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特開2025-8520粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法
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  • 特開-粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法 図1
  • 特開-粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法 図2
  • 特開-粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008520
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 11/00 20060101AFI20250109BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250109BHJP
   B05D 1/28 20060101ALI20250109BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B05C11/00
B05D7/24 301K
B05D1/28
B05D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110756
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】青山 敬
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC06
4D075AC09
4D075AC52
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC94
4D075AC95
4D075AC96
4D075CA47
4D075CA48
4D075DC19
4D075EA31
4F042AA06
4F042AB00
4F042BA02
4F042BA03
4F042BA04
4F042BA06
4F042BA12
4F042BA25
4F042CB02
4F042DC03
4F042DD21
4F042DH09
(57)【要約】
【課題】本開示は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法、特に粘性塗工材を一定の力で押圧したときに、押圧時の温度によって粘性塗工材と被塗工体との接触面積にばらつきが生じるのを抑えることができる塗工装置及び塗工方法を提供する。
【解決手段】本開示の塗工装置によって塗工される粘性塗工材は、被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものである。また、本開示の塗工装置は、温度計、塗工幅計算ユニット、塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを備える。本開示の塗工装置において、温度計は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定し、塗工幅計算ユニットは、測定された温度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定して、決定された塗工幅を塗工制御ユニットに出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置であって、
前記粘性塗工材は、前記被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものであり、
前記塗工装置は、温度計、塗工幅計算ユニット、塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを備え、
前記温度計は、周囲環境、前記粘性塗工材、及び前記被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定し、
前記塗工幅計算ユニットは、前記温度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定して、決定された前記塗工幅を前記塗工制御ユニットに出力し、
前記塗工制御ユニットは、前記塗工幅で前記粘性塗工材を塗工するようにして前記塗工ユニットを制御し、かつ
前記塗工ユニットは、前記塗工制御ユニットによる制御に基づいて、前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工する、
塗工装置。
【請求項2】
前記塗工幅計算ユニットは、前記温度、及び前記粘性塗工材のせん断速度と粘度との関係を示す近似式に基づいて、前記粘性塗工材が前記押圧部材によって押圧されて変形する際の前記粘性塗工材の粘度を算出し、前記粘度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定する、請求項1に記載の塗工装置。
【請求項3】
前記押圧部材が、自重によって前記粘性塗工材を押圧して変形させる、請求項1又は2に記載の塗工装置。
【請求項4】
前記粘性塗工材が、非ニュートン流体である、請求項1又は2に記載の塗工装置。
【請求項5】
前記粘性塗工材が、粘性熱伝導材であり、
前記被塗工体が、冷却器であり、かつ
前記押圧部材が、電池パックであり、その自重によって、前記粘性塗工材を押圧して変形させる、
請求項1又は2に記載の塗工装置。
【請求項6】
粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法であって、
前記粘性塗工材は、前記被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものであり、かつ
下記の工程を含む、塗工方法:
周囲環境、前記粘性塗工材、及び前記被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定すること、
前記温度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定すること、及び
前記塗工幅で前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工すること。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工し、そして
