(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008497
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】金属体モニタリング装置および金属体モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110720
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川畑 龍三
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA03
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB16
2G053CB17
2G053CB22
2G053CB24
2G053CB25
2G053CB29
2G053DB06
2G053DB25
(57)【要約】
【課題】金属体に非接触の磁気センサ部が金属体上を相対的に移動する金属体モニタリング環境において金属体の特異箇所の弁別を可能にする。
【解決手段】金属体モニタリング装置は、磁気検出装置と、距離検出装置と、処理装置とを有する。磁気検出装置は、磁気センサ部を有し、磁気センサ部は、金属体上を相対的に移動する移動体に備えられ発生した漏洩磁界を非接触で検知する。距離検出装置は、移動体に備えられ移動体の金属体に対する相対的な移動距離を検出する。処理装置は、磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータを、距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータに変換する。処理装置は、第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体上を相対的に移動する移動体に備えられ前記金属体から発生した漏洩磁界を非接触で検知する磁気センサ部を有する磁気検出装置と、
前記移動体に備えられ前記移動体の前記金属体に対する相対的な移動距離を検出する距離検出装置と、
前記磁気検出装置と前記距離検出装置とに接続された処理装置と
を備え、
前記処理装置は、
前記磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータを、前記距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータに変換し、
前記第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、
抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する、
金属体モニタリング装置。
【請求項2】
前記モニタリング情報の出力は、前記モニタリング情報の表示であり、
前記モニタリング情報は、空間周波数と前記移動体の移動距離との対応関係を表す情報である、
請求項1に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項3】
前記対応関係は、空間周波数に対応した第1の軸と前記移動体の移動距離に対応した第2の軸との直交座標系のカラーコンターであり、
当該直交座標系には、検知信号強度に従うカラーのインジケータが配置されている、
請求項2に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項4】
前記処理装置は、
前記第2のデータに対して、前記金属体のモニタに必要なサイズに応じた空間フィルタ処理を行い、
当該空間フィルタ処理が施されたデータのうち、前記金属体のモニタに応じた区画毎に、波数空間におけるスペクトル応答を抽出する、
請求項1に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項5】
前記処理装置は、前記第2のデータにおける移動距離のサンプルが等間隔になるようサンプルの補間処理を行い、
前記空間フィルタ処理は、前記補間処理が施された第2のデータに対して行われる、
請求項4に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項6】
前記区画毎に、前記処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために連続ウェーブレット解析を行う、
請求項4に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項7】
前記区画毎に、前記処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために、離散ウェーブレット解析で信号分離を行い、当該分離した信号に連続ウェーブレット解析を用いる、
請求項4に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項8】
前記区画毎に、前記処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために短時間フーリエ変換を行う、
請求項4に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項9】
前記金属体は、前記移動体の相対的な移動方向に沿って周期的に並んだ形状を持つ、
請求項8に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項10】
前記磁気検出装置は、前記移動体の相対的な移動方向と直交する方向に並んだ複数の磁気センサ部を有する、
請求項1に記載の金属体モニタリング装置。
【請求項11】
磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータを距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータに変換し、
前記第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、
抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する、
ことをコンピュータにより行い、
前記磁気検出装置は、金属体上を相対的に移動する移動体に備えられ前記金属体から発生した漏洩磁界を非接触で検知する磁気センサ部を有する装置であり、
前記距離検出装置は、前記移動体に備えられ前記移動体の前記金属体に対する相対的な移動距離を検出する装置である、
金属体モニタリング方法。
【請求項12】
磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータを距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータに変換し、
前記第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、
抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する、
ことをコンピュータに実行させ、
前記磁気検出装置は、金属体上を相対的に移動する移動体に備えられ前記金属体から発生した漏洩磁界を非接触で検知する磁気センサ部を有する装置であり、
前記距離検出装置は、前記移動体に備えられ前記移動体の前記金属体に対する相対的な移動距離を検出する装置である、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、金属体のモニタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
金属体の一例としてワイヤロープがある。ワイヤロープのモニタリング装置の一例としてワイヤロープの劣化判定装置が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「ワイヤロープの劣化判定装置は、漏洩磁束法により、ワイヤロープの劣化を検出する検出器30と、検出器30から計測データを得るデータ入力部31と、データ入力部31からノイズ成分を除去するノイズ成分除去手段と、ワイヤロープの劣化要因との相関性が高いと判定されるデータを抽出する波形処理手段と、を含む。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、漏洩磁束法を用いてワイヤロープの劣化を検出するワイヤロープの劣化判定装置が記載されている。
【0005】
この装置では、ワイヤロープが検出器中を通過する速度によって、検出信号の信号波形が変化し得る。また、この装置では、ワイヤロープのモニタリングにおける環境又は状態のために発生するノイズ(例えば、検出器の位置変動に伴うオフセットドリフトや、外部からのノイズなど)があり、このノイズが、検出信号の信号波形に影響する。このため、検出信号から、ワイヤロープの健全部と異なる箇所である特異箇所を弁別すること(具体的には、特異箇所が損傷箇所であるのか否か)は困難である。
