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特開2025-8488エレクトロスラグ溶接装置、エレクトロスラグ溶接装置の制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008488
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ溶接装置、エレクトロスラグ溶接装置の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 25/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B23K25/00 N
B23K25/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110704
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 亮
(72)【発明者】
【氏名】福本 弘孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 優佑
(57)【要約】
【課題】エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させる。
【解決手段】エレクトロスラグ溶接装置は、エレクトロスラグ溶接を行うための溶接トーチと、母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置と、前記撮影装置にて撮影された画像から、前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定手段と、前記特定手段にて特定された領域の位置と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整手段と、を有する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスラグ溶接を行うための溶接トーチと、
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置と、
前記撮影装置にて撮影された画像から、前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定手段と、
前記特定手段にて特定された領域の位置と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整手段と、
を有するエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項2】
前記母材に対して摺動可能に設置される摺動板を備え、
前記調整手段は更に、前記特定手段にて特定された領域の位置に基づいて、前記第1の方向における前記摺動板の位置を調整する、請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項3】
前記溶接トーチは、前記第1の方向に直交する第2の方向に沿ってオシレート動作を行い、
前記特定手段は、前記溶接トーチの先端が前記オシレート動作において所定の位置にある際の画像を用いて、前記溶融スラグ浴の領域を特定する、請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項4】
前記調整手段は、特定された前記溶融スラグ浴の領域のうち、前記第2の方向の前記溶接トーチから離れる側における所定の範囲の重心位置と、前記溶接トーチの先端位置との前記第1の方向における差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する、請求項3に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項5】
前記調整手段は更に、前記特定手段にて特定された領域の位置と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置に基づいて、前記第2の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する、請求項3に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項6】
前記開先に対してフラックスの散布を制御するフラックス散布制御手段を有し、
前記特定手段は、前記開先に対してフラックスを散布してから所定の時間が経過した後の画像を用いて、前記溶融スラグ浴の領域を特定する、請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項7】
前記特定手段は、前記撮影装置にて取得された画像において、青成分および緑成分が所定の閾値以上の値を有する画素から構成される領域が存在した場合、前記溶融スラグ浴が不足していることを特定し、
前記フラックス散布制御手段は、前記溶融スラグ浴が不足していることに応じて、前記フラックスの散布を行う、請求項6に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項8】
前記溶融スラグ浴が不足していることを特定した場合に当該不足に関する通知を行う出力手段を有する請求項7に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
【請求項9】
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置にて撮影された画像を取得する取得工程と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定された領域の位置と、前記開先内における溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程と、
を有するエレクトロスラグ溶接装置の制御方法。
【請求項10】
コンピュータに、
