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特開2025-8489摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008489
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 360
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110705
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
(72)【発明者】
【氏名】宮田 幸昌
(72)【発明者】
【氏名】今井 智恵子
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG13
4E167BG15
4E167BG22
4E167DA10
4E167DC01
(57)【要約】
【課題】欠陥の発生を抑制しつつ接合速度を速めることができ、しかも汎用の工作機械を用いた接合が可能となる摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌方法を提供する。
【解決手段】円柱状の本体部11の先端に形成されたショルダー13と、ショルダー13の中心に配置されて本体部11の軸方向に突出するプローブ15とを有する摩擦撹拌接合ツール100であって、ショルダー13は、中央部が軸方向に突出する凸面形状のショルダー面17と、軸方向に凹む溝19とを有する。溝19は、ツール回転による摩擦熱で生成される被接合材の固相流動層の一部を貯留し、貯留された固相流動層をツール回転に伴い回転方向後方のショルダー面17の対向領域に戻し、対向領域における固相流動層の厚みを周期的に変化させる溝内空間を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の本体部の先端に形成されたショルダーと、該ショルダーの中心に配置されて前記本体部の軸方向に突出するプローブとを有する摩擦撹拌接合用ツールであって、
前記ショルダーは、中央部が前記軸方向に突出する凸面形状のショルダー面と、前記軸方向に凹む溝とを有し、
前記溝は、ツール回転による摩擦熱で生成される被接合材の固相流動層の一部を貯留し、貯留された前記固相流動層を前記ツール回転に伴い回転方向後方の前記ショルダー面の対向領域に戻し、前記対向領域における前記固相流動層の厚みを周期的に変化させる溝内空間を有する、
摩擦撹拌接合ツール。
【請求項2】
前記溝は、前記ショルダーの径方向内側から径方向外側に向かって直線状に形成されている、
請求項1に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項3】
前記溝は、前記ショルダーの内周縁から前記ショルダーの半径方向に形成されている、
請求項2に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項4】
前記溝は、前記プローブの外周円の接線方向に形成されている、
請求項2に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項5】
前記溝は、前記ショルダーの径方向内側から径方向外側に向かって曲線状に形成されている、
請求項1に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項6】
前記ショルダーに複数の前記溝が形成されている、
請求項1に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項7】
前記溝は、4本以上形成されている、
請求項6に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項8】
前記溝の周方向に沿った断面形状は、V字形である、
請求項1に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項9】
前記ショルダーの前記凸面形状は、前記軸方向に膨出する曲面形状である、
請求項1に記載の摩擦撹拌接合ツール。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合ツールの前記先端を、被接合材の接合部に押し当てて回転駆動させ、前記被接合材と前記摩擦撹拌接合ツールとの間に生じる摩擦によって前記被接合材に前記固相流動層を生成させながら、前記摩擦撹拌接合ツールと前記被接合材とを相対移動させて前記被接合材を接合する、
摩擦撹拌接合方法。
【請求項11】
前記摩擦撹拌接合ツールを、前記被接合材の表面の法線方向から前記接合部に押し当てて回転駆動させる、
請求項10に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項12】
前記摩擦撹拌接合ツールをマシニングセンタの主軸に装着して、前記被接合材を接合する、
請求項10に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項13】
前記摩擦撹拌接合ツールと前記被接合材とを、前記被接合材の表面上で曲線状に相対移動させる、
請求項12に記載の摩擦撹拌接合方法。
【請求項14】
前記被接合材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、