【0006】
特許文献1には、ワイヤロープの特異箇所の弁別およびその手段についての記載はない。
【0007】
このような課題は、金属体が、ワイヤロープ以外の金属体についてもあり得る。また、このような課題は、金属体に非接触の磁気センサ部(例えば検出器)が金属体上を相対的に移動する金属体モニタリング環境全般においてあり得る。
【0008】
本発明の目的は、そのような金属体モニタリング環境においてモニタリングされる金属体の特異箇所の弁別を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の金属体モニタリング装置の一つは、磁気検出装置と、距離検出装置と、磁気検出装置および距離検出装置に接続された処理装置とを有する。磁気検出装置は、磁気センサ部を有し、磁気センサ部は、金属体上を相対的に移動する移動体に備えられ発生した漏洩磁界を非接触で検知する。距離検出装置は、移動体に備えられ移動体の金属体に対する相対的な移動距離を検出する。処理装置は、磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータを、距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータに変換する。処理装置は、第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属体に非接触の磁気センサ部が金属体上を相対的に移動する金属体モニタリング環境において金属体の特異箇所の弁別を可能にすることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置の模式図である。
【
図2】第1実施形態における磁気検出装置の斜視図である。
【
図3】第1実施形態における磁気検出装置の底面図である。
【
図4】第1実施形態における磁気検出装置の一部切欠平面図である。
【
図5】第1実施形態の磁気センサ部の動作状態を示す模式図である。
【
図6】第1実施形態の磁気センサ部の他の動作状態を示す模式図である。
【
図7A】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において連続ウェーブレット解析を適用したモニタリング情報抽出解析処理に係る処理1~処理3の説明図である。
【
図7B】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において連続ウェーブレット解析を適用したモニタリング情報抽出解析処理に係る処理4~処理6の説明図である。
【
図7C】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において短時間フーリエ変換を用いた場合のモニタリング情報抽出解析処理に係る処理5の説明図である。
【
図8A】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において
図7A中の距離情報変換データの補間処理に係る説明図である。
【
図8B】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において
図7A中の距離情報変換データの補間処理に係る説明図である。
【
図9】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において
図7B中の処理5で離散ウェーブレット処理を行うことによる階層的近似の説明図である。
【
図10】本発明の第1実施形態による金属体モニタリング装置において
図7B中の処理5で離散ウェーブレット処理を行うことによる階層的分解の説明図である。
【
図11】第1実施形態による金属体モニタリング装置のブロック図である。
【
図12】処理装置における検波部のブロック図である。
【
図13】評価装置によって実行される金属体モニタリング処理プログラムのフローチャートである。
【
図14】第2実施形態における磁気検出装置の底面図である。
【
図15】第2実施形態における磁気検出装置の一部切欠平面図である。
【
図16】第2実施形態による金属体モニタリング装置のブロック図である。
【
図17】金属体に存在した特異箇所の位置とその位置における信号強度分布の等高線表現の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、幾つかの実施形態を、図面を用いて説明する。
[第1実施形態]
<第1実施形態の外部構成>
【0013】
図1は、本発明の第1実施形態の金属体モニタリング装置の模式図である。
【0014】
図1において、金属体モニタリング装置1は、磁気検出装置2と、距離検出装置3と、処理装置4と、電源88と、接続ケーブル60と、を備えている。金属体モニタリング装置1は、移動体100に搭載される。検査対象(モニタリング対象)として金属体200があり、移動体100は、金属体200上を走行するための車輪300を備え、当該車輪300は、走行面200aに接触しつつ回転する。
【0015】
磁気検出装置2は、金属体200の走行面200aに対向する位置に設置され、距離検出装置3と、処理装置4と、電源88とは移動体100内に設置される。電源88は、磁気検出装置2と距離検出装置3と処理装置4とに対して、駆動電流を供給し、磁気検出装置2と距離検出装置3と処理装置4とを動作させる。
【0016】
移動体100が金属体200上を走行する際、磁気検出装置2は、金属体200の状態を検出し、検出結果となる信号は接続ケーブル60を介して処理装置4に送られる。また、移動体100の車輪300の車軸400は回転駆動機構500を介して距離検出装置3と接続されており、当該回転駆動機構500の動作が当該距離検出装置で検知される。そして、処理装置4が、磁気検出装置2と距離検出装置3から各信号を収集し、各信号を用いた解析および表示等の処理を実行する。つまり、処理装置4が、金属体200の状態に係るモニタリングを行う。なお、電源88は、移動体100内に交流電源が備わっている場合は、当該交流電源で駆動させる安定化電源回路であってもよい。交流電源が使用できない場合には、電源88は、バッテリーが内蔵された無停電電源装置であってもよい。
【0017】
磁気検出装置2の構造について、
図2を用いて説明する。
【0018】
図2は、磁気検出装置2の斜視図である。
図2に示すように、磁気検出装置2は、上部筐体26(第2の筐体の一例)と下部筐体20(第1の筐体の一例)とが相互に固定された一体構造になっており、上部筐体26の上側にフランジ25を有する。直方体状に形成された上部筐体26と下部筐体20は、上部筐体26の下面と下部筐体20の上面が結合されている。また、矩形状に形成されたフランジ25は、上部筐体26の上面に結合して固定されている。上部筐体26の一側面にコネクタ28が備わっており、接続ケーブル60の一端にもコネクタ62が備わっている。コネクタ28とコネクタ62は嵌合して接続でき、接続後に磁気検出装置2と処理装置4が接続ケーブル60を通して相互に通信可能となる。コネクタ28とコネクタ62は防塵および防水構造を有し、コネクタ28および62同士の接続時に空隙から粉塵や水などの異物が侵入して、磁気検出装置2の故障や接続ケーブル60の接続不良の発生を防止する。コネクタ28は取り付ける磁気検出装置2の一側面に挿入して締付けて振動による脱落や緩みを防止でき、粉塵や水の侵入を防止できる貫通式コネクタが適しているが、磁気検出装置2の取付環境において十分な防塵および防水機能があれば貫通式以外のコネタクを用いてもよい。
【0019】
フランジの四隅には貫通孔25aが形成されている。また、移動体100(
図1参照)は、磁気検出装置2の設置箇所における、貫通孔25aに対向する位置に、ネジ穴(図示せず)を有する。そして貫通孔25aにワッシャー(図示せず)を介してボルト(図示せず)を挿入し、移動体100に設けたネジ穴に当該ボルトを締めることで、移動体100の所定位置に磁気検出装置2が固定される。下部筐体20は、金属体200の状態を検出するための磁気センサ部21を内蔵している。また、上部筐体26は、磁気センサ部21で検出した磁気信号を増幅するプリアンプ部210を内蔵している。なお、磁気センサ部21およびプリアンプ部210の詳細については後述する。
【0020】
磁気検出装置2は移動体100の所定位置に設置して使用される際に、移動体100が金属体200上を移動時の揺動による振動や衝撃に対する対策が必要である。そこで、上部筐体26と下部筐体20の内部空間は、絶縁性および非磁性の特性を有する充填材(図示せず)が注入され、樹脂モールド化された構造になっている。この構造により、磁気センサ部21とプリアンプ部210は、下部筐体20と上部筐体26の内部で強固に保持され、移動体100の移動に伴う揺動による磁気センサ部21とプリアンプ部210の破損や、磁気センサ部21の検知位置ずれを防止することができる。なお、