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置にて撮影された画像を取得する取得工程と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定された領域の位置と、前記開先内における溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ溶接装置、エレクトロスラグ溶接装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
造船や鉄骨建築分野における構造物製造においては、立向溶接が行われている。この立向溶接には、例えば、溶融スラグのジュール熱を熱源とするエレクトロスラグ溶接(ESW:Electro Slag Welding)が用いられ、自動化が進められている。エレクトロスラグ溶接は、溶融スラグ内で熱が発生してワイヤ及び母材を溶融するので、アーク放射熱が発生せず、またヒューム、スパッタの発生も少なく、作業環境の改善に適している。また、溶融スラグで溶接金属を大気から遮蔽するのでシールドガスが不要であり、板厚が大きくなってもシールド効果が劣化することがなく、大気に存在する窒素などの溶融金属内への侵入を板厚に関係なく効果的に防止できる。そのため、溶接金属の機械的性質が良好である。
【0003】
エレクトロスラグ溶接のような立向溶接において、例えば、特許文献1では、スラグ浴を検出するための検出器を設けることなく、スラグ浴の深さを溶接に適した状態に保つ構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6460910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
立向溶接において、装置は、溶接対象の開先、すなわち上昇方向に対して平行に設置したレールに沿って上昇しながら溶接を行う。このとき、装置の移動経路となるレールを正確に平行に設置することが求められるが、人手でこれを行うことは難しく、左右方向にずれが生じ得る。立向溶接では、開先の中央に溶接トーチや銅板を維持する必要があり、ずれが生じた場合には、手動で調整を行っていた。このような課題に対し、例えば、ずれを補正しながら溶接を自動的に行うための構成として、ローラを開先の溝に差し入れることによる機械式の倣い装置が用いることが考えられる。しかし、このような構成では、高コスト、誤差の程度が大きい、開先幅への対応に制約があるといった課題が生じる。
【0006】
本発明では、上記課題を鑑み、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接装置は、
エレクトロスラグ溶接を行うための溶接トーチと、
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置と、
前記撮影装置にて撮影された画像から、前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定手段と、
前記特定手段にて特定された領域の位置と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整手段と、
を有する。
【0008】
また、本発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、エレクトロスラグ溶接装置の制御方法は、
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置にて撮影された画像を取得する取得工程と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定された領域の位置と、前記開先内における溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程と、
を有す。
【0009】
また、本発明の別の形態として以下の構成を有する。すなわち、プログラムは、
コンピュータに、
母材にて構成される開先内の溶融スラグ浴を撮影可能に配置された撮影装置にて撮影された画像を取得する取得工程と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程と、
前記特定工程にて特定された領域の位置と、前記開先内における溶接トーチの先端位置との第1の方向の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図。
図2】本発明の一実施形態に係る溶接システムの機能構成の例を示すブロック図。
図3A】本発明の一実施形態に係る開先の構成例を示す概略図。
図3B】本発明の一実施形態に係る開先の構成例を示す概略図。
図3C】本発明の一実施形態に係る開先の構成例を示す概略図。
図4】本発明の一実施形態に係る画像の例を示す例図。
図5A】本発明の一実施形態に係る画像処理を説明するための例図。
図5B】本発明の一実施形態に係る画像処理を説明するための例図。
図5C】本発明の一実施形態に係る画像処理を説明するための例図。
図6A】本発明の一実施形態に係る画像の例を示す例図。
図6B】本発明の一実施形態に係る画像の例を示す例図。
図6C】本発明の一実施形態に係る画像の例を示す例図。
図6D】本発明の一実施形態に係る画像の例を示す例図。
図7】本発明の一実施形態に係る制御タイミングを説明するためのグラフ図。
図8】本発明の一実施形態に係る制御タイミングを説明するためのグラフ図。
図9】本発明の一実施形態に係る制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を説明するための一実施形態であり、本発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、本発明に係る一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
[溶接システム]
図1は、本実施形態に係るエレクトロスラグ溶接装置100、(以下、溶接装置100と称する)の構成例を示す概略図である。図1では省略しているが、溶接装置100は、不図示の溶接電源、ワイヤ送給装置、および操作箱をさらに含んで構成される。各部位は、電源ケーブルや信号ケーブルなどの各種ケーブルを介して接続されてよい。溶接装置100は、図1にX軸、Y軸、Z軸の3軸からなる座標系を示す。X軸は母材3の板厚方向、Y軸は一対の母材が並ぶ方向、即ち、母材3の表面に沿った水平方向、Z軸は母材3の溶接線に沿った方向、即ち上下方向である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る溶接装置100は、固定の銅当て金1、溶接用摺動銅当て金13(以下、銅当て金13とも称する)、溶接トーチ4、フラックス供給装置14、溶接制御装置15、走行台車16、走行台車制御装置17、撮影装置18、および、表示装置19を備える。
