(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008173
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】電力システム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/14 20060101AFI20250109BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20250109BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20250109BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20250109BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H02J3/14
H02J3/32
H02J3/00 180
H02J3/38 110
H02J13/00 311T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110116
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】北村 高嗣
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA01
5G064AA04
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB21
5G064DA05
5G066HA15
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
5G066KA11
5G066KB06
5G066KC01
(57)【要約】
【課題】集中型の制御に依存することなく自端での周波数変動に応動することで、一次調整力を供出することができる電力システムを提供する
【解決手段】電力システムS1は、電力系統Kに一次調整力を供出する複数の蓄電池システムB1と、一次調整力を取引対象として需給調整市場Dと取引を行う取引システムA1とを備える。複数の蓄電池システムB1の各々は、蓄電池と、蓄電池の充放電を制御するインバータと、インバータ22の出力電圧の周波数を出力周波数として計測する周波数計測器と、基準周波数からの出力周波数の周波数偏差を算出する周波数偏差算出部と、インバータの出力電力の基準値である出力基準値を設定する基準値設定部と、周波数偏差を用いて出力基準値に対する調整幅を算出する調整幅算出部と、出力基準値を調整幅により補正してインバータの出力目標値を算出する目標値算出部と、インバータの出力値を出力目標値に制御する制御部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続点を介して電力系統に接続され、前記電力系統に一次調整力を供出する複数の蓄電池システムと、
前記一次調整力を取引対象として需給調整市場と取引を行う取引システムと、
を備え、
前記複数の蓄電池システムの各々は、
蓄電池と、
前記蓄電池の充放電を制御するインバータと、
前記インバータの出力電圧の周波数を出力周波数として計測する周波数計測器と、
基準周波数からの前記出力周波数の周波数偏差を算出する周波数偏差算出部と、
前記インバータの出力電力の基準値である出力基準値を設定する基準値設定部と、
前記周波数偏差を用いて、前記出力基準値に対する調整幅を算出する調整幅算出部と、
設定された前記出力基準値を前記調整幅により補正して前記インバータの出力目標値を算出する目標値算出部と、
前記インバータの出力値を前記出力目標値に制御する制御部と、を備える、電力システム。
【請求項2】
前記基準値設定部は、前記出力基準値を算出して設定する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項3】
前記複数の蓄電池システムの各々との通信を行う上位システムをさらに備え、
前記上位システムは、前記複数の蓄電池システムの各々に対する個別基準値を算出する個別基準値算出部と、算出した前記個別基準値を前記複数の蓄電池システムにそれぞれ個別に送信する送信部と、を備え、
前記個別基準値算出部は、前記接続点での電力値に応じた全体基準値から、前記個別基準値を算出し、
前記基準値設定部は、前記上位システムから受信した前記個別基準値を、前記出力基準値として設定する、請求項1に記載の電力システム。