図2に示した例では、上部筐体26と下部筐体20は直方体形状であるが、これらの形状は、使用する移動体100との設置スペースなどの条件に応じて立方体形状、円柱形状、角柱状等、他の形状とすることも可能である。
【0021】
磁気検出装置2内部の磁気センサ部21とプリアンプ部210の構成について、磁気検出装置2の底面図である
図3を用いて説明する。
【0022】
図3に示すように、磁気センサ部21は発振コイル5A、発振コイル5Bと受信コイル6から構成され、これら各コイルは被覆銅線を巻回して製作されたものである。受信コイル6は発振コイル5Aと発振コイル5Bとの間に位置し、各コイルの並びは金属体200上を移動する移動体100の移動方向と平行に位置する配置関係である。発振コイル5Aと発振コイル5Bには、処理装置4(
図1参照)から、接続ケーブル60を介して、所定の発振周波数f(所定周波数)の交流電流が供給される。これにより、発振コイル5Aと発振コイル5Bから各々交流磁界が発生して金属体200を励磁する。励磁した金属体200から発生した磁束によって、受信コイル6には誘起電圧が発生する。
【0023】
図4は、磁気検出装置2の一部切欠平面図であり、上部筐体26の内部にあるプリアンプ部210の配置構造を示す。
【0024】
図4では、フランジ25の中央部を切り欠いて、上部筐体の内部を露出させている。プリアンプ部210は、増幅フィルタ回路22を実装するプリント基板210aから成る。増幅フィルタ回路22は、受信コイル6で生じた誘起電圧に対して増幅およびフィルタ処理を行い、接続ケーブル60(
図1参照)を介して、その結果を処理装置4に送信する。処理装置4は、受信した信号に対して解析処理を行い、金属体200から発生した磁気信号を検出する。
【0025】
プリアンプ部210を内蔵する上部筐体26の材質には、電磁シールドとして機能するアルミニウム等の金属を用いる。上部筐体26を金属製筐体とすることで、プリアンプ部210から発生する電磁場の遮蔽、および使用環境の外部からプリアンプ部210に混入する電磁波を抑制できる。また、上部筐体26の製作時に金属切削加工で当該上部筐体26にフランジ25を設ければ、フランジ25と上部筐体26が同一になるため磁気検出装置2の構成部品が少なくなり、強度が向上する。さらに、上部筐体26にアルミニウムを使用する場合には、表面硬度かつ耐食性の向上や、絶縁性を付与できるため、アルミニウム表面に酸化被膜を生成させるアルマイト処理を行ったものを採用するとより好ましい。
【0026】
下部筐体20には、非磁性の材質を使用する。下部筐体20は、交流磁界を発生する発振コイル5Aと発振コイル5Bと、金属体から発生する磁界の変化を検出する受信コイル6が内蔵されているためである。また、磁気検出装置2は移動体100の外部に設置され、当該移動体100の移動下で使用されるため、下部筐体20には繊維強化樹脂等の強靭性および耐腐食性に優れた材質を採用することが好ましい。例えば、GFRPのようなガラス繊維強化プラスチックを使用する場合には、液状の不飽和ポリエステル樹脂と硬化剤との混合物に、ガラス繊維などを組合わせて一体にした塗料を用いて、下部筐体の表面に塗膜処理を行うとより良い。この塗膜処理により、被膜防水層を形成して下部筐体の耐候性がさらに向上できる。
【0027】
下部筐体20には、上部筐体26との接触面側にねじ込み式インサートナット(図示せず)が備わっており、上部筐体26とネジ止めで固定されている。また、上部筐体26と下部筐体20とは、接触面にて耐候性に優れたシリコーン接触剤で接着され、空隙をシールされて一体化している。
【0028】
磁気検出装置2と処理装置4とを接続する接続ケーブル60は、プリアンプ部210の電源線と、増幅フィルタ回路22を介した受信コイルの出力信号線と、発振コイル5Aと発振コイル5Bへの励磁信号の入力信号線と、を含む。接続ケーブル60が、空間を飛来している電磁波によるノイズを受けてしまうと、金属体200からの磁気信号の検知に影響が生じる。このため、接続ケーブル60には、ツイストペアシールド線等のノイズ耐性に優れた多対シールドケーブルを適用することが好ましい。また、接続ケーブル60内のクロストーク等の対策として、接続ケーブル60を二本のケーブルに分割してもよい。具体的には、一方のケーブルは、プリアンプ部210の電源線と増幅フィルタ回路からの受信コイルの出力信号線とを含んだ多対シールドケーブルにするとよい。また、他方のケーブルは、発振コイル5Aと発振コイル5Bへの励磁信号の入力信号線を含んだ別の多対シールドケーブルにするとよい。
【0029】
接続ケーブル60は金属体200に対向する移動体100の下回りに固定されて、当該移動体100に設けた導入口を介して、処理装置4と接続する。接続ケーブル60は、移動体100の移動の妨げや、当該接続ケーブルの揺れによるノイズ発生を防ぐために、移動体100の下回りに緩みが生じないように結束バンド等の固定具を用いて強固に固定保持されている。また、接続ケーブル60の固定保持の際には、可能な限り当該接続ケーブルの長さを可能な限り短くする配線経路になるように設計するとよい。この配線経路が短いほど、磁気検出装置2からの検知信号に接続ケーブル60を経由するノイズ混入のリスクを効果的に回避できる。
【0030】
移動体100の移動距離を検知する距離検出装置3について説明する。距離検出装置3はロータリエンコーダであり、当該ロータリエンコーダの回転軸が回転することでパルス信号が発生する。このパルス信号をカウントすることで、回転軸の回転に伴う移動量を算出できる。このロータリエンコーダの機能を利用し、回転駆動機構500を介して、移動体100の車輪300における車軸400の回転をロータリエンコーダの回転軸に伝える。この回転駆動機構500は、車軸400とロータリエンコーダの回転軸とに取り付けたプーリーとタイミングベルトから成る。すなわち、移動体100が移動する際に、車輪の動作に応じて車軸400が回転して、その動きが回転駆動機構500に伝わって、ロータリエンコーダの回転軸が同時に回転する。
【0031】
ロータリエンコーダからの出力されるパルス信号は、接続ケーブル61を介して処理装置4に取り込まれる。このパルス信号の取り込みは、処理装置4にて磁気検出装置2からの出力信号と同期が取れた状態で行われる。接続ケーブル61は、接続ケーブル60と同様に、ツイストペアシールド線等のノイズ耐性に優れた多対シールドケーブルを用いてよい。上述のロータリエンコーダは、測定開始点からの回転に対応して発生するパルスを積算する計数計測を行うインクリメンタル方式を記載したが、ロータリエンコーダの回転軸の絶対角度位置を計測するアブソリュート方式のロータリエンコーダも使用することは可能である。また、ロータリエンコーダには、内部に備わったスリット円板に光を照射して回転の位置情報を、当該スリット円板を通過した光パルス信号として動作する光学方式と、磁気的パターンを形成した回転ディスクによる回転の位置情報を周期的な磁界の変化からパルス信号を出力する磁気方式と、エンコーダ内部に固定された送信機、受信機および回転子から構成され、回転子の回転に伴う静電容量の変化を距離情報として出力する静電方式と、エンコーダ内部の電気的な接点が回転軸の回転に伴って接触して発生した電気信号を回転量に変換する接点式などがあるが、いずれを使用してもよい。
<金属体における特異箇所の検知の原理>
【0032】
図5は、本実施形態の動作状態を示す模式図である。発振コイル5Aと発振コイル5Bは、処理装置4(
図1参照)から電流が供給されると、同期した位相が反転した交流磁界を発生させる。具体的には、発振コイル5Aと発振コイル5Bは被覆銅線の巻き始め同士もしくは巻き終わり同士が直列(または並列)に接続されており、処理装置4から交流電圧が印加されると、交流磁界が発生する。
【0033】
そして、発振コイル5Aと発振コイル5Bから発生した磁束ΦAおよびΦBが金属体200の走行面200a(
図1参照)に伝播すると、走行面200aに磁束の流れが生じる。ここで、磁気検出装置および距離移動装置の移動方向となる移動体100の移動方向を「x方向」とする。また、受信コイル6の磁束検出方向となる方向、すなわち金属体200と磁気検出装置2との離隔方向を「y方向」とする。
【0034】
図5は、金属体200において、発振コイル5Aと、発振コイル5Bと、受信コイル6の近傍で金属体の状態変化が無い場合の例を示している。ここで、金属体の状態変化が無い事例とは、亀裂などの欠陥による損傷が存在しない場合や、金属体同士の接続されたような構造的変化(例えば、継目、溶接、ボルト設置などの損傷ではない構造体)が存在しない場合を意味する。受信コイル6に鎖交する磁束の成分は、磁束ΦAおよびΦBが逆向きであるために相殺され、磁束ΦAおよびΦBの強度バランスに依存する。従って、金属体状態の変化が無い場合には、受信コイル6の鎖交磁束はほぼ零になり、受信コイル6の誘起電圧もほぼ零になる。
【0035】
【0036】
