(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008422
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】耐震性能評価システム
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20250109BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20250109BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110595
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000227401
【氏名又は名称】日東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 良浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 充宏
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 満
【テーマコード(参考)】
2G024
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
2G024AD28
2G024BA15
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
5L049CC03
5L050CC03
(57)【要約】
【課題】電気電子機器収納用箱の固有振動数を考慮した耐震性能を評価できるようにすること。
【解決手段】電気機器又は電子機器を搭載する電気電子機器収納用箱の筐体のサイズ、機種、側板、扉の情報を入力可能とする筐体情報入力手段と、筐体へ搭載される内部機器の選択、および、内部機器の配置情報を入力可能とする内部機器入力手段と、固有振動数を演算するために用いる定数値を特定可能とする定数値データベース21と、定数値を定数値データベースより抽出し、定数値と、筐体の情報と、内部機器の情報と、を用いて電気電子機器収納用箱の固有振動数を演算により算出可能な演算手段11と、を備える電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器又は電子機器を搭載する電気電子機器収納用箱の筐体のサイズ、機種、側板、扉の情報を入力可能とする筐体情報入力手段と、
筐体へ搭載される内部機器の選択、および、内部機器の配置情報を入力可能とする内部機器入力手段と、
固有振動数を演算するために用いる定数値を特定可能とする定数値データベースと、
定数値を定数値データベースより抽出し、定数値と、筐体の情報と、内部機器の情報と、を用いて電気電子機器収納用箱の固有振動数を演算により算出可能な演算手段と、
を備える電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【請求項2】
演算手段は、機種ごとに整理された定数値と固有振動数の情報を用いた関係式を用いて固有振動数を特定可能とする請求項1に記載の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【請求項3】
地震波形の情報を入力可能とする加振条件入力手段を備え、
演算手段は、入力された筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出可能とする請求項1又は2に記載の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【請求項4】
地震波形の情報ごとに整理された固有振動数と変位量の情報を用いた関係式を用いて変位量を特定可能とする請求項3に記載の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【請求項5】
演算手段は、変位量が所定の数値を超えているかどうかを判定可能とする請求項4に記載の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【請求項6】
地震波形の情報が加振条件データベースに備えられ、
演算手段は、前記加振条件データベースの地震波形の情報と、筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出可能とする請求項1又は2に記載の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震性能評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や特許文献2に記載されているように、サーバを収納する電気電子機器収納用箱の選定の他に、内部に搭載する電気機器や電子機器の配置の可否や、筐体内に配線スペースや作業スペースを確保できるかどうかを判定することができる電気機器収納用キャビネットの選定システムが従来から知られている。このようなシステムを用いれば、電気電子機器収納用箱の選定に利用するシステムを利用して電気電子機器収納用箱に搭載したい電子機器や電気機器を選定することができる。しかしながら、従来のシステムでは、電気電子機器収納用箱に搭載した電気機器や電子機器を選定することができるが、それらが搭載された電気電子機器収納用箱の耐震性能については考慮されていない。これに対して特許文献3には、質量などの情報を用いて設置用のアンカーボルトの強度判断ができるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-068834号公報
