(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008063
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】降水レベル推定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20250109BHJP
G01W 1/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
G01W1/02 C
G01W1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109917
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智
(57)【要約】
【課題】車両から取得された降水に関連するデータを取得し、機械学習に基づく推定方法を用いて降水レベルを正確に算出可能な降水レベル推定システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】観測対象領域RXに存在する複数の車両Mnにより検出された、降水に関連する検出データを取得し、検出データに基づいて、観測対象領域に含まれる所定の領域Rmにおける降水量を算出する演算部12を備え、演算部は、所定の領域を含む第1領域から取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間における第1特徴量を算出し、第1領域に隣接する第2領域において取得される第2検出データに基づいて、第2領域における第1所定期間に比して過去の第2所定期間における第2特徴量を算出し、第1特徴量と第2特徴量とを変数とする降水量推定モデルを用いて降水量を算出し、降水量に応じた降水レベルを算出する、降水レベル推定システム1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象領域に存在する複数の車両により検出された、降水に関連する検出データを取得し、
前記検出データに基づいて、前記観測対象領域に含まれる所定の領域における降水量を算出する演算部を備え、
前記演算部は、
前記所定の領域を含む第1領域から取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間における第1特徴量を算出し、
前記第1領域に隣接する第2領域において取得される第2検出データに基づいて、前記第2領域における前記第1所定期間に比して過去の第2所定期間における第2特徴量を算出し、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とを変数とする降水量推定モデルを用いて前記降水量を算出し、前記降水量に応じた降水レベルを算出する、
降水レベル推定システム。
【請求項2】
前記演算部は、
前記検出データのうち前記車両に設けられたワイパー装置の稼働状態を示すワイパー稼働データに基づいて、前記ワイパー装置が稼働した時間割合に関する前記第1特徴量と、前記ワイパー装置が稼働した台数割合に関する前記第2特徴量と、を含む特徴量を算出し、前記特徴量に基づいて、前記降水量を算出する、
請求項1に記載の降水レベル推定システム。
【請求項3】
前記演算部は、前記領域における前記降水レベルを算出し、前記観測対象領域において複数の前記領域毎に前記降水レベルをマッピングしたマッピングデータを生成する、
請求項1に記載の降水レベル推定システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記マッピングデータに基づいて、前記観測対象領域のうち前記降水量が基準以上である前記降水レベルとなる前記領域を抽出し、前記領域に存在するユーザに前記降水レベルに関する情報を提供する、
請求項3に記載の降水レベル推定システム。
【請求項5】
観測対象領域に存在する複数の車両により検出された降水に関連する検出データを取得し、
前記観測対象領域に含まれる第1領域から取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間における第1特徴量を算出し、
前記第1領域に隣接する第2領域において取得される第2検出データに基づいて、前記第2領域における前記第1所定期間に比して過去の第2所定期間における第2特徴量を算出し、