図6は、発振コイル5Aと、発振コイル5Bと、受信コイル6の近傍に特異箇所202が存在する場合の例を示す。ここで、特異箇所202とは、通常の金属体200とは異なる磁気特性を有する箇所を指す。特異箇所202は、具体的には、「損傷箇所」および「構造体箇所」に大別できる。つまり、特異箇所202は、損傷箇所または構造体箇所である。
【0037】
図6における「x方向」および「y方向」の意義は、
図5のものと同様である。図示の例においては、発振コイル5Aと5Bで金属体200の走行面200aに発生させた磁束の流れが乱れ、当該走行面200aから磁束の漏洩が生じる。そのため、受信コイル6が特異箇所202上を通過する際に、受信コイル6の誘起電圧変化は、
図5に示したケースでの誘起電圧変化に比べて著しく大きい。
【0038】
本実施形態における金属体モニタリング装置1は、検査対象物である金属体200に発生させた磁束の流れが特異箇所202の付近で変化することに基づき、発生した漏洩磁界を検出する。この漏洩磁界の解析モデルとして、双極子モデルに基づいて空間に発生する漏洩磁界を表現することができる。ここで、一例として、当該モデルにおいて、特異箇所202が金属体200に空隙を伴う接合部である構造体の場合を想定してみる。金属体200のy方向から発生する漏洩磁界成分には、移動体100の移動時に継目の中心位置を変曲点として、x方向に対して極値(極大値と極小値)を有する2極性の磁束変化が現れる。
【0039】
上述した例では、特異箇所が金属体200に空隙を伴う接合部である構造体が存在した場合について説明したが、特異箇所202が損傷である場合にも、同様に検出できる。損傷である亀裂が金属体200の走行面200aに存在する場合、金属体200の透磁率に対して損傷箇所の空隙は顕著に異なるため、磁気抵抗が生じて磁束の流れが乱れる。この磁束の流れの乱れによって、走行面200aに流れる磁束は亀裂を迂回し、当該走行面200aから漏洩磁束が発生する。そのため、損傷箇所の上方を磁気検出装置2が通過すると、上述した構造体の検出時と同様に、金属体200における磁束ΦAおよびΦB(
図6参照)の強度バランスが乱れ、磁気検出装置2によって損傷箇所の存在を検出できる。
<金属体のモニタリング>
【0040】
金属体モニタリング装置1による金属体200のモニタリングについて
図7A、
図7B、
図7Cを用いて説明する。
【0041】
磁気検出装置2で取得した検知信号は、検知信号強度の時系列を表す時系列データ111になっている(
図7A中の処理1)。そのため、移動体100の移動速度によって検知信号の応答波形が変化し、移動速度依存性がある。そのため、損傷や構造体が存在した特異箇所が常時同様の信号応答とならず、同様の特異箇所からの信号であっても直感的に信号波形から応答を捉えにくい。また、検知信号にノイズが混入した場合に、ノイズ除去として適用するフィルタの設定が移動速度に応じて変更する必要があり、その適用が複雑となる。例えば、波形971は、移動速度が比較的低速である場合に応答時間が比較的長いことを表し、波形972は、移動速度が比較的高速である場合に応答時間が比較的短いことを表す。
【0042】
そこで、磁気検出装置2からの検知信号は、距離検知装置3からの出力信号を同期して処理装置4にて取り込まれ、処理装置4が、当該検知信号の時系列データ111を移動距離に対する検知信号強度の変化を示すデータ222に変換する(
図7A中の処理2)。この変換データ222のサンプリングは、移動体100の移動速度が一定である場合は等間隔であるが、実際には移動体100の動きは加減速があるため移動速度が常時一定にならないため等間隔にはならない。
【0043】
したがって、処理装置4は、
図7A中の処理2において得られた変換データ222のサンプリングの補間を行うことで、データ222を、サンプリングが等間隔になるデータ333に変換する(
図7A中の処理3)。データ333におけるサンプリング間隔は、例えば1mmの等間隔などの設定値通りの間隔で良く、その設定値は、検査対象となる金属体のモニタリングに必要な分解能に合わせた値で良い。
【0044】
移動距離に対する検知信号の補間に伴うサンプリング変換の例を、
図8を用いて説明する。
【0045】
処理装置4は、磁気検出装置2と距離検知装置3から取得した信号から処理2において、移動距離毎に、IDを割り振り、IDおよび移動距離と、移動距離に対する検知信号強度とを含んだデータを格納する。
図8Aに示すように、この格納データにおいて、距離の間隔は上記の移動体100の移動速度に依存するため、等間隔になっていない。
【0046】
そこで、
図8Bに示すように、処理装置4は、処理3において、所望のサンプリング間隔(例えば設定値が表すサンプリング間隔)に合わせて、距離の検知信号強度を補間(例えば線形補間)で算出する。算出後に、処理装置4は、補間処理IDを持たせた等サンプリングの移動距離に対する検知信号強度のデータを格納する。
図8Bは、距離1mmの等間隔にサンプリングされた例を示す。この場合、
図8Aに示す格納データから
図8Bに記載の距離1mmの検知信号強度を算出するために、距離1mmを挟む距離0.5mmと距離1.3mmにおける検知信号強度の2点間のデータの線形補間から得られる。この線形補間は、2点(X
i,Y
i)と(X
i+1,Y
i+1)から任意の点Xに対する関数Yの近似値を2点の直線で結んだXの1次関数として表現され、Y
a=Y
i+(Y
i+1-Y
i)*(X
a-X
i)/(X
i+1-X
i)となる。ここで、X
i≦X
a≦X
i+1は大小関係とする。例えば、
図8Bに示す距離1mm時のデータとなる(X
a(=1),Y
a)を得る場合には、
図8Aに示す距離0.5mm時のデータ(X
i(=0.5),Y
i(=1.1))と距離1.3mm時のデータ(X
i+1(=1.3),Y
i+1(=1.2))を用い、上記式からYが1.1625となる。同様に、その他の距離(例えば、距離2mmなど)時のデータを処理装置4内にて連続的に算出処理して、移動距離が1mm毎の間隔の等サンプリングにおける検出信号強度のデータを格納する。なお、説明では1mm毎の間隔を例に挙げたが、補間処理における距離間隔は処理装置4にて任意の値に設定することは可能である。
【0047】
図7A中の処理3において得られたデータ333は、均一なサンプリングデータであるため検知信号に空間フィルタを適用することができる(
図7B中の処理4)。この空間フィルタを用いることで、特異箇所の抽出に必要な信号成分のみの抽出が可能となる。例えば、信号検知を行う磁気検出装置2のサイズよりも大きな距離に対する信号変化や、磁気検出装置2に内蔵された受信コイル6のサイズよりも小さい距離に対する信号変化は、移動体100の揺動や測定時の外乱による電気的ノイズとみなすことができる。したがって、高域通過フィルタと低域通過フィルタから成る所望の帯域通過フィルタ444による空間フィルタ処理を処理装置4にて行う。この処理4により、検知信号からオフセット変動など除去でき、クレンジングされたデータ555となる。
図7B中の処理4において用いられる帯域通過フィルタ444は、カットオフ空間周波数から距離として20mm~1mの範囲に対する検知信号の成分を取り出す場合を例として示している。カットオフ空間周波数は、検査対象となる金属体に応じて自由に設定することは可能である。なお、処理4における空間フィルタ処理では、データ333が移動距離に対する検知信号強度の変化になっているため、検知信号が移動体100の移動速度による影響を一切受けないで取り扱うことができる。
【0048】
処理4によってデータクレンジングされた検知信号データ555に対して、処理装置4にて選択した検査区間666の検知信号のスペクトル応答の抽出解析処理を行う(
図7B中の処理5)。処理5で選択された検査区間666のスペクトル応答は、連続ウェーブレット解析が処理装置4で行われる。金属体200の特異箇所は基本的に周期性をもって連続的に発生するものではないため、検知信号は周期的変化として生じず、突発的な変化として観測されるといえる。この連続ウェーブレット解析は、移動距離領域上で検知信号を切り出す際のエリアが可変であるため、検知信号の緩やかな変動成分に対しては長い解析エリアを処理し、検知信号の細かな変動成分に対しては短い解析エリアで処理を行うことができる。そのため、特異箇所で発生する検知信号の非定常的あるいは過渡的な変動特性を効果的に把握できる。説明の例として示した、
図7B中の処理5に従う連続ウェーブレット解析において、Ωは使用するウェーブレット関数で規定される空間周波数分解能であり、Δは使用するウェーブレット関数で規定される距離分解能を表す。
【0049】
連続ウェーブレット解析では、処理装置4は、処理4でデータクレンジングされた検知信号(説明のために、g(t)とする)をウェーブレット関数(ψ
a,b(t))で畳込み積分による連続ウェーブレット変換T(a,b)を行う。この連続ウェーブレット変換T(a,b)は、下記[数1]で表現される。
【数1】
【0050】
