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特開2025-8055防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008055
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キット
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/06 20060101AFI20250109BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250109BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20250109BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B05D3/06 B
B05D7/24 302Z
B05D7/24 301T
B05D3/12 C
B05D3/12 B
B05D5/00 Z
B05D5/00 H
B05D5/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109903
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 忍
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075BB05Z
4D075BB42Z
4D075BB46Z
4D075BB50Z
4D075CA02
4D075CA34
4D075CA36
4D075CA37
4D075CA39
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA04
4D075DB48
4D075DC01
4D075DC13
4D075DC24
4D075DC38
4D075EA21
4D075EB16
4D075EB22
4D075EB24
4D075EB42
4D075EC30
4D075EC37
4D075EC54
(57)【要約】
【課題】優れた防曇性と防汚性を有する防曇防汚層を形成することができる防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キットの提供。
【解決手段】物品上に、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層を形成する工程と、前記未硬化層上に、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を有するフィルムを貼付する工程と、前記フィルムを介して前記未硬化層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化層を硬化させて硬化層を形成する工程と、を有する防曇防汚層の形成方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品上に、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層を形成する工程と、
前記未硬化層上に、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を有するフィルムを貼付する工程と、
前記フィルムを介して前記未硬化層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化層を硬化させて硬化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする防曇防汚層の形成方法。
【請求項2】
前記撥水性モノマーが、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有するモノマーである請求項1に記載の防曇防汚層の形成方法。
【請求項3】
前記撥水性成分が、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する請求項1から2のいずれか一項に記載の防曇防汚層の形成方法。
【請求項4】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる溶媒の含有量が、30質量%以下である請求項1から2のいずれか一項に記載の防曇防汚層の形成方法。
【請求項5】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、フィラーを含有する請求項1から2のいずれか一項に記載の防曇防汚層の形成方法。
【請求項6】
前記フィルムを貼付する工程の後に、前記フィルム上に遮光フィルムを貼付する工程と、
前記遮光フィルムを貼付する工程の後に、前記フィルム上から前記遮光フィルムを剥離する工程とを有する請求項1から2のいずれか一項に記載の防曇防汚層の形成方法。
【請求項7】
撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、
撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を含有するフィルムと、
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布用部材と、
を有することを特徴とする防曇防汚層の形成キット。
【請求項8】
活性エネルギー線照射器具を有する請求項7に記載の防曇防汚層の形成キット。
【請求項9】
遮光フィルムを有する請求項7から8のいずれか一項に記載の防曇防汚層の形成キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、LEDヘッドライトカバー、ガラス窓、ゴーグルなどの物品の表面に対して、撥水性又は疎水性の機能を有する防曇防汚層を形成する技術が知られている。前記防曇防汚層は、活性エネルギー線の照射によって硬化する樹脂を含む組成物に、UV等の活性エネルギー線を照射することで形成することができる。
所望の撥水性又は疎水性の機能を有する防曇防汚層を形成するには、前記組成物を物品に塗布した後に撥水性成分又は疎水性成分が組成物の表面に局在してから硬化させる必要がある。しかしながら、単に活性エネルギー線を照射するだけでは、空気中の酸素によって組成物中のモノマー又はオリゴマー同士の重合反応が阻害され、表面の約数μm~約百μmが十分に硬化されず(以下、「硬化阻害」と称することがある)、所望の防曇性と防汚性が得られないという問題がある。
【0003】
硬化阻害を防ぐ方法としては、例えば、組成物を物品の表面に塗布して未硬化層を形成した後に、物品の形状に合った専用の装置を用いて前記未硬化層周辺の空気を窒素で置換し、その後、活性エネルギー線を前記組成物に照射する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、物品によっては複雑な表面形状を有しているものがあり、このような物品の形状に合う専用の装置が存在しない場合があったり、また、再度、防曇防汚層を形成する修理の現場においては、大掛かりな専用の装置を用いた防曇防汚層の形成は効率が悪いという問題がある。
