(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025083684
(43)【公開日】2025-06-02
(54)【発明の名称】ガス測定装置およびガス測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20250526BHJP
G01N 33/00 20060101ALI20250526BHJP
【FI】
G01N21/3504
G01N33/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197208
(22)【出願日】2023-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】川野 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA03
2G059BB01
2G059CC13
2G059EE01
2G059EE12
2G059HH01
2G059MM01
2G059MM04
(57)【要約】
【課題】圧力が変化する反応容器内で、圧力センサを設けることなく特定のガスを測定することができるガス測定装置およびガス測定方法の提供。
【解決手段】ガス測定装置5は、メタンガスを生成する反応容器2内に検出光を照射し、反応容器2内のガス雰囲気を通過した検出光の吸光度を測定する吸光度測定装置10と、吸光度測定装置10が測定した吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析部21と、吸光度データ解析部21が解析した吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出部22と、ピーク検出部22が検出した複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて反応容器2内の圧力を算出する圧力算出部23と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、前記反応容器内のガス雰囲気を通過した前記検出光の吸光度を測定する吸光度測定装置と、
前記吸光度測定装置が測定した前記吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析部と、
前記吸光度データ解析部が解析した前記吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部が検出した前記複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて前記反応容器内の圧力を算出する圧力算出部と、を備える、ガス測定装置。
【請求項2】
前記吸光度データ解析部が解析した特定の波長の前記吸光度のピーク値及び前記圧力算出部が算出した前記反応容器内の圧力に基づいて、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出部を備える、請求項1に記載のガス測定装置。
【請求項3】
前記ガス濃度算出部が算出した前記ガスの濃度を出力するガス濃度出力部を備える、請求項2に記載のガス測定装置。
【請求項4】
前記ガス濃度算出部は、予め記憶された所定の基準圧力における前記吸光度のピーク値と前記ガスの濃度とが対応しているテーブルデータと、前記吸光度のピーク値とを照合するデータ照合部と、を備える、請求項2に記載のガス測定装置。
【請求項5】
前記ガス濃度算出部は、前記吸光度データ解析部が解析した特定の波長の前記吸光度のピーク値を、前記圧力算出部が算出した前記反応容器内の圧力から、所定の基準圧力におけるピーク値に換算し規格化するピーク値規格化部を備え、
前記データ照合部は、予め記憶された前記基準圧力における前記吸光度のピーク値と前記ガスの濃度とが対応している前記テーブルデータと、前記規格化した前記吸光度のピーク値とを照合する、請求項4に記載のガス測定装置。
【請求項6】
前記ピーク検出部は、前記吸光度データ解析部が解析した前記吸光度のスペクトルから、隣接する2点のピーク値を検出する、請求項1~5のいずれか一項に記載のガス測定装置。
【請求項7】
前記ピーク検出部は、所定の波長の範囲内に、前記隣接する2点のピーク値の組を複数検出した場合、当該隣接する2点のピーク値の差が最も大きい組を選択する、請求項6に記載のガス測定装置。
【請求項8】
ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、前記反応容器内のガス雰囲気を通過した前記検出光の吸光度を測定する吸光度測定工程と、
前記吸光度測定工程で測定した前記吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析工程と、
前記吸光度データ解析工程で解析した前記吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出工程と、
