(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008255
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ロータリーダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 9/14 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F16F9/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110253
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】弁理士法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志村 和俊
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA42
3J069AA44
3J069DD49
3J069EE75
(57)【要約】
【課題】流体室の周壁とベーンの間に形成され、且つ粘性流体が通過し得る隙間を利用して、粘性流体の抵抗を周囲温度に応じて調整することを可能にする。
【解決手段】本発明は、粘性流体が注入される流体室(40)と、前記流体室に設置されるベーン(22)と、前記流体室の周壁(11)と前記ベーンの間に設置される樹脂部材(30)を備え、前記樹脂部材が、前記ベーンの先端を被覆し、かつ前記周壁との間に隙間(50)を空けて設置される被覆部分(31)と、前記ベーンと係合して、前記被覆部分が前記周壁に向かって移動することを防ぐ係合部分(32)を備え、前記ベーン及び前記周壁の線膨張係数が、前記樹脂部材の線膨張係数よりも小さいロータリーダンパを提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が注入される流体室と、前記流体室に設置されるベーンと、前記流体室の周壁と前記ベーンの間に設置される樹脂部材を備え、
前記樹脂部材が、前記ベーンの先端を被覆し、かつ前記周壁との間に隙間を空けて設置される被覆部分と、前記ベーンと係合して、前記被覆部分が前記周壁に向かって移動することを防ぐ係合部分を備え、
前記ベーン及び前記周壁の線膨張係数が、前記樹脂部材の線膨張係数よりも小さいロータリーダンパ。
【請求項2】
前記ベーンの断面が先端にいくにしたがって拡大するように、前記ベーンの両側面が傾斜しており、前記係合部分が前記ベーンの両側に配置され、前記係合部分のそれぞれが、前記ベーンの各側面の傾斜と合致する傾斜した内面を有する請求項1に記載のロータリーダンパ。
【請求項3】
前記ベーン及び前記周壁が金属製である請求項1又は2に記載のロータリーダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘性流体が注入される流体室と、前記流体室に設置されるベーンと、前記流体室の周壁と前記ベーンの間に設置されるシール部材を備えるロータリーダンパが知られている。例えば、下記の特許文献1は、そのようなロータリーダンパに用いられるシール部材を開示している。このシール部材は、ベーン(回転翼21)の先端を被覆する被覆部分(摺接部33)を備えている(特許文献1の
図3参照)。
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示されたシール部材は、前記流体室の周壁(ケーシング1の内壁)と前記ベーンの間のシール性を得るために、前記被覆部分(摺接部33)が前記周壁に常時接している(特許文献1の実施例及び
図1参照)。したがって、このロータリーダンパでは、前記周壁と前記ベーンの間に形成され、且つ前記粘性流体が通過し得る隙間を利用して、前記粘性流体の抵抗を周囲温度に応じて調整することができない。すなわち、前記粘性流体の粘度は、周囲温度の変化に伴って変化するため、このロータリーダンパによれば、低温(例えば、周囲温度が摂氏-30度)のときは、前記粘性流体の粘度が上昇するが、前記流体室の周壁(ケーシング1の内壁)と前記ベーンの間が前記被覆部分によってシールされ、前記周壁と前記ベーンの間に前記粘性流体が通過し得る隙間がないため、前記粘性流体の抵抗が大きくなる。その結果、常温(例えば、周囲温度が摂氏+25度)の時の制動力よりも低温時の制動力が大きくなる。一方、高温(例えば、周囲温度が摂氏+80度)のときは、前記粘性流体の粘度が低下するが、前記流体室の周壁(ケーシング1の内壁)と前記ベーンの間が前記被覆部分によってシールされ、前記周壁と前記ベーンの間に前記粘性流体が通過し得る隙間がないため、前記粘性流体の抵抗が小さくなる。