(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008228
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 13/52 20060101AFI20250109BHJP
F16D 43/21 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16D13/52 C
F16D43/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110206
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑樹
【テーマコード(参考)】
3J056
3J068
【Fターム(参考)】
3J056AA60
3J056BA04
3J056BB02
3J056BB07
3J056BB16
3J056BB26
3J056BB44
3J056CC32
3J056CC39
3J056GA02
3J056GA13
3J068AA02
3J068BA02
3J068BB06
3J068CB03
3J068CB05
3J068EE12
3J068GA02
3J068GA11
(57)【要約】
【課題】アシストカム面の作用により発生する押圧力を効果的に減衰すること。
【解決手段】クラッチ装置10は、クラッチセンタ40と、クラッチセンタ40に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられたプレッシャプレート70と、クラッチセンタ40に保持された皿ばね120と、を備え、皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された出力側回転板22と接触可能に設けられ、かつ、クラッチセンタ40に保持された方向Dに隣り合う出力側回転板22の間に配置され、かつ、クラッチセンタ40に保持された複数の出力側回転板22のうち最も第1の方向D1に位置する第1出力側回転板22Aから最も第2の方向D2に位置する第2出力側回転板22Bまでの方向Dの中央CLよりも第2の方向D2に位置する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、
前記クラッチセンタに保持された皿ばねと、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、
前記皿ばねは、前記クラッチセンタに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられ、かつ、前記クラッチセンタに保持された前記移動方向に隣り合う前記出力側回転板の間に配置され、かつ、前記クラッチセンタに保持された複数の前記出力側回転板のうち最も前記第1の方向に位置する第1出力側回転板から最も前記第2の方向に位置する第2出力側回転板までの前記移動方向の中央よりも前記第2の方向に位置する、クラッチ装置。
【請求項2】
前記皿ばねは、前記クラッチセンタに保持された複数の前記出力側回転板のうち前記第2出力側回転板よりも前記第1の方向に位置しかつ前記第2出力側回転板と隣り合う第3出力側回転板と、前記第2出力側回転板との間に位置する、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記クラッチセンタは、
前記出力軸が連結される出力軸保持部と、
前記出力軸保持部よりも径方向外側に位置する外周壁と、
前記外周壁の外周面から径方向外側に突出するように形成された周方向に並ぶ複数のセンタ側嵌合歯と、
隣り合う前記センタ側嵌合歯の間に形成された複数のスプライン溝と、を備え、
前記皿ばねおよび前記出力側回転板は、前記センタ側嵌合歯に保持されている、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板の少なくとも一部を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、
前記プレッシャプレートに保持された皿ばねと、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向としたとき、
前記皿ばねは、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と前記移動方向に並び、かつ、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられている、クラッチ装置。
【請求項5】
前記プレッシャプレートは、
本体と、
前記本体の外周縁から径方向外側に延びるフランジと、を備え、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、
前記皿ばねは、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板のうち最も前記第2の方向に位置する最外方出力側回転板と、前記フランジとの間に位置する、請求項4に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記プレッシャプレートは、周方向に並ぶ複数のプレッシャ側嵌合歯を備え、
前記皿ばねおよび前記出力側回転板は、前記プレッシャ側嵌合歯に保持されている、請求項4または5に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記クラッチセンタは、前記出力側回転板の一部を保持し、
前記プレッシャプレートは、前記出力側回転板の他の一部を保持する、請求項4または5に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両は、エンジン等の動力源の回転駆動力を駆動輪に伝達および遮断可能なクラッチ装置を備えている。例えば、特許文献1には、エンジン側に連結された入力部材(以下入力軸とする)と、駆動輪側に連結された出力部材(以下出力軸とする)と、出力軸に連結されたクラッチ部材(以下クラッチセンタとする)と、クラッチセンタに対して近接又は離隔可能なプレッシャ部材(以下プレッシャプレートとする)とを有する動力伝達装置(以下クラッチ装置とする)が開示されている。
【0003】
