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  • 特開-混合溶剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008523
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】混合溶剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/54 20060101AFI20250109BHJP
   C09K 23/42 20220101ALI20250109BHJP
   C10N 40/18 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C10M105/54
C09K23/42
C10N40:18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110761
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】菊地 秀明
【テーマコード(参考)】
4D077
4H104
【Fターム(参考)】
4D077AA01
4D077DC15X
4D077DC15Y
4D077DC19X
4D077DC19Y
4D077DC72X
4D077DC72Y
4H104BD05A
4H104PA16
(57)【要約】
【課題】
本発明の課題は、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルからなる溶媒の性状を改変することにある。
【解決手段】
1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルに水を加えることで、溶媒としての性状を変更する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルと、水とからなる混合溶剤組成物。
【請求項2】
水の含有量が、組成物全体の10重量ppm以上800重量ppm未満である、請求項1に記載の混合溶剤組成物。
【請求項3】
ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を溶解するための請求項1または2に記載の混合溶剤組成物。
【請求項4】
ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が、式(1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の混合溶剤組成物。
【化1】
(式中、R1及びR2は、炭素、水素及びフッ素からなる直鎖の2価基であり、nは1以上の整数である。)
【請求項5】
1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、水並びにヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む組成物。
【請求項6】
磁気記録媒体用潤滑剤である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が、式(1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項5または6に記載の組成物。
【化2】
(式中、R1及びR2は、炭素、水素及びフッ素からなる直鎖の2価基であり、nは1以上の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合溶剤組成物に関し、特にパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物の溶解性に優れた溶剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物(たとえば、Solvay社製のZ-tetraol(登録商標))は、安定性が高く、電気絶縁性に優れ、また表面エネルギーが小さいなど種々の特性を持ち、ハードディスクのような表面平滑性が高い磁気記録媒体用の潤滑剤などに用いられている。
【0003】
一方でパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物は、その構造の特異性により、一般的な有機溶剤には溶解しづらく、クロロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類等のフッ素系溶剤が溶媒として使用されてきた。
しかしながら、これらのフッ素系溶剤は、環境への影響が大きく、その使用が制限されつつある。
【0004】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を溶解する、比較的環境への影響が小さいフッ素系溶剤として、ハイドロフルオロエーテル類の使用が提案されている。たとえば、特許文献1では、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を溶解するためという特定の目的に特化して、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルを含む組成物が開示されている。また、特許文献2では、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルをフッ素オイルと共に使用した溶剤用組成物などが開示されている。
【0005】
これらに記載の組成物はパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物の溶剤として一定の効果を有するものであるが、特定の構造を有するパーフルオロポリエーテル化合物の溶解には十分といえるものではない。特に、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物がさらにヒドロキシ基を含むとき、より高濃度で溶解できる溶剤が求められていた。
【0006】
さらに、溶剤組成物に関し、簡単な手法で、溶質の溶解度を高めることができれば、当該溶剤組成物の利用可能性が広がることにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第7128418号公報
【特許文献2】特許第7068598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(以下、HFPMEという)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(以下、HFIPMEという)またはそれらの混合物を用い、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物やある種の化合物をより高濃度で溶解できる溶剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、HFPMEおよび/またはHFIPMEを溶剤として用いたとき、驚くべきことにさらに水を添加することで溶解度パラメータ(以下、SP値という)が向上し、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物やある種の化合物との相溶性が大きくなること、すなわちヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物やある種の化合物の溶解度が上がることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の点を特徴とする。
[1]1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルと、水とからなる混合溶剤組成物。
[2]水の含有量が、組成物全体の10重量ppm以上800重量ppm未満である、[1]の混合溶剤組成物。
[3]ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を溶解するための[1]または[2]の混合溶剤組成物。
[4]ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が、式(1)で表される化合物であることを特徴とする、[3]の混合溶剤組成物。
【化1】
(式中、R1及びR2は、炭素、水素及びフッ素からなる直鎖の2価基であり、nは1以上の整数である。)
[5]1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテルおよび/または1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル、水並びにヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物を含む組成物。
