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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008219
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】衝突検知方法及び衝突検知システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20250109BHJP
【FI】
H02P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110187
(22)【出願日】2023-07-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000138473
【氏名又は名称】株式会社ユーシン精機
(74)【代理人】
【識別番号】110004059
【氏名又は名称】弁理士法人西浦特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 匠梧
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇世
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA22
5H501BB08
5H501GG01
5H501GG03
5H501GG05
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501KK05
5H501LL01
5H501LL32
5H501LL35
5H501LL51
5H501LL60
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】電気フィルタやタイマを用いることなく、ノイズや加減速の影響を実質的に無くして、しかも「不測の衝突」を従来よりも早く検知できる衝突検知方法及びシステムを提供する。
【解決手段】衝突が発生した直後の所定期間内にモータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータQと第1のパラメータとは異なるがトルクと相関関係を持つ第2のパラメータXを、予め定めた乗算式P=Q×Xに入力して得た演算値Pを予め定めた閾値Th0と比較する。演算値Pが閾値Th0を超えると、不測の衝突が発生したと判定する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として位置を変更する支持部に支持された可動部を備えた機械装置において、前記可動部が被衝突物と不測の衝突をしたことを検知する衝突検知方法であって、
前記衝突が発生した直後の所定期間内において、前記モータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータと該第1のパラメータとは異なるが前記トルクと相関関係を持つ第2のパラメータを、予め定めた乗算式に入力して得た演算値を予め定めた閾値と比較し、
前記演算値が前記閾値を超えると、前記不測の衝突が発生したと判定することを特徴とする衝突検知方法。
【請求項2】
前記第1のパラメータ及び前記第2のパラメータのうち1以下の値になるパラメータは、パラメータ値を逆数にして前記乗算式に入力することにより前記演算値を求める請求項1に機作の衝突検知方法。
【請求項3】
前記第1のパラメータは、前記モータの駆動部にフィードバックされるトルクに関するパラメータであり、前記第2のパラメータは前記モータの駆動部に与えられた位置指令値と前記可動部の位置を検出して得た検出位置との位置偏差である請求項1に記載の衝突検知方法。
【請求項4】
前記機械装置は、成形品取出機であり、前記可動部は前記成形品取出機の取出ヘッドであり、且つ前記支持部は前記取出ヘッドを支持する支持アームであり、
前記閾値は、前記成形品取出機において、前記取出ヘッドにより成形品を取り出すための動作工程を設定するティーチング作業で許容される衝突により得られる前記演算値よりも大きな値である請求項1に記載の可動部の衝突検知方法。
【請求項5】
前記演算値をPとし、前記第1のパラメータをQとし、前記第2のパラメータをXとしたときに、前記乗算式はP=Q×Xである請求項4に記載の衝突検知方法。
【請求項6】
モータを駆動源として位置を変更する支持部に支持された可動部を備えた機械装置において、前記可動部が被衝突物と衝突したことを検知する衝突検知システムであって、
前記衝突が発生した直後の所定期間内に前記モータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータを取得する第1のパラメータ取得部と、
前記衝突が発生した直後の所定期間内に前記トルクと相関関係を持ち且つ前記第1のパラメータとは異なる第2のパラメータを取得する第2のパラメータ取得部と、
前記第1のパラメータと前記第2のパラメータを予め定めた乗算式に入力して演算値を得る演算部と、
前記演算値を予め定めた閾値と比較し、前記演算値が前記閾値を超えると、不測の衝突が発生したと判定する判定部とを備えたことを特徴とする衝突検知システム。
