(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008295
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】多孔質炭素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20250109BHJP
【FI】
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110337
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡則
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AD12
4G146AD32
4G146BA25
4G146BA32
4G146BB04
4G146BB11
4G146BC02
4G146BC07
4G146BC32B
4G146BC38B
4G146CA06
4G146CA08
4G146CA11
4G146CB11
4G146CB26
4G146CB32
4G146CB35
4G146CB36
(57)【要約】
【課題】本発明は、ガス吸着性等に富む多孔質炭素を安定して製造できる多孔質炭素の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の多孔質炭素の製造方法の一態様は、炭素原料をその良溶媒に溶解する工程と、上記溶解する工程で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する工程と、上記混合する工程で得られた混合液から析出した固形分を分離する工程とを備え、上記炭素原料の収率が、不活性雰囲気下、1000℃までの加熱において35質量%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原料をその良溶媒に溶解する工程と、
上記溶解する工程で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する工程と、
上記混合する工程で得られた混合液から析出した固形分を分離する工程と
を備え、
上記炭素原料の収率が、不活性雰囲気下、1000℃までの加熱において35質量%以上である多孔質炭素の製造方法。
【請求項2】
上記収率が70質量%以下である請求項1に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項3】
上記溶解する工程の前に、上記炭素原料の低沸点成分を除去する工程をさらに備える請求項1または請求項2に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項4】
上記炭素原料における250℃以下の沸点を有する成分の含有量が1質量%以下である請求項1または請求項2に記載の多孔質炭素の製造方法。
【請求項5】
上記分離する工程で分離した上記固形分を固相炭素化する工程をさらに備える請求項1または請求項2に記載の多孔質炭素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素が地球温暖化への影響が大きいと考えられる。この地球温暖化問題に対する有効な対策として炭素材による二酸化炭素の吸着技術が注目されている。表面に直径がナノメーターオーダーの細孔を有し、高い比表面積を有する多孔質炭素は、吸着材として有用である。このような多孔質炭素を製造する方法として、貧溶媒法が知られている(特開2021-038127号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記公報所載の多孔質炭素の製造方法では、炭素原料を良溶媒および貧溶媒に混合し、この混合液から析出させた固形分を固相炭素化することで嵩密度が高く、単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を得ることができる。上記製造方法では、例えば、褐炭、木質バイオマスの抽出物など、酸素含有量が比較的に多い原料では、貧溶媒法に用いる溶媒への溶解性が高い場合が多いため、上記固形分を十分に析出することができないおそれがある。多様な原料から好適な多孔質炭素を安定して得ることが求められている。
