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2025-84007光燃料電池、電気化学デバイス、及び発電方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025084007
(43)【公開日】2025-06-02
(54)【発明の名称】光燃料電池、電気化学デバイス、及び発電方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20250526BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20250526BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20250526BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250526BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20250526BHJP
   H01M 8/04119 20160101ALI20250526BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20250526BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20250526BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20250526BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20250526BHJP
   B01J 21/06 20060101ALI20250526BHJP
   B01J 23/50 20060101ALI20250526BHJP
   B01J 35/58 20240101ALI20250526BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/02
H01M8/10 101
H01M8/1039
H01M8/04119
H01M8/04 Z
H01M8/04828
H01G9/20 101
B01J35/39
B01J21/06 M
B01J23/50 M
B01J35/58 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197739
(22)【出願日】2023-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竝木 裕司
(72)【発明者】
【氏名】堀毛 悟史
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA04B
4G169BA17
4G169BA48A
4G169BB02B
4G169BC32B
4G169BC50B
4G169CB81
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA10
4G169EE09
4G169FA01
4G169FA04
4G169FB23
4G169FB33
4G169FB57
4G169HB01
4G169HC29
4G169HE09
5H018BB01
5H018DD06
5H018EE17
5H126AA02
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG19
5H126HH01
5H126HH02
5H126JJ03
5H126JJ06
5H126JJ10
5H127AA06
5H127AA08
5H127AC07
5H127BA01
5H127BB02
5H127BB12
5H127DC07
5H127DC27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の光燃料電池は燃料として液体状のものを使用しているため、小型化、薄型化することが困難であった。また、燃料として気体状のものを使用する光燃料電池は、時間の経過に伴い発電持続性が低下するという課題があった。そこで、本発明は発電量の持続性に優れた、光燃料電池、電気化学デバイス及び発電方法の提供を課題とする。
【解決手段】負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスと、前記負極と前記正極とを電気的に接続する外部回路と、を備える、水蒸気を燃料として発電する光燃料電池であって、前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、前記正極は、第2の光触媒層を備え、前記第1の光触媒層は、光を照射することにより水の分解反応を触媒し、前記第2の光触媒層は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する、光燃料電池により、解決した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスと、前記負極と前記正極とを電気的に接続する外部回路と、を備える、水蒸気を燃料として発電する光燃料電池であって、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、第2の光触媒層を備え、
前記第1の光触媒層は、光を照射することにより水の分解反応を触媒し、前記第2の光触媒層は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する、光燃料電池。
【請求項2】
前記正極は、さらに配位高分子層を備える、請求項1に記載の光燃料電池。
【請求項3】
前記配位高分子層は、プロトン配位性分子、オキソ酸イオン及び金属イオンを含み、前記オキソ酸イオン及び/又は前記プロトン配位性分子が、前記金属イオンに配位した配位高分子を含む、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項4】
前記プロトン配位性分子は、アミン、イミン、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール、及びこれらの誘導体から成る群から選ばれる1種以上である請求項3に記載の光燃料電池。
【請求項5】
前記プロトン配位性分子が、一般式R-NHで表される第一級アミン、一般式R(R)-NHで表される第二級アミン、一般式R(R)(R)-Nで表される第三級アミン、炭素直鎖ジアミン、飽和環状アミン、及び飽和環状ジアミンから成る群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の光燃料電池。