このため、近年、大掛かりな専用の装置を必要とせずに、優れた防曇性と防汚性を有する防曇防汚層を形成できる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-030347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、優れた防曇性と防汚性を有する防曇防汚層を形成することができる防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 物品上に、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層を形成する工程と、
前記未硬化層上に、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を有するフィルムを貼付する工程と、
前記フィルムを介して前記未硬化層に活性エネルギー線を照射し前記未硬化層を硬化させて硬化層を形成する工程と、
を有することを特徴とする防曇防汚層の形成方法。
<2> 前記撥水性モノマーが、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有するモノマーである前記<1>に記載の防曇防汚層の形成方法。
<3> 前記撥水性成分が、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の防曇防汚層の形成方法。
<4> 前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれる溶媒の含有量が、30質量%以下である前記<1>から<3>のいずれかに記載の防曇防汚層の形成方法。
<5> 前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、フィラーを含有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の防曇防汚層の形成方法。
<6> 前記フィルムを貼付する工程の後に、前記フィルム上に遮光フィルムを貼付する工程と、
前記遮光フィルムを貼付する工程の後に、前記フィルム上から前記遮光フィルムを剥離する工程とを有する前記<1>から<5>のいずれかに記載の防曇防汚層の形成方法。
<7> 撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物と、
撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を含有するフィルムと、
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布用部材と、
を有することを特徴とする防曇防汚層の形成キット。
<8> 活性エネルギー線照射器具を有する前記<7>に記載の防曇防汚層の形成キット。
<9> 遮光フィルムを有する前記<7>から<8>のいずれかに記載の防曇防汚層の形成キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、優れた防曇性と防汚性を有する防曇防汚層を形成することができる防曇防汚層の形成方法、及び防曇防汚層の形成キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法における未硬化層形成工程の一例を示す概略図である。
図1B】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法におけるフィルム貼付工程の一例を示す概略図である。
図1C】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法における硬化層形成工程の一例を示す概略図である。
図1D】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法によって形成される防曇防汚層の一例を示す概略図である。
図1E】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法によって形成される防曇防汚層の表面の拡大図である。
図2】本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成キットの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(防曇防汚層の形成方法)
本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法は、物品上に、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層を形成する工程(以下、「未硬化層形成工程」と称することがある)と、未硬化層上に、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を有するフィルムを貼付する工程(以下、「フィルム貼付工程」と称することがある)と、フィルムを介して未硬化層に活性エネルギー線を照射し未硬化層を硬化させて硬化層を形成する工程(以下、「硬化層形成工程」と称することがある)とを有し、更に必要に応じて、遮光フィルム貼付工程及び遮光フィルム剥離工程を有することが好ましく、また、その他の工程を有することができる。
なお、本発明の一実施形態における前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物とは、活性エネルギー線の照射によって硬化する樹脂を含む組成物である。
【0011】
図1A図1Cは、第1の実施形態の防曇防汚層の形成方法の一例を示す概略図である。
まず、図1Aに示すとおり、未硬化層形成工程において、物品10上に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層20Aを形成する。
次に、図1Bに示すとおり、フィルム貼付工程において、未硬化層20A上に、撥水性成分又は疎水性成分を含有するフィルム30を貼付する。
次に、図1Cに示すとおり、硬化層形成工程において、フィルム30を介して未硬化層20Aに活性エネルギー線40を照射し未硬化層20Aを硬化させて硬化層20Bを形成する。
その後、フィルム30を硬化層20B上から取り除くことで、図1Dに示すとおり、物品10上に、硬化層20Bとしての防曇防汚層を形成することができる。取り除いたフィルム30としては、再度、防曇防汚層の形成に用いることができる。
なお、図1Eは、図1Dにおける防曇防汚層の表面付近50の拡大図である。形成された前記防曇防汚層(図1Dにおける硬化層20B)は、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれていた撥水性モノマー又は疎水性モノマーが表面に局在した後に硬化され、図1Eに示すとおり上層60が部分的に形成される。前記上層60により、防曇防汚層は撥水機能又は撥油機能を有し、防曇性と防汚性に優れる。
また、上層60が形成されていない部分は、ナノサイズの水蒸気は通過させることができる。防曇防汚層の下層70に親水性成分が含まれる場合、上層60が形成されていない部分を通過した水蒸気は下層70に取り込まれるため、より防曇性に優れる。
