の先端部は鉤部316bを含む。レバー317は回転軸315の他端部(図3図4では右端部)に、それに対して垂直に接続されている。レバー317の上げ下げにより回転軸315が回転するのに伴い、突起318と掛け金316の基端部316aとが変位する。たとえば、突起318と掛け金316の基端部316aとは、図3が示すようにレバー317が上げられると上昇して本体210の一端部211から離れ、図4が示すようにレバー317が下げられると下降して本体210の一端部211に近づく。
【0029】
可動部321は、ヒンジ314とは可動凹部322を挟んで反対側に、凸部324を含む。図4が示すようにクランプ310が閉じているとき、凸部324は回転軸315の突起318のほぼ真上に位置する。このとき図3が示すようにレバー317が上げられていると、掛け金316を基端部316bのまわりに回転させることにより、図4が示すように鉤部316aを凸部324に引っ掛けることができる。この状態で更に、図4が示すようにレバー317が下げられると、突起318と掛け金316の基端部316aとの下降により、鉤部316aが下方へ引っ張られて凸部324に押し付けられる。これにより、凸部324から掛け金316が外れにくくなるので、可動部321が閉位置にロックされる。
<リング>
【0030】
図5の(a)、(b)はそれぞれリング330の斜視図と左側面図とであり、(c)は(a)が示す直線c-cに沿ったリング330の縦断面図である。リング330は筒状部材であり、非金属、好ましくは、ウレタン等のゴムから成る。リング330の材料は特にチューブ500の材料に対する摩擦係数がクランプ310の材料よりも高い。リング330の内周面333は円柱面状であり、内径Diが一定である。一方、リング330の外周面334は円錐台面状であり、母線が軸方向(図5の(c)では左右方向)に対して傾斜角θr(0°<θr<90°)を成すので、外径が軸方向における一端から他端へ(図5の(c)では左端から右端へ)向かうにつれ、最小値Donから最大値Doxまで増大する。
【0031】
リング330の周の1箇所には軸方向の切り込み331があり、リング330の中心軸を挟んで反対側にはリビングヒンジ332がある。これにより、切り込み331は開閉可能であるので、切り込み331を通してリング330の中にチューブ500を入れることも、更にその中からチューブ500を出すことも容易である。さらに、リング330の中には、その内径Diよりも外径が大きいチューブ500も入れることが可能である。
【0032】
図4が示すように、リング330は外径が広い側(図4では右側。以下、「広径側」という。)をチューブ500の開口端501へ向けた状態でチューブ500を同軸に囲み、広径側を固定凹部312の直径が広い側(図4では右側。以下、「広径側」という。)へ向けた状態で固定凹部312の中に置かれる。したがって、クランプ310が閉じられると、リング330が各凹部312、322とチューブ500との隙間に挟まれる。好ましくは、リング330の最小外径Donが各凹部312、322(膜340を含む。)の最小直径Dmn以上であり(Don≧Dmn)、リング330の外周面333の母線の傾斜角θrが各凹部312、322の母線の傾斜角θc以上である(θr≧θc)。これにより、クランプ310が閉じられた状態でレバー314が下げられると、掛け金316で突起324を下方へ引っ張って固定部311に可動部321をロックする力により、リング330の外周面333の全体が固定凹部312と可動凹部322との両方に密着する。
[スリーブ押圧機構]
【0033】
図6の(a)は、スリーブ押圧機構400がスリーブ120をチューブ500に押し込む直前の状態を示す正面図であり、(b)は(a)の示す破線部の縦断面図である。図6の(c)は、スリーブ押圧機構400がスリーブ120をチューブ500に押し込み切った状態を示す正面図であり、(d)は(c)の示す破線部の縦断面図である。
【0034】
スリーブ押圧機構400は、ラックアンドピニオンを利用してスリーブ120を軸方向へ移動させる機構であり、レバー410と支持軸420とを含む。レバー410の回転軸411がピニオン(図示せず。)に接続されており、レバー410の上げ下げによりピニオンが双方向に回転可能である。支持軸420は、軸方向(図6では左右方向)に並進可能であると共に、チューブ保持治具300の固定凹部312と同軸に配置されている。支持軸420の外周面には、その中央部から基端部(図6では右端部)にかけてラック421が刻まれており、ピニオンと噛み合わされている。これにより、ピニオンの回転に伴って支持軸420が軸方向へ並進する。たとえば、図6の(c)が示すようにレバー410が左へ倒されると支持軸420が左方へ前進し、その後、図6の(a)が示すようにレバー410が起こされると支持軸420が右方へ後退する。支持軸420の先端(図6では左端)422は、スリーブ120を同軸に被せられるように構成されている。
【0035】
