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特開2025-8032積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、積層鉄心および積層鉄心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008032
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、積層鉄心および積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/18 20060101AFI20250109BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20250109BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F1/18
C21D8/12 F
C22C38/00 303S
C22C30/00
C22C19/07 C
C23C26/00 C
H01F1/147
H01F27/245
H01F3/02
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109869
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】519210675
【氏名又は名称】鈴木 茂
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】523253730
【氏名又は名称】粕谷 素洋
(71)【出願人】
【識別番号】000222048
【氏名又は名称】東北特殊鋼株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 素洋
(72)【発明者】
【氏名】浦川 潔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武信
(72)【発明者】
【氏名】佐々 達郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 大喜
(72)【発明者】
【氏名】江幡 貴司
(72)【発明者】
【氏名】梶並 佳朋
【テーマコード(参考)】
4K044
5E041
5E062
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB01
4K044BC14
4K044CA53
5E041AA05
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD09
5E041CA02
5E041CA04
5E041HB11
5E041HB14
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN12
5E041NN13
5E041NN18
5E062AC05
5E062AC15
(57)【要約】
【課題】Fe-Co系軟磁性材料を利用して、占積率が大きく、鉄損が改善され高性能な積層鉄心を廉価な製造コストで得ることが可能な積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、その積層鉄心および積層鉄心の製造方法を提供する。
【解決手段】Co:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る鋼板に対し、焼鈍しを行う焼鈍工程と、金属アルコキシド分散液を修飾させ乾燥させて金属酸化皮膜を生成させる皮膜生成工程とを有する。焼鈍工程で鋼板に対し400~900℃の熱処理を行う。皮膜生成工程で鋼板の表面に120~1000nmの厚さの金属酸化皮膜を生成させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る鋼板に対し、焼鈍しを行う焼鈍工程と、金属アルコキシド分散液を修飾させ乾燥させて金属酸化皮膜を生成させる皮膜生成工程とを有することを、特徴とする積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項2】
前記焼鈍工程で前記鋼板に対し400~900℃の熱処理を行うことを特徴とする請求項1記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項3】
前記皮膜生成工程で前記鋼板の表面に120~1000nmの厚さの前記金属酸化皮膜を生成させることを特徴とする請求項2記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項4】