【0012】
一実施形態の防曇防汚層の形成方法では、活性エネルギー線40を未硬化層20Aに照射する前にフィルム30を貼付することで、空気中に存在する酸素の未硬化層20Aへの侵入を防ぐことができる。これにより、活性エネルギー線40の照射の際に酸素による未硬化層20Aの硬化阻害を防止し、防曇防汚層の表面を十分に硬化することができる。また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中の撥水性モノマー又は疎水性モノマーが、未硬化層20Aの表面に局在する時間を確保できるため、撥水性モノマー又は疎水性モノマーが十分に表面に局在し、優れた防曇性及び防汚性を有する防曇防汚層を形成できる。
【0013】
[未硬化層形成工程]
前記未硬化層形成工程としては、物品上に、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布して未硬化層を形成する工程である。
【0014】
前記未硬化層形成工程における塗布の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブラシコーティング、ポッティング等の手塗り、ワイヤーバーコーティング、ブレードコーティング、スピンコーティング、リバースロールコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、リップコーティング、エアーナイフコーティング、カーテンコーティング、コンマコート法、ディッピング法などが挙げられる。これらの中でも、現場での施工において、短時間で簡便に塗布を行うことができる点から、ブラシコーティング、ポッティング等の手塗りが好ましい。
【0015】
前記未硬化層の膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、精密塗布装置を用いて活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布する場合は、2μm以上200μm以下が好ましく、手塗りで活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、その後、後述するフィルム貼付工程においてフィルムを押し当てる場合は、50μm以上5,000μm以下が好ましい。
【0016】
-活性エネルギー線硬化性樹脂組成物-
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方を含有し、親水性モノマー及び光重合開始剤とを含有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0017】
--撥水性モノマー--
前記撥水性モノマーとしては、ラジカル重合性不飽和基と、撥水性基とを有する。
【0018】
前記撥水性モノマーがラジカル重合性不飽和基を有することで、活性エネルギー線の照射により撥水性モノマー同士が重合してポリマーとなり硬化膜(以下、「硬化層」と称することがある)を形成できる。
【0019】
前記撥水性モノマーが撥水性基を有することで、表面に撥水機能を有する硬化層を形成することができる。
前記撥水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する官能基などが挙げられる。これらの中でも、より撥水性が高く、汚れの拭き取りに優れる点からフッ素を有する官能基が好ましい。
前記フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する官能基としては、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基、ジメチルシロキサン基などが挙げられる。
【0020】
前記撥水性モノマーとしては、単官能モノマーであってもよいし、多官能モノマーであってもよい。
前記撥水性モノマーの具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のフルオロオレフィン類や、アルキルパーフルオロビニルエーテル類や、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル、パーフルオロブチルビニルエーテル、パーフルオロイソブチルビニルエーテル等のパーフルオロアルキルビニルエーテル類や、パーフルオロプロポキシプロピルビニルエーテル等のパーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテル類や、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記撥水性モノマーは、前記親水性モノマーと相溶することが好ましい。
ここで、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。(メタ)アクリロイル、(メタ)アクリルについても同様である。
【0021】
前記撥水性モノマーとしては、市販品であってもよい。
フッ素を有する官能基を含む撥水性モノマーの市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製KY-1200シリーズ、DIC株式会社製メガファックRSシリーズ、ダイキン工業株式会社製オプツールDACなどが挙げられる。
ケイ素を有する官能基を含む撥水性モノマーの市販品としては、例えば、信越化学工業株式会社製X-22-164シリーズ、エボニック社製TEGO Radシリーズなどが挙げられる。
【0022】
前記撥水性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全量に対して、0.018質量%以上が好ましく、0.018質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.075質量%以上3.0質量%以下が更に好ましく、0.18質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、5.0質量%以下であると、硬化層の撥水性に優れ、かつ、ガラス転移温度が低くなっても柔らかくなりすぎず耐磨耗性に優れる。
【0023】
--疎水性モノマー--
前記疎水性モノマーとしては、ラジカル重合性不飽和基と、疎水性基とを有する。
【0024】
前記疎水性モノマーがラジカル重合性不飽和基を有することで、活性エネルギー線の照射により疎水性モノマー同士が重合してポリマーとなり硬化膜を形成できる。
【0025】
前記疎水性モノマーが疎水性基を有することで、表面に疎水機能を有する硬化層を形成することができる。
前記疎水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数16以上のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
前記疎水性モノマーは、前記親水性モノマーと相溶することが好ましい。
前記疎水性モノマーとしては、単官能モノマーであってもよいし、多官能モノマーであってもよい。
【0026】
