(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008298
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20250109BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20250109BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M4/66 A
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110340
(22)【出願日】2023-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 真世
(72)【発明者】
【氏名】松山 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松崎 光樹
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS02
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE07
5H017HH05
5H029AJ02
5H029AJ11
5H029AL11
5H029AM12
5H029DJ07
5H029EJ01
5H029EJ12
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】活物質層と集電体との密着性及び電子伝導性の両方に優れる固体電池の提供。
【解決手段】樹脂及び導電材を含有する第一樹脂層と第一金属層とを含む第一集電体、第一活物質層、固体電解質層、第二活物質層、並びに、樹脂及び導電材を含有する第二樹脂層と第二金属層とを含む第二集電体、がこの順で積層され、前記第一集電体は前記第一活物質層側に前記第一樹脂層が設けられており、前記第二集電体は前記第二活物質層側に前記第二樹脂層が設けられている、固体電池。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂及び導電材を含有する第一樹脂層と第一金属層とを含む第一集電体、
第一活物質層、
固体電解質層、
第二活物質層、並びに、
樹脂及び導電材を含有する第二樹脂層と第二金属層とを含む第二集電体、
がこの順で積層され、
前記第一集電体は前記第一活物質層側に前記第一樹脂層が設けられており、前記第二集電体は前記第二活物質層側に前記第二樹脂層が設けられている、固体電池。
【請求項2】
前記第一集電体と前記第一活物質層との間に、前記第一活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と前記樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第一中間層をさらに有し、
前記第二集電体と前記第二活物質層との間に、前記第二活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と前記樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第二中間層をさらに有する、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記第一集電体は、前記第一活物質層側から、前記第一樹脂層、前記第一金属層及び前記第一樹脂層の順で積層された3層構造を有し、
前記第二集電体は、前記第二活物質層側から、前記第二樹脂層、前記第二金属層及び前記第二樹脂層の順で積層された3層構造を有する、請求項1又は請求項2に記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
二次電池は、可燃性の有機溶媒を含む電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、電解液を固体電解質層に変えて、材質を固体化した固体電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
従来の固体電池の集電体には、セラミックス箔又は金属箔からなる単層構造や、セラミックス箔及び金属箔を含む積層体が採用されている。しかしながら、従来のセラミックス箔や金属箔からなる集電体では、集電体と活物質層(つまり活物質層)との密着性が低く、集電体が活物質層から剥離することがある。
これに対し近年では、軽量化、コスト削減などの観点から、固体電池の集電体として樹脂を含む樹脂層に関する開発も進められている(例えば、特許文献1)。しかしながら、樹脂層は、セラミックス箔や金属箔からなる集電体に比べて、電子伝導性が低い傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来のセラミックス箔や金属箔からなる集電体、及び、樹脂層のどちらか一方のみを備える固体電池では、集電体と活物質層の密着性が低い、又は、電子伝導性が低い。
