(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008115
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ダイレクト印刷型のPETボトル
(51)【国際特許分類】
B65D 23/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B65D23/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110005
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】山口 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】岡野 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】吉井 孝平
(72)【発明者】
【氏名】王 蕾蕾
【テーマコード(参考)】
3E062
【Fターム(参考)】
3E062AA09
3E062AB02
3E062AC02
3E062DA01
3E062DA02
3E062DA09
3E062JA04
3E062JA08
3E062JB26
(57)【要約】
【課題】リサイクル適性を確保することが可能なダイレクト印刷型のPETボトルを提供する。
【解決手段】PET樹脂を素材として成形されたボトル本体2の表面に印刷層3が形成されたPETボトル1において、印刷層3の形成に使用されたインクの重量を、ボトル本体2の重量に対して2.5%以下とし、印刷層3を含んだPETボトル1を8mmメッシュで粉砕し、得られた破砕品を85°C~95°Cでかつ濃度1.5%の水酸化ナトリウム溶液中で撹拌し、次いで清水で撹拌しながら洗浄してアルカリ成分を除去するようにアルカリ洗浄を実施し、洗浄後の破砕品を用いて3mm厚のプレート状の成形品を成形したときに成形品のヘイズを5%以下とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET樹脂を素材として成形されたボトル本体の表面に印刷層が形成されたPETボトルであって、
前記印刷層の形成に使用されたインクの重量が、前記ボトル本体の重量に対して2.5%以下であり、
前記印刷層を含んだPETボトルを8mmメッシュで粉砕し、得られた破砕品を85°C~95°Cでかつ濃度1.5%の水酸化ナトリウム溶液中で撹拌し、次いで清水で撹拌しながら洗浄してアルカリ成分を除去するようにアルカリ洗浄を実施し、洗浄後の破砕品を用いて3mm厚のプレート状の成形品を成形したときに、前記成形品のヘイズが5%以下であるダイレクト印刷型のPETボトル。
【請求項2】
前記成形品をバージン原料のPET樹脂からなる比較材料と比較したときの色差について、ΔLが5以下、Δaが2以下、Δbが3以下である請求項1に記載のPETボトル。
【請求項3】
前記印刷層が放射線硬化型インクにて形成された請求項1又は2に記載のPETボトル。
【請求項4】
前記印刷層の形成に使用したインクの重量が、前記ボトル本体の胴部の重量に対して5.0%以下とされた請求項1又は2に記載のダイレクト印刷型のPETボトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトル本体の表面にラベル等の表示物が印刷されたいわゆるダイレクト印刷型のPETボトルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PET樹脂と称する。)を素材として成形されたPETボトルの表面に図柄や文字等の表示物が印刷されたいわゆるダイレクト印刷型のPETボトルに関する技術として、ボトル本体の表面に、加熱された水やアルカリ水溶液の処理によって剥離可能なラベル支持体層を形成し、ラベル支持体層上に放射線硬化型インクを用いて図柄や文字等を印刷する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイレクト印刷型のPETボトルでは、ボトル本体と印刷層とが一体化されるため、リサイクル処理の過程でインク成分の除去が問題となる。