前記第1特徴量と前記第2特徴量とを変数とする降水量推定モデルを用いて前記観測対象領域に含まれる所定の領域における降水量を算出し、前記降水量に応じた降水レベルを算出する処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降水量を推定可能な降水レベル推定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、局所的な豪雨の発生に対する防災意識が高まっている。特許文献1には、車両のワイパー装置の作動モードに関するデータに基づいて車両が含まれる領域の降水の強さを示す指標を算出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイパーの作動モードは、例えば、弱、中、強等の3段階の作動モードが設けられている。特許文献1に記載された技術によれば、ワイパーの作動モードに関するデータに基づいて降水の強さを推定している。ワイパーの作動モードは、特に強い降水が発生している場合において、強の段階に固定され、ワイパーの動作モードと降水量との関連性が少なくなる。そのため、特許文献1に記載された技術によれば、ある領域における降水レベルを正確に推定することに困難性が生じる可能性があった。
【0005】
本発明は、車両から取得された降水に関連するデータを利用し、機械学習に基づく推定方法を用いて降水レベルを正確に算出可能な降水レベル推定システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、観測対象領域に存在する複数の車両により検出された、降水に関連する検出データを取得し、前記検出データに基づいて、前記観測対象領域に含まれる所定の領域における降水量を算出する演算部を備え、前記演算部は、前記所定の領域を含む第1領域から取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間における第1特徴量を算出し、前記第1領域に隣接する第2領域において取得される第2検出データに基づいて、前記第2領域における前記第1所定期間に比して過去の第2所定期間における第2特徴量を算出し、前記第1特徴量と前記第2特徴量とを変数とする降水量推定モデルを用いて前記降水量を算出し、前記降水量に応じた降水レベルを算出する、降水レベル推定システムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両から取得された降水に関連するデータを利用し、機械学習に基づく推定方法を用いて降水レベルを正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る降水レベル推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】観測対象領域における観測方法を示す図である。
【
図3】観測対象領域内の所定の領域を示す図である。
【
図5】降水レベルが表示されたマッピングデータを示す図である。
【
図6】マッピングデータにおける経時的な降水レベルの推移を示す図である。
【
図7】降水レベル推定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示されるように、降水レベル推定システム1は、ネットワークNWに接続されたサーバ装置10と、複数の車両Mn(n:任意の自然数)とにより構成されている。複数の車両Mnは、観測対象となる観測対象領域RXに存在している。観測対象領域RXは、例えば、所定の面積の矩形の領域に設定されている。サーバ装置10は、複数の車両Mnと通信し、降水に関する検出データを取得している。サーバ装置10は、検出データに基づいて観測対象領域RXにおける降水レベルを算出する。
【0010】
降水レベルは、例えば、後述のように降水量に応じて、3段階のレベルに設定されている。サーバ装置10は、算出結果に基づいて観測対象領域RX内の車両Mnに降水レベルを含む情報を提供する。サーバ装置10は、車両Mn以外にネットワークNWに接続された端末装置20にも情報を提供してもよい。
【0011】
端末装置20は、例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォン等の情報処理端末装置により構成されている。端末装置20は、例えば、情報を表示する表示部26を備えている。表示部26は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置により構成されている。端末装置20は、ネットワークNWと通信可能な通信部28を備えている。通信部28は、ネットワークNWと接続可能な通信インタフェースにより構成されている。端末装置20は、通信及び情報の表示処理を実行する制御部22を備えている。
