(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025084306
(43)【公開日】2025-06-03
(54)【発明の名称】電磁波吸収用材料及び電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20250527BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20250527BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198100
(22)【出願日】2023-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】322003802
【氏名又は名称】パナソニックインダストリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(71)【出願人】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】川村 基
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 貴志夫
(72)【発明者】
【氏名】室賀 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 元志
【テーマコード(参考)】
4G146
5E321
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC22A
4G146AD15
4G146AD40
4G146BA04
4G146CB23
4G146CB35
5E321AA41
5E321BB21
5E321BB25
5E321BB60
5E321GG11
5E321GH10
(57)【要約】
【課題】軽量でありながら、電磁波吸収性能に優れた電磁波遮蔽用材料を提供する。
【解決手段】電磁波遮蔽用材料は、シランカップリング剤による表面処理が施されたカーボンナノチューブを含む。電磁波遮蔽用材料のかさ密度が1.23kg/m
3以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤による表面処理が施されたカーボンナノチューブを含み、
かさ密度が1.23kg/m3以下である、
電磁波吸収用材料。
【請求項2】
前記シランカップリング剤は、アミノシランを含む、
請求項1に記載の電磁波吸収用材料。
【請求項3】
積層している複数の層を備え、前記複数の層は、機能層と、金属層及び磁性体層のうち少なくとも一方と、を含み、前記機能層は、請求項1又は2に記載の電磁波吸収用材料を含む、
電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収用材料及び電磁波吸収体に関する。詳細には電磁波を吸収、すなわち反射を抑制する用途に好ましく適用される電磁波吸収用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、誘電体からなる第1層、導電性を有する第2層、誘電体からなる第3層、および導電性を有する第4層が、この順で積層された積層構造を有する電磁波吸収体であって、第2層のシート抵抗は100Ω/□以上300Ω/□以下であって、第4層は電磁波の反射体である電磁波吸収体が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子機器を用いた情報通信において、航空分野、宇宙分野及び地上で使用される電子機器を搭載するキャリア等の軽量化は、燃費削減の観点から必須の課題となっている。
【0005】
上記用途において、電子機器から発生する電磁波を吸収することは、ノイズによる電子機器の誤作動の防止、電子機器間の電磁波を利用した通信の際の電磁波の進路の制御などのために重要である。
【0006】
本開示の課題は、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れた電磁波吸収用材料及び電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る電磁波吸収用材料は、シランカップリング剤による表面処理が施されたカーボンナノチューブを含み、かさ密度が1.23kg/m3以下である。
【0008】
本開示の一態様に係る電磁波吸収体は、積層している複数の層を備え、前記複数の層は、機能層と、金属層及び磁性体層のうち少なくとも一方と、を含む。前記機能層は、前記電磁波吸収用材料を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によると、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れた電磁波吸収用材料及び電磁波吸収体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る測定装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実験例に対する電磁波吸収性能の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施形態