【特許文献2】特開2017-162344号公報
【特許文献3】特開2021-002104号公報
【0004】
ところで、同じ電気電子機器が搭載される電気電子機器収納用箱であっても、電気電子機器の配置が変わることによって全体としての重心の位置が変わる。このため、電気電子機器の配置によって、電気電子機器収納用箱の固有振動数が変化する。したがって、質量の情報があるだけでは、電気電子機器収納用箱の固有振動数と一致する周波数が与えられた時に、電気電子機器収納用箱にどのような変位(若しくは破損)が生じるかという評価をすることはできなかった。同様の条件を確保して実際に計測をすれば、そのような評価をすることはできなくはないが、気軽に何度も利用できるようなものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本件の発明者は、この点について鋭意検討することにより解決を試みた。本発明が解決しようとする課題は、電気電子機器収納用箱の固有振動数を考慮した耐震性能を評価できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、電気機器又は電子機器を搭載する電気電子機器収納用箱の筐体のサイズ、機種、側板、扉の情報を入力可能とする筐体情報入力手段と、筐体へ搭載される内部機器の選択、および、内部機器の配置情報を入力可能とする内部機器入力手段と、固有振動数を演算するために用いる定数値を特定可能とする定数値データベースと、定数値を定数値データベースより抽出し、定数値と、筐体の情報と、内部機器の情報と、を用いて電気電子機器収納用箱の固有振動数を演算により算出可能な演算手段と、を備える電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムとする。
【0007】
また、演算手段は、機種ごとに整理された定数値と固有振動数の情報を用いた関係式を用いて固有振動数を特定可能とする構成とすることが好ましい。
【0008】
また、地震波形の情報を入力可能とする加振条件入力手段を備え、演算手段は、入力された筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出可能な構成とすることが好ましい。
【0009】
また、地震波形の情報ごとに整理された固有振動数と変位量の情報を用いた関係式を用いて変位量を特定可能な構成とすることが好ましい。
【0010】
また、演算手段は、変位量が所定の数値を超えているかどうかを判定可能な構成とすることが好ましい。
【0011】
また、地震波形の情報が加振条件データベースに備えられ、演算手段は、前記加振条件データベースの地震波形の情報と、筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出可能な構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、電気電子機器収納用箱の固有振動数を考慮した耐震性能を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態における電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムの概略を表す図である。
【
図2】筐体データベースに備えられた情報の例を示す図である。ただし、筐体自身の基本的な情報に関するものである。
【
図3】筐体データベースに備えられた情報の例を示す図である。ただし、筐体の組替仕様の基本的な情報に関するものである。
【
図4】内部機器データベースに備えられた情報の例を示す図である。ただし、筐体の内部に搭載可能な内部機器の基本的な情報に関するものである。
【
図5】オプション部品データベースに備えられた情報の例を示す図である。ただし、筐体に搭載可能なオプション部品の基本的な情報に関するものである。
【
図6】周縁部品データベースに備えられた情報の例を示す図である。ただし、筐体に搭載可能な周縁部品の基本的な情報に関するものである。
【
図7】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、タブで「ラック本体」を選択している。
【
図8】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、タブで「オプション・組換」を選択している。
【
図9】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、タブで「搭載機器」を選択している。
【
図10】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、タブで「搭載機器」を選択しているが
図9とは異なる状態である。
【
図11】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、
図10に示す加振条件入力において、プルダウン方式を用いて条件を選択できることを表している。