請求項10に記載の摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌接合方法する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両における乗員の安全性向上が求められており、係る目的のために車体の強度を向上させてきた。他方、地球温暖化問題等の深刻化を背景に、自動車の燃費改善の動きが加速している。燃費改善には車体の軽量化が有効であることが知られている。そこで、車体に用いられる鋼材に代えてアルミニウム材等の軽金属の使用が促進されるようになった。ところで、金属材料同士を接合する技術として、摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)がある。摩擦撹拌接合は、プローブと呼ばれるピンとショルダーとからなる摩擦撹拌接合ツールを回転させながら、ツール先端を被接合材に差し込み、発生する摩擦熱により接合部を固相撹拌して接合する接合方法である。
【0003】
通常の摩擦撹拌接合ツールは、ショルダーが軸方向に凹んだ形状を備えるが、被接合材の形状や接合形態等に応じて、ショルダーが軸方向に突出した凸面からなる摩擦撹拌接合ツール、更にはツール先端面に同心円状又は渦巻状の溝を設けた摩擦撹拌接合ツールが提案されている(先行文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4450728号公報
【特許文献2】特開2003-245783号公報
【特許文献3】特開2019-166568号公報
【特許文献4】特開2000-153374号公報
【特許文献5】特開2022-79568号公報
【特許文献6】特開2021-112767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、摩擦撹拌接合においては、被接合材を溶融させない温度で接合を行うため、歪が少ない接合ができるものの、接合速度が遅いという欠点がある。また、摩擦撹拌接合ツールにかかる負荷(荷重)が大きく、一定の撹拌力を得るには摩擦撹拌接合ツールを接合線に対して一定角度傾けながら回転させる必要がある。そのため、摩擦撹拌接合を行うには負荷に耐える専用の設備が必要となり、設備の導入等のコストが増加する問題があった。
【0006】
また、特許文献1のようなショルダー部を凸面にした摩擦撹拌接合ツールは、被溶接材が曲面を有し、この曲面で相互に摩擦撹拌接合する用途には適している。しかし、平板同士を接合する用途では、ショルダー部を凸面にしたり、ショルダー部に同心円状、渦巻状の溝を設けたりすると、ショルダー部と被接合材との摩擦が低下する。その結果、被接合材の撹拌に伴う温度上昇が少なくなり、被接合材の接合速度を増加させることが難しくなる。また、十分な摩擦熱が得られにくいため、接合部が不安定となって空洞欠陥が発生しやすくなる。
【0007】
そこで本発明は、欠陥の発生を抑制しつつ接合速度を速めることができ、しかも汎用の工作機械を用いた接合が可能となる摩擦撹拌接合ツール及び摩擦撹拌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 円柱状の本体部の先端に形成されたショルダーと、該ショルダーの中心に配置されて前記本体部の軸方向に突出するプローブとを有する摩擦撹拌接合用ツールであって、
前記ショルダーは、中央部が前記軸方向に突出する凸面形状のショルダー面と、前記軸方向に凹む溝とを有し、
前記溝は、ツール回転による摩擦熱で生成される被接合材の固相流動層の一部を貯留し、貯留された前記固相流動層を前記ツール回転に伴い回転方向後方の前記ショルダー面の対向領域に戻し、前記対向領域における前記固相流動層の厚みを周期的に変化させる溝内空間を有する、
摩擦撹拌接合ツール。
(2) (1)に記載の摩擦撹拌接合ツールの前記先端を、被接合材の接合部に押し当てて回転駆動させ、前記被接合材と前記摩擦撹拌接合ツールとの間に生じる摩擦によって前記被接合材に前記固相流動層を生成させながら、前記摩擦撹拌接合ツールと前記被接合材とを相対移動させて前記被接合材を接合する、
摩擦撹拌接合方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、欠陥の発生を抑制しつつ接合速度を速めることができ、しかも汎用の工作機械を用いた接合が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、摩擦撹拌接合ツールの外観を示す斜視図である。
図2図2は、摩擦撹拌接合ツールを先端から見た平面図である。
図3図3は、摩擦撹拌接合ツールの先端におけるショルダーとプローブの拡大斜視図である。
図4図4は、2枚の被接合材の端部同士を突合せた位置で被接合材同士を摩擦撹拌接合ツールにより摩擦撹拌接合する様子を示す説明図である。
図5図5は、摩擦撹拌接合ツールを一部断面で示す断面斜視図である。
図6図6は、摩擦撹拌接合ツールの回転により生成される固相流動層を模式的に示す説明図である。
図7図7は、摩擦撹拌接合ツールにより撹拌される固相流動層の流れを、摩擦撹拌接合ツールの先端の平面図で模式的に示す説明図である。
図8図8は、図7に示すVIII-VIII線に沿った断面図である。
図9図9は、摩擦撹拌接合ツールの先端の側面図である。
図10図10は、摩擦撹拌接合ツールの第1変形例を示す斜視図である。