【0016】
溶接装置100において、鋼板である一対の母材3の開先の裏側には固定の銅当て金1が配置されており、開先の表側には摺動板としての銅当て金13が配置される。ここで、裏側の銅当て金1の代わりに、耐熱性のセラミックから構成される裏当て材を用いてもよい。また、表側の銅当て金13は、上下方向に摺動する銅当て金であり、例えば、水冷により冷却されている。なお、本実施形態では、銅当て金13の材質として銅を挙げているが、銅に限定されるものではなく、一般的に熱伝導性能が良い材質であれば、当て金に用いられる材質は特に問わない。本実施形態では、便宜上、固定の銅当て金1が配置されている方を「開先の裏側」もしくは「開先の奥側」、銅当て金13が配置されている側を「開先の表側」もしくは「開先の手前側」とするが、開先の両側に銅当て金13を配置しても構わない。
【0017】
銅当て金13は、走行台車16によって、上、すなわち、Z軸方向に移動可能に構成されるほか、後述する制御により、左右、すなわち、Y軸方向にも移動可能に構成される。銅当て金13は、溶接開始前に、X軸方向の所定の力で母材3に押し付けられて設置される。また、図1では不図示であるが、銅当て金13の上部には、溶融スラグ浴7の表面(上面)を検出するためのスラグ検出端子が設けられてもよい。
【0018】
溶接トーチ4は、溶接電源200から供給される溶接電流8により溶接ワイヤ6に給電して母材3を溶接する。また、溶接トーチ4は、コンタクトチップ5を有しており、コンタクトチップ5は、溶接ワイヤ6を案内するとともに溶接ワイヤ6に溶接電流8を供給する。
【0019】
母材3、銅当て金1、および銅当て金13に囲まれた開先内に、溶接トーチ4のコンタクトチップ5の先端から溶接ワイヤ6が送給され、開先内に形成された溶融スラグ浴7内に送り込まれる。溶接電流8は、溶接ワイヤ6から溶融スラグ浴7を通して溶融金属9に流れる。このとき、溶融スラグ浴7を流れる溶接電流8及び溶融スラグ浴7の抵抗により、ジュール熱が発生し、溶接ワイヤ6及び母材3を溶融しながら溶接が進行する。
【0020】
溶接用摺動銅当て金13は、立向溶接が進むにつれて、開先の表側の面に沿って上側に移動する。フラックス供給装置14は、溶融スラグ浴7にフラックス12を散布することで供給する。フラックス12は溶融して溶融スラグになるため、フラックス12を供給することにより、溶融スラグ浴7の量、すなわち、深さが増加することとなる。
【0021】
フラックス供給装置14は、溶接制御装置15の指示に基づいて、溶融スラグ浴7に供給されるフラックス12の供給量やタイミングを調整する。フラックス12を供給するタイミング等の制御については後述する。
【0022】
立向溶接が進行するにつれて、溶融金属9は冷却されて溶接金属10となり、溶融スラグ浴7の一部は、銅当て金1と溶接金属10との間、及び銅当て金13と溶接金属10との間に形成された溶融スラグ層となり、この溶融スラグ層が冷却されて固化スラグ11となる。このようにして、溶融スラグ浴7は、その一部がビード表面を覆う固化スラグ11となるので、溶接の進行につれて消費され、溶融スラグ浴7の深さLsが減少していくことになる。この溶融スラグ浴7の減少を補うために、溶融して溶融スラグ浴7となるフラックス12を追加供給する。
【0023】
ビード表面を覆う固化スラグ11の量は、ビード幅や溶接開先の幅によって変動する。また、固化スラグ11の量は、銅当て金1や銅当て金13と、母材3との密着度合や、銅当て金1や銅当て金13の冷却状態によっても変動する。そのため、固化スラグ11の量は一定ではなく、溶融スラグ浴7の深さLsを一定に保つためには供給するフラックス12の量も変化させる必要がある。ここでの一定とは、溶融スラグ浴7の深さLsが常に1つの値になる場合に限られず、誤差を考慮して溶融スラグ浴7の深さLsが一定の範囲内の値を示す場合も含まれる。すなわち、溶融スラグ浴7の深さLsは、予め定めた深さの範囲内にて維持されるように制御される。
【0024】
ここで、コンタクトチップ5の先端から溶融スラグ浴7の上面までを、溶接ワイヤ長Ld(以下、ドライエクステンションLdと称する)とする。これはコンタクトチップ5の先端が一般的に溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5間の通電位置になっていることを前提としたものである。例えば、コンタクトチップ5の先端が、セラミック等で保護され、コンタクトチップ5の先端より上方で溶接ワイヤ6とコンタクトチップ5の通電部分を設けている場合は、この通電部分の位置がドライエクステンションLdを決める基準となる。
【0025】
走行台車16は、溶接トーチ4、溶接用摺動銅当て金13、フラックス供給装置14、溶接制御装置15、走行台車制御装置17、および撮影装置18を搭載して構成される。走行台車16は、溶接しながら、不図示のレール上を上方向、即ち、Z軸方向に移動することで、溶接装置100を昇降させる。すなわち、走行台車16は、溶接トーチ4、溶接用摺動銅当て金13、フラックス供給装置14、溶接制御装置15、走行台車制御装置17、おおよび撮影装置18と一体となって移動するため、それぞれの相対的な位置関係は変わらない。走行台車16が上昇することにより、Z軸方向に沿って立向溶接が行われる。不図示のレールは、人手などにより溶接開始前に母材3の周辺に、溶接方向に沿って設置される。
【0026】
溶接制御装置15は、本実施形態に係る画像処理の他、各種機能を制御する。走行台車制御装置17は、溶接制御装置15の指示に基づき、走行台車16の走行速度を増減させて、走行台車16の動作を制御する。なお、図1の例では、溶接制御装置15と走行台車制御装置17を別個の構成としたが、これらをまとめて1つの制御装置として構成してもよい。
【0027】