前記疎水性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全量に対して、0.018質量%以上が好ましく、0.018質量%以上5.0質量%以下がより好ましく、0.075質量%以上3.0質量%以下が更に好ましく、0.18質量%以上1.5質量%以下が特に好ましい。前記含有量が、5.0質量%以下であると、硬化層の疎水性に優れ、かつ、ガラス転移温度が低くなっても柔らかくなりすぎず耐磨耗性に優れる。
【0027】
--親水性モノマー--
前記親水性モノマーとしては、ラジカル重合性不飽和基と、親水性基とを有する。
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物が、前記親水性モノマーを有することにより、形成される防曇防汚層中に親水性成分(吸水性成分)が存在するため、水蒸気が防曇防汚層中に捕捉されやすくなる。これにより、より優れた防曇性が得られる。
【0028】
前記親水性モノマーがラジカル重合性不飽和基を有することで、活性エネルギー線の照射により親水性モノマー同士が重合してポリマーとなり硬化膜を形成できる。
【0029】
前記親水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリオキシアルキレン鎖、4級アンモニウム塩、3級アミノ基、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記ポリオキシアルキレン鎖としては、例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖などが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレン鎖が、親水性に優れる点で好ましい。
【0030】
前記親水性モノマーとしては、単官能モノマーであってもよいし、多官能モノマーであってもよいが、多官能モノマーであることが好ましい。
前記親水性モノマーとしては、例えば、多価アルコール(ポリオール又はポリヒドロキシ含有化合物)と、アクリル酸、メタクリル酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される化合物との反応によって得られるモノ若しくはポリアクリレート、又はモノ若しくはポリメタクリレートなどが挙げられる。
前記多価アルコールとしては、例えば、2価のアルコール、3価のアルコール、4価以上のアルコールなどが挙げられる。
前記2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、数平均分子量が300~1,000のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2’-チオジエタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
前記3価のアルコールとしては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタグリセロール、グリセロール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオールなどが挙げられる。
前記4価以上のアルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0031】
前記ポリオキシアルキレン鎖を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
前記ポリエチレングリコール(メタ)アクリレートにおけるポリエチレングリコールユニットの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、300~1,000などが挙げられる。
前記メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることができる。前記市販品としては、例えば、MEPM-1000(第一工業製薬株式会社製)などが挙げられる。
これらの中でも、エトキシ化グリセリン(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが、防曇防汚層の適度な硬度と親水性とを両立できる点から好ましい。
【0032】
前記4級アンモニウム塩含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルグリシジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、(メタ)アクリロイルオキシジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム-p-トルエンスルフォネート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルグリシジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム-p-トルエンスルフォネートなどが挙げられる。
【0033】
前記3級アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6-テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
前記スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン酸基含有(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記スルホン酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸スルホエチル、(メタ)アクリル酸スルホプロピル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、末端スルホン酸変性ポリエチレングリコールモノ(メタ)クリレートなどが挙げられる。これらは、塩を形成していてもよい。前記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0035】
前記カルボン酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
【0036】
前記リン酸基含有モノマーとしては、例えば、リン酸エステルを有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
前記親水性モノマーの分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、200以上が好ましい。
【0038】
前記親水性モノマーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全量に対して、60質量%以上が好ましく、60質量%以上99.9質量%以下がより好ましく、63質量%以上95質量%以下が更に好ましく、65質量%以上90質量%以下が特に好ましい。
【0039】
--光重合開始剤--