【請求項4】
前記接続点に接続された負荷をさらに備え、
前記接続点での電力値は、前記複数の蓄電池システムの出力電力の総和から前記負荷の消費電力を減算した値である、請求項3に記載の電力システム。
【請求項5】
前記取引システムは、
前記接続点と前記電力系統との間のシステム電力を計測する電力計測器と、
計測された前記システム電力の出力実績を前記需給調整市場に報告する報告装置と、を備える、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の電力システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般送配電事業者は、電力の安定供給のために、電力の需要と供給とのバランス(需給バランス)を調整している。仮に、電力の需給バランスが崩れると、電力系統からの供給電力の周波数が変動し、工場の生産機械などの動作に影響を与えたり、大規模停電が発生したりする可能性がある。そこで、一般送配電事業者が調整力を調達する市場として、需給調整市場の運用が一部開始されている。調整力とは、周波数調整・需給調整を行うための電力である。需給調整市場で扱われる調整力は、応動時間および出力継続時間などの要件に応じて、一次調整力、二次調整力(1,2)、三次調整力(1,2)に区分される。需給調整市場で調整力を供出する事業者は、一次調整力、二次調整力、三次調整力でそれぞれ規定される要件を満たさなければならない。現在、一次調整力については、需給調整市場での取引が検討段階であるが、例えば、一次調整力を供出する事業者は、変動する周波数偏差を自端で検知し、周波数偏差を低減させるように応動する機能を備えていなければならない。
【0003】
例えば、特許文献1には、自端での周波数変動を抑制する周波数調整システムが開示されている。特許文献1に記載の周波数調整システムは、需要家電力測定手段と、周波数測定手段と、充放電手段と、充放電制御手段とを備える。需要家電力測定手段は、需要家の受電端に設けられ需要家に供給される電力を測定する。周波数測定手段は、電力系統の周波数を測定する。充放電手段は、充放電制御手段からの制御に従って、電力系統から電力を吸収(充電)し、或いは電力系統に電力を放出(放電)する。充放電制御手段は、充放電手段の充放電量を制御する。そして、充放電制御手段は、需要家電力測定手段で測定された電力および周波数測定手段で測定された周波数を入力信号として、充放電量を制御し、電力系統の周波数を所定の範囲内に保つように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の周波数調整システムでは、1つの周波数測定手段で、受電端における周波数を測定しており、充放電制御手段は、当該周波数を元に、充放電手段の充放電制御を行っている。このため、複数の充放電手段を備える構成では、複数の充放電手段を、1つの充放電制御手段が集中的に制御することになる。需給調整市場での一次調整力の供出には、周波数変動に即応して、例えば10秒以内に応動させる必要があるため、この要件の達成には、充放電制御手段の処理速度の高速化が求められる。しかしながら、このような処理速度の高速化の実現には、充放電制御手段に、SCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)等の高価な制御機器を利用することが考えられるが、システムのコストが増大する。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みて考え出されたものであり、その目的は、集中型の制御に依存することなく自端での周波数変動に応動することで、一次調整力を供出することができる電力システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示によって提供される電力システムは、接続点を介して電力系統に接続され、前記電力系統に一次調整力を供出する複数の蓄電池システムと、前記一次調整力を取引対象として需給調整市場と取引を行う取引システムと、を備え、前記複数の蓄電池システムの各々は、蓄電池と、前記蓄電池の充放電を制御するインバータと、前記インバータの出力電圧の周波数を出力周波数として計測する周波数計測器と、基準周波数からの前記出力周波数の周波数偏差を算出する周波数偏差算出部と、前記インバータの出力電力の基準値である出力基準値を設定する基準値設定部と、前記周波数偏差を用いて、前記出力基準値に対する調整幅を算出する調整幅算出部と、設定された前記出力基準値を前記調整幅により補正して前記インバータの出力目標値を算出する目標値算出部と、前記インバータの出力値を前記出力目標値に制御する制御部と、を備える。
