(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008507
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】トランス及び電力変換器
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20250109BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
H01F30/10 H
H01F30/10 E
H01F30/10 A
H01F30/10 C
H01F27/32 130
H01F27/32 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110734
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
(72)【発明者】
【氏名】東谷 祥平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 規央
【テーマコード(参考)】
5E044
【Fターム(参考)】
5E044BB05
5E044CA05
(57)【要約】
【課題】本開示は、装置の大型化を抑制しつつ部分放電を抑制することが可能なトランスを提供する。
【解決手段】トランス(100,200,300)は、ボビン(10,11)と、複数の巻線(20,21)と、複数の絶縁層(30,40,70)とを備えている。複数の巻線は、ボビンの周囲に巻回されている。複数の絶縁層は、複数の巻線のうちの隣り合う2つの間に介在されている少なくとも1つの第1絶縁層(30)を有する。少なくとも1つの第1絶縁層の各々は、第1層(31)と、第2層(32)と、第1層と第2層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第1中間導体(33)とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、
複数の巻線と、
複数の絶縁層とを備え、
前記複数の巻線は、前記ボビンの周囲に巻回されており、
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの間に介在されている少なくとも1つの第1絶縁層を有し、
前記少なくとも1つの第1絶縁層の各々は、第1層と、第2層と、前記第1層と前記第2層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第1中間導体とを有する、トランス。
【請求項2】
コアをさらに備え、
前記コアは、前記ボビンに取り付けられており、
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの最外周にある1つと前記コアとの間に介在されている第2絶縁層を有し、
前記第2絶縁層は、第3層と、第4層と、前記第3層と前記第4層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第2中間導体とを有する、請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの最内周にある1つと前記ボビンとの間に介在されている第3絶縁層を有し、
前記第3絶縁層は、第5層と、第6層と、前記第5層と前記第6層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第3中間導体とを有する、請求項1に記載のトランス。
【請求項4】
前記複数の巻線の数は、3以上であり、
前記少なくとも1つの第1絶縁層は、複数の第1絶縁層である、請求項1に記載のトランス。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の前記トランスを備える、電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トランス及び電力変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開平8-97053号公報(特許文献1)には、巻線装置が記載されている。特許文献1に記載の巻線装置は、コイルボビンと、第1巻線と、絶縁シートと、第2巻線とを有している。第1巻線は、コイルボビンの周囲に巻回されている。絶縁シートは、第1巻線の周囲に巻回されている。第2巻線は、絶縁シートの周囲に巻回されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の巻線装置では、巻回された絶縁シート中に欠陥(ボイド、空隙)が存在することがある。そのため、特許文献1に記載の巻線装置では、交流電圧が印加された際、パッシェンの法則にしたがって部分放電が生じる。これに対する対策としては、絶縁シートの厚さを大きくすることが考えられる。しかしながら、絶縁シートの厚さを大きくすると、装置が大型化されてしまう。
【0005】
本開示は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本開示は、装置の大型化を抑制しつつ部分放電を抑制することが可能なトランスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のトランスは、ボビンと、複数の巻線と、複数の絶縁層とを備えている。複数の巻線は、ボビンの周囲に巻回されている。複数の絶縁層は、複数の巻線のうちの隣り合う2つの間に介在されている少なくとも1つの第1絶縁層を有する。少なくとも1つの第1絶縁層の各々は、第1層と、第2層と、第1層と第2層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第1中間導体とを有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示のトランスによると、装置の大型化を抑制しつつ部分放電を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】第1絶縁層30の厚さと第1巻線20と第2巻線21との間における部分放電開始電圧との関係を示すグラフである。
【
図5】トランス100の効果を説明する模式図である。
【
図6】トランス100のシミュレーションモデルを示す斜視図である。
【
図7】
図6中のVII-VIIにおける断面図である。
【
図8】トランス100Aのシミュレーションモデルを示す斜視図である。
【
図11】トランス200の効果を説明する模式図である。
【
図13】トランス300の効果を説明する第1模式図である。
【
図14】トランス300の効果を説明する第2模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。以下の図面では、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0010】
実施の形態1.
