(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008294
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】コイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び移動体
(51)【国際特許分類】
H01F 38/14 20060101AFI20250109BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20250109BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20250109BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20250109BHJP
H01F 27/36 20060101ALI20250109BHJP
H02J 50/10 20160101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F38/14
H01F5/00 F
H01F17/00 B
H01F17/04 A
H01F27/36 101
H02J50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110336
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100208188
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 薫
(72)【発明者】
【氏名】岡部 将人
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA11
5E070BB03
5E070CB12
5E070DA17
(57)【要約】
【課題】効率的な電力伝送を実現できるコイル部品を提供する。
【解決手段】一実施の形態に係るコイル部品10は、第1平面コイル11と、第2平面コイル12と、保持体30と、少なくとも1つの被覆層21~23と、を備える。第1平面コイル11は、第1面11a及び第1面11aとは反対側の第2面11bを有する。第2平面コイル12は、第2面11bの側を向く第3面12a及び第3面12aとは反対側の第4面12bを有する。保持体30は磁性体を含む。保持体30は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12を保持する。少なくとも1つの被覆層21~23は、磁性体を含む。少なくとも1つの被覆層21~23は、第1面11a、第2面11b及び/又は第3面12aと接する。被覆層21~23における磁性体の体積割合が60%以上である。被覆層21~23の厚さが0.1mm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び前記第1面とは反対側の第2面を有する第1平面コイルと、
前記第2面の側を向く第3面及び前記第3面とは反対側の第4面を有する第2平面コイルと、
磁性体を含む保持体であって、少なくとも一部が前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置され、前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルを保持する保持体と、
磁性体を含む少なくとも1つの被覆層であって、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と前記保持体との間に配置され、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と接する少なくとも1つの被覆層と、
を備え、
前記被覆層における磁性体の体積割合が60%以上であり、
前記被覆層の厚さが0.1mm以下である、コイル部品。
【請求項2】
第1面及び前記第1面とは反対側の第2面を有する第1平面コイルと、
前記第2面の側を向く第3面及び前記第3面とは反対側の第4面を有する第2平面コイルと、
磁性体を含む保持体であって、少なくとも一部が前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置され、前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルを保持する保持体と、
磁性体を含む少なくとも1つの被覆層であって、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と前記保持体との間に配置され、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と接する少なくとも1つの被覆層と、
を備え、
前記被覆層における磁性体の体積割合が75%以上である、コイル部品。
【請求項3】
前記被覆層における磁性体の体積割合は100%である、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記被覆層における磁性体の体積割合は、前記保持体における磁性体の体積割合よりも高い、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記保持体は、前記第2面と前記第3面との間に配置された第3層部を含み、
前記第3層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第3層部と前記第2面との間に配置され且つ前記第2面に接する第2被覆層を含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記保持体は、前記第2面と前記第3面との間に配置された第3層部を含み、
前記第3層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第3層部と前記第3面との間に配置され且つ前記第3面に接する第3被覆層を含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記保持体は、前記第1面と対向する第1層部を含み、
前記第1層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第1層部と前記第1面との間に配置され且つ前記第1面に接する第1被覆層を含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記被覆層は、磁性体粒子と前記磁性体を保持する樹脂とを含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記保持体は、磁性体粒子と前記磁性体を保持する樹脂とを含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記保持体は、前記第1面が向く側と同じ側を向く第5面を有し、
前記コイル部品は、前記第1面及び前記第5面に対向して配置された磁気シールド部材をさらに含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記磁気シールド部材はフェライトを含む、請求項10に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記保持体は、前記第4面が向く側と同じ側を向く第6面を有し、
前記コイル部品は、磁性を有し且つ前記第6面から突出する壁部をさらに含む、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは板状である、請求項1又は2に記載のコイル部品。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のコイル部品を備える、送電装置。
【請求項15】
請求項1又は2に記載のコイル部品を備える、受電装置。
【請求項16】
送電装置と、受電装置とを備え、
前記送電装置及び前記受電装置のうちの少なくともいずれかが、請求項1又は2に記載のコイル部品を備える、電力伝送システム。
【請求項17】
請求項15に記載の受電装置を備える、移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、送電装置から受電装置へ非接触で電力を伝送するワイヤレス電力伝送システムが普及しつつある。特許文献1には、ワイヤレス電力伝送システムの送電装置及び受電装置で用いられるコイル部品が開示されている。コイル部品は、渦巻き状に形成されたコイルを備えている。送電装置のコイルに電力を供給すると、当該コイルに磁界が生じる。この磁界の影響により、受電装置のコイルに電流が流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなワイヤレス電力伝送システムにおいて、コイル部品の性能を向上させて効率的な電力伝送を行うことが望まれている。
【0005】
本開示の課題は、効率的な電力伝送を実現できるコイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び移動体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施の形態は、以下[1]~[17]に関連する。
【0007】
[1]
第1面及び前記第1面とは反対側の第2面を有する第1平面コイルと、
前記第2面の側を向く第3面及び前記第3面とは反対側の第4面を有する第2平面コイルと、
磁性体を含む保持体であって、少なくとも一部が前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置され、前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルを保持する保持体と、