リサイクル処理が現在主流のメカニカルリサイクルにより処理する場合に問題となる。特に、PETボトルのボトルtoボトルリサイクルにおいては、PETボトルの透明性が維持されることが商品特性上重要となる。発明者らが鋭意調査したところ、アルカリ水溶液の処理によって、剥離可能な印刷層を形成した場合であっても、メカニカルリサイクル工程の過程でPETボトルをフレーク化する際に、フレークが屈曲した場合などは印刷層が完璧に除去しきれず、リサイクル工程後の樹脂の透明性に欠けることが見出された。
【0005】
そこで、本発明はリサイクル適性を確保することが可能なダイレクト印刷型のPETボトルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らの検討によれば、印刷層の形成内容(位置やインク量など)を調整することでメカニカルリサイクル処理後に透明性を確保したPETボトルが得られることが見出された。具体的には、リサイクル後の再生PET樹脂をプレート成形した際のヘイズが5%以下となるPETボトルの印刷層の形成内容とすることで、リサイクル上の問題が生じないようにすることとなる。
【0007】
かかる知見を踏まえ、本発明の一態様に係るダイレクト印刷型のPETボトルは、PET樹脂を素材として成形されたボトル本体の表面に印刷層が形成されたPETボトルであって、前記印刷層の形成に使用されたインクの重量が、前記ボトル本体の重量に対して2.5%以下であり、前記印刷層を含んだPETボトルを8mmメッシュで粉砕し、得られた破砕品を85°C~95°Cでかつ濃度1.5%の水酸化ナトリウム溶液中で撹拌し、次いで清水で撹拌しながら洗浄してアルカリ成分を除去するようにアルカリ洗浄を実施し、洗浄後の破砕品を用いて3mm厚のプレート状の成形品を成形したときに、前記成形品のヘイズが5%以下としたものである。
【0008】
リサイクル処理の過程におけるインク成分の分離の効率は、印刷層を形成するために使用されたインクの重量と関連性を有し、ボトル本体の重量、又はボトル本体の胴部に対するインク重量の比率が高いほどインク成分が分離されずに残留する傾向が高まる。これに対して、インクの重量をボトル本体の重量に対して上記の範囲に設定すれば、リサイクル適性・透明性の確保に有利となる。そして、上記態様のPET樹脂においてヘイズを指標とすることにより、透明性を確保しつつリサイクル適性が確保されたPETボトルを提供することができる。
【0009】
上記態様のPETボトルにおいては、前記3mm厚のプレート状の成形品を、バージン原料のPET樹脂からなる比較材料と比較したときの色差について、ΔLが5以下、Δaが2以下、Δbが3以下とされてもよい。これによれば、リサイクル適性をさらに高めることができる。
【0010】
上記態様のPETボトルにおいて、前記印刷層は放射線硬化型インクにて形成されてもよい。これによれば、印刷層の形成時においてインクを瞬間的に定着させることができ、印刷効率を高めることが可能である。さらに、上述のアルカリ洗浄の際に、アルカリ溶液中に前記印刷層の成分が溶解しないため、剥離した前記印刷層を物理的に除去しやすいとともに、上述の印刷層の完全な除去が難しい点を考慮しても、リサイクルされたPET樹脂の食品安全性を溶出の観点で確保しやすい。
【0011】
上記態様のPETボトルにおいては、前記印刷層の形成に使用されたインクの重量を、前記ボトル本体の胴部の重量に対して5.0%以下としてもよい。ここで、PETボトルの胴部とは、口部、特にサポートリングよりも下方にあり、かつ、接地面に向かって胴径が縮小、または、屈曲している底部よりも上方にある領域をいう。発明者らが検討したところ、PETボトルの胴部であれば、あるいは、ボトル壁の厚さが0.5mm未満であれば、リサイクル処理にてフレーク化する際に、上述したインク成分の剥離層を完璧に除去しきれないようなフレークの屈曲等が生じやすい一方で、PETボトルの口部や底部、あるいは、ボトル壁の厚さが0.5mm以上の部分であれば、このような屈曲等がほぼ生じないことを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一形態に係るPETボトルの正面図。