[6]磁気記録媒体用潤滑剤である、[5]の組成物。
[7]ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物が、式(1)で表される化合物であることを特徴とする、[5]または[6]の組成物。
【化2】
(式中、R1及びR2は、炭素、水素及びフッ素からなる直鎖の2価基であり、nは1以上の整数である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物の溶剤に適した組成物を提供することができる。また本発明によれば、特に磁気記録媒体用潤滑剤として好適な組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】HFPMEへの水の添加量とSP値との相関を示すグラフである。
図2】HFIPMEへの水の添加量とSP値との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の混合溶剤組成物は、HFPME、HFIPMEまたはそれらの混合物と、水とから成る。
HFPME及びHFIPMEは、前述のようにハイドロフルオロエーテル類として知られている化合物である。本発明の目的で使用する際には、市販のものも使用できるし、また、本発明の目的や他の目的で使用したものから蒸留等で回収したものを使用することもできる。
HFPMEは、HFE-356mecともよばれ、以下の構造を有する。
【化3】
なおHFPMEとして、特定の光学異性体を使用することもできるが、その混合物を使用することもできる。
HFIPMEは、HFE-356mmzともよばれ、以下の構造を有する。
【化4】
【0015】
本発明の混合溶剤組成物に必須の成分として含まれる水の種類としては特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、濾過水、水道水、その他市販の純水生成機等で得られる超純水等の精製水等を使用することができる。水は酸や塩基または塩類などが検出限界以下まで低減されていることが好ましい。
本発明の混合溶剤組成物に含まれる水のpHは、6以上8以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の混合溶剤組成物に含まれる水の量は、10重量ppm以上800重量ppm未満であることが好ましい。10重量ppm以上とすることで、後記するSP値を大きくする効果が見られ、800重量ppm未満とすることで、HFPME及びHFIPMEの少なくとも一方と水とを均一に混合することができる。
水の添加量は、例えばカールフィッシャー法など従来公知の方法で測定できる。
【0017】
SP値とは、Hildebrandらによって提唱された公知(後記する、日本接着学会誌(Vol.53,No.4,129)など)のパラメータであり、下記の数式で定義される。
δ=(E/V)1/2
【0018】
ここで、δはSP値、Eは蒸発エネルギー、Vはモル容積である。
溶質及び溶媒のSP値が近しいほど溶解度が大きくなることが、広く当業者に知られて
いる。
【0019】
ところで、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物は、SP値が比較的小さいことが知られている。そして、一般にHFPMEやHFIPME等のフッ素系溶剤もSP値が比較的小さいことが知られている。
両者のSP値の観点から、前述した特許文献に記載されているように、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物のための溶剤として、HFPMEやHFIPME等のフッ素系溶剤が適切なことは理解できる。
ここで、パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物がヒドロキシ基を含むと、そのSP値が大きくなってしまう。そのため、そのような化合物のSP値とHFPMEやHFIPME等のフッ素系溶剤のSP値との差が大きくなってしまうため、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物のための溶剤としては、HFPMEやHFIPME等のフッ素系溶剤は適切なものではなくなってしまうという問題が発生していた。
今般、本発明者らによって、HFPMEやHFIPMEに僅かな量の水を添加することで、それらのSP値が大きくなることがはじめて見出された。
【0020】
HFPMEやHFIPMEに水を加えることで、HFPMEやHFIPMEのSP値を大きな値に変えることをとおして、HFPMEやHFIPMEを、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物など従来は溶解に適切ではないとされていた化合物の溶解のための溶剤として好適に用いることができるようになることは、HFPMEやHFIPMEの溶剤としての用途を広げる点で技術的に大きな意味のあることである。
【0021】
ここで、上記したパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物のパーフルオロポリエーテル構造とは、直鎖構造であっても分岐構造であっても良い。構成単位としては特に限定されないが、例えばパーフルオロメチルエーテル、パーフルオロエチルエーテル、パーフルオロプロピルエーテル、パーフルオロブチルエーテル、パーフルオロペンチルエーテル、パーフルオロヘキシルエーテル、パーフルオロ(メチル)エチルエーテル、及びこれらから選ばれる2種以上の組み合わせからなる構造が好ましい。
【0022】
パーフルオロポリエーテル構造を有する化合物に含まれるヒドロキシ基の数は特に限定されず、1個以上であればよく、2個以上含むことがより好ましい。
【0023】
本発明において、ヒドロキシ基を含むパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物としては、下記式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0024】
【化5】
(式中、R1及びR2は、炭素、水素及びフッ素からなる直鎖の2価基であり、nは1以上の整数である。)
【0025】
式(1)で表される化合物は、磁気記録媒体用潤滑剤として用いられており、本発明の混合溶剤組成物はこれらの化合物へ好適に使用される。
式(1)で表される磁気記録媒体用潤滑剤として、MORESCO社製D-4OHが市販されている。
日本接着学会誌(Vol.53,No.4,129)に記載された方法に準じて当該化合物のSP値を推定すると、7.5(cal/cm3(1/2)程度であると予想される。
【0026】
また、同様に、以下の化合物、溶剤に対して、そのSP値の観点から、上記式(1)で表される化合物に対するのと同様に、本発明の混合溶剤組成物が好適に使用される。化合物に併せて、それぞれのSP値を示す。
・ジアミルエーテル:7.3
・イソプレン:7.4
・シェルTS28溶剤:7.4
・四塩化ケイ素:7.4
・トリエチルアミン:7.4
・ヘキセン-1:7.4
・n-へプタン:7.4
・ジエチルエーテル:7.4
・n-へプタン:7.4
・エチルイソブチルエーテル:7.5
・APCO#18溶剤:7.5
・ステアリン酸ブチル:7.5
・n-オクタン:7.5
【実施例0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0028】
(水の添加によるHFPMEのSP値上昇)
HFPMEについて、水の添加によるSP値を算出した。SP値の算出は、下記式を用いた。
δ=(E/V)1/2
【0029】
ここで、δはSP値、Eは蒸発エネルギー、Vはモル容積である。結果を表1及び図1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
(水の添加によるHFIPMEのSP値上昇)
HFIPMEについても同様に、水の添加によるSP値を算出した。結果を表2及び図2に示す。
【0032】
【表2】
(水の添加によるHFPME及びHFIPME混合溶媒のSP値上昇)
HFPMEとHFIPMEとの1:1混合物についても同様に、水の添加によるSP値を算出した。結果を表3に示す。
【表3】
【0033】
表1及び図1、表2及び図2並びに表3が示すように、HFPMEまたはHFIPMEに積極的に水を添加することで、SP値が大きな値になる。
前述のとおり、溶質と溶媒とのSP値が近いとき、溶質の溶解度が大きくなることが知られているところ、
【化6】
のSP値は、7.5(cal/cm3(1/2)程度と推察されるので、水の添加によってHFPMEまたはHFIPMEのSP値の上昇を確認できたということは、水を含むHFPMEまたはHFIPMEが、水を含まないHFPMEまたはHFIPMEよりも、上記化合物用の溶媒として適していることを意味している。
【0034】
また同様の観点から、本発明の混合溶剤組成物は、上記した化合物の溶解に適しているともいうことができる。
図1
図2