その結果、常温時の制動力よりも高温時の制動力が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、流体室の周壁とベーンの間に形成され、且つ粘性流体が通過し得る隙間を利用して、粘性流体の抵抗を周囲温度に応じて調整することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、粘性流体が注入される流体室と、前記流体室に設置されるベーンと、前記流体室の周壁と前記ベーンの間に設置される樹脂部材を備え、前記樹脂部材が、前記ベーンの先端を被覆し、かつ前記周壁との間に隙間を空けて設置される被覆部分と、前記ベーンと係合して、前記被覆部分が前記周壁に向かって移動することを防ぐ係合部分を備え、前記ベーン及び前記周壁の線膨張係数が、前記樹脂部材の線膨張係数よりも小さいロータリーダンパを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前記流体室の周壁と前記ベーンの間に設置される樹脂部材が、前記ベーンの先端を被覆し、かつ前記周壁との間に隙間を空けて設置される被覆部分と、前記ベーンと係合して、前記被覆部分が前記周壁に向かって移動することを防ぐ係合部分を備え、前記ベーン及び前記周壁の線膨張係数が、前記樹脂部材の線膨張係数よりも小さいため、前記周壁と前記ベーンの間に形成され、且つ前記粘性流体が通過し得る隙間を利用して、前記粘性流体の抵抗を周囲温度に応じて調整することが可能になる。その結果、制動力を周囲温度に関わらず均一化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例に係るロータリーダンパの縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例に係るロータリーダンパの横断面図である。
【
図3】
図3は、実施例で採用したローターの斜視図である。
【
図4】
図4は、実施例で採用したローターの平面図である。
【
図5】
図5は、実施例で採用した樹脂部材の斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例で採用した樹脂部材の平面図である。
【
図7】
図7は、流体室の周壁とベーンの間に形成される粘性流体が通過し得る隙間を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例0010】
図1及び
図2を参照すると、実施例に係るロータリーダンパは、ハウジング10と、ローター20と、樹脂部材30を有して構成されている。ハウジング10及びローター20は、亜鉛合金などの金属から成り、樹脂部材30は、ポリオキシメチレンなどの樹脂から成る。したがって、ローター20を構成するベーン22及びハウジング10を構成する周壁11の線膨張係数は、樹脂部材30の線膨張係数よりも小さい。
【0011】
ハウジング10は、筒状の周壁11と、周壁11から突出する隔壁12と、周壁11の一端を閉塞する上部壁13と、周壁11の他端を閉塞する下部壁14を備えている。隔壁12は、ハウジング10の中に形成される2つの流体室40を隔てる仕切りである。
【0012】
流体室40は、オイル等の液状の粘性流体が注入される空間であり、ローター20を構成するシャフト21の周囲に形成されている。流体室40は、ローター20を構成するベーン22によって第1室41と第2室42の2つの室に区分けされている。
【0013】
図3を参照すると、ローター20は、シャフト21と、シャフト21から突出するベーン22を備えている。シャフト21は、ローター20に回転力を伝達する物に連結される。但し、使用態様により、ハウジング10がローター20の周りで回転する場合があり得る。この場合、シャフト21は、ローター20の回転を阻止する物に連結される。
【0014】
ベーン22は、
図2に示したように、流体室40に設置され、シャフト21の回転によって、流体室40の中で移動する。
【0015】
図4を参照すると、ベーン22の両側面22a,22bは、ベーン22の断面(縦断面)が先端22cにいくにしたがって拡大するように、傾斜している。実施例では、ベーン22の基部22dからベーン22の先端22cに亘って傾斜が続くように、各側面22a,22bの全体が斜面であるが、各側面22a,22bの一部(例えば、ベーン22の基部22dとベーン22の先端22cの中途からベーン22の先端22cに亘る部分)に斜面を形成してもよい。
【0016】
図5を参照すると、樹脂部材30は、被覆部分31と係合部分32を有して構成されている。
【0017】