【請求項7】
前記機械装置は、成形品取出機であり、前記可動部は前記成形品取出機の取出ヘッドであり、且つ前記支持部は前記取出ヘッドを支持する支持アームであり、
前記閾値は、前記取出ヘッドにより成形品を取り出すための動作工程を設定するティーチング作業で許容される衝突により得られる前記演算値よりも大きな値である請求項6に記載の可動部の衝突検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動源として位置を変更する支持部に支持された可動部を備えた機械装置において、可動部が被衝突物と不測の衝突をしたことを検知する衝突検知方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットのアーム等が周辺機材等の障害物に意図せずに衝突をする(不測の衝突をする)と、周辺機材やロボットを損傷してしまうことが考えられる。そこで、従来、ロボットと障害物との衝突を早期に検出して、衝突が生じた場合にはロボットを自動停止させる技術が提案されている。
【0003】
例えば、特開平1-230107号公報(特許文献1)には、サーボモータへ出力されるトルク指令値をロボットの動作状態を示すパラメータとして、このトルク指令値を所定周期で検出し、前周期で検出されたトルク指令値と今周期で検出されたトルク指令値の差が所定値以上となったときに、被駆動体に衝突したと判定して、サーボモータの回転を停止させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-230107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ロボットの動作状態の変化を算出するパラメータを検出するセンサや、サーボアンプでは、電気ノイズが発生するために、動作状態量が大きく変化する。また、ギアの噛みこみなどによって発生する機械的な特性(機械的ノイズ特性)や、ロボットの急な加減速(手動操作時のインチング初動等)により、動作状態量が大きく変化することもある。したがって、従来の技術では、動作状態量に対する所定値(閾値)を低く設定することにより、衝突の検知を早めようとすると、上記の動作状態の変化まで「不測の衝突」として誤検知し、ロボットを非常停止してしまう。ロボットの種類によっては、軽微な衝突であっても性能劣化や事故の原因となる場合がありうるため、ロボットが非常停止した場合には、その都度点検等の対策を施す必要があり、生産計画を乱してしまうことがある。
【0006】
これを避けるためには、ノイズを考慮し、所定値(閾値)を高く設定することが考えられるが、その結果、不測の衝突の検知は遅れることになる。
【0007】
また、ノイズや急な加減速の影響を除去するために、電気フィルタやタイマを用いることも考えられるが、これらを用いると時間遅れが発生し、これも不測の衝突の検知の遅れを生じさせる原因となる。
【0008】
本発明の目的は、電気フィルタやタイマを用いることなく、ノイズや加減速の影響を実質的に無くして、しかも「不測の衝突」を従来よりも早く検知できる衝突検知方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、モータを駆動源として位置を変更する支持部に支持された可動部を備えた機械装置において、可動部が被衝突物と不測の衝突をしたことを検知する衝突検知方法である。本発明の衝突検知方法では、衝突が発生した直後の所定期間内において、モータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータと該第1のパラメータとは異なるがトルクと相関関係を持つ第2のパラメータを、予め定めた乗算式に入力して得た演算値を予め定めた閾値と比較し、演算値が閾値を超えると、不測の衝突が発生したと判定する。
【0010】
第1のパラメータと第2のパラメータは、それぞれ衝突が発生した直後の所定期間内において、トルクと相関関係を有するパラメータである。ここで「直後の所定期間」とは、第1のパラメータ及び第2のパラメータがトルクと相関関係を有する期間内の期間である。パラメータによっては、衝突が発生し直後の所定期間を経過した後に、トルクと相関関係がなくなるものもあるし、トルクと相関関係を有し続けるものもある。
【0011】
衝突が発生した直後の所定期間内におけるこれら第1のパラメータと第2のパラメータは、パラメータの時間の経過に対する値の変化の増減傾向が似ている。これに対して、第1のパラメータ及び第2のパラメータに含まれるノイズ成分は、衝突の前でも、後でも、トルクに対して相関関係がないだけでなく、時間の経過に対する変化の増減の傾向にも近似性がない。従って衝突後におけるトルクと相関関係がある上に、変化の増減傾向が似ている衝突が発生した以降すぐの期間(直後の所定期間)内の第1のパラメータと第2のパラメータを、予め定めた乗算式に入力して得た演算値は、乗算によって大幅に増大された値となる。これに対してトルクと相関関係が無く、相互に相関関係がなく、且つ変化の増減傾向に近似性のないノイズは、乗算されても演算値が著しく大きくなることはない。したがって本発明によれば、1つのパラメータと閾値を比較する従来の技術と比べると、ノイズの存在による誤検知を防止できる。その上、第1及び第2のパラメータを乗算式に入力して得た大きい演算値と、予め定めた閾値とを比較することにより、予測範囲の衝突(動作工程のなかで当然にして発生する衝突)と区別して、不測の衝突が発生したことを早期に判定することができる。