連続ウェーブレット関数は、下記[数2]で表現される。
【数2】
【0051】
なお、連続ウェーブレット変換の[数1]中の下記部分である[数3]は、連続ウェーブレット関数の複素共役であり、ψは、マザーウェーブレットと呼ばれるウェーブレット関数のベースを意味する。
【数3】
【0052】
T(a,b)より、空間周波数に係る情報をもつスケールパラメーターaと移動距離に係る情報もつシフトパラメーターbとが得られることで、データクレンジングされた検知信号データ555において移動距離の各位置に対する各空間周波数における信号成分の大きさが分かる。連続ウェーブレット関数は、代表的なものとして、メキシカンハット関数、メイエ関数、モルレー関数、シムレット関数があり、いずれの関数も使用でき、検査対象となる金属体の応答に応じて使い分けられてよい。例えば、連続ウェーブレット関数としてメキシカンハット関数が使用される場合、メキシカンハット関数はガウス関数の二階微分した形状で、マザーウェーブレットψは、下記[数4]で表現される。
【数4】
【0053】
合わせて、ウェーブレット関数は、下記[数5]の通りとなる。
【数5】
【0054】
連続ウェーブレット関数は上記の関数以外にも、任意の波形形状を用いることができ、予め金属体200から得たい応答波形の形状が分かっている場合はその波形に類似した形状のウェーブレット関数を作成して処理装置4にてウェーブレット変換を行ってもよい。連続ウェーブレット解析では、2つのパラメータであるaとbを定義して、処理を行う。aはウェーブレット関数の伸縮操作のための係数であり、値を大きくするとウェーブレット関数は距離軸方向に引き伸ばされ、値を小さくすると距離軸方向に縮小される。また、bはウェーブレット関数を距離軸方向にシフトさせるための係数となる。説明の例として示した連続ウェーブレット解析(
図7B中の処理5)において、ウェーブレット関数の伸縮操作のイメージが、パラメータaを大中小(a
1、a
2、a
3)と変えた場合を例に記載されている。
【0055】
処理5におけるウェーブレット解析で得た情報より、処理装置4は、縦軸を空間周波数とし、横軸を移動体100の移動距離とし、検知信号の信号強度バーを示したカラーコンター表示する処理を行う(
図7B中の処理6)。特異箇所の種類によって、検知信号の空間周波数成分が異なるため、カラーコンター表示で抽出された特異箇所におけるスペクトル応答(パターン、信号が生じる空間周波数域など)から特異箇所情報を含めたモニタリングが可能となる。このカラーコンター表示より、空間フィルタ(帯域通過フィルタ444)でデータクレンジングした検知信号データ555の波数空間におけるスペクトル応答を用いることで特異箇所を可視化でき、ユーザビリティの面においても効果を発揮する。例えば、構造体は比較的広いエリアに存在するため、低い空間周波数域で信号強度が増加するスペクトル応答を示す(符号89を参照)。一方、亀裂などの損傷は局所的に存在するため、高い空間周波数域でのスペクトル応答となる(符号88を参照)。また、検査対象である金属体がインフラ設備の場合には、溶接などの接合箇所や、設備維持のための構造体が特定の間隔で存在するのに対し、損傷による金属体の異常箇所は不規則な発生が考えられる。そのため、波数空間におけるスペクトル応答の違いや、検査区間に発生する応答パターンの規則性から構造体や損傷の識別(弁別)が可能となる。
【0056】
図7Aと
図7Bを用いて説明した金属体モニタリングの一部処理が異なる別の処理とされてもよい。金属体モニタリング装置1で取得した磁気検出装置2からの検知信号は処理4による空間フィルタ処理によってデータクレンジングされるが、装置や使用環境に由来する観測雑音が効率的に除去できない場合がある。この場合に、処理4後の検知信号に含まれるノイズに対する適切な対応が必要である。この対応として、
図7B中の処理5で行う連続ウェーブレット解析を行う前に、処理装置4は、離散ウェーブレット変換で検知信号を異なる分解能成分の1次結合の形で信号を分離する(
図9)。
【0057】
この離散ウェーブレット変換では連続ウェーブレット変換における、スケールパラメーターaを2
jとし、シフトパラメーターbを2
jkとした2進分割の処理を行う。この2進分割処理で、離散ウェーブレット関数は下記[数6]で表現される。
【数6】
【0058】
離散ウェーブレット関数に示すjはレベルと呼ばれ、2倍毎の拡大または縮小を表す。なお、jとkは整数である。検知信号は処理4による空間フィルタ処理によって、データクレンジングされた磁気検出装置2からの検知信号(説明のために、g(t)とする)は、離散ウェーブレット関数を基底として級数展開でき、jの値を大きくするにつれて分離できる。級数展開は信号を分離する処理を意味し、検知信号は、下記[数7]で表現される。
【数7】
【0059】
級数展開([数7])中の下記[数8]は、離散ウェーブレット係数である。
【数8】
【0060】
連続ウェーブレット処理と同様な形式で離散ウェーブレット変換S(j,k)は、下記[数9]で表現される。
【数9】
【0061】
この級数展開はウェーブレット関数の1次結合で近似された処理に相当し、この近似処理による検知信号g(t)の近似精度はレベルに依存し、レベルの値が大きくなるほど、粗い近似となる。すなわち、信号g(t)のレベルjの近似関数は、級数として、下記[数10]の通りである。レベルが0のときに最も高い精度で検知信号g(t)を示す。
【数10】
【0062】
検知信号g(t)は連続信号であり、一定間隔(例えば、移動距離1mm間隔)でN個の値(a
1・・・a
N)でサンプリングされたものである。ここで、離散ウェーブレット処理を行うにあたり、データ数Nは2のべき乗であり、N=2
nである。検知信号g(t)の近似は階層的に行われ、その流れについて
図9で説明する。
図9は説明のために、検知信号g(t)がレベル0時のデータ数Nを8(=2
3)とした場合の階層的近似を例にしている。この階層的近似とは、8個のデータ(a
1・・・a
8)を、連続する2データごとに、値をその平均値で置き換えていく処理になる。最初の近似では、8個のデータ(a
1・・・a
8)が4個のデータ((a
1+a
2)/2,(a
3+a
4)/2,(a
5+a
6)/2,(a
7+a
8)/2)に置き換わる。続いて、置き換わった4個のデータを連続する2データごとに、値をその平均値で置き換えていく同様の処理を行うことを意味する。
【0063】
この階層的近似を行う際に、近似前後のデータを差分して得られるデータh(t)を算出することで、検知信号g(t)を階層的に分解する。
図9に示した説明例を基に、
図10に階層的分解を説明する。レベル0の時のデータであるg
0(t)は近似データであるg
1(t)からh
1(t)が得られる。続けて、レベル1の時のデータであるg
1(t)からh
2(t)が分解できる。同様に、レベル2でg0(t)はg
3(t)とh
3(t)まで分解される。ここで、元のデータであるg
0(t)は、g
3(t)とh
1(t)とh
2(t)とh
3(t)の総和で再現できる。そこで、検知信号g(t)の離散ウェーブレット係数を、所望の範囲においてレベルの値ごとの条件で算出し、算出した離散ウェーブレット係数をある閾値Tにより平滑化することでノイズ除去を行う。このノイズ除去で行う閾値処理はハード閾値処理とソフト閾値処理がある。ハード閾値処理はウェーブレット係数(下記[数11])で行う。
【数11】
【0064】
ハード閾値処理を行う場合は、離散ウェーブレット係数をそのままにするか除去するかの決定を行う。一方、ソフト閾値処理では、離散ウェーブレット係数が信号とノイズをともに含むと考え、全ての離散ウェーブレット係数からノイズ部分を除去して信号を分離する。このソフト閾値処理は、ウェーブレット係数(下記[数12])という形となる。
【数12】
【0065】
ここで閾値T未満の全ての離散ウェーブレット係数は0にされ、閾値以上の大きさを持つ全ての離散ウェーブレット係数はTの分だけ0の方へ縮小される。なお、閾値処理は検知信号g
j(t)に合わせて、好ましい方を選んでよい。閾値処理には普遍閾値Tを用い、レベルjでの閾値は、下記[数13]の通りである。
【数13】
【0066】
ここで、n
jは、レベルjの離散ウェーブレット係数長(個数)でありσ
jは、対象となる検知信号g
j(t)に含まれるノイズの標準偏差である。現実的にはσ
jの値は不明であるため、標準偏差の推定値として最小スケールでの離散ウェーブレット係数の絶対偏差の中間値を0.6745で割って、ガウシアン分布の標準偏差に合わせた値を用いる。なお、閾値処理には上記の普遍閾値を用いた手段以外に、mini-max法、SURE法、HYBRID法、cross-validation法、Lorenz法、ベイジアンアプローチなどがあり、それらを用いてもよい。以上のように、離散ウェーブレット変換によって得られる離散ウェーブレット係数を閾値に応じて各レベルjで閾値処理を行い、離散ウェーブレット逆変換で検知信号g