また、特許文献1のクラッチセンタおよびプレッシャプレートは、エンジンの回転駆動力が出力軸に伝達され得る状態にったときにプレッシャプレートをクラッチセンタに接近させる方向の力を発生させて入力側回転板と出力側回転板との押圧力(圧接力)を増加させるアシストカム面をそれぞれ備えている。さらに、特許文献1のクラッチ装置は、押圧力によるアシストトルクの急激な上昇を抑えるために、押圧力を減衰させる皿ばねを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、皿ばねはクラッチセンタに保持されており、プレッシャプレートの移動方向に関してプレッシャプレートから最も離れた位置に配置されている。このため、比較的大きい押圧力が設定されたクラッチ装置や、出力側回転板および入力側回転板の数が比較的多いクラッチ装置では、押圧力を効果的に減衰することができないという問題が発生し得る。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アシストカム面の作用により発生する押圧力を効果的に減衰することにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができるクラッチ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、前記クラッチセンタに保持された皿ばねと、を備え、前記クラッチセンタは、前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、前記プレッシャプレートは、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、前記皿ばねは、前記クラッチセンタに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられ、かつ、前記クラッチセンタに保持された前記移動方向に隣り合う前記出力側回転板の間に配置され、かつ、前記クラッチセンタに保持された複数の前記出力側回転板のうち最も前記第1の方向に位置する第1出力側回転板から最も前記第2の方向に位置する第2出力側回転板までの前記移動方向の中央よりも前記第2の方向に位置する。
【0008】
本発明に係るクラッチ装置によると、クラッチセンタに保持された皿ばねは、クラッチセンタに保持された出力側回転板と接触可能に設けられ、かつ、クラッチセンタに保持された移動方向に隣り合う出力側回転板の間に配置され、かつ、第1出力側回転板から第2出力側回転板までの移動方向の中央よりも第2の方向に位置する。上記態様によれば、皿ばねは、押圧力を発生させるプレッシャプレートにより近い位置に配置されているため、押圧力を効果的に減衰することができる。これにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができ、クラッチの急な接続や振動の発生を抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る他のクラッチ装置は、入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板の少なくとも一部を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、前記プレッシャプレートに保持された皿ばねと、を備え、前記クラッチセンタは、前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、前記プレッシャプレートは、前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向としたとき、前記皿ばねは、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と前記移動方向に並び、かつ、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられている。
【0010】
本発明に係るクラッチ装置によると、プレッシャプレートに保持された皿ばねは、プレッシャプレートに保持された出力側回転板と移動方向に並び、かつ、プレッシャプレートに保持された出力側回転板と接触可能に設けられている。上記態様によれば、皿ばねは、押圧力を発生させるプレッシャプレートに配置されているため、押圧力を効果的に減衰することができる。これにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができ、クラッチの急な接続や振動の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アシストカム面の作用により発生する押圧力を効果的に減衰することにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができるクラッチ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るクラッチ装置の断面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るクラッチセンタの斜視図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るクラッチセンタの平面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るプレッシャプレートの斜視図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係るプレッシャプレートの平面図である。
【
図8A】
図8Aは、センタ側アシストカム面およびプレッシャ側アシストカム面の作用について説明する模式図である。
【
図8B】
図8Bは、センタ側スリッパーカム面およびプレッシャ側スリッパーカム面の作用について説明する模式図である。
【
図9】
図9は、他の一実施形態に係るクラッチ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るクラッチ装置の実施形態について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係るクラッチ装置10の断面図である。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車等の鞍乗型車両に設けられている。クラッチ装置10は、例えば、自動二輪車の動力源であるエンジンの入力軸(クランクシャフト)の回転駆動力を出力軸15に伝達または遮断する装置である。クラッチ装置10は、出力軸15を介して入力軸の回転駆動力を駆動輪(後輪)に伝達または遮断するための装置である。クラッチ装置10は、エンジンと変速機との間に配置される。
【0015】