前記ピーク検出工程で検出した前記複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて前記反応容器内の圧力を算出する圧力算出工程と、を備える、ガス測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス測定装置およびガス測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、駆動電流および温度に応じた波長および強度のレーザ光を発振するレーザと、所定の温度でかつ所定の電流値を中心にして任意の振幅で該レーザの駆動電源を変調し、特定ガスの吸収線の中心にレーザ光を安定化させる波長安定化装置と、測定対象とする特定ガスを収容すると共にその特定ガスの温度を一定に保つ測定ガス用セルと、任意の振幅のレーザ光を測定ガス用セルに通して得られる透過光の強度を検出する光検出器と、この検出器からの信号中の特定成分を位相敏感検波する共に上記変調振幅に対応した検波信号の変化より上記測定ガス用セル内の特定ガスの濃度を測定する測定手段と、を備えたことを特徴とするガス濃度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、メタンガスなどは、吸収スペクトル線の一つに着目すると、吸収係数は大気の全圧に依存した値をもつため、炭坑やプラントなど気圧変化の激しい場所で濃度測定を行う場合、別に圧力センサを設けて圧力の監視を行い、その値に基づいて補正を行わないと、正確な濃度測定が行えない、という課題があった。
上記従来技術では、圧力センサを設けない代わりに、測定対象とする特定ガスを収容すると共にその特定ガスの温度を一定に保つ測定ガス用セルを設置することで、上記課題を解決しているが、測定ガス用セルの設置にコストがかかるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、圧力が変化する反応容器内で、圧力センサを設けることなく特定のガスを測定することができるガス測定装置およびガス測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るガス測定装置は、ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、前記反応容器内のガス雰囲気を通過した前記検出光の吸光度を測定する吸光度測定装置と、前記吸光度測定装置が測定した前記吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析部と、前記吸光度データ解析部が解析した前記吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出部と、前記ピーク検出部が検出した前記複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて前記反応容器内の圧力を算出する圧力算出部と、を備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、前記吸光度データ解析部が解析した特定の波長の前記吸光度のピーク値及び前記圧力算出部が算出した前記反応容器内の圧力に基づいて、前記ガスの濃度を算出するガス濃度算出部と、前記ガス濃度算出部が算出した前記ガスの濃度を出力するガス濃度出力部と、を備えてもよい。
【0008】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、前記ガス濃度算出部が算出した前記ガスの濃度を出力するガス濃度出力部を備えてもよい。
【0009】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、予め記憶された所定の基準圧力における前記吸光度のピーク値と前記ガスの濃度とが対応しているテーブルデータと、前記吸光度のピーク値とを照合するデータ照合部を備えてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、前記ガス濃度算出部は、前記吸光度データ解析部が解析した特定の波長の前記吸光度のピーク値を、前記圧力算出部が算出した前記反応容器内の圧力から、所定の基準圧力におけるピーク値に換算し規格化するピーク値規格化部を備え、前記データ照合部は、予め記憶された前記基準圧力における前記吸光度のピーク値と前記ガスの濃度とが対応している前記テーブルデータと、前記規格化した前記吸光度のピーク値とを照合してもよい。
【0011】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、前記ピーク検出部は、前記吸光度データ解析部が解析した前記吸光度のスペクトルから、隣接する2点のピーク値を検出してもよい。
【0012】
また、本発明の一態様に係るガス測定装置において、前記ピーク検出部は、所定の波長の範囲内に、前記隣接する2点のピーク値の組を複数検出した場合、当該隣接する2点のピーク値の差が最も大きい組を選択してもよい。
【0013】