【0005】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、ガス吸着性に富む多孔質炭素を安定して製造できる多孔質炭素の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多孔質炭素の製造方法の一態様は、炭素原料をその良溶媒に溶解する工程と、上記溶解する工程で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する工程と、上記混合する工程で得られた混合液から析出した固形分を分離する工程とを備え、上記炭素原料の収率が、不活性雰囲気下、1000℃までの加熱において35質量%以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多孔質炭素の製造方法は、ガス吸着性に富む多孔質炭素を安定して製造できる。本発明は、多様な原料から二酸化炭素を効率よく吸収できる多孔質炭素を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質炭素の製造方法を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、炭素原料を窒素雰囲気で10℃/分で昇温した際の温度と炭素原料の質量との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、炭素原料を窒素雰囲気で10℃/分で昇温した際の温度と炭素原料の質量減少速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0010】
本発明の多孔質炭素の製造方法の一態様は、炭素原料をその良溶媒に溶解する工程と、上記溶解する工程で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する工程と、上記混合する工程で得られた混合液から析出した固形分を分離する工程とを備え、上記炭素原料の収率が、不活性雰囲気下、昇温速度10℃/分で1000℃までの加熱において35質量%以上である。
【0011】
当該多孔質炭素の製造方法(以下、「当該製造方法」ともいう)は、原料として、不活性雰囲気下、昇温速度10℃/分で1000℃までの加熱において35質量%以上の収率である炭素原料を用いているため、多様な種類の炭素原料からガス吸着性に富む多孔質炭素を安定して得ることができ、製造コストを抑制することができる。
【0012】
上記収率が70質量%以下であってもよい。上記収率が70質量%以下であることによって、より安定して多孔質炭素を得ることができる。
【0013】
上記溶解する工程の前に、上記炭素原料の低沸点成分を除去する工程をさらに備えていてもよい。上記炭素原料を溶解する前に低沸点成分を除去することで、さらに安定して多孔質炭素を得ることができる。
【0014】
上記炭素原料における250℃以下の沸点を有する成分の含有量が1質量%以下であってもよい。このようにすることで、よりさらに安定して多孔質炭素を得ることができる。
【0015】
上記分離する工程で分離した上記固形分を固相炭素化する工程をさらに備えていてもよい。すなわち、上記固形分を固相炭素化することで、ガス吸着性に富む多孔質炭素が得られる。
【0016】
なお、「炭素原料の良溶媒」とは、25℃においてその炭素原料の溶解度が5質量%以上である溶媒を指し、「炭素原料の貧溶媒」とは、25℃においてその炭素原料の溶解度が5質量%未満である溶媒を指す。
【0017】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態を詳説する。
【0018】
本発明の多孔質炭素の製造方法は、
図1に示すように、炭素原料をその良溶媒に溶解する工程S2と、上記溶解する工程S2で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する工程S3と、上記混合する工程S3で得られた混合液から析出した固形分を分離する工程S4とを備える。また、当該製造方法は、上記分離する工程S4で分離した上記固形分を固相炭素化する工程S5をさらに備える。さらに、本実施形態の当該製造方法は、上記溶解する工程S2の前に、上記炭素原料の低沸点成分を除去する工程S1を備える。
【0019】
当該製造方法では、融液を経ずに上記炭素原料を固形化している。このため、不活性雰囲気下、1000℃までの加熱において35質量%以上の収率であるものであれば多様な炭素原料から固形分としての多孔質体を得ることができ、この固形分を固相炭素化することで、ガス吸着性に富む多孔質炭素を低い製造コストで製造することができる。また、当該製造方法により製造される多孔質炭素は、直径2nm未満の細孔であるミクロ孔の占める割合が高い。