【0012】
第1のパラメータ及び第2のパラメータのうち1以下の値になるパラメータは、パラメータ値を逆数にして乗算式に入力することにより演算値を求める。これは1以下の値を乗算すると値が大きくならず、小さくなるためである。
【0013】
第1のパラメータは、モータの駆動部にフィードバックされるトルクに関するパラメータであり、第2のパラメータはモータの駆動部に与えられた位置指令値と可動部の位置を検出して得た検出位置との位置偏差である。衝突直後の所定期間内のこれら2つのパラメータの変化の傾向は、概ね近似しているので、1つのパラメータと比べて演算値は大きくなる。なおパラメータには、トルクそのものも含まれるのは勿論である。
【0014】
本発明の方法は、各種の機械装置に適用できるが、機械装置が、成形品取出機であり、可動部が成形品取出機の取出ヘッドであり、且つ支持部が取出ヘッドを支持する支持アームであってもよい。この場合、閾値としては、成形品取出機において、取出ヘッドにより成形品を取り出すための動作工程を設定するティーチング作業で許容される衝突(予測範囲の衝突)により得られる演算値よりも大きな値を設定すればよい。このようにすればティーチング作業で発生する必要な衝突(予測範囲の衝突)を、取出ヘッドや型などに損傷を与える不測の衝突として、検知することはない。
【0015】
演算値をPとし、第1のパラメータをQとし、第2のパラメータをXとしたときに、乗算式はP=Q×Xを用いることができる。この乗算式は最もシンプルな式であり、演算が容易である。
【0016】
本発明の方法を実施する衝突検知システムは、モータを駆動源として位置を変更する支持部に支持された可動部を備えた機械装置において、可動部が被衝突物と衝突したことを検知するために、第1のパラメータ取得部と、第2のパラメータ取得部と、演算部と、判定部とを備える。第1のパラメータ取得部は、衝突が発生した直後の所定期間内のモータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータを取得する。第2のパラメータ取得部は、該第1のパラメータとは異なるが衝突が発生した直後の所定期間のトルクと相関関係を第2のパラメータを取得する。演算部は、予め定めた乗算式第1及び第2のパラメータを入力して得た演算値を演算する。判定部は、演算値を予め定めた閾値と比較し、演算値が閾値を超えると、不測の衝突が発生したと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の衝突検知方法を実施する衝突検知システムを、取出ヘッドの衝突検知に適用した機械装置としての成形品取出機の概略構成を示すブロック図である。
図2】上下フレームを駆動する1台のモータに対するフィードバック制御部内のフィードバックループの一例を示す図である。
図3】成形品取出機において、ティーチング作業を開始した後に不測の衝突が発生したときの第1のパラメータとしてのトルク指令値(Q)と、モータ検出速度Vと、第2のパラメータとしての位置偏差(X)の時間の経過に対する変化の状態の一例を示す図である。
図4図3に示されたトルク指令値と位置偏差Xの波形の変化における相関関係を見るための相関図である。
図5】P=Q×Xと第1のパラメータQの時間の経過に対する変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0019】
[衝突検知システムの構成]
図1は、本発明の衝突検知方法を実施する衝突検知システムを、取出ヘッド3の衝突検知に適用した機械装置としての成形品取出機1の概略構成を示すブロック図である。成形品取出機においては、上下フレーム5に装着された取出ヘッド3により成形品を取り出すための動作工程を設定するティーチング作業でしばしば予測しない「不測の衝突」が発生することがある。「不測の衝突」とは、ティーチング作業の際等に、操作を誤って取出ヘッド3を金型や金型の周囲の物品に接触させた場合の衝突であり、取出動作時に当然にして発生する僅かな衝突や押し付けは含まない。
【0020】
本実施の形態では、搬送機構7の駆動源としてエンコーダ10付きの複数のサーボモータ9が用いられている。複数のサーボモータ9の制御をする制御装置11内には、エンコーダ10が検出する位置情報及び速度情報と位置指令及び速度指令との偏差を求めて、この偏差により駆動部としてのサーボモータ9の駆動軸の位置及び速度のフィードバック制御を行うためのフィードバック制御部13が複数のサーボモータ9に対して設けられている。フィードバック制御部13は、いわゆるサーボアンプとしての機能を果たす。
【0021】
