(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008092
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】半導体製造装置用部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20250109BHJP
C04B 35/495 20060101ALI20250109BHJP
H01L 21/3065 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B35/495
H01L21/302 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109961
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】池▲崎▼ 博基
【テーマコード(参考)】
5F004
5F131
【Fターム(参考)】
5F004AA13
5F004AA16
5F004BB14
5F004BB22
5F004BB29
5F004DA00
5F004DA04
5F131AA02
5F131BA19
5F131CA04
5F131CA15
5F131CA17
5F131EA03
5F131EB11
5F131EB78
5F131EB79
5F131HA21
5F131KB32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】より高い耐食性を有する半導体製造装置用部材を提供する。
【解決手段】ウェハWを静電引力により吸着することで保持する静電チャックである半導体製造装置用部材1は、Mg(マグネシウム)とMo(モリブデン)とを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体からなる。この部材のエッチングレートは、Al
2O
3およびY
2O
3の焼結体におけるエッチングレートよりも小さい。すなわち、Al
2O
3およびY
2O
3の焼結体よりも高い耐食性を有し、本構成を半導体製造装置用部材に用いることにより、プラズマが利用される半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生を抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置用部材であって、
Mg(マグネシウム)とMo(モリブデン)とを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体からなることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記焼結体に含まれるMo元素の量に対するMg元素の量であるモル比は、1以上であることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記焼結体の開気孔率は、0.1%以下であることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるドライプロセスやプラズマコーティングなどを実施する際に利用される半導体製造装置では、エッチングおよびクリーニング用のプラズマとして、反応性の高いフッ素(F)系プラズマ、塩素(Cl)系プラズマ、および臭素(Br)系プラズマが使用される。プラズマを利用する部材としての、静電チャックやヒーター等のSiウェハと接する部材や、それらを覆うチャンバーやそのチャンバーパーツには、高い耐食性が求められる。高い耐食性を有する部材として、Al2O3(アルミナ)やY2O3(イットリア)の焼結体を用いた半導体製造装置用部材が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-278935号公報
【特許文献2】特開2001-179080号公報
【特許文献3】特開2006-69843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載されたAl2O3やY2O3の焼結体は、半導体製造時に利用されるプラズマに対する耐食性を有するものの、半導体製造装置用部材が有する耐食性については改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、より高い耐食性を有する半導体製造装置用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、半導体製造装置用部材が提供される。この半導体製造装置用部材は、Mg(マグネシウム)とMo(モリブデン)とを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体からなる。
【0008】
この構成によれば、MgとMoとの両方を含む半導体製造装置用部材が提供される。この部材のエッチングレートは、Al2O3およびY2O3の焼結体におけるエッチングレートよりも小さい。すなわち、本構成は、Al2O3およびY2O3の焼結体よりも高い耐食性を有する。そのため、本構成を半導体製造装置用部材に用いることにより、プラズマが利用される半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生を抑制できる。
【0009】
(2)上記形態の半導体製造装置用部材において、前記焼結体に含まれるMo元素の量に対するMg元素の量のモル比は、1以上であってもよい。
この構成によれば、焼結体に含まれるMg元素の量がMo元素の量未満の場合と比較して、半導体製造装置用部材のエッチングレートが小さくなる。これにより、半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生がさらに抑制される。
【0010】
(3)上記形態の半導体製造装置用部材において、前記焼結体の開気孔率は、0.1%以下であってもよい。
この構成によれば、開気孔率が0.1%以下と緻密に形成されているため、半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生をさらに抑制できる。
【0011】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、複合材料、焼結体、半導体製造装置用部材、半導体製造に用いられる材料、およびこれらを備えるシステム等、半導体製造装置用部材の製造方法およびこれらを備えるシステム等の形態で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の半導体製造装置用部材の概略斜視図である。
【
図2】実施例と比較例とに対する耐プラズマ試験の評価結果の説明図である。
【
図3】実施例と比較例とに対する耐プラズマ試験の評価結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施形態の半導体製造装置用部材1の概略斜視図である。
図1に示される半導体製造装置用部材1(以降では、単に「部材1」とも言う)は、ウェハWを静電引力により吸着することで保持する静電チャックである。静電チャックである部材1は、例えば、エッチング装置に備えられる。本実施形態の部材1は、Mg(マグネシウム)とMo(モリブデン)とを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体によって構成されている。部材1のエッチングレートは、例えば、Al
