(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008568
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】酸性ガス分離回収システムおよび酸性ガス分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/56 20060101AFI20250109BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20250109BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20250109BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B01D53/56 ZAB
B01D53/62
B01D53/82
B01D53/14 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110830
(22)【出願日】2023-07-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、環境配慮型CCUS一貫実証拠点・サプライチェーン構築事業「固体吸収剤による分離回収技術実証」委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】沼口 遼平
(72)【発明者】
【氏名】奥村 雄志
(72)【発明者】
【氏名】西部 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】成相 俊文
(72)【発明者】
【氏名】原 祐太郎
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA02
4D002AA09
4D002AA12
4D002AA17
4D002AA19
4D002AB01
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4D002BA03
4D002BA04
4D002BA06
4D002CA07
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4D020BA01
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4D020BA16
4D020BA30
4D020BB01
4D020CA05
4D020CC21
4D020CD03
4D020DA03
4D020DB03
4D020DB20
(57)【要約】
【課題】本開示は、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムおよび方法を提供する。
【解決手段】酸性ガス分離回収システムは、排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、63.7ppm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、63.7ppm以下である、酸性ガス分離回収システム。
【請求項2】
前記NOx除去設備は、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記排ガス中のNOxを除去する、請求項1に記載の酸性ガス分離回収システム。
【請求項3】
前記NOx除去設備で用いられる前記固体吸収材は、前記二酸化炭素分離回収設備において二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含む、請求項2に記載の酸性ガス分離回収システム。
【請求項4】
排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度が、63.7ppm以下である、酸性ガス分離回収方法。
【請求項5】
NOxの除去では、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記排ガス中のNOxを除去する、請求項4に記載の酸性ガス分離回収方法。
【請求項6】
NOxの除去で用いられる前記固体吸収材は、前記二酸化炭素を分離回収する際において、二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含む、請求項5に記載の酸性ガス分離回収方法。
【請求項7】
排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素分離回収設備から排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている、酸性ガス分離回収システム。
【請求項8】
前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が前記二酸化炭素分離回収設備の運転時間が8000時間となるまで1μg/m3以下を維持できる濃度以下に設定されている、請求項7に記載の酸性ガス分離回収システム。
【請求項9】
排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素の分離回収後に排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている、酸性ガス分離回収方法。
【請求項10】
前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が、二酸化炭素を分離回収する合計時間が8000時間となるまで1μg/m3以下を維持できる濃度以下に設定されている、請求項9に記載の酸性ガス分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いる酸性ガス分離回収システムおよび酸性ガス分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、製鉄所の高炉、ボイラー等の燃焼設備からの排ガスからの酸性ガス、特に二酸化炭素の分離回収は、地球温暖化対策として重要な技術である。そのため、現在、排ガス中に含有される二酸化炭素を吸収するアミン吸収液法が実用化されている。近年、さらなる次世代の技術として、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材(アミン溶液が多孔質基材の細孔表面に塗布された固体吸収材、以下単に「固体吸収材」とも称する)を用いた二酸化炭素分離回収プロセスが注目されている。固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスによると、低温の排熱(各種製造業、発電所等から不可避的に生じる100℃以下の一般的には有効に利用できない低温の熱エネルギー等)を用いて二酸化炭素を脱着させることができる。そのため、低コストかつ省エネルギーで二酸化炭素を効率よく分離回収することができる。
【0003】
一方、一般的に、燃焼設備からの排ガスは、排出基準を満たすように、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、HCl等の酸性ガス濃度を基準値以下まで除去した後、大気放出され得る。例えば、環境省によると、廃棄物焼却炉(排ガス量が4万Nm3/h以上の焼却炉)から排出されるNOxの排出基準値は、250ppmに設定されている。また、石炭燃焼ボイラー(20万m3N以上のボイラー)のNOxの排出基準値は、200ppm~250ppmに設定されている。このように、NOxの排出濃度は、概ね100ppmを超える値が許容されている。
【0004】
NOxは、アミンと反応することによって発がん性の高い物質であるニトロソアミンを生成することが知られている(非特許文献1参照)。日本ではニトロソアミンの曝露濃度に関する規制は策定されていないが、例えば、ドイツではニトロソアミンの作業環境における曝露濃度の規制は既に設けられている。ドイツでのニトロソアミンの作業環境における曝露濃度の上限は、1μg/m3とされている。そのため、将来的に日本においても環境面への配慮から曝露濃度が規制されることが当然想定される。
【0005】
ここで、アミン吸収液法によって排ガス中の二酸化炭素を吸収する場合、溶媒である多量の水へ排ガス中のNOxが吸収され、強酸(硝酸および亜硝酸)が生じ、当該強酸が二酸化炭素(弱酸)よりも優先的にアミンと反応する。その結果、吸収液中のアミンが酸化し、生成したニトロソアミンが吸収液中に溶け込んでしまう。その後、生成したニトロソアミンは、設備の運転中に発生するミストに帯同したり、または吸収液から揮発することによって、容易に系外に排出され、最終的に周囲の環境を汚染するおそれがある。