図11図11は、摩擦撹拌接合ツールの第2変形例を示す斜視図である。
図12図12は、摩擦撹拌接合ツールの第3変形例を示す斜視図である。
図13図13は、摩擦撹拌接合ツールの第4変形例を示す斜視図である。
図14図14は、摩擦撹拌接合ツールの第5変形例を示す斜視図である。
図15図15は、摩擦撹拌接合ツールの第6変形例を示す斜視図である。
図16図16は、摩擦撹拌接合ツールの第7変形例を示す斜視図である。
図17図17は、摩擦撹拌接合ツールをマシニングセンタの主軸に装着して摩擦撹拌接合を行う様子を模式的に示す説明図である。
図18図18は、制御部による摩擦撹拌接合ツールの移動パスを模式的に示す説明図である。
図19図19は、一対の押出パネルの押出方向に沿った側面同士を互いに接合した構造体47の斜視図である。
図20図20は、図19に示す押出パネルの断面図である。
図21図21は、一対の押出パネルの端部同士を突き合わせた接合位置での接合前の拡大断面図である。
図22図22は、接合に使用した摩擦撹拌接合ツールの斜視図である。
図23図23は、接合に使用した摩擦撹拌接合ツールの斜視図である。
図24図24は、接合に使用した摩擦撹拌接合ツールの斜視図である。
図25図25は、接合に使用した摩擦撹拌接合ツールの斜視図である。
図26図26は、試験例8の接合部の断面写真である。
図27図27は、試験例12の接合部の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、摩擦撹拌接合ツールの外観を示す斜視図である。摩擦撹拌接合ツール100は、円柱状の本体部11の先端に形成されたショルダー13と、ショルダー13の中心に配置されて本体部11の軸方向(回転軸Ax)に突出するプローブ15とを有する。ショルダー13は、中央部が軸方向に突出する凸面形状のショルダー面17と、軸方向に凹む溝19とを有する。
【0012】
図2は、摩擦撹拌接合ツール100を先端から見た平面図である。本構成の摩擦撹拌接合ツール100のショルダー13には、ショルダー13の径方向内側から径方向外側に向かって直線状に形成された4本の溝19が設けられている。4本の溝19は、それぞれショルダー13の半径方向に形成され、互いに等しい中心角(90°)で放射状に配置されている。ここでは、各溝19の延びる方向を、回転軸Axに直交する直交2軸(X軸,Y軸)に設定しているが、溝19の数は適宜に増減できる。溝19の数は1つでもよいが、3つ以上が好ましく、4つ以上がより好ましい。溝数は、多すぎると撹拌効果が低下するため、8つ以下が好ましく、6つ以下がより好ましい。また、溝19の配置は、回転軸Axを中心とした点対称の配置とするのが好ましく、回転軸Axを通る直径方向の線を中心とした線対称の配置とするのがより好ましい。溝19を2つ以上設ける場合には、中心角を等しくなるよう周方向に等間隔で配置するのが好ましい。
【0013】
図3は、摩擦撹拌接合ツール100の先端におけるショルダー13とプローブ15の拡大斜視図である。ショルダー13に設けた溝19は、軸方向に突出したショルダー面17を周方向に等間隔で4分割している。各溝19の溝底19aは、軸方向に関して同じ深さに形成され、各溝19のプローブ15に最も近い内周縁の内周側溝端部19bが最も深く、ショルダー面17の外周縁に位置する外周側溝端部19cが最も浅くなっているが、溝深さはこれに限らない。溝19の周方向に沿った断面形状はV字形であり、溝19内には溝内空間Sが形成される。溝19の断面形状はこれに限らず、矩形、半円形、楕円形等の他の形状であってもよい。また、プローブ15の外周面には不図示のねじ溝が形成される。
【0014】
図4は、2枚の被接合材21A,21Bの端部同士を突合せた位置で被接合材21A,21B同士を摩擦撹拌接合ツール100により摩擦撹拌接合する様子を示す説明図である。摩擦撹拌接合ツール100は、不図示の工作機械の主軸に取り付けられる。工作機械は、摩擦撹拌接合ツール100の先端を被接合材21A,21B同士を接合する位置に移動させる。そして、その接合位置で、摩擦撹拌接合ツール100を被接合材21A,21Bの表面の法線方向から押し当てながら回転駆動し、接合予定線Lに沿って送り動作させる。このように接合予定線Lに沿って被接合材21A,21B同士を摩擦撹拌接合させて接合部23を形成する。このとき、摩擦撹拌接合ツール100は、回転軸Axを被接合材21A,21Bの表面の法線方向から傾斜させずに回転及び送り駆動される。
【0015】
次に、摩擦撹拌接合ツール100のショルダー13及びプローブ15によって、被接合材21A,21Bが塑性流動して接合部23を形成する作用を詳細に説明する。
図5は、摩擦撹拌接合ツール100を一部断面で示す断面斜視図である。溝19は、溝底19aから軸方向先端に向けて立ち上がる堰面19dを有する。図5では摩擦撹拌接合ツール100の回転方向Rの後方側となる片側の堰面19dのみを示しているが、堰面19dは溝19の回転方向Rの前方側と後方側との両方に形成される。
【0016】
堰面19dは、本体部11の径方向に沿って連続して形成され、回転軸Axを中心とした回転方向Rに直交又は略直交する面である。堰面19dは、溝19の回転方向Rの前方及び後方に一対が形成され、溝断面をV字形にする。一対の堰面19dのうち、特に回転方向後方側の堰面19dは、被接合材21A,21Bの後述する固相流動層を撹拌する掻き上げ動作に寄与する。
【0017】
