(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008086
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ブリッジ回路の駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109953
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 秀和
(72)【発明者】
【氏名】福田 裕司
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740AA05
5H740BA12
5H740BB10
5H740BC01
5H740BC02
5H740HH05
5H740JA01
5H740JB01
5H740KK01
5H740MM01
5H740MM08
5H740NN17
(57)【要約】
【課題】電流のゼロクロス点付近においてもデッドタイムを短縮できるブリッジ回路の駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動側/整流側判定部38は、パワー素子1及び2からなるブリッジ回路の出力端子と負荷との間に流れる電流の方向に基いて、駆動対象とするパワー素子のスイッチングが駆動側、整流側の何れで行われているかを判定する。オン側DT検出部22は、スイッチングが整流側で行われている際に、パワー素子の電圧Vdsのレベルが変化するタイミングと、電圧Vgsのレベル変化するタイミングとの間の遅延時間を検出して記憶する。タイミング調整部7は、駆動信号のレベルを変化させるタイミングを、検出した遅延時間だけ早めるように調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジ回路の上下アームを構成する直列接続された2つのパワー素子(1,2)の内、1つのパワー素子の導通制御端子を駆動するもので、
前記ブリッジ回路の出力端子と負荷との間に流れる電流の方向に基いて、前記パワー素子のスイッチングが駆動側、整流側の何れで行われているかを判定する駆動側/整流側判定部(36)と、
前記スイッチングが前記整流側で行われている際に、前記パワー素子の導通端子間電圧のレベルが変化するタイミングと、前記導通制御端子に印加される駆動信号のレベル変化するタイミングとの間の遅延時間を検出して記憶する遅延時間検出部(22)と、
前記駆動信号のレベルを変化させるタイミングを、前記遅延時間だけ早めるように調整するタイミング調整部(7)と、を備えるブリッジ回路の駆動装置。
【請求項2】
前記パワー素子がオンした際に、対向するアームのパワー素子との間に貫通電流が流れる短絡の発生を判定する短絡判定部(29)を備え、
前記オンタイミング調整部は、前記短絡判定部により前記短絡の発生が判定されない範囲で、且つ前記パワー素子がオンした際に自素子に通電される電流が閾値よりも小さくなるように、前記遅延時間を短縮する請求項1記載のブリッジ回路の駆動装置。
【請求項3】
前記短絡判定部は、前記導通端子間電圧のレベルが変化するタイミングよりも、前記タイミングに応じて前記駆動信号のレベルが変化するタイミングが早くなることで、極性が負となる遅延時間の長さが閾値以上であれば前記短絡の発生を判定し、
前記短絡の発生を判定すると、前記パワー素子の駆動を停止させる請求項2記載のブリッジ回路の駆動装置。
【請求項4】
前記タイミング調整部は、前記パワー素子をターンオンさせる場合と、前記パワー素子をターンオフさせる場合との何れか一方について、前記調整を実行する請求項1記載のブリッジ回路の駆動装置。
【請求項5】
前記タイミング調整部は、前記遅延時間をΔtとすると、前記Δtに応じた電圧ΔVを発生させるΔt-ΔV変換部(31)と、
前記導通端子間電圧のレベルが変化したことを検出するレベル変化検出部(24)と、
前記レベルの変化をトリガとして、前記電圧ΔVの値を一定値だけ低減する補正部(25)と、を備える請求項1記載のブリッジ回路の駆動装置。
【請求項6】
前記駆動信号のレベルが立ち上がるタイミングから一定時間だけ起動信号を出力する起動信号出力部(42)を備え、