【0006】
特許文献1には、二酸化炭素吸収液(アミン吸収液)の劣化の抑制のために、二酸化炭素回収装置の前処理装置として脱硝装置等をさらに設置した排ガス処理装置が開示されている。このような排ガス処理装置によると、アミン吸収液の劣化の抑制だけでなく、ニトロソアミンの系外への排出も抑制できることが想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】青山充教、“N-ニトロソアミン(TRGS 552による規制とその対応)”、日本ゴム協会誌、第83巻、第8号、2010年、p.25~28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスでは、固体吸収材自体が有する含水量が少ない。そのため、前述したようなアミン吸収液法と同様のメカニズムによって、強酸(硝酸および亜硝酸)が生じるか否か、さらには強酸との反応によりニトロソアミンが発生するか否かを予測することは困難である。また、現在までに、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスにおいて、排出されたガス中にニトロソアミンが検出されたとの報告もない。
【0010】
後の実施例で詳細に述べるが、本発明者らが固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備から排出される排出ガスを調べたところ、2種類のニトロソアミンが不明確なメカニズムによって生成されていることが分かった。
【0011】
一方、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備を実際のプラントで稼働させる場合、二酸化炭素やNOxだけでなく、酸素および他の様々な気体も混在した状態の排ガスが設備内に供給される。従って、長期間使用した固体吸収材は酸化等によって劣化するため、固体吸収材は一定期間毎に修理または交換する必要がある。一般的に、固体吸収材の修理交換期間は、当該二酸化炭素分離回収設備が併設されるプラントでの燃焼設備の種類によって異なる。しかし、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には約1年間、運転期間としては約8000時間、残りの期間は点検期間)までの間において、ニトロソアミンが地上へ拡散される量を僅かな量に抑制することができれば好ましい。
【0012】
そこで、本開示は、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムは、排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、63.7ppm以下である。
【0014】
あるいは、本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムは、排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素分離回収設備から排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている。
【0015】
本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法は、排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度が、63.7ppm以下である。
【0016】
あるいは、本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法は、排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素の分離回収後に排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムおよび方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態1における酸性ガス分離回収システムの概略図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における二酸化炭素分離回収設備の構成の一例の概略図である。
【
図3】
図3は、実施形態1における二酸化炭素分離回収設備の構成の別の例の概略図である。
【
図4】
図4は、実施形態2における酸性ガス分離回収システムの概略図である。
【
図5】
図5は、実施例における固相抽出法によるガス中の微量成分捕集機構を説明するための概略図である。
【
図6】
図6は、実施例における液相抽出法によるガス中の微量成分捕集機構を説明するための概略図である。
【
図7】
図7は、実施例におけるジエタノールアミンおよびNDEAの蒸気圧曲線を示すグラフである。
【
図8】
図8は、NOx濃度を10ppm、40ppm、63.7ppmまたは150ppmに設定した場合におけるニトロソアミン排出濃度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
後の実施例で詳細に述べるように、本発明者らは、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備から排出されるガス中に、周囲環境に影響を及ぼす化合物が排出されるか否かを検証した。その結果、2種類のニトロソアミンが不明確なメカニズムによって生成されており、排出ガス中に含まれていることを検出および同定した。
【0020】
本明細書において、「排ガス」とは、二酸化炭素およびNOxを含有するガスであれば、特に限定されない。このようなガスとしては、例えば、石炭、重油、天然ガス等を燃料とする火力発電所、コークスで酸化鉄を還元する製鉄所の高炉、銑鉄中の炭素を燃焼して製鋼する製鉄所の転炉、各種製造所におけるボイラー等の燃焼設備から排出されるガス、ガソリン、重油、軽油等を燃料とする自動車、船舶、航空機等の輸送機器から排出されるガス等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「NOx」とは、高温で物質が燃えるときに発生する窒素の酸化物を意味し、NO、NO2、N2O、N2O3等が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「処理対象ガス」とは、排ガスから少なくともNOxが一部または全部除去され、当該処理対象ガス中のNOx濃度が63.7ppm以下となっており、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスの処理の対象となるガスを意味する。処理対象ガス中の二酸化炭素含有量および温度は、処理対象ガスが固体吸収材と接触した際に二酸化炭素を吸収可能な条件であれば、特に限定されない。例えば、二酸化炭素分圧が1kPa以上であり、温度が20℃~60℃であればよい。
【0023】
本明細書において、「排出ガス」とは、処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着した後、二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)から排出される微量のニトロソアミンを含み得るガスを意味する。排出ガスは、その後大気拡散し、地上に到達する。
【0024】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0025】
1.酸性ガス分離回収システム
本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムの実施形態について、以下説明する。
【0026】
(実施形態1)
図1に、実施形態1における酸性ガス分離回収システムの概略図を示す。
図1に示すように、酸性ガス分離回収システム10は、NOx除去設備1と、固体吸収材を用いて二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備2とを備える。
【0027】
図1に示す通り、NOx除去設備1は、発電所、高炉、ボイラー等の燃焼設備10Aから放出された排ガス中のNOxを除去する。排ガスは、燃焼設備10Aから排ガス供給ラインL0を通ってNOx除去設備1に供給される。
【0028】