前記押圧部材が、自重によって前記粘性塗工材を押圧して変形させる、
粘性塗工材の塗工及び変形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工材を被塗工体に塗工する際に、各種パラメータに基づく制御を実行することによって、塗工材の塗工量を一定にすることが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、固化成分を含有する塗工液を塗工し、該塗工された塗工液が固化されることにより塗工膜を形成する塗工部と、前記塗工部に供給される前記塗工液の質量流量を測定する測定部と、所定の数式から算出される前記質量流量の基準値が格納されており、該基準値と前記測定部の測定結果とに基づいて前記塗工液の質量流量を変更させる制御部とを備えた塗工装置を開示している。
【0004】
特許文献2は、作業空間の温度等の外部要因が存在する場合であっても被制御量を目標範囲内に維持する塗工装置を開示している。
【0005】
特許文献3は、圧送装置により粘性塗工材を圧送しノズルの先端から吐出させて被塗工材に塗工するに当たり、前記ノズルの近傍において前記粘性塗工材の粘度を計測し、計測された粘度に基づいて当該粘性塗工材の塗工量を制御することを特徴とする粘性塗工材の塗工量制御方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-203050号公報
【特許文献2】特開2022-137290号公報
【特許文献3】特開平7-096240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、粘性塗工材を被塗工体に塗工し、その後で、この粘性塗工材を一定の力で押圧して変形させる場合、押圧時の温度によって接触面積にばらつきが生じるおそれがある。
【0008】
具体的には、例えば、電池パックを冷却するために、電池パックと冷却器の間に設置され、電池パックの熱を冷却器に伝える粘性熱伝導材が用いられることがある。この粘性熱伝導材を電池パックと冷却器の間に組み付ける際に、冷却器上に粘性熱伝導材を塗工したのちに、電池パックの自重による押圧荷重をかけて粘性熱伝導材を押し広げることで、電池パックと冷却器とを粘性熱伝導材を介して密着させる、という方法が採られることがある。粘性熱伝導材の熱伝導性能は、押圧荷重がかかったときの粘性熱伝導材の厚み、及び粘性熱伝導材と電池パック及び冷却器との接触面積の影響を受けるため、粘性熱伝導材の塗工時に、この厚みと接触面積のばらつきを抑えることが必要である。ところが、粘性熱伝導材の粘度は温度によって変化するため、この粘性熱伝導材を一定の力で押圧したときに、押圧時の温度によって接触面積にばらつきが生じるおそれがある。
【0009】
本開示は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法、特に粘性塗工材を一定の力で押圧したときに、押圧時の温度によって粘性塗工材と被塗工体との接触面積にばらつきが生じるのを抑えることができる塗工装置及び塗工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件開示者等は、以下の手段により上記課題を解決することができることを見出した。
〈態様1〉
粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置であって、
前記粘性塗工材は、前記被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものであり、
前記塗工装置は、温度計、塗工幅計算ユニット、塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを備え、
前記温度計は、周囲環境、前記粘性塗工材、及び前記被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定し、
前記塗工幅計算ユニットは、前記温度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定して、決定された前記塗工幅を前記塗工制御ユニットに出力し、
前記塗工制御ユニットは、前記塗工幅で前記粘性塗工材を塗工するようにして前記塗工ユニットを制御し、かつ
前記塗工ユニットは、前記塗工制御ユニットによる制御に基づいて、前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工する、
塗工装置。
〈態様2〉
前記塗工幅計算ユニットは、前記温度、及び前記粘性塗工材のせん断速度と粘度との関係を示す近似式に基づいて、前記粘性塗工材が前記押圧部材によって押圧されて変形する際の前記粘性塗工材の粘度を算出し、前記粘度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定する、態様1に記載の塗工装置。
〈態様3〉
前記押圧部材が、自重によって前記粘性塗工材を押圧して変形させる、態様1又は2に記載の塗工装置。
〈態様4〉
前記粘性塗工材が、非ニュートン流体である、態様1~3のいずれか一項に記載の塗工装置。
〈態様5〉
前記粘性塗工材が、粘性熱伝導材であり、
前記被塗工体が、冷却器であり、かつ
前記押圧部材が、電池パックであり、その自重によって、前記粘性塗工材を押圧して変形させる、
態様1~4のいずれか一項に記載の塗工装置。
〈態様6〉
粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法であって、
前記粘性塗工材は、前記被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものであり、かつ
下記の工程を含む、塗工方法:
周囲環境、前記粘性塗工材、及び前記被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定すること、
前記温度に応じて、前記粘性塗工材の塗工幅を決定すること、及び
前記塗工幅で前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工すること。
〈態様7〉
態様6に記載の方法によって前記粘性塗工材を前記被塗工体に塗工し、そして
前記押圧部材が、自重によって前記粘性塗工材を押圧して変形させる、