j(t)を再構成する。この再構成した検知信号g
j(t)を
図7Bに示す処理5における連続ウェーブレット変換を行い、当該連続ウェーブレット変換データから処理6に示すカラーコンター表示による波数空間におけるスペクトル応答を出力する。
【0067】
その他、金属体モニタリングでは、処理5が、
図7Cに示す処理5であっても良い。これは、検知信号が周期的な変動を常時示し、その変動の中での特異箇所の検知を行う場合に適用できる。この処理は、
図7B中の処理5で行う連続ウェーブレット解析の代わりに、処理装置4は、検査したい区間の検知信号が存在する領域で、例えば1mなど設定した所定区間1111の短時間フーリエ変換解析を1mm間隔ずつシフトさせて行い、得た結果から
図7B中の処理6と同様のスペクトル応答のカラーコンター表示処理を行う。連続ウェーブレット解析は、短時間フーリエ変換よりも移動距離と空間周波数の分解能を両立した優れた解析手段であるが、例えばワイヤロープのようなストランドと呼ばれる素線が捻り合わさった表面形状をしている金属体のモニタリング時にはストランドを反映した周期的な変動が検知信号に発生し、周期的な変動に伴う解析の場合にはウェーブレット解析よりも短時間フーリエ変換が適している場合がある。
<第1実施形態の回路構成>
【0068】
図11は、本実施形態による金属体モニタリング装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0069】
上述したように、金属体モニタリング装置1は、磁気検出装置2と、距離検出装置3と、処理装置4と、電源88と、を有する。そして、磁気検出装置2は、磁気センサ部21と、プリアンプ部210と、を有し、磁気センサ部21は、発振コイル5Aと発振コイル5Bと、受信コイル6と、を有する。プリアンプ部210は、増幅フィルタ回路22を有し、磁気センサ部21には、増幅フィルタ回路22が接続されている。
【0070】
また、処理装置4は、増幅部31と、デジタルアナログ変換部32と、発振部33と、検波部34と、アナログデジタル変換部35と、メモリ部36と、評価装置7と、を備えている。発振部33は、所定の発振周波数fの正弦波状のデジタル発振信号を出力する。発振周波数fは、発振コイル5Aと発振コイル5Bのインピーダンスを考慮して、十分な励磁磁場を出力でき、かつ、受信コイル6の十分な感度を確保できる値に選定する。また、発振周波数fの選定の際には、金属体モニタリングの検査への影響を十分に考慮することが好ましい。具体的には1/fノイズから離れることや、ラインノイズ(50Hzもしくは60Hz)とその高調波から十分隔てることや、検査対象である金属体の表皮効果の影響があっても十分な磁束の流れを得るために、選定周波数範囲としては、10kHz~100kHzの範囲から選定することが好ましい。
【0071】
図11においてデジタルアナログ変換部32は、発振部33が出力したデジタル発振信号をアナログの交流電圧に変換する。増幅部31は、この交流電圧を増幅し、磁気センサ部21における発振コイル5Aと、発振コイル5Bに印加する。これにより、発振コイル5Aおよび発振コイル5Bからは、位相が反転した交流磁界が発生する。移動体100に搭載される磁気検出装置2は、当該移動体100の移動の妨げにならないように、走行面200a(
図1参照)と離隔を持つため、走行面200aを十分に励磁するために必要な強度の交流磁界を発振コイルから出力する。
【0072】
磁気検出装置2内の増幅フィルタ回路22は、受信コイル6からの信号を増幅およびフィルタ処理し、その結果を処理装置4の検波部34に送信する。この「フィルタ処理」とは、発振周波数fの設定に自由度を持たせる場合を考慮した、設定可変範囲の発振周波数fの上限周波数よりも高い周波数成分を除去する低域通過フィルタ処理もしくは、設定可変範囲の発振周波数fの下限周波数よりも低い周波数成分を除去する高域通過フィルタ処理である。なお、使用する発振周波数fが決まっている場合は、発振周波数fを中心として、移動体100の最高移動速度時の応答速度を満たす周波数域が入る帯域幅のみを通す帯域通過フィルタ処理としてもよい。また、検波部34は、発振部33から供給される参照信号SR1を用いて、増幅フィルタ回路22から供給された信号に基づいて、信号X、Y、Rおよびθ(これら信号の詳細は後述する)を生成し、アナログデジタル変換部35に供給する。アナログデジタル変換部35は、検波部34から受信した各アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0073】
本実施形態において、距離検出装置3からの信号を処理装置4に供給する。この距離検出装置3(
図1参照)は、移動体100の車輪300の回転角度を、車軸400と接続した回転駆動機構500を介して検出しており、所定確度の回転に応じて当該距離検出装置3はパルス信号SPを出力する。そこで、アナログデジタル変換部35は、パルス信号SPをデジタル信号に変換し、メモリ部36に記憶させる。アナログデジタル変換部35から出力されたデジタル信号は、データとしてメモリ部36に記憶され、移動体100の移動距離情報が評価装置7に供給される。評価装置7にて、パルス信号SPをカウントすることで、移動体100の移動距離が算出される。
【0074】
次に、評価装置7について説明する。評価装置7は、一般的なコンピュータとして、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を備えたハードウエアであり、HDDには、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。
【0075】
評価装置7は、制御部42と、データ処理部43と、出力処理部44と、操作入力部45と、表示部46と、記憶部47と、を備える。評価装置7は、磁気検出装置2、検波部34、アナログデジタル変換部35およびメモリ部36から受信した金属体モニタリングデータに基づいて、金属体200の特異箇所202(
図6参照)を特定する検査処理プログラムを実行する。なお、本実施形態において、「金属体モニタリングデータ」とは、磁気検出装置2の受信コイル6から評価装置7に至るまでの全ての段階でのデータが該当するものとする。
【0076】
制御部42は、例えばCPU(プロセッサの一例)であり、メモリ部36からの検査データの読出しや、演算処理等の制御を行う。データ処理部43は、検査データに基づいて、検査処理を行う(詳細は後述する)。表示部46は、検査結果等を表示するLCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等である。出力処理部44は、表示部46に金属体モニタリングの結果等を表示させる。その際、出力処理部44は、グラフやテーブルの形式を適宜用いて視覚的に理解しやすい表示形式で表示させるための処理を行う。操作入力部45は、キーボード、マウス、タッチパネル等の情報入力手段である。記憶部47は、データ処理部43が処理した検査結果等のデータを保存する。また、メモリ部36に記憶されたデータは、記憶部47にも転送される。なお、データ処理部43および出力処理部44は、記憶部47に格納されたプログラムやデータを制御部42にロードして、演算処理を実行することによって実現される。
【0077】
図12は、検波部34のブロック図である。増幅フィルタ回路22からの受信信号SSは、位相比較器74および76に供給される。また、発振部33(
図8参照)から供給された参照信号SR1は、遅延回路72によって、発振周波数fの90°の位相に相当する時間だけ遅延される。遅延された参照信号SR1を参照信号SR2と呼ぶ。参照信号SR1は位相比較器76に供給され、参照信号SR2は位相比較器74に供給される。位相比較器76は、受信信号SSにおいて参照信号SR1に同期する成分を抽出する。抽出された信号はLPF(ローパスフィルタ)80によってフィルタ処理され、LPF80は、その処理結果を余弦信号Xとして出力する。
【0078】
また、位相比較器74は、受信信号SSにおいて、参照信号SR2に同期する成分を抽出する。抽出された信号は、LPF78によってフィルタ処理され、LPF78は、その結果を正弦信号Yとして出力する。演算器84は、√(X2+Y2)を計算し、その結果を振幅信号Rとして出力する。また、演算器82は、(Y/X)のアークタンジェントすなわちatan(Y/X)を計算し、その結果を位相差信号θとして出力する。
【0079】
そして、検波部34は、上述した各信号X、Y、Rおよびθを、アナログデジタル変換部35(
図11参照)を介してメモリ部36に供給する。なお、図示の例では、検波部34は各信号X、Y、R、θの全てを出力したが、振幅信号Rおよび位相差信号θは検波部34が計算するのではなく、余弦信号Xおよび正弦信号Yに基づいて、データ処理部43(
図11参照)が計算するようにしてもよい。
【0080】