図6は、摩擦撹拌接合ツール100の回転により生成される固相流動層Waを模式的に示す説明図である。摩擦撹拌接合ツール100は、その先端を被接合材21A,21Bに押し当てながら回転駆動される。すると、プローブ15の周囲では、プローブ15と被接合材21A,21Bとの接触による摩擦熱によって被接合材21A,21Bが塑性流動し始める。そして、塑性流動した固相流動層Waの中にプローブ15が押し込まれる。また、ショルダー面17も被接合材21A,21Bと接触して摩擦熱を生じ、ショルダー面17に対向する領域においても被接合材21A,21Bが塑性流動する。こうして生成された被接合材21A,21Bの固相流動層Waは、溝19によって撹拌される。
【0018】
図7は、摩擦撹拌接合ツール100により撹拌される固相流動層Waの流れQを、摩擦撹拌接合ツール100の先端の平面図で模式的に示す説明図である。図8は、図7に示すVIII-VIII線に沿った断面図である。図7に示すように、摩擦撹拌接合時において、4本の溝19によって区切られる4つのショルダー面17に対向する領域には、それぞれ塑性流動する固相流動層Waが存在する。固相流動層Waは、摩擦撹拌接合ツール100の回転に伴い、溝19内の堰面19dによって掻き上げられ、溝19の溝内空間Sに一旦貯留される。溝内空間Sでは、掻き上げられた固相流動層Waが回転方向Rの前方へ押し戻されながら撹拌される。この撹拌作用は、被接合材側から見ると、ツール回転により移動し続ける各溝19の通過位置で繰り返し発生することになる。
【0019】
このときの堰面19d付近では、図8に示すように、固相流動層Waは、回転方向Rの前方に押し戻され、溝内空間Sに貯留されることで、溝19以外の位置での厚みhaが、厚みhbに増加する。そして、溝19を通過した後は、再び厚みhaとなる。つまり、ショルダー面17に対向する環状領域における固相流動層Waの厚みは、厚みhaから厚みhbまでの間で周期的に変化する。ここでいう周期的とは、摩擦撹拌接合ツール100の所定の回転角(本構成では90°)ごとに固相流動層Waの厚みが増減する意味である。したがって、被接合材21A,21Bの接合部23(図4)となる特定位置が、所定の時間ごとに固相流動層Waの厚みを繰り返し増減しながら撹拌される。
【0020】
この撹拌は、固相流動層Waが一定の力を連続して受け続けてなされるのではなく、ある期間ごとに繰り返し作用する力を受けて、断続的に行われる。これにより、固相流動層Waの流れに脈動が生じ、高い撹拌効果を得られる。このような撹拌動作によれば、接合部における空洞、クラック等の欠陥の発生を確実に抑制できる。
【0021】
上記した本構成の摩擦撹拌接合ツール100によれば、回転による摩擦熱で発生する固相流動層Waが、ショルダー13に設けられた溝19の堰面19dによって、回転方向Rの前方に押し戻すように流動し、固相流動層Waの撹拌効果が向上する。これに加え、溝19がショルダー13の中央部からショルダー13の径方向外側に向かって直線状に形成されているため、ショルダー13全体に対する溝19の占有面積は小さく、ショルダー面17の面積を広く確保できる。これにより、ショルダー面17と被接合材21A,21Bとの接触面積を大きく確保でき、摩擦熱の発生を促進できる。その結果、摩擦撹拌接合ツール100の先端では、短時間で摩擦熱による温度上昇が生じ、大きな入熱量が容易に得られ、接合に必要な量の固相流動層Waを高効率で生成できる。生成された固相流動層Waは、ショルダー面17と対向する領域において、前述した溝19の通過により十分に撹拌され、欠陥のない均質な接合部23を安定して形成する。
【0022】
例えば、プローブと、プローブの周囲に設けられた凹部を有するショルダーとを先端に有する摩擦撹拌接合ツールでは、回転軸を傾斜させながら送り方向に進める。この場合、摩擦撹拌接合ツールには大きな抵抗が負荷されるため、送り速度を速めにくい。また、専用の工作機械を用いて摩擦撹拌接合ツールを回転駆動する必要があるため、設備コストが嵩むことになる。
【0023】
プローブの周囲のショルダーが軸方向に突出する凸面である場合には、回転軸を傾斜させずに回転させることで、上記のようなツール抵抗を低減できる。しかし、被接合材とショルダーとの接触面積が少なく、必要な摩擦熱が得られにくい。その結果、接合部の表層に空隙、クラック等が発生しやすくなり、不安定な接合状態となる。
【0024】
また、一般には、摩擦撹拌接合においてはドリル、エンドミル等のツールと比較してツール負荷が大きいため、更なる回転抵抗を生じさせないようにショルダーの形状が設計されている。そのため、ショルダーに溝を設ける場合には円周方向に沿った溝としている。
【0025】
このような従来の摩擦撹拌接合ツールに対して、本構成の摩擦撹拌接合ツール100では、中央部が軸方向に突出するショルダー13に、前述したように、中央部から放射状に延びる溝19を形成して、ショルダー面17の面積を大きく確保しつつ、固相流動層の確実な撹拌を可能にしている。
【0026】
本構成の摩擦撹拌接合ツール100のショルダー面17は、その全てが径方向の内周縁から外周縁にかけて連続して形成され、周方向にも中心角で60°以上の連続した曲面となっている。つまり、各ショルダー面17は、それぞれが周方向及び径方向に連続した部分円環形状(sector subring)である。そのため、摩擦撹拌接合時には、ショルダー面17が周方向に連続して被接合材に接触し、発生する摩擦熱を累積させやすくする効果と、ショルダー面17が径方向に連続するために被接合材の広い範囲を均一な温度分布にする効果とを同時に得られる。