前記皮膜生成工程で前記鋼板の表面に前記金属アルコキシド分散液を修飾させた後、水洗してから乾燥させることを特徴とする請求項3記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項5】
前記鋼板は前記Alが0質量%であることを特徴とする請求項4記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項6】
前記鋼板は、前記Coを40~53質量%、前記Vを1~2質量%含むことを特徴とする請求項5記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程の後に前記皮膜生成工程を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項8】
前記皮膜生成工程の後に前記焼鈍工程を行うことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍工程で前記鋼板に対し0~100℃から徐々に700~900℃に昇温させて熱処理を行うことを特徴とする請求項8記載の積層鉄心用板材の製造方法。
【請求項10】
Co:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%と、O:0.001~0.02質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る鋼板の表面に120~1000nmの厚さの金属酸化皮膜を有することを特徴とする積層鉄心用板材。
【請求項11】
前記鋼板は前記Alが0質量%であることを特徴とする請求項10記載の積層鉄心用板材。
【請求項12】
前記鋼板は、前記Coを40~53質量%、前記Vを1~2質量%含むことを特徴とする請求項11記載の積層鉄心用板材。
【請求項13】
占積率が98%以上であることを特徴とする請求項12記載の積層鉄心用板材。
【請求項14】
前記鋼板は飽和磁束密度が2.2テスラ以上であり、保磁力が2A/cm以下であることを特徴とする請求項13記載の積層鉄心用板材。
【請求項15】
請求項9乃至14のいずれか1項に記載の積層鉄心用板材を積層して成ることを特徴とする積層鉄心。
【請求項16】
それぞれCo:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る複数の鋼板に対し、金属アルコキシド分散液を修飾させ乾燥させて金属酸化皮膜を生成させ、各鋼板の前記金属酸化皮膜を重ね合わせて各鋼板に対し垂直方向に圧力を印加しながら焼鈍しを行うことにより重ね合わせた前記金属酸化皮膜を接合させることを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、積層鉄心および積層鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターや小型発電機、タービン発電機、トランス等で使用される積層鉄心は、誘導鉄損を低減するために、表面に高抵抗の絶縁皮膜を有する軟磁性材料を積層して形成されている。その積層鉄心用板材の製造方法として、Co:10質量%~55質量%と、V:0質量%~4質量%と、Al:0.1質量%~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物から成る鋼板を、酸素分圧が1×10-26Pa~1×10-14Paの雰囲気中で、700℃~950℃で熱処理することにより、表面にAlを主成分とする酸化皮膜を有する積層鉄心用板材を製造する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、方向性電磁鋼板の製造方法として、アルコキシドと、10~100nmの範囲内の粒子径を有する酸化物微粒子とを含有する有機溶剤系の絶縁皮膜処理液を、最終焼鈍後の方向性電磁鋼板表面上に塗布し、次いで、前記鋼板に、鋼板温度を200~800℃の範囲内に維持して加熱処理を行う方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
珪素鋼板の絶縁皮膜の形成方法としては、厚さ0.2mm以下の珪素鋼板の表面に金属アルコキシドの1種あるいは2種以上を含む有機溶媒溶液を塗布し、乾燥後焼鈍することにより金属酸化物よりなる絶縁性皮膜を形成させる方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-202314号公報
【特許文献2】特開昭60-258477号公報
【特許文献3】特開平6-215622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、生成する酸化皮膜の厚さに限界があるため、抵抗値を上げることが困難で、鉄損の改善が難しいという課題があった。また、絶縁酸化皮膜の厚さが大きくなると、その板材を積層して積層鉄心を製造しても、軟磁性材料の占積率が小さくなると考えられていた。