【
図3】プライマ層及び表示層を印刷する工程の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一形態に係るPETボトルを示している。
図1のPETボトル1は、一例として飲料容器として使用されるものである。PETボトル1は、PET樹脂を素材として所定形状に成形されるボトル本体2と、そのボトル本体2の表面の適宜の位置に印刷される印刷層3とを含む。印刷層3がボトル本体2の表面に印刷されることにより、PETボトル1はダイレクト印刷型のPETボトルとして位置付けられる。ボトル本体2は、典型的にはブロー成型法にて成形される。ただし、ボトル本体2は他の成形法にて成形されてもよい。
図2に示すように、印刷層3は、プライマ層4と、プライマ層4上に積層される表示層5とを含む。なお、
図2は印刷層3の層構成を示すものであって、ボトル本体2及び各層4、5の厚さの比率は必ずしも実際のPETボトル1における比率を示すものではない。
【0014】
図1では、印刷層3が、一例として、ボトル本体2の胴部2aの一部に概略楕円状のラベルとして形成されている。胴部2aは、例えばボトル本体2の口部2b、特にサポートリング2cの直下の位置P1よりも下方にあり、かつ接地面に向かって縮小し、又は屈曲している底部2dの直上の位置P2よりも上方にある領域、あるいはボトル本体2の肉厚が0.5mm以下の領域として把握されてよい。印刷層3の位置及び形状は適宜でよい。ボトル本体2の複数個所に印刷層3が形成されてもよい。例えば、商品名、ロゴマークといった図柄や記号を表示するための印刷層3と、商品の成分表示、製造者情報といった商品に表示することが義務付けられた事項を表示するための印刷層3とがボトル本体2の互いに異なる位置に分散して形成されてよい。
【0015】
プライマ層4は表示層5に対する下地として印刷される。プライマ層4は第1のインクを用いてボトル本体2の表面に直接的に印刷される。「直接的」とは、プライマ層4とボトル本体2との間に他の層を介在させることなく、プライマ層4をボトル本体2の表面に密着させることを意味する。プライマ層4は一例として無色透明である。第1のインクには、ボトル本体2を構成するPET樹脂を印刷素地としたときに、その印刷素地に対してラベルに必要な程度の付着力を有し、かつ所定の処理液にて処理した場合に印刷素地のPET樹脂から剥離可能な特性を有するインクが使用される。例えば、重合性モノマーと重合性界面活性剤とを含有することにより、紫外線等の放射線に対する硬化性と、アルカリ水溶液等の処理液に対する剥離性とが付与された放射線硬化型インクが第1のインクとして使用される。第1のインクは、一例としてインクジェット方式の印刷に適合したインクとして調製される。放射線は紫外線に必ずしも限定されず、活性エネルギーをインクに与えてインクを硬化させる作用を呈する限り、γ線、β線、電子線、あるいは可視光線等が放射線として用いられてよい。処理液は、一例としてアルカリ水溶液であるが、好適には85°C以上、より好ましくは90°C以上に加熱されたアルカリ水溶液である。また、アルカリ水溶液は、例えば水酸化ナトリウム水溶液であり、好適には水酸化ナトリウの濃度が1%以上、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2.0%以上である。ここでいう濃度は重量比であって、以下でも同様である。加熱された水及びアリカリ水溶液のそれぞれが処理液として段階的に使用されてもよい。
【0016】