前記遅延時間検出部は、前記起動信号が出力されている期間内に、前記遅延時間を検出する請求項1から5の何れか一項に記載のブリッジ回路の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリッジ回路を構成するパワー素子を駆動する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばMOSFETのようなパワー素子を上下アームとするブリッジ回路を構成し、それらを交互に駆動するインバータやコンバータでは、上下アームの同時オンを防止するため、それらを同時にオフにする時間としてデッドタイムが設けられる。このデッドタイム期間には、MOSFETに内蔵されるか又は並列に接続されるダイオードが導通するため、MOSFETをオンしている時よりも損失が増加する。したがって、デッドタイムはできるだけ短縮することが望ましい。
【0003】
例えば特許文献1には、上下アーム相互のゲートオフを検出し、ゲートオフ検知信号と駆動信号との論理積により、対向アームのオフをトリガとして自アームのオンタイミングを生成することで、上下アームの駆動信号にデッドタイムを付与することを必要とせず、短絡しない程度までデッドタイムを短縮する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の構成を、例えば電気自動車;EVにおけるインバータ制御等のように、高電圧・大電流系に適用することを想定すると、以下のような問題が発生する。このような高電圧・大電流系における上下アーム間は、絶縁されている。絶縁されたアーム間の信号伝達には、一般にはフォトカプラや磁気カプラのようなデジタルアイソレータが用いられるので、遅延時間が発生する。そのため、対向アームからのオフ検知信号が来るまでは自アームの駆動ができず、この伝達遅延時間分がデッドタイムとして残る。また、接続するパワー素子のゲート容量とドライバの駆動電圧、駆動電流能力により、パワー素子のゲートの駆動を開始してから、閾値電圧Vthを超えるまでの駆動遅延時間分もデッドタイムとして残ってしまう。
【0006】
インバータの制御において、1つの上下アームのスイッチングには、負荷に電流を通電する駆動側のスイッチングと、対向する駆動側のアームがオフした際に流れる電流を、同期整流する整流側のスイッチングとがある。従来技術において、デッドタイムを検知して制御できるのは整流側の時だけであり、駆動側の場合は、固定されたデッドタイムを用いている。そのため、上下アームのスイッチングが、駆動側と整流側との間で切り替わるゼロ電流の近傍ではデッドタイムを短縮することができず、パワー素子に並列に接続されているダイオードによる導通損失を低減できない電流領域があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電流のゼロクロス点付近においてもデッドタイムを短縮できるブリッジ回路の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のブリッジ回路の駆動装置によれば、駆動側/整流側判定部(36)は、ブリッジ回路の出力端子と負荷との間に流れる電流の方向に基いて、駆動対象とするパワー素子(1,2)のスイッチングが駆動側、整流側の何れで行われているかを判定する。尚、パワー素子とは、例えば上記のインバータのような電力変換回路を構成する、比較的大きな電力をスイッチングするのに対応した半導体素子である。遅延時間検出部(22)は、スイッチングが整流側で行われている際に、パワー素子の導通端子間電圧のレベルが変化するタイミングと、導通制御端子に印加される駆動信号のレベル変化するタイミングとの間の遅延時間を検出して記憶する。タイミング調整部(7)は、駆動信号のレベルを変化させるタイミングを、検出した遅延時間だけ早めるように調整する。
【0009】
すなわち、パワー素子のスイッチングが整流側で行われている際に検出して記憶された遅延時間を、スイッチングが駆動側で行われている際にも適用する。これにより、パワー素子のスイッチングが駆動側と整流側との間で切り替る際においても、タイミング調整部は、駆動信号のレベルを変化させるタイミングを調整できる。したがって、電流のゼロクロス点付近においてもデッドタイムを短縮できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態であり、ブリッジ回路の駆動装置の構成を示す図