磁性体を含む少なくとも1つの被覆層であって、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と前記保持体との間に配置され、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と接する少なくとも1つの被覆層と、
を備え、
前記被覆層における磁性体の体積割合が60%以上であり、
前記被覆層の厚さが0.1mm以下である、コイル部品。
【0008】
[2]
第1面及び前記第1面とは反対側の第2面を有する第1平面コイルと、
前記第2面の側を向く第3面及び前記第3面とは反対側の第4面を有する第2平面コイルと、
磁性体を含む保持体であって、少なくとも一部が前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置され、前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルを保持する保持体と、
磁性体を含む少なくとも1つの被覆層であって、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と前記保持体との間に配置され、前記第1面、前記第2面及び/又は前記第3面と接する少なくとも1つの被覆層と、
を備え、
前記被覆層における磁性体の体積割合が75%以上である、コイル部品。
【0009】
[3]
前記被覆層における磁性体の体積割合は100%である、[1]又は[2]に記載のコイル部品。
【0010】
[4]
前記被覆層における磁性体の体積割合は、前記保持体における磁性体の体積割合よりも高い、[1]乃至[3]のいずれかに記載のコイル部品。
【0011】
[5]
前記保持体は、前記第2面と前記第3面との間に配置された第3層部を含み、
前記第3層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第3層部と前記第2面との間に配置され且つ前記第2面に接する第2被覆層を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載のコイル部品。
【0012】
[6]
前記保持体は、前記第2面と前記第3面との間に配置された第3層部を含み、
前記第3層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第3層部と前記第3面との間に配置され且つ前記第3面に接する第3被覆層を含む、[1]乃至[5]のいずれかに記載のコイル部品。
【0013】
[7]
前記保持体は、前記第1面と対向する第1層部を含み、
前記第1層部の厚さが0.5mm以上であり、
前記少なくとも1つの被覆層は、前記第1層部と前記第1面との間に配置され且つ前記第1面に接する第1被覆層を含む、[1]乃至[6]のいずれかに記載のコイル部品。
【0014】
[8]
前記被覆層は、磁性体粒子と前記磁性体を保持する樹脂とを含む、[1]又は[2]に記載のコイル部品。
【0015】
[9]
前記保持体は、磁性体粒子と前記磁性体を保持する樹脂とを含む、[1]乃至[8]のいずれかに記載のコイル部品。
【0016】
[10]
前記保持体は、前記第1面が向く側と同じ側を向く第5面を有し、
前記コイル部品は、前記第1面及び前記第5面に対向して配置された磁気シールド部材をさらに含む、[1]乃至[9]のいずれかに記載のコイル部品。
【0017】
[11]
前記磁気シールド部材はフェライトを含む、[10]に記載のコイル部品。
【0018】
[12]
前記保持体は、前記第4面が向く側と同じ側を向く第6面を有し、
前記コイル部品は、磁性を有し且つ前記第6面から突出する壁部をさらに含む、[1]乃至[11]のいずれかに記載のコイル部品
【0019】
[13]
前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは板状である、[1]乃至[12]のいずれかに記載のコイル部品。
【0020】
[14]
[1]乃至[13]のいずれかに記載のコイル部品を備える、送電装置。
【0021】
[15]
[1]乃至[13]のいずれかに記載のコイル部品を備える、受電装置。
【0022】
[16]
送電装置と、受電装置とを備え、
前記送電装置及び前記受電装置のうちの少なくともいずれかが、[1]乃至[13]のいずれかに記載のコイル部品を備える、電力伝送システム。
【0023】
[17]
[15]に記載の受電装置を備える、移動体。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、効率的な電力伝送を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施の形態に係るコイル部品が適用されるワイヤレス電力伝送システムを概略的に示す図である。
【
図2】一実施の形態に係るコイル部品の斜視図である。
【
図4】
図2のIV-IV線に沿うコイル部品の断面図である。
【
図5】
図2に示すコイル部品の製造方法を説明するための断面図である。
【
図6】第1のシミュレーションの結果を示す表である。
【
図7】第2のシミュレーションの結果を示す表である。
【
図8】第3のシミュレーションの結果を示す表である。
【
図9】第3のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら各実施の形態について説明する。
【0027】
なお、本明細書において、「シート」、「フィルム」、「板」などの用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば「シート」は、フィルムや板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0028】
図1は、一実施の形態に係るコイル部品10が適用されるワイヤレス電力伝送システムSを概略的に示す。まず、ワイヤレス電力伝送システムS(以下、電力伝送システムSと略す。)について
図1を参照しつつ説明する。
【0029】
<ワイヤレス電力伝送システム>
電力伝送システムSは、送電装置1と、受電装置2とを備える。送電装置1は、コイル部品10と、高周波電流供給部1Aとを含む。送電装置1におけるコイル部品10は、送電コイルとして機能する。高周波電流供給部1Aは、送電コイルとしてのコイル部品10に高周波電流を供給する。
【0030】
受電装置2は、コイル部品10と、変換部2Aとを含む。受電装置2におけるコイル部品10は、受電コイルとして機能する。変換部2Aは、コイル部品10で生じる高周波電流を整形する。変換部2Aは、高周波電流を直流電流に変換する整流回路などを有する。変換部2Aは、例えば複数のダイオードを含む全波整流回路と、平滑化コンデンサと、を備えて構成されてもよい。
【0031】
本実施の形態では、送電装置1及び受電装置2のそれぞれがコイル部品10を含む。ただし、送電装置1及び受電装置2のうちの一方のみにコイル部品10が用いられ、他方には異なる形式のコイル部品が用いられてもよい。送電装置1及び受電装置2のうちの一方にコイル部品10が用いられ、他方に、他の実施の形態に係るコイル部品が用いられてもよい。
【0032】
送電装置1から受電装置2にワイヤレス(非接触)で電力を伝送する際には、送電装置1が、高周波電流供給部1Aから送電コイルとしてのコイル部品10に所定の周波数の高周波電流を供給する。この際、コイル部品10には、電磁誘導により磁界が生じる。そして、この磁界の影響で、受電装置2では、受電コイルとしてのコイル部品10に高周波電流が生じる。すなわち、受電装置2は磁界を受信して又は磁界の影響を受けて、電磁誘導により高周波電流を通流させる。変換部2Aは、この高周波電流を直流電流に変換し、変換した直流電流を例えば図示しないバッテリに供給する。
【0033】
図1に示す電力伝送システムSは、電力伝送方式として、磁界共鳴方式を採用している。ただし、本実施の形態に係るコイル部品10は、電磁誘導方式の電力伝送システムで用いられてもよい。また、電力伝送システムSは、電気自動車にワイヤレスで電力を伝送するシステムとして構成される。この場合、送電装置1は、道路、駐車場などに設置される。受電装置2は、電気自動車に設置される。
【0034】
ただし、電力伝送システムSの用途は、電気自動車への電力伝送に限られるものではない。例えば、電力伝送システムSは、ドローンなどの飛行体、ロボットへの電力伝送に用いられてもよい。また、電力伝送システムSは、海中における潜水艇や、探査ロボットへの電力伝送に用いられてもよい。このように、電力伝送システムSは、電気自動車、飛行体、ロボット、潜水艇等、様々な移動体への電力伝送に用いられ得る。また、コイル部品5の用途は、ワイヤレス電力伝送システムに限られない。例えば、コイル部品5は、トランス、DC-DCコンバータ、アンテナなどに用いられてもよい。
【0035】
<コイル部品>
以下、コイル部品10について説明する。
図2は、コイル部品10の斜視図である。
図3は、コイル部品10の分解斜視図である。
図4は、
図2のIV-IV線に沿うコイル部品10の断面図である。
【0036】
図2乃至
図4に示すように、コイル部品10は、第1平面コイル11と、第2平面コイル12と、被覆層21~23と、保持体30とを備えている。図示された例では、コイル部品10は、さらに、壁部35と、磁気シールド部材40と、第1接続端子51と、第2接続端子52と、を備えている。
図3では、保持体30が説明の便宜のために複数の部分に厚さ方向に分割されて示されている。ただし、実際は、
図3で分割して示される保持体30を構成する複数の部分31~34は、
図4に示すようにつなぎ目無く一体的に形成される。
【0037】