被覆部分31は、ベーン22の先端面に覆い被せる部分であり、ベーン22の先端22cの全部を被覆し得る形状を有している。被覆部分31は、
図7に示したように、流体室40の周壁11(ハウジング10を構成する周壁11)との間に隙間50を空けて設置される。
【0018】
図6を参照すると、係合部分32は、被覆部分31の左端から下に延びる第1係合部32aと、被覆部分31の右端から下に延びる第2係合部32bから構成されている。第1係合部32a及び第2係合部32bは、それぞれベーン22の各側面22a,22bの傾斜と合致する傾斜した内面32c,32dを有している。
【0019】
係合部分32は、
図7に示したように、第1係合部32aと第2係合部32bでベーン22を挟むように、ベーン22の両側に配置される。
【0020】
図7を参照すると、樹脂部材30の被覆部分31が流体室40の周壁11(ハウジング10を構成する周壁11)との間に隙間50を空けて設置されることによって、ベーン22と流体室40の周壁11の間に、粘性流体が通過し得る隙間50が形成されている。この隙間50は、樹脂部材30の被覆部分31と流体室40の周壁11の間の隙間である。
【0021】
実施例に係るロータリーダンパは、シャフト21が一方向(
図2において時計回り方向)に回転すると、ベーン22が第1室41の粘性流体を加圧する。第1室41の粘性流体は、樹脂部材30の被覆部分31と流体室40の周壁11の間の隙間50を通過して第2室42に移動する。隙間50は、粘性流体の通過時に、粘性流体の抵抗が発生する寸法に設定されているので、シャフト21の回転時に、シャフト21の回転速度を減速させる制動力が発生する。
【0022】
シャフト21が逆方向(
図2において反時計回り方向)に回転すると、ベーン22が第2室42の粘性流体を加圧する。第2室42の粘性流体は、樹脂部材30の被覆部分31と流体室40の周壁11の間の隙間50を通過して第1室41に移動する。したがって、シャフト21が一方向に回転した場合と同様に、シャフト21の回転時に、シャフト21の回転速度を減速させる制動力が発生する。
【0023】
実施例に係るロータリーダンパは、ベーン22及び流体室40の周壁11(ハウジング10を構成する周壁11)の線膨張係数が樹脂部材30の線膨張係数よりも小さいので、ベーン22及び流体室40の周壁11は、周囲温度が低温(摂氏-30度)になっても殆ど収縮せず、常温(摂氏+25度)のときと略同じ寸法を維持する。一方、樹脂部材30の線膨張係数は、ベーン22及び流体室40の周壁11の線膨張係数よりも大きいので、樹脂部材30は、周囲温度が常温から低温に低下していくにしたがって収縮する。その結果、第1室41と第2室42の間で粘性流体の移動を可能にする隙間50の寸法D(
図7参照)は、周囲温度が常温から低下すると、樹脂部材30の収縮によって、拡大する。したがって、周囲温度の低下により粘性流体の粘度が上昇しても、それに伴う粘性流体の抵抗の上昇を抑えることができる。
【0024】
ベーン22及び流体室40の周壁11は、周囲温度が高温(摂氏+80度)になっても殆ど膨張せず、常温のときと略同じ寸法を維持する。一方、樹脂部材30は、周囲温度が常温から高温に上昇していくにしたがって膨張する。その結果、第1室41と第2室42の間で粘性流体の移動を可能にする隙間50の寸法Dは、周囲温度が常温から上昇すると、樹脂部材30の膨張によって、縮小する。したがって、周囲温度の上昇により粘性流体の粘度が低下しても、それに伴う粘性流体の抵抗の低下を抑えることができる。
【0025】
実施例に係るロータリーダンパは、上述のように、ベーン22と流体室40の周壁11の間に形成される粘性流体が通過し得る隙間50(すなわち、樹脂部材30の被覆部分31と流体室40の周壁11の間の隙間)を利用して、粘性流体の抵抗を周囲温度に応じて調整することができるので、制動力を周囲温度に関わらず均一化すること、より詳細には、低温時の制動力と常温時の制動力の差を小さくし、常温時の制動力と高温時の制動力の差も小さくすることが可能になる。
【0026】
実施例に係るロータリーダンパは、上述のように、樹脂部材30の係合部分32がベーン22と係合することによって、樹脂部材30の被覆部分31が流体室40の周壁11(ハウジング10を構成する周壁11)に向かって移動することを防いでいる。係合部分32がベーン22と係合するための係合部分32の形状及びベーン22の形状は限定されるものではないが、実施例のように、斜面同士の面接触により係合する構成は、係合部分32及びベーン22の形状をシンプルにし得るので、好ましい。
【0027】
また、金属は、樹脂部材30の材料である樹脂と比較して、線膨張係数が小さいので、ベーン22及び流体室40の周壁11(ハウジング10を構成する周壁11)の材料として好適である。