【0007】
特許文献2の方法では、皮膜調製前にマグネシウム存在下で高温処理してフォルステライト層を形成させる処理が必要となるため、製造工程が多く、製造コストがかさむという課題があった。また、特許文献2および3の方法は、方向性電磁鋼板に皮膜張力を付与することで鉄損を低下させる原理のため、無方向性鋼板であるパーメンジュールの鉄損改善には適用できないと考えられていた。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、Fe-Co系軟磁性材料を利用して、占積率が大きく、鉄損が改善され高性能な積層鉄心を廉価な製造コストで得ることが可能な積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、その積層鉄心および積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
Fe-Co系合金は、スレーター・ポーリング(Slater-Pauling)曲線で知られるように、約35Co付近を中心として、バルク金属としては最大の磁束密度を示す。そこで、本発明者等は、この高磁束密度のFe-Co系軟磁性材料を利用し、板材積層時の占積率を上げるために、絶縁酸化皮膜を厚くして抵抗値を上げることで渦電流の発生量を抑え、鉄損を低下させることを目的として検討を行い、本願発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る積層鉄心用板材の製造方法は、Co:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る鋼板に対し、焼鈍しを行う焼鈍工程と、金属アルコキシド分散液を修飾させ乾燥させて金属酸化皮膜を生成させる皮膜生成工程とを有することを、特徴とする。
【0011】
本発明に係る積層鉄心用板材の製造方法では、原料の鋼板がFe-Co系の軟磁性材料から成るため、その材料が有する性能から高性能である。また、本発明に係る積層鉄心用板材の製造方法では、皮膜生成工程により厚い絶縁酸化皮膜を生成し、抵抗値を上げることで渦電流の発生量を抑え、鉄損を低下させることができる。このため、板材積層時の占積率を上げ、高性能な積層鉄心を得ることができる。また、皮膜調製前にマグネシウム存在下で高温処理してフォルステライト層を形成させる処理を必要としないため、製造工程を抑え、積層鉄心用板材を廉価に製造することができる。
【0012】
本発明に係る積層鉄心用板材の製造方法では、前記焼鈍工程で前記鋼板に対し400~900℃の熱処理を行うことが好ましく、700~900℃の熱処理を行うことが特に好ましい。
前記皮膜生成工程で前記鋼板の表面に120~1000nmの厚さの前記金属酸化皮膜を生成させることが好ましい。
この場合、効果的に抵抗値を上げ、渦電流の発生量を抑えて鉄損を低下させることができる。
【0013】
前記皮膜生成工程で前記鋼板の表面に前記金属アルコキシド分散液を修飾させた後、水洗してから乾燥させることが好ましい。
この場合、金属酸化皮膜の厚さをより均一にすることができる。水洗の回数は、1回のみでも複数回であってもよい。
金属アルコキシド分散液を修飾させる方法としては、例えば、塗布、噴霧、浸漬が挙げられ、他の付着方法であってもよい。修飾回数、例えば、塗布回数、噴霧回数、浸漬回数は、1回であっても複数回であってもよい。複数回の修飾により厚さを調整可能である。修飾後に乾燥させる方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥が挙げられ、他の方法であってもよい。
【0014】
金属アルコキシド分散液は、Al、Si、Cr、Zr、Li、Ti、Mgの金属アルコキシドの1種または2種以上を含むことが好ましい。
アルコキシドの種類としては、アルコキシ基がメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。金属アルコキシドとしては、アルミニウムブトキシド、アルミニウム(イソ)プロポキシド、メチルシリケート、エチルシリケート、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウム(イソ)プロポキシド、ジルコニウムブトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウム(イソ)プロポキシド、チタニウムブトキシドなどが挙げられる。金属アルコキシド分散液は、二金属アルコキシドや三金属アルコキシドなど2種以上の金属を含む複合アルコキシドを使用しても良い。
【0015】
被分散液としては、メチルアルコール、エチルアルコール、(イソ)プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類、ポリエチレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類などが挙げられる。