以下の説明では、クラッチ装置10のプレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して接近および離隔する方向(即ちプレッシャプレート70が移動する方向)を方向Dとし、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に接近する方向を第1の方向D1、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から離隔する方向を第2の方向D2とする。方向Dは、移動方向の一例である。また、クラッチセンタ40およびプレッシャプレート70の周方向(即ち回転方向)を周方向Sとし、周方向Sに関して一方のセンタ側カム部60から他方のセンタ側カム部60に向かう方向(一方のプレッシャ側カム部90から他方のプレッシャ側カム部90に向かう方向)を第1の周方向S1(
図2参照)、他方のセンタ側カム部60から一方のセンタ側カム部60に向かう方向(他方のプレッシャ側カム部90から一方のプレッシャ側カム部90に向かう方向)を第2の周方向S2(
図2参照)とする。本実施形態では、出力軸15の軸方向は、方向Dと同じ方向である。また、プレッシャプレート70およびクラッチセンタ40は、第1の周方向S1(即ち1つのセンタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aからセンタ側スリッパーカム面60Sに向かう方向)に回転する。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、クラッチ装置10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0016】
図1に示すように、クラッチ装置10は、出力軸15と、複数の入力側回転板20と、複数の出力側回転板22と、クラッチハウジング30と、クラッチセンタ40と、プレッシャプレート70と、ストッパプレート100と、皿ばね120と、を備えている。
【0017】
図1に示すように、出力軸15は、中空状に形成された軸体である。出力軸15の一方側の端部は、ニードルベアリング15Aを介して後述する入力ギア35およびクラッチハウジング30を回転自在に支持する。出力軸15は、ナット15Bを介してクラッチセンタ40を固定的に支持する。即ち、出力軸15は、クラッチセンタ40と一体的に回転する。出力軸15の他方側の端部は、例えば、自動車二輪車の変速機(図示せず)に連結されている。
【0018】
図1に示すように、出力軸15は、その中空部15Hにプッシュロッド16Aと、プッシュロッド16Aに隣接して設けられたプッシュ部材16Bと、を備えている。中空部15Hは、クラッチオイルの流通路としての機能を有する。クラッチオイルは、出力軸15内、即ち中空部15H内を流動する。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、出力軸15の中空部15H内を摺動可能に設けられている。プッシュロッド16Aは、一方の端部(図示左側の端部)が自動二輪車の図示しないクラッチ操作機構(例えばクラッチ操作レバー)に連結されており、クラッチ操作機構の操作によって中空部15H内を摺動してプッシュ部材16Bを第2の方向D2に押圧する。プッシュ部材16Bの一部は出力軸15の外方(ここでは第2の方向D2)に突出しており、プレッシャプレート70に設けられたレリーズベアリング18に連結している。プッシュロッド16Aおよびプッシュ部材16Bは、中空部15Hの内径よりも細く形成されており、中空部15H内においてクラッチオイルの流通性が確保されている。
【0019】
クラッチハウジング30は、アルミニウム合金から形成されている。クラッチハウジング30は、有底円筒状に形成されている。
図1に示すように、クラッチハウジング30は、略円形状に形成された底壁31と、底壁31の縁部から第2の方向D2に延びる側壁33と、を有する。クラッチハウジング30は、複数の入力側回転板20を保持する。クラッチハウジング30は、入力側回転板20を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動不能に保持する。
【0020】
図1に示すように、クラッチハウジング30の底壁31には、入力ギア35が設けられている。入力ギア35は、トルクダンパ35Aを介してリベット35Bによって底壁31に固定されている。入力ギア35は、エンジンの入力軸の回転駆動によって回転する駆動ギア(図示せず)と噛み合っている。入力ギア35は、出力軸15から独立してクラッチハウジング30と一体的に回転駆動する。
【0021】
入力側回転板20は、入力軸の回転駆動によって回転駆動する。
図1に示すように、入力側回転板20は、クラッチハウジング30の側壁33の内周面に保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30にスプライン嵌合によって保持されている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30の軸方向(即ち方向D)に沿って変位可能に設けられている。入力側回転板20は、クラッチハウジング30と一体的に回転可能に設けられている。
【0022】
入力側回転板20は、出力側回転板22に押し当てられる部材である。入力側回転板20は、環状に形成されている。入力側回転板20は、アルミダイカストで成形されている。入力側回転板20の表面および裏面には、複数の紙片からなる摩擦材(図示せず)が貼り付けられている。摩擦材の間にはクラッチオイルを保持するための深さ数百μmの溝が形成されている。
【0023】
図1に示すように、クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30に収容されている。クラッチセンタ40は、クラッチハウジング30と同心に配置されている。クラッチセンタ40は、アルミニウム合金から形成されている。クラッチセンタ40は、円筒状の本体42と、本体42の外周縁から径方向外側に延びるフランジ68とを有する。クラッチセンタ40は、入力側回転板20と方向Dに交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。クラッチセンタ40は、出力側回転板22を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動不能に保持する。クラッチセンタ40は、入力側回転板20を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動可能に保持する。クラッチセンタ40は、出力軸15と共に回転駆動する。
【0024】
図2に示すように、本体42は、環状のベース壁43と、ベース壁43の径方向外側に位置しかつ第2の方向D2に向けて延びる外周壁45と、ベース壁43の中央に設けられた出力軸保持部50と、ベース壁43および外周壁45に接続された複数のセンタ側カム部60と、センタ側嵌合部58と、を備えている。
【0025】