そこで本開示では、上記事情に鑑み、集電体と活物質層の密着性と電子伝導性の両方に優れる固体電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 樹脂及び導電材を含有する第一樹脂層と第一金属層とを含む第一集電体、
第一活物質層、
固体電解質層、
第二活物質層、並びに、
樹脂及び導電材を含有する第二樹脂層と第二金属層とを含む第二集電体、
がこの順で積層され、
前記第一集電体は前記第一活物質層側に前記第一樹脂層が設けられており、前記第二集電体は前記第二活物質層側に前記第二樹脂層が設けられている、固体電池。
<2> 前記第一集電体と前記第一活物質層との間に、前記第一活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と前記樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第一中間層をさらに有し、
前記第二集電体と前記第二活物質層との間に、前記第二活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と前記樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第二中間層をさらに有する、前記<1>に記載の固体電池。
<3> 前記第一集電体は、前記第一活物質層側から、前記第一樹脂層、前記第一金属層及び前記第一樹脂層の順で積層された3層構造を有し、
前記第二集電体は、前記第二活物質層側から、前記第二樹脂層、前記第二金属層及び前記第二樹脂層の順で積層された3層構造を有する、前記<1>又は<2>に記載の固体電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、集電体と活物質層の密着性と電子伝導性の両方に優れる固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の固体電池の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、本開示の範囲を制限するものではない。
【0010】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を含まないものと共に置換基を含むものをも包含するものである。
本開示において、「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
-固体電池-
本開示に係る固体電池は、樹脂及び導電材を含有する第一樹脂層と第一金属層とを含む第一集電体、第一活物質層、固体電解質層、第二活物質層、並びに、樹脂及び導電材を含有する第二樹脂層と第二金属層とを含む第二集電体、がこの順で積層され、前記第一集電体は前記第一活物質層側に前記第一樹脂層が設けられており、前記第二集電体は前記第二活物質層側に前記第二樹脂層が設けられている、固体電池である。
【0012】
本開示によれば、集電体と活物質層の密着性と電子伝導性の両方に優れる。この作用機序は必ずしも明らかではないが下記のように推察される。
本開示に係る固体電池は、集電体として金属箔及び樹脂層の両方を有し、かつ、樹脂層が活物質層側に設けられている。そのため、金属層により電子伝導性に優れ、樹脂層により活物質層と集電体との密着性にも優れると考えられる。
【0013】
本開示の固体電池には、電解質として固体電解質を用いたいわゆる全固体電池が含まれ、固体電解質は電解質全量に対して10質量%未満の電解液を含んでもよい。なお、固体電解質は、無機系固体電解質とポリマー電解質を含む複合固体電解質であってもよい。
【0014】
本開示の固体電池の一例を、図面を参照して説明する。
図1は、本開示の固体電池の一例を示す概略断面図である。
図1に示す固体電池は、負極集電体113(第一集電体)及び負極活物質層A(第一活物質層)を含む負極と、固体電解質層Bと、正極集電体115(第二集電体)及び正極活物質層C(第二活物質層)を含む正極と、を備える。
負極集電体113(第一集電体)は、負極活物質層A(第一活物質層)側から第一樹脂層、第一金属層及び第一樹脂層の順で積層された3層積層体である。
正極集電体115(第二集電体)は、正極活物質層C(第二活物質層)側から第二樹脂層、第二金属層及び第二樹脂層の順で積層された3層積層体である。
負極活物質層Aは、負極活物質101、導電助剤105、バインダー109及び固体電解質102を含む。正極活物質層Cは、正極活物質103、導電助剤107、バインダー111及び固体電解質102を含む。
【0015】
正極、固体電解質層及び負極のセットを発電単位とした場合、固体電池は、発電単位を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。固体電池が2つ以上の発電単位を有する場合、それらの発電単位は、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。
【0016】
固体電池は、正極/固体電解質層/負極の積層構造の積層端面(つまり側面)を樹脂等の封止材で封止されていてもよい。負極集電体113及び正極集電体115は、外周面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