NOx除去設備1は、当該NOx除去設備1の後流側に設置されている二酸化炭素分離回収設備2へ供給される処理対象ガス中のNOx濃度を、63.7ppm以下まで低下させる。処理対象ガス中のNOx濃度が63.7ppm以下であると、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には、約1年間、運転期間としては約8000時間)までの間に、後述する二酸化炭素分離回収設備2からニトロソアミンが地上へ拡散される量を、極めて僅かな量に抑制することができる(具体的には、拡散後の地上でのニトロソアミンの最大着地濃度(以下、単に「ニトロソアミンの最大着地濃度」とも称する)を1μg/m3以下(N-ニトロソジエタノールアミンのモル組成にて0.167ppb以下)にすることができる。)。なお、処理対象ガス中のNOx濃度の上限値63.7ppmの算出方法は、後の実施例で詳細に述べる。
【0029】
二酸化炭素分離回収設備2へ供給される処理対象ガス中のNOx濃度は、ニトロソアミンの地上への拡散によるリスクをより厳しく検討するため、60ppm以下であることが好ましく、55ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましく、47ppm以下であることが特に好ましく、45ppm以下であることがよりさらに好ましい。また、後の実施例で詳細に述べるように、このNOx濃度は、地上へ拡散されるニトロソアミンがN-ニトロソジエタノールアミン(以下、「NDEA」とも称する)である場合を想定した濃度である。ニトロソアミンの揮発性は、その種類によって異なる。そのため、発生するニトロソアミンの揮発性に応じて、このような処理対象ガス中の許容されるNOx濃度の最大値は適宜調整してもよい。さらに、固体吸収材の交換期間は、当該二酸化炭素分離回収設備が併設される燃焼設備の種類によって異なる。そのため、燃焼設備の種類に応じて、このような処理対象ガス中の許容されるNOx濃度の最大値を適宜調整することもできる。
【0030】
なお、本明細書において、「(ガス中の)NOx濃度」とは、JIS B 7953:2004の「大気中の窒素酸化物自動計測器」に規定されている、化学発光方式による自動計測器によって測定される大気中の窒素酸化物の濃度とする。
【0031】
このようなNOx除去設備1は、当業者に公知の任意の脱硝設備であれば特に限定されない。例えば、NOx除去設備1は、後述する二酸化炭素分離回収設備2と同様に、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて排ガス中のNOxを除去する設備であってもよい。NOx除去設備1がこのような固体吸収材を用いた設備であると、処理対象ガス中のNOx濃度を前述したような極めて低濃度まで容易に下げることができる。
【0032】
さらに、このような場合、後述する二酸化炭素分離回収設備2の固体吸収材で用いられるアミンの種類と、NOx除去設備1の固体吸収材で用いられるアミンの種類が同じであることが好ましい。同じ種類のアミンを用いることによって、二酸化炭素分離回収設備2で用いられるアミンとは異なる種類のアミンがNOx除去設備1から入り込んでしまい、二酸化炭素の吸着および脱着に何らかの影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0033】
また、NOx除去設備1で用いられる固体吸収材は、後述する二酸化炭素分離回収設備2において二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含むことがより好ましい。すなわち、NOx除去設備1の固体吸収材として、後述する二酸化炭素分離回収設備2において既に一定期間使用された固体吸収材の一部または全部を再利用することが好ましい。NOxは、二酸化炭素よりもアミンとの結合性が強い。そのため、二酸化炭素分離回収のために既に一定期間(例えば、一般的な交換期間である1年間~3年間程度)使用された固体吸収材を用いても、十分量のNOxを除去することができる。このように、NOx除去設備1において、固体吸収材が再利用されることによって、環境面において好適な酸性ガス分離回収システム10を低コストで実現することができる。
【0034】
あるいは、NOx除去設備1は、当業者に公知である任意の方法が適用された一般的な脱硝装置であってもよい。このようなNOx除去設備1としては、例えば、アンモニア選択接触還元法、排煙脱硝法、無触媒選択還元法等が適用された脱硝装置等が挙げられる。
【0035】
図1に示す通り、二酸化炭素分離回収設備2は、NOx除去設備1のガス流れの後流側に設置されており、NOx除去設備1から処理対象ガス供給ラインL1を通って処理対象ガスが供給される。その後、二酸化炭素分離回収設備2によって処理対象ガス中の二酸化炭素が分離回収される。分離回収後の排ガスは、二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2を通って二酸化炭素フリー排ガスとして排出される。同時に、処理対象ガス中の二酸化炭素は回収される(図示せず)。
【0036】
二酸化炭素分離回収設備2は、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着可能な設備であればどのような構成であってもよい。
【0037】
このような二酸化炭素分離回収設備2の構成としては、特に限定されないが、例えば、以下のような構成を挙げることができる。
【0038】
図2に、実施形態1における二酸化炭素分離回収設備の構成の一例の概略図を示す。
図2の二酸化炭素分離回収設備2は、固体吸収材が、吸着塔、再生塔および乾燥塔の順に移送される移動層方式の二酸化炭素分離回収設備2である。固体吸着材は、コンベヤ等により乾燥塔から吸着塔へ戻される。なお、吸着塔、再生塔および乾燥塔の構成は、
図2に示す構成から適宜変更してもよい。
【0039】
吸着塔では、処理対象ガス供給ラインL1を通って供給された処理対象ガスが、吸着塔に充填されている固体吸収材と接触する。その結果、処理対象ガス中の二酸化炭素が固体吸収材に吸着除去される。そのため、二酸化炭素が除去された二酸化炭素フリー排ガスが、吸着塔から二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2を通って排出される。二酸化炭素吸着後の固体吸収材は、再生塔へ移送される。
【0040】
再生塔では、移送された二酸化炭素吸着後の固体吸収材が、蒸気供給ラインL3を通って供給される蒸気と接触する。蒸気の温度は、特に限定されないが、例えば60℃以上である。その結果、固体吸収材から二酸化炭素が脱着し、二酸化炭素ガスが、再生塔から二酸化炭素排出ラインL4を通って排出される。蒸気が付着した固体吸収材は、乾燥塔へ移送される。
【0041】
乾燥塔では、移送された蒸気が付着した固体吸収材が、乾燥空気供給ラインL5を通って供給される乾燥空気と接触する。その結果、固体吸収材に付着した水分等が蒸発し、蒸発に由来する水蒸気、乾燥ガス等が、水分含有空気排出ラインL6を通って排出される。乾燥後の固体吸収材は、吸着塔へ戻される。
【0042】
さらに、
図3に、実施形態1における二酸化炭素分離回収設備の構成の別の例の概略図を示す。
図3に示す二酸化炭素分離回収設備2では、固体吸収材が充填された1つのタンクが、吸収工程、再生工程および乾燥工程毎に、それぞれ前述した吸着塔、再生塔および乾燥塔として機能する。そして、このような吸収工程、再生工程および乾燥工程の3つの工程が周期的に繰り返される。すなわち、
図3の二酸化炭素分離回収設備2は、固定層方式の二酸化炭素分離回収設備となっている。
【0043】
図3に示す二酸化炭素分離回収設備2では、固体吸収材が充填されたタンクの個数は1つであるが、タンクの個数は2つ以上であってもよい。タンクの個数が2つ以上である場合、連続的な処理が可能である。
【0044】
図3に示すように、二酸化炭素分離回収設備2のタンクに、処理対象ガス、蒸気および乾燥空気の各々が、処理対象ガス供給ラインL1、蒸気供給ラインL3および乾燥空気供給ラインL5の各々から供給可能となるように供給ラインが構成されている。さらに、二酸化炭素フリー排ガス、二酸化炭素および水分含有空気の各々が、二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2、二酸化炭素排出ラインL4および水分含有空気排出ラインL6の各々から排出可能となるように排出ラインが構成されている。ただし、これらの供給ラインおよび排出ラインには、それぞれ開閉弁が設けられている。
【0045】