【0008】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記基準値設定部は、前記出力基準値を算出して設定する。
【0009】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記複数の蓄電池システムの各々との通信を行う上位システムをさらに備え、前記上位システムは、前記複数の蓄電池システムの各々に対する個別基準値を算出する個別基準値算出部と、算出した前記個別基準値を前記複数の蓄電池システムにそれぞれ個別に送信する送信部と、を備え、前記個別基準値算出部は、前記接続点での電力値に応じた全体基準値から、前記個別基準値を算出し、前記基準値設定部は、前記上位システムから受信した前記個別基準値を、前記出力基準値として設定する。
【0010】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記接続点に接続された負荷をさらに備え、前記接続点での電力値は、前記複数の蓄電池システムの出力電力の総和から前記負荷の消費電力を減算した値である。
【0011】
前記電力システムの好ましい実施の形態において、前記取引システムは、前記接続点と前記電力系統との間のシステム電力を計測する電力計測器と、計測された前記システム電力の出力実績を前記需給調整市場に報告する報告装置と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の電力システムでは、複数の蓄電池システムの各々において、インバータの出力電圧の周波数が出力周波数として計測され、基準周波数からの出力周波数の周波数偏差が算出される。そして、設定された出力基準値を周波数偏差に応じた調整幅により補正することでインバータの出力目標値が算出され、インバータの出力値が出力目標値に制御される。従って、各蓄電池システムは、電力系統との接続点における周波数変動に応動して、出力電力の調整を行う。これにより、電力システムは、電力系統との接続点における出力電力を調整して、電力系統に一次調整力を供出する。従って、電力システムは、集中型の制御に依存することなく、自端(電力系統との接続点)での周波数変動に応動して、一次調整力を供出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る電力システムの全体構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る電力システムの各蓄電池システムの構成例を示す図である。
【
図3】第2実施形態に係る電力システムの全体構成例を示す図である。
【
図4】第3実施形態に係る電力システムの全体構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の電力システムの好ましい実施の形態について、図面を参照して、以下に説明する。以下では、同一あるいは類似の構成要素に、同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る電力システムS1の全体構成例を示している。電力システムS1は、取引システムA1および複数の蓄電池システムB1を備える。
図1に示すように、電力システムS1では、複数の蓄電池システムB1は、接続点X1を介して電力系統Kに接続されている。電力システムS1において、複数の蓄電池システムB1の全てが、1つの事業者で運用されるものであってもよいし、複数の蓄電池システムB1が、複数の事業者で運用されるものであってもよい。また、取引システムA1は、複数の蓄電池システムB1のうちの少なくとも1つを運用する事業者によって運用されるものであってもよいし、複数の事業者を束ねるアグリゲータによって運用されるものであってもよい。
【0016】
電力システムS1は、接続点X2を介して、電力系統Kに接続される。電力システムS1は、接続点X2を介して、電力系統Kに電力を出力可能である。電力システムS1は、自端における出力電圧の周波数変動に応じて、電力系統Kへの出力電力を調整することで、電力系統Kに一次調整力を供出する。電力システムS1の自端は、接続点X2に相当する。本開示において応動する周波数変動は、数秒~数分程度の需要変動である「極短周期」の変動である。
【0017】