固体電池の形状は、特に限定されず、例えば、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、又は積層型であってもよい。
【0017】
以下、第一集電体と第二集電体の両方に共通する事項については、まとめて単に「集電体」と称す。第一集電体と第二集電体は、層構成や成分組成が同じであっても異なっていてもよい。例えば、材料中に含まれる樹脂の種類及び配合量、導電材の種類及び配合量などが異なる場合に、第一集電体と第二集電体とでは成分組成が異なるとみなす。
以下、第一活物質層と第二活物質層の両方に共通する事項については、まとめて単に「活物質層」と称す。第一活物質層と第二活物質層は、成分組成が同じであっても異なっていてもよい。例えば、材料中に含まれる活物質の種類及び配合量、バインダーの種類及び配合量などが異なる場合に、第一活物質層と第二活物質層とでは成分組成が異なるとみなす。
以下、第一樹脂層と第二樹脂層の両方に共通する事項については、まとめて単に「樹脂層」と称す。第一樹脂層と第二樹脂層は、成分組成が同じであっても異なっていてもよい。例えば、材料中に含まれる樹脂の種類及び配合量、導電材の種類及び配合量などが異なる場合に、第一樹脂層と第二樹脂層とでは成分組成が異なるとみなす。
以下、第一金属層と第二金属層の両方に共通する事項については、まとめて単に「金属層」と称す。第一金属層と第二金属層は、成分組成が同じであっても異なっていてもよい。例えば、金属箔を構成する金属の種類が異なる場合に、第一金属層と第二金属層とでは成分組成が異なるとみなす。
【0018】
以下、層構成ごとに詳細に説明する。
【0019】
〔集電体〕
集電体は、樹脂及び導電材を含有する樹脂層と金属層とを含み、活物質層側に樹脂層が設けられている。
【0020】
集電体は、樹脂層及び金属層を含む2層以上の積層体であればよく、2層以上4層以下の積層体であることが好ましく、2層以上3層以下の積層体であることがより好ましい。
【0021】
集電体は、例えば、活物質層側から、活物質層側から、樹脂層、金属層及び樹脂層の順で積層された3層構造を有することが好ましい。つまり、第一集電体は、第一活物質層側から、第一樹脂層、第一金属層及び第一樹脂層の順で積層された3層構造を有し、第二集電体は、第二活物質層側から、第二樹脂層、第二金属層及び第二樹脂層の順で積層された3層構造を有することが好ましい。
【0022】
・樹脂層
樹脂層は、樹脂及び導電材を含有する。
樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ビニル樹脂等の公知の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾール等の公知の導電性高分子などが挙げられる。樹脂は1種単独であってもよく、2種以上の併用であってもよい。
上記の中でも、集電体と活物質層との密着性をより優れたものとする観点からは、樹脂は、熱可塑性樹脂及び導電性高分子の少なくとも一方を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂を含むことがより好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸及びポリアクリロニトリルからなる群より選択される1種の樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0023】
本開示において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の両方を包含する概念であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの両方を包含する概念である。
【0024】
樹脂は、結晶性樹脂、非晶性樹脂、及び両者の混合のいずれであってもよく、樹脂層から活物質層が反ることをより抑制する観点からは、非晶性樹脂であることが好ましい。なお、樹脂の「結晶性」とは、示差走査熱量測定(DSC測定)において、昇温速度10(℃/min)で測定した際に半値幅が10℃以内の吸熱ピークを有することを指す。一方、樹脂の「非晶性」とは、前記半値幅が10℃を超えること、あるいは、明確な吸熱ピークが認められないことを指す。
【0025】
樹脂の軟化温度は、樹脂の種類に応じて異なるが、例えば、樹脂層としての強度の観点及び活物質の劣化を抑制する観点からは、樹脂の軟化温度が後述する固体電解質層に含まれる固体電解質の結晶化温度以下であることが好ましい。なお、樹脂の軟化温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求める。
【0026】
導電材としては、例えば、炭素材料、導電性ポリマー、金属粒子等が挙げられる。