金属アルコキシド分散液には、用いる金属の粉末を添加してもよい。金属アルコキシド分散液は、pHを調整してもよい。
金属アルコキシド分散液の濃度は、0.2質量%以上が好ましい。
前記金属アルコキシド分散液は、特にアルミニウムブトキシド分散液から成ることが好ましい。
【0016】
前記鋼板は、前記Coを40~53質量%、前記Vを1~2質量%含むことが好ましい。
鋼板は、圧延板のほか他の鋼板から成ってもよい。
前記焼鈍工程の後に前記皮膜生成工程を行ってもよい。
前記皮膜生成工程の後に前記焼鈍工程を行ってもよい。
前記皮膜生成工程の後に前記焼鈍工程を行う場合、前記焼鈍工程で前記鋼板に対し0~100℃から徐々に700~900℃に昇温させて熱処理を行うことが好ましい。熱処理時間は、10分から3時間が好ましく、10~60分間が特に好ましい。熱処理の昇温速度は、90℃/分以下が好ましい。熱処理の雰囲気は、水素を含み、露点-50℃以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る積層鉄心用板材は、Co:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%と、O:0.001~0.02質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る鋼板の表面に120~1000nmの厚さの金属酸化皮膜を有することを特徴とする。
本発明に係る積層鉄心用板材は、前述の本発明に係る積層鉄心用板材の製造方法により好適に製造することができる。
【0018】
本発明において、VおよびAlは任意成分であり、含まれていなくてもよい。すなわち、前記鋼板は前記Vおよび/または前記Alが0質量%であってもよい。
前記鋼板は、前記Coを40~53質量%、前記Vを1~2質量%含むことが好ましい。この場合、規則化脆化による加工性劣化を改善することができる。
本発明に係る積層鉄心用板材は、占積率が98%以上であることが好ましい。本明細書において、占積率とは、積層鉄心用板材の断面積に対する、酸化皮膜を除いた部分(酸化されていない部分)の面積の割合である。
前記鋼板は飽和磁束密度が2.2テスラ以上であり、保磁力が2A/cm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る積層鉄心は、前述の積層鉄心用板材を積層して成ることを特徴とする。
本発明に係る積層鉄心の製造方法は、それぞれCo:10~55質量%と、V:0~4質量%と、Al:0~1.5質量%とを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であるFe-Co系の軟磁性材料から成る複数の鋼板に対し、金属アルコキシド分散液を修飾させ乾燥させて金属酸化皮膜を生成させ、各鋼板の前記金属酸化皮膜を重ね合わせて各鋼板に対し垂直方向に圧力を印加しながら焼鈍しを行うことにより重ね合わせた前記金属酸化皮膜を接合させることを特徴とする。
本発明に係る積層鉄心の製造方法により、本発明に係る積層鉄心を拡散接合に比べて容易かつ効果的に製造することができる。印加する圧力は、80~200kPaが好ましい。焼鈍しの温度は、400~900℃が好ましく、700~900℃が特に好ましい。焼鈍し時間は、10分から3時間が好ましく、10~60分間が特に好ましい。鋼板、金属アルコキシド分散液、金属酸化皮膜などの条件は、前述の条件を適用可能である。
【0020】
本発明において、鋼板は、残部のFeを46質量%~50質量%含むことが好ましい。また、不可避的不純物は、10質量%以下であることが好ましく、特に1質量%以下であることが好ましい。不可避的不純物としては、C、SiおよびMnの1種または2種以上が挙げられる。また、不可避的不純物として、Cr、Nb、Mo、W、NiおよびTiの1種または2種以上も挙げられる。これらの不可避的不純物は、合計で1質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Fe-Co系軟磁性材料を利用して、占積率が大きく、鉄損が改善され高性能な積層鉄心を廉価な製造コストで得ることが可能な積層鉄心用板材の製造方法、積層鉄心用板材、その積層鉄心および積層鉄心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例2で熱処理温度ごとの表面状態を示す状態観察図である。
図2】本発明の実施例3において、金属アルコキシド分散液を1回修飾した場合、5回修飾した場合、乾式法により製造した場合の皮膜厚と電気抵抗値を示すグラフである。
図3】本発明の実施例3で製造した積層鉄心用板材のX線光電子分光法による分析結果を示すグラフである。