本発明の一態様に係るガス測定方法は、ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、前記反応容器内のガス雰囲気を通過した前記検出光の吸光度を測定する吸光度測定工程と、前記吸光度測定工程で測定した前記吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析工程と、前記吸光度データ解析工程で解析した前記吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出工程と、前記ピーク検出工程で検出した前記複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて前記反応容器内の圧力を算出する圧力算出工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の一態様によれば、圧力が変化する反応容器内で、圧力センサを設けることなく特定のガスを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係るメタン生成装置の構成図である。
【
図2】一実施形態に係るメタンガスの吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【
図3】一実施形態に係る2点のピーク値の強度比(I1/I2)と圧力との関係を示すグラフである。
【
図4】一実施形態に係る各圧力におけるメタン濃度と吸光度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係るガス測定装置およびガス測定方法について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0017】
〔概要〕
特許文献1のガス濃度測定装置では、半導体レーザから発したレーザ光が光分岐器で分岐され、基準ガス用セルおよび測定ガス用セルに伝送される。基準ガス用セルを透過した光は、検出器によって受信され、受信信号はロックインアンプおよび積分器を介して両極性定電流電源に到達する。そして、この両極性定電流電源からペルチェ素子に正または負の電流を流して半導体レーザの温度を制御し、レーザ光の発信を安定化する。測定ガス用セルを透過した光は、光検出器によって受信され、受信信号はロックインアンプおよびロックインアンプに送られる。次いで割算器、信号処理部での信号処理により圧力を求め、ガス濃度を得る。
【0018】
このように、従来のガス濃度測定装置では、測定ガス用セルを設置する必要があった。さらに、このガス濃度測定装置では、半導体レーザの出力を制御するために、基準ガス及び、基準ガス封入用のガスセルを別途設置する必要があった。
【0019】
本発明の実施形態は、ガス測定装置およびガス測定方法において、ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、反応容器内のガス雰囲気を通過した検出光の吸光度を測定する。次に、測定した吸光度のデータをスペクトル解析し、解析した吸光度のスペクトルから2点のピーク値を検出する。そして、検出した2点のピーク値の強度比に基づいて反応容器内の圧力を算出する。これにより、吸光度のピーク値から圧力を推定できるので、圧力センサの設置が不要となる。また、反応容器内の滅菌などのために熱処理に伴う圧力センサの取り外しが不要となる。また、ガスクロマトグラフのようなガスの抜き取りを行う必要がないため、反応容器内への不純物混入を防ぐことができる。さらに、圧力が変化する反応容器内で特定のガス濃度を正確に見積もることができる。
【0020】
〔実施形態〕
図1は、一実施形態に係るメタン生成装置1の構成図である。
メタン生成装置1は、
図1に示すように、反応容器2と、ガス供給装置3と、生成ガス抽出装置4と、ガス測定装置5と、を具備している。
【0021】
反応容器2は、培養液6の液中でメタン生成菌を培養する。メタン生成菌としては、メタノバクテリウム・アルカリフィラム(Methanobacterium alcaliphilum)、メタノバクテリウム・ブライアンティイ(Methanobacterium bryantii)、メタノバクテリウム・コンゴレンセ(Methanobacterium congolense)、メタノバクテリウム・デフルビイ(Methanobacterium defluvii)、メタノバクテリウム・エスパル(Methanobacterium espanolae)、メタノバクテリウム・フォルミシカム(Methanobacterium formicicum)、メタノバクテリウム・イバノビイ(Methanobacterium ivanovii)、メタノバクテリウム・パルストレ(Methanobacterium palustre)、メタノバクテリウム・サーマグレガンス(Methanobacterium thermaggregans)、メタノバクテリウム・ウリギノサム(Methanobacterium uliginosum)、メタノブレビバクター・アシディデュランス(Methanobrevibacter acididurans)、メタノブレビバクター・アルボリフィリカス(Methanobrevibacter arboriphilicus)、メタノブレビバクター・ゴッシアリキイ(Methanobrevibacter gottschalkii)、メタノブレビバクター・オレヤエ(Methanobrevibacter olleyae)、メタノブレビバクター・ルミナンチウム(Methanobrevibacter ruminantium)、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevibacter smithii)、メタノブレビバクター・オエセイ(Methanobrevibacter woesei)、メタノブレビバクター・ウォルニイ(Methanobrevibacter