前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光ラジカル重合開始剤、光酸発生剤、ビスアジド化合物、ヘキサメトキシメチルメラミン、テトラメトキシグリコユリルなどが挙げられる。これらの中でも、光ラジカル重合開始剤が好ましい。
前記光ラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エトキシフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、1-フェニル2-ヒドロキシ-2メチルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1,2-ジフェニルエタンジオン、メチルフェニルグリオキシレートなどが挙げられる。
【0040】
前記光重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上8質量%以下がより好ましく、1質量%以上5質量%以下が特に好ましい。
【0041】
--その他の成分--
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸基含有(メタ)アクリレート、フィラー、溶媒などが挙げられる。
これらは、前記防曇防汚層の伸び率、硬度などを調整するために用いることがある。
【0042】
前記ウレタン(メタ)アクリレートとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0043】
前記ウレタン(メタ)アクリレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%以上45質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上35質量%以下が特に好ましい。
【0044】
前記フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカ、ジルコニア、チタニア、酸化錫、酸化インジウム錫、アンチモンドープ酸化錫、五酸化アンチモンなどが挙げられる。前記シリカとしては、例えば、中実シリカ、中空シリカなどが挙げられる。
【0045】
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、有機溶媒などが挙げられる。
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、グリコールエーテルエステル系溶媒、塩素系溶媒、エーテル系溶媒、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
【0046】
前記溶媒の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の全量に対して、30質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。前記溶媒の含有量が5質量%以下であることで、防曇防汚層の形成後に揮発する溶媒が少量であるため、均一な防曇防汚層を形成することができる。
【0047】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、撥水性モノマー又は疎水性モノマーの少なくともいずれか一方と、更に必要に応じて、親水性モノマーと、光重合開始剤とを混合し、その他の成分を混合することで調製することができる。
【0048】
-物品-
前記物品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル表面、防犯監視カメラなどへ貼り合わせて用いることができる。また、本発明の防曇防汚層は、成形加工が容易であることから、インモールド成形、インサート成形を利用して、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどが挙げられる。
【0049】
前記物品の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂基材、無機基材などが挙げられる。
【0050】
前記樹脂基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、PC/PMMA積層体、ゴム添加PMMAなどが挙げられる。
前記樹脂基材がフィルム状の場合、前記樹脂基材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上1,000μm以下が好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましい。
【0051】
前記無機基材としては、例えば、金属酸化物(例えば、石英、サファイア、ガラス等)、金属(例えば、鉄、クロム、ニッケル、モリブデン、ニオブ、銅、チタン、アルミニウム、亜鉛、シリコン、マグネシウム、マンガン等)、合金(例えば、前記金属の組合せ等)などが挙げられる。
前記無機基材がフィルム状の場合、前記無機基材の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1mm以上100mm以下が好ましい。
【0052】
前記物品は、透明性を有することが好ましい。
【0053】
前記物品の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム状であることが好ましい。
【0054】
前記物品の表面には、文字、模様、画像などが印刷されていてもよい。
【0055】
[フィルム貼付工程]
前記フィルム貼付工程としては、未硬化層上に、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を含有するフィルムを貼付する工程である。なお、本明細書において単に「フィルム」と記載されている場合は、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を含有するフィルムを示す。
活性エネルギー線を未硬化層に照射する前に、フィルムを貼付することで、空気中に存在する酸素の未硬化層への侵入を防ぐことができる。これにより、活性エネルギー線の照射の際に酸素による未硬化層の硬化阻害を防止し、防曇防汚層の表面を十分に硬化することができる。また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中の撥水性モノマー又は疎水性モノマーが、未硬化層の表面に局在する時間を確保できるため、撥水性モノマー又は疎水性モノマーが十分に表面に局在し、優れた防曇性及び防汚性を有する防曇防汚層を形成できる。
また、未硬化層の表面の表面自由エネルギーが低いことで、未硬化層の表面に撥水性成分又は疎水性成分が表面に局在することができる。
【0056】
前記フィルムとしては、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を有する。撥水性成分又は疎水性成分により、未硬化層中の撥水性モノマー又は疎水性モノマーの未硬化層の表面への局在化が促進されるので、より優れた防曇防汚性が得られる。
また、前記フィルムとしては、撥水性成分又は疎水性成分のみを含むフィルム以外にも、PET等の樹脂基材の表面に撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方をコーティングしたフィルムでもよい。