制御装置11は、サーボ系のフィードバック制御部13を入力部24により手動操作する際の手動指令を発生する手動指令発生部14と、ティーチング作業において手動指令発生部14から出力された指令により得たティーチングデータを記憶するティーチングデータ取得部15と、衝突検知システム16を備えている。また本実施の形態の成形品取出機は、入力部24からの手動操作でサーボモータ9に動作指令を与えてティーチング作業を行って、ティーチングデータ取得部15にティーチングデータを記録させる。なお入力部24は、衝突発生後の退避動作を実施する際にも退避動作指令を発生するために操作される。また本実施の形態では、衝突検知システム16が衝突を検知したときにアラーム信号を発生する信号発生手段25を備えている。
【0022】
衝突検知システム16は、取出ヘッド3(可動部)が被衝突物(例えば金型等)と衝突したことを検知するために、第1のパラメータ取得部17と、第2のパラメータ取得部19と、演算部21と、判定部23とを備えている。衝突検知システム16は、取出ヘッド3が装着された上下フレーム5を駆動するためのサーボモータに対応して設けられている。なお衝突検知システム16を構成する構成要素については、後に説明する。
【0023】
図2は、上下フレーム5を駆動する1台のモータに対するフィードバック制御部13内のフィードバックループの一例を示している。このフィードバックループは位置制御フィードバックループと速度制御フィードバックループの二重ループ処理を実行する。この二重ループ処理では、モータ位置指令とエンコーダ部14から検出されたエンコーダ10から出力されたモータ検出位置との間の偏差を位置偏差として求め、この位置偏差に基づいて位置制御部13Aが速度指令を生成する。さらに、この速度指令とエンコーダ部10からのモータ検出位置に基づいてモータ検出速度を出力速度検出部13Eが出力するモータ検出速度との間の偏差を速度偏差として求め、この速度偏差に基づいて速度制御部13Bがモータトルク指令を生成する。なおモータ検出速度は、モータ検出位置を出力速度検出部13Eにおいて微分演算子により1階時間微分して算出すればよい。そして、電流制御部13Cを経由したモータトルク指令に基づいてPWM制御部13Dが駆動電力を給電することによりモータ9を駆動する。
【0024】
衝突検知システム16内に構成される第1のパラメータ取得部17は、衝突が発生した直後の所定期間内にモータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータを取得する。本実施例では、図2のフィードバックループ中の速度制御部13Bから出力されるトルク指令が、フィードバックされたモータ検出速度のフィードバック情報を含んで生成されている。そこで第1のパラメータ取得部17は、このトルク指令を衝突が発生した直後の所定期間内において、モータのトルクと相関関係を持つ第1のパラメータとして取得する。なお第1のパラメータ取得部17は、相関関係の発生の有無に拘わらず第1のパラメータとしてのトルク指令を常時取得していてもよいのは勿論である。
【0025】
また衝突検知システム16内に構成される第2のパラメータ取得部19は、衝突が発生した直後の所定期間内において、第1のパラメータとは異なるが、トルクと相関関係を持つ第2のパラメータを取得する。本実施の形態の第2のパラメータ取得部19では、モータの駆動部である位置制御部13Aに与えられる位置指令値とフィードバックされるモータ検出位置(取出ヘッド3の検出位置に相当)との偏差を第2のパラメータとして取得する。なおこの偏差は、衝突が発生した直後の所定期間内においては、トルクと相関関係を持つものの、この期間を経過すると、トルクと相関関係を持たなくなる。なお第2のパラメータ取得部19が、相関関係の発生の有無に拘わらず第2のパラメータとしての偏差を常時取得していてもよいのは勿論である。
【0026】
さらに演算部21は、予め定めた乗算式に第1のパラメータと第2のパラメータを入力して演算値を演算する。ここで予め定めた乗算式は、第1のパラメータと第2のパラメータが演算式に含まれる式である。そして判定部23は、演算部21で演算した演算値Pを予め定めた閾値と比較し、演算値が閾値を超えると、「不測の衝突」が発生したと判定する。
【0027】
ここで、演算部21では、典型的な例としては、演算値をPとし、第1のパラメータをQとし、第2のパラメータをXとしたときに、乗算式としてP=Q×Xを用いて演算値を得ることができる。この乗算式は、最もシンプルであり、演算が容易である。
【0028】
[不測の衝突検知方法]
図3は、成形品取出機において、ティーチング作業を開始した後に不測の衝突が発生したときの第1のパラメータとしてのトルク指令値(Q)と、モータ検出速度Vと、第2のパラメータとしての位置偏差(X)の時間の経過に対する変化の状態の一例を示す図である。トルク指令値(Q)は、図2に示すフィードバックループ中の「トルク指令」である。
【0029】
図3において、「定常状態」とは、成形品取出機において、取出ヘッドが何とも衝突せずに移動している状態である。そして「押しつけ状態」とは、取出ヘッドが何らかの物体に衝突後、押し付けられた状態が継続している状態である。また図3において、tpで示す期間が、衝突が発生した直後にモータのトルクと相関関係を持つ第1及び第2のパラメータを取得できる期間即ち、前述の「衝突が発生した直後の所定期間」である。なお図3においては、この期間tpの経過後に第2のパラメータである位置偏差(X)は、トルクと相関関係を持たない状態になっているが、原因は定かではない。
【0030】