【0020】
上記炭素原料を1000℃まで加熱する昇温速度の下限としては、特に限定されるものではなく、例えば5℃/分としてもよいし、10℃/分としてもよい。上記昇温速度の上限としては、特に限定されるものではなく、例えば20℃/分としてもよいし、15℃/分としてもよい。上記昇温速度を上記範囲とすることで効率的に加熱をすることができ、加熱した上記炭素原料の評価の正確性を向上することができる。
【0021】
〔除去する工程〕
除去する工程S1では、上記炭素原料の低沸点成分を除去する。低沸点成分を除去する手段としては、特に限定されるものではなく、加熱法や蒸留法、溶媒抽出法などが挙げられる。上記炭素原料が低沸点成分である分子量の小さい成分を多く含むと、後述する良溶媒への溶解度が過剰に高くなるため、分離する工程S4において析出する固形分の量が不十分となるおそれがある。このため、上記炭素原料を良溶媒に溶解する前に、低沸点成分を除去することが好ましい。
【0022】
上記炭素原料は、不活性雰囲気下で1000℃まで加熱した際の収率が35質量%以上であるものが用いられる。この炭素原料としては、上記収率を満たすものであれば特に限定されるものではなく、例えば、瀝青炭などの高品位炭、石炭ピッチ、石油アスファルト、無灰炭など常圧で2500℃以上の高温で加熱処理を行うと黒鉛化する炭素材料が挙げられる。あるいは、亜瀝青炭や褐炭などの低品位炭、広葉樹、針葉樹、草本類などのバイオマスの抽出物であってもよい。
【0023】
上記収率が上記下限に満たない場合、上記良溶媒への上記炭素原料の溶解度が高くなり過ぎ、析出物がペースト状になってその後の工程を行うことが困難になるおそれがある。
【0024】
上記収率の上限としては、70質量%が好ましく、65質量%がより好ましい。上記収率が上記上限を超えると、上記良溶媒への上記炭素原料の溶解度が高くなく、その結果、大量の溶媒が必要となるおそれがある。
【0025】
上記不活性雰囲気としては、特に限定されるものではなく、例えば、窒素、アルゴン等が挙げられ、経済的な観点から、窒素が好ましい。
【0026】
上記無灰炭の原料となる石炭としては、特に限定されるものではなく、例えば無灰炭の抽出率の高い瀝青炭や、より安価な低品位炭(亜瀝青炭や褐炭)が挙げられる。低品位炭を原料とする場合は、その炭素含有率の下限としては、65質量%が好ましい。一方、上記炭素含有率の上限としては、85質量%が好ましく、82質量%がより好ましい。上記炭素含有率を上記範囲とすることで、溶媒可溶成分の溶出率を十分なものとすることができ、原料のコストが高くなることを抑制できる。
【0027】
上記炭素原料としての無灰炭は、単独で用いられてもよいし、無灰炭以外の炭素原料が無灰炭を含んでいてもよい。一般的に、1000℃以上で行われる石炭の乾留及び蒸留を経て得られる石炭ピッチに比べ、石炭から400℃以下の抽出により得られる無灰炭は、酸素等のヘテロ原子を多く含み、積層構造となり難い。このため、上記炭素原料が無灰炭を含むことで、単位体積当たりの比表面積が大きい多孔質炭素を比較的容易に得ることができる。また、無灰炭はヘテロ原子の含有量が大きいことに加え、分子量も大きいため、後述する固相炭素化する工程S5での歩留まりを向上できる。
【0028】
上記炭素原料における250℃以下の沸点を有する成分の含有量の上限としては、1質量%であることが好ましく、非検出(検出器の検出性能の限界以下)であることがより好ましい。250℃以下の沸点を有する成分が上記上限以下であることで上記良溶媒に対する過剰な親和性をより低下でき、多孔質炭素の製造の安定性をより向上できる。
【0029】
上記炭素原料は、酸素を12%-d.a.f.(dry ash free;無水無灰)以上含有していることが好ましい。上記炭素原料が酸素を12%-d.a.f.以上含有することで、得られる多孔質炭素に微細孔が形成されやすくなる。
【0030】
〔溶解する工程〕
溶解する工程S2では、上記炭素原料をその良溶媒に溶解する。この良溶媒としては、上記炭素原料が溶解可能であれば特に限定されるものないが、上記良溶媒が含窒素化合物を含んでいることが好ましい。このように上記良溶媒が含窒素化合物を含むことで、上記炭素原料の溶解度を高めることができる。
【0031】
上記含窒素化合物としては、ピリジン(C5H5N)、キノリン(C9H7N)、N-メチルピロリドン(C5H9NO)等を挙げることができる。中でも高い溶解力を有し、かつ比較的沸点が低いため取り扱いが容易であるピリジンが好ましい。