【
図2】Δt-ΔV変換部の動作を示すタイミングチャート
【
図3】タイミング調整部の動作を示すタイミングチャート
【
図5】
図4に示す制御に応じて電圧Vgsの立上りタイミングが調整される状態を示す波形図
【
図6】下アームのスイッチングが整流側である場合のタイミングチャート
【
図7】上アームのスイッチングが整流側である場合のタイミングチャート
【
図8】
図6及び
図7を含んでより長い期間について示すタイミングチャート
【
図9】負荷電流の変化に応じで、上下アームの駆動側/整流側の変化を単純化して示すタイミングチャート
【
図10】第2実施形態であり、ブリッジ回路の駆動装置の構成を示す図
【
図11】起動停止回路の動作を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の駆動装置は、例えば3相インバータを構成する1相の上下アーム、つまりブリッジ回路を駆動対象とする。各アームは、例えばNチャネルMOSFET等のパワー素子1及び2が、直流電源線3P、3N間に接続された構成である。パワー素子1、2の導通制御端子であるゲートには、駆動装置4の駆動部4P、4Nにより、それぞれゲート電圧Vgsが与えられる。駆動部4P、4Nには、インバータ制御部5からの駆動信号が、絶縁部6P、6Nを介して入力される。絶縁部6P、6Nは、例えばフォトカプラや磁気カプラ等である。
【0012】
それぞれがパワー素子1、2に対応する駆動部4P、4Nの構成は対称であるから、以下ではパワー素子1について説明する。駆動信号は、オンタイミング調整部7に入力される。オンタイミング調整部7は、図示しない電源、回路グランド間に接続される電流源8、PチャネルMOSFET9、NチャネルMOS10及び電流源11の直列回路を備えている。FET9及び10のゲートは共通に接続されており、駆動信号は、NOTゲート12を介して上記のゲートに入力される。FET9及び10のドレインは共通に接続されており、そのドレインは、コンパレータ13の非反転入力端子、及びコンパレータ14の反転入力端子に接続されている。また、上記のドレインは、コンデンサ15を介してグランドに接続されている。
【0013】
コンパレータ13の反転入力端子には、サンプルホールド回路16の出力信号が与えられる。コンパレータ14の非反転入力端子には、基準電圧が与えられている。コンパレータ13,14の出力信号は、ANDゲート17,18の入力端子の一方に入力され、入力端子の他方には駆動信号が入力されている。ANDゲート18の入力端子の他方は、負論理である。ANDゲート17,18の他方は、RSフリップフロップ19のセット端子S,リセット端子Rにそれぞれ接続されている。RSフリップフロップ19の出力端子Qは、ドライバ20の入力端子に接続されている。ドライバ20は、パワー素子1のゲートにゲート電圧Vgsを出力する。
【0014】
パワー素子1には、コンデンサ21a及び21bの直列回路が並列に接続されている。遅延時間検出部に相当するオン側DT検出部22は、コンパレータ23及び24を備えている。コンパレータ23の非反転入力端子はパワー素子1のゲートに接続され、コンパレータ24の非反転入力端子はコンデンサ21a及び21bの共通接続点に接続されている。コンパレータ23、24の反転入力端子には、それぞれ参照電圧Vg-Ref,Vd-Refが与えられている。コンパレータ23の出力端子は、フェーズコンパレータ25の負側入力端子に接続されている。コンパレータ24の出力端子は、NOTゲート26を介してフェーズコンパレータ25の正側入力端子に接続されている。尚、以下ではデッドタイムを「DT」と記載することがある。
【0015】
フェーズコンパレータ25の負側出力端子は、オフセット調整部27が備えるANDゲート28の入力端子の一方に接続されていると共に、短絡判定部に相当する極性判定部29の入力端子に接続されている。コンパレータ23の出力端子は、ワンショットパルス出力部30を介して、ANDゲート28の入力端子の他方に接続されている。