wolinii)、メタノサーモバクター・マーブルゲンシス(Methanothermobacter marburgensis)、メタノサーモバクター・サーモオートトロフィカス(Methanothermobacter thermoautotrophicus)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカス(Methanobacterium thermoautotrophicus)、メタノサーモバクター・サーモフレキアス(Methanothermobacter thermoflexus)、メタノサーモバクター・サーモフィリクス(Methanothermobacter thermophilics)、メタノサーモバクター・ウォルフェイイ(Methanothermobacter wolfeii)、メタノサームス・ソシアビリス(Methanothermus sociabilis)、メタノコルプスクルム・ババリカム(Methanocorpusculum bavaricum)、メタノコルプスクルム・パルバム(Methanocorpusculum parvum)、メタノクレウス・チクオエンシス(Methanoculleus chikuoensis)、メタノクレウス・サブマリナス(Methanoculleus submarinus)、メタノゲニウム・フリギダム(Methanogenium frigidum)、メタノゲニウム・リミナタンス(Methanogenium liminatans)、メタノゲニウム・マリナム(Methanogenium marinum)、メタノミクロビウム・モービレ(Methanomicrobium mobile)、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)、メタノコッカス・エオリカス(Methanococcus aeolicus)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)、メタノコッカス・バンニエリ(Methanococcus vannielii)、メタノコッカス・ボルタエイ(Methanococcus voltaei)、メタノサーモコッカス・サーモリソトロフィカス(Methanothermococcus thermolithotrophicus)等を例示することができる。
【0022】
本実施形態の反応容器2は、メタン生成菌として、Methanobacteriales, Methanomicrobiales、Methanocellales、Methanomassillicoccales等の菌株を培養する。これらの水素資化性メタン生成菌は、嫌気性の地下水中にも含まれることがあり、メタン生成菌を含む嫌気性の地下水に二酸化炭素(CO2)と水素ガス(H2)の混合ガスを添加することでメタンを得ることができる。つまり、反応容器2には、メタン生成菌を培養するための培地が入った培養液6(例えば嫌気性の地下水)が貯溜されている。反応容器2内は、酸素存在量を可能な限り減少させた嫌気状態となっている。
【0023】
ガス供給装置3は、バルブ3aを開き、反応容器2にメタン生成菌が必要とする二酸化炭素及び水素ガスを供給する。ガス供給装置は、H2/CO2混合ガス(例えば体積比で80vol.%:20vol.%)を反応容器2内の気相部分に導入して所定の圧力まで加圧し、メタン生成菌の培養を開始する。
【0024】
生成ガス抽出装置4は、ガス測定装置5の測定結果に基づきバルブ4aを開き、メタン生成菌(例えば、水素資化性メタン生成菌)が生成したメタンを抽出する。生成ガス抽出装置4は、反応容器2内の気相部分から生成ガスを取り出し、図示しない外部タンクに保存する。なお、メタンの抽出完了後はバルブ4aを閉じ、再度、ガス供給装置3からH2/CO2混合ガスを反応容器2に供給し、メタン生成菌の培養およびメタン生成を行う。
【0025】
メタン生成菌の培養を開始する前(H2/CO2混合ガスを反応容器2に供給する前)に、ガス供給装置3等から反応容器2内に不活性ガスを供給するとよい。不活性ガスの供給(ガスパージ)によって、反応容器2内を嫌気状態にすることができる。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス及びヘリウムガス等を例示することができる。
【0026】
反応容器2には、培養液6と、H2/CO2混合ガス(反応ガス)との気液界面7の面積を攪拌・混合する攪拌機構8が設けられている。攪拌機構8は、攪拌翼を備え、培養液6の気液界面7を波立たせる。これにより、培養液6への反応ガスの溶解を促進させる。なお、気液界面7の面積を増やすことができれば、例えば、反応容器2自体を振動させる機構であっても構わない。
【0027】
ガス測定装置5は、反応容器2内で生成したメタンガスの濃度を測定及び出力する。ガス測定装置5の測定結果は、図示しない反応容器2の周辺装置によって管理され、メタン生成装置1の長期稼働(メタンの長期生成)を可能とする。ガス測定装置5は、吸光度測定装置10と、情報処理部11と、濃度出力部12と、を備えている。
【0028】