図4】本発明の実施例4で製造した積層鉄心の皮膜接合面の光学顕微鏡による拡大写真である。
【実施例0023】
以下、図面に基づき、本発明の各種実施例について説明する。
Co48質量%、Fe48質量%、V2質量%、残部が不可避的不純物から成るFe-Co系の軟磁性材料の圧延鋼板を作製した。まず、各元素を含む原料を、真空誘導溶解炉で溶解し、押し湯を含めて約7kgのインゴット(径約80mm)を作製した。次に、各インゴットを熱間鍛造で20mm厚に成形し、さらに熱間圧延で4mm厚まで圧延した。圧延後の各試料に対して、溶体化処理を行った後、#400番相当まで機械研磨し、冷間圧延で0.35mm厚まで圧延した。研磨後の試料から外径45mm、内径33mm、厚さ0.35mmの試験片を切り出し、鏡面研磨を施して表面を清浄化した。こうして、Fe-Co系合金製の軟磁性材料の圧延鋼板から成る厚さ0.35mmの試験片を作製した。
【0024】
試験片に対し、焼鈍工程と皮膜生成工程とを行い、実施例1の積層鉄心用板材を製造した。焼鈍工程では、真空下または水素雰囲気下、830℃で3時間加熱した。皮膜生成工程では、アルミニウムブトキシド分散液を試験片に修飾させた後、自然乾燥させた。
【0025】
皮膜生成工程では、27質量部のアルミニウムブトキシドを50質量部の水に溶解させて91℃に加熱後、11質量部のエチルアセチルアセトンを添加し、次に1質量部の硝酸を添加してゾル状のアルミニウムブトキシド分散液を調製した。そのアルミニウムブトキシド分散液に試験片を浸漬させた後、純水で洗浄し、乾燥させて酸化皮膜を生成させた。試験片は、磁気焼鈍後に皮膜塗布を行ったものと、皮膜塗布後に磁気焼鈍を行ったものの、2種類の積層鉄心用板材を製造した。
【0026】
それらの試験条件と製造された積層鉄心用板材の各種測定結果を表1に示す。比較のため、磁気焼鈍を行わず、皮膜塗布のみの試験片を作製した。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、試験片1および2ともに磁気特性に優れ、高性能な積層鉄心用板材を製造することができた。
【実施例0029】
実施例1の方法で作製した機械研磨後の試料を10mm角に切り出し、鏡面研磨を施して表面を清浄化した。こうして、Fe-Co系合金製の軟磁性材料の圧延鋼板から成る厚さ0.35mmの試験片を作製した。実施例1の方法で調製したアルミニウムブトキシド分散液に試験片を1回浸漬、乾燥させてAl酸化皮膜を生成させた。その試験片を常温20℃から100℃/時の昇温速度で700℃まで加熱し、焼鈍して積層鉄心用板材を製造した。100℃昇温ごとの表面状態を図1に示す。図1に示すように、酸化皮膜表面に300℃までは金属光沢があり、400℃では干渉色を示し、700℃では低反射率を示した。
【実施例0030】
実施例2の方法で圧延鋼板から成る試験片を作製した。実施例1の方法で調製したアルミニウムブトキシド分散液に試験片を浸漬、乾燥させてAl酸化皮膜を生成させた。その試験片を磁気焼鈍して実施例3の積層鉄心用板材を製造した。また、比較例として、乾式法により表面にAl酸化皮膜を有する積層鉄心用板材を製造した。乾式法では、Co48質量%、Fe48質量%、V2質量%、Al0.25質量%、残部が不可避的不純物から成る圧延鋼板に対し、酸素分圧が1×10-26Pa~1×10-10Paの雰囲気中、900℃で1時間、熱処理し、積層鉄心用板材を製造した。本実施例3のアルミニウムブトキシド分散液の浸漬回数、磁気焼鈍の加熱温度、加熱時間と、本実施例3で製造された積層鉄心用板材および乾式法で製造された積層鉄心用板材のエリプソメータにより測定した酸化皮膜厚とシート抵抗値を図2に示す。
【0031】
図2に示すように、乾式法では酸化皮膜の膜厚は100nmが限界であるのに対し、実施例3では100nmより大きな膜厚とすることができ、乾式法に比べて抵抗値も6~25倍に増加させることができる。
また、修飾5回の積層鉄心用板材について、X線光電子分光法により分析を行った。その結果を図3に示す。図3に示すとおり、酸化皮膜にアルミナ(Al)の生成が確認でき、価電子帯スペクトルバンドギャップから絶縁性皮膜の生成が確認できる。
【実施例0032】
実施例2の方法で圧延鋼板から成る2枚の試験片を作製した。作製した2枚の試験片を、それぞれ実施例1の方法で調製したアルミニウムブトキシド分散液に5回浸漬、乾燥させてAl酸化皮膜を生成させた。各試験片のAl酸化皮膜を重ね合わせて各鋼板に対し垂直荷重圧力120kPaを印加しながら700℃で2時間焼鈍し、重ね合わせたAl酸化皮膜を接合させて、積層鉄心を製造した。製造した積層鉄心の皮膜接合面の光学顕微鏡による拡大写真を図4に示す。この方法によって2枚の試験片をしっかりと接合可能であり、積層鉄心を拡散接合に比べて容易かつ効果的に製造することができた。
図1
図2
図3
図4