実施の形態1に係るトランスを説明する。実施の形態1に係るトランスを、トランス100とする。
【0011】
(トランス100の構成)
以下に、トランス100の構成を説明する。
【0012】
トランス100は、例えば、電力変換器に用いられる。
図1は、トランス100の斜視図である。
図2は、
図1中のII-IIにおける断面図である。
図1及び
図2に示されているように、トランス100は、ボビン10と、第1巻線20と、第2巻線21と、第1絶縁層30と、第2絶縁層40と、コア50とを有している。
【0013】
ボビン10は、筒部11と、鍔部12及び鍔部13とを有している。ボビン10の構成材料は、例えば、ポリポリブチレンテレフタレート(PBT)等の熱可塑性樹脂又はフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂である。筒部11の延びている方向を、軸方向とする。筒部11は外周面11aを有している。鍔部12は、軸方向における筒部11の一方端部にある外周面11aから張り出している。鍔部13は、軸方向における筒部11の他方端部にある外周面11aから張り出している。鍔部12及び鍔部13に隣接している位置において、外周面11aには、絶縁テープ60が巻回されている。絶縁テープ60は、各巻線の間及び各巻線とコア50との間の絶縁距離を確保するために巻かれている。なお、絶縁テープ60、絶縁テープ61及びその他の絶縁テープは、例えば、ポリエステルフィルムにポリエステル不織布を貼り合わせた基材とアクリル若しくはシリコーン系接着剤とから構成されるコンビネーションテープ又はポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ノーメックス紙、マイカ、ガラス繊維等の不織布若しくはポリファニレンサルファイドフィルムを基材とするテープである。
【0014】
第1巻線20は、ボビン10の周囲に巻回されている。より具体的には、第1巻線20は、絶縁テープ60の間にある外周面11aの部分の周囲に巻回されている。第1巻線20は、トランス100の1次巻線である。第1巻線20は、例えば、銅、銅を含む合金、アルミニウム、アルミニウムを含む合金を構成材料とする丸線である。図示されていないが、第1巻線20の引き出し部は、ボビン10のピンに絡げられている。図示されていないが、第1巻線20の引き出し部及び引き込み部は、絶縁テープにより、絶縁が確保されている。
【0015】
第1絶縁層30は、第1巻線20及び絶縁テープ60を覆うように配置されている。第1絶縁層30は、絶縁テープを第1巻線20及び絶縁テープ60の周囲に巻回することにより構成されている。絶縁テープは、例えばポリエステルテープである。第1絶縁層30は、外周面30aを有している。鍔部12及び鍔部13に隣接する位置において、外周面30aには、絶縁テープ61が巻回されている。絶縁テープ61は、各巻線の間及び各巻線とコア50との間の絶縁距離を確保するために巻かれている。
【0016】
第2巻線21は、第1巻線20及び第1絶縁層30を介在させて、ボビン10(筒部11)の周囲に巻回されている。つまり、第1絶縁層30は、隣り合う2つの巻線の間に介在されている。より具体的には、第2巻線21は、絶縁テープ61の間にある外周面30aの部分の周囲に巻回されている。第2巻線21は、トランス100の2次巻線である。第2巻線21は、例えば、銅、銅を含む合金、アルミニウム、アルミニウムを含む合金を構成材料とする丸線である。図示されていないが、第2巻線21の引き出し部は、ボビン10のピンに絡げられている。図示されていないが、第2巻線21の引き出し部及び引き込み部は、絶縁テープにより、絶縁が確保されている。なお、第2巻線21の軸方向における巻幅は、例えば、第1巻線20の軸方向における巻幅よりも小さい。
【0017】
第1絶縁層30は、第1層31と、第2層32と、第1中間導体33とを有している。第1層31及び第2層32は、それぞれ、第1巻線20側及び第2巻線21側にある。第1層31の厚さは、第2層32の厚さに等しいことが好ましい。