炭素材料としては、例えば、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料等が挙げられる。粒子状炭素材料としては、例えば、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等が挙げられる。繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、気相成長炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリイソチアナフテン等が挙げられる。
金属粒子としては、ニッケル、銅、鉄、及びステンレス鋼等の粒子が挙げられる。
上記の中でも、導電材としては、集電体と活物質層との密着性をより優れたものとする観点、及び、集電体の電子伝導性をより優れたものとする観点からは、炭素材料及び繊維状炭素材料の少なくとも一方を含むことが好ましく、アセチレンブラック(AB)及び気相成長炭素繊維(VGCF)の少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0027】
導電材の含有量は、集電体と活物質層との密着性をより優れたものとする観点、及び、集電体の電子伝導性をより優れたものとする観点からは、樹脂層の全固形分量に対して10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上43質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
樹脂層は、樹脂及び導電材以外のその他の材料をさらに含んでいてもよい。その他の材料としては、例えば、バインダーの他、スラリー中の導電助材の分散性を向上させる「分散剤」や箔とスラリーとの濡れ性を改善する「濡れ剤」などが挙げられる。
【0029】
樹脂層は、集電体の電子伝導性をより優れたものとする観点からは、線膨張係数が100×10-6ppm/K以上500×10-6ppm/K以下であることが好ましく、200×10-6ppm/K以上430×10-6ppm/K以下であることがより好ましく、230×10-6ppm/K以上350×10-6ppm/K以下であることがさらに好ましい。線膨張係数の値は、JIS H7404-1993に準じた方法で測定された値である。
【0030】
樹脂層の線膨張係数を上記範囲内とする手法は特に制限されないが、例えば、樹脂層における樹脂を先述の好適な樹脂とする手法などが挙げられる。
【0031】
樹脂層の厚さは、特に制限されないが、例えば、電池のエネルギー密度の観点からは、薄ければ薄い方が望ましい。樹脂層の厚さは、例えば、集電体と活物質層との密着性をより優れたものとする観点からは、5μm以上80μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
樹脂層の厚さは、エネルギー分散型X線分光器(EDX)付き走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記樹脂層の厚み方向に切断した積層断面を観察し、任意の10点を測定した厚さの平均値である。
【0033】
樹脂層の形成方法は、特に制限されないが、例えば、樹脂が熱可塑性である場合は樹脂及び導電材を含む塗工液を塗工乾燥して成形する方法;樹脂が熱硬化性である場合は樹脂前駆体や単量体等の原料と導電材を鋳型に入れ加熱し固化する方法などが挙げられる。
【0034】
樹脂層、つまり、第一集電体及び前記第二集電体は、集電体と活物質層との密着性をより優れたものとする観点からは、圧縮強度が450MPa以下であることが好ましく、400MPa以下であることがより好ましく、100MPa以上400MPa以下であることがさらに好ましい。
樹脂集電体の圧縮強度は、下記のようにして求める。樹脂集電体の複数枚積層して試験片を作製する。この試験片を一軸プレス機で圧縮をしたときに、塑性変形が始まるときの圧縮強度(つまり5%変形)を、圧縮強度とする。なお、試験片が5%変形の前に破壊した場合、破壊するまでの最大強度を圧縮強度とする。
【0035】
・金属層
金属層は、金属箔として用いられる公知の材料が適用できる。例えば、金属箔としては、アルミニウム箔、ニッケル箔、チタン箔、銅箔等が挙げられる。
【0036】
金属層の厚さは、特に制限されないが、例えば、電子伝導性により優れたものとする観点、及び、活物質層との密着性をより優れたものとする観点からは、1μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることがより好ましく、5μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
集電体全体に対する金属層の厚さ(μm)の割合(金属層/集電体)は、特に制限されないが、例えば、電子伝導性により優れたものとする観点、及び、活物質層との密着性をより優れたものとする観点からは、1/16以上16/1以下であることが好ましく、1/8以上8/1以下であることがより好ましく、1/4以上4/1以下であることがさらに好ましい。
【0038】
〔活物質層〕
活物質層は、活物質を含む。活物質の種類は特に制限されず、負極及び正極それぞれにおける公知の材料が適用できる。
【0039】
活物質層は、必要に応じて、活物質の他に、固体電解質及びバインダー等をさらに含有してもよい。
【0040】