吸光度測定装置10は、メタンガスを生成する反応容器2内に検出光を照射し、反応容器2内でガスを含む気相部分すなわち反応容器2内のガス雰囲気を通過した検出光の吸光度を測定する(吸光度測定工程)。本実施形態の測定対象は、メタンガスであり、検出光としては、赤外線及び近赤外線の少なくとも一方を用いることが好ましい。なお、測定対象は、メタンガスに限らない。メタンガス以外の特定ガスを検査対象とする場合、その特定ガスに適した波長の検出光を用いるとよい。
【0029】
吸光度測定装置10は、例えば、反応容器2内に挿入されるプローブ式を採用できる。プローブ式の吸光度測定装置10は、プローブの基端側に検出光の投光部及び受光部を備え、プローブの先端部で検出光を基端部側に反射する反射部を備えている。プローブの基端部と先端部との間には、通気孔が設けられており、この通気孔を通る反応容器2内のガスに検出光を照射し、その吸光度を測定することができる。
【0030】
情報処理部11は、装置制御部20と、吸光度データ解析部21と、ピーク検出部22と、圧力算出部23と、ガス濃度算出部24(ピーク値規格化部24a及びデータ照合部24b)と、を備えている。これらは、機能として分離したものであるが、物(ハード)としては、同一の装置(例えばPCなどの演算処理装置)によって構成してもよいし、複数の装置によって構成されていても構わない。
【0031】
吸光度データ解析部21、ピーク検出部22、圧力算出部23、及びガス濃度算出部24は、吸光度測定装置10の測定データを処理するものである。装置制御部20は、吸光度測定装置10の動作を制御すると共に、吸光度測定装置10の測定データの処理結果に基づいて、上述したガス供給装置3のバルブ3a、生成ガス抽出装置4のバルブ4aや、その他の図示しない反応容器2の周辺装置の動作を制御するものである。なお、反応進行中は、バルブ3a,4aを閉じ、反応容器2の内部が密閉された状態とするとよい。
【0032】
吸光度データ解析部21は、吸光度測定装置10が測定した吸光度のデータをスペクトル解析する(吸光度データ解析工程)。
図2は、一実施形態に係るメタンガスの吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
図2のように、メタンガスの吸収スペクトルは、赤外線から近赤外線の波長域において、特徴的な複数のピーク値I1,I2,I3を示している。
【0033】
ピーク検出部22は、吸光度データ解析部21が解析した吸光度のスペクトルから2点のピーク値を検出する(ピーク検出工程)。具体的に、ピーク検出部22は、吸光度データ解析部21が解析した吸光度のスペクトルから、最も高いピーク値I1を含む、隣接する2点のピーク値を検出する。隣接する2点のピーク値を検出することで、吸光度スペクトルの検出範囲を狭め、演算処理の負荷を下げることができる。なお、ピーク値は、吸光度の傾きがゼロ若しくは+から-に転換したところから検出することができる。
【0034】
図2に示すように、所定の波長の範囲内に、隣接する2点のピーク値の組を複数(例えばI1,I2の組、I1,I3の組を)検出した場合、ピーク検出部22は、当該隣接する2点のピーク値の差が最も大きい組(I1,I2の組)を選択する。これにより、後述するピーク値の強度比(I1/I2)の変化が顕著になり、その後の圧力の推定精度が高まる。なお、予め特徴的なピーク値が出る特定波長が分かっていれば、2点のピーク値の組はその特定波長の組に決めてもよい。
【0035】
圧力算出部23は、ピーク検出部22が検出した2点のピーク値の強度比(I1/I2)に基づいて反応容器2内の圧力を算出する(圧力算出工程)。
図3は、一実施形態に係る2点のピーク値の強度比(I1/I2)と圧力との関係を示すグラフである。
図3に示すように、2点のピーク値の強度比(I1/I2)と圧力には、相関関係がある。圧力算出部23は、
図3に示す2点のピーク値の強度比(I1/I2)と圧力の関係をもとに、スペクトル取得時の圧力を算出する。
【0036】
ガス濃度算出部24は、吸光度データ解析部21が解析した特定の波長の吸光度のピーク値(本実施形態ではI2)及び圧力算出部23が算出した反応容器2内の圧力に基づいて、ガスの濃度を算出する(ガス濃度算出工程)。なお、上記特定の波長の吸光度のピーク値はI1でもよいが、近くにもう一つのピーク値のI3があるため、その影響を受ける可能性がある。そのため、ガス濃度算出部24は、I2を参照している。
【0037】
ガス濃度算出部24は、吸光度データ解析部21が解析した特定の波長の吸光度のピーク値(本実施形態ではI2)を、圧力算出部23が算出した反応容器2内の圧力から、所定の基準圧力におけるピーク値に換算し規格化するピーク値規格化部24aと、予め記憶された基準圧力における吸光度のピーク値とガスの濃度とが対応しているテーブルデータと、当該規格化した吸光度のピーク値と、を照合するデータ照合部24bと、を備えている。
【0038】
図4は、一実施形態に係る各圧力におけるメタン濃度と吸光度との関係を示すグラフである。
図4に示す通り、メタン濃度と吸光度は、圧力によって傾きの異なる直線性を示す。つまり、メタン濃度が一定のとき、各圧力における吸光度と圧力は一定の割合となる。したがって、ピーク値規格化部24aは、基準圧力(ここでは1atmとする)における吸光度に規格化することができ、吸光度(本実施形態ではI2)を1atmでのピーク値に変換する。そして、データ照合部24bには、1atmでのメタン濃度と吸光度の検量線との関係を記憶したテーブルデータを持たせ、ピーク値規格化部24aで求めた1atmで換算した吸光度からメタン濃度を算出する。