粘性塗工材の塗工及び変形方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置、及び粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法、特に粘性塗工材を一定の力で押圧したときに、押圧時の温度によって粘性塗工材と被塗工体との接触面積にばらつきが生じるのを抑えることができる塗工装置及び塗工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の塗工装置を示す概略図である。
図2図2は、20℃において、粘性塗工材としてBETATECH 2029を用いたときのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
図3図3は、各温度における粘性塗工材の塗工幅と接触面積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0014】
《粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置》
本開示の塗工装置は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置である。本開示の塗工装置によって塗工される粘性塗工材は、被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものである。また、本開示の塗工装置は、温度計、塗工幅計算ユニット、塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを備える。更に、本開示の塗工装置において、温度計は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定し、塗工幅計算ユニットは、測定された温度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定して、決定された塗工幅を塗工制御ユニットに出力し、塗工制御ユニットは、決定された塗工幅で粘性塗工材を塗工するようにして塗工ユニットを制御し、かつ塗工ユニットは、塗工制御ユニットによる制御に基づいて、粘性塗工材を被塗工体に塗工する。
【0015】
本件開示者等は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度によって粘性塗工材の粘度が変化し、それに伴って粘性塗工材の押圧性が変化するため、押圧後の粘性塗工材と被塗工体との接触面積にばらつきが生じるものと考えた。
【0016】
これに対して、本件開示者等は、粘性塗工材の粘度に影響を与える周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定して、その温度に応じて粘性塗工材の塗工幅を決定することで、粘性塗工材を一定の力で押圧したときに、押圧時の温度によって粘性塗工材と被塗工体との接触面積にばらつきが生じるのを抑えることができることを見出した。
【0017】
本開示の塗工装置は、粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工装置であって、粘性塗工材は、被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものである。
【0018】
粘性塗工材としては、粘性のある材料であれば特に限定されないが、非ニュートン流体であってもよい。非ニュートン流体としてはビンガム流体、擬塑性流体、及びダイラタント流体が挙げられるが、ビンガム流体、又は擬塑性流体であることが好ましい。
【0019】
粘性塗工材は、例えば、粘性熱伝導材であってよい。粘性熱伝導材は、熱可塑性樹脂と熱伝導成分とを含む組成物であってよい。熱可塑性樹脂、及び熱伝導成分の種類は特に限定されない。塗工された粘性熱伝導剤は電池パックを冷却するために用いることができる。
【0020】
被塗工体としては、特に限定されないが、例えば、本開示の塗工装置を電池パックの冷却に用いる粘性熱伝導材を塗工するために使用する場合、被塗工体は、冷却器であってよい。
【0021】
押圧部材としては、特に限定されないが、例えば、本開示の塗工装置を電池パックの冷却に用いる粘性熱伝導材を塗工するために使用する場合、押圧部材は、電池パックであってよい。
【0022】
押圧部材は、自重によって粘性塗工材を押圧してもよい。例えば、本開示の塗工装置を電池パックの冷却に用いる粘性熱伝導材を塗工するために使用する場合、押圧部材である電池パックの自重によって粘性塗工材を押圧すること、すなわち電池パックに対して圧力をかけないことは、電池パックの破損を防止する観点から好ましい。
【0023】
本開示の塗工装置の概略図を図1に示す。図1に示されるように、本開示の塗工装置は、温度計、塗工幅計算ユニット、塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを備えており、随意に材料押出ポンプを備えていてもよい。
【0024】
〈温度計〉
本開示の塗工装置が備える温度計は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定する。この温度としては、具体的には、粘性塗工材が被塗工体に塗工された後に押圧部材によって押圧される際の周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度が例示される。なお、図1においては、例示的に、外気温、すなわち周囲環境の温度を測定する温度計として図示している。
【0025】
温度計としては、上記温度を測定することができるものであれば特に限定されない。
【0026】
〈塗工幅計算ユニット〉
本開示の塗工装置が備える塗工幅計算ユニットは、温度計によって測定された温度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定して、決定された塗工幅を塗工制御ユニットに出力する。
【0027】
温度計によって測定された温度に応じて粘性塗工材の塗工幅を決定する方法としては、温度計から塗工幅計算ユニットに入力される情報に基づいて粘性塗工材の塗工幅を決定するものであれば特に限定されない。
【0028】
例えば、塗工幅計算ユニットは、温度計によって測定された温度、及び粘性塗工材のせん断速度と粘度との関係を示す近似式に基づいて、粘性塗工材が押圧部材によって押圧されて変形する際の粘性塗工材の粘度を算出し、算出された粘度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定してもよい。