図4に示すように、第1平面コイル11と第2平面コイル12とは隙間を空けて重なっている。図示された例では、第1平面コイル11と第2平面コイル12は電気的に直列に接続されているが、これに限られない。第1平面コイル11と第2平面コイル12とは、互いに電気的及び物理的に接続していなくてもよい。保持体30の少なくとも一部は第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に配置され、これにより第1平面コイル11と第2平面コイル12とが隙間を空けて重なる状態が維持される。また、保持体30は、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを一体に保持する。
【0038】
磁気シールド部材40は、第1平面コイル11に対向して配置される。言い換えると、磁気シールド部材40と第1平面コイル11と第2平面コイル12とは、この順で配置されている。
【0039】
第1接続端子51は、第1平面コイル11に接続される。第2接続端子52は、第2平面コイル12に接続される。
【0040】
(第1平面コイル及び第2平面コイル)
第1平面コイル11は渦巻形状であり、導電材料から形成される。本実施の形態では、第1平面コイル11が銅を含む。具体的には、第1平面コイル11は銅から形成される。ただし、第1平面コイル11は、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを含んでもよい。
【0041】
第1平面コイル11は板状であり、
図4に示すように、第1平面コイル11が渦巻形状に周回する方向に直交する方向での第1平面コイル11の断面形状は、矩形状である。第1平面コイル11は、磁気シールド部材40と対向する第1面11aと、第1面11aとは反対側の第2面11bとを有する。
【0042】
図2及び
図3に示す符号C1は、第1平面コイル11の渦巻形状の中心を通る第1平面コイル11の第1中心軸線を示している。以下、第1平面コイル11の軸方向と言う場合、その方向は、第1中心軸線C1上を延びる方向又は第1中心軸線C1に平行な方向を意味する。また、第1中心軸線C1に直交する方向を第1平面コイル11の径方向と言う。
【0043】
第1平面コイル11は、複数のターン部11nにより渦巻形状をなす導電体11Eを有する。第1平面コイル11の複数のターン部11nは、渦巻形状の第1中心軸線C1に直交する方向に配列される。詳しくは、当該複数のターン部11nは、渦巻形状の第1中心軸線C1から径方向の外方に向かって第1中心軸線C1から次第に離れるように接続される。そして、これにより渦巻形状が形成される。
【0044】
ターン部11nは、基本的には線状の導体部分が環状をなさずに第1中心軸線C1の周りを360度周回する形状である。いわゆる平面コイルである場合には、ターン部11nの両端部は、径方向にずれる。複数のターン部11nでは、或るターン部11nの径方向の外方の端部に他のターン部11nの径方向の内方の端部が接続し、他のターン部11nが第1中心軸線C1から離れるように延びていく。
【0045】
以下では、複数のターン部11nのうちの第1中心軸線C1に最も近いものを、ターン部111と称す場合がある。また、ターン部111に接続するターン部を、ターン部112と称す場合がある。本実施の形態では、複数のターン部11nが、7個のターン部111~117で構成される。以下において複数のターン部11nのそれぞれに共通となる事項を説明する際には、基本的に、ターン部11nと称す。
【0046】
本実施の形態では、ターン部11nが矩形状をなすように周回する。ただし、ターン部11nは、円形をなすように周回する形状でもよい。なお、本明細書及び本開示で言う渦巻形状とは、螺旋状に巻いた平面曲線の形を意味する。ここで言う平面曲線には、図示のような折れ線状に曲がりつつ繰り返し周回する平面パターンも含む。また、言い換えると、渦巻形状は、第1平面コイル11の第1中心軸線C1の周りを、次第に外側に位置するように周回する形状である。
【0047】
図示された例では、第1中心軸線C1に最も近いターン部111の径方向の内方の端部(第1中心軸線C1に近い端部)は、第2平面コイル12と電気的に接続される。
図2及び
図3に示す接続配線部14は導電体であり、ターン部111と第2平面コイル12とを電気的に直列に接続する。図示の接続配線部14は、一例として第2平面コイル12と一体に形成されている。接続配線部14は、ターン部111に超音波接続などにより接続されてもよい。一方で、複数のターン部11nのうちの第1中心軸線C1から最も離れるターン部117の径方向の外方の端部(第1中心軸線C1から離れる方の端部)は、第1接続端子51と接続している。
【0048】
ここで、第1平面コイル11(ターン部11n)の径方向の内方とは、当該径方向において第1中心軸線C1に近づく方向を意味する。また、第1平面コイル11(ターン部11n)の径方向の外方とは、当該径方向において第1中心軸線C1から離れる方向を意味する。また、第1中心軸線C1は、本実施の形態では次のようにして定められる。まず、最内周のターン部111の径方向の内方の端部から最内周のターン部111と相似の形状の線状の仮想ターン部を径方向の内方に渦巻形状をなすように順次描画していく。そして、直径1cm内に収まる仮想ターン部が描画できるまで描画を継続する。そして、直径1cm内に収まる仮想ターン部の径方向の内方の領域を、渦巻形状の周方向及び径方向に直交する方向に通過する線が、第1中心軸線C1として定められる。
【0049】
本実施の形態における第1平面コイル11は、一例として金属板から渦巻形状に打ち抜かれて形成される。ただし、第1平面コイル11は、金属箔を渦巻形状にエッチングすることでも形成され得る。
【0050】
第1平面コイル11の厚さ(導電体11Eの厚さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下でもよい。また、第1平面コイル11の半径(第1中心軸線C1から径方向で最も離れた部分までの距離)は80mm以上でもよく、80mm以上450mm以下でもよい。また、断面形状が矩形となる第1平面コイル11(導電体11E)のアスペクト比は、第1平面コイル11(導電体11E)の径方向幅(径方向での幅)を第1平面コイル11(導電体11E)の厚さで割ることにより定められる。第1平面コイル11(導電体11E)のアスペクト比は、2以上12以下でもよいし、3以上10以下でもよい。
【0051】
磁界共鳴方式で電気自動車に電力を伝送する場合、10kHzから200kHz、特に75kHz以上100kHz以下、さらに79kHzから90kHzの高周波電流の周波数帯で、1kW以上、望ましくは5kW以上の電力を伝送可能とすることが望ましい。この場合、銅で形成される第1平面コイル11の厚さは、0.2mm以上であることが好ましい。この観点で、第1平面コイル11の厚さの下限値が、0.2mmに設定されてもよい。また、電気自動車に電力を伝送する場合、サイズが過剰に大きいことは望まれず、サイズを制限されることがある。この観点で、第1平面コイル11及び後述の第2平面コイル12も、詳しくは第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eは、一辺が800mmの正方形に収まるサイズで形成されることが好ましい。
【0052】
また、第1平面コイル11の線幅(導電体11Eの線幅)、すなわち各ターン部11nの径方向幅(径方向での幅)は、特に限られない。ただし、例えば79kHzから90kHzの高周波電流の周波数帯で、1kW以上、望ましくは5kW以上の電力を伝送可能とすることを考慮すると、ターン部11nの径方向幅は、2mm以上20mm以下でもよく、2mm以上16mm以下、2mm以上12mm以下、2mm以上8mm以下でもよい。また、第1平面コイル11のターン数は、2以上12以下でもよいが、特に限られない。
【0053】
つづいて、第2平面コイル12も渦巻形状であり、第2平面コイル12は銅を含む。詳しくは、第2平面コイル12は銅から形成される。第2平面コイル12の材質は特に限られず、第2平面コイル12は、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金を含んでもよい。また、第2平面コイル12も板状であり、
図4に示すように、第2平面コイル12が渦巻形状に周回する方向に直交する方向での第2平面コイル12の断面形状は、矩形状である。第2平面コイル12は、第1平面コイル11の第2面11bの側を向く第3面12aと、第3面12aとは反対側の第4面12bとを有する。
【0054】
図2及び
図3に示す符号C2は、第2平面コイル12の渦巻形状の中心を通る第2平面コイル12の第2中心軸線を示している。以下、第2平面コイル12の軸方向と言う場合、その方向は、第2中心軸線C2上を延びる方向又は第2中心軸線C2に平行な方向を意味する。また、第2中心軸線C2に直交する方向を第2平面コイル12の径方向と言う。
【0055】
本実施の形態では、第2平面コイル12が第1平面コイル11と同軸になるように配置されている。つまり、第1平面コイル11の第1中心軸線C1と第2平面コイル12の第2中心軸線C2とが一致する、言い換えると、同一直線上に位置する。ただし、第1平面コイル11と第2平面コイル12は、第1平面コイル11の第1中心軸線C1と第2平面コイル12の第2中心軸線C2とが互いに平行になるように重なってもよい。すなわち、第1平面コイル11と第2平面コイル12は同軸でなくてもよい。
【0056】
第2平面コイル12も、複数のターン部12nにより渦巻形状をなす導電体12Eを有する。第2平面コイル12の複数のターン部12nは、渦巻形状の第2中心軸線C2に直交する方向に配列される。
【0057】