出力軸保持部50は、円筒状に形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が挿入されてスプライン嵌合する挿入孔51が形成されている。挿入孔51は、ベース壁43を貫通して形成されている。出力軸保持部50のうち挿入孔51を形成する内周面50Aには、軸線方向に沿って複数のスプライン溝が形成されている。出力軸保持部50には、出力軸15が連結されている。
【0026】
図2に示すように、クラッチセンタ40の外周壁45は、出力軸保持部50よりも径方向外側に配置されている。外周壁45の外周面45Aには、スプライン嵌合部46が設けられている。スプライン嵌合部46は、外周壁45の外周面45Aに沿ってクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のセンタ側嵌合歯47と、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されかつクラッチセンタ40の軸線方向に延びる複数のスプライン溝48と、オイル排出孔49とを有する。センタ側嵌合歯47は、出力側回転板22を保持する。センタ側嵌合歯47は、出力側回転板22を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動不能に保持する。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに並ぶ。複数のセンタ側嵌合歯47は、周方向Sに等間隔に形成されている。複数のセンタ側嵌合歯47は、同じ形状に形成されている。センタ側嵌合歯47は、外周壁45の外周面45Aから径方向外側に突出する。オイル排出孔49は、外周壁45を径方向に貫通して形成されている。オイル排出孔49は、隣り合うセンタ側嵌合歯47の間に形成されている。即ち、オイル排出孔49は、スプライン溝48に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60の側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側カム部60のセンタ側スリッパーカム面60Sの側方に形成されている。オイル排出孔49は、センタ側スリッパーカム面60Sよりも第1の周方向S1側に形成されている。オイル排出孔49は、後述するボス部54よりも第2の周方向S2側に形成されている。本実施形態では、オイル排出孔49は、外周壁45の周方向Sの3か所に3つずつ形成されている。オイル排出孔49は、周方向Sに等間隔の位置に配置されている。オイル排出孔49は、クラッチセンタ40の内部と外部とを連通する。オイル排出孔49は、出力軸15からクラッチセンタ40内に流出したクラッチオイルを、クラッチセンタ40の外部に排出する孔である。ここでは、オイル排出孔49は、外周壁45の内周面45B側を流れるクラッチオイルをクラッチセンタ40の外部に排出する。オイル排出孔49の少なくとも一部は、後述するプレッシャ側嵌合部88と対向する位置に設けられている。
【0027】
出力側回転板22は、クラッチセンタ40のスプライン嵌合部46およびプレッシャプレート70に保持されている。出力側回転板22の一部は、クラッチセンタ40に保持されている。より詳細には、出力側回転板22の一部は、クラッチセンタ40のセンタ側嵌合歯47およびスプライン溝48にスプライン嵌合によって保持されている。出力側回転板22の他の一部は、プレッシャプレート70に保持されている。より詳細には、出力側回転板22の他の一部は、プレッシャプレート70の後述するプレッシャ側嵌合歯77(
図4参照)に保持されている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40の軸方向(即ち方向D)に沿って変位可能に設けられている。出力側回転板22は、クラッチセンタ40と一体的に回転可能に設けられている。
【0028】
出力側回転板22は、入力側回転板20に押し当てられる部材である。出力側回転板22は、環状に形成された平板である。出力側回転板22は、SPCC材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。なお、入力側回転板20に設けられた摩擦材は、入力側回転板20に代えて出力側回転板22に設けられていてもよいし、入力側回転板20および出力側回転板22のそれぞれに設けてもよい。
【0029】
センタ側カム部60は、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させる力であるアシストトルクまたは入力側回転板20と出力側回転板22とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。センタ側カム部60は、ベース壁43から第2の方向D2に突出するように形成されている。
図3に示すように、センタ側カム部60は、クラッチセンタ40の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、クラッチセンタ40は、3つのセンタ側カム部60を有しているが、センタ側カム部60の数は3に限定されない。
【0030】
図3に示すように、センタ側カム部60は、出力軸保持部50の径方向外側に位置する。センタ側カム部60は、センタ側アシストカム面60Aと、センタ側スリッパーカム面60Sとを有する。センタ側アシストカム面60Aは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。本実施形態では、上記力が発生するときにはクラッチセンタ40に対するプレッシャプレート70の位置は変化せず、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に接近する必要はない。なお、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40に対して物理的に変位してもよい。センタ側スリッパーカム面60Sは、プレッシャプレート70に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うセンタ側カム部60において、一方のセンタ側カム部60Lのセンタ側アシストカム面60Aと他方のセンタ側カム部60Mのセンタ側スリッパーカム面60Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0031】
図2に示すように、クラッチセンタ40は、複数(本実施形態では3つ)のボス部54を備えている。ボス部54は、プレッシャプレート70を間接的に支持する部材である。ボス部54は、後述するストッパプレート100(
図1参照)およびプレッシャスプリング25(