撮影装置18は、溶接時に溶融スラグ浴7の領域を撮影可能なように、溶融スラグ浴7のZ軸方向上方側に配置される。図1においてLcは、Z軸方向における溶融スラグ浴7の表面と撮影装置18のレンズ位置との距離を示す。溶接中において、撮影装置18と走行台車16との間の位置関係は一定であるものとする。撮影装置18の設置位置は特に限定するものではないが、例えば、母材3にて構成される開先上部に設置され、Ls=30cmなどにて構成されてよい。また、撮影装置18には、例えば、ND(No Density)フィルタなどが設置され、溶接時に生じる光を一定程度減光(例えば、1/8減光)して画像を取得するように構成される。
【0028】
表示装置19は、例えば、撮影装置18にて撮影された画像や、後述する各種画像処理の結果を表示する。表示装置19と溶接装置100は、不図示の外部インタフェースを介して、有線にて接続されてもよいし、無線にて接続されてもよい。また、不図示の外部インタフェースを介して、表示装置19とは異なる外部装置とも通信可能に構成されてよい。この場合、撮影装置18にて撮影された画像や、後述する各種処理を行って得られた画像を外部装置へ送信するような構成であってもよい。
【0029】
走行台車16に備えられる各種制御装置は、処理部および記憶部から構成される。処理部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Single Processor)、または専用回路などから構成されてよい。また、記憶部は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の揮発性や不揮発性のメモリにより構成される。処理部が、記憶部に記憶された電源制御用のコンピュータプログラムを実行することにより、各種制御処理を実現する。
【0030】
(機能構成)
図2は、本実施形態に係る溶接制御装置15の機能構成の例を示すブロック図である。溶接制御装置15は、画像取得部201、画像処理部202、画像解析部203、溶接制御部204、フラックス散布制御部205、および出力制御部206を含んで構成される。
【0031】
画像取得部201は、撮影装置18により撮影された画像を取得する。画像取得部201は、撮影装置18による撮影に係るタイミングなどの制御を行ってもよい。画像処理部202は、画像取得部201にて取得された画像に対して、各種画像処理を適用する。画像処理の種類は特に限定するものではないが、例えば、フィルタリング処理、ぼかし処理、二値化処理、領域抽出処理、塗りつぶし処理などが含まれてよい。
【0032】
画像解析部203は、画像取得部201にて取得した画像や、画像処理部202にて処理した画像を用いて、画像に含まれる領域や状態の解析を行う。溶接制御部204は、画像解析部203による解析結果に基づいて、溶接装置100が備える各部位を制御する。例えば、溶接制御部204は、走行台車制御装置17への指示を行ったり、溶接トーチ4のオシレート制御などを行わせたりする。本実施形態に係るオシレート動作の具体例については後述するが、オシレート動作は、溶接トーチ4を所定方向に揺動させる動作を指す。
【0033】
フラックス散布制御部205は、画像解析部203による解析結果に基づいて、フラックス供給装置14によるフラックス散布のタイミングや散布量の制御を行う。出力制御部206は、画像取得部201にて撮影された画像などを表示装置19に表示させたり、溶接に係る各種メッセージ等を出力したりする。
【0034】
[開先の例]
図3A図3Cは、本実施形態に係る溶接装置100にて溶接を行う母材にて形成される開先の例を示す。図3A図3Cは、Z軸方向に沿って上側、すなわち、撮影装置18にて撮影する方向から見た概略図である。図3A図3Cでは省略しているが、溶接装置100は、溶接用摺動銅当て金13側に設置される。
【0035】
図3Aは、V字型の開先Gの例を示す。開先Gは、Y軸方向に沿って配置された母材3aおよび母材3bと、X軸方向に沿って配置された銅当て金1および溶接用摺動銅当て金13に囲まれるように構成される。後述する各画像にて示す例では、いずれもV字型の例を示している。図3Bは、I字型の開先Gの例を示す。また、図3Cは、レ型の開先Gの例を示す。
【0036】
[画像例]
図4は、本実施形態で扱う画像の例を示す図である。なお、以下の画像に示す三次元座標系において、画像内の座標および原点の設定は特に限定するものでは無く、画像内および画像間において対応する位置が特定可能であればよい。また、溶接装置100の座標系と、撮影装置18の座標系の座標は変換可能に対応付けられているものとする。したがって、これらは、絶対座標系にて対応付けられていてもよいし、相対座標系にて対応付けられていてもよい。そのため、撮影装置18にて撮影された画像から特定される座標は、溶接装置100の動作制御の際のパラメータに反映可能に構成される。また、撮影装置18にて撮影される画像は、少なくとも開先、すなわち、溶融スラグ浴7の領域が中央付近に含まれるように取得されればよく、その画角や画像サイズなどは特に限定するものではない。上述したように、撮影装置18は、溶接開始前に設置される。
【0037】
図4の画像400は、撮影装置18によりZ軸方向に沿って上側から撮影された画像である。画像400には、溶融スラグ浴7に相当する明るい領域Rtと、その周辺領域である暗い領域Roを含んで構成される。上述したように、溶融スラグ浴7の周辺には、母材3a、3b、銅当て金1、および溶接用摺動銅当て金13が位置する。また、画像400内には溶接トーチ4が含まれる。点Cbは、開先の領域Rtにおいて、X軸方向の中央よりも銅当て金1側(開先の奥側)における領域の重心点を示す。また、点Ctは、溶接トーチ4の先端位置を示す。
【0038】
図5Aは、撮影装置18にて撮影された元の画像500の例を示す。図5Bは、図5Aの画像500に対して二値化処理を適用して得られる画像510の例を示す。二値化処理により、所定の閾値以上の明度を有する明るい領域、すなわち、溶融スラグ浴7に対応する領域511と、それ以外の領域512とに分けられる。
【0039】
図5Cは、画像500と画像510に基づいて、溶融スラグ浴7に対応する領域Rtの点Cbを算出した例を示す。点Cbは、領域Rtのうち、X軸方向に沿って開先の中央から銅当て金1側の領域の重心位置を示す。本実施形態では、領域Rtのうち、X軸方向において所定の範囲に着目して重心点を導出する。ここでは、所定の範囲として、領域Rtの奥側半分の領域を対象として点Cbを導出する例を示す。銅当て金13側、すなわち、溶融スラグ浴7の手前側は、溶接トーチ4の影や銅当て金13の切込み等が存在し、フラックスの堆積具合や溶接トーチ4の傾きによって、座標検出の精度を低下させる要因となり得る。そのため、本実施形態では、このような領域を除いて、重心点を導出する。なお、上記の所定の範囲は特に限定するものではない。例えば、撮影装置18の画角や撮影方向などに応じて、重心点を導出する領域の範囲を規定してよい。