【0012】
端末装置20は、制御に必要なデータ及びプログラムが記憶された記憶部24を備えている。制御部22は、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサにより構成されている。記憶部24は、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートディスク(SSD)等の非一時的記憶媒体により構成されている。
【0013】
サーバ装置10は、種々の演算処理を行う演算部12と、演算処理に必要なデータ及びプログラムが記憶された記憶部14と、ネットワークNWと通信する通信部16とにより構成されている。演算部12は、少なくとも1つのCPU等のハードウェアプロセッサにより構成されている。記憶部14は、ハードディスクドライブ、ソリッドステートディスク等の非一時的記憶媒体により構成されている。通信部16は、ネットワークNWと接続可能な通信インタフェースにより構成されている。
【0014】
演算部12は、観測対象領域RXに存在する複数の車両Mnにより検出された、降水に関連する検出データを取得する。演算部12は、検出データに基づいて、観測対象領域RXの降水量を算出する。演算部12の演算処理の内容については後述する。演算部12は、算出結果に基づいて、観測対象領域RXにおける降水レベルの分布を算出する。演算部12は、ネットワークNWを介してユーザが利用する車両Mnに降水量に関する情報を提供する。
【0015】
車両Mnは、ネットワークNWを介してサーバ装置10と通信可能に構成されている。車両Mnは、例えば、種々のデータを検出する検出部MSを備えている。検出部MSは、車両Mnに設けられた複数の装置類やセンサ類等の車両用機器により構成されている。検出部MSは、制御に必要な制御信号、動作に必要な電流値、車両Mnの制御に必要なデータを取得可能な車両用機器により構成されている。検出部MSは、例えば、車両Mnの窓を払拭するワイパー装置MNを備えている。
【0016】
ワイパー装置MNは、車両Mnのフロントウィンドウやリアウィンドウに設けられている。ワイパー装置MNは、例えば、弱、中、強等の3段階の作動モードに基づいて動作する。作動モードは、弱、中、強の順に作動速度が増加する。作動速度は、例えば、単位時間当たりの払拭回数(回数/分)により設定されている。作動モードには、単位時間当たりの払拭回数を任意に調整可能な速度調整モードが設けられていてもよい。ワイパー装置MNは、車両Mnの乗員の操作に基づいて動作する。ワイパー装置MNは、乗員の操作に対応する制御信号に基づいて動作する。制御信号は、段階的な作動モードや速度調整モードに対応して設定されている。
【0017】
ワイパー装置MNには、降雨を検出するレインセンサMEが設けられていてもよい。レインセンサMEは、フロントウィンドウの内側に設けられ、フロントウィンドウの光の透過率の変化を検出する。ワイパー装置MNは、例えば、レインセンサMEにより降雨が検出された場合、自動的に作動する。ワイパー装置MNは、レインセンサMEにより検出された信号の変化に応じて作動モードが自動的に設定されて動作する。
【0018】
検出部MSは、画像を撮像可能なカメラMCが設けられている。カメラMCは、車両Mnの外部環境を撮像する。カメラMCにより撮像された撮像データは、例えば、車両Mnの制御に用いられる。検出部MSは、レーザ波を放射するライダー装置MDが設けられている。ライダー装置MDは、放射したレーザ波の反射波を受信し、車両Mnの周囲に存在する物体を検出する。検出部MSは、車両Mnの現在位置を検出する位置センサMGが設けられている。位置センサMGは、例えば、GPS(Global Positioning System)センサにより構成されている。
【0019】
車両Mnには、種々の制御を実行する制御部MPが設けられている。制御部MPは、車両Mnの走行に関する制御を実行する。制御部MPは、検出部MSにより検出されたデータのうち、降水に関連するデータをサーバ装置10に送信する。制御部MPは、少なくとも1つのCPU等のハードウェアプロセッサにより構成されている。
【0020】