複数のターン部12nの接続態様や、位置に応じた呼称(ターン部121など)は、第1平面コイル11のターン部11nと同様である。本実施の形態では、第1平面コイル11のターン数と第2平面コイル12のターン数とが同じであり、複数のターン部12nは、7個のターン部121~127で構成される。また、ターン部12nは、ターン部11nと同様に矩形状をなすように周回する。なお、ターン部12nは、円形をなすように周回する形状でもよい。また、第1平面コイル11のターン数と第2平面コイル12のターン数とは異なってもよい。また、例えばターン部11nが矩形状となり、ターン部12nが円形状となる態様でもよい。
【0058】
また、
図4に示すように、本実施の形態では、第1平面コイル11の複数のターン部11nのいずれかと、第2平面コイル12の複数のターン部12nのいずれかとが、第1平面コイル11の軸方向で少なくとも部分的に重なっている。そして、第1平面コイル11の軸方向で重なる第1平面コイル11のターン部11nと第2平面コイル12のターン部12nとは、それぞれが周回する方向が沿う状態で少なくとも部分的に互いに平行に延びる。周回する方向が沿う状態とは、第1平面コイル11が周回する方向と、第2平面コイル12が周回する方向とが、点で交差するのではなく、同一線上で一定距離重なる状態を意味する。
【0059】
以上のように第1平面コイル11のターン部11nと第2平面コイル12のターン部12nとの互いに重なり且つ互いに平行に延びる部分の長さは、それぞれの全長の1/2以上でもよく、3/4以上でもよい。また、第1平面コイル11のターン部11nと第2平面コイル12のターン部12nとは、それぞれの全長にわたり互いに重なり且つ互いに平行に延びてもよい。本件発明者は、第1平面コイル11と第2平面コイル12とが互い平行に延びつつ重なる割合が多いほど、渦電流損失が抑制され得ることを知見している。
【0060】
また、上述したように、図示された例では、第1中心軸線C1に最も近いターン部111の径方向の内方の端部は、第2平面コイル12と電気的に接続される。詳しくは、ターン部111の径方向の内方の端部は、第2平面コイル12におけるターン部121の内方の端部に、接続配線部14を介して接続される。ここで、第1平面コイル11と第2平面コイル12とが接続された際、第1平面コイル11がその第2平面コイル12に接続されない端部(ターン部117の径方向の外方の端部)からその第2平面コイル12に接続される端部まで周回する方向は、第2平面コイル12がその第1平面コイル11に接続される端部からその第1平面コイル11に接続されない端部(ターン部127の径方向の外方の端部)まで周回する方向と同じになる。
【0061】
複数のターン部12nのうちの第2中心軸線C2から最も離れるターン部127の径方向の外方の端部は、第2接続端子52と接続している。なお、第2平面コイル12(ターン部12n)の径方向の内方及び外方が意味する方向は、上述した第1平面コイル11の径方向の内方及び外方の場合と同様に定められる。また、第2中心軸線C2の位置の決め方も、第1中心軸線C1の場合と同様に定められる。また、本実施の形態における第2平面コイル12も、一例として金属板から渦巻形状に打ち抜かれて形成される。ただし、第2平面コイル12は、金属箔を渦巻形状にエッチングすることでも形成され得る。
【0062】
第2平面コイル12の厚さ(導電体12Eの厚さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下でもよい。図示された例では、本実施の形態では第1平面コイル11の厚さ(導電体11Eの厚さ)が第2平面コイル12の厚さよりも大きい。言い換えると、第2平面コイル12の厚さ(導電体12Eの厚さ)が、第1平面コイル11の厚さよりも小さい。しかしながら、これに限られない。第2平面コイル12の厚さは、第1平面コイル11の厚さと同じであってもよいし、第1平面コイル11の厚さよりも大きくてもよい。
【0063】
また、第2平面コイル12の半径(第2中心軸線C2から径方向で最も離れた部分までの距離)は、第1平面コイル11の場合と同様に、80mm以上でもよく、80mm以上450mm以下でもよい。また、断面形状が矩形となる第2平面コイル12(導電体12E)のアスペクト比は、第1平面コイル11の場合と同様に、2以上12以下でもよいし、3以上10以下でもよい。また、第2平面コイル12の線幅(導電体12Eの線幅)、すなわち各ターン部12nの径方向幅(径方向での幅)は、2mm以上20mm以下でもよく、2mm以上16mm以下、2mm以上12mm以下、2mm以上8mm以下でもよい。また、第2平面コイル12のターン数は、2以上12以下でもよいが、特に限られない。
【0064】
また、第1平面コイル11と第2平面コイル12は隙間を空けて重なっている。この隙間の軸方向に沿った寸法は特に限られるものではないが、隙間が小さすぎると、電流を供給した際に第1平面コイル11及び第2平面コイル12で生じる渦電流損失が大きくなる傾向がある。また、隙間が大きくなり過ぎると、コイル部品10の薄型化が損なわれる。したがって、この隙間の軸方向に沿った寸法は、例えば0.5mm以上1.5mm以下である。
【0065】
(保持体及び壁部)
図4に示すように、本実施の形態では、保持体30の一部が第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に配置され、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間を充填している。保持体30は、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを一体的に保持する。保持体30は、磁気シールド部材40の側を向く第5面30aと、第5面30aとは反対側の第6面30bとを有する。
【0066】
図示された例では、保持体30の他の一部が第1平面コイル11の第1面11aを覆う。一方で、保持体30は、第2平面コイル12の第4面12bを覆っていない。図示された例では、保持体30の第6面30bは、第2平面コイル12の第4面12bと面一になっている。
【0067】
上述したように、保持体30は、第1層部31、第2層部32、第3層部33及び第4層部34を含む。第1層部31、第2層部32、第3層部33及び第4層部34は、第5面30aから第6面30bに向かう方向にこの順で並んでいる。第1層部31は、第5面30aを形成する。第4層部34は、第6面30bを形成する。
図3では、第1層部31及び第2層部32が一体化された状態で示され、第3層部33及び第4層部34が他の部分から分割された状態で示されている。ただし、
図4に示すように、第1層部31、第2層部32、第3層部33及び第4層部34は、つなぎ目無く一体的に形成される。保持体30は、つなぎ目無く一体的に形成された部分(31~34)により、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを包み込む形状に形成され、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを一体に保持している。
【0068】
第1層部31、第2層部32、第3層部33、及び第4層部34は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の軸方向で見た場合に、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の全体を包含する大きさに形成されている。第1層部31は、第1平面コイル11の第1面11aを覆い、磁気シールド部材40と接する部分である。第2層部32は、第1層部31に重なり、第1平面コイル11の側面を覆う部分である。言い換えると、第2層部32は、第1平面コイル11の側面の全体を径方向の内方及び外方から覆う部分である。第3層部33は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に介在する部分である。すなわち、第3層部33は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間を充填する部分である。そして、第4層部34は、第2平面コイル12の側面を覆う部分である。言い換えると、第4層部34は、第2平面コイル12の側面の全体を径方向の内方及び外方から覆う部分である。
【0069】
第1層部31の厚さは、例えば0.5mm以上である。コイル部品10の薄型化及び重量増加を抑制する観点から、第1層部31の厚さは、例えば1.5mm以下であってよい。
【0070】
第3層部33の厚さは、例えば0.5mm以上である。ただし、第3層部33の厚さは、第1平面コイル11と第2平面コイル12の隙間に応じた厚さである。例えば、第3層部33の厚さは、第1平面コイル11と第2平面コイル12の隙間の軸方向に沿った寸法から、後述する被覆層22,23の厚さを引いたものに等しい。例えば、第1平面コイル11と第2平面コイル12の隙間の軸方向に沿った寸法が0.5mm以上1.5mm以下であり、被覆層22,23の厚さがそれぞれ0.05mmである場合、第3層部33の厚さは、0.4mm以上1.4mm以下である。
【0071】
保持体30は磁性体を含む。図示された例では、第1層部31、第2層部32、第3層部33、及び第4層部34のそれぞれは、磁性体を含む。このため、保持体30は磁性を有する。保持体30は、磁性により渦電流損失や漏れ磁束を抑制したり、結合係数を高くしたりすることにより、コイル性能の向上を図る。保持体30の比透磁率は、2.0以上であることが好ましく、2.0以上20.0以下でもよい。保持体30の比透磁率は、5.0以上であることがより好ましく、5.0以上20.0以下でもよい。保持体30の比透磁率は特に限られないが、大き過ぎると保持体30の柔軟性や強度が不所望に損なわれる場合がある。したがって、保持体30の比透磁率は40以下でもよい。
【0072】