【
図12】端末に表示される内容の例を示す図である。ただし、判定結果が表示されている。
【
図13】特定された重心位置を正面図で表す例を示した図である。
【
図14】特定された重心位置を平面図で表す例を示した図である。
【
図15】物質の固有振動数を表す一般的な式である。
【
図16】筐体情報と内部機器情報と定数値データベースを用いて導いた定数値を利用して固有振動数を求め、その固有振動数と加振条件を組み合わせて得られた変位量を用いて判定を行うようにしたことを表す図である。
【
図17】複数の要素について固有振動数との関係性を求めたことを表す図である。
【
図18】機種ごとに固有振動数と定数値が異なることを示す図である。ただし、(a)では機種Aに関する情報を表し、(b)では機種Bに関する情報を表している。
【
図19】特定の固有振動数を持つ電気電子機器収納用箱に対して特定の固有振動数を適用して変位量を求めることを表す概念図である。
【
図20】特定の固有振動数を持つ電気電子機器収納用箱に対して特定の固有振動数を適用した場合の変位量の情報から、それらを基にして近似曲線を求め、この近似曲線を用いて、特定の固有振動数を有する場合における変位量の計算をできるようにしたことを表す概念図である。
【
図21】判定に用いる値(変位量)を、電気電子機器収納用箱の高さ毎に定めた例を示す図である。
【
図22】電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムを用いながら発注作業を行いたい利用者が、端末を利用して電気電子機器収納用箱などの情報を入力してから発注作業を行うまでの流れの例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に発明を実施するための形態を示す。
図1乃至
図4に示されていることから理解されるように、本実施形態の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムは、電気機器又は電子機器を搭載する電気電子機器収納用箱の筐体のサイズ、機種、側板、扉の情報を入力可能とする筐体情報入力手段と、筐体へ搭載される内部機器の選択、および、内部機器の配置情報を入力可能とする内部機器入力手段と、固有振動数を演算するために用いる定数値を特定可能とする定数値データベース21と、定数値を定数値データベース21より抽出し、定数値と、筐体の情報と、内部機器の情報と、を用いて電気電子機器収納用箱の固有振動数を演算により算出可能な演算手段11と、を備えている。このため、電気電子機器収納用箱の固有振動数を考慮した耐震性能を評価できるようにすることが可能となる。
【0015】
ここで、実施形態の電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムについての概略を説明する。実施形態の耐震性能評価システムは、電気電子機器収納用箱や、それらに収納する電気機器や電子機器などを特定することができる。また、それらを特定した上で、耐震性能を評価させることができる。更には、このシステムを用いて決定した仕様の電気電子機器収納用箱を購入する手続きが可能となる。このようなことを可能とするため、電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムを機能させることができるサーバ10に対して、インターネットなどの通信回線を介して各端末50から接続することができるように構成される(
図1参照)。
【0016】
図1に示す例では、利用者(顧客やオペレータ)が操作をする端末50には、利用者が情報を入力するために用いる入力手段52や、サーバ10(メーカなどが用意したもの)から送られてきた情報などを表示可能とする表示手段51が備えられている。入力手段52はキーボードやマウスなどが典型例であるが、その他のものであってもよい。また、表示手段51は映像を表示可能なディスプレイなどが典型例であるが、その他のものであってもよい。
【0017】
実施形態のサーバ10には情報を記憶可能な記憶手段12を備えている。この記憶手段12はいかなるものであってもよいが、CPUやハードディスクなどを例示することができる。また、実施形態のサーバ10には、演算手段11、製品決定手段13、計算用マスタ14、出力手段15などが搭載されている。
【0018】
実施形態においては、サーバ10に製品データベースが搭載されている。実施形態の製品データベースは、電子電気機器収納箱の情報が格納された筐体データベース16と、筐体装着部品データベース17が含まれている。また、実施形態の筐体装着部品データベース17には、内部機器データベース171、オプション部品データベース172、周縁部品データベース173が含まれている。
【0019】
筐体データベース16は電気電子機器収納用箱の筐体の機器情報を集めたものである。例えば、実施形態の筐体データベース16には、製品名(筐体型番)、サイズ、質量、材質、許容荷重、図面データなどの情報が備えられている(
図2参照)。また、実施形態の筐体データベース16には、筐体を構成する側板、扉、天井板などのサイズ、質量、材質、図面データなどの情報も備えられている(
図3参照)。この他、実施形態の筐体データベース16には、各筐体の組替仕様に対応する側板や扉などの情報も備えられている。もちろん、筐体データベース16に備えられる情報は、このようなものに限る必要はない。