【0057】
前記撥水性成分としては、撥水性の官能基(以下、「撥水性基」と称することがある)を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、撥水性ポリマーなどが挙げられる。
前記撥水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する官能基などが挙げられる。これらの中でも、未硬化層の表面の表面自由エネルギーをより低くすることで、未硬化層中の撥水性成分又は疎水性成分を短時間で未硬化層の表面に局在させることができる点から、フッ素を有する官能基が好ましい。
前記フッ素又はケイ素の少なくともいずれか一方を有する官能基としては、例えば、フルオロアルキル基、フルオロアルキルエーテル基、ジメチルシロキサン基などが挙げられる。
【0058】
前記撥水性ポリマーの具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロポリエチレン、ヘキサフルオロポリプロピレン、3,3,3-トリフルオロポリプロピレン、クロロトリフルオロポリエチレン等のフルオロポリオレフィン類や、アルキルパーフルオロビニルポリエーテル類や、パーフルオロエチルポリビニルエーテル、パーフルオロプロピルポリビニルエーテル、パーフルオロブチルポリビニルエーテル、パーフルオロイソブチルポリビニルエーテル等のパーフルオロアルキルポリビニルエーテル類や、パーフルオロプロポキシプロピルポリビニルエーテル等のパーフルオロアルコキシアルキルポリビニルエーテル類や、トリフルオロエチルポリ(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピルポリ(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチルポリ(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシルポリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
前記疎水性成分としては、疎水性の官能基(以下、「疎水性基」と称することがある)を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、疎水性ポリマーなどが挙げられる。
前記疎水性基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数16以上のアルキル基、フェニル基などが挙げられる。
【0060】
前記フィルムとしては、撥水性成分又は疎水性成分の少なくともいずれか一方を含有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品を用いることができる。
前記市販品としては、例えば、ネオフロンPFAフィルムAFシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、ネオフロンPFAフィルムNFシリーズ(ダイキン工業株式会社製)、MSF-100(中興化成工業株式会社製)、MSF-200(中興化成工業株式会社製)、MSE-100(中興化成工業株式会社製)などが挙げられる。
【0061】
前記フィルムの膜厚としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以上3,000μm以下が好ましい。前記膜厚が100μm以上であると作業性に優れ、前記膜厚が3,000μm以下であるとUV透過性に優れ、またより安価なフィルムを用いることができる。
【0062】
前記フィルムとしては、UV透過フィルムであることが好ましい。前記フィルムがUVを透過することで、未硬化層を硬化することができる。
【0063】
前記フィルム貼付工程としては、前記未硬化層上にフィルムを貼付した後に押し当ててもよい(即ち、フィルムの表面を加圧してもよい)。これにより、未硬化層の表面の平滑性と膜厚を所望の値に調整することができる。
【0064】
[遮光フィルム貼付工程]
前記遮光フィルム貼付工程としては、前記フィルム貼付工程の後に、前記フィルム上に遮光フィルムを貼付する工程である。
物品の表面に防曇防汚層を形成する現場では、屋外からの太陽光や室内の照明からの光が、前記フィルムを貼付した未硬化層に照射される可能性がある。この場合、前記撥水性成分又は疎水性成分が未硬化層の表面に局在する前に、太陽光や照明の光など(特に、波長500nm以下の光など)により想定せずに未硬化層が硬化することがある。前記遮光フィルム貼付工程を行うことで、上記のような想定し得ない硬化を防ぐことができる。
また、従来、屋外において防曇防汚層を形成する際には、テントやボックスを配置したりして施工することがあるが、本発明の一実施形態においては、前記遮光フィルムを用いることでより簡便に遮光することができる。
【0065】
前記遮光フィルムとしては、太陽光や照明からの光(特に、波長500nm以下の光など)を遮光する機能を有していれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記「遮光」とは、波長500nm以下の光の透過率が70%以下であることを示す。
前記遮光フィルムの透過率としては、70%以下であり、25%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下が特に好ましい(すなわち、遮光率が30%以上であり、75%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上が特に好ましい)。
前記透過率(又は遮光率)としては、例えば、分光光度計などを用いて測定することができる。
【0066】
前記遮光フィルムとしては、遮光性成分を含有することが好ましい。
前記遮光性成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラックなどが挙げられる。
また、前記遮光フィルムとしては、遮光性成分のみを含むフィルム以外にも、PET等の樹脂基材の表面に遮光性成分をコーティングしたフィルムでもよい。
【0067】
前記遮光フィルムの貼付時間としては、撥水性成分又は疎水性成分が未硬化層の表面に局在すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5秒間以上が好ましく、30秒間以上がより好ましく、60秒間以上が特に好ましい。
【0068】
[遮光フィルム剥離工程]
前記遮光フィルム剥離工程としては、前記遮光フィルム貼付工程の後に、前記フィルム上から前記遮光フィルムを剥離する工程である。後述する硬化層形成工程において未硬化層に活性エネルギー線を照射する直前まで遮光フィルムを貼付しておくことで、太陽光や照明の光などによる未硬化層の硬化を防ぐことができるので、前記撥水性成分又は疎水性成分を未硬化層の表面に局在させることができる。
【0069】
[硬化層形成工程]
前記硬化層形成工程としては、前記フィルムを介して未硬化層に活性エネルギー線を照射し未硬化層を硬化させて硬化層を形成する工程である。
【0070】