(R、R、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、脂環式炭化水素基、及び複素環基のうちのいずれかを示す。)
【請求項6】
前記金属イオンが、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、及びガリウムイオンから成る群から選ばれる1種以上である、請求項3に記載の光燃料電池。
【請求項7】
前記オキソ酸イオンが、リン酸イオン、リン酸水素イオン、及びリン酸二水素イオンから成る群から選ばれる1種以上である、請求項3に記載の光燃料電池。
【請求項8】
前記電解質層は、フッ素樹脂等の高分子中に酸性基を含む膜、又は前記配位高分子の膜である、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項9】
前記負極及び正極は、さらに導電層を備え、
前記導電層は、導電性不織布で形成される、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項10】
前記負極は、さらに吸湿層を備える、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項11】
さらに、前記負極に水蒸気を供給する水蒸気供給機構と、
前記正極に酸素を供給する酸素供給機構と、を備える、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項12】
前記正極を加湿する加湿機構を備える、請求項2に記載の光燃料電池。
【請求項13】
前記光燃料電池は、
放電電流が最大値に到達してから少なくとも30分以上、
前記放電電流の最大値と比較して、減少率20%以内の放電電流を維持することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光燃料電池。
【請求項14】
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスであって、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、第2の光触媒層を備え、
前記第1の光触媒層は、光を照射することにより水の分解反応を触媒し、前記第2の光触媒層は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する、電気化学デバイス。
【請求項15】
前記正極は、さらに配位高分子層を備える、請求項14に記載の電気化学デバイス。
【請求項16】
前記負極は、さらに吸湿層を備える、請求項14又は15に記載の電気化学デバイス。
【請求項17】
前記電気化学デバイスの前記負極から前記正極までの厚さが、0.6mm以下である、請求項14又は15に記載の電気化学デバイス。
【請求項18】
水蒸気を燃料とする発電方法であって、負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスを備える光燃料電池における前記負極及び正極に光を照射して発電する発電工程を備え、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、及び第2の光触媒層を備え
前記発電工程は、光を照射することにより、前記負極において水を分解する反応が進行し、前記正極において酸素の還元反応が進行する、発電方法。
【請求項19】
前記正極が、配位高分子層を備え、
前記正極を加湿する加湿工程を備える、請求項18に記載の発電方法。
【請求項20】
さらに、前記負極及び前記正極の相対湿度を70%RH以下にする湿度調整工程を有する、請求項19に記載の発電方法。
【請求項21】
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスの製造方法であって、
配位高分子体を、加熱した光触媒層に配置し、
加熱した前記光触媒層の上で前記配位高分子体を融解し、前記配位高分子体をアモルファス状態として、電極を作成する電極作成工程と、
前記負極と、前記電解質層と、前記正極とをこの順に接合する接合工程を含む、電気化学デバイスの製造方法。
【請求項22】
前記電解質層は、配位高分子の膜であり、
前記接合工程は、前記負極と、前記電解質層と、前記正極とをこの順に重ね、これらを加熱圧着することを含む、請求項21に記載の電気化学デバイスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気を燃料として発電する光燃料電池、当該光燃料電池に用いる電気化学デバイス、及びこれらを用いた発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体高分子型燃料電池、アルカリ電解質型燃料電池、リン酸型燃料電池等の燃料電池が開発され、実用化されている。近年では、光触媒を用いた燃料電池、すなわち光燃料電池が提案されている。光燃料電池は、バイオマスや廃棄物等に含まれる有機化合物、窒素含有化合物を燃料とすることができ、資源の有効活用が可能であるという点で注目を集めている。
【0003】
特許文献1には、液相燃料にレドックスメディエータを含有させることで、光電流変換効率を向上させた光燃料電池が提案されている。
特許文献2には、負極層に接した光触媒層の一部又は全部に、有機色素層を備えることで、起電力を高めた光燃料電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-218080号公報
【特許文献2】特開2019-209259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の発明は、光燃料電池の燃料として、有機化合物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含む液相燃料を用いている。また、特許文献2に記載の発明は、液体状の水を燃料として用いている。これら従来技術に係る光燃料電池は、起電力や光電流変換効率等、優れた性能を発揮するものであるが、燃料として液体状のものを使用しているため、小型化、薄型化することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、新規な水蒸気を燃料とした光燃料電池、電気化学デバイス、及び発電方法を提供することを課題とする。
具体的には、発電量の持続性に優れた、光燃料電池、電気化学デバイス及び発電方法を提供することを課題とする。さらに、発電量の持続性に優れた、電気化学デバイスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、光燃料電池の電極に配位高分子を用いることで、水蒸気を燃料とした光燃料電池の発電持続性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスと、前記負極と前記正極とを電気的に接続する外部回路と、を備える、水蒸気を燃料として発電する光燃料電池であって、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、第2の光触媒層を備え、