車両Mnは、種々の情報を報知する報知部MLが設けられている。報知部MLは、例えば、報知部MLは、例えば、報知内容を含む画像を表示可能な表示装置により構成されている。報知部MLは、音声により報知内容を出力するスピーカにより構成されていてもよい。車両Mnは、ネットワークNWに接続可能な通信部MUを備えている。通信部MUは、例えば、無線通信可能な通信インタフェースにより構成されている。
【0021】
車両Mnは、走行中において検出部MSにより種々のデータを取得する。制御部MPは、取得されたデータに基づいて車両Mnの走行を制御する。制御部MPは、検出部MSにより取得されたデータのうち、降水に関連するデータをサーバ装置10に送信する。制御部MPは、例えば、ワイパー装置MNの制御に関するデータをサーバ装置10に送信する。サーバ装置10においてデータは、記憶部14に記憶される。演算部12は、記憶部14に記憶されたデータに基づいて、観測対象領域RXにおける降水量を算出する。
【0022】
図2に示されるように、観測対象領域RXの地図データには、領域Rm(m:自然数)が含まれている。領域Rmは、例えば、1km四方の矩形領域に設定されている。領域Rmの大きさ、位置、形状は、任意に設定される。領域Rmは、位置に対応してID番号が設定されている。領域Rmは、サーバ装置10により管理される。サーバ装置10は、観測対象領域RX内に存在する複数の車両Mnと通信する。サーバ装置10において演算部12は、各車両Mnの位置データ及び車両Mnを識別するIDデータを取得する。
【0023】
図3に示されるように、演算部12は、領域RmのIDデータRDと車両Mnから取得したデータとを比較して、領域Rm内に存在する車両Mnを認識する。演算部12は、領域Rm内に存在する複数の車両Mnから降水に関連する検出データを取得する。降水に関連する検出データは、例えば、ワイパー装置MNの作動状態に関するデータ、車両IDデータ、車両位置データ、時刻データ等のデータが含まれている。演算部12は、領域Rmに存在する車両Mnから所定周期(例えば、1分周期)毎に検出データを取得する。演算部12は、取得した検出データを記憶部14に記憶する。
【0024】
演算部12は、領域Rmにおける降水量を算出する。領域Rmには、サーバ装置10から降水に関する情報提供を受けるユーザが存在しているユーザ位置が含まれている。ユーザの位置情報は、現在乗車している車両Mn、或いは所持している端末装置20を介してサーバ装置10に提供される。演算部12は、ユーザから提供される位置情報に基づいて、ユーザ位置を含む領域Rmにおける降水量を算出する。
【0025】
図4に示されるように、演算部12は、検出データに基づいて、所定周期(例えば、10分周期)毎に降水量の推定に用いる複数の特徴量B~Yを生成する。複数の特徴量B~Yは、例えば、ワイパー装置MNの速度成分、時間成分、車両Mnの台数成分、領域成分等の24種類の要素に分類されている。複数の特徴量B~Yは、ワイパー装置MNの作動状態を示すデータに基づいて、ユーザ位置における降水量の算出において特徴が出現するように設定されている。
【0026】
演算部12は、例えば、観測対象領域RXに含まれる第1領域Raから取得される第1検出データに基づいて、第1特徴量Ta(特徴量B~M)を生成する。第1領域Raは、例えば、ユーザ位置とその周辺地点を含む複数のサンプルデータ収集領域により設定されている。複数のサンプルデータ収集領域は、例えば、ユーザ位置を含む1km四方の領域Rmと、ユーザ位置から所定距離離間した周辺地点を含む1km四方の複数の周辺領域とにより設定されている。
【0027】
周辺地点は、例えば、ユーザ位置から5km離間した地点と、ユーザ位置から10km離間した地点とを含んでいる。演算部12は、ユーザ位置と、ユーザ位置から任意の方向における周辺地点を含む第1領域Raの第1検出データを収集する。データを収集する方向は、サンプルデータの収集方法に基づいて任意に設定される。演算部12は、例えば、ユーザ位置から東、西、南、北の4方位方向における第1領域Raのデータを収集する。演算部12は、東、西、南、北方向に北東、北西、南西、南東方向を加えた8方位方向等の任意の方向要素が含まれる第1領域のデータを収集してもよい。
【0028】
演算部12は、現在に比して過去の第1所定期間t1における第1領域Raの第1検出データを取得する。第1所定期間t1は、例えば、現在時刻から過去の1時間である。演算部12は、例えば、第1領域Raにおいて取得した第1検出データに基づいて、4方位方向における特徴量B~Mをそれぞれ生成する。演算部12は、例えば、車両に設けられたワイパー装置の稼働状態を示すワイパー稼働データに基づいて特徴量B~Mを生成する。