【0040】
図6Aは、オシレート動作により、溶接トーチ4がX軸方向の奥側、すなわち、銅当て金1側に移動した際の画像600の例を示す。図6Bは、オシレート動作により、溶接トーチ4がX軸方向の手前側、すなわち、銅当て金13側に移動した際の画像610の例を示す。本実施形態では、溶接トーチ4は、X軸方向、すなわち、溶接装置100の前後方向にオシレート動作を行うものとする。オシレート動作中の前後方向のオシレート幅は、母材3の厚さに応じて変動する。図6Aの画像600と図6Bの画像610を比較すると、画像から抽出される溶融スラグ浴7に相当する領域Rtの範囲が異なる。特に溶接トーチ4がX軸方向の手前側に位置した画像600の方がより大きく領域Rtを検出できる。
【0041】
図6Cは、開先に対してフラックスを散布した直後の画像620の例を示す。図5Aの画像500と図6Cの画像620を比較すると、フラックスを散布した直後は、画像、より具体的には溶融スラグ浴7周辺の明るさが低下する。そのため、フラックスを散布した直後の画像では、溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出の精度が低下してしまう。
【0042】
図6Dは、溶接トーチ4の先端、すなわち、溶接ワイヤ6が、溶融スラグ浴7の表面から露出しアークが視認される状態(以下、「オープンアーク」と称する)の画像630の例を示す。画像630に示すように、オープンアークが発生する状態は、溶融スラグ浴7の深さが不足している状態である。オープンアークが発生した場合、煙状の領域631が発生する。この領域631は、所定の画素値、具体的には、青(B)や緑(G)の割合が高いため、これらの画素値を特定することで、オープンアークの発生を捉えることができる。言い換えると、オープンアークが発生した際の画像からは溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出の精度が低下してしまう。オープンアークの判定に用いる画素値に対する閾値としては、例えば、(B,R,G)=(140,0,100)~(255,220,245)の上限、下限が用いられてよい。ここでは、各画素において、B(青)、R(赤)、G(緑)の3色がそれぞれ8bitにて表されている例を示している。
【0043】
[動作例]
本実施形態では、上述したような画像を用いて、溶接トーチ4の先端部における左右方向、すなわち、Y軸方向の位置調整を行う。また、溶接トーチ4は、X軸方向に沿ってオシレート動作を行うものとする。図4に示したように、本実施形態では、溶融スラグ浴7の重心位置に相当する点Cbと、溶接トーチ4の先端位置に相当する点Ctの座標を特定することができる。これらの点のY軸方向の位置(座標)がずれている場合には、溶接トーチ4の先端位置の左右方向の位置を調整する。
【0044】
また、図6Aおよび図6Bにて示したように、溶接トーチ4のオシレート動作によって、撮影装置18から見た溶融スラグ浴7に相当する領域の範囲が異なる。そこで、本実施形態では溶融スラグ浴7に相当する領域の範囲を極力広く捉えることが可能なように、溶接トーチ4の先端が手前側に位置する場合の画像を利用する。
【0045】
また、図6Cにて示したように、フラックス散布の直後は、撮影装置18から見た画像からは溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出精度が低下してしまう。そこで、本実施形態では、溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出精度をより高めるために、フラックス散布から一定時間内の画像は利用しない。
【0046】
図7は、画像から特定される溶融スラグ浴7に相当する領域のX軸方向の変動を説明するための図である。図7において、横軸は時間[秒]を示し、縦軸はX軸方向の座標[pixel]を示す。グラフ701は、撮影装置18にて撮影された画像から特定される、溶融スラグ浴7に相当する領域の重心位置、すなわち、図4の点CbのX軸方向の座標を示す。グラフ702は、フラックスを散布するタイミングを示す。グラフ702において、フラックスを散布したタイミングがピークの位置となる。
【0047】
グラフ701とグラフ702を参照すると、フラックス散布の直後は、点Cbの座標について変動が生じていることが分かる。すなわち、フラックス散布の直後は、本来の点Cbの座標とは異なる位置が検出されることが懸念され、その検出精度が低下してしまっている。よって、溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出精度をより高めるために、フラックス散布から一定時間内の画像は利用しない。
【0048】
また、図6Dに示したように、オープンアークが発生している場合には、撮影装置18から見た画像からは、溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出精度が低下してしまう。そこで、本実施形態では、溶融スラグ浴7に相当する領域の抽出精度をより高めるために、オープンアークが発生している画像は利用しない。
【0049】
図8は、エレクトロスラグ溶接において、溶接装置100の設置に際し、初期位置から最終位置の間でY軸方向に左側に9mmずれて設置されたレールに沿って溶接を行った場合の制御例を示すグラフ図である。つまり、より好ましくは、溶接装置100の移動経路であるレール(不図示)は、開先方向に沿って平行に、ずれることなく設置されることが好ましい。しかし、現実的にはこのような設置は困難であるため、溶接の開始位置と終了位置におけるレールの設置位置にはずれが生じ得る。
【0050】
図8において、横軸は時間[秒]の経過を示し、縦軸は溶接の開始位置からの左右の相対位置[mm]を示す。本実施形態において、ここでの左右とは、Y軸方向に対応する。また、Y軸方向において、左方向を正とし、右方向を負とする。図8の例では、縦軸の上方向が正(左方向)に対応している。