取引システムA1は、複数の蓄電池システムB1から供出する一次調整力を取引対象として、需給調整市場Dと取引を行う。需給調整市場Dは、例えば一般送配電事業者によって運営される。需給調整市場Dでは、例えば3時間単位のブロックに分けられ(0時00分から3時00分まで、3時00分から6時00分まで、・・・、21時00分から24時00分まで)、各3時間単位の調整力(ΔkW)を商品ブロックとして取引される。なお、上記3時間の単位時間は、一例であり、需給調整市場Dの規程に応じて変更されうる。電力システムS1は、需給調整市場Dとの取引が成立すると、取引が成立した商品ブロックにおいて、電力系統Kに一次調整力を供出する。本実施形態では、電力システムS1は、直前計測型の取引を行う。この直前計測型の取引では、上記商品ブロック直前の需要の実績(以下「需要実績」)を用いて、電力システムS1における基準値等を設定する。当該基準値は、電力系統Kへの出力電力の調整を行わない場合に想定される電力量の計画値であり、以下では「全体基準値」という。なお、全体基準値は、属地エリア(取引する需給調整市場Dを運用する一般送配電事業者が管轄するエリア)の「託送供給等約款」で定める損失率で修正されていてもよい。
図1に示すように、取引システムA1は、電力計測器11および報告装置12を備える。
【0018】
電力計測器11は、電力系統Kとの接続点X2における電力(以下「システム電力」という)を計測する。接続点X2は、電力システムS1における受電点であって、自端に相当する。電力計測器11の計測結果(システム電力の計測値)は、報告装置12に出力される。
【0019】
報告装置12は、成立した需給調整市場Dとの取引に対して実績報告を行う。報告装置12には、電力計測器11からシステム電力の計測値が入力される。報告装置12は、入力されるシステム電力の計測値を用いて、取引が成立した商品ブロックにおけるシステム電力の出力実績のデータを作成する。そして、作成したデータを実績報告として需給調整市場Dの運用者に送信する。つまり、報告装置12は、計測されたシステム電力の出力実績を需給調整市場Dに報告する。作成するデータの様式は、需給調整市場Dの取引規程に応じるものとする。
【0020】
複数の蓄電池システムB1はそれぞれ、接続点X1を介して、電力系統Kに接続される。複数の蓄電池システムB1はそれぞれ、接続点X1に電力を出力可能である。
図1に示す例では、接続点X1と接続点X2との間に変圧器が接続されているが、この変圧器はなくてもよい。この場合、接続点X1と接続点X2とは一致する。複数の蓄電池システムB1は、例えば蓄電池パワーコンディショナである。複数の蓄電池システムB1はそれぞれ、取引が成立した商品ブロックにおいて、後述の周波数偏差を算出して、当該周波数偏差に応じて、出力電力の調整を行う。以下では、各蓄電池システムB1が行う出力電力の調整を、「個別出力調整」という。なお、複数の蓄電池システムB1はそれぞれ、取引が成立した商品ブロック以外の時間帯においては、予め設定されたアルゴリズム(既存のアルゴリズム)に応じて、出力電力の制御を行う。
【0021】
図2は、複数の蓄電池システムB1の構成例を示している。
図2では、複数の蓄電池システムB1のうちの1つのみを記載する。
図2に示すように、複数の蓄電池システムB1はそれぞれ、蓄電池21、インバータ22、周波数計測器23および制御基板24を備える。以下で説明する蓄電池21、インバータ22、周波数計測器23および制御基板24は、特段の断りがない限り、各蓄電池システムB1で共通する。なお、各蓄電池システムB1の構成は、
図2に示す例に限定されない。
【0022】
蓄電池21は、例えば二次電池あるいはコンデンサである。
図2では、各蓄電池システムB1が、1つの蓄電池21を備えるが、複数の蓄電池21を備えていてもよい。
【0023】
インバータ22には、蓄電池21が接続される。インバータ22は、蓄電池21の充放電を行う。インバータ22は、接続点X1に接続されている。インバータ22は、接続点X1から入力される電力を蓄電池21に供給することで、蓄電池21を充電する。また、インバータ22は、蓄電池21に蓄積された電力を接続点X1に出力することで、蓄電池21を放電させる。インバータ22が行う充放電は、制御基板24(後述の制御部245)によって制御される。
【0024】