【0029】
演算部12は、例えば、ワイパー装置MNの稼働状態を示すワイパー作動時間割合に関する特徴量を算出する。ワイパー作動時間割合は、所定期間毎においてワイパー装置が作動した時間の割合である。ワイパー作動時間割合には、所定期間(例えば、10分間)毎においてワイパー装置が作動した最大時間により算出される特徴量B,C,Dと、所定期間(例えば、60分間)においてワイパー装置が作動した時間の総和により算出される特徴量E,F,Gと、が含まれている。
【0030】
降水レベルを示す特徴量B,C,Dは、10分間毎の集計間隔において1時間の間に計6個サンプリングされる。特徴量B,C,Dを短時間にサンプリングし、1時間の間のそれらの最大値と、ワイパー装置が作動した時間の1時間の間における総和を示す特徴量E,F,Gを利用することで強い降水を示す降水ピーク値を正確に捕捉することができる。
【0031】
特徴量B及び特徴量Eは、ユーザ位置を含む1km四方の矩形領域において算出される。特徴量C及び特徴量Fは、ユーザ位置から所定方向に5km離間した地点を含む1km四方の矩形の領域5Rm(
図2参照)において算出される。特徴量D及び特徴量Gは、ユーザ位置から所定方向に10km離間した地点を含む1km四方の矩形の領域10Rm(
図2参照)において算出される。
【0032】
降水レベルを示す上記特徴量は、第1領域Raにおいて、ユーザ位置を含む領域Rmの1km四方だけでなく、領域Rmを中心とした4方位において離間した領域5Rm,10Rmも算出される。特徴量の算出の根拠となるサンプリング地点を方向に応じて広域化するほど、データを収集可能な車両Mnの台数が増加する。また、方向に応じたサンプリングをすることで、降水傾向を捕捉することができる。
【0033】
演算部12は、例えば、ワイパー装置の稼働状態を示すワイパー作動台数割合を算出する。ワイパー作動台数割合には、所定期間(例えば、10分間)毎においてワイパー装置が作動した車両Mnの最大台数により算出される特徴量H,I,Jと、所定期間(例えば、60分間)においてワイパー装置が作動した車両Mnの台数の総和により算出される特徴量K,L,Mと、が含まれている。
【0034】
例えば、全ての車両Mnが走行時間の10%をワイパー速度(例:50回/分)で作動させていた場合、ワイパー作動時間割合の特徴量は、10%と算出される。この場合、全ての車両Mnが60分間においてワイパー装置が作動したので、ワイパー作動台数割合の特徴量は、100%と算出される。
【0035】
特徴量の算出において、ワイパー装置MNの作動頻度回数ではなく作動割合[%]を算出ことで、計算対象となる領域内に存在する車両Mnの走行台数の違いによって生じる算出値のばらつきを抑制することができる。ワイパー作動時間割合に関する特徴量を算出することにより、強い降水を捕捉しやすくすることができる。特徴量の算出において、「時間」の観点に加えて、「台数」の観点も用いることで、強い降水を捕捉しやすくすることができる。
【0036】
演算部12は、例えば、観測対象領域RXに含まれる第1領域Raに隣接する第2領域Rbから取得される第2検出データに基づいて、第2特徴量Tb(特徴量N~Y)を生成する。第2領域Rbは、例えば、第1領域Raに隣接する周辺地点を含む複数のデータ収集領域により設定されている。複数のデータ収集領域は、例えば、ユーザ位置から所定距離離間した周辺地点を含む1km四方の矩形領域により設定されている。周辺地点は、例えば、ユーザ位置から所定方向に10km離間した地点と、ユーザ位置から20km離間した地点と、ユーザ位置から所定方向に30km離間した地点と、を含んでいる。
【0037】
降水レベルを示す上記特徴量は、第2領域Rbにおいて、領域Rmを中心とした4方位において離間した領域10Rm,20Rm,30Rmが算出される。特徴量の算出の根拠となるサンプリング地点を方向に応じて広域化するほど、データを収集可能な車両Mnの台数が増加する。また、領域Rmに対して方向に応じたサンプリングをすることで、降水傾向を捕捉することができる。
【0038】