【0016】
Δt-ΔV変換部31は、オンタイミング調整部7の入力部と同様に構成される電流源32、FET33及び34、並びに電流源35の直列回路と、コンデンサ36とを備えている。FET33のゲートは、ANDゲート28の出力端子に接続され、FET34のゲートは、フェーズコンパレータ25の正側出力端子に接続されている。FET33及び34のドレインは、サンプルホールド回路16の入力端子に接続されている。サンプルホールド回路16には、極性判定部29よりリセット信号が与えられる。
【0017】
極性判定部29は、フェーズコンパレータ25の負側出力端子の信号によって、コンパレータ23及び24により検出されるデッドタイムの極性を判定する。コンパレータ24及びフェーズコンパレータ25は、レベル変化検出部に相当する。ここで、「デッドタイムの極性」を以下のように定義する。検出されるデッドタイムが、導通端子間電圧であるドレイン-ソース間電圧Vdsの立下りから、ゲート-ソース間電圧Vgsの立ち上がりまでの時間として得られた場合、極性は「正」である。逆に、検出されるデッドタイムが、ゲート-ソース間電圧Vgsの立ち上がりから、ドレイン-ソース間電圧Vdsの立下りまでの時間として得られた場合、極性は「負」である。
【0018】
また、極性判定部29は、デッドタイムの極性が負であり、且つそのデッドタイムの長さが閾値値以上であれば上下アームの短絡発生を判定する。その際には、ドライバ20に強制オフ信号を出力して、パワー素子1又は2の駆動を停止させる。
【0019】
図2に示すように、Δt-ΔV変換部31は、パワー素子1又は2について、デッドタイムの極性が「正」であれば、ドレイン-ソース間電圧Vdsの立下りからゲート-ソース間電圧Vgsの立ち上がりまでの時間Δtを、実際のデッドタイム;実DTとして検出する。フェーズコンパレータ25の正側出力端子Aからは、その実DTに応じた時間幅のハイレベルパルスが出力される。また、Δt-ΔV変換部31は、デッドタイムの極性が「負」であれば、ゲート-ソース間電圧Vgsの立上がりドレイン-ソース間電圧Vdsの立ち下がりまでの時間Δtを、実際のデッドタイム;実DTとして検出する。負側出力端子Bからは、その実DTに応じた時間幅のローレベルパルスが出力される。ワンショットパルス出力部30は、デフォルトでハイレベルの信号を出力している。そして、ゲート-ソース間電圧Vgsの立ち上がりから一定時間後に、ローレベルのワンショットパルスを出力する。
【0020】
コンデンサ36は、出力端子Aがハイレベルを示している間は電流源35により放電される。出力端子Aがローレベルに転じてから、ワンショットパルス出力部30がハイレベルの信号を出力している間は、コンデンサ36の端子電圧は変化しない。ワンショットパルス出力部30がローレベルのワンショットパルスを出力する間だけ、コンデンサ36は
充電される。フェーズコンパレータ25は、補正部にも相当する。
【0021】
Δt-ΔV変換部31が出力する電圧は、実DTの長さに応じた値を示す。
図2に示すように、実DTが目標とするデッドタイム;目標DT、すなわち許容する最短のデッドタイムよりも長い場合には、Δt-ΔV変換部31の作用により実DTが目標DTに近付くように、Δt-ΔV変換部31の出力電圧は調整される。フェーズコンパレータ25の出力Aのパルス幅Δtに応じて、Δt-ΔV変換部31の出力電圧が低下した分がΔVに相当する。(実DT=目標DT)の場合、出力Aのパルス幅と、ワンショットパルス出力部30が出力するワンショットパルスのパルス幅とが等しくなる。
【0022】
パワー素子1及び2の共通接続点と図示しない負荷との間を接続する配線には、電流センサ37が配置されている。電流センサ37の出力信号は、駆動側/整流側判定部38に入力されている。駆動側/整流側判定部38の出力信号は、絶縁部39P、39Nを介して、駆動部4P、4Nのサンプルホールド回路16、及びフェーズコンパレータ25に与えられている。
【0023】
駆動側/整流側判定部38は、電流センサ37により検出される電流の方向から、パワー素子1、2のスイッチングが、駆動側、整流側の何れで行われているかを以下のように判定する。