【0018】
第1中間導体33は、第1層31と第2層32との間に配置されている。第1中間導体33は、トランス100の他のいずれの導体にも電気的に接続されていない。すなわち、第1中間導体33は、浮遊電位とされている。第1中間導体33は、例えば、箔状の金属材料である。第1中間導体33の構成材料は、例えば銅、アルミニウム、銅を含む合金又はアルミニウムを含む合金である。第1中間導体33には、スリット33a(
図7参照)が形成されていてもよい。スリット33aは、軸方向に延びている。第1中間導体33の厚さは、特に限定されない。なお、第1中間導体33は、例えば、第1層31を完全に覆っている。すなわち、第1中間導体33の軸方向における両端は、それぞれ鍔部12及び鍔部13に達するように延びている。
【0019】
第2絶縁層40は、第2巻線21及び絶縁テープ61の周囲を覆っている。すなわち、第2絶縁層40は、最外周にある巻線とコア50との間に介在されている。第2絶縁層40は、例えば、絶縁テープを第2巻線21及び絶縁テープ61の周囲に巻回することにより構成されている。ボビン10には、コア50が取り付けられている。コア50の構成材料は、例えば、ダスト材(鉄ダスト、センダスト、パーマロイ)、フェライト材(ニッケル、マンガン)、箔材(アモルファス、ファインメット)等である。
【0020】
<変形例>
上記の例においては、第1巻線20及び第2巻線21を銅製の丸線としたが、第1巻線20及び第2巻線21の形状及び構成材料は、これに限られない。上記の例おいては、第1中間導体33を箔状としたが、第1中間導体33の形状はこれに限られない。第1中間導体33は、例えばメッシュ状であってもよい。
【0021】
上記の例においては、巻線の数を2としたが、巻線の数は3以上であってもよい。巻線の数が3以上である場合、第1絶縁層30の数も複数となり、隣り合う2つの巻線の間の各々には第1絶縁層30が介在される。巻線の数が3以上である場合、これら複数の巻線には、一次巻線及び二次巻線に加えて別の巻線が含まれていてもよい。これら複数の巻線に含まれている一次巻線及び二次巻線以外の巻線は、例えば、補助巻線、バイアス巻線等である。上記の例においては、最内周の巻線がトランス100の一次巻線、最外周の巻線がトランスの2次巻線であるが、巻線の巻き順や巻き方がこれと異なっていてもよい。ボビン10やコア50の形状も、上記の例に限られるものではない。
【0022】
(トランス100の効果)
以下に、トランス100の効果を、比較例に係るトランスと対比しながら説明する。比較例に係るトランスを、トランス100Aとする。
【0023】
図3は、トランス100Aの断面図である。
図3に示されているように、トランス100Aの構成は、第1絶縁層30が第1中間導体33を有していない点を除いて、トランス100の構成と共通している。第1絶縁層30は、絶縁テープを巻回することで構成されているため、第1絶縁層30中には欠陥(例えばボイド30b、
図7及び
図9参照)が不可避的に発生してしまう。このことは、第1絶縁層30を樹脂モールドで構成した場合も同様である。このような状況下では、ボイド30bにおいて電界強度が高くなり、局所的に部分放電が発生してしまうことがある。このような部分放電は、絶縁劣化を生じさせる要因であり、最終的に絶縁破壊に至らしめる。
【0024】
図4は、第1絶縁層30の厚さと第1巻線20と第2巻線21との間における部分放電開始電圧との関係を示すグラフである。
図4に示されているように、第1巻線20と第2巻線21との間における部分放電開始電圧は、第1絶縁層30の厚さの1/2乗に比例する。つまり、第1絶縁層30の厚さがTであるときの部分放電開始電圧をVとすると、第1絶縁層30の厚さを1/2×Tにすれば部分放電開始電圧が(1/√2×V)になり、第1絶縁層30の厚さを2×Tにすれば部分放電開始電圧が√2×Vになる。そのため、トランス100Aにおいて部分放電を生じにくくする(部分放電開始電圧を大きくする)ためには、第1絶縁層30の厚さを大きくする必要がある。その結果、トランス100Aでは、部分放電を生じにくくするために、トランス100Aが大型化してしまう。