図6の(a)が示すように、チューブ保持治具300は固定部311と可動部321との間にチューブ500を、その開口端501がスリーブ押圧機構400へ向いた状態で挟んで保持する。一方、スリーブ押圧機構400は支持軸420の先端422にスリーブ120を被せて保持している。固定凹部312と支持軸420とが同軸であるので、図6の(b)が示すように、チューブ500とスリーブ120とが同軸に向かい合う。この状態で作業者がレバー410を倒し、支持軸420をチューブ保持治具300へ向かって前進させる。このときの支持軸420の推進力により、図6の(c)、(d)が示すように、チューブ500の開口端501の中へスリーブ120の先端部121が押し込まれ、膨出部123が開口端501を押し広げる。これにより、開口端501の中にスリーブ120が固定される。その後、作業者がレバー410を右へ起こし、支持軸420をチューブ保持治具300から後退させる。このとき、スリーブ120の中から支持軸420の先端422が抜け出るので、チューブ500の開口端501にスリーブ120が残される。
[クランプの穴とリングの外周面とが円錐台面状である理由]
【0036】
図7は、スリーブ押圧機構400がスリーブ120をチューブ500に押し込む作業中におけるクランプ310とリング330との模式的な縦断面図である。チューブ500の開口端501の中へスリーブ120が押し込まれると、チューブ500が軸方向(図7では左方向)の力F0を受けるので、チューブ500の外周面502がリング330の内周面334に対して軸方向(図7では左方向)の摩擦力F1を与える。このとき、チューブ保持治具300は固定凹部312の広径側(図7では右側)をチューブ500の開口端501へ向けており、リング330も広径側(図7では右側)をチューブ500の開口端501へ向けている。したがって、リング330が、以下に述べるように、あたかも「くさび」のように作用する。
【0037】
リング330の外周面333、固定凹部312、および可動凹部322が軸方向に対して傾斜しているので、軸方向の摩擦力F1に伴い、外周面333から各凹部312、322には、軸方向に対して斜め(図7では左上方向)の押圧力F2が作用する。その反力F3も軸方向に対して斜め(図7では右下方向)であるので、内周方向(図7では下方向)の成分F4を含む。この成分F4がリング330の内周面334からチューブ500の外周面502への垂直抗力F5を強める。その結果、リング330の内周面334からチューブ500の外周面502が受ける軸方向(図7では右方向)の摩擦力F6が強まり、チューブ500がリング300に対して軸方向(図7では左方)へは滑りにくくなる。
【0038】
以上のとおり、クランプ310の穴とリング330の外周面333とが円錐台面状であれば、リング330がくさびのように作用してチューブ500に対する摩擦力F6を強める。この効果(以下、「くさび効果」という。)は以下の実験で検証されている。
【0039】
図8の(a)は、リング330のくさび効果の検証に使用された簡易クランプ600の正面図である。簡易クランプ600は、同形同サイズの板状部材610を2個組み合わせたものである。図8の(b)は板状部材610の斜視図である。板状部材610は、アルミニウム合金等の金属から成る矩形板状であり、その厚みが一定値、たとえば30mmである。板状部材610は上面611に半円錐台面状の凹部612を含む。凹部612の軸方向は板状部材610の板面613に対して垂直である。凹部612は、たとえば最小半径Rmnが10.3mmであり、最大半径Rmxが13.5mmであり、軸方向に対する母線の傾斜角θcが4°である。凹部612はNBR等のゴム製の膜(図示せず。)で覆われる。膜は厚みが3.35mm~6.50mmであり、凹部612に接着される。板状部材610の長手方向の両端部には貫通穴614があり、その中には雌ねじが切られている。2個の板状部材610の一方が他方の上に、上下逆さまで重ねられると、図8の(a)が示すように、上下の板状部材610の板面613が1枚の平面を成し、2個の板状部材610の凹部612がほぼ完全な円錐台面状の穴を成す。さらに、上側の板状部材610の各貫通穴614が下側の板状部材610の同じ側の貫通穴614と同軸に揃う。2個の凹部612の間にリング330とチューブ500とが同軸に挟まれた状態で、各貫通穴614にボルト(図示せず。)がねじ込まれる。たとえばボルトの呼び径はM8であり、締め付けトルクは2.0Nmである。こうして、リング330とチューブ500とが2個の凹部612によって締め付けられるので、リング330の外周面333が凹部612(より正確にはそれを覆うゴム製の膜)に密着し、リング330の内周面334がチューブ500の外周面に密着する。
【0040】
実験で用いられたチューブ500は外径が12mmであり、リング330は、軸方向の長さが30mmであり、最小外径Dmnが19mmであり、最大外径Dmxが25mmであり、軸方向に対する母線の傾斜角θrが6°であり、内径が12mmである。
【0041】
圧縮試験機等を用いて、簡易クランプ600に保持されているチューブ500の開口端501を軸方向に一定の速度1.5mm/分で120秒間圧縮し、チューブ500がリング630に対して滑り始めるときの荷重F0(以下、「保持力」という。)を求めた。その結果、保持力は114.4Nであった。
【0042】