表示層5は、PETボトル1に付されるべき図柄、文字、記号等を表現したラベルを表示物として形成するために、第2のインクを用いてプライマ層4に積層して印刷される層である。第2のインクは、ラベルを形成するために必要な顔料、染料等の着色剤を含む。第2のインクは、ラベルを形成するために必要な複数色、例えばCMYKの4色の色ごとに分けて用意される。第2のインクには、重合性モノマーを含有することにより紫外線等の放射線に対する硬化性が付与された放射線硬化型インクが使用される。第2のインクは、一例としてインクジェット方式の印刷に適合したインクとして調製される。インクの硬化に使用される放射線は第1のインクと同様でよい。第2のインクにもボトル本体2に対する剥離性が付与されてもよい。
【0017】
図1から明らかなように、表示層5はプライマ層4の範囲内に限定してプライマ層4上に積層されている。
図1の例では、表示層5がプライマ層4よりも幾らか小さく形成され、表示層5の外側にプライマ層4の外周部分が露出している。ただし、印刷の位置精度が確保できる限りにおいて、表示層5がプライマ層4と同一の大きさに形成されてもよい。表示層5の範囲を上記の通りに限定することにより、プライマ層4のボトル本体2からの剥離に伴って表示層5をボトル本体2から確実に分離することができる。
【0018】
図3は、第1のインク及び第2のインクとして紫外線硬化型のインクジェットインクを用いて印刷層3を形成する工程の一例を示している。
図3の例では、まずステップS11にて第1のインクをボトル本体2の表面の目標位置に塗布し、塗布されたインクに対して紫外線を照射して仮硬化させることにより、プライマ層4を印刷する処理が行われる。なお、仮硬化の処理は省略することも可能である。
【0019】
続くステップS12にて、表示層5を形成するための第2のインクを色別に順次プライマ層4上に塗布し、かつインクの塗布ごとに紫外線を照射してインクを仮硬化させることにより、表示層5を印刷する処理が行われる。さらに、ステップS13にて印刷層3の全体に紫外線を照射してこれを完全に硬化させる本硬化処理が行われる。本硬化処理にて用いる紫外線は、一例としてピーク波長が365~395nmの範囲であり、その単位面積あたりの露光量は0.5mJ/cm2以上である。紫外線の光源は、一例として、紫外域をピーク波長として発光するUV-LEDである。水銀ランプ、紫外線蛍光灯等の他の光源が紫外光の照射に使用されてもよい。なお、本硬化処理の後に、残留モノマーを除去するための水洗処理等が適宜に実施されてよい。仮硬化の処理は省略することも可能である。紫外線を照射する際に窒素ガス等の不活性ガスを印刷領域に供給して酸素濃度を低減させることにより、酸素重合阻害作用を抑制して印刷層3の高品質化を図ってもよい。
【0020】
以上のPETボトル1において、印刷層3の印刷に使用されるインクの重量、すなわち、プライマ層4の印刷に使用する第1のインクの重量と、表示層5の印刷に使用する第2のインクの重量とを合計したインク重量は、ボトル本体2の重量に対して2.5%以下に設定される。以下では、この比率をインク重量比と呼ぶことがある。プライマ層4の形成に使用される第1インクが透明である場合は、ボトル本体2の重量に対する第2インクのみの重量、すなわち表示層5の形成に使用されるインクのみの重量の比率をインク重量比として特定し、そのインク重量比が2.5%以下に設定されてもよい。発明者らの検討によれば、インク重量比を2.5%以下に設定すれば、PETボトル1のリサイクル適性の確保に有利となることが確認されている。なお、ボトル本体2の胴部2aの重量がボトル本体2の重量に占める比率が50%であることを考慮すれば、印刷層3の形成に使用されたインクの重量を、ボトル本体2の胴部2aの重量に対して5.0%以下に設定してもよい。この場合、上記と同様に、プライマ層4の形成に使用される第1インクが透明であれば表示層5の形成に使用される第2インクのみの重量をインク重量として扱ってもよい。
【0021】