【0020】
実施形態においては、電気電子機器収納用箱の筐体に装着可能な部品のデータベースである筐体装着部品データベース17が備えられている。実施形態の筐体装着部品データベース17は、内部機器データベース171、オプション部品データベース172、周縁部品データベース173が含まれているが、内部機器データベース171は、内部に搭載されるサーバ10、電源ユニット、HUB機器、光接続箱、パッチパネルなどの内部機器が記憶されたデータベースである(
図4参照)。筐体装着部品データベース17に備えられる情報は、種々考えられるが、例えば、製品名、質量、配線スペース、定格電流電圧等のデータ、図面データの情報などが備えられるようにすればよい。
【0021】
また、オプション部品データベース172は、筐体の側面や内面等に装着される換気用のファン、ルーバ、ヒータ、機器取付金具等のデータが備えられている(
図5参照)。このオプション部品データベース172に備えられるデータは種々考えられるが、例えば、換気扇についての機器情報の場合、製品名、材質、最大風量、定格消費電力、質量などのデータが備えられるようにすればよい。
【0022】
また、周縁部品データベース173は、内部機器データベース171やオプション部品データベース172に備えられない情報が備えられるようにすればよい(
図6参照)。例えば、筐体を設置場所に取り付けるための部材や、連結金具などのサイズ、材質、強度などの情報が周縁部品データベース173に備えられるようにすればよい。
【0023】
ここで、端末50の画面に表示された内容から電気電子機器収納用箱を選定する方法の例について説明をする。
図7には、筐体の選定に際して、利用者の端末50の表示手段51に表示される内容の例を表している。このように表示される表示手段51を見ながら利用者は端末50を操作すればよい。この例の場合、データベースに登録されている「タイプ」の選択や表示をプルダウンの機能を用いて行うことができる。また、該当する項目を入力することで一致する品名などを選択することなどもできる。また、この例では、後述する選択したオプションや組換の仕様、内部機器に関する選定内容の一覧も表示できるように構成されている。
【0024】
図7に示すような表示を見ながら電気電子機器収納用箱を選定した後などに、「オプション・組換」と表示されたタブを選択すると、表示内容が切り替わり、内部に搭載したいオプションや筐体の一部の組替を指定することができるようになる。
図8には、オプションや組替の仕様の選定に際して、利用者の端末50の表示手段51に表示される内容の例を表している。このように表示される表示手段51を見ながら利用者は端末50を操作すればよい。この例の場合、データベースに登録されている「タイプ」の選択や表示をプルダウンの機能を用いて行うことができる。また、該当する項目を入力することで一致する品名などを選択することなどもできる。なお、質量の変化がある場合には、選定内容のリストに表示されるようにするのが好ましい。
【0025】
また、実施形態では「搭載機器」と表示されたタブを選択すると、表示内容が切り替わり、筐体(ラックなど)に搭載する内部機器に関する情報が入力可能となる(
図9参照)。どのような入力を可能とするのかについては種々考えられるが、例えば、機器情報として、サイズや、筐体の前後に必要な配線スペースや、筐体の突出形状などを入力できるようにすればよい。これらの機器情報は、使用者が直接入力をすることができるようにしてもよいし、データベースに備えられた内部機器に関する情報から読み込まれて特定されるようにしてもよい。これらの情報が特定された場合、選択した筐体の内部に内部機器の配置が可能かどうかを判定するようにするのが好ましい。判定の結果、配置ができないとされた場合は、マウントアングル間やマウントアングル位置をずらして設置できるかどうかを自動的に検証し、その結果を表示できるようにしてもよい。もちろん、マウントアングル間やマウントアングル位置をずらすように利用者が操作して、設置できるかどうかを都度検証するように利用してもよい。なお、実施形態では、画面に、内部機器に応じた形が表示されるように構成されており、内部機器の位置を設計することができる。
【0026】
筐体に備えられる内部機器の水平方向の位置および垂直方向の位置を指定すると、筐体における内部機器の位置を特定することができる。この例では、内部機器の前後位置と高さを決めることができるようにするため、ラックの正面の図面などが表示され、それぞれの機器の位置を図面や表を用いて決定することができる。
【0027】
なお、実施形態では、筐体毎に内部機器の取付有効スペース(マウントアングルの機器取付孔の位置などから特定)が決められており(
図10参照)、その範囲内で内部機器の配置を選択可能としている。
【0028】
実施形態では、内部機器の設置位置などを入力した場合に、「特定の加振条件における、内部機器を備えた筐体の変位」に関する評価を行うことができる。
図11に示す例では、加振条件として、過去の地震波形を選択可能としている。地震波形ごとに振動数範囲(周波数)、振動の振幅(加速度)、振動時間が設定されており、これらの情報を用いて筐体の変位に関する評価を行うことができる。このようなことを可能とするために、実施形態の演算手段11は、入力された筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出できるように構成されている。また、複数の加振条件が加振条件データベース22に備えられている。