演算部12は、例えば、ユーザ位置から第2領域Rbの第2検出データを収集する。演算部12は、第1所定期間t1に比して過去の第2所定期間t2における第2領域Rbの第2検出データを取得する。第2所定期間t2は、例えば、第1所定期間t1の開始時刻から過去の1時間である。演算部12は、例えば、第2領域Rbにおいて取得した第2検出データに基づいて、4方位方向における特徴量N~Yをそれぞれ生成する。演算部12は、例えば、車両に設けられたワイパー装置の稼働状態を示すワイパー稼働データに基づいて特徴量N~Yを生成する。
【0039】
演算部12は、例えば、ワイパー装置MNの稼働状態を示すワイパー作動時間割合を算出する。ワイパー作動時間割合には、所定期間(例えば、10分間)毎においてワイパー装置MNが作動した最大時間により算出される特徴量N,O,Pと、所定期間(例えば、60分間)においてワイパー装置MNが作動した時間の総和により算出される特徴量Q,R,Sと、が含まれている。
【0040】
特徴量N及び特徴量Qは、ユーザ位置から10km離間した地点を含む1km四方の矩形の領域10Rm(
図2参照)において算出される。特徴量O及び特徴量Rは、ユーザ位置から20km離間した地点を含む1km四方の矩形の領域20Rm(
図2参照)において算出される。特徴量P及び特徴量Sは、ユーザ位置から30km離間した地点を含む1km四方の矩形の領域30Rm(
図2参照)において算出される。
【0041】
演算部12は、例えば、ワイパー装置MNの稼働状態を示すワイパー作動台数割合を算出する。ワイパー作動台数割合には、所定期間(例えば、10分間)毎においてワイパー装置が作動した車両Mnの最大台数により算出される特徴量T,U,Vと、所定期間(例えば、60分間)においてワイパー装置が作動した車両Mnの台数の総和により算出される特徴量W,X,Yと、が含まれている。演算部12は、第1特徴量Ta及び第2特徴量Tbを含む特徴量をユーザ位置から4方位において算出する。
【0042】
上述したようにユーザ位置を含む第1領域Raにおける第1特徴量Taは、直近の第1所定期間t1において算出される。ユーザ位置から遠方の第2領域Rbにおける第2特徴量Tbは、第1所定期間t1に比して過去の第2所定期間t2において算出される。演算部12は、算出した第1特徴量及び第2特徴量を、予め設定された降水量推定モデルに入力し、観測対象領域RXに含まれる第1領域Raにおける現在から将来における降水量を算出する。
【0043】
降水量推定モデルは、例えば、複数の特徴量を変数としてユーザ位置を含む領域Rmの降水量の推定値を算出する多項式の非線形回帰式により設定されている。非線形回帰式は、降水量を算出可能な関数に任意に設定される。降水量とワイパー装置MNの稼働状態に関する特徴量との関係は、線形的な関係から徐々に曲線的な関係に変化する。従って、非線形回帰を用いた降水量推定モデルは、強い降水レベルと弱い降水レベルとの異なる傾向をより正確に再現可能となる。
【0044】
降水量推定モデルにおいて、複数の特徴量からなる多項式に対応する複数のパラメータは、演算部12において予め行われる機械学習に基づいて設定されている。演算部12は、例えば、ニューラルネットワークを用いたディープラーニングによる機械学習を繰り返し実行する。
【0045】
演算部12は、過去の検出データに基づいて算出された特徴量を教師データとして用い、特徴量に基づいて降水量の推定値を算出する機械学習を繰り返し実行することにより降水量推定モデルに設定されているパラメータを調整する。パラメータを調整した降水量推定モデルに、検出データを用いて算出された特徴量を入力することにより、降水量の推定値が算出される。パラメータを調整した降水量推定モデルは、コンピュータプログラムとして記憶部14に記憶される。演算部12は、検出データを用いて算出された特徴量を降水量推定モデルに入力することで任意の地点における降水量を算出する。
【0046】
演算部12は、観測対象領域RXに存在する複数の車両Mnにより検出された、降水に関連する検出データを取得する。演算部12は、検出データに基づいて、観測対象領域RXに含まれる所定の領域の現在から将来における降水量を算出する。
【0047】
演算部12は、例えば、第1領域Raから取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間t1における複数の第1特徴量Taを算出する。演算部12は、例えば、第1領域Raに隣接する第2領域Rbにおいて取得される第2検出データに基づいて、第2領域Rbにおける前記第1所定期間に比して過去の第2所定期間t2における第2特徴量Tbを算出する。演算部12は、検出データのうち車両Mnに設けられたワイパー装置MNの稼働状態を示すワイパー稼働データに基づいて、ワイパー装置MNが稼働した時間割合に関する第1特徴量Taと、ワイパー装置が稼働した台数割合に関する第2特徴量Tbと、を含む特徴量を算出する。