【0051】
破線801は、想定される溶融スラグ浴7の中心位置を示している。上述したように、開始位置を0とした場合、終了位置は左側に9mmずれているものとする。閾値Thlおよび閾値Thrは、溶接トーチ4の先端位置の補正を行うための閾値である。閾値Thlは左側のずれに対する閾値であり、閾値Thrは右側のずれに対する閾値である。各閾値は、溶接の精度に応じて規定されてよく、予め規定されて記憶部等に保持されているものとする。
【0052】
グラフ802は、溶接トーチ4のY軸(左右)方向に対する位置を示す。グラフ803は、銅当て金13のY軸(左右)方向に対する位置を示す。なお、溶接トーチ4と銅当て金13は、Y軸方向において同期して同一の動作を行うように構成されてもよいし、別々に位置調整が可能なように構成されてもよい。グラフ804は、撮影装置18にて取得された画像に基づいて特定された溶融スラグ浴7のY軸(左右)方向に対する位置を示し、ここでは、図4等にて示したように、溶融スラグ浴7の重心位置である点Cbの位置として説明する。
【0053】
本実施形態では、グラフ804にて示す溶融スラグ浴7の点Cbの位置が閾値を超えた場合、すなわち、閾値以上に左右方向にずれた場合、溶接トーチ4と銅当て金13の位置を補正する。図8の例では、開始時間から、190秒、250秒、290秒、380秒、510秒、620秒、660秒辺りにおいて、閾値以上のずれが発生したものとして、溶接トーチ4と銅当て金13の位置が左方向に調整されている。なお、図8の例において、溶接開始から100秒程度までの値については、溶接開始直後の影響等が出ているに過ぎず、ここでは考慮していない。
【0054】
[処理フロー]
図9は、本実施形態に係る制御処理のフローチャートを示す。本処理フローは、例えば、溶接装置100が備える処理部が、対応するプログラムを記憶部から読み出して実行することにより実現される。本処理フローは、溶接対象の母材3に対して溶接装置100が設置された状態にて実行される。ここでは、説明を簡潔にするため、処理主体を溶接装置100として包括的に記載する。
【0055】
S901にて、溶接装置100は、溶接を開始する。ここでの開始は、ユーザの指示に従って開始されてもよいし、所定の条件が満たされたタイミングで開始されてもよい。ここでの溶接には、走行台車16の制御による溶接装置100の上昇動作、溶接ワイヤ6の送給なども含まれる。
【0056】
S902にて、溶接装置100は、撮影装置18による溶融スラグ浴7の撮影を開始する。本撮影により、図4に示したような画像が順次取得される。
【0057】
S903にて、溶接装置100は、溶接トーチ4の倣い制御を開始する。本実施形態では、溶接トーチ4をX軸方向に沿ったオシレート動作を行うことで、倣い制御を実行させる。
【0058】
S904にて、溶接装置100は、撮影装置18にて撮影される画像を順次解析する。ここでの解析は、所定のフレームレートごとに行われてもよい。解析に際し、画像に対して、フィルタリング処理、ぼかし処理、二値化処理、領域抽出処理、塗りつぶし処理などの画像処理が行われてよい。画像処理は、溶接動作と並行して実行されるため、一定の応答性が実現できる程度の処理負荷であることが好ましい。
【0059】
S905にて、溶接装置100は、S904による画像解析の結果、オープンアークの発生を検出したか否かを判定する。図6Dを用いて示したように、オープンアーク発生時には、所定の画素値を有する領域が発生するため、画像に含まれる各画素における画素値に基づいて判定してよい。オープンアークの発生を検出した場合(S905にてYES)、溶接装置100の処理はS906へ進む。一方、オープンアークの発生を検出していない場合(S905にてNO)、溶接装置100の処理はS908へ進む。
【0060】
S906にて、溶接装置100は、フラックス散布を実行する。ここでのフラックスの散布量は、予め規定されていてよい。また、フラックスの散布は所定量を一度にまとめて行われてもよいし、段階的に複数回に分けて行われてもよい。また、フラックスを散布する際には、溶接装置100は、上昇動作など他の動作を停止させてもよい。また、S905にてオープンアークを検出したことに伴い、溶接装置100は、フラックスの散布の他、表示装置19にてオープンアークが発生していることを表示してもよい。
【0061】
S907にて、溶接装置100は、所定時間待機する。つまり、S906にて散布したフラックスが溶融し、オープンアークが発生しない状態になるまで待機する。ここでの待機時間は、フラックスの散布量に応じて予め規定されていてもよい。その後、溶接装置100の処理はS904へ戻り、処理を繰り返す。
【0062】
S908にて、溶接装置100は、溶接トーチ4の先端部が所定の位置にあるか否かを判定する。溶接トーチ4は、X軸方向に沿ってオシレート動作をしている。そして、図6Aおよび図6Bを用いて説明したように、溶接トーチ4の位置に応じて、溶融スラグ浴7の重心位置の特定精度が変化する。そこで、本実施形態では、より重心位置の特定精度が高くなるように、溶接トーチ4の先端部が手前側に位置した場合を所定の位置とする。なお、所定の位置は、移動可能な範囲で最も溶接トーチ4の先端が手前側に来た場合であってよい。また、所定の位置は範囲にて規定されてもよく、例えば、溶接トーチ4の先端部が移動可能なX軸方向の範囲において、一定の割合以上手前側に位置する場合に所定の位置にあると判定されてよい。溶接トーチ4の先端部が所定の位置にあると判定された場合(S908にてYES)、溶接装置100の処理はS910へ進む。一方、溶接トーチ4の先端部が所定の位置に無い場合(S908にてNO)、溶接装置100の処理はS909へ進む。
【0063】
S909にて、溶接装置100は、所定時間待機する。ここでの待機時間は、例えば、溶接トーチ4のオシレート周期に基づいて規定されていてよい。その後、溶接装置100の処理はS904へ戻り、処理を繰り返す。
【0064】
S910にて、溶接装置100は、撮影画像から溶融スラグ浴7に相当する領域を抽出する。本実施形態では、図5Cに示す領域Rtのような領域が抽出される。本実施形態では、画像に対してガウシアンぼかし処理、明度に基づく二値化処理、明度の高い最大の領域以外の塗りつぶし処理を順に行うことで、領域の抽出を行う。これらの処理は公知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。また、画像内における領域の座標が併せて抽出されてよい。