【0032】
溶解後の溶液中の上記炭素原料の含有量の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記炭素原料の含有量の上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。上記炭素原料の含有量を上記範囲とすることで、未溶解の炭素原料を低減しつつ、多孔質炭素の製造の安定性を向上することができる。
【0033】
〔混合する工程〕
混合する工程S3では、上記溶解する工程S2で得られた溶液を上記炭素原料の貧溶媒と混合する。
【0034】
上記貧溶媒としては、上記易黒鉛化炭素原料の溶解度が小さいものであれば特に限定されないが、上記良溶媒とよく混ざるものが好ましい。また、上記貧溶媒が含窒素化合物を含まないとよい。このように上記貧溶媒に含窒素化合物を含めないことで、固形分の析出効率を高めることができる。また、上記良溶媒が含窒素化合物を含み、上記貧溶媒が含窒素化合物を含まない組み合わせとすることで、多孔質炭素の製造効率を向上することができる。
【0035】
上記貧溶媒としては、水(H2O)、メタノール(CH4O)、エタノール(C2H6O)、アセトン(C3H6O)、トルエン(C7H8)、ヘキサン(C6H14)等を挙げることができる。上記貧溶媒としては、上記良溶媒に高極性の含窒素化合物を用いる場合、上記良溶媒と混合され易い酸素を含む高極性のものが好ましい。このような貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトンが挙げられる。また、上記良溶媒としてメチルナフタレン等を用いる場合、上記貧溶媒としては、メチルナフタレン等に比べて炭素原料の溶解力が十分に小さいトルエンやヘキサンが好ましい。
【0036】
上記溶液と上記貧溶媒との混合方法は、特に限定されないが、上記貧溶媒に上記溶液を添加する方法が好ましい。大量の貧溶媒に、上記良溶媒に溶解した上記炭素原料を加えることで、この炭素原料が瞬時に粉末状の固形分となるので、多孔質炭素の製造効率をより向上することができる。
【0037】
上記溶液に対する上記貧溶媒の質量比の下限としては、3倍が好ましく、5倍がより好ましい。一方、上記質量比の上限としては、20倍が好ましく、10倍がより好ましい。上記質量比を上記範囲とすることで、炭素原料を適切に析出させることができるとともに、多孔質炭素の収率を向上でき、多孔質炭素の製造効率をさらに向上することができる。
【0038】
〔分離する工程〕
分離する工程S4では、上記混合する工程S3で得られた混合液から析出した固形分を分離する。具体的には、上述のように上記溶液と上記溶媒とを混合すると固形分が析出するので、この析出した固形分を、例えば濾過分離する。分離した固形分は、さらに減圧乾燥することが好ましい。
【0039】
析出した固形分に形成されている細孔は、大半が直径2nm未満のミクロ孔であり、直径2nm以上50nm未満のメゾ孔が比較的少ない。
【0040】
当該製造方法は、いわゆる貧溶媒法であるため、特別な装置等を必要とせずに容易に多孔質炭素を製造でき、製造コストを低減することができる。
【0041】
〔固相炭素化する工程〕
固相炭素化する工程S5は、上記分離する工程S4で分離した上記固形分を固相炭素化する。具体的には、上記固形分を不融化および加熱する処理をこの順で行って多孔質炭素を得る。
【0042】
<不融化処理>
固相炭素化する工程S5では、上記固形分の不融化処理を行う。この不融化処理により、その後に行う加熱処理による炭素化過程での好ましくない溶融(液相炭素化)を抑制することができ、固相での炭素化が可能となる。不融化は、例えば公知の加熱炉を用いて酸素を含む雰囲気中で加熱することにより行う。酸素を含む雰囲気としては、例えば空気を用いてもよい。
【0043】
不融化を行う場合の加熱温度(不融化処理温度)の下限としては、150℃が好ましく、180℃がより好ましい。一方、上記不融化処理温度の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。上記不融化処理温度を上記範囲とすることで、不融化を十分に促進しつつ、不融化される前に上固形分が溶融することを抑制できる。また、不融化処理時間が長くなることで非効率となることを抑制できる。上記不融化処理温度にするための昇温速度としては、例えば0.01℃/min以上10℃/min以下とすることができる。
【0044】