詳細には、吸収工程では、処理対象ガスが、処理対象ガス供給ラインL1を通ってタンクに供給され、タンク内に充填されている固体吸収材と接触する。その結果、処理対象ガス中の二酸化炭素が固体吸収材に吸着される。そのため、二酸化炭素が除去された二酸化炭素フリー排ガスが、二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2を通って排出される。吸収工程では、処理対象ガス供給ラインL1および二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2以外の開閉弁は閉じている。
【0046】
次いで、再生工程では、蒸気が蒸気供給ラインL3を通って供給され、二酸化炭素吸着後の固体吸収材と接触する。その結果、蒸気の熱によって固体吸収材から二酸化炭素が脱着し、二酸化炭素ガスが二酸化炭素排出ラインL4を通って排出およびその後回収される。再生工程では、蒸気供給ラインL3および二酸化炭素排出ラインL4以外の開閉弁は閉じている。
【0047】
最後に、乾燥工程では、低温の乾燥空気が乾燥空気供給ラインL5を通って供給され、蒸気が付着した固体吸収材と接触する。その結果、固体吸収材に付着した水分等が蒸発し、蒸発に由来する水蒸気を含む乾燥空気が、水分含有空気排出ラインL6を通って排出される。乾燥工程では、乾燥空気供給ラインL5および水分含有空気排出ラインL6以外の開閉弁は閉じている。
【0048】
次いで、二酸化炭素分離回収設備2で用いられる、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材の構成を以下簡単に説明する。
【0049】
多孔質基材の種類は、特に限定されない。多孔質基材は、後述するアミンを担持することができ、かつ、二酸化炭素を吸着および脱着可能な多数の細孔を有する当業者に公知の任意の材料からなる基材を用いることができる。
【0050】
具体的には、多孔質基材としては、例えば、シリカゲルまたはメソポーラスシリカ等のシリカ、活性アルミナ等のアルミナ、ゼオライト、チタニア、ジルコニア、マグネシア、活性炭、金属有機構造体(MOF)等が挙げられる。これらの材料が粉末形状である場合は、適宜バインダーを用いて造粒して、多孔質基材として用いてもよい。
【0051】
アミンの種類も特に限定されず、当業者に公知の任意の多孔質基材に担持でき、かつ二酸化炭素を吸着および脱着可能なアミン類、ポリアミン類を用いることができる。アミンの種類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリエチレンイミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。アミンは、1種のアミンを用いてもよいが、2種以上のアミンを組み合わせて用いてもよい。
【0052】
固体吸収材の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法によって製造することができる。
【0053】
まず、前述したアミンを溶媒に溶かし、アミン吸収材溶液を調製する。アミン吸収材溶液中のアミンの濃度は、特に限定されないが、使用されるアミンの種類に応じて、5質量%以上70質量%以下の範囲の適切な値に調整すればよい。
【0054】
次いで、アミン吸収材溶液を湛えた浸漬容器に多孔質基材(例えば前述の多孔質粒子)を投入し、多孔質基材にアミン吸収材溶液を含浸させる。浸漬時間は、細孔内部が十分に脱気される時間であれば、特に限定されない。例えば、浸漬時間は、24時間とすることができる。
【0055】
その後、多孔質基材をアミン吸収材溶液から引き揚げて、付着している余分な液体を吸引濾過等の方法で除去する。その後、多孔質基材を、室温に近い温度下において、通気乾燥または減圧乾燥させることにより、固体吸収材を得ることができる。
【0056】
前述した通り、本実施形態1における酸性ガス分離回収システム10では、処理対象ガス中のNOx濃度が、63.7ppm以下となっている。そのため、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には、約1年間、運転期間としては約8000時間)までの間において、二酸化炭素分離回収設備2内でNOxとアミンとの反応によって生ずるニトロソアミンの量を僅かな量に抑えることができる。従って、酸性ガス分離回収システム10は、ニトロソアミンが地上へ拡散される量を極めて僅かな量に抑制することができるため(具体的には、ニトロソアミンの最大着地濃度を1μg/m3以下にすることができるため)、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0057】
また、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収方法は、アミン吸収液を用いた方法と比べて、一般的には有効に利用できない排熱を用いて固体吸収材から二酸化炭素を脱着させることができる。そのため、この観点からも環境面において好適である。
【0058】
加えて、実施形態1における二酸化炭素分離回収設備2のガス流れの前流側にNOx除去設備1を設置することによって、NOx以外のSOx、HCl、HF等も同時に除去される可能性が十分に想定される。SOx、HCl、HF等も、NOxと同様に、固体吸収材に担持されているアミンと反応して他の有害物質を生成する可能性が無いとは言えない。そのため、本実施形態1における酸性ガス分離回収システム10によると、このような有害物質の生成の抑制に貢献し得る可能性が高い。
【0059】
(実施形態2)
図4に、実施形態2における酸性ガス分離回収システムの概略図を示す。
図4に示すように、酸性ガス分離回収システム20は、燃焼設備20A内に設置されているNOx除去設備1と、固体吸収材を用いて二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備2とを備える。
【0060】
前述した実施形態1では、燃焼設備10Aのガス流れの後流側かつ二酸化炭素分離回収設備2のガス流れの前流側にNOx除去設備1を設置する酸性ガス分離回収システム10について説明した。
【0061】
一方、実施形態2における酸性ガス分離回収システム20は、
図4に示すように、発電所、高炉、ボイラー等の一般的な燃焼設備20A内に既に設置されている脱硝装置が、前述したNOx除去設備1と同様の機能を有する点で、前述の実施形態1における酸性ガス分離回収システム10と相違する。換言すると、酸性ガス分離回収システム20は、一般的な燃焼設備20A内に既に設置されている脱硝装置等の脱硝作用を強化することにより、二酸化炭素分離回収設備2へ供給される処理対象ガス中のNOx濃度が63.7ppm以下となるように構成されている。
【0062】
NOx除去設備1、二酸化炭素分離回収設備2および各々の供給ラインの詳細な構成および機能は、前述の実施形態1と同様である。
【0063】
本実施形態2における酸性ガス分離回収システム20も、前述の実施形態1と同様に、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には、約1年間、運転期間としては約8000時間)までの間において、二酸化炭素分離回収設備2内でNOxとアミンとの反応によって生ずるニトロソアミンの量を僅かな量に抑えることができる。従って、酸性ガス分離回収システム20も、ニトロソアミンが地上へ拡散される量を極めて僅かな量に抑制することができるため(具体的には、ニトロソアミンの最大着地濃度を1μg/m3以下にできるため)、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0064】
(酸性ガス分離回収システムの変形例)
本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムの変形例は、前述した実施形態1または2における酸性ガス分離回収システムと同様に、NOx除去設備と、固体吸収材を用いて二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備とを備える。NOx除去設備および二酸化炭素分離回収設備の構成の詳細については、前述の実施形態1または2と同様である。
【0065】
前述の実施形態1または2では処理対象ガス中のNOx濃度が63.7ppm以下であったが、本変形例では処理対象ガス中のNOx濃度が特定の濃度以下に設定されているという点で異なる。特定の濃度とは、二酸化炭素分離回収設備から排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度である。このような値を維持する期間は、二酸化炭素分離回収設備の定期修理期間であることが好ましい。
【0066】