前記第1の光触媒層は、光を照射することにより水の分解反応を触媒し、前記第2の光触媒層は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する、光燃料電池である。
【0009】
本発明の光燃料電池は空気中の水蒸気を接触させ、そこに光を照射することで、水の分解反応によりプロトンと電子が生成し、当該プロトンと電子が正極に伝導し、正極では酸素の還元反応が進行する。この反応により、電気を取り出すことができる。
さらに、本発明の光燃料電池は、水蒸気を燃料として発電することができるため、液相燃料(電解液)を収容する電解槽が不要である。
【0010】
また、前記配位高分子層は、配位結合で構造化し、共有結合性分子に比べ優れたラジカル耐性を示す。このため、本発明の光燃料電池は、光劣化が起きにくく、発電量の持続性に優れる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記正極は、さらに配位高分子層を備える。
前記配位高分子は、電気化学的安定性が高く分解されにくい。このため、前記配位高分子は電解質の分解に起因する発電力の低下を防ぐ効果を有する。
したがって、正極に配位高分子層を備える構成とすることで、発電持続性を向上させることができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、
前記配位高分子層は、プロトン配位性分子、オキソ酸イオン及び金属イオンを含み、前記オキソ酸イオン及び/又は前記プロトン配位性分子が、前記金属イオンに配位した配位高分子を含む。
【0013】
本発明の好ましい形態では、
前記プロトン配位性分子は、アミン、イミン、イミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール、及びこれらの誘導体から成る群から選ばれる1種以上である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、
前記プロトン配位性分子が、一般式R-NHで表される第一級アミン、一般式R(R)-NHで表される第二級アミン、一般式R(R)(R)-Nで表される第三級アミン、炭素直鎖ジアミン、飽和環状アミン、及び飽和環状ジアミンから成る群から選ばれる1種以上である。
(R、R、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、脂環式炭化水素基、及び複素環基のうちのいずれかを示す。)
【0015】
本発明の好ましい形態では、
前記金属イオンが、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、及びガリウムイオンから成る群から選ばれる1種以上である。
【0016】
本発明の好ましい形態では、
前記オキソ酸イオンが、リン酸イオン、リン酸水素イオン、及びリン酸二水素イオンから成る群から選ばれる1種以上である。
【0017】
本発明の好ましい形態では、
前記電解質層は、フッ素樹脂等の高分子中に酸性基を含む膜、又は前記配位高分子の膜である。
【0018】
本発明の好ましい形態では、
前記負極及び正極は、さらに導電層を備え、前記導電層は、導電性不織布で形成される。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記負極は、さらに吸湿層を備える。
【0020】
負極にさらに吸湿材料を備える構成とすることで、負極に空気中の水蒸気を捕捉させることができる。これにより、光燃料電池の起電力を向上させることができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記光燃料電池は、
さらに、前記負極に水蒸気を供給する水蒸気供給機構と、
前記正極に酸素を供給する酸素供給機構と、を備える。
【0022】
本発明の好ましい形態では、
前記光燃料電池は、前記正極を加湿する加湿機構を備える。
これにより、正極側の相対湿度を向上させ、光燃料電池の起電力を向上させることができる。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記光燃料電池は、
放電電流が最大値に到達してから少なくとも30分以上、
前記放電電流の最大値と比較して、減少率20%以内の放電電流を維持する。
【0024】
また、前記課題を解決する本発明は、
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスであって、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、第2の光触媒層を備え、
前記第1の光触媒層は、光を照射することにより水の分解反応を触媒し、前記第2の光触媒層は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する、電気化学デバイスである。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記正極は、さらに配位高分子層を備える。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記負極は、さらに吸湿層を備える。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記電気化学デバイスの前記負極から前記正極までの厚さが、0.6mm以下である。
【0028】
また、前記課題を解決する本発明は、
水蒸気を燃料とする発電方法であって、負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスを備える光燃料電池における前記負極及び正極に光を照射して発電する発電工程を備え、
前記負極は、第1の光触媒層、及び配位高分子層を備え、
前記正極は、及び第2の光触媒層を備え
前記発電工程は、光を照射することにより、前記負極において水を分解する反応が進行し、前記正極において酸素の還元反応が進行する、発電方法である。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記発電方法は、
前記正極が、配位高分子層を備え、前記正極を加湿する加湿工程を備える。
【0030】
本発明の好ましい形態では、
前記発電方法は、さらに、前記負極及び前記正極の相対湿度を70%RH以下にする湿度調整工程を有する。
【0031】
また、前記課題を解決する本発明は、
負極と、正極と、前記負極と前記正極の間に配置された電解質層を有する電気化学デバイスの製造方法であって、
配位高分子体を、加熱した光触媒層に配置し、