壁部35は、保持体30の第6面30bから軸方向に突出している。壁部35は、第2平面コイル12の軸方向で見た場合に渦巻形状であり、第2平面コイル12のターン部12nの間を、第2平面コイル12に沿って延びている。
【0073】
壁部35は、磁性体を含む。このため、壁部35は磁性を有する。磁性を有する壁部35によって、渦電流損失や漏れ磁束を抑制したり、結合係数を高くしたりすることができ、コイル性能を向上することができる。壁部35の比透磁率は、2.0以上であることが好ましく、2.0以上40.0以下でもよい。壁部35の比透磁率は、5.0以上であることがより好ましく、5.0以上40.0以下でもよい。壁部35の比透磁率は特に限られないが、大き過ぎると壁部35の柔軟性や強度が不所望に損なわれる場合がある。したがって、壁部35の比透磁率は40以下でもよい。
【0074】
壁部35の高さは特に限られるものではないが、例えば0.5mm以上でもよく、1.0mm以上でもよい。壁部35の高さは高い程、渦電流損失の抑制効果が高くなり且つ結合係数が高くなる傾向がある。一方で、壁部35は、高くなる程、根元を起点として破損しやすくなる傾向がある。そこで、壁部35の高さは、例えば10mm以下にしてもよい。なお、壁部35は設けられなくてもよい。
【0075】
本実施の形態における保持体30及び壁部35は、一例として、樹脂と、磁性体で構成される複数又は無数の磁性体粒子と、を含む。磁性体粒子は、保持材料としての樹脂に保持される。この場合、樹脂によって保持体30が第1平面コイル11及び第2平面コイル12に高い強度で接合するため、保持体30と第1平面コイル11及び第2平面コイル12とを安定して一体化させることができる。また、この場合、保持体30及び壁部35を、例えば、次のようにして作製することができる。すなわち、軟化させた樹脂に磁性体粒子を混合させ、保持体30の前駆材料を作製する。次に、前駆材料を
図5に示す金型100に入れて、硬化させる。より具体的には、保持体30及び壁部35を形成するための金型100に第2平面コイル12を配置した後、上記前駆材料を金型100に熱プレスで押し込んで成形し、これを冷却して固化させる。これにより、壁部35と第2平面コイル12を覆う第3層部33及び第4層部34とが、一体に作製される。第2平面コイル12の第3面12aには、後述する第3被覆層23が形成されていてよい。次に、金型100内で固化した上記前駆材料の上に第1平面コイル11を配置した後、上記前駆材料を金型100に熱プレスで押し込んで成形し、これを冷却して固化させる。これにより、第1平面コイル11を覆う第1層部31及び第2層部32が、第3層部33及び第4層部34と一体に形成される。第1平面コイル11の第1面11a及び第2面11bには、後述する第1被覆層21及び第2被覆層22が形成されていてよい。
【0076】
保持体30に含まれる樹脂は絶縁性を有する。絶縁性を有するとは、体積抵抗率が、1010Ω・m以上であることを意味する。壁部35に含まれる樹脂も絶縁性を有していてよい。
【0077】
磁性体粒子は、フェライト、特に軟磁性材料のフェライト、ナノ結晶磁性体、ケイ素鋼、電磁軟鉄、及びアモルファス金属のうちのいずれか又は二種以上から形成されてもよい。保持材料としての樹脂は、ガラス繊維強化ポリアミドでもよい。すなわち、当該樹脂は、熱可塑性樹脂(熱可塑性材料)としてのポリアミドと、ガラス繊維とを含む材料から形成されてもよい。ただし、保持体30及び壁部35の形成材料は特に限られるものではない。
【0078】
保持体30における磁性体の体積割合は、磁性体の比誘電率と保持体30の透磁率によるが、例えば20%以上であってよい。保持体30における磁性体の体積割合が40%以上であれば、コイル性能を効果的に向上させることができる。ただし、コイル部品10の重量増加を抑制する観点から、保持体30における磁性体の体積割合は60%未満であることが好ましい。なお、保持体30の磁性体の体積割合は、保持体30の比重を測定することにより、算出可能である。
【0079】
(被覆層)
上述したように、磁性を有する保持体30によって、コイル部品10のコイル性能の向上が図られている。しかしながら、本件発明者は、磁性を有する保持体を備えたコイル部品のモデルについてシミュレーションを行い、また、当該モデルと同じ構成の実際のコイル部品のQ値を測定したところ、実際のコイル部品のQ値が、シミュレーションにより得られる上記モデルのQ値よりも低いことを知見した。言い換えると、実際のコイル部品の保持体の磁性体含有量が上記モデルと同じであっても、実際のコイル部品のQ値は、上記モデルのQ値よりも低いことを知見した。この点について、本件発明者は、鋭意研究の結果、さらに次のような知見を得た。すなわち、磁性体を有する保持体を備えたコイル部品のモデルについてシミュレーションを行う場合、磁性体が保持体中に均一に分布しているものと仮定して、シミュレーションを行う。そこで、平面コイル11,12の表面が磁性体を含まない樹脂層で覆われたコイル部品のモデルについてシミュレーションを行ってQ値を求めると、当該Q値は、このような樹脂層を含まないコイル部品のモデル(すなわち、平面コイル11,12の表面まで保持体中の磁性体が均一に分布しているコイル部品のモデル)のQ値よりも低い(後述する第1のシミュレーション参照)。以上の知見から、保持体の上記界面に磁性体を含まない樹脂層が形成されており(言い換えると、保持体中の磁性体が平面コイルに直接接しておらず)、このことが保持体によるコイル部品のQ値の向上を妨げていると考えられる。なお、磁性体を含まない樹脂層が保持体に形成されるのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、保持体の前駆材料が硬化する際に前駆材料の樹脂の一部が上記界面に析出し、磁性体を含まない樹脂層を形成する。特に、保持体30の第1層部31の厚さが0.5mm以上の場合に、第1層部31の第1平面コイル11との界面に磁性体を含まない樹脂層が形成される傾向にある。同様に、保持体30の第3層部33の厚さが0.5mm以上の場合に、第3層部33の第1平面コイル11及び第2平面コイル12との界面に磁性体を含まない樹脂層が形成される傾向にある。
【0080】
このような点を考慮して、本実施の形態のコイル部品10は、磁性体を含み且つ平面コイル11,12の面11a,11b,12aのいずれかに接する被覆層21,22及び/又は23を備えている。図示された例では、コイル部品10は、第1被覆層21、第2被覆層22及び第3被覆層23を備えている。第1被覆層21は、第1平面コイル11の第1面11aを覆う。第1被覆層21は、保持体30の第1層部31と第1平面コイル11との間に位置し、第1平面コイル11の第1面11aに直接接する。第2被覆層22は、第1平面コイル11の第2面11bを覆う。第2被覆層22は、保持体30の第3層部33と第1平面コイル11との間に位置し、第1平面コイル11の第2面11bに直接接する。第3被覆層23は、第2平面コイル12の第3面12aを覆う。第3被覆層23は、保持体30の第3層部33と第2平面コイル12との間に位置し、第2平面コイル12の第3面12aに直接接する。ただし、コイル部品10は、第1被覆層21、第2被覆層22及び第3被覆層23の全てを有していなくてもよい。コイル部品10は、第1被覆層21、第2被覆層22及び第3被覆層23の少なくとも1つを有していればよい。
【0081】
被覆層21~23は、磁性体を含む。図示された例では、被覆層21~23の厚さは0.1mm以下である。また、被覆層21~23における磁性体の体積割合が60%以上である。このような被覆層21~23では、被覆層21~23の厚さが十分に薄く、また被覆層21~23における磁性体の体積割合が十分に高いため、被覆層21~23の表面に磁性体を含まない層が形成されることを効果的に抑制することができる(言い換えると、被覆層21~23中の磁性体を効果的に平面コイル11,12に接触させることができる)。この結果、渦電流損失や漏れ磁束を効果的に抑制したり、結合係数を効果的に高くしたりすることができ、コイル性能を効果的に向上させることができる。なお、この場合、被覆層21~23の厚さは、0.05mm以下であってよく、0.02mm以下であってよい。また、この場合、被覆層21~23における磁性体の体積割合は、70%以上であってよく、80%以上であってよく、90%以上であってよい。
【0082】
なお、被覆層21~23における磁性体の体積割合を75%以上、より好ましくは85%以上とすることによっても、被覆層21~23の表面に磁性体を含まない層が形成されることを効果的に抑制することができる。例えば、被覆層21~23における磁性体の体積割合が100%である場合、被覆層21~23の表面に磁性体を含まない層が形成されることを防止することができる。この場合は、被覆層21~23の厚さは、特に限られない。ただし、コイル部品10の大型化及び重量増加を抑制する観点から、被覆層21~23の厚さは0.2mm以下であることが好ましい。
【0083】
なお、被覆層21~23における磁性体の体積割合が保持体30における磁性体の体積割合よりも高い場合も、コイル性能を効果的に向上させることができると考えられる。
【0084】
なお、磁性体の体積割合が100%未満である被覆層21~23は、樹脂と、磁性体で構成される複数又は無数の磁性体粒子と、により構成されてよい。この場合、磁性体粒子は、保持材料としての樹脂に保持される。また、この場合、樹脂によって被覆層21~23が第1平面コイル11又は第2平面コイル12に高い強度で接合するため、被覆層21~23を第1平面コイル11又は第2平面コイル12上に安定して配置することができる。被覆層21~23に含まれる樹脂は絶縁性を有する。被覆層21~23に含まれる磁性体粒子は、フェライト、特に軟磁性材料のフェライト、ナノ結晶磁性体、ケイ素鋼、電磁軟鉄、及びアモルファス金属のうちのいずれか又は二種以上から形成されてもよい。被覆層21~23に含まれる樹脂は、ガラス繊維強化ポリアミドでもよい。すなわち、当該樹脂は、熱可塑性樹脂(熱可塑性材料)としてのポリアミドと、ガラス繊維とを含む材料から形成されてもよい。ただし、被覆層21~23の形成材料は、これに限られない。