【0039】
濃度出力部12は、ガス濃度算出部24が算出したメタンガスの濃度を出力する(ガス濃度出力工程)。濃度出力部12は、例えば、ディスプレイ装置などである。なお、濃度出力部12は、メタンガスの濃度だけでなく、その算出の途中で求めた反応容器2内の圧力などを出力してもよい。
【0040】
このように、上述した本実施形態に係るガス測定装置5によれば、吸光度スペクトルにおける、隣接する吸光度の2点のピーク値の強度比を比較することで、反応容器2内の圧力を推定することができる。これにより、圧力センサを使用することなく、反応容器2内の圧力を推定することができる。また、基準ガス及び、基準ガス封入用のガスセルを別途設置する必要が無く、取得したスペクトルデータのみで反応容器2内の圧力を推定することができる。また、圧力依存性をもつ吸光度を、推定した圧力により補正することができるため、同一圧力条件下でのガス濃度比較ができる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係るガス測定装置5は、メタンガスを生成する反応容器2内に検出光を照射し、反応容器2内のガス雰囲気を通過した検出光の吸光度を測定する吸光度測定装置10と、吸光度測定装置10が測定した吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析部21と、吸光度データ解析部21が解析した吸光度のスペクトルから2点のピーク値I1,I2を検出するピーク検出部22と、ピーク検出部22が検出した2点のピーク値の強度比(I1/I2)に基づいて反応容器2内の圧力を算出する圧力算出部23と、を備える。
【0042】
この構成によれば、圧力が変化する反応容器2内で、圧力センサを設けることなく特定のガスを測定することができる。つまり、吸光度のピーク値から圧力を推定できるので、圧力センサの設置が不要となる。また、反応容器2内の滅菌などのために熱処理に伴う圧力センサの取り外しが不要となる。また、ガスクロマトグラフのようなガス試料の抜き取りを行う必要がないため、反応容器内への不純物混入を防ぐことができる。さらに、圧力が変化する反応容器内で特定のガス濃度を正確に見積もることができる。
【0043】
また、本実施形態に係るガス測定方法は、ガスを生成する反応容器2内に検出光を照射し、反応容器2内のガス雰囲気を通過した検出光の吸光度を測定する吸光度測定工程と、吸光度測定工程で測定した吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析工程と、吸光度データ解析工程で解析した吸光度のスペクトルから2点のピーク値I1,I2を検出するピーク検出工程と、ピーク検出工程で検出した2点のピーク値の強度比(I1/I2)に基づいて反応容器2内の圧力を算出する圧力算出工程と、を備える。
【0044】
この構成によれば、同様に、圧力が変化する反応容器2内で、圧力センサを設けることなく特定のガスを測定することができる。
【0045】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0046】
例えば、測定対象は、メタンガスに限らない。上述したメタンガスと同様に、近赤外および赤外吸収を示す炭化水素や窒素化合物、硫黄化合物でも測定対象とすることができる。なお、ピーク強度比(I1/I2)と圧力の関係、各圧力におけるガス濃度と吸光度の関係が分かれば、圧力センサを使用せずに圧力補正を行い、そのガスの濃度を定量的に評価できるため、測定対象は近赤外および赤外吸収を示すガスに限られない。
【0047】
また、例えば、ピーク検出部22は、2点のピーク値のみを検出する構成に限らない。例えば、ピーク検出部22は、はじめは3点以上のピーク値を検出して、そのうち最適な2点を選出して、そのピーク値を利用しても構わない。さらに、ピーク検出部22は、選出から漏れた1または複数のピーク値等を利用して、圧力やガス濃度に補正をかけても構わない。
【0048】
なお、上述した実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0049】
(付記1)
ガスを生成する反応容器内に検出光を照射し、前記反応容器内のガス雰囲気を通過した前記検出光の吸光度を測定する吸光度測定装置と、
前記吸光度測定装置が測定した前記吸光度のデータをスペクトル解析する吸光度データ解析部と、
前記吸光度データ解析部が解析した前記吸光度のスペクトルから複数のピーク値を検出するピーク検出部と、
前記ピーク検出部が検出した前記複数のピーク値のうちの2点のピーク値の強度比に基づいて前記反応容器内の前記ガスの濃度を出力するガス濃度出力部と、を備える、ガス測定装置。
【符号の説明】
【0050】
1…メタン生成装置、2…反応容器、3…ガス供給装置、3a…バルブ、4…生成ガス抽出装置、4a…バルブ、5…ガス測定装置、6…培養液、7…気液界面、8…攪拌機構、10…吸光度測定装置、11…情報処理部、12…濃度出力部、20…装置制御部、21…吸光度データ解析部、22…ピーク検出部、23…圧力算出部、24…ガス濃度算出部、24a…ピーク値規格化部、24b…データ照合部、CO2…二酸化炭素、H2…水素ガス、I1…ピーク値、I2…ピーク値、I3…ピーク値