また、不融化を行う場合の不融化処理時間の下限としては、10分が好ましく、20分がより好ましい。一方、上記不融化処理時間の上限としては、120分が好ましく、90分がより好ましい。上記不融化処理時間が上記下限未満であると、不融化が不十分となるおそれがある。逆に、上記不融化処理時間が上記上限を超えると、多孔質炭素の製造コストが不必要に増大するおそれがある。
【0045】
<加熱処理>
上記不融化処理後、加熱処理を行う。この加熱処理は、加熱部により行う。上記加熱部は、加熱により上記固形分をその集合状態を実質的に保持したままで炭素化する(固相炭素化)。上記加熱部としては、例えば公知の電気炉等を用いることができ、低結晶性の固形分を加熱部へ挿入し、内部を不活性ガスで置換した後、上記加熱部内へ不活性ガスを吹き込みながら加熱することで上記固形分の固相炭素化ができる。上記不活性ガスとしては、特に限定されないが、例えば窒素やアルゴン等を挙げることができる。中でも安価な窒素が好ましい。
【0046】
上記加熱部における加熱温度の下限としては、600℃以上が好ましく、900℃がより好ましい。一方、上記加熱温度の上限としては、1300℃が好ましく、1100℃がより好ましい。上記加熱温度を上記範囲とすることで、炭素化と細孔の発達を十分に促進することができ、かつ比表面積(多孔質性)を好適にして、設備の耐熱性向上や燃料消費量の観点から製造コストを低減することができる。上記加熱温度にするための昇温速度としては、例えば0.01℃/min以上10℃/min以下とすることができる。
【0047】
また、加熱時間の下限としては、10分が好ましく、20分がより好ましい。一方、加熱時間の上限としては、10時間が好ましく、8時間がより好ましい。上記加熱時間を上記範囲とすることで、炭素化を十分に促進することができ、多孔質炭素の製造効率が低下することを抑制できる。
【0048】
<賦活処理>
当該製造方法では、賦活処理を行わなくとも、ミクロ孔が大半を占める多孔質炭素を得ることができるが、賦活処理を行ってもよい。賦活処理を施すことで、さらにミクロ孔を増加させることができる。賦活処理としては、軽度なものであってもよい。
【0049】
上記賦活処理としては、公知の方法を用いることができる。例えば、上記加熱処理後、あるいは上記加熱処理と同時に、CO2を含む不活性ガスを用いて、固形分の表面を部分的にガス化(C+CO2→2CO)させるCO2賦活を用いることができる。
【0050】
上記不活性ガス中のCO2濃度の下限としては、特に限定されないが、10質量%が好ましい。一方、上記CO2濃度の上限としては、特に限定されないが、100質量%(純CO2)であってもよい。上記CO2濃度を上記範囲とすることで、長時間の処理による製造効率の低下を抑制しつつ、所望の賦活効果を得ることができる。
【0051】
CO2賦活による多孔質炭素の重量減少としては、CO2を含まない不活性ガス中で炭素化処理を行った場合の重量減少に対して105質量%以上150質量%以下とすることが好ましい。上記重量減少を上記範囲とすることで、賦活効果(多孔質化)を十分に促進することができる。
【0052】
〔多孔質炭素〕
以下、当該製造方法によって得られる多孔質炭素の特徴について説明する。
【0053】
上記多孔質炭素は、粒子状であり、例えば平均径0.5nm以上2nm以下の細孔を多く有する。上記多孔質炭素は、酸素、水素、二酸化炭素等のガス吸着材、水処理用吸着材、EDLC(Electrical Double Layer Capacitor;電気二重層キャパシタ)用電極等に好適に用いることができる。なお、「平均径」とは、ガス吸着法で細孔径分布を測定したものを意味する。
【0054】
<利点>
【0055】
当該製造方法では、原料として不活性雰囲気下、1000℃までの加熱において35質量%以上の収率である炭素原料を用いている。このため、多様な種類の炭素原料からガス吸着性に富む多孔質炭素を安定して得ることができる。また、当該製造方法では、融液を経ずに炭素原料を固形化しているので、多孔質体の固形分が得られる。従って、この固形分を固相炭素化することで、低い製造コストで多孔質炭素を得ることができる。また、当該製造方法により製造される多孔質炭素は、直径2nm未満の細孔であるミクロ孔の占める割合が高い。
【0056】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