【0029】
実施形態では、入力した内部機器、配置などを元に、電気電子機器収納用箱の重心高さを算出し、電気電子機器収納用箱が持つ固有振動数を算出するとともに、その固有振動数を持つ筐体に加振条件を与えた際の変位量を演算することができる。例えば、変位量は、筐体の頭頂部の変位量を算出するなど、部分的なもので構わない。ただし、この場合、比較的変位量が大きくなり得る個所を選定するのが好ましい。
【0030】
変位量を算出した結果、その変位量により、内部機器の損傷可能性などを評価する。これらの変位量の演算結果、判定結果などを画面上に表示し、利用者が端末50を通して把握できるようにするのが好ましい(
図12参照)。また、これらを計算書として書類状に出力できるようにしてもよい。この他、内部機器の配置条件を情報として保存し、他の筐体における情報の算出に流用できるようにしてもよい。
【0031】
これらのことを可能にするためにも、電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムは、地震波形の情報を入力可能とする加振条件入力手段52を備えるものとし、演算手段11は、入力された筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量を算出することが可能なように構成するのが好ましい。なお、加振条件入力手段52を入力しなくても、加振条件データベース22の1又は複数の地震波形の情報と筐体の固有振動数を用いて、筐体の変位量の結果を算出するものであっても良い。
【0032】
ここで、演算例について、より細かく説明をする。利用者が指定した内部機器に関する情報(サイズや配置や質量など)と、筐体に関する情報(サイズや質量や仕様変更情報など)を特定する。これらの情報は記憶手段12に保存するのが好ましい。これらの情報を用いて、筐体に内部機器が取り付けられた状態における電気電子機器収納用箱の重心位置を演算手段11により算出する。演算結果は記憶手段12に保存するのが好ましい。なお、記憶手段12に記憶した重心位置は、画面上に表記させるのが好ましい(
図13及び
図14参照)。
【0033】
このようにして特定された、筐体に内部機器が取り付けられた状態における電気電子機器収納用箱の重心位置は、据え付け後に生じ得る地震による筐体の揺れの特性と関係があるが、重心位置だけでは揺れの程度を特定できない。このため、特定の重心と揺れの程度の関係性を関連付けるデータを利用する。具体的には、固有振動数を求めるが、一般的に固有振動数は物体固有のものであり、
図15に示すように、材料の伸びやすさを表す定数を質量で除した値の正の二乗根に比例するものとして捉えられている。
【0034】
なお、通常は、固有振動数を求めるために利用する定数として、力を変形量で除した値で材料の伸びやすさを表す値であるばね定数kが設定されており、それを基に固有振動数を導く演算がなされる。しかし、これを電気電子機器収納用箱の変位量の特定に利用しようとしても、定数は、実際には、利用者によって入力される筐体の機種(材料・フレームの形状・密度、固定位置)や、筐体のサイズ(縦・横・奥行き、質量)や、搭載する内部機器(重心位置、内部機器の質量)などの仕様によってかわる。つまり、上記の式にある一つの定数を設定しても、多くの種類の電気電子機器収納用箱については適切な結果が得られない。
【0035】
そこで、あらかじめ、電気電子機器収納用箱の条件と定数の関係性を関連付けておき、筐体の条件にあわせて定数を選べるようにする。このため、複数の定数を備えた定数値データベース21を用意する。この定数値データベース21は、電気電子機器収納用箱の仕様と定数との紐付けをするように利用される。
図16に示すことから理解されるように、実施形態においては、定数値データベース21と、筐体情報と重心位置の情報を用いて定数値を特定することができるようにしており、質量の情報なども用いて固有振動数を導き出す。また、この固有振動数と加振条件を利用して、演算することにより変位量を算出し、その結果を用いて判定を行う。
【0036】
なお、本実施形態においては、後述するように、定数値、固有振動数、変位量を演算によって算出するようにしている。
【0037】
実施形態においては、前述による様々な条件から導き出した定数値から固有振動数を算出するための演算式があらかじめデータベースに記憶されている。この例では、筐体の機種と固有振動数、重心位置と固有振動数、質量と固有振動数との関係性を一つにまとめるように定数値を設定する。定数値と固有周波数の関係性の関連付けは実測値の結果や、物理現象について、コンピューター上での技術計算やシミュレーションから導きだした値などを用いて行えばよい。このようにして得られたデータを用いて、例えば、定数値と固有周波数の関係性から近似曲線又は近似曲面を作成すると、定数値を近似曲線または、近似曲面に当てはめることで、固有振動数を算出することができる(
図17参照)。この例から理解されるように、演算手段11は、機種ごとに整理された定数値と固有振動数の情報を用いた関係式を用いて固有振動数を特定可能とする構成とするのが好ましい。
【0038】