【0085】
樹脂を含む被覆層21~23が設けられた平面コイル11,12は、例えば、次のようにして作製することができる。まず、樹脂と磁性体とを混合した材料をシート状に形成することで、磁性体シートを作製する。次に、磁性体シートを、平面コイル11,12を作製するための金属板上に貼り付ける。被覆層21及び22の両方が設けられた第1平面コイル11を作製する場合には、磁性体シートを2枚用意し、金属板の両面に張り付ける。これにより、磁性体シートで被覆された金属板が得られる。次に、この金属板を、磁性体シートと共に平面コイル11,12の形状に打ち抜く。これにより、磁性を有する被覆層21~23が設けられた平面コイル11,12が作製される。
【0086】
磁性体の体積割合が100%である被覆層21~23が設けられた平面コイル11,12は、例えば、次のようにして形成することができる。まず、平面コイル11,12を作製するための金属板上に磁性体を配置してこれを溶融し、その後、酸素濃度が0.1%以下の雰囲気中でアニールする。アニール処理の温度は、例えば600℃以下であってよい。これにより、磁性体の被覆層が形成された金属板が得られる。次に、この金属板を、被覆層と共に平面コイル11,12の形状に打ち抜く。これにより、磁性を有する被覆層21~23が設けられた平面コイル11,12を作製することができる。磁性体の体積割合が100%である場合も、被覆層21~23を形成するための磁性体として、上述した磁性体粒子を用いてよい。
【0087】
なお、被覆層21~23の磁性体の体積割合は、被覆層21~23の比重を測定することにより、算出可能である。
【0088】
被覆層21~23の比透磁率は、10.0以上であることが好ましく、10.0以上20.0以下でもよい。被覆層21~23の比透磁率は、15.0以上であることがより好ましく、15.0以上20.0以下でもよい。被覆層21~23の比透磁率は特に限られないが、大き過ぎると被覆層21~23の柔軟性や強度が不所望に損なわれる場合がある。したがって、被覆層21~23の比透磁率は200以下でもよい。
【0089】
図示された例では、第1被覆層21及び第2被覆層22は、第1平面コイル11の軸方向で見た場合に渦巻形状であり、第1平面コイル11に沿って延びている。また、第3被覆層23は、第2平面コイル12の軸方向で見た場合に渦巻形状であり、第2平面コイル12に沿って延びている。しかしながら、これに限られない。被覆層21~22は、第1平面コイル11の軸方向で見た場合に、第1平面コイル11の隣り合うターン部11nの間の隙間と重なる部分を有していてもよい。言い換えると、被覆層21~22は、第1平面コイル11の軸方向で見た場合に、第1平面コイル11の最内周部から最外周部に亘って、第1平面コイル11の径方向に連続的に広がっていてもよい。また、被覆層23は、第2平面コイル12の軸方向で見た場合に、第2平面コイル12の隣り合うターン部12nの間の隙間と重なる部分を有していてもよい。言い換えると、被覆層23は、第2平面コイル12の軸方向で見た場合に、第2平面コイル12の最内周部から最外周部に亘って、第2平面コイル12の径方向に連続的に広がっていてもよい。
【0090】
(磁気シールド部材)
磁気シールド部材40は、磁気の透過及び/又は漏れ磁界の抑制のために設けられる。磁気シールド部材40は、第1平面コイル11の第1面11a及び保持体30の第5面30aに対向して配置される。磁気シールド部材40は、第1平面コイル11、第2平面コイル12、被覆層21~23及び保持体30とは別体のシート状の部材である。磁気シールド部材40が、第1平面コイル11、第2平面コイル12、被覆層21~23及び保持体30と別体であるとは、磁気シールド部材40が、これら第1平面コイル11、第2平面コイル12、被覆層21~23及び保持体30に一体化されていないことを意味する。ただし、磁気シールド部材40と保持体30とが接着層などを介して接合されてもよい。磁気シールド部材40は、平面視で第1平面コイル11及び第2平面コイル12を包含する大きさに形成されている。磁気シールド部材40は、第1平面コイル11、第2平面コイル12、被覆層21~23及び保持体30と重なり、このうちの保持体30と直接的に接する。
【0091】
本実施の形態における磁気シールド部材40は磁性を有し、磁性体を含む又は磁性体でなる。コイル部品10では、第1平面コイル11及び第2平面コイル12に電流が供給された際に磁界が生じる。このようなコイル部品10で生じる磁界は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の各中心軸線C1,C2に対して全方向に広がるように生じる。この際、磁気シールド部材40は磁性を有することで、広がろうとする磁束線を各中心軸線C1,C2側に配向できる。また、コイル部品10は車両に設置され得るが、この際、コイル部品10で生じる磁界が他の車両部品側に流れると、車両部品に悪影響が生じる場合がある。このような場合に、磁気シールド部材40は電流の発生に寄与しない漏れ磁界を抑制できる。
【0092】
磁気シールド部材40は好ましくは軟磁性体又はナノ結晶磁性体を含む。より具体的には、磁気シールド部材40はフェライトを含む、好ましくはソフトフェライトを含む。本実施の形態では、磁気シールド部材40が、プレート状のフェライトを含む。より詳しくは、磁気シールド部材40は、複数のプレート状のフェライトをシート状に配列して構成されている。
【0093】
磁気シールド部材40の比透磁率は、500以上でもよく、1000以上でもよい。磁気シールド部材40の比透磁率は、500以上3000以下でもよいし、1000以上3000以下でもよい。なお、本明細書における比透磁率は、周波数85kHzで、環境温度23度で測定した際の値である。
【0094】
(接続端子)
図2及び
図3に示すように、第1接続端子51は、第1平面コイル11におけるターン部117の径方向の外方の端部に接続されている。第2接続端子52は、第2平面コイル12におけるターン部127の径方向の外方の端部に接続されている。第1接続端子51及び第2接続端子52は、例えば高周波電流供給部1A又は変換部2Aとの接続の際に用いられ得る。第1接続端子51とターン部117との接続及び第2接続端子52とターン部127との接続は、超音波接合で行われてもよい。ただし、その接続手法は限られず、例えば導電性接着剤による接続が採用されてもよい。
【0095】
<第1のシミュレーション>
以下、平面コイル11,12の表面が磁性体を含まない樹脂層(以下、「非磁性樹脂層」とも呼ぶ。)で覆われたコイル部品のモデル及び非磁性樹脂層を含まないコイル部品のモデルの性能評価の結果について説明する。以下に説明する性能評価では、第1のシミュレーションから各モデルのQ値、Z(インピーダンス(Ω))及びL(インダクタンス(μH))を計算した。第1のシミュレーションは、ムラタソフトウェア株式会社製のFemtet(登録商標)で行った。第1のシミュレーションは、各モデルの保持体の磁性体は保持体30中に均一に分布しているものと仮定して、行った。すなわち、保持体30のその隣接する層との界面(例えば、保持体30が平面コイル11,12に直接接触している場合には、平面コイル11,12との界面)に磁性体を含まない層が形成されていないものと仮定して、第1のシミュレーションを行った。
【0096】
第1のシミュレーションの各モデルについて共通する条件は、以下の通りである。
・第1平面コイル11の材質は銅で、厚さは0.5mmである。第2平面コイル12の材質は銅で、厚さは0.5mmである。
・供給する高周波電流は、40Aであり、周波数は、85kHzである。
・銅で形成される第1平面コイル11の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。銅で形成される第2平面コイル12の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。
・磁気シールド部材40の比透磁率は、3000である。
・磁気シールド部材40を第1平面コイル11が位置する側とは反対の側から覆う、アルミニウム製のシールド部材がさらに設けられる。
【0097】
第1のシミュレーションのモデルの個別の条件は、以下の通りである。
(モデル1-1)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、5である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、55%である。
・平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、非磁性樹脂層によって覆われていない。言い換えると、平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、磁性体が均一に分布した保持体30に直接接している。
(モデル1-2)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
・平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、非磁性樹脂層によって覆われていない。言い換えると、平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、磁性体が均一に分布した保持体30に直接接している。
(モデル1-3)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