・電流方向:共通接続点→負荷、パワー素子1:駆動側/パワー素子2:整流側
・電流方向:負荷→共通接続点、パワー素子1:整流側/パワー素子2:駆動側
そして、整流側であれば対応する駆動部にタイミング制御ON信号を出力し、整流側であれば対応する駆動部にタイミング制御OFF信号を出力する。
【0024】
図3に示すように、タイミング調整部7の入力部では、入力される駆動信号に応じた台形波が生成される。その台形波の立ち上がり区間、立下りの区間のレベルは、サンプルホールド回路16によりサンプルホールドされた、Δt-ΔV変換部31の出力電圧を閾値として比較される。検出したデッドタイムの極性が正であれば、サンプルホールド回路16の出力電圧が低下して閾値が低下する。したがって、ドライバ20に入力される信号はより早く立ち上がる。一方、検出したデッドタイムの極性が負であれば、サンプルホールド回路16の出力電圧が上昇して閾値が上昇する。これにより、ドライバ20に入力される信号はより遅く立ち上がるように変化する。
【0025】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図4に示すように、駆動部4P及び4Nは、初期設定として、駆動信号の立ち上がりからゲート-ソース間電圧Vgsの立ち上がりまでのデッドタイムの初期値;初期DTを設定しておく(S1)。それから、デッドタイム短縮制御を開始する(S2)。そして、駆動対象とするパワー素子が整流側か否かを判断する(S3)。整流側であれば(Yes)、フェーズコンパレータ25がデッドタイムを検出する(S4)。また、その際に、負荷電流の値も検知する。
【0026】
検出したデッドタイムの極性が正であれば(S5;Yes)、今回検知した電流値及びデッドタイムが、前回の処理で記憶させた各値よりも小さいか否かを判断する(S6)。ここで「No」と判断すると、ステップS4に戻る。一方、「Yes」と判断すると、その際の電圧Vgsの立ち上がりタイミングを記憶する(S7)。そして、オンタイミング調整部7は、検知したデッドタイムが目標デッドタイムに近付くように電圧Vgsが立ち上がるタイミングを変更する(S8)。それから、記憶させたタイミングによってパワー素子のゲートをターンオンさせるように、ドライバ20に駆動信号を出力する(S9)。その後、ステップS3に移行する。
【0027】
検出したデッドタイムの極性が負であり、ステップS5で「No」と判断すると、そのデッドタイムの長さが短絡判定閾値以下か否かを判断する(S10)。短絡判定閾値以下であり「Yes」と判断すると、ステップS8に移行する。短絡判定閾値を超えており「NO」と判断すると、ドライバ20によるパワー素子のオン駆動を停止させる。そして、オン駆動タイミングを初期化すると(S10)ステップS3に移行する。ステップS3において、自アームが駆動側であり「No」と判断すると、整流側で検出したデッドタイムに基づいて、パワー素子2のオン駆動が実行される(S12)。
図5は、上記の制御の結果として、駆動側、整流側の電圧Vgsの立上りタイミングが調整される状態を示している。
【0028】
図6は、下アームのパワー素子2のスイッチングが整流側となり、上アームのパワー素子1のスイッチングが駆動側の場合を示す。この時、パワー素子2については、デッドタイムを検出してその短縮制御を実行し、パワー素子2をターンオンさせる。
図7は、下アームのパワー素子2のスイッチングが駆動側となり、上アームのパワー素子1のスイッチングが整流側に切り替わった場合を示す。この時、パワー素子2については、整流側で実行したデッドタイム短縮制御の結果として記憶されたデッドタイムによりターンオンさせる。
【0029】
図8は、負荷電流の変化に伴い下アームのスイッチングが駆動側/整流側に切り替わるのに応じて、各アームについてデッドタイムの検出及び短縮制御がどのように実行させるのかを示している。また、
図9は、正弦波状に変化する負荷電流に応じて、デッドタイム短縮制御の実行状態が切り替わる態様を、より単純化して示している。
【0030】