なお、このような近似曲線などの演算式がデータベースに備えられているものであってもよいし、固有振動数を算出するための各定数値を設定しておき、入力した筐体の機種、高さ位置、質量より、固有振動数を求められる構成としてもよい。また、筐体の機種と固有振動数の関係性、高さ位置と固有振動数の関係性、質量と固有振動数の関係性を近似曲線の数式で算出し、各々の数式から演算により固有振動数を割り出すための定数値を演算で算出することもできる。
【0039】
前述のとおり、固有振動数は、筐体の機種、重心位置、質量などに左右される。このため機種ごとに定数値との関連性を整理するのが好ましい(
図18参照)。定数値と固有周波数を関係づける関係式が、筐体の機種ごとに異なるように設定される場合、入力された筐体の機種によって、関係する値、関係式が抽出されるようにすればよい。
【0040】
いずれにせよ、固有振動数を導きだすことによって、固有振動数の大小が把握できる。例えば、固有振動数が大きいと、短い周期の地震動に対して影響が出やすいといった判定などを行うことができる。一方、固有振動数が小さいと、長い周期の地震動(減衰しにくく長距離まで届く、大規模な地震に多い)で被害を受けやすいといった判定などをすることも可能となる。
【0041】
実施形態においては、加振条件として、下記に示すように時間と加速度の関係性を示した地震波形が記憶されている(
図19参照)。実測する場合やCAEを用いて解析する場合には、このような地震波形を模擬した加振条件を電気電子機器収納用箱に与えて変位量を測定したり、演算により求めたりすればよい。例えば、ある特定の固有振動数を持つ電気電子機器収納用箱に、特定の地震波形に相当する揺れを加えた場合の最大変位量または、平均変位量を実測したり、CAEを用いて最大変位量、または、平均変位量を導き出すようにしたりすればよい。
【0042】
ところで、実測値や解析結果から設定した固有振動数と変位量との関係性を数多く記憶手段12に記憶させれば、記憶手段12に記憶された情報を用いて、固有振動数と変位量の関係性を表す近似曲線などの関係式を導きだすことができるようになる(
図20参照)。このように既に得られた多くの情報を基に導かれた関係式を用いれば、既存の情報を有効に活用できる。例えば、関係式を用いれば、固有振動数と、地震波形条件を入力することで、変位量を算出させることができる。なお、地震波形条件が必要となるのは、地震波形ごとに、固有振動数と変位量の関係性が異なるためである。いずれにせよ、関係式などを用いれば、比較的簡易に、電気電子機器収納用箱の変位量を算出させることができる。
【0043】
このようなことを可能とするために、電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムは、地震波形の情報ごとに整理された固有振動数と変位量の情報を用いた関係式を用いて変位量を特定可能とする構成とするのが好ましい。
【0044】
また、利用者は、この変位量を確認するなどして、内部機器への影響の程度の判断をするようにしてもよい。例えば、筐体の高さなどに応じて、変位量の判定基準を記憶しておき、その基準内の変位量である場合には、問題ないと判定するようにすればよい(
図21参照)。また、基準外の変位量である場合には、破損可能性が高いなどと判定すればよい。これらの判定を演算手段11で行うようにしてもよい。例えば、「内部機器が水平状態に保てない」、「マウントアングル間の距離がずれることにより、内部機器が脱落する虞がある」という判定ができるような、判定条件を設定するようにしてもよい。
【0045】
このようなことを可能とするために、電気電子機器収納用箱の耐震性能評価システムの演算手段11は、変位量が所定の数値を超えているかどうかを判定可能な構成とするのが好ましい。
【0046】
なお、上記システムを用いれば、利用者が電気電子機器収納用箱の購入などをする場合の利便性を高めることができる。例えば、
図22に示すような流れとなるように端末50を用いることが可能となり、想定される地震に対応し得る構成となっているか否かを確認しながら、購入する電気電子機器収納用箱を決定することができる。
【0047】
なお、
図22に示す例では、電気電子機器収納用箱の情報の入力(ST1)、搭載機器情報(内部機器の情報)の入力(ST2)、という、通常想定される入力作業の後に、内部機器を搭載した電気電子機器収納用箱の重心位置の算出(ST3)、この電気電子機器収納用箱の固有振動数の算出(ST4)、という演算がなされることになる。
【0048】
また、その後、利用者が加振条件の入力を行うと(ST5)、固有振動数と入力された加振条件から特定される地震波形データから変位量を算出する演算が行われる(ST6)。また、変位量が基準値以内であるか否かを判定するように演算が行われる(ST7)。そして、それらの結果の提示を受けた後に、利用者が発注の手続きをすると、特定された電気電子機器収納用箱の発注が決定される(ST8)。
【0049】
以上、実施形態を例に挙げて本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。例えば、各ステップの順番を支障のない範囲で前後させたり、他のステップを含めたり、一部のステップを省略したりすることも可能である。具体的には、例えば、ST7とST8の間において、端末に情報を表示するステップや、物理的な出力をするステップを加えることなどである。
【符号の説明】
【0050】
11 演算手段
21 定数値データベース