【0027】
また、溝19は、凸面形状のショルダー面17に挟まれ、ショルダー面17から突出することなく、ショルダー面17から凹んで形成されている。これにより、溝19は、被接合材との間で過剰に大きな回転抵抗を発生させず、固相流動層Waの撹拌に適したバランスのよい形状にされている。
【0028】
以上のように、本構成の摩擦撹拌接合ツール100によれば、その先端で、大きな入熱量の発生と固相流動層Waの確実な撹拌とを両立でき、しかも高速な送り動作にも対応できる凸面形状のショルダー面17を有するため、均質で高品位な摩擦撹拌接合を、例えば、1000mm/min以上、好ましくは1500mm/min以上、より好ましくは2000mm/min以上の速い送り速度で安定して行える。
実現できる。
【0029】
さらに、溝19の周方向断面形状はV字形の対称形状であるため、摩擦撹拌接合ツール100の回転方向Rが正転、逆転のいずれでも同じ回転抵抗となり、固相流動層Waの挙動も等しくなる。
【0030】
上記した摩擦撹拌接合ツール100の作用効果をより確実に享受するには、各部の形状を以下に示す寸法関係に設定するのが好ましい。
図9は、摩擦撹拌接合ツール100の先端の側面図である。摩擦撹拌接合ツール100は、本体部11の直径Dとプローブ15の直径dとの比d/Dは、0.2以上、0.5以下が好ましく、0.3以上、0.4以下がより好ましい。比d/Dが小さいほどショルダー面17の面積が大きくなり、発生する摩擦熱量を増大できる。
【0031】
また、直径Dとプローブ15の溝19の溝底からの突出高さHとの比H/Dは、0.1以上、0.4以下が好ましく、0.2以上、0.3以下がより好ましい。比H/Dが小さいほど接合時における送り抵抗が小さくなり、接合速度を高速化しやすくなる。
【0032】
さらに、直径Dと溝19の最大深さhとの比h/Dは、0.03以上、1.2以下が好ましく、0.05以上、0.1以下がより好ましい。V字形の溝19の開き角θは、30°以上、90°以下が好ましく、45°以上、75°以下がより好ましい。比h/D、開き角θを上記の範囲にすることで、溝19の周方向幅が回転抵抗を過剰に増加しない程度に抑えられ、溝19内で固相流動層Waを良好に撹拌できる。
【0033】
次に、摩擦撹拌接合ツールの変形例を説明する。
図10は、摩擦撹拌接合ツールの第1変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Aは、ショルダー13のプローブ15に接する内周縁からショルダー13の径方向外側に向かって直線状に形成された1本の溝19を有する。半径方向に延びる溝19を1本だけ設けることで、ショルダー面17の面積が大きくなり、摩擦熱の発生を促進できる。
【0034】
図11は、摩擦撹拌接合ツールの第2変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Bは、前述した溝19を、プローブ15を中心として180°ごとに合計2本設けている。この場合、2分割されたショルダー面17によって摩擦熱を発生させ、前述した固相流動層の撹拌を半回転毎に実施できる。
【0035】
図12は、摩擦撹拌接合ツールの第3変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Cは、前述した溝19を、プローブ15を中心として120°ごとに合計3本設けている。この場合、3分割されたショルダー面17によって摩擦熱を発生させ、前述した固相流動層の撹拌を1/3回転毎に実施できる。
【0036】
図13は、摩擦撹拌接合ツールの第4変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Dは、前述した溝19を、プローブ15を中心として60°ごとに合計6本設けている。この場合、6分割されたショルダー面17によって摩擦熱を発生させ、前述した固相流動層の撹拌を1/6回転毎に実施できる。
【0037】
図14は、摩擦撹拌接合ツールの第5変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Eの溝19は、ショルダー13の内周側からショルダー13の径方向外側に向かって直線状に形成され、かつ、プローブ15の外周円の接線方向に形成されている。溝19は、プローブ15を中心として90°ごとに合計4本設けてある。溝19の内周側の縁部は、周方向に隣り合う他の溝19によって切断され、外周側の縁部は、ショルダー13の外周縁まで延びている。
【0038】
この摩擦撹拌接合ツール100Eによれば、回転方向R1で回転した場合には、溝19に入り込む固相流動層が径方向外側に送られ、回転方向R2で回転した場合には、径方向内側に送られる。また、回転方向R2での回転抵抗は、回転方向R1より大きくなり、発生する摩擦熱量が回転方向によって変化する。そのため、例えば被接合材の材質、厚さ等に応じて適切な入熱量が得られるように、回転方向を選定することもできる。
【0039】
図15は、摩擦撹拌接合ツールの第6変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Fの溝19は、ショルダー13の内周側からショルダー13の径方向外側に向かう途中で周方向の一方の側に湾曲する曲線状に形成されている。この場合、回転方向R1で回転した場合には、溝19に入り込む固相流動層が径方向外側に送られ、回転方向R2で回転した場合には、径方向内側に送られる。また、回転方向R2での回転抵抗は、回転方向R1より大きくなり、発生する摩擦熱量が回転方向によって変化する。そのため、図14に示す場合と同様に、適切な入熱量が得られるように回転方向を選定することもできる。