ここで、検波部34が余弦信号Xに加えて正弦信号Yを検出している理由について説明しておく。余弦信号Xもしくは正弦信号Yのどちらか一方の信号においても、金属体モニタリングに係る情報(検知信号における振幅の変化)は得ることができる。一方、余弦信号Xのみを使用するとした場合に、検査時に余弦信号Xの振幅が最大になるように参照信号の位相を設定する調整が必要となる。この位相設定は、検査条件として、例えば対象となる金属体が変わる時や、金属体と磁気検出装置との離隔が変わる時や、磁気検出装置内の発振コイルにおける励磁周波数を変える時などで、設定値をその都度調整を行う必要がある。そのため、余弦信号Xと正弦信号Yを同時に検出することで、位相差算出ができるため位相調整を行わず、検査対応が可能となる。また、検知信号における振幅の変化だけでなく、位相差の変化も同時に得ることができ、より詳細な金属体モニタリング情報を得ることができる。さらに、演算器84(または評価装置7)において算出できる振幅信号Rの値は、位相差信号θが変動した場合であっても、原理上は一定になるため、参照信号の位相を最適化する処理を省略する利点もある。
<第1実施形態での動作>
【0081】
図13は、評価装置7のデータ処理部43によって実行される金属体モニタリングデータ処理のフローチャートである。
【0082】
本処理は、所定の制御周期毎に実行される。
図10において、ステップS2およびS14の処理は並列に実行される。まず、評価装置7は、ステップS2において記憶部47から金属体モニタリングデータを取得し、ステップS14において、記憶部47から距離パルス信号SPを取得する。また、評価装置7は、ステップS14が完了した後、ステップS16において、距離パルス信号SPを距離データSKに変換する。すなわち、評価装置7は、移動体の移動が停止するまで距離検出装置が検出した距離パルス信号SPの検出回数に基づいて、距離データSKを算出する。ここで、距離データSKとは、所定の基準位置(移動体の移動開始位置)からの距離を指しており、距離データSKは位置データの一例でよい。
【0083】
また、評価装置7は、ステップS2が完了した後、ステップS4において、距離データSKを用いて波数空間におけるスペクトル応答データを取得する。ステップS4完了後に、当該スペクトル応答データが所定の基準範囲、すなわち下限値を設定した信号強度の範囲を外れるか否かが判定される。ここで、判定に使用する「スペクトル応答データ」は、例えば、
図12に示した振幅信号Rである。特異箇所202(
図6参照)がある場合には、振幅信号Rは明らかに大きくなる。そこで、ステップS6において、評価装置7は、振幅信号Rと所定の閾値R
th1とを比較する。「R≠R
th1」である場合には、「Yes」、すなわち、特異箇所がある可能性有との判定がされてよい。一方、「R=R
th1」(差が所定差以下であることを含んでよい)である場合には、「No」、すなわち、特異箇所が無いと判定されてよい。
【0084】
ここで「No」と判定されると、処理はステップS18に進む。なお、その処理の内容は後述する。一方、ステップS6において「Yes」と判定されると、処理はステップS8に進む。ステップS8においては、
図12に示した信号X、Y、Rおよびθ等の信号強度増加が生じる空間周波数領域に基づいて、構造体と損傷が弁別される。
【0085】
上述のステップS2~S16の処理が終了すると、処理はステップS18に進み、金属体モニタリング結果が生成される。ここで、「金属体モニタリング結果」とは、ステップS8が行われた場合には特異箇所(構造体および損傷)と、距離データSKとを対応付けたものを含んでよい(ステップS8が行われなかった場合、「金属体モニタリング結果」は、特異箇所無しとの結果を含んでよい)。次に、処理がステップS20に進むと、データ処理部43は、金属体モニタリング結果を表示部46等に出力し、本ルーチンの処理が終了する。
<第1実施形態の効果>
【0086】
以上のように本実施形態の金属体モニタリング装置1によれば、磁気検出装置2は、下部筐体20と、上部筐体26とを備える。下部筐体20は、磁気センサ部21を収納し、非磁性体で構成されている。上部筐体26は、プリアンプ部210を収納し、下部筐体20の上面に固定される。上部筐体26の一側面に、接続ケーブル64に接続されるコネクタ28が装着される。上部筐体26は、金属で構成されている。これにより、金属体200の状態を安定して検出することができる。
【0087】
また、磁気検出装置2は、金属体200の走行面200aを交流磁界で励磁し、走行面に発生する磁束の流れの乱れに基づいて、当該走行面における特異箇所202を検出する。これにより、金属体の状態を正確に検出することができる。
【0088】
金属体モニタリング装置1は、出力処理部44をさらに有する。出力処理部44は、検出した特異箇所202の種類および存在位置を、画像として表現しつつ表示部46に表示する。これにより、ユーザは、金属体200の状態を視覚的に把握することができる。
【0089】
また、評価装置7は、特異箇所202についての弁別結果に基づき当該特異箇所202識別を行い、金属体200に存在した特異箇所の情報として構造体および損傷を管理することができる。さらに、処理装置4は、距離検出装置3からの距離パルス信号SPに基づいて、特異箇所の位置を検出し、その結果を表示部46に表示する。
[第2実施形態]
【0090】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、
図1~
図12の各部に対応する部分には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、以下、第1実施形態との相違点を主に説明し、第1実施形態との共通点については説明を省略または簡略する。
<第2実施形態の構成>
【0091】
本実施形態の構成として、上述した第1実施形態で説明した
図3の構成を基に、
図14に示す磁気センサ部を複数用いた構成である。
図14は、複数の磁気センサ部を内蔵した磁気検出装置2の底面図である。
図14に示すように、磁気センサ部群77は、下部筐体20の幅方向、すなわち金属体200(
図1参照)の幅方向に沿って列をなすように配列されたN個(本実施形態ではNは上述の通り2以上の整数)の磁気センサ部21-1~21-Nを有している。
【0092】
また、磁気センサ部21-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、発振コイル5A-kと、発振コイル5B-kと、受信コイル6-kと、を有している。これら各コイルは、被覆銅線を巻回して構成されている。
【0093】
発振コイル5A-kと、受信コイル6-kと、発振コイル5B-kとは、金属体200(
図1参照)の幅方向(移動方向と直交する方向)に沿って配置され、受信コイル6-kは、発振コイル5A-kと発振コイル5B-kとの間に等間隔になるように配置されている。発振コイル5A-kおよび5B-kには、処理装置4(
図1参照)から、接続ケーブル60を介して、各発振コイルに周波数値が全て異なる交流電流が供給される。これにより、発振コイル5A-kおよび5B-kから周波数値が異なる各々の交流磁界が発生して金属体200を励磁し、励磁した金属体200から発生した磁束によって、各受信コイル6-kには誘起電圧が発生する。
【0094】
図15は、第二実施形態における磁気検出装置2の一部切欠平面図である。
図3と同様に、
図14はフランジ25の中央部を切り欠いて、上部筐体26の内部を露出させた説明図である。なお、磁気センサ部の筐体構造および使用材質などに係る構成は、第一実施形態と同様である。
【0095】
図15において、プリアンプ部210は、増幅フィルタ部群79を実装するプリント基板210aと、を備えている。増幅フィルタ回路群79は、上述した磁気センサ部21と同数の(N個の)増幅フィルタ回路22-1~22-Nを有している。磁気センサ部21と増幅フィルタ回路22は1:1で対応していてよい。
【0096】
増幅フィルタ部22-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、受信コイル6-kで生じた誘起電圧に対して増幅およびフィルタ処理を行い、接続ケーブル60(
図1参照)を介して、その結果を処理装置4に送信する。処理装置4は、受信した信号に対して解析処理を行い、金属体200から発生した磁気信号を検出する。
<第2実施形態の回路構成>
【0097】
図16は、本実施形態による金属体モニタリング装置1の全体構成を示すブロック図である。
【0098】
本実施形態の金属体モニタリング装置1において、磁気検出装置2は、磁気センサ部21-1~21-Nと、プリアンプ部210と、を有し、磁気センサ部21-kは、発振コイル5A-kおよび5B-kと、受信コイル6-kと、を有する。プリアンプ部210は、増幅フィルタ部22-1~22-Nを有し、磁気センサ部21-kには、増幅フィルタ部22-kが接続されている。
【0099】