実施形態について説明する。なお、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の一部に過ぎない。また、下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下で参照する図は、模式的な図であり、図中の構成要素の寸法比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0012】
実施形態に係る電磁波吸収用材料は、シランカップリング剤による表面処理が施されたカーボンナノチューブを含み、かさ密度が1.23kg/m3以下である。
【0013】
このため、電磁波吸収用材料は、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れる。
【0014】
実施形態に係る電磁波吸収体は、積層している複数の層を備える。複数の層は、機能層と、金属層及び磁性体層のうち少なくとも一方と、を含む。機能層は、前記の電磁波吸収用材料を含む。
【0015】
このため、電磁波吸収体は、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れる。
【0016】
まず、本開示に至った背景について説明する。人工衛星内の無線通信の実現に向けて、無線通信による電磁波ノイズや不要な反射波を吸収するために、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた超軽量電磁波吸収材料を作製した。これまでの添加量増加は自身の導電率の高さからによる反射が電磁波の吸収を阻害していた。
【0017】
超軽量かつ途絶しにくい無線通信システムの実現は、車両の飛行の可能性を大きく広げることに貢献できる。空飛ぶクルマや人工衛星、宇宙探査機などの宇宙機において、煩雑な配線を必要とする有線から無線通信への変更は、燃費の削減のみならず配線ミスなどのヒューマンエラーを削減することで安心安全の更なる向上が期待できる。超軽量材料に電磁波吸収性能を付与させることができると、金属筐体で覆われた飛行体の内部でも、電磁波干渉による通信障害のない環境を作ることが可能になる。一般的に、金属表面では電磁波が反射するために、電磁波の干渉が発生し、筐体内部での通信機器同士の送受信電波を阻害し、円滑な通信が困難になる。従って、この課題について電磁波吸収材を用いることで解決を試みる。
【0018】
本開示では、シランカップリング剤によるCNTの表面の絶縁化処理を、課題解決手段として検討した。CNTの表面に絶縁化処理を施すことで、(1)式の導電率σを低減し、(2)式に示す誘電正接δを0.4~0.5に制御することを目標とする。
【0019】
【0020】
【0021】
CNTの表面処理のためのシランカップリング剤は、アミノシランを含むことが好ましい。例えば、シランカップリング処理として、親水性アミノ基を疎水性シラン表面に化学修飾したアミノプロピルトリメトキシシラン(APMS)でCNTの表面をコーティングする。
【0022】
また、シランカップリング処理したCNTの配合率を増やしたサンプルを試作し、電磁波吸収性能の向上を図る。さらに、試作したサンプルについて、電磁波吸収性能および電磁特性を評価し、シランカップリング処理の効果について検討する。
【0023】
2.実験方法
(1)サンプル作製
a.シランカップリング処理
CNTの表面の絶縁化処理のために、3-Aminopropyltrimethoxysilane(T1255、東京化成株式会社製)を使用した。
【0024】
最初に、トリメトキシシランを用いてCNTをコーティングしたが、SiO2の疎水基が表面にあったためCMC水溶液中での均一分散が困難であることが判明した。
【0025】
そこで、親水基を末端に化学修飾する必要があった。APMSは親水性アミノ基(-NH2)を持つため、混合時に分散が期待でき、凍結乾燥プロセスに適することから選定した。
【0026】
CNTとして、日本ゼオン製の単層のCNTを用いた。高温耐久性のケースにCNTを入れ、中央にAPMSを入れたスナップカップをCNTのあるケース中央に配置した二層構造のカップリング処理を行った。二層ケース全体を密閉し、室温の電気炉にケースを設置し、200℃まで時間で上昇させて熱分解させた。
【0027】
b.凍結乾燥によるサンプル作製
凍結乾燥を行う分散液を、以下の配合で作製した。
【0028】
予備混合した液体にシランカップリング処理したCNT0.05gを添加し、この分散液に超音波をかけた。具体的には、分散液に3分間超音波にかけてから3分間除熱することを4回セット繰り返した。分散液を目視で確認して、4セットでは分散が不足であれば追加で超音波をかけた。
【0029】
続いて、分散液を30分以上5℃の冷水で予備冷却した。予備冷却後、110mm×110mmの型に45gの分散液を流し、3mmの厚さで均等にならした。ならした分散液を2時間凍結した。凍結後、凍結乾燥機に入れ、凍結乾燥させた。表1に、作製したサンプルを示す。
【0030】
【0031】