【0040】
図16は、摩擦撹拌接合ツールの第7変形例を示す斜視図である。この摩擦撹拌接合ツール100Gの溝19Aは、ショルダー13の内周側からショルダー13の径方向外側に向かって直線状に複数個が並んで配置されることで、大局的には半径方向に凹溝が形成された状態と略等しくなる。このように、溝19Aは連続溝に限らず、複数個が離散的に配置された構成であってもよい。溝10Aの大きさ、配置個数、配列方向等の条件は、摩擦撹拌接合の条件に応じて適宜設定できる。
【0041】
上記した摩擦撹拌接合ツール100,100A~100Gは、摩擦撹拌接合専用の工作機械の主軸に装着して使用できるが、回転軸を傾斜させる必要がないため、汎用の工作機械、例えばマシニングセンタにも適用が可能である。
【0042】
図17は、摩擦撹拌接合ツールをマシニングセンタ31の主軸33に装着して摩擦撹拌接合を行う様子を模式的に示す説明図である。ここで例示するマシニングセンタ31は、主軸33をX方向、Y方向、Z方向に移動でき、ツール交換ユニット35によってドリル、エンドミル等の各種のツール37を主軸33に付け替え自在となっている。マシニングセンタ31により摩擦撹拌接合を行う場合、被接合材21をテーブル39に固定して、例えば、エンドミル等のツールにより接合表面を切削した後、ツール交換ユニット35に予め用意された摩擦撹拌接合ツール100を主軸に付け替える。これにより、切削加工後の被接合材21を、摩擦撹拌接合ツール100を用いて摩擦撹拌接合できる。そして、摩擦撹拌接合後の被接合材21に更なる機械加工をそのまま続けて施すことができる。このように、被接合材21をテーブル39から取り外すことなく、連続した加工が可能となり、高い加工精度で高速な加工が行え、タスクタイムを短縮できる。
【0043】
上記したマシニングセンタ31では、摩擦撹拌接合時の主軸33と被接合材21とを相対移動させる接合パスの制御は、制御部41からの指令に基づき行われる。この場合の制御部41は、摩擦撹拌接合ツール100を他のツールと同様に、移動方向を自在に設定できる。
【0044】
図18は、制御部41による摩擦撹拌接合ツール100の移動パスPSを模式的に示す説明図である。通常の摩擦撹拌接合専用の工作機械では、摩擦撹拌接合ツールの回転軸を傾斜させるため、直線状の接合パスに制限されることが多い。しかし、回転軸を傾斜させずに加工する摩擦撹拌接合ツール100の場合、マシニングセンタ31を用いることで、直線状のパスPS1に限らず、任意に湾曲させた接合パスPS2,PS3に沿った移動が可能となる。そのため、摩擦撹拌接合の適用幅が広がり、複雑な形状の被接合材同士の接合にも容易に対応できる。
【実施例0045】
次に、互いに異なる形状を有する各種の摩擦撹拌接合ツールを用いて被接合材を摩擦撹拌接合した結果を説明する。ここで用いた被接合材は、板状に形成された構造体であり、2つの押出パネルから構成される。
(被接合材)
図19は、一対の押出パネル45の押出方向に沿った側面同士を互いに接合した構造体47の斜視図である。図20は、図19に示す押出パネル45の断面図である。押出パネル45は、いずれも人工時効硬化処理した6000系アルミニウム合金を素材とした板状の押出材である。図20に示す押出パネル45の板厚tは10mm、幅Wは230mm、長手方向1000mm~1600mmである。幅方向端部の厚肉部49を含む板厚taは11.4mmである。押出パネル45の幅方向両端部には、一方の板面45aに沿って突出する薄肉の突出部51が設けられ、他方の板面には、突出部51の先端が係合可能な凹部53が設けられている。
【0046】
図21は、一対の押出パネル45の端部同士を突き合わせた接合位置での接合前の拡大断面図である。一対の押出パネル45を幅方向に表裏を反転させて配置し、それぞれの突出部51と凹部53とを互いに係合させ、突出部51の先端面51aが突き当たるP1,P2の位置を摩擦撹拌接合の実施位置とした。また、摩擦撹拌接合する前に、厚肉部49の突出した板厚tbを切削加工により除去しておき、その加工面を基準として、摩擦撹拌接合の押し込み量Δtを設定した。
【0047】
(摩擦撹拌接合ツール)
図22図24は、接合に使用した摩擦撹拌接合ツールの斜視図である。図22に示す摩擦撹拌接合ツール55A(ツールA)は、本体部11の先端に形成されたショルダー13と、ショルダー13の中心に配置されて本体部11の軸方向に突出するプローブ15とを有する。ショルダー13には、軸方向に突出する凸面形状のショルダー面17が形成され、溝は形成されていない。
【0048】
図23に示す摩擦撹拌接合ツール55B(ツールB)は、上記したツールAのショルダー面17に同心円の1条の環状溝57を設けた以外は、ツールAと同様である。図24に示す摩擦撹拌接合ツール55C(ツールC)は、ツールBの環状溝57を同心円の2条溝に変更した以外はツールBと同様である。
【0049】
そして、前述した図1図3に示す4本の放射状の溝19を有する摩擦撹拌接合ツール100(ツールD)と、ツールA~Cとを用いた結果を比較した。なお、ツールA~Dのショルダー直径φDは15mm、プローブ15の先端面の曲率半径は50mm、プローブ15の突出高さHは2mmである(図9参照)。