同じ実験が、従来のクランプとリングとを模した簡易治具についても行われた。すなわち、クランプとリングとは上記のものとは次の点でのみ異なる。クランプの凹部が半円柱面状であり、半径が13.5mmである。リングは外周面と内周面とがいずれも円柱面状であり、外径が25mmであり、内径が12mmである。この簡易治具では保持力F0が109.2Nであった。したがって、この簡易治具に比べて、簡易クランプ600は保持力が5.2N強いこと、すなわち、保持力を4.8%上昇させていることがわかった。
[実施形態の利点]
【0043】
本発明の上記の実施形態によるチューブ保持治具300では、クランプ310の固定凹部312と可動凹部322とがいずれも半円錐台面状であり、リング330の外周面333が円錐台面状である。この場合、チューブ500に対するスリーブ120の圧入作業の間、リング330がチューブ500との間の摩擦力F1で、両凹部312、322の成す円錐台面の広径側から狭径側へ向かって軸方向に押されると、リング330が「くさび」のように、外周面333で各凹部312、322を軸方向に対して斜めに押圧する。この押圧力F2に対する反力F3により、リング330の外周面333は内周方向へ押圧される。この内周方向の押圧力F4がチューブ500に対して垂直抗力F5として作用するので、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が強まる。すなわち、リング330のくさび効果により、チューブ500がリング330を軸方向に強く押すほど、チューブ500がリング330に対して滑りにくくなる。このように、チューブ保持治具300は、両凹部312、322を半円錐台面状にし、かつリング330の外周面333を円錐台面状にするという設計の比較的小さな変更だけで、チューブ500を滑らせることなく保持し続けるという性能の向上を、大型化も製造コストの上昇も抑えたままで実現させることができる。
[変形例]
【0044】
(1)図1が示すスリーブ120は一例に過ぎない。すなわち、スリーブは他の様々な形状であってもよい。また、管継手の種類によっては、チューブ500の開口端501の中へ押し込まれる部材が、スリーブ120に代えて管継手の本体であってもよい。
【0045】
(2)図3図4が示すチューブ保持治具300は一例に過ぎない。たとえば、固定部311と可動部321とが、回転軸315、掛け金316、およびレバー317によるロック機構に代え、簡易クランプ600のように互いに締結される構造であってもよい。固定部311と可動部321とが、板状に代えて、1つの筒を縦割りにして2つに分けた形状であり、それぞれの内周面が半円錐台面状であってもよい。
【0046】
(3)図5が示すように、リング330は、切り込み331とリビングヒンジ332とにより開閉可能である。しかし、リング330の弾力性が十分に高く、リング330が固定部311と可動部321との間に挟まれるまでは、リング330に通されたチューブ500が手で滑らせられる場合、切り込み331とリビングヒンジ332とが省略され、リング330の外周面333が完全に閉じた円錐台面状であってもよい。
【0047】
(4)図5が示すリング330はゴム製である。しかし、これに限らず、リング330の材料は、チューブ500に対する摩擦係数がクランプ310よりも高いものであれば、他の樹脂であっても、樹脂以外の非金属であってもよい。同様に、チューブ保持治具300の固定凹部312と可動凹部322とを覆っている膜340も、リング330に対する摩擦係数が両凹部312、322よりも高い限り、ゴム以外の非金属であってもよい。さらに、膜340に代えて、ブラスト処理等により各凹部312、322の表面粗さが高く加工されていてもよい。また、膜340に代え、チューブ500に対する摩擦係数がクランプ310よりも高い材料から成る膜または層が各凹部312、322の表面に、オーバーモールドまたはインサート成形等によって一体化していてもよい。
【0048】
(5)図5が示すように、固定凹部312と可動凹部322、およびリング330の外周面333はいずれも滑らかである。その他に、これらが以下に述べるような凹凸を含んでもよい。
【0049】
図9の(a)は、本発明の実施形態によるクランプ310とリング330との変形例1を示す縦断面図である。変形例1では、固定凹部312と可動凹部322とがいずれも直径が狭い側(図9の(a)では左側。以下、「狭径側」という。)に、内周方向へ突出している半円環状の段部381を含む。クランプ310が閉じているとき、両凹部312、322の段部381が完全な円環形を成す。その円環形の内径はチューブ500の外径よりも広い。一方、リング330は直径が狭い方の端面(図9の(a)では左端面。以下、「狭径端面」という。)から軸方向(図9の(a)では左方)へ突出している環状の突起382を含む。突起382は段部381とチューブ500との隙間を塞ぐ。チューブ500の開口端501の中へスリーブ120を圧入する作業の間、リング330の狭径端面のうち突起382以外の部分が両凹部312、322の段部381に押し付けられる。このとき、リング330の内部ではチューブ500の外周面502からの摩擦力F1に伴う軸方向(図9の(a)では左方向)の応力FSが狭径端面の近傍に集中する。その結果、その近傍では径方向の応力が増大するので、チューブ500に対する垂直抗力F5が更に強まる。こうして、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が更に強まる。