また、プライマ層4は、鉛筆硬度で評価したときに少なくとも4B以上の硬度、好ましくは3B以上の硬度、さらに好ましくは2B以上の硬度で形成される。プライマ層4は、PET樹脂に対する印刷層3の剥離性を付与するものであるが、その硬度が過度に低い、つまりプライマ層4が必要以上に柔らかいと、PETボトル1の流通時や使用時に印刷層3が部分的に剥がれて印刷品質が損なわれるおそれがある。発明者らの検討によれば、プライマ層4の硬度を4B以上とすれば印刷層3の剥がれを実用上問題ない程度に抑制でき、3B以上の硬度であれば印刷層3の剥がれをより効果的に抑制でき、2B以上であればさらに効果的に剥がれを抑制することが確認されている。なお、鉛筆硬度による評価は、硬度が異なる鉛筆にてプライマ層4を擦ったときのプライマ層4の削り痕の有無で硬度を判定する評価法であって、削り痕が生じなくなるときの鉛筆硬度がプライマ層4の硬度として評価される。日本産業規格の旧JIS K 5400に規定された鉛筆引っかき試験に準じてプライマ層4の硬度が評価されてもよい。
【0022】
次に、PETボトル1のリサイクル処理について説明する。
図4は、いわゆるメカニカルリサイクル方式によるPETボトルのリサイクル処理の工程の一例を示している。メカニカルリサイクル方式は、PETボトルのリサイクル処理において広く用いられている方式である。メカニカルリサイクルでは、まず異物除去等の前処理が実施され、その後、ステップS21にてPETボトル1を粉砕して、破砕品の一例としてのフレーク11を得る処理が行われる。
【0023】
次のステップS22では、フレーク11を所定の処理液12に浸漬し、処理液12を撹拌することによりフレーク11を洗浄する処理が行われる。処理液12は一例として85°C~90°Cに加熱され、かつ1.5%の濃度に調整されたアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム水溶液)である。この段階で、フレーク11に付着しているプライマ層4が表示層5を伴ってフレーク11から剥離し、剥離したインク成分13が処理液中で浮上してフレーク11から分離される。洗浄・分離処理は、加熱された水及びアルカリ水溶液を順次用いて段階的に行われてもよい。アルカリ水溶液を用いた洗浄・分離処理では、洗浄後のフレークを清水で撹拌しながら洗浄してアルカリを除去するリンス処理も行われる。
【0024】
次のステップS23では、インク成分13が分離されたフレーク11を粒状化してペレット14を得る処理が行われる。以下では、得られたペレットをリサイクル品ではないバージン原料によるペレットと区別するために再ペレットと呼ぶことがある。また、以下ではバージン原料から作製されるペレットをバージンペレットと呼ぶことがある。その後、ステップS24にて、ペレット14を原料とするプレート15等の再生品が成形される。再生品は、プレート15に限らず、繊維、シート、ボトル等の各種の形態に成形されてよい。再生品の成形時に、リサイクル処理で得られたペレット14に対してバージンペレットが混入されてもよい。
【0025】
次に、PETボトル1のリサイクル適性の評価方法の一例を説明する。以下の例では、リサイクル適性を、基礎物性評価と、再利用適性評価とに分けて評価する。
【0026】
1.基礎物性評価
(1)試料等の作製
評価対象のPETボトルを粉砕して8mmメッシュでフレークを作製した。これを85~90°Cに加熱した濃度1.5%の水酸化ナトリウム水溶液中で15分間強く撹拌し、その後に、フレークを清水で撹拌しながら洗浄してアルカリ成分を除去するようにしてアルカリ洗浄を実施した。ここで、8mmメッシュとは、空孔のサイズが直径8mmに設定されたスクリーンメッシュで篩い分けたときに得られるフレークの粒度である。洗浄後のフレークから再ペレットを作製して試料とした。比較材料として、PET樹脂単体を用意した。ラベルが印刷されたPETボトルを評価対象とする場合には、ボトル本体を成形するための素材としてのPET樹脂のバージン原料を比較材料として用いることができる。
【0027】
(2)基礎物性評価基準
基礎物性評価基準における主要項目は以下の通りである。
・フレークの作製時における粉の発生が比較材料と比較して120%以下である。
・フレークから試料の再ペレットを作製したときのIV保持率が、比較材料と比較して90%以上である。
・比較材料との比較における試料の色差について、L値の差が5以下、a値の差が2以下、b値の差が3以下である。
・なお、カラーは、日本電色工業製ZE6000を用いた測定した。