前記活性エネルギー線としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子線、紫外線、赤外線、レーザー光線、可視光線、電離放射線(X線、α線、β線、γ線等)、マイクロ波、高周波などが挙げられる。
【0071】
前記活性エネルギー線を照射するタイミングとしては、特に制限はなく、未硬化層の膜厚に応じて適宜選択することができるが、撥水性モノマー又は疎水性モノマーが未硬化層の表面に局在するまでの時間を確保できる点から、前記未硬化層上にフィルムを貼付してから5秒後以上が好ましく、30秒後以上がより好ましく、60秒後以上が特に好ましい。
【0072】
前記活性エネルギー線の照射時の光源の照度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、架橋密度を上げることができる点から、100mW/cm以上が好ましく、200mW/cm以上がより好ましく、300mW/cm以上が特に好ましい。
【0073】
前記活性エネルギー線の照射時における光源の照射面から未硬化層の表面までの距離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光源の照度を下げることなく活性エネルギー線を照射できる点から、5cm以下が好ましく、1cm以下がより好ましい。
【0074】
前記活性エネルギー線の照射時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光の1スポットあたり、1秒間以上が好ましく、3秒間以上がより好ましく、10秒間以上が特に好ましい。
【0075】
[その他の工程]
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱工程などが挙げられる。
【0076】
前記加熱工程としては、未硬化層を加熱する工程である。加熱工程によって、未硬化層に含まれる不要な溶媒を除くことができる。
【0077】
前記加熱としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、赤外線加熱或いは高温雰囲気への暴露であることが好ましい。
前記加熱の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記基材のガラス転移温度近傍若しくはガラス転移温度以上であることが好ましい。
前記加熱の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0078】
(防曇防汚層の形成キット)
図2は、本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成キットの一例を示す概略図である。
本発明の一実施形態としての防曇防汚層の形成キットは、図2に示すとおり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100と、フィルム200と、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布用部材300とを有し、更に必要に応じて、活性エネルギー線照射器具400を有する。また、更に遮光フィルムを有していてもよい。
なお、前記防曇防汚層の形成キットとしては、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を物品に塗布する前に、物品の表面を清掃する清掃具を有していてもよい。
また、前記防曇防汚層の形成キットは、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100、及びフィルム200の消耗品のみを一つのキットとすることができる。
【0079】
防曇防汚層が形成された物品は、使用における経年劣化で防曇防汚層の剥がれなどが生じ、防曇防汚機能が低下する。このような物品は、再度、防曇防汚層を形成する(以下、「修理」と称することがある)ことが望ましいが、単に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を物品上に塗布して活性エネルギー線を照射するだけでは、空気中の酸素の影響で硬化阻害が生じるため、所望の防曇防汚機能を有する防曇防汚層を形成することができない。また修理の際に専用の装置を用いると効率が悪く、複雑な形状の物品には対応できないという問題がある。そこで、本発明の一実施形態としての防曇防汚層の形成キットを用いることで、現場での修理において、専用の装置を必要とすることなく、より簡便に物品上に防曇防汚層を形成することができる。
【0080】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物100としては、上述の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を用いることができる。
【0081】
前記フィルム200としては、上述のフィルムを用いることができる。
【0082】
前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布用部材300としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブレード、刷毛などが挙げられる。
【0083】
前記活性エネルギー線照射器具400としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、物品の修理の現場において簡便に使用できる点からハンディライトが好ましい。
【0084】
前記遮光フィルムとしては、上述の遮光フィルムを用いることができる。
【0085】
(防曇防汚層)
本発明の一実施形態の防曇防汚層の形成方法によって形成された防曇防汚層は、表面が十分に硬化され、かつ、優れた防曇性と防汚性を有する。
【0086】
前記防曇防汚層の表面の純水接触角は、90°以上であり、100°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、115°以上が特に好ましい。
前記純水接触角は、例えば、DM-701(協和界面化学株式会社製)を用い、下記条件で楕円フィッティング法によって測定することができる。
・蒸留水をプラスチックシリンジに入れて、その先端にステンレス製の針を取り付けて評価面に滴下する。
・水の滴下量:2μL
・測定温度:25℃
水を滴下して4秒経過後の接触角を、防曇防汚層表面の任意の10か所で測定し、その平均値を純水接触角とする。
【0087】
前記防曇防汚層の表面のヘキサデカン接触角は、30°以上が好ましく、60°以上がより好ましく、70°以上が更により好ましく、80°以上が特に好ましい。前記ヘキサデカン接触角の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、150°などが挙げられる。
前記ヘキサデカン接触角が、前記好ましい範囲内であると、表面に指紋、皮脂、汗、涙、化粧品などが付着した場合でも、簡単に払拭することができ、優れた防曇性が維持できる点で有利である。
前記ヘキサデカン接触角は、例えば、DM-701(協和界面化学株式会社製)を用い、下記条件で楕円フィッティング法によって測定することができる。