加熱した前記光触媒層の上で前記配位高分子体を融解し、前記配位高分子体をアモルファス状態として、電極を作成する電極作成工程と、
前記負極と、前記電解質層と、前記正極とをこの順に接合する接合工程を含む、電気化学デバイスの製造方法である。
【0032】
本発明の好ましい形態では、
前記電解質層は、配位高分子の膜であり、
前記接合工程は、前記負極と、前記電解質層と、前記正極とをこの順に重ね、これらを加熱圧着することを含む。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、新規な水蒸気を燃料とした光燃料電池、電気化学デバイス、及び発電方法を提供することができる。
具体的には、発電量の持続性に優れた、水蒸気を燃料とする光燃料電池、電気化学デバイス及び発電方法を提供することができる。さらに、発電量の持続性に優れた、光燃料電池、電気化学デバイスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本実施形態に係る光燃料電池の発電機構を示す図である。
図2】本実施形態に係る電気化学デバイスの構造を示す概要図である。
図3】本実施形態に係る電極の構造を示す概要図である。
図4】本実施形態に係る光燃料電池の構成の概要を示す概要図である。
図5】実施例の光燃料電池の時間経過に対する放電電流の変化を表すグラフ(横軸:時間(hour)、縦軸:電流(μA)である。
図6】光照射の停止、再開が光燃料電池の発電持続性に与える影響を示すグラフ(横軸:時間(hour)、縦軸:電流(μA)である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、水蒸気を燃料として発電する光燃料電池に関する。
図1に、本実施形態に係る光燃料電池の発電機構を示す。図2に本実施形態に係る電気化学デバイス11の構造を示す概要図を示す。
【0036】
(1)発電機構
本実施形態に係る光燃料電池10は、負極20と、正極30と、電解質層40を含む電気化学デバイス11と、負極20と正極30を電気的に接続する外部回路50を備える。
【0037】
負極20は、第1の導電層21と、第1の光触媒層22と、第1の配位高分子層23を含む。
正極30は、第2の導電層31と、第2の光触媒層32を含む。さらに、正極30は、第2の配位高分子層33を備えていてもよい。
第1の光触媒層22には、光を照射することにより水の分解反応を触媒する光触媒成分を含む。具体的には、光触媒成分は、当該光触媒成分のバンドギャップ以上のエネルギーを含む光を受けて励起し、下記式1に従ってホール(h)によって水が光酸化されるのを触媒する。
【0038】
2HO+4h→O+4H+4e・・・(式1)
【0039】
第1の光触媒層22に含まれる光触媒成分は、光を受けて価電子帯の電子が伝導帯に励起されて第1励起電子となり、価電子帯は電子を1個失った1価のホール(h)を持った状態となる。このホールが水分子から電子を奪うことで、水から酸素への酸化反応が進行し、ホールは奪った電子と結合して消滅する。一方、第1励起電子は、外部回路を通じて正極30に供給される。
【0040】
他方、第2の光触媒層32は、光を照射することより酸素の還元反応を触媒する光触媒成分を含む。具体的には、光触媒成分は、当該光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを含む光を受けて励起し、下記式2に従ってプロトン及び酸素の存在下で、酸素が光還元されるのを触媒する。
【0041】
+4H+4e→2HO・・・(式2)
【0042】
第2の光触媒層32における光触媒成分は、光を受けて価電子帯の電子が伝導帯に第3励起電子となる。電子を失った価電子帯は、1価のホール(h)を持った状態となり、このホールが外部回路50を通じて負極から供給される電子と再結合して消滅する。第3励起電子は強い還元力を有しており、上記式2の左辺の4eとなって酸素を還元する。
【0043】
照射する光は、200nm~800nmの波長領域、すなわち紫外可視光領域近傍の光を用いることができる。また、これらの波長の光を包含する太陽光であってもよい。すなわち、紫外可視光領域近傍の光で発電することが可能となる。光源は、光燃料電池の構成外の外部光源(自然光、蛍光灯やLED等の室内光を含む)を用いてよく、光燃料電池の構成として光源を備えてもよい。光源としては、LED、ハロゲンランプ、キセノンランプ等を用いることができる。
【0044】
(2)電気化学デバイス
本実施形態に係る電気化学デバイス11は、上述の通り負極20、正極30及び電解質層40を備える。
電気化学デバイス11は、好ましくは膜-電極接合体(MEA)である。
【0045】
負極20の第1の光触媒層22に含まれる光触媒成分として、酸化チタン、酸化タングステン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化鉄、及び酸化ビスマス等の金属酸化物、バナジン酸ビスマス等の複合金属酸化物、窒化ガリウム等の金属窒化物、リン化ガリウム等の金属リン化物、及び硫化カドミウム等の金属硫化物が挙げられる。本発明における光触媒成分は、好ましくは酸化チタンである。
【0046】
正極30の第2の光触媒層32に含まれる光触媒成分として、例えば、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン、酸化タングステン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化ビスマス等の金属酸化物、バナジン酸ビスマス等の複合金属酸化物、窒化ガリウム等の金属窒化物、リン化ガリウム等の金属リン化物、及び硫化カドミウム等の金属硫化物、Pt-TiO、Ag-TiO等のナノ粒子担持n型半導体、及びBiOCl、CaFe、ZnMn、InP、AgGaS等のp型半導体が例示できる。
【0047】
光触媒成分の担持量は、特に限定されないが、好ましくは0.3g/cm以上、より好ましくは1g/cm以上、より好ましくは1.5g/cm以上、さらに好ましくは2g/cm以上、特に好ましくは3g/cm以上である。また、光触媒成分の担持量は、好ましくは5g/cm以下、より好ましくは4.5g/cm以下、さらに好ましくは4g/cm以下、特に好ましくは3.8g/cm以下、最も好ましくは3.5g/cm以下である。
担持量を上記範囲内とすることで、光燃料電池の放電電流(μA)を大きくすることができる。
【0048】
第1の導電層21及び第2の導電層31は、電気(電子)を通す素材で形成されていればよい。このような素材として、金、白金、銀、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、コバルト等の金属、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン等のカーボン材料等が挙げられる。
【0049】