【0050】
図9の(b)は、本発明の実施形態によるクランプ310とリング330との変形例2を示す縦断面図である。変形例2では、固定凹部312と可動凹部322とがいずれも狭径側(図9の(b)では左端側)に、内周方向へ突出している半円環状の段部381を含む。クランプ310が閉じているとき、両凹部312、322の段部381が完全な円環形を成す。その円環形の内径は、図9の(a)が示す変形例1での内径とは異なり、チューブ500の外径とほぼ等しい。したがって、凹部312、322を覆っている膜340がチューブ500の外周面502に直に接触する。この場合、リング330は狭径端面の全体を、凹部312、322の段部381が成す円環面に接触させる。チューブ500に対するスリーブ120の圧入作業の間、リング330の狭径端面の全体が両凹部312、322の段部381に押し付けられる。このとき、リング330の内部ではチューブ500の外周面502からの摩擦力F1に伴う軸方向(図9の(b)では左方向)の応力FSが狭径端面の近傍に集中する。その結果、その近傍では径方向の応力が増大するので、チューブ500に対する垂直抗力F5が更に強まる。こうして、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が更に強まる。
【0051】
図10の(a)は、本発明の実施形態によるクランプ310とリング330との変形例3を示す縦断面図である。変形例3では、固定凹部312と可動凹部322とがいずれも狭径側(図10の(a)では左端側)に周方向へ伸びている半円環状の溝383を含み、リング330が円環状のフランジ384を含む。フランジ384はリング330の狭径端部(図10の(a)では左端部)の外周面から外周方向へ突出しており、各凹部312、322の溝383に嵌められている。チューブ500に対するスリーブ120の圧入作業の間、リング330のフランジ384が各凹部312、322の溝383の表面に押し付けられる。このときリング330の内部ではチューブ500の外周面からの摩擦力F1に伴う軸方向(図10の(a)では左方向)の応力FSが、溝383の表面に押し付けられるフランジ384の狭径側(図10の(a)では左端側)に集中し、径方向の応力を増大させる。その結果、チューブ500に対する垂直抗力F5が更に強まるので、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が更に強まる。
【0052】
図10の(b)は、本発明の実施形態によるクランプ310とリング330との変形例4を示す縦断面図である。変形例4では、固定凹部312と可動凹部322とがいずれも狭径側(図10の(b)では左側)に内周方向へ突出している半円環状の突起385を含み、リング330が環状の溝386を含む。溝386は、リング330の狭径端部の外周面を周方向へ伸びており、各凹部312、322の突起385が嵌められている。チューブ500に対するスリーブ120の圧入作業の間、リング330のうち溝386に対して広径側(図10の(b)では右側)が各凹部312、322の突起385に押し付けられる。このとき、リング330の内部ではチューブ500の外周面からの摩擦力F1に伴う軸方向(図10の(b)では左方向)の応力FSが、突起385に押し付けられる部分に集中し、径方向の応力を増大させる。その結果、チューブ500に対する垂直抗力F5が更に強まるので、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が更に強まる。
【0053】
(6)図5が示すように、リング330の内周面334は滑らかである。その他に、その内周面が以下に述べるような凹凸を含んでもよい。
【0054】
図11は、本発明の実施形態によるリング330の変形例5を示す縦断面図である。変形例5ではリング330の内周面が、周方向へ伸びている複数本の環状溝387を含む。環状溝387はたとえば角溝であり、リング330の軸方向(図11では左右方向)に等間隔で並んでいる。チューブ500に対するスリーブ120の圧入作業の間、リング330の外周面が各クランプ310、320の凹部312、322から受ける反力F3に伴ってリング330の内部では内周方向の応力がリング330の内周面のうち、環状溝387の両側でチューブ500の外周面に接触する部分388に集中する。これにより、リング330の内周面に環状溝387がない場合よりもチューブ500に対する垂直抗力F5が強まる。こうして、チューブ500に対するリング330の摩擦力F6が更に強まる。
【符号の説明】
【0055】
300 チューブ保持治具
310 クランプ
311 固定部
312 固定凹部
321 可動部
322 可動凹部
330 リング
333 リングの外周面
500 チューブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11