周波数計測器23は、インバータ22と接続点X1との間に接続される。周波数計測器23は、インバータ22の出力電圧の周波数を出力周波数として計測する。電力システムS1では、複数の蓄電池システムB1の各周波数計測器23で計測される出力周波数は、同じ値となる。これは、電力システムS1内の電圧の周波数は、電力システムS1内の電力線のいずれにおいても、電力系統Kの系統電圧の周波数と同じ値となるからである。周波数計測器23は、計測結果(出力周波数の計測値)を、制御基板24に出力する。周波数計測器23には、例えば従来の蓄電池パワーコンディショナでのインバータ制御のために、既に設けられているものを利用してもよい。
【0025】
制御基板24は、対応する蓄電池システムB1の各制御を行う。制御基板24は、少なくとも1つ以上のIC(Integrated Circuit:集積回路)を含む。制御基板24は、
図2に示すように、周波数偏差算出部241、基準値設定部242、調整幅算出部243、目標値算出部244および制御部245を含む。周波数偏差算出部241、基準値設定部242、調整幅算出部243、目標値算出部244および制御部245は、例えば、先述の少なくとも1つ以上のICに記憶されたプログラムがそれぞれ実行されることで、各要素の機能を果たす。この例と異なり、周波数偏差算出部241、基準値設定部242、調整幅算出部243、目標値算出部244および制御部245の少なくとも1つは、アナログ回路で構成されていてもよい。
【0026】
周波数偏差算出部241には、周波数計測器23から出力周波数が入力される。周波数偏差算出部241は、基準周波数からの出力周波数の周波数偏差(例えば出力周波数-基準周波数)を算出する。基準周波数は、電力系統Kに規定される周波数であり、例えば東日本で50Hzであり、西日本で60Hzである。基準周波数は、周波数偏差算出部241に予め記憶されている。なお、先述の通り、各蓄電池システムB1で計測される出力周波数は同じ値となるので、複数の蓄電池システムB1の各周波数偏差算出部241で算出される周波数偏差は、同じ値となる。電力系統Kにおいて需要が供給を上回ると、電力系統Kにおける電力の周波数が低下する。このため、周波数計測器23から入力される出力周波数の値が基準周波数よりも小さくなるので、周波数偏差算出部241が算出する周波数偏差(出力周波数-基準周波数)は、負の値となる。反対に、電力系統Kにおいて需要が供給を下回ると、電力系統Kにおける電力の周波数が上昇する。このため、周波数計測器23から入力される出力周波数の値が基準周波数よりも大きくなるので、周波数偏差算出部241が算出する周波数偏差(出力周波数-基準周波数)は、正の値となる。周波数偏差算出部241は、算出した周波数偏差を、調整幅算出部243に出力する。
【0027】
基準値設定部242は、出力基準値を算出し、算出した出力基準値を設定する。出力基準値は、周波数偏差に応じた個別出力調整を行わない場合に想定される出力電力の値である。本実施形態では、需給調整市場Dと直前計測型の取引を行っており、基準値設定部242は、例えば、次のようにして出力基準値を算出する。それは、取引が成立した商品ブロック直前の5分間の出力電力の実績を1秒間隔で記録し、その平均値(あるいは当該平均値から算出される値)を出力基準値として算出する。あるいは、取引が成立した商品ブロックにおいて一次調整力の供出を開始する直前まで設定されていた出力目標値(つまり、一次調整力を供出する機能が動作する前の電力制御で用いていた出力目標値)を出力基準値として算出してもよい。なお、出力基準値の算出方法は、これらに限定されない。本実施形態では、各蓄電池システムB1の出力電力は、接続点X1で合成され、当該合成された出力電力は、接続点X2を介して、電力系統Kに出力される。よって、各蓄電池システムB1の出力基準値の合計が、電力システムS1の全体基準値に相当する。基準値設定部242は、設定した出力基準値を、目標値算出部244に出力する。
【0028】
調整幅算出部243は、周波数偏差を用いて出力基準値に対する調整幅を算出する。調整幅は、周波数偏差を低減させるために、蓄電池システムB1における出力電力量を調整するための値である。周波数偏差算出部241から入力される周波数偏差が負の値である時(つまり、電力系統Kにおいて需要が供給を上回り、電力系統Kにおける電力の周波数が低下した時)、蓄電池システムB1の出力電力を大きくするために、例えば正の値の調整幅を算出する。反対に、周波数偏差算出部241から入力される周波数偏差が正の値である時(つまり、電力系統Kにおいて需要が供給を下回り、電力系統Kにおける電力の周波数が上昇した時)、蓄電池システムB1の出力電力を小さくするために、例えば負の値の調整幅を算出する。