・試料から作製した段付きプレートの3mm厚さ部分におけるヘイズが5%以下である。
・なお、ヘイズは、日本産業規格のJIS K7136に則り、ヘイズメータ(日本電色工業製NDH8000)を用いて測定した。
・試料としてのペレットを乾燥させる際にペレット同士の融着がないこと。
【0028】
2.再利用適性評価
再利用適性評価は、再ペレットから成形される再生品の用途によって評価内容が異なるが、特にPETボトルからPETボトルを再生する、いわゆるボトルtoボトル向けの評価方法は以下の通りである。
【0029】
・基礎物性評価時と同様に粉砕処理、洗浄・分離処理を実施してフレークを作製し、これを50°Cの温風に3時間晒して付着水を水切りして試験用フレークを作製する。
・試験用フレークを140°Cで4時間乾燥させて結晶化させる。結晶化した試験用フレークに同一重量のバージンペレットを混合し、再ペレット化して試験用再ペレットを作製する。
・バージン原料から試験用フレークと同一手順で比較用フレークを作製し、これを上記と同様に結晶化し、同一重量のバージンペレットを混合して比較用ペレットを作製する。
・試験用ペレットは、比較用ペレットと比較して、IV上昇比が90%以上120%以下になる条件で作製する。
・試験用再ペレット品のカラー値は12以下である。
・試験用再ペレットから成形した段付きプレートの再生品の3mm厚部分におけるヘイズが5%以下である。
【0030】
発明者らの検討によれば、ボトル本体の表面に印刷層が形成されたPETボトルを8mmメッシュで粉砕し、上述のアルカリ洗浄、すなわち85°C~90°Cでかつ濃度1.5%の水酸化ナトリウム水溶液を用いた処理及び清水による洗浄処理を実施した後に、3mm厚のプレート状の成形品を成形したときに、その成形品のヘイズが5%以下であれば、PETボトルにおけるボトルtoボトルの再利用用途に適した十分な透明性を維持し、リサイクル適性が確保できることが確認された。また、上記の成形品を、バージン原料のPET樹脂からなる比較材料と比較したときの色差について、L値の差ΔLが5以下、a値の差Δaが2以下、b値の差Δbが3以下であればリサイクル適性をより確実に確保できることが確認された。さらに、上述したインク重量比を2.5%以下とすれば、洗浄・分離過程でのインク成分の残留率の観点、リサイクルされた材料を用いて成形した成形品のヘイズ、色差の物性値の観点のいずれにおいても透明性が確保され、リサイクル適性があると判断できる評価が得られることが確認された。
【実施例0031】
(実施例1)
以下の試験条件に従って試験用のPETボトルを作製した。
・使用インク:放射線硬化型インク(国際公開第2022/225018号にて公開されたインクを使用した。)
・ボトル本体の重量:28g(500ml容量)
・ボトル胴部の重量:14g
・第1インク(プライマ層のインク)の重量:0.35g
・第2インク(表示層のインク)の重量:0.35g
・第2インクの配色:C、Y、M、K、Wの5色、 等分配色
(実施例2)
・第1インク(プライマ層のインク)の重量:0.08g
・第2インク(表示層のインク)の重量:0.09g
とした以外は、実施例1と同様のPETボトルを作製した。
(実施例3)
・第1インク(プライマ層のインク)の重量:0.05g
・第2インク(表示層のインク)の重量:0.05g
とした以外は、実施例1と同様のPETボトルを作製した。
【0032】
試験用のPETボトルを8mmメッシュで粉砕して試験用フレークを作製し、得られた試験用フレークに上述したアルカリ洗浄を適用した。その結果として、インク成分の残留比はいずれの実施例においても10ppm以下であった。また、試験用フレークを再ペレット化し、これを用いて成形されたシート状の成形品に関し、上述した再生利用適性評価に倣って評価を実施したところ、表1の通りの結果となった。いずれの実施例においても、成形品のヘイズが5%以下、成形品をバージン原料からなる比較材料と比較したときの色差のΔL5が以下、Δaが2以下、Δbが3以下であって、リサイクル適性があることが確認された。
【0033】