第1の導電層21及び第2の導電層31は、好ましくは多孔性構造である。より好ましくは、繊維状、又は粒子状である。第1の導電層21及び第2の導電層31は、好ましくは導電性不織布で形成される。導電性不織布としては、チタン不織布等が例示できる。第1の導電層21及び第2の導電層31の形状は、好ましくは薄層状、又は板状である。
このような構成とすることで、光触媒層を燃料となる水蒸気と接触させることができる。
【0050】
導電層、特に第1の導電層21の厚さは、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上、特に好ましくは80μm以上、最も好ましくは90μm以上である。また、導電層、特に第1の導電層21の厚さは、好ましくは300μm未満、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは130μm以下、最も好ましくは110μm以下である。導電層の厚さを上記範囲内とすることで、光燃料電池の放電電流(μA)を大きくすることができる。また、光燃料電池、又は電気化学デバイスを小型化することができる。
【0051】
第1の配位高分子層23及び第2の配位高分子層33は、プロトン伝導性を有する。すなわち、配位高分子層は光酸化反応により生じたプロトンを伝導することができる。
前記第1の配位高分子層23及び第2の配位高分子層33の形状は、好ましくは薄層状、又は板状である。
【0052】
ここで、前記配位高分子層23及び配位高分子層33は配位高分子を含む。
前記配位高分子は、プロトン配位性分子、オキソ酸イオン、金属イオンを含む。
前記配位高分子は、好ましくはプロトン配位性分子及び/又はオキソ酸イオンが金属イオンに配位しているものである。
【0053】
プロトン配位性分子として、好ましくは分子内にプロトンを配位するための配位点を2つ以上持った分子が挙げられる。
例としてイミダゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール、及びこれらの誘導体が挙げられる。ここで誘導体としては、化学構造の一部を他の原子又は原子団で置き換えたものを意味し、その具体例としては、イミダゾールに対して、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、ヒスタミン、ヒスチジン等が挙げられる。
これらの分子は、プロトンの配位と放出とのバランスに優れた配位点を持ち、イオン伝導性に優れる。
【0054】
また、前記プロトン配位性分子として、好ましくは、一般式R-NHで表される第一級アミン、一般式R(R)-NHで表される第二級アミン、一般式R(R)(R)-Nで表される第三級アミンが挙げられる。ここで、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、脂環式炭化水素基、及び複素環基のうちのいずれかである。
【0055】
このような第一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等の低級アルキルアミン、アニリン、トルイジン等の芳香族アミンが挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等のジ低級アルキルアミン、N-メチルアニリン、N-メチルトルイジン等の芳香族二級アミン等が挙げられる。
【0056】
第三級アミンとしては、好ましくは前記R、R、Rのうち少なくとも1つ以上がアルキル基のものが挙げられる。より好ましくは前記R、R、Rが全てアルキル基のものが挙げられる。さらに好ましくは、前記R、R、Rが全て直鎖アルキル基のものが挙げられる。
また、第三級アミンは、好ましくは前記R、R、Rとして短鎖アルキル基と、長鎖アルキル基をそれぞれ含むものが挙げられる。特に好ましくは、少なくとも2つ以上の長鎖アルキル基含むものが挙げられる。
ここで、長鎖アルキル基としては、好ましくは主鎖の炭素数が4個以上のものが挙げられる。より好ましくは5個以上、好ましくは6個以上、好ましくは7個以上、特に好ましくは8個のものが挙げられる。上限の目安としては、12個のものが挙げられる。
短鎖アルキル基としては、好ましくは主鎖の炭素数が3個以下のものが挙げられる、より好ましくは2個以下、特に好ましくは1個のものが挙げられる。
このような第三級アミンとしては、例えば、N-メチル-N,N’-ジオクチルアミンが挙げられる。
【0057】
オキソ酸イオンとして、例えば、リン酸イオン、硫酸イオン等が挙げられるが、水素に対する化学的安定性から、好ましくはリン酸イオンである。リン酸イオンは、プロトンが1つ配位したリン酸水素イオン、又はプロトンが2つ配位したリン酸二水素イオンの形態であってもよい。本発明におけるオキソ酸イオンは、例えば、縮合が起こっていない単量体の形態で金属イオンに配位しており、これによりプロトン濃度が高い状態で保持され、水分に対する安定性にも優れる。
【0058】
金属イオンとして、好ましくは高周期の遷移金属イオンや典型金属イオンが挙げられる。好ましくは第4周期の遷移金属イオンや典型金属イオンが挙げられる。例として、コバルトイオン、銅イオン、亜鉛イオン、及びガリウムイオンが挙げられる。より好ましくは亜鉛イオンである。
金属イオンは、前記オキソ酸イオン及び/又はプロトン配位性分子との配位結合を形成しやすいものであれば、特に限定されない。
【0059】
ここで、前記金属イオンと前記オキソ酸イオンは、好ましくは化学結合を少なくとも1つ以上形成しているものである。好ましくは金属イオンに、少なくとも1つのオキソ酸イオンが化学結合しているものである。より好ましくは、複数のオキソ酸イオンが化学結合しているものである。
また、金属イオンには、水分子等のオキソ酸イオン以外の配位子が結合していてもよい。
金属イオンとオキソ酸イオンとの化学結合は、配位結合や共有結合を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
配位高分子に含まれる、金属イオン、オキソ酸イオン、プロトン配位性分子の比率は、好ましくは金属イオン1に対して、オキソ酸イオンが1~4、プロトン配位性分子が1~3である。比率を前記数値範囲とすることで、配位高分子の安定性を向上させることができる。
より好ましくは、金属イオン1に対して、オキソ酸イオンが3、プロトン配位性分子が1である。
【0061】
配位高分子として、好ましくは、亜鉛イオンにリン酸イオンが配位した構造を含むものが挙げられる。より好ましくは、リン酸二水素イオン及びリン酸水素イオンがそれぞれ配位したものが挙げられる。特に好ましくは、亜鉛イオンにリン酸二水素イオンが少なくとも2つ以上配位したものが挙げられる。