図1参照)を介してプレッシャプレート70を保持する。複数のボス部54は、周方向Sに等間隔に配置されている。ボス部54は、円筒状に形成されている。ボス部54は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。ボス部54は、プレッシャプレート70に向けて(即ち第2の方向D2に向けて)延びる。ボス部54は、ベース壁43に設けられている。ボス部54には、ボルト28(
図1参照)が挿入されるねじ穴54Hが形成されている。ねじ穴54Hは、クラッチセンタ40の軸線方向に延びる。
【0032】
図2および
図3に示すように、クラッチセンタ40は、ベース壁43の一部を貫通するセンタ側カム孔43Hを有する。センタ側カム孔43Hは、ベース壁43を方向Dに貫通する。センタ側カム孔43Hは、出力軸保持部50の側方から外周壁45まで延びる。センタ側カム孔43Hは、センタ側カム部60のセンタ側アシストカム面60Aとボス部54との間に形成されている。クラッチセンタ40の軸線方向から見て、センタ側アシストカム面60Aとセンタ側カム孔43Hの一部とは重なる。
【0033】
図2に示すように、センタ側嵌合部58は、出力軸保持部50より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60より径方向外側に位置する。センタ側嵌合部58は、センタ側カム部60よりも第2の方向D2に位置する。センタ側嵌合部58は、外周壁45の内周面45Bに形成されている。センタ側嵌合部58は、後述するプレッシャ側嵌合部88(
図4参照)に摺動可能に外嵌するように構成されている。センタ側嵌合部58の内径は、プレッシャ側嵌合部88に対して出力軸15の先端部15T(
図1参照)から流出するクラッチオイルの流通を許容する嵌め合い公差を有して形成されている。即ち、センタ側嵌合部58と後述するプレッシャ側嵌合部88との間には隙間が形成されている。
【0034】
図1に示すように、プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40に対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられている。プレッシャプレート70は、入力側回転板20および出力側回転板22を押圧可能に構成されている。プレッシャプレート70は、クラッチセンタ40およびクラッチハウジング30と同心に配置されている。プレッシャプレート70は、アルミニウム合金から形成されている。プレッシャプレート70は、本体72と、本体72の第2の方向D2の外周縁に接続しかつ径方向外側に延びるフランジ98とを有する。本体72は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出している。プレッシャプレート70は、入力側回転板20と交互に配置された複数の出力側回転板22を保持する。プレッシャプレート70は、出力側回転板22を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動不能に保持する。プレッシャプレート70は、入力側回転板20を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動可能に保持する。
【0035】
図4に示すように、本体72は、筒状部80と、複数のプレッシャ側カム部90と、プレッシャ側嵌合部88と、スプリング収容部84(
図6も参照)とを備えている。
【0036】
図4に示すように、フランジ98は、本体の72外周縁から径方向外側に延びる。ここでは、フランジ98は、プレッシャ側嵌合部88の外周縁から径方向外側に延びる。フランジ98は、入力側回転板20および出力側回転板22に押圧力を加える押圧面98Aを備えている。押圧面98Aは、入力側回転板20および出力側回転板22と直接的または間接的に接触する面である。押圧面98Aは、クラッチセンタ40のフランジ68との間に入力側回転板20および出力側回転板22を挟み込む。
【0037】
筒状部80は、円筒状に形成されている。筒状部80は、プレッシャ側カム部90と一体に形成されている。筒状部80は、出力軸15の先端部15T(
図1参照)を収容する。筒状部80には、レリーズベアリング18(
図1参照)が収容される。筒状部80は、プッシュ部材16Bからの押圧力を受ける部位である。筒状部80は、出力軸15の先端部15Tから流出したクラッチオイルを受け止める部位である。
【0038】
プレッシャ側カム部90は、センタ側カム部60に摺動してアシストトルクまたはスリッパートルクを発生させるアシスト&スリッパー(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状に形成されている。プレッシャ側カム部90は、フランジ98よりも第1の方向D1に突出するように形成されている。
図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、プレッシャプレート70の周方向Sに等間隔に配置されている。本実施形態では、プレッシャプレート70は、3つのプレッシャ側カム部90を有しているが、プレッシャ側カム部90の数は3に限定されない。
【0039】
図5に示すように、プレッシャ側カム部90は、筒状部80の径方向外側に位置する。プレッシャ側カム部90は、プレッシャ側アシストカム面90A(
図7も参照)と、プレッシャ側スリッパーカム面90Sとを有する。プレッシャ側アシストカム面90Aは、センタ側アシストカム面60Aと接触可能に構成されている。プレッシャ側アシストカム面90Aは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を発生させるように構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、センタ側スリッパーカム面60Sと接触可能に構成されている。プレッシャ側スリッパーカム面90Sは、クラッチセンタ40に対して相対回転した際に、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を減少させるためにプレッシャプレート70をクラッチセンタ40から離隔させるように構成されている。周方向Sに関して隣り合うプレッシャ側カム部90において、一方のプレッシャ側カム部90Lのプレッシャ側アシストカム面90Aと他方のプレッシャ側カム部90Mのプレッシャ側スリッパーカム面90Sとは周方向Sに対向して配置されている。
【0040】
ここで、センタ側カム部60およびプレッシャ側カム部90の作用について説明する。エンジンの回転数が上がり、入力ギア35およびクラッチハウジング30に入力された回転駆動力がクラッチセンタ40介して出力軸15に伝達され得る状態となったときには、