本明細書において、「拡散後の(地上での)ニトロソアミンの最大着地濃度」とは、後の実施例で詳細に述べるように、任意の石炭火力発電所等のプラントをモデルケースとした際に、排出ガス量、ガス温度、煙突高さ、大気安定度、有効煙突高さ、ならびに、評価時間、P-G図評価時間および水平拡散幅のべき指数からなる拡散パラメータのそれぞれの数値から算出される、最も小さい希釈率であると推算される地上地点におけるニトロソアミンの濃度を意味する。さらに、本明細書において、ニトロソアミンの最大着地濃度は、弱風パフ式、パフ式およびプルーム式により推算した濃度のうちの最も大きい濃度を採用する。
【0067】
本明細書において、「予め設定された規制値」とは、地上における周囲の作業環境に応じて任意に設定すればよい。例えば、周囲に貴重な自然環境が存在する場所、周囲に多くの人間が居住している場所等では、規制値はなるべく低く設定した方がよい。また、例えば、周囲に自然がほとんど存在しない場所、周囲に人間がほとんど居住していない場所等では、規制値は通常の値に設定してもよい。
【0068】
本変形例の酸性ガス分離回収システムによると、ニトロソアミンの地上への拡散量を周囲の環境に適した量まで抑制でき、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0069】
また、本変形例では、処理対象ガス中のNOx濃度は、ニトロソアミンの最大着地濃度が二酸化炭素分離回収設備の運転時間が8000時間となるまで1μg/m3以下(あるいは、NDEAのモル組成にて0.167ppb以下)を維持できる濃度以下に設定されていてもよい。このような構成によると、ニトロソアミンの地上への拡散量をごく僅かな量まで抑制でき、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0070】
2.酸性ガス分離回収方法
本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法の実施形態について、以下説明する。本実施形態における酸性ガス分離回収方法は、NOxを除去することと、二酸化炭素を分離回収することとを含む。
【0071】
NOxの除去では、排ガス中のNOxを除去し、NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度を63.7ppm以下とする。処理対象ガス中のNOx濃度の好ましい上限値は、第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムにおいて述べた値と同様である。なお、本実施形態における酸性ガス分離回収方法が適用される排ガスを放出する燃焼設備の種類に応じて、このような処理対象ガス中のNOx濃度の最大値を適宜調整することもできる。
【0072】
NOxの除去では、前述の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムと同様に、固体吸収材を用いて排ガス中のNOxを除去することが好ましい。また、固体吸収材は、前述の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムと同様に、二酸化炭素を分離回収する際において、二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含むことがより好ましい。あるいは、前述の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムと同様に、NOxの除去では、当業者に公知の任意の脱硝設備、装置、脱硝方法等を適用してもよい。
【0073】
二酸化炭素の分離回収では、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する。二酸化炭素の分離回収でも、前述の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムと同様に、固体吸収材を用いて処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着可能な当業者に公知の任意の設備(例えば、移動層方式または固定層方式の二酸化炭素分離回収設備)、装置、方法等を用いればよい。
【0074】
このように、本実施形態における酸性ガス分離回収方法においても、前述の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムと同様に、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には約1年間、運転期間としては約8000時間)までの間において、二酸化炭素を分離回収する際にNOxとアミンとの反応によって生ずるニトロソアミンの量を僅かな量に抑えることができる。従って、本実施形態における酸性ガス分離回収方法は、ニトロソアミンが地上へ拡散される量を極めて僅かな量に抑制することができるため(具体的には、ニトロソアミンの最大着地濃度を1μg/m3以下にできるため)、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0075】
(酸性ガス分離回収方法の変形例)
本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法の変形例は、前述した実施形態における酸性ガス分離回収方法と同様に、NOxを除去することと、固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することとを含む。NOxの除去および二酸化炭素の分離回収の詳細については、前述の実施形態と同様である。
【0076】
前述の実施形態では処理対象ガス中のNOx濃度が63.7ppm以下であったが、本変形例では処理対象ガス中のNOx濃度が特定の濃度以下に設定されているという点で異なる。特定の濃度とは、二酸化炭素の分離回収後に排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度である。このような値を維持する期間は、二酸化炭素の分離回収に使用する設備の定期修理期間であることが好ましい。「拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度」および「予め設定された規制値」の意味は、前述した通りである。
【0077】
本変形例の酸性ガス分離回収方法によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を周囲の環境に適した量まで抑制でき、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0078】
また、本変形例では、処理対象ガス中のNOx濃度は、ニトロソアミンの最大着地濃度が二酸化炭素を分離回収する合計時間(すなわち二酸化炭素分離回収設備等の運転時間)が8000時間となるまで1μg/m3以下(あるいは、NDEAのモル組成にて0.167ppb以下)を維持できる濃度以下に設定されていてもよい。このような構成によると、ニトロソアミンの地上への拡散量をごく僅かな量まで抑制でき、環境面において好適であり、かつ二酸化炭素を効率良く分離回収することができる。
【0079】
[本開示のまとめ]
以上に説明した具体的な実施形態には、以下の構成を有する開示が含まれている。
【0080】
本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムは、排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、63.7ppm以下である。
【0081】
上記構成によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムを提供できる。
【0082】
上記酸性ガス分離回収システムにおいて、前記NOx除去設備は、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記排ガス中のNOxを除去してもよい。
【0083】
上記構成によると、処理対象ガス中のNOx濃度を極めて低濃度まで容易に下げることができる。
【0084】
上記酸性ガス分離回収システムにおいて、前記NOx除去設備で用いられる前記固体吸収材は、前記二酸化炭素分離回収設備において二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含んでもよい。
【0085】
上記構成によると、固体吸収材を再利用できるため、環境面において好適な酸性ガス分離回収システムを低コストで実現することができる。