また、配位高分子として、好ましくは、亜鉛イオンにリン酸イオンが配位したものに、プロトン配位性分子が配位したものが挙げられる。好ましくは、亜鉛イオンにリン酸イオンが3配位したものに、プロトン配位性分子として、アミン、又はイミダゾールが配位したものが挙げられる。特に好ましくは、プロトン配位性分子として、第3級アミンが配位したものが挙げられる。例として、[Zn(HPO)(HPO](C17NCH(以降、ZnPMdoaと表記)、[Zn(HPO)(HPO](ImH(以降、ZnPImと表記)などが挙げられる。
【0062】
配位高分子は、用途に合わせ、上記金属イオン、オキソ酸イオン、プロトン配位性分子として例示する物質から、適宜選択し、生成することができる。
配位高分子は、例えば、金属イオンを含む原料、オキソ酸、プロトン配位性分子、及び添加剤を混合攪拌することで得られる。
また、混合攪拌は、全原料を一度に混合攪拌してもよい。好ましくは、金属イオンを含む原料とオキソ酸を混合攪拌し、得られた攪拌混合物にプロトン配位性分子を加え、再度混合攪拌してもよい。
前記金属イオンを含む原料として、好ましくは単体金属、金属イオンを含む化合物、又は金属酸化物が挙げられる。
【0063】
配位高分子を作製する際の、金属イオンを含む原料、オキソ酸、プロトン配位性分子の配合比率は、好ましくは金属イオンを含む原料1mmolに対して、オキソ酸1~4mmol、プロトン配位性分子1~3mmolである。
より好ましくは、金属イオンを含む原料1mmolに対して、オキソ酸が3mmol、プロトン配位性分子が1mmolである。
【0064】
ここで、(4)製造方法の項目において詳述するが、本発明において、配位高分子層は、配位高分子体を加熱溶融し、膜状に成型して作製することができる。
なお、配位高分子体とは、配位高分子からなる材料を意味する。配位高分子体の形状としては、ペレット、配位高分子片、粉末などが挙げられる。
【0065】
本発明において、配位高分子層は、アモルファス状態の配位高分子で構成されていることが好ましい。
【0066】
負極及び正極に含まれる光触媒と配位高分子の質量比として、好ましくは光触媒1に対し、配位高分子5~18が挙げられる。
【0067】
電解質層40は、プロトン伝導性(イオン伝導性)を有するものであれば特に限定されない。電解質層は、好ましくは固体高分子膜である。
電解質層として、膜状に形成した前述の配位高分子を使用することができる。好ましくは膜状に形成したアモルファス状態の配位高分子を使用することができる。
または、フッ素樹脂等の高分子中に硫酸基、スルホン酸基、又はカルボキシ基等を含んだ膜を使用することができる。
スルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸膜として、Nafion膜、Flemion)膜、Aciplex膜、Aquivion膜、Dow膜等が挙げられる。
【0068】
電解質層として配位高分子を使用する場合は、配位高分子体を加熱融解し、上から機械的なエネルギーを加えてプレスし、膜状に形成して使用することができる。
【0069】
電解質層の厚さは、好ましくは50μm以上、より好ましくは60μm以上、さらに好ましくは70μm以上、特に好ましくは80μm以上、最も好ましくは90μm以上である。
また、導電層、特に第1の導電層21の厚さは、好ましくは300μm未満、より好ましくは250μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下、特に好ましくは130μm以下、最も好ましくは110μm以下である。
【0070】
第1の配位高分子層23及び第1の光触媒層22は、好ましくは水蒸気が第1の配位高分子層23を通じて第1の光触媒層に移動するように構成される。好ましくは第1の配位高分子層23と第1の光触媒層22が接するように構成される。
第1の光触媒層22と第1の導電層21は、好ましくは第1の光触媒層22で生成したプロトンが第1の導電層21に移動するように構成される。好ましくは第1の光触媒層22と第1の導電層21が接するように構成される。
第1の導電層21と電解質層40は、好ましくは第1の光触媒層22から移動してきたプロトンが第1の導電層21から電解質層40に移動するように構成される。好ましくは第1の導電層21と電解質層40が接するように構成される。
電解質層40と第2の導電層31は、好ましくはプロトンが電解質層40から第2の導電層31に移動するように構成される。好ましくは電解質層40と第2の導電層31が接するように構成される。
第2の導電層31と第2の光触媒層32は、好ましくはプロトンが第2の導電層31から第2の光触媒層32に移動するように構成される。好ましくは第2の導電層31と第2の光触媒層32が接するように構成される。
第2の光触媒層32と第2の配位高分子層33は、好ましくは水蒸気が第2の配位高分子層33を通じて第2の光触媒層32に移動するように構成される。好ましくは第2の光触媒層32と第2の配位高分子層33が接するように構成される。
【0071】
負極20は、好ましくは電解質層40から、第1の導電層21、第1の光触媒層22、第1の配位高分子層23が、この順に積層されている。正極30は、好ましくは電解質層40から、第2の導電層31、第2の光触媒層32、第2の配位高分子層33が、この順に積層されている。好ましくは光触媒を起点に、反応によって生成する電子とプロトンがそれぞれの導電層に効率よく送達されるように積層されている構造である。
【0072】
電極を構成する導電層、光触媒層、配位高分子層の断面積の大きさの関係は特に限定されない。
例として導電層21、光触媒層22、配位高分子層23を備える負極20の構成例を図3に示す。
また、電極の構成は第1の導電層21、第1の配位高分子層23、第1の光触媒層22の順に、電極を構成する層を大きくする形態としてもよい。
【0073】
また、負極20及び正極30は、吸湿層を備えていてもよい。好ましくは光触媒層22及び32に接するように吸湿層を備えていてもよい。
前記吸湿層はプロトン伝導性を有し、かつ吸湿性を有する。したがって、吸湿層は燃料となる水蒸気を電極(負極及び正極)に捕捉し、かつ光酸化反応により生じたプロトンを伝導することができる。
吸湿層としては、多孔質材料が挙げられる。例として、ポーラス材料を使用することができる。好ましくはメソポーラス材料、より好ましくは、親水性メソポーラス材料である。例としてポーラスシリカ、親水性ポーラスカーボンが挙げられる。その他にも、例えばアイオノマーを用いることができる。アイオノマーは、酸性官能基を有する高分子であり、酸性官能基として、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシ基等が例示できる。アイオノマーとしては、Nafion(登録商標、以下省略)、Flemion(登録商標、以下省略)、Flemion(登録商標、以下省略)、Aquivion(登録商標、以下省略)等のパーフルオロスルホン酸アイオノマーが例示できる。
【0074】
(3)光燃料電池
本実施形態に係る光燃料電池10は、上述した電気化学デバイス11と、負極20と正極30を電気的に接続する外部回路50を備える。
【0075】