また、周波数偏差算出部241から入力される周波数偏差が0(ゼロ)である時(つまり、電力系統Kにおいて需要と供給とが一致している時)、蓄電池システムB1の出力電力を現状維持とするために、例えば、調整幅は0(ゼロ)となる。本実施形態では、調整幅算出部243は、周波数偏差に加え、所定の設定項目を用いて、調整幅を算出する。所定の設定項目には、調定率、基準周波数、インバータ22の定格出力および基準周波数などが含まれる。これらの設定項目は、調整幅算出部243に予め記憶されていてもよいし、必要に応じて他の構成部から取得してもよい。調整幅算出部243は、例えば下記(1)式の演算を行うことで、調整幅を算出する。下記(1)式において、P
ctl_tは調整幅であり、dFは周波数偏差であり(好ましくは上限制約済みの周波数偏差)、Pcはインバータ22の定格出力であり、F
refは基準周波数であり、Rは調定率である。このように、先述の設定項目を考慮することで、より高精度に調整幅を算出することができる。なお、設定項目は、上記した例に限定されない。また、調整幅算出部243が行う演算は、下記(1)式に限定されない。調整幅算出部243は、算出した調整幅を、目標値算出部244に出力する。
【数1】
【0029】
目標値算出部244には、調整幅算出部243が算出した調整幅が入力される。目標値算出部244は、設定された出力基準値を、入力された調整幅により補正して、出力目標値を算出する。当該出力目標値は、インバータ22の出力電力(対応する蓄電池システムB1の出力電力)の目標値である。本実施形態では、調整幅算出部243から入力される調整幅が正の値である時(つまり、電力系統Kにおいて需要が供給を上回り、電力系統Kにおける電力の周波数が低下した時)、蓄電池システムB1の出力電力を大きくするために、算出される出力目標値は、出力基準値よりも大きくなる。反対に、調整幅算出部243から入力される調整幅が負の値である時(つまり、電力系統Kにおいて需要が供給を下回り、電力系統Kにおける電力の周波数が上昇した時)、蓄電池システムB1の出力電力を小さくするために、算出される出力目標値は、出力基準値よりも小さくなる。調整幅算出部243から入力される調整幅が0(ゼロ)である時(つまり、電力系統Kにおいて需要と供給とが一致している時)、蓄電池システムB1の出力電力を現状維持とするために、算出される出力目標値は、出力基準値と一致する。なお、目標値算出部244は、取引が成立した商品ブロック以外の時間帯に対しては、上記所定のアルゴリズムにより出力目標値を算出する。目標値算出部244は、算出した出力目標値を制御部245に出力する。
【0030】
制御部245は、インバータ22の制御を行う。制御部245は、インバータ22の出力電力を、入力された出力目標値に制御する。先述の通り、電力系統Kにおいて需要が供給を上回っている時には、入力される出力目標値が出力基準値よりも大きくなるので、制御部245は、インバータ22からの出力電力を上昇させて、電力系統Kの電力供給量を大きくする。これにより、電力系統Kでの供給が需要に一致するように上昇するので、電力系統Kにおける出力電力の周波数の低下が抑制される。反対に、電力系統Kにおいて需要が供給を下回っている時には、入力される出力目標値が出力基準値よりも小さくなるので、制御部245は、インバータ22からの出力電力を低下させて、電力系統Kの電力供給量を小さくする。これにより、電力系統Kでの供給が需要に一致するように低下するので、電力系統Kにおける出力電力の周波数の上昇が抑制される。つまり、電力系統Kにおいて需給バランスが調整され、周波数偏差が抑制される。なお、制御部245は、例えば入力される出力目標値が正の値である時、インバータ22に、蓄電池21を放電させる。反対に、入力される出力目標値が負の値である時、インバータ22に、蓄電池21を充電させる。
【0031】
以上のように構成された電力システムS1では、各蓄電池システムB1において、次の処理が行われる。それは、周波数計測器23が出力電圧の出力周波数を計測し、周波数偏差算出部241が当該出力周波数と基準周波数との偏差(周波数偏差)を算出する。また、調整幅算出部243は、基準値設定部242が設定した出力基準値に対して、周波数偏差が低減するように調整幅を算出して、目標値算出部244は、設定された出力基準値を調整幅により補正してインバータ22の出力目標値を算出する。そして、制御部245は、インバータ22の出力値(出力電力の値)を、出力目標値に制御する。このように、電力システムS1では、各蓄電池システムB1において、周波数偏差が算出され、当該周波数偏差に応じた個別出力調整が行われる。つまり、各蓄電池システムB1は、分散的に周波数偏差に応動して、個別出力調整を行う。これにより、電力システムS1では、接続点X2でのシステム電力が調整され、電力系統Kに一次調整力を供出する。従って、電力システムS1は、集中型の制御に依存することなく、自端(電力系統Kとの接続点X2)での周波数変動に応動して、一次調整力を供出することができる。