活物質層の厚さは、特に制限されないが、例えば、充放電特性により優れたものとする観点、及び、第一活物質層からの第一集電体の反りをより抑制する観点からは、0.1μm以上100.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上100.0μm以下であることが好ましく、30.0μm以上100.0μm以下であることがより好ましい。
【0041】
活物質層の厚さは、エネルギー分散型X線分光器(EDX)付き走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記活物質層の厚み方向に切断した積層断面を観察し、任意の10点を測定した厚さの平均値である。
【0042】
〔固体電解質層〕
固体電解質層は、固体電解質を含む。固体電解質としては、電池性能の観点から、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及びハロゲン化物固体電解質からなる固体電解質群より選ばれる少なくとも1つの固体電解質種を含むことが好ましく、硫化物固体電解質を含むことがより好ましい。
硫化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として硫黄(S)を含有することが好ましく、Sに加えてさらに例えばLi元素、A元素を含有することが好ましい。A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。硫化物固体電解質は、O及びハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有してもよい。ハロゲン元素(X)としては、例えば、F、Cl、Br、I等が挙げられる。硫化物固体電解質の組成は、特に限定されず、例えば、xLi2S・(100-x)P2S5(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLi2S・(1-x)P2S5)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有してもよい。
Li4-xGe1-xPxS4 (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
酸化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましく、例えば、Li、Q元素(Qは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W及びSの少なくとも一種を表す。)、及びOを含有してもよい。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、Li7-xLa3(Zr2-xNbx)O12(0≦x≦2)、Li5La3Nb2O12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO3、(Li、La)NbO3、(Li、Sr)(Ta、Zr)O3等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO4)3、Li(Al、Ga)(PO4)3等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、Li3PO4、LIPON(Li3PO4のOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、Li3BO3、Li3BO3のOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質として、Li、M及びXを含む固体電解質(MはTi、Al及びYの少なくとも1つを表し、XはF,Cl又はBrを表す。)が好適である。具体的には、Li6-3zYzX6(XはCl又はBrを表し、zは0<z<2を満たす。)、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)が好ましい。Li6-3zYzX6の中でも、リチウムイオン伝導度に優れる点で、Li3YX6(XはCl又はBr表す。)がより好ましく、さらにはLi3YCl6が好ましい。また、Li6-(4-x)b(Ti1-xAlx)bF6(0<x<1、0<b≦1.5)は、例えば、硫化物固体電解質の酸化分解を抑える等の観点から、硫化物固体電解質等の固体電解質とともに含まれることが好ましい。
【0043】
固体電解質の結晶化温度は、採用する固体電解質の種類によって異なるが、例えば、0%以上90%以下であることが好ましく、20%以上85%以下であることがより好ましく、50%以上85%以下であることがさらに好ましい。なお、固体電解質の結晶化度は、X線回折法により測定された値である。
【0044】
〔中間層〕
本開示に係る固体電池は、第一集電体と第一活物質層との間に、第一活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第一中間層をさらに有していることが好ましい。第一中間層を有すると、第一活物質層と第一樹脂層の密着性がより向上する。