【0048】
演算部12は、第1特徴量Taと第2特徴量Tbとを変数とする降水量推定モデルを用いて領域Rmにおける現在の降水量を算出する。演算部12は、降水量に応じて設定された降水レベルと降水量の算出値を比較して、領域Rmにおける降水レベルを算出する。演算部12は、例えば、予め設定された基準となる降水量との比較結果に基づいて、以下の3段階の降水レベルを判定する。
【0049】
演算部12は、降水量が予め設定された第1降水量V1(例えば、20mm/h)以上である場合、「強い降水レベル(High)」であると判定する。強い降水レベルは、注意が必要な基準(例えば、20mm/h)以上の降水量以上に設定されている。基準は、任意の降水量に設定される。演算部12は、降水量が第1降水量V1未満であり、且つ、予め設定された第2降水量V2(例えば、1mm/h)以上である場合、「弱い降水レベル(Mid)」であると判定する。演算部12は、降水量が第2降水量V2(1mm/h)未満である場合、「降水無し(Low)」であると判定する。
【0050】
演算部12は、ユーザ位置を含む領域Rmにおける降水レベルだけでなく、上記と同様の演算処理を繰り返し実行することにより、観測対象領域RXにおける他の全ての領域Rmにおける降水レベルを算出してもよい。演算部12は、観測対象領域RXにおいて他の全ての領域Rmを必ずしも算出しなくてもよく、観測対象領域RXを任意の大きさの矩形領域に含まれる一つの領域Rmを代表値として算出し、任意の大きさの矩形領域により分割された観測対象領域RXのマッピングデータを生成してもよい。
【0051】
図5に示されるように、演算部12は、観測対象領域RXにおいて領域Rm毎に降水レベルをマッピングしたマッピングデータPPを生成してもよい。図示するように、マッピングデータPPにおいて、現在の強い降水レベル(High)の領域の分布と、弱い降水レベル(Mid)の領域の分布と、降水無し(Low)の領域の分布が示されている。
【0052】
降水量推定モデルは、過去の検出データに基づいて機械学習を繰り返し実行することにより、現在の降水量だけでなく、将来の降水量を算出するように設定されていてもよい。従って、演算部12は、降水量推定モデルに基づいて、領域Rmにおける過去及び将来の降水レベルを算出してもよい。演算部12は、例えば、ユーザ位置を含む領域Rmにおける所定時間前の降水量、現在の降水量、所定時間後の降水量を算出してもよい。演算部12は、任意の時間間隔において過去、現在、将来の降水量を算出してもよい。演算部12は、蓄積された検出データを用いて所定のタイミングにおいて降水レベル推定モデルを更新してもよい。
【0053】
一般的に、強い降水現象は、雨雲の移動に連動して遠方から大きな塊となって移動してくる場合が多い。従って、第1所定期間t1において第1特徴量Taを算出することに加えて、第2所定期間t2において第2特徴量Tbを算出することで降水が移動する傾向を算出することができる。
【0054】
演算部12は、生成したマッピングデータに基づいて、観測対象領域RXのうち降水量が基準以上である強い降水レベルとなる領域Rmを抽出し、領域Rmに存在するユーザに降水量に関する情報を提供してもよい。演算部12は、ネットワークNWを介して、抽出された領域Rm内のユーザが搭乗している車両Mnの報知部MLに、強い降水レベルである旨の所定の情報を報知させてもよい。演算部12は、生成したマッピングデータに基づいて、将来的な所定時間の間に強い降水レベルとなる領域Rmを抽出し、領域Rmに存在するユーザに降水量に関する情報を提供してもよい。将来的な所定時間は、任意に設定されてもよい。
【0055】
車両Mnは、提供された所定の情報に基づいて、降雨に対応する走行制御を行ってもよい。降雨に対応する走行制御は、自動運転に基づいて走行する車両Mnに適用されてもよい。降雨に対応する走行制御は、手動運転に基づいて走行する車両Mnの走行支援であってもよい。演算部12は、ネットワークNWを介して、ユーザの端末装置20の表示部26に第1降水レベルに関する所定の情報を表示させてもよい。
【0056】
表示部26には、例えば、強い降水レベルの降雨の状態に関する情報や強い降水レベルの降雨が接近している旨の情報が表示される。ユーザの端末装置20は、必ずしも抽出された領域Rm内に存在していなくてもよい。ユーザは、降水レベルの情報を提供されるサービスの利用者であればよい。