【0032】
また、電力システムS1では、各蓄電池システムB1は、インバータ22の制御において、以前から周波数計測器23を備えていた。この周波数計測器23の計測精度は、需給調整市場Dとの取引を行う上での電力システムS1に課せられる要件(例えば周波数計測間隔および周波数計測誤差など)を満たす。従って、電力システムS1では、各蓄電池システムB1は、制御基板24におけるプログラム等を変更するだけでよく、以前の蓄電池システムからの変更箇所を少なくできる。
【0033】
また、電力システムS1では、取引システムA1は、電力計測器11と、報告装置12とを備える。この構成によれば、電力制御に関する処理を各蓄電池システムB1が行うので、取引システムA1は、需給調整市場Dとの取引および実績報告のみを行うことができる。つまり、電力システムS1では、システム電力の出力実績を報告する処理と、一次調整力を供出する処理(接続点X2での電力を調整する処理)と分けて実施できる。
【0034】
図3は、第2実施形態に係る電力システムS2の全体構成例を示している。電力システムS2は、電力システムS1と比較して、上位システムC1をさらに備える点で異なる。
【0035】
上位システムC1は、取引システムA1および複数の蓄電池システムB1とそれぞれ通信可能である。
図3に示すように、上位システムC1は、個別基準値算出部31と送信部32とを備える。
【0036】
個別基準値算出部31は、複数の蓄電池システムB1の各々に対する個別基準値を算出する。個別基準値は、各蓄電池システムB1の出力基準値に相当する。電力システムS2が直前計測型の取引である場合、個別基準値算出部31は、次のように各蓄電池システムB1の個別基準値を算出する。まず、個別基準値算出部31は、接続点X2でのシステム電力の値(接続点X2での電力値)に基づいて、全体基準値を設定する。接続点X2でのシステム電力の値は、取引システムA1の電力計測器11が計測した値(実測値)であってもよいし、各蓄電池システムB1の出力電力から推算(例えば総和で算出)される値(推算値)であってもよい。実測値の場合、個別基準値算出部31は、取引システムA1(電力計測器11)からシステム電力の計測値を取得する。推算値の場合、個別基準値算出部31は、各蓄電池システムB1から出力電力の値を取得する。そして、設定した全体基準値を、各蓄電池システムB1の状態に応じて各蓄電池システムB1に分配し、当該分配した値を各個別基準値として算出する。各蓄電池システムB1の状態とは、インバータ22の定格出力、蓄電池21の最大容量および蓄電池21のSoC(State of Charge)などである。例えば、インバータ22の定格出力の大きさに比例して、蓄電池システムB1の個別基準値を大きくする。あるいは、個別基準値算出部31は、次のように各蓄電池システムB1の個別基準値を算出してもよい。それは、個別基準値算出部31は、各蓄電池システムB1から出力電力の実測値を取得し、当該出力電力の実測値を、対応する蓄電池システムB1の個別基準値として算出してもよい。この際、上記した各蓄電池システムB1の状態に応じて、個別基準値を調整してもよい。
【0037】
電力システムS2においては、直前計測型の取引の代わりに、事前予測型の取引を行うことも可能である。事前予測型の取引では、取引する上記商品ブロック(今後の商品ブロック)に対して、供出可能な調整力(一次調整力)の予測値を全体基準値として設定する。事前予測型では、この設定した全体基準値に基づく事前予測型基準値計画を、事前に需給調整市場Dに登録することで、一般送配電事業者と取引を行う。なお、供出可能な調整力の予測値は、過去のシステム電力の計測値に基づいて算出してもよいし、各蓄電池システムB1の出力電力の実測値に基づいて算出してもよい。電力システムS2がこのような事前予測型の取引である場合、個別基準値算出部31は、取引が成立した商品ブロックでの全体基準値を、各蓄電池システムB1の状態に応じて各蓄電池システムB1に分配し、当該分配した値を複数の蓄電池システムB1の個別基準値としてそれぞれ算出する。
【0038】