【0065】
S911にて、溶接装置100は、S910にて抽出された溶融スラグ浴7に相当する領域に基づいて、重心位置を特定する。本実施形態では、図5Cに示したような領域の重心位置を示す点Cbの座標が特定される。また、上述したように、溶融スラグ浴7に相当する領域全体に対して、所定の範囲内の重心位置を算出してもよい。本実施形態では、溶融スラグ浴7に相当する領域全体のうち、奥側半分の領域に着目して重心位置を算出する。なお、溶融スラグ浴7に相当する領域における重心位置の算出方法は公知の算出式を用いてよく、特に限定するものではない。
【0066】
S912にて、溶接装置100は、S911にて特定された溶融スラグ浴7の重心位置と、溶接トーチ4の先端位置とのY軸方向、すなわち、左右方向におけるずれに基づいて、溶接トーチ4の先端部の左右方向の位置を調整する。具体的には、図8を用いて説明したように、S911にて特定された溶融スラグ浴7の重心位置と、溶接トーチ4の先端位置との左右方向のずれが所定の閾値以上になった場合に調整を行う。このとき、溶接トーチ4の先端位置は、撮影画像、設置角度、オシレートの周期などから特定してよい。
【0067】
S913にて、溶接装置100は、溶接が完了したか否かを判定する。溶接が完了したか否かはユーザからの指示に基づいて判定してもよいし、溶接装置100が予め規定された距離の分だけ上方向に移動したことに基づいて判定してもよい。溶接が完了したと判定した場合(S913にてYES)、本処理フローを終了する。一方、溶接が完了していないと判定した場合(S913にてNO)、溶接装置100の処理はS904へ戻り、処理を繰り返す。
【0068】
以上、本実施形態により、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。特に、比較的簡易な構成により、レール設置の誤差を自動的に補正しながら精度の高い立向溶接を実現することが可能となる。さらに、様々な開先形状に対応した立向溶接を可能とすることができる。
【0069】
また、フラックス散布時の影響を考慮して、自動的なレール設置の誤差を精度良く補正することができる。また、オープンアークの発生を検知し、これによる影響を考慮して自動的なレール設置の誤差を精度良く補正することができる。更には、簡易な構成であるため、溶接装置の故障を防止し、コストを抑えることも可能となる。
【0070】
<その他の実施形態>
上記の実施形態では、左右方向における溶接トーチ4の先端位置および溶接用摺動銅当て金の位置調整の例を示した。しかし、これに限定するものではなく、奥行方向、すなわち、X軸方向における溶接トーチ4の先端位置の調整を行うような構成であってもよい。このような構成により、例えば、オシレート動作の基準位置を調整でき、より精度の高いオシレート動作を行うことが可能となる。
【0071】
また、上記の実施形態では、1つの撮影装置18を用いる例を示したが、これに限定するものではない。複数の撮影装置を用いて、溶接トーチ4による死角を減らし、より精度良く溶融スラグ浴7の領域を検出可能に構成してもよい。
【0072】
また、上記の実施形態では、溶融スラグ浴7の上面に対して真上から撮影する例を示したが、これに限定するものでは無い。例えば、溶接用摺動銅当て金13が配置される手前側から溶融スラグ浴7を撮影するような構成であってもよい。このような構成により、溶接用摺動銅当て金13に対する溶融スラグ浴の上面の高さを判別することが可能となる。そして、フラックス散布の要否の判定に利用することで、判定精度を向上させることが可能となる。
【0073】
また、上記の例では、画像処理として、ぼかし処理、二値化処理、領域検出といった流れの例を示したが、これに限定するものではない。例えば、図3A図3Cに示したように、溶接対象の開先の形状が予め特定できる場合には、画像内の領域と、開先形状とのパターンマッチングにより、領域を抽出してもよい。また、周知の機械学習の手法により生成された学習済みモデルを用いて、領域検出を行ってもよい。
【0074】
なお、本明細書において、用語「第1」、「第2」といった表現は、他の要素と区別するために用いられているに過ぎず、特定の構成要素に限定して解釈されることを意図するものではない。したがって、本発明を適用する構成等に応じてこれらは適宜読み替えられてよい。
【0075】
本発明において、上述した1つ以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0076】
また、1つ以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0077】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) エレクトロスラグ溶接を行うための溶接トーチ(例えば、4)と、
母材(例えば、3)にて構成される開先(例えば、G)内の溶融スラグ浴(例えば、7)を撮影可能に配置された撮影装置(例えば、18)と、
前記撮影装置にて撮影された画像から、前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定手段(例えば、15、202、203)と、
前記特定手段にて特定された領域の位置(例えば、Cb)と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置(例えば、Ct)との第1の方向(例えば、Y軸方向)の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整手段(例えば、15、204)と、
を有するエレクトロスラグ溶接装置(例えば、100)。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。特に、比較的簡易な構成により、レール設置の誤差を自動的に補正しながら精度の高い立向溶接を実現することが可能となる。さらに、様々な開先形状に対応した立向溶接を可能とすることができる。
【0078】
(2) 前記母材に対して摺動可能に設置される摺動板(例えば、13)を備え、