2O
3およびY
2O
3の焼結体のエッチングレートよりも小さい。これにより、部材1は、高い耐食性を有し、プラズマ利用時に発生する腐食やパーティクルの発生を抑制できる。
【0014】
部材1を構成する焼結体の化学式は、焼結体に含まれるMgの量をX(0<X<1)とすると、MgXMo1-XO3-2Xで表される。例えば、焼結体に含まれるMgとMoとの割合が同じ(X=0.5)、すなわち、焼結体に含まれるMo元素の量に対するMg元素の量であるモル比が1の場合には、焼結体の化学式は、MgMoO4である。なお、以降では、MgMoO4の一例について説明する。
【0015】
部材1を構成するMgMoO4を製造するためには、初めに、焼結体の材料である酸化物のMgOとMoO3が焼結後にMgMoO3の組成となるように調合される。調合では、エタノールが加えられた後に、ボールミルを用いて粉砕混合が行われる。調合後の混合粉がホットプレス法により焼成されて、MgMoO4の結晶相を含む焼結体が製造される。ホットプレスでは、摂氏750度(℃)、204kgf/cm2、Ar(アルゴン)雰囲気下の条件で、混合粉が3時間保持された。焼成後のサンプルでは、X線回折法(XRD)によりMgMoO4の結晶相が含まれていることが確認された。
【0016】
図2および
図3は、実施例としてのMgMoO
4と、比較例としてのY
2O
3,Al
2O
3,MgO,およびMoO
3とに対する耐プラズマ試験の評価結果の説明図である。
図2,3には、実施例および比較例の各サンプルの開気孔率と、エッチングレートとが示されている。耐プラズマ試験では、マイクロ波励起プラズマ2000W、バイアス200W、任意のガスが2時間供給されている圧力20mtorrのチャンバー内で、各サンプルが評価された。
図2には、任意のガスとして、Cl
2ガスが50sccmで供給された際の評価結果が示されている。
図3には、HBrガスが10sccmで供給された際の評価結果が示されている。
【0017】
図2に示されるように、Cl
2ガスを用いた耐プラズマ試験に用いられる実施例のMgMoO
4のサンプルにおける開気孔率は0.1(%)であった。また、MgMoO
4のエッチングレートは、比較例のY
2O
3,Al
2O
3,およびMgOのいずれのエッチングレートよりも小さい0.460(μm/h)であった。なお、比較例のMoO
3のエッチングレートは、開気孔率が2.2(%)と高く緻密に形成されていなかったため、測定されていない。
【0018】
図3に示されるように、HBrガスを用いた耐プラズマ試験に用いられる実施例のMgMoO
4のサンプルにおける開気孔率は0.1(%)であった。また、MgMoO
4のエッチングレートは、比較例のY
2O
3,Al
2O
3,およびMgOのいずれのエッチングレートよりも小さい0.621(μm/h)であった。
【0019】
以上のように、本実施形態の部材1は、MgとMoとを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体によって構成されている。この部材1のエッチングレートは、
図2,3に示されるように、Al
2O
3,Y
2O
3,MgOの焼結体におけるエッチングレートよりも小さい。すなわち、部材1を構成する焼結体は、Al
2O
3,Y
2O
3,およびMgOの焼結体よりも高い耐食性を有する。そのため、Mg
XMo
1-XO
3-2Xの焼結体を部材1に用いることにより、プラズマが利用される半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生を抑制できる。
【0020】
また、本実施形態の部材1を構成する焼結体に含まれるMgMoO4では、Mo元素の量に対するMg元素の量であるモル比が1である。本実施形態の部材1では、焼結体に含まれるMg元素の量がMo元素の量未満の場合と比較して、部材1のエッチングレートが低くなる。これにより、部材1を用いることにより、半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生がさらに抑制される。
【0021】
また、実施例のMgMoO
4の開気孔率は、
図2,3に示されるように、0.1(%)である。すなわち、実施例のMgMoO
4を構成する焼結体は、開気孔率が0.1%と緻密に形成されているため、半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生をさらに抑制できる。
【0022】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0023】
上記実施形態では、MgとMoとを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体を用いた半導体製造装置用部材として、静電チャックを一例として説明したが、当該焼結体を用いた半導体製造装置用部材については変形可能である。例えば、当該焼結体がヒーター、チャンバー、およびチャンバーパーツに用いられてもよい。
【0024】
上記実施形態では、MgとMoとを含む複合酸化物のMg
XMo
1-XO
3-2Xとして、Mo元素の量に対するMg元素の量であるモル比が同じ(X=0.5)のMgMoO
4について説明したが、Mo元素の量に対するMg元素の量であるモル比については変形可能である。例えば、複合酸化物は、X=0.25のMgMo
3O
10であってもよいし、X=0.75のMg
3MoO
6であってもよい。Mg
XMo
1-XO
3-2Xに含まれるMoは、融点および沸点が高いため、Cl
2ガスおよびHBrガスに対して科学的な安定性を有する。そのため、Mg
XMo
1-XO
3-2Xの焼結体が部材1に用いられることにより、半導体製造時に発生する腐食やパーティクルの発生が抑制される。また、
図2,3に示されるように、Mgの酸化物であるMgOは、Moの酸化物であるMoO3よりも開気孔率が低く、緻密に形成される。そのため、複合酸化物では、MoよりもMgをより多く含む方が、開気孔率が低くなり、エッチングレートが小さくなる。そのため、Mg
XMo
1-XO
3-2Xでは、X=0.5以上、すなわち、Mo元素の量に対するMg元素の量であるモル比が、1以上であることが好ましい。
【0025】
図2,3で示されるMgMoO
4の開気孔率は、0.1(%)であったが、0.1(%)より大きくてもよいし、0.1(%)より小さくてもよい。特に、MgMoO
4の開気孔率は、0.1(%)以下である好ましい。
【0026】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0027】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
半導体製造装置用部材であって、
Mg(マグネシウム)とMo(モリブデン)とを含む複合酸化物の結晶相を含む焼結体からなることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
[適用例2]
適用例1に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記焼結体に含まれるMo元素の量に対するMg元素の量であるモル比は、1以上であることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の半導体製造装置用部材であって、
前記焼結体の開気孔率は、0.1%以下であることを特徴とする、半導体製造装置用部材。
【符号の説明】
【0028】
1…部材(半導体製造装置用部材)
W…ウェハ