送信部32は、個別基準値算出部31が算出した各個別基準値を、複数の蓄電池システムB1のうちの対応する1つに送信する。送信部32による送信(通信)は、無線であってもよいし有線であってもよい。
【0039】
本実施形態の各蓄電池システムB1では、制御基板24(基準値設定部242)は、上位システムC1の送信部32から送信された個別基準値を受信する。そして、基準値設定部242は、受信した個別基準値を、自装置の出力基準値に設定する。つまり、本実施形態の基準値設定部242は、出力基準値を算出しない。その他の処理(出力周波数の計測、周波数偏差の算出、調整幅の算出、出力目標値の算出など)は、電力システムS1と同様である。
【0040】
以上のように構成された電力システムS2では、電力システムS1と同様に、各蓄電池システムB1は、自装置の出力電圧の周波数を計測して、周波数偏差を算出する。そして、当該周波数偏差に応じた個別出力調整を行うので、各蓄電池システムB1は、分散的に周波数偏差に応動して、個別出力調整を行う。これにより、電力システムS2においても、接続点X2でのシステム電力が調整され、電力系統Kに一次調整力を供出する。従って、電力システムS2は、電力システムS1と同様に、集中型の制御に依存することなく、自端(電力系統Kとの接続点X2)での周波数変動に応動して、一次調整力の供出を実施することができる。なお、電力システムS2において、上位システムC1は、出力基準値(個別基準値)を算出するだけであり、個別出力調整は、各蓄電池システムB1で行われる。そのため、上位システムC1に、SCADA等の高価な制御機器を用いなくてもよい。
【0041】
また、電力システムS2では、各蓄電池システムB1に設定される出力基準値は、上位システムC1によって算出される。この構成によれば、各蓄電池システムB1の演算負荷を低減させることができる。また、この構成によれば、先述の各蓄電池システムB1の状態に応じて、全体基準値を任意に割り振ることができるので、各蓄電池システムB1で個別基準値をそれぞれ調整することができる。例えば、電力システムS2では、一部の蓄電池システムB1では、充電優先となるように個別基準値を算出し、一部の蓄電池システムB1では、放電優先となるように個別基準値を算出することができる。従って、電力システムS2では、より柔軟な電力制御を行うことが可能である。
【0042】
図4は、第3実施形態に係る電力システムS3の全体構成例を示している。電力システムS3は、電力システムS2と比較して、負荷Lをさらに備える点で異なる。
【0043】
負荷Lは、接続点X1に接続される。負荷Lは、電力系統Kあるいは複数の蓄電池システムB1から供給される電力を消費する。本実施形態では、接続点X2でのシステム電力の値(接続点X2での電力値)は、複数の蓄電池システムB1の出力電力の総和から負荷Lの消費電力を減算した値となる。
【0044】
以上のように構成された電力システムS3では、電力システムS2(S1)と同様に、各蓄電池システムB1は、自装置の出力電圧の周波数を計測して、周波数偏差を算出する。そして、各蓄電池システムB1は、当該周波数偏差に応動して個別出力調整を分散的に行う。これにより、電力システムS3においても、接続点X2でのシステム電力が調整され、電力系統Kに一次調整力を供出する。従って、電力システムS3は、電力システムS2(S1)と同様に、集中型の制御に依存することなく、自端(電力系統Kとの接続点X2)での周波数変動に応動して、一次調整力の供出を実施することができる。
【0045】
また、電力システムS3は、負荷Lを備える。この構成によれば、個別基準値算出部31は、負荷Lの消費電力を全体基準値に反映させることができる。従って、電力システムS3は、電力需要家(負荷Lを有する需要家)が備える蓄電池システムB1においても、一次調整力の供出が可能となる。
【0046】
本開示に係る電力システムは、上記した実施形態に限定されるものではない。本開示の電力システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0047】
S1,S2,S3:電力システム、A1:取引システム、B1:蓄電池システム、C1:上位システム、D:需給調整市場、K:電力系統、L:負荷、X1,X2:接続点、11:電力計測器、12:報告装置、21:蓄電池、22:インバータ、23:周波数計測器、241:周波数偏差算出部、242:基準値設定部、243:調整幅算出部、244:目標値算出部、245:制御部、31:個別基準値算出部、32:送信部