【0050】
(試験結果)
上記各種の摩擦撹拌接合ツールにより、それぞれ異なる条件で被接合材を摩擦撹拌接合した試験例1~12の結果を表1に纏めて示す。接合部の外観評価は、表面の目視による観察、及び接合部の断面の観察を行い、外観良好であるものを「○」、空洞、クラック等の欠陥が生じたものを「×」、その中間を「△」として評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
試験例1は、ショルダーに溝を有しないツールA(図22)を用い、ツール回転数を200rpm、接合速度を1000mm/minとした。また、摩擦撹拌接合ツールの先端が被接合材の表面に接した位置を基準高さとし、この基準高さからのツールの押し込み量Δt(図21参照)を2.6mmとした。接合後の接合部には、空洞欠陥が生じており、押し込み量の不足も原因したと考えられる。
【0053】
試験例2は、試験例1の押し込み量を2.8mmに増加させた以外は、試験例1と同じ条件とした。接合速度1000mm/minでは、接合部の外観は良好であった。
【0054】
試験例3は、1条の環状溝を有するツールB(図23)を用い、押し込み量を3.0mmとした以外は、試験例2と同じ条件とした。図25は、試験例3の接合部の断面写真である。試験例3では、被接合材の板面間にすき間を生じた箇所があり、接合部の外観は空洞欠陥を生じた部分が多く、その一部に欠陥が生じない部分が混在していた。
【0055】
試験例4~8は、試験例3の押し込み量を3.1mmとし、接合速度を1200mm/minから2000mm/minまで増加させた。その結果、接合部には、いずれの条件でも接合初期のスタート部に凹みを生じた。図26は、試験例8の接合部の断面写真である。接合速度を2000mm/minに増加させると、空洞欠陥が拡大して不安定な接合状態となった。
【0056】
試験例9は、2条の環状溝を有するツールC(図24)を用い、押し込み量を2.7mmにした以外は、試験例3と同じ条件とした。この場合の接合部の外観は、空洞欠陥を生じない部分が試験例3よりも多くなったが、1条の環状溝の場合と同様に欠陥の発生については未改善の状態であった。
【0057】
試験例10は、試験例9の押し込み量を2.6mmに減少させた以外は試験例9と同じ条件とした。その結果、接合部の外観は良好となった。
【0058】
試験例11は、4本の放射状の溝を有するツールD(図1図3)を用い、接合速度を1600mm/minにした以外は試験例1,10と同じ条件とした。また、試験例12は、試験例11の接合速度をさらに増加させ、2000mm/minとした以外は試験例11と同じ条件とした。図27は、試験例12の接合部の断面写真である。試験例11、12によれば、接合速度を2000mm/minまで増加させても接合部に欠陥が発生することがなく、良好な外観を保っていた。このように、ツールDは、ツールA,B,Cよりも欠陥改善の効果があることが確認できた。
【0059】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0060】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 円柱状の本体部の先端に形成されたショルダーと、該ショルダーの中心に配置されて前記本体部の軸方向に突出するプローブとを有する摩擦撹拌接合用ツールであって、
前記ショルダーは、中央部が前記軸方向に突出する凸面形状のショルダー面と、前記軸方向に凹む溝とを有し、
前記溝は、ツール回転による摩擦熱で生成される被接合材の固相流動層の一部を貯留し、貯留された前記固相流動層を前記ツール回転に伴い回転方向後方の前記ショルダー面の対向領域に戻し、前記対向領域における前記固相流動層の厚みを周期的に変化させる溝内空間を有する、
摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、凸面形状のショルダー面によって被接合材に対する送り抵抗の増加を抑え、ショルダー面と被接合材との回転による摩擦熱によって生じる固相流動層の一部を溝空間内に貯留し、貯留した固相流動層を回転方向後方のショルダー面の対向領域に戻すことで、固相流動層の厚みが周期的に変化する。この固相流動層の撹拌によって、接合部における空洞等の欠陥の発生が抑えられ、接合速度を速めても被接合材の良好な接合状態が維持される。
【0061】
(2) 前記溝は、前記ショルダーの径方向内側から径方向外側に向かって直線状に形成されている、(1)に記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、溝が直線状に形成されることで、溝の長手方向に沿って均一に固相流動層を撹拌できる。
【0062】
(3) 前記溝は、前記ショルダーの前記プローブに近い内周縁から前記ショルダーの半径方向に形成されている、(2)に記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、半径方向に形成された溝により、回転方向に直交する方向から固相流動層を撹拌するため、固相流動層の撹拌効率を向上できる。
【0063】