本発明の光燃料電池は、好ましくは、さらに負極に水蒸気を供給する水蒸気供給機構を備える。
水蒸気供給機構の一実施形態としては、不活性ガスを水にバブリングさせることで飽和水蒸気ガスとし、当該飽和水蒸気ガスを負極に導入する機構が挙げられる。不活性ガスとしては、窒素ガス、又はアルゴンガスが例示できる。
【0076】
前記水蒸気供給機構の一実施形態を実現する装置構成を図4に示す。不活性ガスを充填するガスボンベ、ガスカプセル等の不活性ガス充填部60、液体の水を充填する水充填部62、前記不活性ガス充填部と水充填部をつなぎ、不活性ガスを水充填部に供給する不活性ガス流路61、水充填部と負極室24をつなぎ、飽和水蒸気ガスを負極室24に供給する飽和水蒸気ガス流路63を備える構成が例示できる。
負極の酸化反応に消費されなかった水蒸気や、負極の酸化反応により生成された酸素は、負極排気流路64により排気される。
【0077】
本発明の光燃料電池は、好ましくはさらに正極に酸素を供給する酸素供給機構を備える。
酸素供給機構の一実施形態としては、酸素ガス、又は疑似空気ガス(酸素濃度約20%)を充填する酸素ガス充填部と、前記酸素ガス充填部と正極室をつなぐ酸素ガス流路を備える構成とすることができる。
【0078】
また、本発明の光燃料電池は、好ましくは、さらに正極に水蒸気を供給し、加湿する加湿機構を備える。
正極側の加湿機構としては、前記酸素ガス等を水にバブリングさせて正極室に充填する機構が例示できる。
具体的な構成を図4に示す。このような構成として、前記酸素ガス充填部70、液体の水を充填する水充填部72、前記酸素ガス充填部70と水充填部72とをつなぎ、酸素ガスを水充填部に供給する酸素ガス流路71、水充填部72と正極室34をつなぎ、酸素ガスの飽和水蒸気ガスを正極室34に供給する飽和水蒸気ガス流路73を備える構成が例示できる。
正極側に水蒸気を供給することで、相対湿度が向上し、光燃料電池の起電力を高めることができる。
正極の還元反応により消費されなかった酸素、酸素以外の空気、還元反応により生成した水は、正極排気流路74より排気される。
【0079】
また、本発明の光燃料電池は、好ましくは負極及び正極の相対湿度を調製する湿度調整機構を備える。
前記湿度調整機構により調整される、前記負極及び前記正極の相対湿度の下限は、光燃料電池の発電量を確保する観点から、好ましくは、40%RH以上、50%RH以上、60%RH以上である。
また、光燃料電池の劣化を防止する観点から、採用する配位高分子の特性に応じて、前記負極及び前記正極の相対湿度を、100%RH以下、80%RH以下、70%RH以下とする形態も好ましい。
【0080】
また、加湿機構、及び酸素供給機構の別の実施形態として、負極が収容される負極収容部(例えば、負極室24)、又は正極が収容される正極収容部(例えば、正極室34)に空気を取り込む空気供給機構が例示できる。本実施形態では、負極では空気中の水蒸気を利用し、正極では空気中の酸素を利用することができる。また、正極においては、空気中の水蒸気を利用することで、相対湿度を高めることができる。
【0081】
本実施形態では、光燃料電池内部に空気を取り込むための空気導入部と、光燃料電池内部の空気を循環させる空気循環部を有する構造が例示できる。
空気導入部は、負極、又は正極を収容する収容部に、外気を導入することができればよく、例えば通気口が例示できる。また、空気導入部は、好ましくは、外気のホコリやゴミ等の光燃料電池内部への導入を防ぐために、フィルタが設けられている。
【0082】
空気循環部としては、ファンや、小型のサーキュレータ等が例示できる。
【0083】
本実施形態では、負極側で生成した酸素を正極側に供給し、正極側で生成した水(水蒸気)を、負極側に供給する、循環型の光燃料電池とすることができる。
このような形態とすることで、光燃料電池全体を小型化することができる。
【0084】
正極収容部、及び負極収容部は、好ましくは、少なくとも一部が光透過性を有する材料で構成される。すなわち、正極収容部、及び負極収容部は、好ましくは、光触媒による反応に必要な光を透過する性質を有する。
具体的には、光触媒による反応に必要な光の透過率が、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。このような材料としては、ガラス(石英)が例示できる。
【0085】
図示しないが、各流路には、好ましくは気体の逆流を防止するために逆止弁(一方向弁)を備える。
【0086】
本発明の光燃料電池は、電気化学デバイスとして、前記電気化学デバイスを積層したスタックを用いてもよい。スタックは、常法により製造することができる。例えば、負極と、正極と、負極と正極の間に存する電解質層を有する電気化学デバイスの負極側及び/又は正極側にセパレータを設け、セパレータを挟んでさらに電気化学デバイスを積層させればよい。
【0087】
本発明の光燃料電池は、放電電流が最大値に到達してから少なくとも30分以上、前記放電電流の最大値と比較して、減少率20%以内の放電電流を維持する。好ましくは1時間以上、10時間以上、20時間以上、30時間以上、40時間以上維持することができる。
ここで、前記光燃料電池の放電電流は、ソースメーター(「2450型」(ケースレー社製))を用いて測定することができる。
【0088】
(4)電気化学デバイスの製造方法
本発明の電気化学デバイスの製造方法の一例について、以下説明する。ただし、本発明
の電気化学デバイスの製造方法は、以下に限定されない。
【0089】
(4-1)光触媒成分スラリーの調製
まず、光触媒成分と水をミキサーミル容器に投入し、ミキサーミルにかけて第1の光触媒層(負極)用の光触媒成分のスラリー、及び第2の光触媒層(正極)用の光触媒成分のスラリーを調製する。
第1の光触媒層に用いる光触媒成分、及び第2の光触媒層に用いる光触媒成分は、(2)で説明したものを使用することができる。
【0090】
光触媒成分と水の比率は、光触媒成分の種類や、目的の担持量により異なるが、光触媒成分1質量部に対し、水が1~20質量部、3~20質量部、5~20質量部、5~15質量部、又は7~12質量部とすることができる。
【0091】
(4-2)導電層、光触媒層の形成
導電層を形成する材料(例えば、チタン不織布)の片面側をマスキングし、(4-1)で説明した光触媒成分のスラリーにディップコートし、乾燥させる。
乾燥後、マスキングテープを剥がし、焼結させることで、導電層、及び光触媒層を有する負極並びに正極を得ることができる。
【0092】
乾燥温度は、特に限定されず、80~120℃程度で乾燥させる。
乾燥時間は、乾燥温度により異なるが、例えば100℃で乾燥させる場合には、3~4時間程度乾燥させる。
【0093】
焼結は、光触媒成分の種類に応じて、適切な焼結温度、焼結時間を選択すればよい。
例えば、光触媒成分がTiO、又はAgTiOである場合には、焼結温度を300℃以上、焼結時間を1時間以上と設定することができる。