【0086】
あるいは、本開示の第一の局面に係る酸性ガス分離回収システムは、排ガス中のNOxを除去するNOx除去設備と、
前記NOx除去設備のガス流れの後流側に設置されており、かつ、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記NOx除去設備から供給される処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着する二酸化炭素分離回収設備と、を備え、
前記NOx除去設備から前記二酸化炭素分離回収設備へ供給される前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素分離回収設備から排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている。
【0087】
上記構成によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を周囲の環境に適した量まで抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムを提供できる。
【0088】
上記酸性ガス分離回収システムにおいて、前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が前記二酸化炭素分離回収設備の運転時間が8000時間となるまで1μg/m3以下を維持できる濃度以下に設定されていてもよい。
【0089】
上記構成によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収システムを提供できる。
【0090】
本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法は、排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度が、63.7ppm以下である。
【0091】
上記方法によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収方法を提供できる。
【0092】
上記酸性ガス分離回収方法において、NOxの除去では、多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて前記排ガス中のNOxを除去してもよい。
【0093】
上記方法によると、処理対象ガス中のNOx濃度を極めて低濃度まで容易に下げることができる。
【0094】
上記酸性ガス分離回収方法において、NOxの除去で用いられる前記固体吸収材は、前記二酸化炭素を分離回収する際において、二酸化炭素を吸着および脱着するために用いられた固体吸収材を含んでもよい。
【0095】
上記方法によると、固体吸収材を再利用できるため、環境面において好適な酸性ガス分離回収方法を低コストで実現することができる。
【0096】
あるいは、本開示の第二の局面に係る酸性ガス分離回収方法は、排ガス中のNOxを除去することと、
多孔質基材にアミンを担持させた固体吸収材を用いて、NOx除去後の処理対象ガス中に含有される二酸化炭素を吸着および脱着し、二酸化炭素を分離回収することと、を含み、
前記NOx除去後の処理対象ガス中のNOx濃度は、前記二酸化炭素の分離回収後に排出される排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が予め設定された規制値以下となる値を維持できる濃度以下に設定されている。
【0097】
上記方法によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を周囲の環境に適した量まで抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収方法を提供できる。
【0098】
上記酸性ガス分離回収方法において前記処理対象ガス中のNOx濃度は、前記排出ガスの拡散後のニトロソアミンの最大着地濃度が、二酸化炭素を分離回収する合計時間が8000時間となるまで1μg/m3以下を維持できる濃度以下に設定されていてもよい。
【0099】
上記方法によると、ニトロソアミンの地上への拡散量を抑制でき、環境面において好適である二酸化炭素を分離回収可能な酸性ガス分離回収方法を提供できる。
【実施例0100】
以下に、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は実施例により何ら限定されるものではない。
【0101】
本実施例では、まず、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備から排出されるガス中において周囲環境に影響を与える物質、特にニトロソアミンが検出されるか否かについて検証を行った。次いで、その結果に基づき、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には約1年間、運転期間としては約8000時間)までの間において、ニトロソアミンの地上への拡散量を僅かな量(具体的には、ニトロソアミンの最大着地濃度が1μg/m3以下となる量)に抑制するための二酸化炭素分離回収設備へ供給する処理対象ガス中のNOx濃度(ppm)の上限値を算出した。以下、詳細に説明する。
【0102】
1.ニトロソアミンの検出および同定
ガス中におけるニトロソアミンの検出には、以下に説明する二酸化炭素分離回収設備および実験用排ガスを用いた。さらに、これらを用いて、以下に説明する二酸化炭素分離回収設備から排出されたガス中の微量成分の捕集方法および捕集した成分の分子種の検出および同定方法によって、ニトロソアミンを検出および同定した。加えて、検出および同定されたニトロソアミンの考察を行った。
【0103】
(二酸化炭素分離回収設備)
まず、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備として、SA-VSA(Steam-aided vacuum swing adsorption)プロセスが適用された固定層方式の二酸化炭素分離回収設備を用いた。SA-VSAプロセスでは、二酸化炭素吸着後の固体吸収材の脱着工程において、低温蒸気が供給される。この二酸化炭素分離回収設備は、前述した
図3に示す二酸化炭素分離回収設備2の構成とほとんど同じ構成を有する。ただし、本実験の目的は、排ガス中のNOxの影響を調べることであるため、二酸化炭素分離回収設備のガス流れの前流側にNOx除去設備は設けていない。そのため、本実験で用いた二酸化炭素分離回収設備では、
図3に示す処理対象ガス供給ラインL1が、排ガス供給ライン(L0)となっている。具体的には、吸収工程では、排ガス供給ライン(L0)を通って排ガスがタンクに供給され、タンク内に充填されている固体吸収材と接触し、排ガス中の二酸化炭素が固体吸収材に吸着される。
【0104】
また、タンク内に充填した固体吸収材は、次の方法によって製造した。具体的には、まず、多孔質基材である粒子径1mm~5mmのシリカゲルを、ジエタノールアミン水溶液に浸漬させた。浸漬させたシリカゲルを、室温で8時間以上放置した。放置後、シリカゲルを取り出し、シリカゲルに余分に付着したジエタノールアミン水溶液を分離し、乾燥ガス(40℃、15L/minの窒素ガス)を流して、通気乾燥させた(特許第6055134号公報に記載の固体吸収材の製造方法参照)。なお、ジエタノールアミンを担持したシリカゲルを乾燥する乾燥槽の出口のガス温度が安定した時点より2時間経過後を、ジエタノールアミンを担持したシリカゲル(すなわち、固体吸収材)の乾燥終了条件とした。
【0105】
(実験用排ガス)
排ガス供給ラインを介して供給する実験用排ガスとしては、空気と高純度の二酸化炭素とを混合した模擬排ガスに、30ppmのNOxをさらに混合したガスを用いた。
【0106】
(二酸化炭素分離回収設備から排出されたガス中の微量成分の捕集方法)
前述した二酸化炭素分離回収設備における二酸化炭素フリー排ガス排出ラインL2、二酸化炭素排出ラインL4および水分含有空気排出ラインL6の3つのガス排出口のガス流れの後流側に、固相抽出法による微量成分捕集機構と液相抽出法による微量成分捕集機構の2つの捕集機構を設置した。
【0107】
図5に、固相抽出法によるガス中の微量成分捕集機構を説明するための概略図を示す。
図5に示すように、この固相抽出法による捕集機構では、コポリマーを充填した第1カートリッジ3、強陽イオン交換樹脂を充填した第2カートリッジ4および活性炭を充填した第3カートリッジ5を直列に配置し、3つのガス排出口からのガスを