・第1平面コイル11の第1面11aは、非磁性樹脂層によって覆われている。非磁性樹脂層の厚さは、0.1mmである。
・第1平面コイル11の第2面11b及び第2平面コイル12の第3面12aは、非磁性樹脂層によって覆われていない。
(モデル1-4)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
・第1平面コイル11の第2面11bは、非磁性樹脂層によって覆われている。非磁性樹脂層の厚さは、0.1mmである。
・第1平面コイル11の第1面11a及び第2平面コイル12の第3面12aは、非磁性樹脂層によって覆われていない。
(モデル1-5)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
・第2平面コイル12の第3面12aは、非磁性樹脂層によって覆われている。非磁性樹脂層の厚さは、0.1mmである。
・第1平面コイル11の第1面11a及び第2面11bは、非磁性樹脂層によって覆われていない。
(モデル1-6)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、5である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、55%である。
・平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、非磁性樹脂層によって覆われている。各非磁性樹脂層の厚さは、0.1mmである。
(モデル1-7)
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
・平面コイル11,12の面11a,11b,12aは、非磁性樹脂層によって覆われている。各非磁性樹脂層の厚さは、0.1mmである。
【0098】
図6に、第1シミュレーションの各モデルのQ値、Z(インピーダンス(Ω))及びL(インダクタンス(μH))を示す。
図6から理解されるように、保持体30の比透磁率が同じモデルを比較すると、平面コイル11,12の面11a,11b,12aが非磁性樹脂層によって覆われていないモデルのQ値は、平面コイル11,12の面11a,11b,12aのいずれかが非磁性樹脂層によって覆われたモデルのQ値と比較して高い傾向にある。すなわち、モデル1-1のQ値はモデル1-6のQ値よりも高く、モデル1-2のQ値は、モデル1-3~1-5及び1-7のQ値よりも高い。また、平面コイル11,12の面11a,11b,12aのいずれかが非磁性樹脂層によって覆われていないモデルのQ値は、平面コイル11,12の面11a,11b,12aの全てが非磁性樹脂層によって覆われたモデルのQ値よりも低い。すなわち、モデル1-2~1-5のQ値は、モデル1-7のQ値よりも高い。
【0099】
図6から、平面コイル11,12の面11a,11b,12aを覆う非磁性樹脂層が、コイル部品10のQ値の向上を妨げていることが理解される。
【0100】
<第2のシミュレーション>
次に、異なる位置に被覆層を含むコイル部品のモデルの性能評価の結果について説明する。以下に説明する性能評価では、第2のシミュレーションから各モデルのQ値、Z(インピーダンス(Ω))及びL(インダクタンス(μH))を計算した。第2のシミュレーションも、ムラタソフトウェア株式会社製のFemtet(登録商標)で行った。
【0101】
第2のシミュレーションの各モデルについて共通する条件は、以下の通りである。
・第1平面コイル11の材質は銅で、厚さは0.5mmである。第2平面コイル12の材質は銅で、厚さは0.5mmである。
・供給する高周波電流は、40Aであり、周波数は、85kHzである。
・銅で形成される第1平面コイル11の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。銅で形成される第2平面コイル12の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、5である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、55%である。
・磁気シールド部材40の比透磁率は、3000である。
・磁気シールド部材40を第1平面コイル11が位置する側とは反対の側から覆う、アルミニウム製のシールド部材がさらに設けられる。
【0102】
第2のシミュレーションのモデルの個別の条件は、以下の通りである。
(モデル2-1)
・第1平面コイル11の第1面11aは、第1被覆層21によって覆われている。
・第1被覆層21の厚さは0.1mmである。
・第1被覆層21の比透磁率は、100である。
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、100%である。
・第1平面コイル11の第2面11b及び第2平面コイル12の第3面12aは、被覆層22,23によって覆われていない。
(モデル2-2)
・第2平面コイル12の第3面12aは、第3被覆層23によって覆われている。
・第3被覆層23の厚さは0.1mmである。
・第3被覆層23の比透磁率は、100である。
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、100%である。
・第1平面コイル11の第1面11a及び第2面11bは、被覆層21,22によって覆われていない。
【0103】
図7に、第2シミュレーションの各モデルのQ値、Z(インピーダンス(Ω))及びL(インダクタンス(μH))を示す。
図7から理解されるように、被覆層の位置の違いは(すなわち、平面コイル11,12の面11a,11b,12aのいずれが被覆層によって覆われているかは)、モデルのQ値に大きな影響を与えない。
【0104】
<第3のシミュレーション>
次に、磁性体の体積割合が異なる被覆層21~23を備えたコイル部品のモデルの性能評価の結果について説明する。以下に説明する性能評価では、第3のシミュレーションから各モデルのQ値を計算した。第3のシミュレーションも、ムラタソフトウェア株式会社製のFemtet(登録商標)で行った。
【0105】
第3のシミュレーションの各モデルについて共通する条件は、以下の通りである。
・第1平面コイル11の材質は銅で、厚さは0.5mmである。第2平面コイル12の材質は銅で、厚さは0.5mmである。
・供給する高周波電流は、40Aであり、周波数は、85kHzである。
・銅で形成される第1平面コイル11の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。銅で形成される第2平面コイル12の電気伝導率は、3.77×107[S/m]である。
・磁気シールド部材40の比透磁率は、3000である。
・磁気シールド部材40を第1平面コイル11が位置する側とは反対の側から覆う、アルミニウム製のシールド部材がさらに設けられる。
【0106】
第3のシミュレーションのモデル3-1~3-5について共通する条件は、以下の通りである。
・第1平面コイル11の第1面11aは、第1被覆層21によって覆われている。・第1被覆層21の厚さは0.1mmである。
・第1平面コイル11の第2面11b及び第2平面コイル12の第3面12aは、被覆層22,23によって覆われていない。
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、5である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、55%である。
【0107】
モデル3-1~3-5の個別の条件は、以下の通りである。
(モデル3-1)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、25%である。(モデル3-2)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、50%である。
(モデル3-3)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、67%である。
(モデル3-4)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、75%である。
(モデル3-5)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、100%である。
【0108】
第3のシミュレーションのモデル3-6~3-10について共通する条件は、以下の通りである。
・第1平面コイル11の第1面11aは、第1被覆層21によって覆われている。
・第1被覆層21の厚さは0.1mmである。
・第1平面コイル11の第2面11b及び第2平面コイル12の第3面12aは、被覆層22,23によって覆われていない。
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
【0109】
モデル3-6~3-10の個別の条件は、以下の通りである。
(モデル3-6)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、25%である。
(モデル3-7)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、50%である。
(モデル3-8)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、67%である。
(モデル3-9)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、75%である。
(モデル3-10)
・第1被覆層21における磁性体の体積割合は、100%である。
【0110】
第3のシミュレーションのモデル3-11~3-15について共通する条件は、以下の通りである。