【0094】
(4-3)配位高分子層の形成
導電層、及び光触媒層を有する負極又は正極をホットプレート上で加熱し、光触媒層の上から配位高分子体を配置する。配置された配位高分子体は、融解してアモルファス状態となり、光触媒層の上に層状に塗布される。これにより、導電層、光触媒層、及び配位高分子層が、この順に積層した負極又は正極を得ることができる。
光触媒層の上に配置する前の、配位高分子体の状態は特に限定されない。結晶状態で得られた配位高分子体を配置してもよい。また、アモルファス状態で得られた配位高分子体を配置してもよい。
【0095】
導電層、及び光触媒層を有する負極又は正極の加熱温度は特に限定されない。好ましくは、100~190℃である。
光触媒層の上から配置する配位高分子体の状態は特に限定されないが、例として、結晶状態、アモルファス状態が挙げられる。
【0096】
(4-4)電気化学デバイス(膜-電極接合体)の作製
まず、テフロン(登録商標)板に、上から(4-3)で作製した負極、電解質層、(4-3)で作製した正極の順に重ね、その上にさらにテフロン(登録商標)板を重ねる。重ねたテフロン(登録商標)板の上から、加熱圧着する。加熱圧着を終えたら、テフロン(登録商標)板ごと負極、電解質層、正極を加熱圧着機から外し、放冷する。放冷を終えたら、テフロン(登録商標)板から負極、電解質層、及び正極からなる電気化学デバイス(膜-電極接合体)を回収する。
【0097】
加熱圧着の温度は、特に限定されず、例えば120~160℃とすることができる。加熱圧着の時間は、温度より異なるが、例えば1~10分程度とすることができる。
【0098】
ここで、(4-4)における電解質層を配位高分子とする場合、配位高分子の膜は以下の手順で製造することができる。
まず、配位高分子をポリイミドフィルム上で加熱し、融解させる。融解した配位高分子をテフロン(登録商標)板上に移し、上からプレスし、配位高分子の膜を得ることができる。
【0099】
配位高分子の加熱温度は特に限定されない。配位高分子の種類に応じて、適切な加熱温度、加熱時間を選択すればよい。
また、配位高分子を加熱する際の温度は、特に限定されず、例えば120~160℃とすることができる。さらに、プレスの時間は、温度より異なるが、例えば1~10分程度とすることができる。
【実施例0100】
(試験例1)電気化学デバイスの作製
・配位高分子の作成
酸化亜鉛(1mmol、81mg)とリン酸水溶液(3mmol、210μL)を15分間混合攪拌した。得られた混合物にMdoa水溶液(N-methyl-Ndioctylamine、1mmol、320μL)を混合攪拌し、白色、ペースト状の物質を得た。常温/12h、さらに真空乾燥機で120℃/3h乾燥させ、ZnPMdoaのアモルファスを得た。
【0101】
・電解質層の作成
190度でZnPMdoaを融解し、ポリイミドフィルムの上で融解させた。融解しアモルファス状態となったZnPMdoa300mgを、PTFEフィルムの上に乗せ、160℃、0.6Nの条件下で10分間プレスした。
【0102】
・電極の作成
ミキサーミル容器(10mL)に酸化チタン(TiO)を0.6g、水を6mL投入し、ミキサーミル(25Hz、45分)にかけ、負極用酸化チタンスラリーを調製した。
また、ミキサーミル容器(10mL)に酸化チタン銀(AgTiO、Ag:3wt%)を0.6g、水を6mL投入し、同様にミキサーミルにかけ、正極用酸化チタン銀スラリーを調製した。
【0103】
次いで、チタン不織布(日工テクノ社製、繊維径:20μm、大きさ:12mm角、厚さ:100μm、空隙率33%)の片面をマスキングしたものを2つ用意し、それぞれ負極用酸化チタンスラリー、又は正極用酸化チタン銀スラリーにディップコートした。
次いで、ディップコートしたチタン不織布を100℃で3~4時間程度乾燥させた。乾燥後、マスキングテープを剥がし、焼結機で300℃/1時間焼結し、TiO/Ti不織布(負極用)、AgTiO/Ti不織布(正極用)を作製した。
【0104】
190℃に加熱したTiO/Ti不織布(負極用)にZnPMdoaからなる配位高分子体を配置し、ZnPMdoaを融解させた。融解しアモルファス状態となったZnPMdoaをTiO/Ti不織布(負極用)に塗布して、負極を作製した。AgTiO/Ti不織布(正極用)にも同様の操作を行い、正極を作製した。
【0105】
・電気化学デバイス作成
負極、電解質層、正極をこの順でプレス機に積み重ね、真空条件下で140℃、0.45Nで10分間加熱圧着し、本実施例の電気化学デバイスを得た。本実施例の電気化学デバイスの構成を、表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
(試験例2)発電持続性の確認
図4に示した構成と同様の構成で、光燃料電池を作製した。
具体的には、試験例1で作製した電気化学デバイスの負極及び正極を外部回路でつなぎ、Arの飽和水蒸気ガスが供給される負極室に負極を格納し、酸素ガスの飽和水蒸気ガスが供給される正極室に正極を格納した。
負極室にArの飽和水蒸気ガスを供給し、正極室に酸素ガスの飽和水蒸気ガスを供給し、両電極にソーラーシミュレータ(「HAL-320W」(朝日分光社製))を用いて光照射した。ソースメーター(「2450型」(ケースレー社製))を用いて実施例1の光燃料電池の放電電流を測定した。結果を図5に示す。
【0108】
試験例2では、計測開始から70時間以上、本実施例の光燃料電池に光照射を行った(図中灰色部分)。
本実施例の光燃料電池は、光照射により、計測開始から70時間以上、発電が可能であった。また、放電電流が最大値に到達してから、40時間以上、放電電流の最大値から減少率20%以内の放電電流を維持した。
【0109】
次に、光照射開始から72時間半経過後、約一時間光照射を停止し、その後再度光照射を行った。この間の放電電流の測定値を図6に示す。
試験例2では、光照射を一度停止し、再度光照射を再開しても、停止前と同等の放電電流が測定された。以上の結果から、光照射の停止及び再開を繰り返しても、光燃料電池の発電量が持続することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、スマートフォン等の小型機器の電池に応用することができる。
【符号の説明】
【0111】
10 光燃料電池
11 電気化学デバイス
20 負極
21 第1の導電層
22 第1の光触媒層
23 配位高分子層(負極)
24 負極室
30 正極
31 第2の導電層
32 第2の光触媒層
33 配位高分子層(正極)
34 正極室
40 電解質層
50 外部回路
60 不活性ガス充填部
61 不活性ガス流路
62 水充填部(負極)
63 飽和水蒸気ガス流路(負極)
64 排気流路(負極)
70 酸素ガス充填部
71 酸素ガス流路
72 水充填部(正極)
73 飽和水蒸気ガス流路(正極)
74 排気流路(正極)

図1
図2
図3
図4
図5
図6