図5の矢印に示す方向に通気させた。これらの3種のカートリッジに3つのガス排出口からのガスを通気させることによって、ガス中の酸性、塩基性および中性の全ての分子の微量成分を収着させて捕集することができる。3種のカートリッジへの3つのガス排出口からのガスの通気が完了した後、コポリマーを充填した第1カートリッジ3には、メタノールとジクロロメタンとを逐次送液することにより、収着した微量成分が溶解した各画分における抽出液を得た。同様に、強陽イオン交換樹脂を充填した第2カートリッジ4には、1%アンモニアのエタノール溶液を送液することにより、抽出液を得た。同様に、活性炭を充填した第3カートリッジ5には、メタノールとジクロロメタンとを逐次送液することにより、各画分における抽出液を得た。
図5には示していないが、3種のカートリッジのさらにガス流れの後流側に、空のインピンジャーを配置し、冷却することにより凝縮水も得た。
【0108】
図6に、液相抽出法によるガス中の微量成分捕集機構を説明するための概略図を示す。
図6に示すように、この液相抽出法による捕集機構では、ガス排出口からのガス流れに近い前段に0.1%スルファミン酸溶液を保持した第1インピンジャー6を配置した。さらに、ガス排出口からのガス流れに遠い後段に超純水を保持した第2インピンジャー7を、第1インピンジャー6と直列になるように配置した。そして、このように直列に配置した第1インピンジャー6および第2インピンジャー7に、3つのガス排出口からのガスを
図6の矢印に示す方向に通気させて、ガス中の微量成分を捕集した。
【0109】
(捕集した成分の分子種の検出および同定方法)
固相抽出法により得た各画分における抽出液および凝縮水と液相抽出法により得た各吸収液および各インピンジャー洗液を、それぞれLC-OrbitrapMSおよびGC-OrbitrapMSを適宜用いて分析した。そして、分析したマススペクトルから、捕集した成分の分子種を検出および同定した。分子種の検出および同定結果の一例として、二酸化炭素分離回収設備での再生工程におけるガス排出口からのガスの分析結果を、以下の表1~2(No.1~No.10)、表3~4(No.11~No.20)および表5~6(No.21~No.30)に示す。表1~表6において、「HLB」はコポリマーを充填した第1カートリッジ3を意図し、「MC-1」は強陽イオン交換樹脂を充填した第2カートリッジ4を意図し、「AC2」は活性炭を充填した第3カートリッジ5を意図する。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
(検出および同定されたニトロソアミンの考察)
上記表1~表6に示すように、固体吸収材に実際に担持されたジエタノールアミン以外にも、二酸化炭素分離回収設備の3つのガス排出口からのガス中において、様々な成分が検出された。表5および表6に示すように、検出された成分には、ニトロソアミンであるN-ニトロソジブチルアミン(No.29)およびNDEA(No.30)も含まれていた。この検出結果から、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収設備にNOxを含有した排ガスを供給した場合、固体吸収材に担持されたアミンとNOxとが反応し、ガス排出口から排出されるガス中にニトロソアミンが含まれてしまうことが分かった。そのため、100ppmを超えるNOx濃度を有する一般的な排ガスを、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスによって処理する場合、これらの生成したニトロソアミンが地上へ拡散し、周囲環境を汚染する可能性がある。
【0117】
また、固体吸収材に実際に担持されているジエタノールアミンに関して、ジエタノールアミン水溶液におけるニトロソ化合物は、主としてNDEA(No.30)であることが報告されている(P.Prado,Master Thesis,University of Regina,2021年)。さらに、そのニトロソ化の生成機構も明らかとなっている。しかし、表6に示すように、本検出結果におけるニトロソ化物の主成分は、N-ニトロソジブチルアミン(No.29)となっている。具体的には、N-ニトロソジブチルアミン(No.29)の検出濃度は、ジエタノールアミンの主たるニトロソ化物であるNDEA(No.30)の検出濃度の約30倍となっていた。具体的には、表6に示すように、カートリッジ捕集の結果において、N-ニトロソジブチルアミン(No.29)の検出濃度は781,499,956となっており、NDEAの検出濃度は28,733,260となっていた。なお、インピンジャー捕集の結果では、NDEAの検出濃度は0であった。従って、本検出結果におけるニトロソ化機構は、従来技術からは全く予測することができない不明確な機構となっている。この考察結果からも、固体吸収材を用いた二酸化炭素分離回収プロセスにおけるニトロソアミンの生成は、アミン吸収液法を利用した二酸化炭素分離回収プロセスにおける単純なニトロソアミンの生成メカニズムからは、自明ではないことは明白である。
【0118】
2.ニトロソアミンの地上への拡散量を僅かな量に抑制するための二酸化炭素分離回収設備へ供給される処理対象ガス中のNOx濃度の上限値の算出
二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間(具体的には、約1年間、運転期間としては約8000時間)において、ニトロソアミンの地上への拡散量を僅かな量(具体的には、ニトロソアミンの最大着地濃度が1μg/m3以下となる量)に抑制可能な処理対象ガス中のNOx濃度の上限値を以下の方法において算出した。
【0119】
(NOx濃度の上限値の算出方法の概要)
ニトロソアミンは、使用開始直後の二酸化炭素分離回収設備中の固体吸収材には含まれていない。NOxを含む排ガスが二酸化炭素分離回収設備に供給されることによって、NOxとジエタノールアミンが反応し、ニトロソアミンが当該設備内に徐々に蓄積される。ニトロソアミンの蓄積濃度が増加するにつれて、ニトロソアミンの揮発濃度も上昇する。本算出方法では、二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)からの排出ガスが大気拡散し、運転開始から8000時間までニトロソアミン(より詳細にはNDEA)の最大着地濃度が規制値を超えないようにするための二酸化炭素分離回収設備に供給される排ガス中のNOx濃度を求める。このNOx濃度の上限値の算出方法は、以下の3つの計算ステップを有する。
1)二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材へ供給されるNOx濃度と排出ガス中のニトロソアミン排出濃度の相関関係の計算ステップ
2)大気拡散される排出ガスの希釈率の計算ステップ
3)8000時間までニトロソアミン(詳細にはNDEA)の最大着地濃度が規制値を超えないようにするための排ガス中のNOx濃度の計算ステップ
【0120】
1)二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材へ供給されるNOx濃度と排出ガス中のニトロソアミン排出濃度の相関関係の計算ステップ
二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材へ供給されるNOxの供給速度(流量)と供給されるNOx濃度との関係は、以下の式で表すことができる。
式:(NOxの供給速度)=(排ガス流量)×(NOx濃度)
【0121】
上記式におけるNOx濃度(二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材へ供給されるNOx濃度)を変化させた場合において、運転開始から少なくとも8000時間時点を含む時間経過に伴い、二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)からのニトロソアミン排出濃度がどのように変動するかを計算した。
【0122】
上記式における排ガス流量は、二酸化炭素分離回収設備へ供給される排ガス中の二酸化炭素濃度、目標とする二酸化炭素の回収率、および固体吸収材の性能によって決定することができる。NOx濃度とニトロソアミン排出濃度の相関関係の計算を行うにあたり、一般的な石炭燃焼排ガスの二酸化炭素分離回収設備の条件として、以下の通り数値を設定した。
・排ガス中の二酸化炭素濃度:15%
・二酸化炭素の回収率:90%
【0123】
さらに、上記二酸化炭素分離回収設備で用いられる固体吸収材の性能は、ジエタノールアミン等の固体吸収材に関する代表的な文献を元に、以下の通り設定した。
・固体吸収材に担持されたアミンの種類:ジエタノールアミン