(4) 前記溝は、前記プローブの外周円の接線方向に形成されている、(2)に記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、固相流動層を周方向と径方向とに同時に撹拌でき、撹拌効率を向上できる。また、回転方向によって固相流動層を径方向外側に排出する作用と、径方向内側に移動させる作用とが選択的に得られる。さらに、回転方向によって発生する摩擦熱量が異なる場合には、被接合材の接合条件等に応じて回転方向を選定することで、入熱量を調整できる。
【0064】
(5) 前記溝は、前記ショルダーの径方向内側から径方向外側に向かって曲線状に形成されている、(1)に記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、曲線状の溝によって固相流動層を径方向に移動させつつ撹拌できる。また、回転方向によって固相流動層を径方向外側に排出する作用と、径方向内側に移動させる作用とが選択的に得られる。さらに、回転方向によって発生する摩擦熱量が異なる場合には、被接合材の接合条件等に応じて回転方向を選定することで、入熱量を調整できる。
【0065】
(6) 前記ショルダー面に複数の前記溝が形成されている、(1)から(5)のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、複数の溝が形成されることで、1回転中の固相流動層の撹拌頻度を増加でき、撹拌効率を向上できる。
【0066】
(7) 前記溝は、4本以上形成されている、(6)に記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、固相流動層の撹拌を1回転で4回以上実施できる。
【0067】
(8) 前記溝の周方向に沿った断面形状は、V字形である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、V字形の内側空間に固相流動層が入り込み、撹拌が促進される。
【0068】
(9) 前記ショルダーの前記凸面形状は、前記軸方向に膨出する曲面形状である、(1)から(8)のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合ツール。
この摩擦撹拌接合ツールによれば、ショルダー面が軸方向に膨出した凸状の曲面形状であることで、被接合材とショルダー面との回転抵抗が抑えられ、送り速度を速めることができる。これにより、接合速度の更なる向上が図りやすくなる。
【0069】
(10) (1)から(9)のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合ツールの前記先端を、被接合材の接合部に押し当てて回転駆動させ、前記被接合材と前記摩擦撹拌接合ツールとの間に生じる摩擦によって前記被接合材に前記固相流動層を生成させながら、前記摩擦撹拌接合ツールと前記被接合材とを相対移動させて前記被接合材を接合する、
摩擦撹拌接合方法。
この摩擦撹拌接合方法によれば、欠陥の発生を抑えて被接合材を速い接合速度で接合できる。
【0070】
(11) 前記摩擦撹拌接合ツールを、前記被接合材の表面の法線方向から前記接合部に押し当てて回転駆動させる、(10)に記載の摩擦撹拌接合方法。
この摩擦撹拌接合方法によれば、被接合材との回転抵抗が抑えられ、送り速度を速めることができる。これにより、接合速度の更なる向上が図りやすくなる。
【0071】
(12) 前記摩擦撹拌接合ツールをマシニングセンタの主軸に装着して、前記被接合材を接合する、(10)又は(11)に記載の摩擦撹拌接合方法。
この摩擦撹拌接合方法によれば、汎用性の高いマシニングセンタを用いて摩擦攪拌接合を行えるため、摩擦攪拌接合を、切削加工、研磨加工等の他のツールを用いた加工と合せて実施できる。このように、被接合材をテーブルに位置決めしたまま連続して加工できるため、加工精度、加工効率を向上でき、タクトタイムを短縮できる。
【0072】
(13) 前記摩擦撹拌接合ツールと前記被接合材とを、前記被接合材の表面上で曲線状に相対移動させる、(12)に記載の摩擦撹拌接合方法。
この摩擦撹拌接合方法によれば、被接合材同士の接合予定線が直線に限らず、曲線状であっても接合可能となるため、例えば、複雑な形状を有する被接合材同士の接合にも対応でき、設計自由度を向上できる。
【0073】
(14) 前記被接合材は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、(10)から(13)のいずれか1つに記載の摩擦撹拌接合方法。
この摩擦撹拌接合方法によれば、鋼材と比較して軽量なアルミニウム材を高速に摩擦拡散接合でき、例えば、アルミニウム材を車両に適用する利用範囲を拡大できる。
【符号の説明】
【0074】
11 本体部
13 ショルダー
15 プローブ
15a 基端部
17 ショルダー面
19,19A 溝
19a 溝底
19b 内周側溝端部
19c 外周側溝端部
21A,21B 被接合材
23 接合部
31 マシニングセンタ
33 主軸
35 ツール交換ユニット
37 ツール
39 テーブル
41 制御部
45 押出パネル
47 構造体
49 厚肉部
51 突出部
51a 先端面
53 凹部
55A,55B,55C 摩擦撹拌接合ツール
57 環状溝
100 摩擦撹拌接合ツール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
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図26
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