前記調整手段は更に、前記特定手段にて特定された領域の位置に基づいて、前記第1の方向における前記摺動板の位置を調整する、(1)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。特に、開先の位置に併せて、摺動板の位置を調整することが可能となる。
【0079】
(3) 前記溶接トーチは、前記第1の方向に直交する第2の方向(例えば、X軸方向)に沿ってオシレート動作を行い、
前記特定手段は、前記溶接トーチの先端が前記オシレート動作において所定の位置(X軸方向手前側)にある際の画像を用いて、前記溶融スラグ浴の領域を特定する、(1)または(2)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、溶接スラグ浴の領域を精度良く検出でき、位置補正の精度を向上させることが可能となる。
【0080】
(4) 前記調整手段は、特定された前記溶融スラグ浴の領域のうち、前記第2の方向の前記溶接トーチから離れる側における所定の範囲の重心位置(例えば、Cb)と、前記溶接トーチの先端位置(例えば、Ct)との前記第1の方向における差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する、(3)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、例えば、レール設置の際に左右方向の位置ずれが生じた場合でも、精度良く左右方向の位置調整を行うことが可能となる。
【0081】
(5) 前記調整手段は更に、前記特定手段にて特定された領域の位置と、前記開先内における前記溶接トーチの先端位置に基づいて、前記第2の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する、(3)または(4)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、例えば、オシレート動作を行う方向においても位置調整を行うことが可能となる。また、オシレート動作に係るユーザの作業負担を軽減でき、更には、ユーザの技能依存を軽減することが可能となる。
【0082】
(6) 前記開先に対してフラックス(例えば、12)の散布を制御するフラックス散布制御手段(例えば、14)を有し、
前記特定手段は、前記開先に対してフラックスを散布してから所定の時間が経過した後の画像を用いて、前記溶融スラグ浴の領域を特定する、(1)から(6)のいずれかに記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、フラックスの散布による影響を抑制して、精度良く位置調整を行うことが可能となる。
【0083】
(7) 前記特定手段は、前記撮影装置にて取得された画像において、青成分および緑成分が所定の閾値以上の値を有する画素から構成される領域が存在した場合、前記溶融スラグ浴が不足していること(例えば、オープンアーク)を特定し、
前記フラックス散布制御手段は、前記溶融スラグ浴が不足していることに応じて、前記フラックスの散布を行う、(6)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、オープンアークの検出及びこれに対応したフラックスの散布を実行させることが可能となる。
【0084】
(8) 前記溶融スラグ浴が不足していることを特定した場合に当該不足に関する通知を行う出力手段(例えば、19)を有する(7)に記載のエレクトロスラグ溶接装置。
この構成によれば、オープンアークの検出及びこれの通知を実行することが可能となる。
【0085】
(9) 母材(例えば、3)にて構成される開先(例えば、G)内の溶融スラグ浴(例えば、7)を撮影可能に配置された撮影装置(例えば、18)にて撮影された画像を取得する取得工程(例えば、S902)と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程(例えば、S910、S911)と、
前記特定工程にて特定された領域の位置(例えば、Cb)と、前記開先内における溶接トーチ(例えば、4)の先端位置(例えば、Ct)との第1の方向(例えば、Y軸方向)の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程(例えば、S912)と、
を有するエレクトロスラグ溶接装置(例えば、100)の制御方法。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。特に、比較的簡易な構成により、レール設置の誤差を自動的に補正しながら精度の高い立向溶接を実現することが可能となる。さらに、様々な開先形状に対応した立向溶接を可能とすることができる。
【0086】
(10) コンピュータ(例えば、15)に、
母材(例えば、3)にて構成される開先(例えば、G)内の溶融スラグ浴(例えば、7)を撮影可能に配置された撮影装置(例えば、18)にて撮影された画像を取得する取得工程(例えば、S920)と、
前記画像から前記溶融スラグ浴の領域を特定する特定工程(例えば、S910、S911)と、
前記特定工程にて特定された領域の位置(例えば、Cb)と、前記開先内における溶接トーチ(例えば、4)の先端位置(例えば、Ct)との第1の方向(例えば、Y軸方向)の差分に基づいて、前記第1の方向における前記溶接トーチの先端位置を調整する調整工程(例えば、S912)と、
を実行させるためのプログラム。
この構成によれば、エレクトロスラグ溶接において、装置の設置精度に係る影響を抑え、ユーザの利便性を向上させることが可能となる。特に、比較的簡易な構成により、レール設置の誤差を自動的に補正しながら精度の高い立向溶接を実現することが可能となる。さらに、様々な開先形状に対応した立向溶接を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0087】
1…銅当て金
3…母材
4…溶接トーチ
5…コンタクトチップ
6…溶接ワイヤ
7…溶融スラグ浴
8…溶接電流
9…溶融金属
10…溶接金属
11…固化スラグ
12…フラックス
13…溶接用摺動銅当て金(銅当て金)
14…フラックス供給装置
15…溶接制御装置
16…走行台車
17…走行台車制御装置
18…撮影装置
19…表示装置
100…溶接装置(エレクトロスラグ溶接装置)
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9