・固体吸収材におけるアミンの担持量:36wt%(Micropor.Mesopor.Mater.226、p444-453(2016年)を参照)
・二酸化炭素の吸収量:2.85wt%(Micropor.Mesopor.Mater.226、p444-453(2016年)を参照)
・二酸化炭素の吸収時間:30分間(Micropor.Mesopor.Mater.226、p444-453(2016年)の22分間を考慮した上で設定)
・固体吸収材の再生時間:2.5時間(Micropor.Mesopor.Mater.62、p29-45(2003年)から、吸収と脱離にかかる時間の比率(6倍)を算出した上で設定)
・基材かさ密度:400kg/m3(関東化学(株)製球状シリカゲルのカタログ値を参照)
・吸収材かさ密度:625kg/m3(基材かさ密度とアミンの担持量から計算)
【0124】
なお、上記のような二酸化炭素の吸収時間が30分間であり、かつ固体吸収材の再生時間が2.5時間である二酸化炭素分離回収設備としては、例えば、
図3に示すような二酸化炭素分離回収設備のタンク(または塔)の数が5個であり、いずれか1つの二酸化炭素分離回収設備のタンク(または塔)に排ガスが供給されつつ、残りの4つのタンク(または塔)では固体吸収材の再生工程および乾燥工程が実施される二酸化炭素分離回収設備が挙げられる。
【0125】
上記の数値から、二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材の体積当たりの二酸化炭素吸収量は、以下のように算出できる。
(吸収材かさ密度)×(二酸化炭素吸収量)=0.405kmol/m3
【0126】
さらに、30分間で上記の体積当たりの二酸化炭素量が吸収されるため、二酸化炭素の吸収速度は、0.81kmol/(m3・h)となる。従って、排ガス流量は、以下のように算出できる。
0.81kmol/(m3・h)/((二酸化炭素の回収率)×(排ガス中の二酸化炭素濃度))=134Nm3/(h・m3)
【0127】
次に、二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)からのニトロソアミン排出状況をより詳しく調べるため、二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材中でのニトロソ化の進行および揮発の状態を推算した。
【0128】
まず、計算にあたり、以下の条件を仮定した。
i)二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材へ供給された排ガス中のNOxは全量固体吸収材に吸収される。
ii)NOxは二酸化炭素分離回収設備に含まれる全ての固体吸収材に均一に吸収される。
iii)NOxはジエタノールアミンと反応しNDEAとなる。すなわち、この他の吸収反応、例えば、NOxが水と反応し、硝酸または亜硝酸が生成され、ジエタノールアミンと中和反応後、塩を形成する等の反応は生じない。
iv)酸化、尿素化等のその他のジエタノールアミンの劣化機構は考慮しない。
【0129】
上記の条件によると、使用開始直後の二酸化炭素分離回収設備の固体吸収材では、特定量のジエタノールアミンが純度100%において担持されている。しかし、時間経過とともに、揮発によってジエタノールアミンの量は減少し、排ガス中のNOxとの反応によるニトロソ化(すなわち、ニトロソアミン生成)によってもジエタノールアミンの担持量は減少する。
【0130】
この揮発およびニトロソ化の挙動のシミュレーションを、以下の手順で行った。
i)ラウールの法則に基づき、固体吸収材に担持されたジエタノールアミンとニトロソアミンの混合物におけるそれぞれの化合物の蒸気圧を計算した。なお、この蒸気圧の計算結果は、揮発量は蒸気圧に依存するため、ii)以降の計算を行う際に使用した。
ii)微小時間Δtの間における、ジエタノールアミンおよびニトロソアミンの揮発量と、ジエタノールアミンのニトロソアミンへの転換量を計算した。
iii)時刻tにおけるジエタノールアミンの担持量から、ジエタノールアミンの揮発量とニトロソアミンへの転換量を減ずることで、時刻t+Δtにおけるジエタノールアミンの担持量(kmol/m3)を計算した。また、時刻tにおけるニトロソアミンの担持量から、ジエタノールアミンからニトロソアミンへの転換量を加え、ニトロソアミンの揮発量を減ずることで、時刻t+Δtにおけるニトロソアミンの担持量(kmol/m3)を計算した。
iv)時刻t=0から、ii)~iv)を繰り返すことで、時間経過に伴うジエタノールアミンおよびニトロソアミンに関する揮発とニトロソ化の挙動を予測した。
【0131】
なお、計算にあたり、吸収工程の出口ガス温度は45℃とした。ジエタノールアミンの蒸気圧は、Klepacova et al.,J.Chem.Eng.Data 2011年,56,p2242~248に記載のAntoineパラメータを用いて計算した。ニトロソアミン(具体的にはNDEA)の蒸気圧は、R.G.Klein,Toxiclogy,23,p135-147(1982年)に記載されている0℃、20℃および40℃における推算値を再現するAntoineパラメータを、最小二乗法によるフィッテイングにより定めることによって、計算した。
図7に、実施例におけるジエタノールアミンおよびNDEAの蒸気圧曲線を示す。
【0132】
このように、
図7に示すNDEAの蒸気圧を用い、かつ予測した時間経過における揮発とニトロソ化の挙動に基づき、NOx濃度を変動させた場合における時間経過に伴うニトロソアミン排出濃度を算出した。
図8に、NOx濃度を10ppm、40ppm、63.7ppmまたは150ppmに設定した場合におけるニトロソアミン排出濃度のグラフを示す。
【0133】
2)大気拡散される排出ガスの希釈率の計算ステップ
二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)から排出された排出ガスは、大気拡散された後、地上に到達する。その際の排出ガスの希釈率は、大気拡散のモデル式から推算することができる。
【0134】
本実施例では、一般的な石炭火力発電所をモデルケースとして計算を行った。まず、排出ガス量は湿り基準で2,210,000Nm3/hとし、乾き基準で1,980,000m3/hとし、ガス温度は90℃とした。煙突高さは230mとした。大気安定度をB、すなわち昼間、晴天、かつ平均的な風速での条件に設定した。CONCAWE式により有効煙突高さを求めると、463.9mであった。そして、プルーム式により希釈率の推算を行った。その結果、最大着地濃度を示す場所が煙突から2876mの地点であり、その場所での希釈率が7.29×10-5と推算された。この際、拡散パラメータとして、評価時間は60分とし、P-G図評価時間は3分とし、水平拡散幅のべき指数は0.2とした。
【0135】
なお、上記と同様に、弱風条件における弱風パフ式、無風条件におけるパフ式等を用いて最大着地濃度の推算も実施した。しかし、プルーム式で推算した最大着地濃度が最も大きかったため、ニトロソアミンの地上への拡散によるリスクをより厳しく検討するため、プルーム式での評価結果を検討に用いた。
【0136】
3)8000時間までニトロソアミン(詳細にはNDEA)の最大着地濃度が規制値を超えないようにするための排ガス中のNOx濃度の計算ステップ
ドイツの法規(TRGS552)によると、ニトロソアミンの作業環境の曝露濃度の上限は1μg/m3である。従って、本実施例でも、同様の数値を規制値として設定した。濃度1μg/m3は、NDEAの分子量134.1(g/mol)から算出すると、NDEAのモル組成において0.167ppbである。この数値を前述の2)で算出された希釈率7.29×10-5で除すると、2.29ppmとなる。換言すると、地上の濃度の規制値と対応する二酸化炭素分離回収設備の排出ライン(煙突、煙道等)から排出された排出ガス中におけるニトロソアミン排出濃度の上限値は、2.29ppmに設定することができる。さらに、前述の1)で求めたNOx濃度を変動した場合におけるニトロソアミン排出濃度のグラフに基づくと、8000時間まで排出ガス中におけるニトロソアミン排出濃度の上限値の2.29ppmを超えないようにするための排ガス中のNOx濃度は、63.7ppm以下であることが確認できる。
【0137】
以上のことから、固体吸収材に担持させるアミンとしてジエタノールアミン系の材料を用いた場合、二酸化炭素分離回収設備の大凡の平均的な定期修理期間である8000時間において、ニトロソアミンの地上への拡散量を僅かな量に抑えるためには、およそ63.7ppmまで排ガス中のNOx濃度を低減しておく必要があることが分かる。