炭素原料として、石炭の溶媒抽出により製造された無灰炭と、針葉樹および広葉樹の抽出物とを準備した。良溶媒としてピリジン(C5H5N、沸点115℃)を準備し、この良溶媒に各炭素原料を溶解して溶液を得た。この溶液中の各炭素原料の含有量は20質量%となるように攪拌して調製した。この溶液100gを貧溶媒として準備した水2.0Lに混合し、固形分(粉末)の析出の有無を確認した。
表1に各炭素原料を、不活性雰囲気下において昇温速度10℃/分で1000℃まで加熱した際の炭素収率、各炭素原料の酸素含有量、固形分の析出の有無、および得られた多孔質炭素の質量を基準とした二酸化炭素(CO2)の吸着量の関係を示す。
【0059】
二酸化炭素の吸着量は、以下の定容法によって、平衡吸着圧0.4MPa、0℃における二酸化炭素の平衡吸着量として求めた。
(1)第1容器と、この第1容器より内容積が大きく、上記第1容器と連結管で連結されている第2容器とを準備した。
(2)上記第1容器に多孔質炭素(試料)1.0gを入れ、この第1容器を200℃に加熱して上記第1容器内および上記第2容器内を減圧脱気し、上記試料を乾燥した。
(3)上記連結管に設けられているバルブを閉じて、乾燥させた試料を上記第1容器内に減圧封入した。
(4)上記第2容器に所定圧(例えば0.9MPa)の二酸化炭素を導入した後、上記バルブを開放して上記試料に二酸化炭素を吸着させた。60分後の上記第1容器および上記第2容器の内圧を測定して、平衡吸着圧とみなした。
(5)平衡吸着圧が0.4MPa以下の場合は、平衡吸着圧が0.4MPa以上となるまで上記(3)および上記(4)を繰り返した。
(6)平衡吸着圧0.4MPaとなった際の炭素原料の二酸化炭素吸着量から吸着等温線を作成し、0.4MPaでの上記試料の二酸化炭素の平衡吸着量を求めた。
【0060】
【0061】
表1中、固形分の析出の欄における「A」は、粉末状の固形分が析出したことを示す。すなわち、当該製造方法(貧溶媒法)に適している炭素原料を示している。「B」は、炭素原料が良溶媒に対して20質量%溶解しなかったことを示す。「C」は、粉末状の固形分が析出せず、炭素原料が良溶媒への溶解によりペースト化したものを示す。「B」および「C」の炭素原料は、当該製造方法には適していないと考えられる。CO2吸着量の欄における「-」は、粉末状の炭素が得られなかったため、CO2吸着量を測定しなかったことを示す。
【0062】
酸素含有量が高い炭素原料の中でも、特に低沸点成分は良溶媒への溶解性が高いと考えられる。酸素含有量が高い炭素原料として針葉樹の抽出物を選択し、350℃で抽出した針葉樹の抽出物(試験例9-1)と、この抽出物から250℃以下の低沸点成分を除去したもの(試験例9-2)との比較、および330℃で抽出した針葉樹の抽出物(試験例10-1)と、この抽出物から250℃以下の低沸点成分を除去したもの(試験例10-2)との比較を行った。250℃以下の低沸点成分の除去は、減圧乾燥器で240℃、1mmHg以下の加熱法で行った。試験例9-2では、試験例9-1に対して10質量%、試験例10-2では、試験例10-1に対して13質量%の上記低沸点成分を除去できた。これらの炭素原料を窒素雰囲気で10℃/分で昇温した際の重量変化を
図2および
図3に示す。
図2および
図3の横軸は、炭素原料を窒素雰囲気で10℃/分で昇温した際の温度、縦軸は、炭素原料の質量および炭素原料の質量減少速度を示す。250℃以下の低沸点成分を除去したもの(試験例9-2,10-2)は、二酸化炭素の吸収が増加した。その結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2から、上記低沸点成分を除去した炭素原料は、酸素含有量が殆んど変化していないことが分かる。一方で、表2から、試験例9-2は試験例9-1に対して、試験例10-2は試験例10-1に対して二酸化炭素の吸着量が大きく増加していることが分かる。よって、炭素原料から250℃以下の低沸点成分を除去することで、炭素原料の多孔質性が向上したと考えられる。
【0065】
針葉樹および広葉樹などのバイオマスの抽出物は、試験例9,10の針葉樹の抽出物のように高い酸素含有量を有し、単純に貧溶媒法を適用しても、大きな細孔容積を有する多孔質炭素を得ることが出来ないことがある。しかし、このような炭素原料であっても、低沸点成分を除去することによって、当該製造方法によって得られる多孔質炭素の多孔質性を容易に改善できる。よって、炭素原料から低沸点成分を除去することは有意な改質方法と考えられる。
以上説明したように、本発明の多孔質炭素の製造方法は、ガス吸着性等に富む多孔質炭素を安定して製造でき、得られる多孔質炭素は分子篩、気体貯蔵材料等に好適に用いることができる。