図8Aに示すように、プレッシャプレート70には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側アシストカム面60Aおよびプレッシャ側アシストカム面90Aの作用により、プレッシャプレート70には第1の方向D1への力が発生する。これにより、入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を増加させるようになっている。
【0041】
一方、出力軸15の回転数が入力ギア35およびクラッチハウジング30の回転数を上回ってバックトルクが生じた際には、
図8Bに示すように、クラッチセンタ40には第1の周方向S1の回転力が付与される。このため、センタ側スリッパーカム面60Sおよびプレッシャ側スリッパーカム面90Sの作用により、プレッシャプレート70を第2の方向D2へ移動させて入力側回転板20と出力側回転板22との押圧力(圧接力)を解放させるようになっている。これにより、バックトルクによるエンジンや変速機に対する不具合を回避することができる。
【0042】
図4および
図5に示すように、プレッシャプレート70は、本体72およびフランジ98の一部を貫通するプレッシャ側カム孔73Hを有する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側カム孔73Hは、筒状部80の側方からプレッシャ側嵌合部88よりも径方向外側まで延びる。プレッシャ側カム孔73Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90の間に貫通形成されている。プレッシャ側カム孔73Hは、隣り合うプレッシャ側カム部90のプレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側スリッパーカム面90Sとの間に貫通形成されている。
図5および
図7に示すように、プレッシャプレート70の軸線方向から見て、プレッシャ側アシストカム面90Aとプレッシャ側カム孔73Hの一部とは重なる。
【0043】
図6および
図7に示すように、スプリング収容部84は、プレッシャ側カム部90に形成されている。スプリング収容部84は、第2の方向D2から第1の方向D1に凹むように形成されている。スプリング収容部84は、楕円形状に形成されている。スプリング収容部84は、プレッシャスプリング25(
図1参照)を収容する。スプリング収容部84には、ボス部54(
図2参照)が挿入される挿入孔84Hが貫通形成されている。即ち、挿入孔84Hは、プレッシャ側カム部90に貫通形成されている。挿入孔84Hは、楕円形状に形成されている。
【0044】
図1に示すように、プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84に収容されている。プレッシャスプリング25は、スプリング収容部84の挿入孔84Hに挿入されたボス部54に保持されている。プレッシャスプリング25は、プレッシャプレート70をクラッチセンタ40に向けて(即ち第1の方向D1に向けて)付勢する。プレッシャスプリング25は、例えば、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングである。
【0045】
図4に示すように、プレッシャ側嵌合部88は、本体72に設けられている。プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、プレッシャ側カム部90よりも第2の方向D2に位置する。プレッシャ側嵌合部88は、センタ側嵌合部58(
図2参照)に摺動可能に内嵌するように構成されている。
【0046】
図4に示すように、プレッシャプレート70は、フランジ98に形成された複数のプレッシャ側嵌合歯77を備えている。プレッシャ側嵌合歯77は、出力側回転板22を保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、出力側回転板22を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動不能に保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、入力側回転板20を保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、入力側回転板20を方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動可能に保持する。プレッシャ側嵌合歯77は、筒状部80よりも径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側カム部90より径方向外側に位置する。プレッシャ側嵌合歯77は、プレッシャ側嵌合部88より径方向外側に位置する。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに並ぶ。複数のプレッシャ側嵌合歯77は、周方向Sに等間隔に配置されている。なお、本実施形態では、一部のプレッシャ側嵌合歯77が取り除かれているため、該部分の間隔は広がっているが、その他の隣り合うプレッシャ側嵌合歯77は等間隔に配置されている。
【0047】
図1に示すように、ストッパプレート100は、プレッシャプレート70と接触可能に設けられている。ストッパプレート100は、プレッシャプレート70がクラッチセンタ40から第2の方向D2に所定の距離以上離隔することを抑制する部材である。ストッパプレート100は、クラッチセンタ40のボス部54にボルト28によって固定されている。プレッシャプレート70は、スプリング収容部84にクラッチセンタ40のボス部54およびプレッシャスプリング25が配置された状態でストッパプレート100を介してボルト28がボス部54に締め付けられて固定されている。ストッパプレート100は、平面視で略三角形状に形成されている。
【0048】