・ヘキサデカンをプラスチックシリンジに入れて、その先端にテフロン(登録商標)コートステンレス製の針を取り付けて評価面に滴下する。
・ヘキサデカンの滴下量:2μL
・測定温度:25℃
ヘキサデカンを滴下して4秒経過後の接触角を、防曇防汚層表面の任意の10か所で測定し、その平均値をヘキサデカン接触角とする。
【0088】
純水接触角が上記範囲内であり、且つヘキサデカン接触角が上記範囲内であると、マジックインキ、指紋、汗、化粧品(ファンデーション、UVプロテクターなど)等の水性汚れ及び/又は油性汚れが付着した場合でも、それらの汚れがバルクの下層に浸透することが防止される。そのため、ティッシュなどによる払拭により、汚れは容易に払拭できるとともに、防曇性が汚れ付着前の状態に戻る。
【実施例0089】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
<防曇防汚層の作製>
下記組成の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、塗布厚みが4μmとなるように、前記樹脂基材(FE-2000、PC基材、平均厚み180μm、三菱ガス化学株式会社製)上に塗布し、未硬化層を形成した。
-活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(合計100質量%)-
・撥水性モノマー(KY-1203、フッ素含有モノマー) 0.962質量%
・親水性モノマー(NKエステル A-GLY-20E) 67.307質量%
・その他のモノマー(PETIA) 28.846質量%
・重合開始剤(イルガキュア 184D) 2.885質量%
【0091】
次に、形成した活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の層上に、UV透過フィルム(ネオフロン PFA AF-0500、ダイキン工業株式会社製、フッ素含有樹脂フィルム、膜厚:500μm)を貼付した。
次に、前記UV透過フィルム上から、ハンディUVライト(JAXMAN社製、UVライトU1(3W)、中心波長:365nm)を用いて、照射量1,800mJ/cmで紫外線を照射し、前記未硬化層を硬化させて硬化層、即ち防曇防汚層1を得た。
【0092】
(実施例2)
実施例1において、撥水性モノマーとしてのKY-1203(フッ素含有モノマー)を、X-22-164(ケイ素含有モノマー)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で防曇防汚層2を得た。
【0093】
(比較例1)
実施例1において、未硬化層上にUV透過フィルムを貼付せずに、活性エネルギー線を照射して未硬化層を硬化させた以外は、実施例1と同様の方法で防曇防汚層3を得た。
【0094】
【表1】
表1中の配合量の単位は、質量%である。
【0095】
表1中の各種材料は以下のとおりである。
〔親水性モノマー〕
・NKエステル A-GLY-20E:新中村化学工業株式会社製
エトキシ化グリセリントリアクリレート
(構造中に含まれるポリエチレンオキサイド鎖の繰り返し単位の合計数:20)
【0096】
〔撥水性モノマー〕
・KY-1203:信越化学工業株式会社製
末端(メタ)アクリル変性パーフルオロポリエーテル系添加剤
・X-22-164:信越化学工業株式会社製
シリコーン(メタ)アクリレート
【0097】
〔その他のモノマー〕
・PETIA:ダイセルオルネクス株式会社製
ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物
(構造中に含まれるポリエチレンオキサイド鎖:なし)
【0098】
〔重合開始剤〕
・イルガキュア184D:BASF社製
【0099】
得られた防曇防汚層1~3について、下記「呼気防曇性」、「汚れ付着性」、「汚れ拭き取り性」、及び「耐傷性」を評価した。評価結果を表2に示す。
【0100】
(呼気防曇性)
25℃37%RHの環境で、防曇防汚層の最表面に対して、該表面から法線方向に5cm離れた距離から息を大きく1回吐きかけた後直ちに、目視で表面を観察し、下記評価基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:最表面に外観変化が全くなかった。
○:最表面の一部において、白い曇り、水膜形成などの、外観変化が確認された。
×:最表面の全面において、白い曇り、水膜形成などの、外観変化が確認された。
【0101】
(汚れ付着性)
Sharpie PROFESSIONAL(黒の油性マジック、製品名、Newell Rubbermaid社製)で防曇防汚層の最表面を汚し、目視で表面を観察し、下記評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○:マジックを滴状あるいは線状にはじいた。
×:マジックをはじかずべっとり付着した。
【0102】
(汚れ拭き取り性)
Sharpie PROFESSIONAL(黒の油性マジック、製品名、Newell Rubbermaid社製)で防曇防汚層の最表面を汚した後、これをティッシュ(カミ商事株式会社製、エルモア)で10回、円を描くように払拭後に、目視で表面を観察し、下記評価基準で評価した。
〔評価基準〕
◎:汚れがなくなっていた。
○:汚れがわずかに残っていたが、実用可能範囲内であった。
×:汚れが残っていた。
【0103】
(耐傷性)
スチールウール(製品名:ボンスター、番手:#0000)を防曇防汚層の最表面に置き、荷重400gf/13mmφにて10往復摺動(摺動ストローク:3cm、摺動速度:6cm/s)した後、下記評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○:外観及び呼気防曇性に変化がなかった。
×:外観に傷付きや白濁などの変化があり、及び/又は防曇性が劣化した。
【0104】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の一実施形態に係る防曇防汚層は、ガラス窓、冷蔵・冷凍ショーケース、自動車のウインドウ等の窓材、浴室内の鏡、自動車サイドミラー等の鏡、浴室の床及び壁、太陽電池パネル表面、防犯監視カメラなどへ貼り合わせて用いることができる。また、本発明の防曇防汚層は、成形加工が容易であることから、インモールド成形、インサート成形を利用して、眼鏡、ゴーグル、ヘルメット、レンズ、マイクロレンズアレイ、自動車のヘッドライトカバー、フロントパネル、サイドパネル、リアパネルなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
10 物品
20A 未硬化層
20B 硬化層
30 フィルム
40 活性エネルギー線
50 防曇防汚層の表面付近
60 上層
70 下層
100 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物
200 フィルム
300 活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の塗布用部材
400 活性エネルギー線照射器具

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2