また、処理装置4は、増幅部31-1~31-Nと、N系統のデジタルアナログ変換部32と、発振部33と、検波部34-1~34-Nと、アナログデジタル変換部35と、メモリ部36と、評価装置7と、を備えている(本実施形態では、Nは、2以上の整数であるが、1でもよい)。
図16においてデジタルアナログ変換部32は、発振部33が出力したデジタル発振信号をアナログの交流電圧に変換する。増幅部31-k(kは、1~Nのうちの任意の整数)は、この交流電圧を増幅し、共振フィルタ部60-kを介して、磁気センサ部21-kにおける発振コイル5A-k、5B-kに印加する。これにより、発振コイル5A-kおよび5B-kからは、位相が反転した交流磁界が発生する。
【0100】
本実施形態では、磁気検出装置2の信号と、距離検出装置の信号を用いて、
図7A、
図7B、
図7C、
図8A、
図8B、
図9、
図10で説明した処理で導出する波数空間におけるスペクトル応答が、使用する複数の磁気センサ部21が占める金属体200のエリア全体で得られる。したがって、特異箇所の抽出を行うにあたり、金属体200の測定エリアにおいて特定の空間周波数における信号強度の応答変化が分かるため、例えば損傷の発生分布を把握できるなどより詳細な金属体モニタリングを実施できる。本実施形態より、使用する複数の磁気センサ部21で得た、特定の空間周波数における信号成分を用いて、
図17に示すように金属体に存在した特異箇所の位置とその位置における信号強度分布の等高線表現ができる。
図17では、縦軸を、使用する磁気センサ部21の位置情報とし、横軸を、移動体100の移動距離とし、特定の空間周波数における検知信号成分の信号強度バー付けたカラーコンター表示を示す。特異箇所の内、構造体は人工的なものであるため、その存在位置において各磁気センサ部で測定するエリアに全体に存在する。そのため、
図17において符号1000に示すように構造体の存在位置において、磁気センサ部21の各測定位置で一様の信号強度となる。一方、損傷は構造体とは異なり、存在箇所が自然に発生するため、構造体のように一様にならない。すなわち、損傷の発生エリアを反映し
図17の符号2000に示すような磁気センサ部21の各測定位置で得た信号強度が偏りを示す不均一な分布を表す。なお、特定の空間周波数は任意の値を設定入力でき、金属体に存在した特異箇所の位置とその位置における信号強度分布の等高線表現を、評価装置7にて表示部46に出力表示する。このような等高線表現の出力表示が、モニタリング情報の表示の一例で良い。
[変形例]
【0101】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。上述した実施形態は本発明を理解しやすく説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について削除し、若しくは他の構成の追加および/または置換をすることが可能である。また、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。上記実施形態に対して可能な変形は、例えば以下のようなものである。
(1)上記各実施形態における評価装置7のハードウエアは一般的なコンピュータによって実現できるため、
図7A、
図7B、
図7C、
図8A、
図8B、
図9、
図10に示した信号処理や、
図13に示したフローチャートに係る処理を実行するためのプログラムは、可搬型の記憶媒体またはサーバといったプログラムソースからコンピュータにインストールされてもよい。
(2)
図11、
図12および
図16に示した機能や
図7A、
図7B、
図7C、
図8A、
図8B、
図9、
図10、
図13を基に説明した処理は、上記実施形態ではプログラムをプロセッサが実行することにより実現される機能や処理として説明したが、その一部または全部をASIC(Application Specific Integrated Circuit)、あるいはFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたハードウエア的な機能や処理に置き換えられてもよい。
(3)上記各実施形態においては、金属体モニタリング装置1は、手押し車のような手動式のものや、モータやディーゼルエンジンなどの自走式のものを含む移動体全般に、搭載してよい。
(4)距離検出装置3が、実施形態で説明したエンコーダを用いた距離パルス信号SP以外にも、速度発電機を備えた自走式の移動体の場合でも同様に対応できる。また、加速度センサから得た加速度情報を基にした移動距離の推定や、レーザドップラを用いた移動距離測定などの代用手段を適用してもよい。
【0102】
なお、上述の説明を、例えば以下のように総括することができる。下記の総括は、上述の説明の補足や変形例の説明を含んでよい。
【0103】
金属体モニタリング装置(1)は、磁気検出装置(2)と、距離検出装置(3)と、磁気検出装置および距離検出装置に接続された処理装置(4)とを有する。磁気検出装置は、磁気センサ部(21)を有し、磁気センサ部は、金属体(200)上を相対的に移動する移動体(100)に備えられ金属体を交流励磁し発生した漏洩磁界を非接触で検知する。距離検出装置は、移動体に備えられ移動体の金属体に対する相対的な移動距離を検出する。処理装置は、磁気検出装置からの検知信号強度の時系列を表す第1のデータ(111)を、距離検出装置により検出された各時点での移動距離に基づき、移動距離と検知信号強度との関係を表す第2のデータ(222)に変換する。処理装置は、第2のデータから特定される波数空間におけるスペクトル応答を抽出し、抽出されたスペクトル応答に基づく情報であるモニタリング情報を出力する。モニタリング情報から、金属体の特異箇所を弁別することができる。また、ノイズ要因となる移動体の揺動に伴うオフセットドリフトは距離範囲が異なるため、速度に依存せずにオフセットドリフトの除去が容易となる。なお、モニタリング情報が、金属体の特異箇所の弁別の結果を表す情報(例えば、移動距離と、特異箇所が何であるかとを表す情報)を含んで良い。また、特異箇所は、損傷箇所と構造体箇所とに大別されても良いし、構造体箇所については、構造体箇所に分類される複数種類の箇所のいずれの種類の箇所であるかまで識別(推定)されても良い。
【0104】
モニタリング情報の出力は、モニタリング情報の表示(例えば表示部への表示)で良い。モニタリング情報は、空間周波数と移動体の移動距離との対応関係を表す情報で良い。特異箇所の種類によって、検知信号の空間周波数成分が異なるため、このようなモニタリング情報から、特異箇所の弁別が可能である。空間周波数と移動体の移動距離との対応関係は、空間周波数に対応した第1の軸と前記移動体の移動距離に対応した第2の軸との直交座標系のカラーコンターで良く、当該直交座標系には、検知信号強度に従うカラーのインジケータが配置されていて良い。これにより、高い視認性が期待される。
【0105】
処理装置は、第2のデータに対して、金属体のモニタに必要なサイズに応じた空間フィルタ処理を行い、当該空間フィルタ処理が施されたデータ(555)のうち、金属体のモニタに応じた区画(666)毎に、波数空間におけるスペクトル応答を抽出して良い。空間フィルタを用いてデータクレンジング後に得られる波数空間におけるスペクトル応答より、特異箇所の抽出および分離(構造体箇所と損傷箇所の弁別)の可視化を提供することができる。
【0106】
処理装置は、第2のデータにおける移動距離のサンプルが等間隔になるよう移動距離サンプルの補間処理を行って良い。空間フィルタ処理は、補間処理が施された第2のデータに対して行われて良い。このように移動距離サンプルが等間隔になるよう補間されるため、空間フィルタ処理が可能となる。
【0107】
第2のデータの区画毎に、処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために連続ウェーブレット解析を行って良い。これにより、区間毎に、どの移動距離でどの空間周波数成分の変化があったのかを特定することができる。なお、第2のデータの区画毎に、処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために、離散ウェーブレット解析で信号分離を行い、当該分離した信号に連続ウェーブレット解析を用いて良い。
【0108】
第2のデータの区画毎に、処理装置は、波数空間におけるスペクトル応答の抽出のために短時間フーリエ変換を行ってよい。この場合、金属体は、移動体の相対的な移動方向に沿って周期的に並んだ形状を持って良い。これにより、金属体の構造上の周期的な変化を検出することができる。
【0109】
磁気検出装置は、移動体の相対的な移動方向と直交する方向に並んだ複数の磁気センサ部を有して良い。
【符号の説明】
【0110】
1 金属モニタリング装置
2 磁気検出装置
3 距離検出装置
4 処理装置
5,5A-1~5A-N,5B-1~5B-N 発振コイル
6,6-1~6-N 受信コイル
21 磁気センサ部
100 移動体
200 金属体
202 特異箇所(金属体に存在した構造体箇所および損傷箇所)