図1に示すように、皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持されている。皿ばね120は、センタ側嵌合歯47の外周面に当接して、センタ側嵌合歯47に保持されている。皿ばね120は、センタ側嵌合歯47に方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動可能に保持されている。皿ばね120は、例えば、炭素鋼から形成されている。皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された出力側回転板22と方向Dに並ぶ。皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された出力側回転板22と接触可能に設けられている。皿ばね120は、プレッシャプレート70からクラッチセンタ40に向かう方向(即ち第1の方向D1)の押圧力を減衰する。皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された方向Dに隣り合う出力側回転板22の間に配置されている。皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された複数の出力側回転板22のうち最も第1の方向D1に位置する第1出力側回転板22Aから最も第2の方向D2に位置する第2出力側回転板22Bまでの方向Dの中央CLよりも第2の方向D2に位置する。本実施形態では、皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された複数の出力側回転板22のうち第2出力側回転板22Bよりも第1の方向D1に位置しかつ第2出力側回転板22Bと隣り合う第3出力側回転板22Cと、第2出力側回転板22Bとの間に位置する。皿ばね120は、第2出力側回転板22Bおよび第3出力側回転板22Cと接触している。皿ばね120の径方向外側には、入力側回転板20が配置されている。皿ばね120の外径は、出力側回転板22の外径よりも小さい。なお、皿ばね120は、出力側回転板22の間に配置されているため、鉄製のシート材を皿ばね120と出力側回転板22との間に配置しなくてもよい。
【0049】
クラッチ装置10内には、所定量のクラッチオイルが充填されている。クラッチオイルは、出力軸15の中空部15Hを介してクラッチセンタ40およびプレッシャプレート70内に流通し、その後センタ側嵌合部58とプレッシャ側嵌合部88との隙間やオイル排出孔49を介して入力側回転板20および出力側回転板22に供給される。クラッチオイルは、熱の吸収や摩擦材の摩耗を抑止する。本実施形態のクラッチ装置10は、いわゆる湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0050】
以上のように、本実施形態のクラッチ装置10によると、クラッチセンタ40に保持された皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された出力側回転板22と接触可能に設けられ、かつ、クラッチセンタ40に保持された方向Dに隣り合う出力側回転板22の間に配置され、かつ、第1出力側回転板22Aから第2出力側回転板22Bまでの方向Dの中央CLよりも第2の方向D2に位置する。上記態様によれば、皿ばね120は、押圧力を発生させるプレッシャプレート70により近い位置に配置されているため、押圧力を効果的に減衰することができる。これにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができ、クラッチの急な接続や振動の発生を抑制することができる。
【0051】
本実施形態のクラッチ装置10では、皿ばね120は、クラッチセンタ40に保持された複数の出力側回転板22のうち第2出力側回転板22Bよりも第1の方向D1に位置しかつ第2出力側回転板22Bと隣り合う第3出力側回転板22Cと、第2出力側回転板22Bとの間に位置する。上記態様によれば、皿ばね120は、押圧力を発生させるプレッシャプレート70により近い位置に配置されているため、押圧力をより効果的に減衰することができる。
【0052】
本実施形態のクラッチ装置10では、皿ばね120および出力側回転板22は、センタ側嵌合歯47に保持されている。上記態様によれば、皿ばね120および出力側回転板22がクラッチセンタ40から脱落することが抑制される。
【0053】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係るクラッチ装置210の断面図である。クラッチ装置210は、皿ばね120が配置されている場所が異なる点を除き、クラッチ装置10と同様の構成である。
【0054】
クラッチ装置210では、皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持されている。皿ばね120は、プレッシャ側嵌合歯77の外周面に当接して、プレッシャ側嵌合歯77に保持されている。皿ばね120は、プレッシャ側嵌合歯77に方向Dに相対的に移動可能かつ周方向Sに相対的に移動可能に保持されている。皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22と方向Dに並ぶ。皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22と接触可能に設けられている。本実施形態では、皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22のうち最も第2の方向D2に位置する最外方出力側回転板22Eとフランジ98との間に配置されている。より詳細には、皿ばね120は、最外方出力側回転板22Eとフランジ98の押圧面98Aとの間に配置されている。皿ばね120とフランジ98との間には、鉄製のシート材122が配置されている。これにより、皿ばね120がフランジ98と直接接触しないため、フランジ98の摩耗が抑制される。皿ばね120の径方向外側には、入力側回転板20が配置されている。
【0055】
以上のように、本実施形態のクラッチ装置210によると、プレッシャプレート70に保持された皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22と方向Dに並び、かつ、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22と接触可能に設けられている。上記態様によれば、皿ばね120は、押圧力を発生させるプレッシャプレート70に配置されているため、押圧力を効果的に減衰することができる。これにより、アシストトルクの急激な上昇を抑制することができ、クラッチの急な接続や振動の発生を抑制することができる。
【0056】
本実施形態のクラッチ装置210では、皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された出力側回転板22のうち最も第2の方向D2に位置する最外方出力側回転板22Eと、フランジ98との間に位置する。上記態様によれば、皿ばね120は、最も第2の方向D2に位置するため、押圧力をより効果的に減衰することができる。
【0057】
本実施形態のクラッチ装置210では、皿ばね120および出力側回転板22は、プレッシャ側嵌合歯77に保持されている。上記態様によれば、皿ばね120および出力側回転板22がプレッシャプレート70から脱落することが抑制される。