【0057】
図7には、降水レベル推定システム1において実行される降水レベル推定方法の処置の流れがフローチャートにより示されている。降水レベル推定方法は、降水レベル推定システム1を構成するコンピュータにインストールされたプログラムに基づいて処理される。プログラムは、コンピュータに降水レベル推定方法に係る以下の各ステップを実行させる。
【0058】
演算部12は、観測対象領域に存在する複数の車両により検出された降水に関連する検出データを取得する(ステップS100)。演算部12は、観測対象領域RXに含まれる第1領域Raから取得される第1検出データに基づいて、現在に比して過去の第1所定期間における第1特徴量を算出する(ステップS102)。演算部12は、第1領域Raに隣接する第2領域Rbにおいて取得される第2検出データに基づいて、第2領域Rbにおける第1所定期間t1に比して過去の第2所定期間t2における第2特徴量を算出する(ステップS104)。
【0059】
演算部12は、第1特徴量Taと第2特徴量Tbとを変数とする降水量推定モデルを用いて観測対象領域RXに含まれる所定の領域Rmにおける降水量を算出する(ステップS106)。演算部12は、降水量が第1降水量V1以上か否かを判定する(ステップS108)。演算部12は、降水量が第1降水量V1以上である場合、「強い降水レベル」であると判定する(ステップS110)。
【0060】
演算部12は、降水量が第1降水量V1未満である場合、降水量が第2降水量V2以上か否かを判定する(ステップS112)。演算部12は、降水量が第2降水量V2以上である場合、「弱い降水レベル」であると判定する(ステップS114)。演算部12は、降水量が第2降水量V2未満である場合、「降水無し」と判定する(ステップS116)。演算部12は、強い降水レベルとなる領域に存在するユーザに降水レベルに関する情報を提供する(ステップS118)。
【0061】
上述したように降水レベル推定システム1によれば、ワイパー装置MNの稼働状態に関する検出データに基づいて複数の特徴量を算出することにより、降水レベルの推定を正確に行うことができる。降水レベル推定システム1によれば、機械学習に基づいてパラメータを調整した降水量推定モデルに複数の特徴量を入力することにより、降水レベルの推定を正確に行うことができる。降水レベル推定システム1によれば、降水量推定モデルに非線形回帰を用いることにより、降水レベルの推定を正確に行うことができる。
【0062】
上述した実施形態において、特徴量は、ワイパー装置MNの稼働状態のデータに基づいて算出した。特徴量は、ワイパー装置MNの検出データだけでなく、レインセンサMEの検出データ、カメラMCによる車両Mnの周囲環境の撮像データ、ライダー装置MDにより検出された検出データに基づいて算出されてもよい。特徴量は、カメラMCにより降雨の状況が撮像された撮像データに基づいて演算部12が機械学習を繰り返し実行することにより算出されてもよい。
【0063】
特徴量は、レインセンサMEにより検出された降雨の検出データに基づいて演算部12が機械学習を繰り返し実行することにより算出されてもよい。ライダー装置MDの検出データは、降雨の発生により劣化が生じるため、特徴量は、ライダー装置MDの検出データに基づいて演算部12が機械学習を繰り返し実行することにより算出されてもよい。特徴量は、ワイパー装置MN、カメラMC、レインセンサME、ライダー装置MDの検出データうち1つ以上の組み合わせにより算出されてもよい。特徴量は、降水に関連する検出データが検出できればどのようなものを用いて算出されてもよい。
【0064】
降水レベル推定システム1の各構成において実行されるコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な可搬性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 降水レベル推定システム、10 サーバ装置、12 演算部、14 記憶部、16 通信部、20 端末装置、22 制御部、24 記憶部、26 表示部、28 通信部、MC カメラ、MD ライダー装置、ME レインセンサ、MG 位置センサ、ML 報知部、Mn 車両、MN ワイパー装置、MP 制御部、MS 検出部、MU 通信部、NW ネットワーク、PP マッピングデータ、Ra 第1領域、Rb 第2領域、Rm 領域、RX 観測対象領域