【0025】
図5は、トランス100の効果を説明する模式図である。上記のように、トランス100では、第1絶縁層30が第1層31と第2層32とを有しており、第1層31と第2層32との間に第1中間導体33が配置されている。そして、第1中間導体33は、浮遊電位とされている。そのため、第1中間導体33の電位は、第1巻線20の電位及び第2巻線21の電位により決定される。より具体的には、
図5に示されているように、第1中間導体33、第1巻線20及び第1層31により容量C1が構成され、第1中間導体33、第2巻線21及び第2層32により容量C2が形成される。そのため、例えば容量C1及び容量C2が互いに等しい場合、第1中間導体33と第1巻線20との間の電位差及び第1中間導体33と第2巻線21との間の電位差は、第1巻線20と第2巻線21との間の電位差の1/2となる。
【0026】
その結果、第1絶縁層30の厚さをTとすれば、第1層31における部分放電開始電圧及び第2層32における部分放電開始電圧は、ともに(1/√2)×Vとなり、第1巻線20と第2巻線21との間の電位差が2×(1/√2)×V=√2×Vになるまで第1絶縁層30において部分放電が開始されない。このように、トランス100によると、第1中間導体33により第1巻線20と第2巻線21との間の電位差が分圧されることで第1絶縁層30の厚さを増加させることなく部分放電開始電圧を高め、第1絶縁層30に部分放電が生じにくくなる。このことを別の観点から言えば、第1絶縁層30の厚さを減少させても同程度の部分放電開始電圧を維持することができる。上記の例で言うと、トランス100では、第1絶縁層30の厚さを1/2×Tとしても、トランス100Aにおいて第1絶縁層30の厚さがTの場合と部分放電開始電圧が同一になる。
【0027】
第1中間導体33を配置することによる効果を確認するため、シミュレーションを実施した。
図6は、トランス100のシミュレーションモデルを示す斜視図である。
図7は、
図6中のVII-VIIにおける断面図である。
図6及び
図7に示されているように、トランス100のシミュレーションモデルでは、第1層31中にボイド30bが配置されている。ボイド30bの形状は、球状である。
【0028】
図8は、トランス100Aのシミュレーションモデルを示す斜視図である。
図9は、
図8中のIX-IXにおける断面図である。
図8及び
図9に示されているように、トランス100Aのシミュレーションモデルは、第1中間導体33を有しない点を除き、トランス100のシミュレーションモデルと同一になっている。このシミュレーションの結果によると、トランス100Aでは、ボイド30bにおける電界強度が45.617kV/mから47.999kV/mの範囲内であった。他方で、トランス100では、ボイド30bにおける電界強度が25.956kV/mから27.320kV/mの範囲内であった。この比較から、第1中間導体33を第1層31と第2層32との間に配置することにより第1絶縁層30中にあるボイドにおける電界強度が弱まり、部分放電が開始されにくくなることが理解される。
【0029】
トランス100では、第1中間導体33が配置されることにより、部分放電が開始されにくくなることに加え、ノイズが低減されるとともに、放熱性が改善される。より具体的には、1次側(第1巻線20)からのスイッチングノイズは、第1中間導体33でシールドされるため、二次側(第2巻線21)に伝搬しがたくなる。また、第1中間導体33は第1絶縁層30よりも熱伝導率が高いため、ボビン10の内部の熱が外部に逃げやすくなり、トランス100の芯温が低下する。トランス100では、第1中間導体33にスリット33aが形成されているため、発熱やノイズの要因となる巻線間の短絡(ショートターン)を抑制可能である。
【0030】
実施の形態2.