図3の波形においても、トルク指令値(Q)にはノイズnが現れている。このノイズnは機器の設計仕様や周辺環境によって偶発的に発生するため、予測が困難である。そのため、従来の技術のように、トルクと閾値との対比だけで衝突を検知しようとすると、設計段階でトルクの波形を取得して衝突検知の閾値を設定することになる。その閾値は、偶発的に発生するノイズnを勘案して、ノイズnを衝突と誤検知しないように、押しつけ発生前のトルク指令波形のピーク値Tpの数倍(例えば2倍)に設定することが多い。しかし、このように設定すると、今度は衝突検知の感度を下げることになって、押し込み過ぎを含む不測の衝突の検知が遅れることになる。その結果、成形品取出機のアームへのダメージが増える懸念がある。
【0031】
なお、位置偏差(X)で衝突を検知する方法も考えられる。しかしながら、図3のように加速動作し始めの位置偏差が大きい場合には、これを誤検知しないように閾値を初期の位置偏差Dpの数倍に設定することになるので、トルク指令値と閾値で検知するよりもかえって不測の衝突の検出が遅れる恐れがある。
【0032】
図4の下側の図は、図3に示されたトルク指令値と位置偏差Xの波形の変化における相関関係を見るための相関図である。図4の下側の相関図に示すように、定常状態においては、トルク指令値(Q)と偏差(X)の変化の間には、相関らしきものは見えない。しかしながら、衝突が発生した以降の押しつけ状態においては、位置偏差Xとトルク指令値Qの変化は明確に正の相関を持つことがわかる。
【0033】
第1のパラメータであるトルク指令値Qと第2のパラメータである位置偏差Xは、ともに衝突が発生した直後の所定期間内においてトルクと相関関係を有するものであり、これらのパラメータの時間の経過に対する値の変化の増減傾向は似ている。この相関関係の発生から、押しつけが発生した直後の所定期間内においては、これら第1のパラメータQと第2のパラメータXの積P=Q×Xは大幅に増加し、衝突発生後の積Pの波形は短い時間で急激に変化する波形となる。
【0034】
図5は積P=Q×Xと第1のパラメータQの時間の経過に対する変化を示している。図5から判るように、ノイズnはトルクと相関関係が無く、しかも変化の増減傾向に近似性がないので、第1のパラメータQと第2のパラメータXが乗算されても演算中のノイズの値が著しく大きくなることはない。そのため、本実施の形態によれば、1つのパラメータと閾値を比較する従来の技術と比べると、ノイズの存在による誤検知の発生を防止できる。
【0035】
本実施の形態では、第1のパラメータであるトルク指令値Qと第2のパラメータである位置偏差Xの積Pと比較する閾値Th0として、成形品取出機において、取出ヘッド3により成形品を取り出すための動作工程を設定するティーチング作業で許容される衝突により得られる演算値よりも大きな値を、予め定めた閾値Th0として定める。前述の通り、「不測の衝突」とはティーチング作業の際等に、操作を誤って取出ヘッドを金型や金型の周囲の物品に取出ヘッドが当たった場合の衝突である。図5においては、(1)の時点で閾値Th0を越えて積Pが増大しているので、不測の衝突が発生していると判断する。
【0036】
なお図5に示すように、従来の方法でトルク指令値Qと閾値(Tp)とを比較すると、ノイズnを誤検知することになるため、従来の方法では閾値を大きくすることになる。すなわち閾値を2倍の2Tpにすると(2)の時点で、トルク指令値Qが閾値を超えることになって、本実施の形態の検出時点(1)と比べて、不測の衝突の検知時期が遅くなる。このことから本実施の形態によれば、検出感度を上げることができて、しかも閾値の設定範囲が広くできることが判る。
【0037】
上記のように、本実施の形態では、第1のパラメータであるトルク指令値Qと位置偏差Xの積が、定常状態及び衝突から始まる通常の押しつけ状態と異なる変動態様を取ることを利用している。この考え方は、トルク指令値及び位置偏差だけでなく、衝突発生後においてトルクと相関関係を持つ2つのパラメータを乗算式で乗算した場合にも同じように適用可能である。
【0038】
上記実施の形態の成形品取出機以外の機械装置においても、本発明の方法を適用することができる。その場合に用いる「予め定めた閾値」は、衝突ではく、その機械装置のノイズや加減速時に得られる演算値Pを超える値である。これは、機械装置毎に異なるので、「予め定めた閾値」は機械装置毎に定めればよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、衝突が発生した直後の所定期間内にモータのトルクと相関関係を持つ第1及び第2のパラメータを乗算式に入力して得た演算値と、予め定めた閾値と比較することにより、不測の衝突が発生したことを早期に判定することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 成形品取出機
3 取出ヘッド
5 上下フレーム
7 搬送機構
9 サーボモータ
10 エンコーダ
11 制御装置
13 フィードバック制御部
14 手動指令発生部
15 ティーチングデータ取得部
16 衝突検知システム
17 第1のパラメータ取得部
19 第2のパラメータ取得部
21 演算部
23 判定部
図1
図2
図3
図4
図5