以上のように本実施形態によれば、駆動装置4において、駆動側/整流側判定部38は、パワー素子1及び2からなるブリッジ回路の出力端子と負荷との間に流れる電流の方向に基いて、駆動対象とするパワー素子のスイッチングが駆動側、整流側の何れで行われているかを判定する。オン側DT検出部22は、スイッチングが整流側で行われている際に、パワー素子の電圧Vdsのレベルが変化するタイミングと、電圧Vgsのレベル変化するタイミングとの間の遅延時間を検出して記憶する。タイミング調整部7は、駆動信号のレベルを変化させるタイミングを、検出した遅延時間だけ早めるように調整する。
【0031】
すなわち、パワー素子1,2のスイッチングが整流側で行われている際に検出して記憶された遅延時間を、スイッチングが駆動側で行われている際にも適用する。これにより、パワー素子のスイッチングが駆動側と整流側との間で切り替る際においても、タイミング調整部7は、駆動信号のレベルを変化させるタイミングを調整できる。したがって、電流のゼロクロス点付近においてもデッドタイムを短縮でき、パワー素子1,2に並列に接続されているダイオード、又はボディダイオードによる導通損失を低減できるようになる。
【0032】
また、極性判定部29は、自アームのパワー素子がオンした際に、対抗するアームのパワー素子との間に貫通電流が流れる短絡の発生を判定する。オンタイミング調整部7は、短絡判定部29により短絡発生が判定されない範囲で、且つ自アームのパワー素子がオンした際に通電される電流が閾値よりも小さくなるようにデッドタイムを短縮する。これにより、短絡の発生を回避できる最短のデッドタイムとなるように調整できる。
【0033】
また、短絡判定部29は、電圧Vdsのレベルが変化するタイミングよりも、そのタイミングに応じて電圧Vgsのレベルが変化するタイミングが早くなることで、極性が負となるデッドタイムの長さが閾値以上であれば前記短絡の発生を判定し、短絡発生を判定すると、パワー素子1又は2の駆動を停止させる。
【0034】
また、タイミング調整部7のΔt-ΔV変換部31は、デッドタイムΔtに応じた電圧ΔVを発生させる。フェーズコンパレータ25は、コンパレータ24により検出される電圧Vdsのレベル変化をトリガとして、入力される電圧を電圧ΔVだけ低減させる。その作用に、ワンショットパルス出力部30が出力するワンショットパルスの作用を加えることで、実DTと目標DTとが等しくなるように調整できる。
【0035】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
図10に示すように、第2実施形態の駆動装置41は、駆動装置4に起動停止回路42を加えた構成である。起動停止回路42には駆動信号が入力され、起動停止回路42は、起動停止信号をコンパレータ23及び24並びにフェーズコンパレータ25に出力する。
【0036】
図11に示すように、起動停止回路42は、起動信号の立上りから一定時間だけ起動停止信号をハイレベルにした後、ローレベルに変化させる。コンパレータ23及び24並びにフェーズコンパレータ25は、起動停止信号がハイレベルを示す期間に動作し、ローレベルを示す期間は動作を停止させる。したがって、デッドタイムの検出は、起動停止信号がハイレベルを示す期間に行われる。
【0037】
すなわち、デッドタイムの検出は、電圧Vdsの立下りに係る期間と、電圧Vgsの立ち上がりに係る期間で行えば良い。そして、それ以外の期間については、起動停止信号によりデッドタイムの検出を停止させることで、ノイズの影響を受けることを回避できる。
【0038】
(その他の実施形態)
パワー素子は、NチャネルMOSFETに限らない。
パワー素子のオフタイミングについて、同様の制御を行っても良い。また、オンタイミング及びオフタイミングの双方について制御を行っても良い。
ブリッジ回路は、3相インバータを構成するものに限らず、単独のハーフブリッジ回路や、Hブリッジ回路を構成するものでも良い。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0039】
図面中、1及び2はパワー素子、4は駆動装置、7はオンタイミング調整部、22はオン側DT検出部、23及び24はコンパレータ、25はフェーズコンパレータ、27はオフセット調整部、29は極性検出部、31はΔt-ΔV変換部、38は駆動側/整流側判定部を示す。