実施の形態2に係るトランスを説明する。実施の形態1に係るトランスを、トランス200とする。ここでは、トランス100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0031】
(トランス200の構成)
以下に、トランス200の構成を説明する。
【0032】
図10は、トランス200の断面図である。
図10には、
図1中のII-IIに対応する位置におけるトランス200の断面が示されている。
図10に示されているように、トランス200は、ボビン10と、第1巻線20と、第2巻線21と、第1絶縁層30と、第1中間導体33と、第2絶縁層40と、コア50と、絶縁テープ60と、絶縁テープ61とを有している。この点に関し、トランス200の構成は、トランス100の構成と共通している。
【0033】
トランス200では、第1層31が、第1中間導体33により完全に覆われているわけではない。つまり、トランス200では、第1中間導体33の軸方向における両端がそれぞれ鍔部12及び鍔部13に達するように延びているわけではない。より具体的には、第1中間導体33の軸方向における幅が、第1巻線20の軸方向における巻幅に一致している。この点に関し、トランス200の構成は、トランス100の構成と異なっている。
【0034】
<変形例>
上記においては、第1巻線20の軸方向における巻幅が第2巻線21の軸方向における巻幅よりも大きく、かつ第1中間導体33の軸方向における幅が第2巻線21の軸方向における巻幅に一致する例を説明したが、第1巻線20の軸方向における巻幅が第2巻線21の軸方向における巻幅よりも小さい場合には、第1中間導体33の軸方向における幅を第2巻線21の軸方向における巻幅に一致させてもよい。
【0035】
(トランス200の効果)
以下に、トランス200の効果を説明する。
【0036】
図11は、トランス200の効果を説明する模式図である。
図11に示されているように、トランス200でも、第1中間導体33、第1巻線20及び第1層31により容量C1が構成され、第1中間導体33、第2巻線21及び第2層32により容量C2が構成される。そのため、トランス200では、トランス100と同様に第1巻線20と第2巻線21との間の電位差が第1中間導体33により分圧され、第1絶縁層30の厚さを小さくすること又は第1絶縁層30の厚さを変えることなく部分放電の開始を抑制することが可能である。
【0037】
また、トランス200では、第1中間導体33が鍔部12及び鍔部13に達するように延びているわけではないため、ボビン10の寸法に対する第1中間導体33の寸法公差を大きく取ることが可能であり、工作性を向上させることが可能である。
【0038】
実施の形態3.
実施の形態3に係るトランスを説明する。実施の形態1に係るトランスを、トランス300とする。ここでは、トランス100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0039】
(トランス300の構成)
以下に、トランス300の構成を説明する。
【0040】
図12は、トランス300の断面図である。
図12には、
図1中のII-IIに対応する位置におけるトランス300の断面が示されている。
図12に示されているように、トランス300は、ボビン10と、第1巻線20と、第2巻線21と、第1絶縁層30と、第1中間導体33と、第2絶縁層40と、コア50と、絶縁テープ60と、絶縁テープ61とを有している。この点に関し、トランス300の構成は、トランス100の構成と共通している。
【0041】
トランス300では、第2絶縁層40が、第3層41と、第4層42と、第2中間導体43とを有している。第3層41の厚さは、第4層42の厚さと等しいことが好ましい。第3層41及び第4層42は、それぞれ第2巻線21側及びコア50側にある。第3層41及び第4層42は、例えば、絶縁テープを巻回することにより構成されている。
【0042】
第2中間導体43は、第3層41と第4層42との間に配置されており、かつ浮遊電位とされている。第2中間導体43は箔状の金属材料であり、第2中間導体43の構成材料は銅、銅を含む合金、アルミニウム、アルミニウムを含む合金等である。図示されていないが、第2中間導体43には、軸方向に沿って延在するスリットが形成されている。
【0043】