・第2平面コイル12の第3面12aは、第3被覆層23によって覆われている。
・第3被覆層23の厚さは0.1mmである。
・第1平面コイル11の第1面11a及び第2面11bは、被覆層21,22によって覆われていない。
・保持体30及び壁部35の比透磁率は、10である。
・保持体30及び壁部35における磁性体の体積割合は、58%である。
【0111】
モデル3-11~3-15の個別の条件は、以下の通りである。
(モデル3-11)
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、25%である。
(モデル3-12)
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、50%である。
(モデル3-13)
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、67%である。
(モデル3-14)
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、75%である。
(モデル3-15)
・第3被覆層23における磁性体の体積割合は、100%である。
【0112】
図8及び
図9に、第3のシミュレーションの各モデルのQ値を示す。
図8及び
図9から理解されるように、被覆層21,23における磁性体の体積割合が増大するほど、モデルのQ値が上昇する。そして、モデル3-3及び3-4のQ値は、モデル3-5のQ値の9割以上となる。また、モデル3-8及び3-9のQ値は、モデル3-10のQ値の9割以上となる。また、モデル3-13及び3-14のQ値は、モデル3-15のQ値の9割以上となる。
【0113】
以上に説明した本実施の形態にかかるコイル部品10は、第1平面コイル11と、第2平面コイル12と、保持体30と、少なくとも1つの被覆層21~23と、を備える。第1平面コイル11は、第1面11a及び第1面11aとは反対側の第2面11bを有する。第2平面コイル12は、第2面11bの側を向く第3面12a及び第3面12aとは反対側の第4面12bを有する。保持体30は磁性体を含む。保持体30は、少なくとも一部が第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に配置され、第1平面コイル11及び第2平面コイル12を保持する。少なくとも1つの被覆層21~23は、磁性体を含む。少なくとも1つの被覆層21~23は、第1面11a、第2面11b及び/又は第3面12aと保持体30との間に配置され、第1面11a、第2面11b及び/又は第3面12aと接する。被覆層21~23における磁性体の体積割合が60%以上である。被覆層21~23の厚さが0.1mm以下である。
【0114】
あるいは、本実施の形態にかかるコイル部品10は、第1平面コイル11と、第2平面コイル12と、保持体30と、少なくとも1つの被覆層21~23と、を備える。第1平面コイル11は、第1面11a及び第1面11aとは反対側の第2面11bを有する。第2平面コイル12は、第2面11bの側を向く第3面12a及び第3面12aとは反対側の第4面12bを有する。保持体30は磁性体を含む。保持体30は、少なくとも一部が第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に配置され、第1平面コイル11及び第2平面コイル12を保持する。少なくとも1つの被覆層21~23は、磁性体を含む。少なくとも1つの被覆層21~23は、第1面11a、第2面11b及び/又は第3面12aと保持体30との間に配置され、第1面11a、第2面11b及び/又は第3面12aと接する。被覆層21~23における磁性体の体積割合が75%以上である。
【0115】
このような本実施の形態にかかるコイル部品10によれば、保持体30によって磁界の漏れや近接効果が抑制され、コイル部品10の性能が向上する。さらに、被覆層21~23によって磁界の漏れや近接効果がさらに抑制され、コイル部品10の性能がさらに向上する。
【0116】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、被覆層21~23における磁性体の体積割合は100%である。この場合、被覆層21~23によって磁界の漏れや近接効果が効果的に抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0117】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、被覆層における磁性体の体積割合は、前記保持体における磁性体の体積割合よりも高い。この場合、被覆層21~23によって磁界の漏れや近接効果が効果的に抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0118】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、第2面11bと第3面12aとの間に配置された第3層部33を含む。第3層部33の厚さが0.5mm以上である。少なくとも1つの被覆層21~23は、第3層部33と第2面11bとの間に配置され且つ第2面11bに接する第2被覆層22を含む。この場合、第3層部33の第1平面コイル11及び第2平面コイル12に対向する面には磁性体を含まない層が形成される傾向にあるが、第2被覆層22によって磁界の漏れや近接効果が効果的に抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0119】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、第2面11bと第3面12aとの間に配置された第3層部33を含む。第3層部33の厚さが0.5mm以上である。少なくとも1つの被覆層21~23は、第3層部33と第3面12aとの間に配置され且つ第3面12aに接する第3被覆層23を含む。この場合、第3層部33の第1平面コイル11及び第2平面コイル12に対向する面には磁性体を含まない層が形成される傾向にあるが、第3被覆層23によって磁界の漏れや近接効果が効果的に抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0120】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、第1面11aと対向する第1層部31を含む。第1層部31の厚さが0.5mm以上である。少なくとも1つの被覆層21~23は、第1層部31と第1面11aとの間に配置され且つ第1面11aに接する第1被覆層21を含む。この場合、第1層部31の第1平面コイル11に対向する面には磁性体を含まない層が形成される傾向にあるが、第1被覆層21によって磁界の漏れや近接効果が効果的に抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0121】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、被覆層21~23は、磁性体粒子と磁性体を保持する樹脂とを含む。この場合、樹脂によって被覆層21~23が第1平面コイル11又は第2平面コイル12に高い強度で接合するため、被覆層21~23を第1平面コイル11又は第2平面コイル12上に安定して配置することができる。
【0122】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、磁性体粒子と磁性体を保持する樹脂とを含む。この場合、樹脂によって保持体30が第1平面コイル11及び第2平面コイル12に高い強度で接合するため、保持体30と第1平面コイル11及び第2平面コイル12とを安定して一体化させることができる。
【0123】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、第1面11aが向く側と同じ側を向く第5面30aを有する。コイル部品10は、第1面11a及び第5面30aに対向して配置された磁気シールド部材40をさらに含む。この場合、磁気シールド部材40によって磁気の透過及び/又は漏れ磁界が抑制され、コイル部品10の性能が効果的に向上する。
【0124】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、保持体30は、第4面12bが向く側と同じ側を向く第6面30bを有する。コイル部品10は、磁性を有し且つ第6面30bから突出する壁部35をさらに含む。この場合、コイル部品10から送出する又は他のコイル部品から受け取る磁束の伝送効率を効果的に向上できる。
【0125】
また、本実施の形態にかかるコイル部品10において、第1平面コイル11及び第2平面コイル12は板状である。この場合、コイル部品10の寸法(特に厚さ)を効果的に低減させることができる。また、第1平面コイル11及び/または第2平面コイル12に被覆層21~23を接触させることによるコイル部品10の性能の向上を、効果的に実現可能である。
【0126】
以上、本開示の実施の形態を説明したが、上述の実施の形態には種々の変更を加えてもよい。このような変形例も、本開示の技術的範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0127】
S…電力伝送システム
1…送電装置
1A…高周波電流供給部
2…受電装置
2A…変換部
10…コイル部品
11…第1平面コイル
11n…ターン部
11E…導電体
12…第2平面コイル
12E…導電体
21…第1被覆層
22…第2被覆層
23…第3被覆層
30…保持体
31…第1層部
32…第2層部
33…第3層部
34…第4層部
35…壁部
40…磁気シールド部材
51…第1接続端子
52…第2接続端子
C1…第1中心軸線
C2…第2中心軸線