【0029】
粘性塗工材が非ニュートン流体である場合、上記の近似式は、Carreau-Yasudaの非ニュートン流体の式(1)を用いて求めることができる。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、粘性塗工材の粘度は温度に依存するため、この近似式は温度に応じて変化する。また、粘性塗工材の種類によって、せん断速度と粘度との関係は異なる挙動を示す。例えば、図2は、20℃において、粘性塗工材としてBETATECH 2029を用いたときの近似式を示すグラフである。
【0032】
このようにして求められた近似式から、所定の温度における粘性塗工材の粘度を算出することができる。ここで、粘性塗工材のせん断速度は、押圧部材による粘性塗工材の押圧速度によって決まる。したがって、押圧部材による粘性塗工材の押圧速度に応じてせん断速度が決まり、上記の近似式から所定の温度における粘性塗工材の粘度を算出することができる。
【0033】
この粘性塗工材の粘度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定する方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の式(2)から、塗工幅を決定することができる。
【0034】
【数2】
【0035】
この式において、粘性塗工材の粘度については所定の温度において算出された値を用いることができ、押圧部材による押圧応力、及び押圧速度、並びに粘性塗工材の塗工長さ及び押圧後の粘性塗工材の厚みについては任意に決定した値を用いることができる。例えば、本開示の塗工装置を電池パックの冷却に用いる粘性熱伝導材を塗工するために使用する場合、押圧応力及び押圧速度は、押圧部材、すなわち電池パックの重さによって決まり、粘性塗工材の塗工長さ、及び押圧後の粘性塗工材の厚みは、熱伝導材が所望の特性を示す接触面積、及び厚みとなるように決定することができる。
【0036】
なお、図1においては、塗布幅計算ユニットに入力される情報として、例示的に、粘性塗工材の厚み、押圧部材による押圧速度、押圧部材による押圧圧力、粘性塗工材の粘度、及び温度を記載しているが、上記式(2)に基づいて塗布幅を決定する場合、更に、粘性塗工材の塗工長さに関する情報を入力することができる。
【0037】
塗工幅計算ユニットは、決定された塗工幅を、塗工制御ユニットに出力する。
【0038】
〈塗工制御ユニット〉
本開示の塗工装置が備える塗工制御ユニットは、塗工幅計算ユニットで決定された塗工幅で粘性塗工材を塗工するようにして塗工ユニットを制御する。
【0039】
塗工制御ユニットは、粘性塗工材の塗工幅に加えて、塗工速度、及び塗工パターンを制御してもよい。
【0040】
〈塗工ユニット〉
本開示の塗工装置が備える塗工ユニットは、塗工制御ユニットによる制御に基づいて、粘性塗工材を被塗工体に塗工する。
【0041】
塗工ユニットはノズルであってもよく、図1においては、塗工ユニットを塗工ノズルとして示している。また、図1に示されるように、塗工ユニットは粘性塗工材を押し出すためのポンプを備えていてもよい。
【0042】
《粘性塗工材を被塗工体に塗工するための塗工方法》
粘性塗工材を被塗工体に塗工する本開示の方法において、粘性塗工材は、被塗工体に塗工された後で、押圧部材によって押圧されて変形させられるものである。また、本開示の方法は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定すること、測定された温度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定すること、及び決定された塗工幅で粘性塗工材を被塗工体に塗工することを含む。
【0043】
〈温度測定工程〉
本開示の方法は、周囲環境、粘性塗工材、及び被塗工体の温度の少なくとも1つの温度を測定することを含む。この温度を測定するために、本開示の温度計を用いることができる。この温度計については、本開示の温度計に関する上記の記載を参照できる。
【0044】
〈塗工幅決定工程〉
本開示の方法は、温度測定工程で測定された温度に応じて、粘性塗工材の塗工幅を決定することを含む。この塗工幅を決定するために、本開示の塗工幅計算ユニットを用いることができる。この塗工幅計算ユニットについては、本開示の塗工幅計算ユニットに関する上記の記載を参照できる。
【0045】
〈塗工工程〉
本開示の方法は、塗工幅決定工程で決定された塗工幅で粘性塗工材を被塗工体に塗工することを含む。この塗工幅で粘性塗工材を被塗工体に塗工するために、本開示の塗工制御ユニット、及び塗工ユニットを用いることができる。具体的には、本開示の塗工制御ユニットが、決定された塗工幅で粘性塗工材を被塗工体に塗工するようにして塗工ユニットを制御することができる。この塗工制御ユニットについては、本開示の塗工制御ユニットに関する上記の記載を参照でき、塗工ユニットについては、本開示の塗工ユニットに関する上記の記載を参照できる。
【0046】
《粘性塗工材の塗工及び変形方法》
粘性塗工材を塗工及び変形する本開示の方法は、本開示の方法によって粘性塗工材を被塗工体に塗工し、そして押圧部材が、自重によって粘性塗工材を押圧して変形させるものである。例えば、本開示の方法を電池パックの冷却に用いる粘性熱伝導材を塗工するために使用する場合、押圧部材である電池パックの自重によって粘性塗工材を押圧すること、すなわち電池パックに対して圧力をかけないことは、電池パックの破損を防止する観点から好ましい。
【実施例0047】
粘性塗工材としてのBETATECH 2029を被塗工体に塗工した。塗工に際してのパラメータは以下の通りとした。
周囲環境の温度:20℃又は10℃
押圧部材による押圧速度:10mm/min
押圧部材による押圧応力:0.004MPa
押圧後の粘性塗工材の厚み:1mm
粘性塗工材の塗工長さ:800mm
【0048】
各温度における粘性塗工材の粘度は、図2に示す近似式、及び温度を10℃とした場合における同様の近似式に基づいて算出した。
【0049】
図3は、各温度における粘性塗工材の塗工幅と接触面積との関係を示すグラフである。粘性塗工材の粘度は温度に依存するため、図3に示されるように、各温度における塗工幅と接触面積との関係には違いがあった。すなわち、例えば、目標接触面積を60%以上とした場合に、周囲環境の温度が20℃では塗工幅を10mm超とする必要があり、周囲環境の温度が10℃では塗工幅を14mm超とする必要があることがわかった。
図1
図2
図3