トランス300は、第3絶縁層70をさらに有している。第3絶縁層70は外周面11a上に配置されており、第3絶縁層70の周囲に第1巻線20が巻回されている。別の観点から言えば、最内周にある巻線とボビン10との間に介在されている。第3絶縁層70は、第5層71と、第6層72と、第3中間導体73とを有している。第5層71及び第6層72は、それぞれボビン10(筒部11)側及び第1巻線20側にある。第5層71及び第6層72は、例えば、絶縁テープを巻回することにより構成されている。
【0044】
第3中間導体73は、第5層71と第6層72との間に配置されており、かつ浮遊電位とされている。第3中間導体73は箔状の金属材料であり、第3中間導体73の構成材料はアルミニウム、銅等である。図示されていないが、第3中間導体73には、軸方向に沿って延在するスリットが形成されている。
【0045】
(トランス300の効果)
以下に、トランス300の効果を説明する。
【0046】
図13は、トランス300の効果を説明する第1模式図である。
図13に示されているように、トランス300では、第2中間導体43、第2巻線21及び第3層41により容量C3が構成され、第2中間導体43、コア50及び第4層42により容量C4が構成される。そのため、トランス300では、第2巻線21とコア50との間の電位差が第2中間導体43により分圧され、第2絶縁層40の厚さを小さくする又は第2絶縁層40の厚さを変えることなく部分放電の開始を抑制可能である。
【0047】
図14は、トランス300の効果を説明する第2模式図である。
図14に示されているように、トランス300では、第3中間導体73、コア50、ボビン10(筒部11)及び第5層71により容量C5が構成され、第2中間導体43、第1巻線20及び第6層72により容量C6が構成される。そのため、トランス300では、第1巻線20とコア50との間の電位差が第3中間導体73により分圧され、第3絶縁層70の厚さを小さくすること又は第3絶縁層70の厚さを変えることなく部分放電の開始を抑制することが可能である。
【0048】
(付記)
本開示の諸態様を、付記としてまとめて記載する。
【0049】
<付記1>
ボビンと、
複数の巻線と、
複数の絶縁層とを備え、
前記複数の巻線は、前記ボビンの周囲に巻回されており、
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの隣り合う2つの間に介在されている少なくとも1つの第1絶縁層を有し、
前記少なくとも1つの第1絶縁層の各々は、第1層と、第2層と、前記第1層と前記第2層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第1中間導体とを有する、トランス。
【0050】
<付記2>
コアをさらに備え、
前記コアは、前記ボビンに取り付けられており、
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの最外周にある1つと前記コアとの間に介在されている第2絶縁層を有し、
前記第2絶縁層は、第3層と、第4層と、前記第3層と前記第4層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第2中間導体とを有する、付記1に記載のトランス。
【0051】
<付記3>
前記複数の絶縁層は、前記複数の巻線のうちの最内周にある1つと前記ボビンとの間に介在されている第3絶縁層を有し、
前記第3絶縁層は、第5層と、第6層と、前記第5層と前記第6層との間に介在されており、かつ浮遊電位とされている第3中間導体とを有する、付記1又は付記2に記載のトランス。
【0052】
<付記4>
前記複数の巻線の数は、3以上であり、
前記少なくとも1つの第1絶縁層は、複数の第1絶縁層である、付記1から付記3のいずれか1項に記載のトランス。
【0053】
<付記5>
付記1から付記4のいずれか1項に記載の前記トランスを備える、電力変換器。
【0054】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この出願の範囲は上記の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
10 ボビン、11 筒部、11a 外周面、12 鍔部、13 鍔部、20 第1巻線、21 第2巻線、30 第1絶縁層、30a 外周面、30b ボイド、31 第1層、32 第2層、33 第1中間導体、33a スリット、40 第2絶縁層、41 第3層、42 第4層、43 第2中間導体、50 コア、60 絶縁テープ、61 絶縁テープ、70 第3絶縁層、71 第5層、72 第6層、73 第3中間導体、100,100A トランス、200 トランス、300 トランス、C1,C2,C3,C4,C5,C6 容量。