【0058】
本実施形態のクラッチ装置210では、クラッチセンタ40は、出力側回転板22の一部を保持し、プレッシャプレート70は、出力側回転板22の他の一部を保持する。上記態様によれば、センタ側アシストカム面60Aとプレッシャ側アシストカム面90Aとが接触したときに発生するプレッシャプレート70をクラッチセンタ40に接近させる方向の力を調整することができる。例えば、プレッシャプレート70に保持させる出力側回転板22の数を増やすことによって上記力を大きくすることができる。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0060】
上述した各実施形態では、クラッチセンタ40は、出力側回転板22の一部を保持し、プレッシャプレート70は、出力側回転板22の他の一部を保持していたが、これに限定されない。例えば、クラッチセンタ40が全ての出力側回転板22を保持するように構成されていてもよいし、プレッシャプレート70が全ての出力側回転板22を保持するように構成されていてもよい。
【0061】
上述した第2実施形態では、皿ばね120は、フランジ98と出力側回転板22との間に配置されていたが、これに限定されない。例えば、プレッシャプレート70が複数の出力側回転板22を保持する場合には、皿ばね120は、プレッシャプレート70に保持された隣り合う出力側回転板22の間に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 クラッチ装置
15 出力軸
20 入力側回転板
22 出力側回転板
30 クラッチハウジング
40 クラッチセンタ
45 外周壁
47 センタ側嵌合歯
50 出力軸保持部
60 センタ側カム部
60A センタ側アシストカム面
60S センタ側スリッパーカム面
70 プレッシャプレート
72 本体
77 プレッシャ側嵌合歯
90 プレッシャ側カム部
90A プレッシャ側アシストカム面
90S プレッシャ側スリッパーカム面
98 フランジ
120 皿ばね
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板を保持し、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、
前記クラッチセンタに保持された付勢部材と、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、
前記付勢部材は、前記クラッチセンタに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられ、かつ、前記クラッチセンタに保持された前記移動方向に隣り合う前記出力側回転板の間に配置され、かつ、前記クラッチセンタに保持された複数の前記出力側回転板のうち最も前記第1の方向に位置する第1出力側回転板から最も前記第2の方向に位置する第2出力側回転板までの前記移動方向の中央よりも前記第2の方向に位置する、クラッチ装置。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記クラッチセンタに保持された複数の前記出力側回転板のうち前記第2出力側回転板よりも前記第1の方向に位置しかつ前記第2出力側回転板と隣り合う第3出力側回転板と、前記第2出力側回転板との間に位置する、請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記クラッチセンタは、
前記出力軸が連結される出力軸保持部と、
前記出力軸保持部よりも径方向外側に位置する外周壁と、
前記外周壁の外周面から径方向外側に突出するように形成された周方向に並ぶ複数のセンタ側嵌合歯と、
隣り合う前記センタ側嵌合歯の間に形成された複数のスプライン溝と、を備え、
前記付勢部材および前記出力側回転板は、前記センタ側嵌合歯に保持されている、請求項1または2に記載のクラッチ装置。
【請求項4】
入力軸の回転駆動力を出力軸に伝達または遮断するクラッチ装置であって、
前記入力軸の回転駆動によって回転駆動する複数の入力側回転板を保持するクラッチハウジングに収容され、かつ、前記出力軸と共に回転駆動するクラッチセンタと、
前記クラッチセンタに対して接近または離隔可能かつ相対回転可能に設けられ、かつ、前記入力側回転板と交互に配置された複数の出力側回転板の少なくとも一部を保持し、かつ、前記入力側回転板および前記出力側回転板を押圧可能なプレッシャプレートと、
前記プレッシャプレートに保持された付勢部材と、を備え、
前記クラッチセンタは、
前記プレッシャプレートに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるセンタ側アシストカム面を有するセンタ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートは、
前記クラッチセンタに対して相対回転した際に、前記入力側回転板と前記出力側回転板との押圧力を増加させるために前記プレッシャプレートを前記クラッチセンタに接近させる方向の力を発生させるプレッシャ側アシストカム面を有するプレッシャ側カム部を備え、
前記プレッシャプレートが移動する方向を移動方向としたとき、
前記付勢部材は、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と前記移動方向に並び、かつ、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板と接触可能に設けられている、クラッチ装置。
【請求項5】
前記プレッシャプレートは、
本体と、
前記本体の外周縁から径方向外側に延びるフランジと、を備え、
前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタに接近する方向を第1の方向、前記プレッシャプレートが前記クラッチセンタから離隔する方向を第2の方向としたとき、
前記付勢部材は、前記プレッシャプレートに保持された前記出力側回転板のうち最も前記第2の方向に位置する最外方出力側回転板と、前記フランジとの間に位置する、請求項4に記載のクラッチ装置。
【請求項6】
前記プレッシャプレートは、周方向に並ぶ複数のプレッシャ側嵌合歯を備え、
前記付勢部材および前記出力側回転板は、前記プレッシャ側嵌合歯に保持されている、請求項4または5に記載のクラッチ装置。
【請求項7】
前記クラッチセンタは、前記出力側回転板の一部を保持し、
前記プレッシャプレートは、前記出力側回転板の他の一部を保持する、請求項4または5に記載のクラッチ装置。
【請求項8】
前記付勢部材は、皿ばねである、請求項1または4に記載のクラッチ装置。