CNTの配合率が5重量%のサンプル(実験例1~3)では、CNT0.05gに対して表に示した量のAPMSをカップリング処理した。CNTの配合率が14重量%のサンプル(実験例4)では、CNT0.05gに対して1000μLのAPMSをカップリング処理し、処理後のCNTを0.15g配合した。全てのサンプルの材料の面内寸法は110mm×110mmである。サンプルの厚さはおおよそ3.5mm程度である。
【0032】
コーティングしたCNTは、コーティング後の重量で配合比を取った。
【0033】
(2)電磁波吸収性能の測定方法
方形導波管を用いて、作製したサンプルの電磁波吸収性能を評価した。
図1に測定系の概要を示す。
図1に示すように、1つの導波管2の終端にサンプルホルダー3を介してサンプル4と金属板5を重ねて配置した。導波管2に0dBmの電力を入力し、ネットワークアナライザ1(N5224A、Keysight Tech社製)を用いて、S
11を測定した。帯域幅は10kHz、平均化回数は4回とした。また、測定にあたり、表2に示すように、周波数帯域ごとに導波管の寸法を変更した。
【0034】
【0035】
(3)電磁波吸収性能および電気特性の評価
図2に、作製したサンプルごとの、|S
11|を比較して示す。測定結果には、導波管の切り替え周波数において不連続点が生じている。また、おおよそ1-2GHz毎に導波管内の波長共振によるものと考えられる極大値、極小値が得られた。ただし、測定の再現性が高いことを別途確認している。
【0036】
CNTの配合率が5重量%のいずれのサンプル(実験例1~3)についても、20GHz付近でブロードな極小値が得られた。AMPS量が0μLのサンプルを配置した場合を基準にすると、AMPS量が500μLのサンプルでは|S11|が増加した。シランカップリングによる絶縁によって、サンプル内で生じる損失が低下したと考えられる。
【0037】
一方で、2000μLのサンプルでは|S11|が低下し、|S11|が極小となる周波数が低い帯域にシフトした。
【0038】
この原因として、サンプル厚が10%程度厚いこと、また、大量のシランカップリング剤の添加によって、サンプルの誘電率が増加した可能性が考えられる。
【0039】
CNT配合率が14重量%のサンプルについては、12GHzにおいて-46dBの極小値が得られた。ただし、波長共振の影響が重畳していることを考慮する必要がある。
【0040】
(4)電気特性
サンプルの電磁特性を推定するため、サンプルを等価電磁界モデル化した。初めに、探針法を利用して、サンプルの導電率を測定した(RM3548, Hioki E.E.社製)。次に、誘電率を推定するため、サンプルを、一様な導電率と複素誘電率を持つ平板として等価電磁界モデル化した。導電率については測定値を入力した。誘電率については、電磁界シミュレーション(AnsysHFSS, Ansys Inc.社製)を実施し、実験値とのフィッティングにより求めた。ただし、誘電率は周波数に依存しないと仮定した。
【0041】
表2に導電率の測定値と誘電率の推定値を示す。シランカップリング処理していない実験例1と比較すると、シランカップリング処理した実験例2及び実験例3では、導電率が著しく減少した。表面の絶縁化処理の効果と思われる。APMS量が500μLのサンプル(実験例2)では、誘電正接も低下し、所期の効果が得られたと期待できる。
【0042】
ただし、APMS量が2000μLのサンプル(実験例3)では比誘電率の実部および誘電正接が増加した。シランカップリング剤自体の影響と考えられる。
【0043】
CNT配合率が14質量%の実験例4については、実験例1と比較して導電率が著しく低下した。また、誘電正接を保ちつつ、高い比誘電率を実現した。シランカップリング処理によるサンプルの誘電率の制御の可能性が示され、材料設計の自由度の向上が期待できる。
【0044】
【0045】
(5)まとめ
表面をAPMSで絶縁化処理し、CNT配合率を増加させ、吸収材料中の吸収体を高密度化、凍結乾燥プロセスで混合し、超軽量電磁波吸収材料を作製した。電磁波吸収性能の評価および誘電率推定により以下の結果を得た。
【0046】
アミノ基で化学修飾させたシラン剤APMSをCNT表面にカップリングさせると、水溶液中でCNTが均一分散する。
【0047】
CNT配合率を従来の3倍にすることで電磁波吸収性能を12GHzで-46dBに向上させることができた。
【0048】
これより、シランカップリングによる表面の絶縁化処理が電磁波吸収性能を向上させる手段として可能性を持つことが確認できた。
【0049】
3.態様
第1の態様に係る電磁波吸収用材料は、シランカップリング剤による表面処理が施されたカーボンナノチューブを含み、かさ密度が1.23kg/m3以下である。
【0050】
この態様によると、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れた電磁波吸収用材料が得られる。
【0051】
第2の態様では、第1の態様において、シランカップリング剤は、アミノシランを含む。
【0052】
第3の態様に係る電磁波吸収体は、積層している複数の層を備える。複数の層は、機能層と、金属層及び磁性体層のうち少なくとも一方と、を含む。機能層は、第1又は第2の態様の電磁波吸収用材料を含む。
【0053】
この態様によると、軽量でありながら、電磁波の吸収性能に優れた電磁波吸収体が得られる。