本開示に係る固体電池は、第二集電体と第二活物質層との間に、第二活物質層に含まれる少なくとも1種の成分と樹脂層に含まれる少なくとも1種の成分が混在する第二中間層をさらに有していることが好ましい。第二中間層を有すると、第二活物質層と第二樹脂層の密着性がより向上する。
【0045】
以下、第一中間層と第二中間層の両方に共通する事項については、まとめて単に「中間層」と称す。
【0046】
中間層は、アンカー効果を高め、集電体と活物質層との密着性をより向上させる観点から、少なくとも活物質層に含まれる活物質と樹脂層に含まれる樹脂が混在する層であることが好ましい。
【0047】
中間層は、アンカー効果を高め、集電体と活物質層との密着性をより向上させる観点から、樹脂層の厚さに対する中間層の厚さ(中間層/樹脂層)が、1/30以上1/4以下であることが好ましく、1/20以上1/5以下であることがより好ましく、1/10以上1/6以下であることがさらに好ましい。
【0048】
中間層の厚さは、特に制限されないが、例えば、充放電特性により優れたものとする観点、及び、アアンカー効果を高め、集電体と活物質層との密着性をより向上させる観点からは、0.1μm以上15.0μm以下であることが好ましく、0.4μm以上10.0μm以下であることがより好ましく、0.6μm以上8.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
中間層の厚さは、エネルギー分散型X線分光器(EDX)付き走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記中間層の厚み方向に切断した積層断面を観察し、任意の10点を測定した厚さの平均値である。
中間層に含まれる成分は、エネルギー分散型X線分光器(EDX)付き走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記中間層の厚み方向に切断した積層断面の化学組成をEDX分析することにより確認できる。
【0050】
中間層の形成方法は、特に制限されないが、例えば、1)樹脂層における樹脂が熱可塑性である場合は、樹脂層と活物質層とが積層された積層体を、前記樹脂の軟化温度以上に加熱し、前記積層体をプレスする工程を含むことで形成する方法;2)樹脂層における樹脂が熱硬化性である場合は、熱硬化性樹脂の前駆体と活物質層における活物質やバインダー等の成分とを鋳型に充填し加熱する等により成形する方法などが挙げられる。
【実施例0051】
<実施例1>
(樹脂層の作製)
樹脂スラリー(固形分率9.68質量%、溶媒:2-エチルヘキサノール、固形分割合(ビニル系樹脂:導電材VGCF(登録商標)-H)=80:20質量%、VGCF(登録商標)-Hは株式会社レゾナック製)をNi箔(福田金属箔粉工業製)上にアプリケーターを用いてブレード法により塗工した。続いて、これを170℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、Ni箔(金属層)の上に樹脂層を形成した。このようにして、集電体を得た。
【0052】
(活物質層の作製)
ポリプロピレン(PP)製容器に、2,6-ジメチル-4-ヘプタノンと、SBR系バインダーと、固体電解質(Li2S-P2S5系ガラスセラミクス)と、負極活物質(シリコン)を投入し、超音波分散装置(エスエムテー製、UH-50)でPP製容器を30秒間攪拌した。次に、PP製容器を振とう器(柴田科学製、TTM-1)で3分間振とうさせ、更に超音波分散装置で30秒間攪拌し、電極スラリーを得た。得られた電極スラリーを、集電体の樹脂層上に、アプリケーターを用いて、ブレード法により塗工した。塗工膜を170℃のホットプレート上で30分間乾燥させ、金属層(Ni箔)上の樹脂層の上に 負極活物質層を形成し、実施例1の電極試験片(負極活物質層/樹脂層/Ni箔)を得た。
【0053】
<比較例1>
樹脂スラリーを、導電材VGCF(登録商標)-Hを含まない仕様とした以外は、実施例1と同様の仕様として、比較例1の電極試験片を得た。
【0054】
<比較例2>
金属層の上に樹脂層を設けず、金属層の上に直接負極活物質層を形成する仕様とした以外は、実施例1と同様の仕様として、比較例2の電極試験片を得た。
【0055】
<電子伝導性の評価>
各例の電極試験片について、金属層側の表面、及び、前記金属層の表面と対向する側の面、つまりに活物質層側の表面に、5cm間隔で4端子プローブを当て、表面抵抗値を測定した。結果を1に示す。
【0056】
<集電体と活物質層との密着性の評価>
各例の電極試験片を20mm×80mmに裁断し、線圧1.5kN/cm、温度25℃の条件でロールプレス成形した後、引張試験装置によりT字剥離試験によるすることで、剥離強度の測定を行った。また、目視観察により、集電体が活物質層から剥離しているかどうかを評価した。結果をそれぞれ表1に示す。表中、剥離強度の値が高いほど集電体と活物質層との密着性が高いことを表している。
【0057】
【0058】
表1に示すように、実施例の電極試験片は、比較例の電極試験片に比べて、活物質層と集電体との密着性及び電子伝導性の両方に優れることがわかった。