(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008576
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B60Q1/14 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110841
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】星野 真也
(72)【発明者】
【氏名】藁谷 剛司
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA02
3K339BA30
3K339CA01
3K339DA01
3K339DA05
3K339GB01
3K339HA01
3K339KA07
3K339KA09
3K339KA29
3K339KA39
3K339LA06
3K339LA33
3K339MA01
3K339MC36
3K339MC85
3K339MC90
(57)【要約】 (修正有)
【課題】減光範囲(ないし遮光範囲)の移動に伴う視認上の煩わしさを軽減する。
【解決手段】可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための装置であって、コントローラは、第1時期に設定された減光範囲が第2時期において光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、第1時期に設定された光照射範囲が第2時期に減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、各領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定し、当該設定した照射態様に基づいて車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、を実行するものである。上記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための装置であって、
前記車両用灯具と接続されたコントローラを含み、
前記コントローラは、
前方車両の位置に応じた減光範囲と、当該減光範囲の隣に配置される中間調範囲と、当該中間調範囲の隣に配置される光照射範囲とを含む配光パターンを設定すること、
第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記減光範囲が当該第1時期に次ぐ第2時期において前記光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、前記第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記光照射範囲が前記第2時期において前記減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、前記第1領域及び/又は前記第2領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定すること、
設定された前記配光パターンと、前記第1領域及び/又は前記第2領域に設定された前記照射態様に基づいて、前記車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、
を実行するものであり、
前記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである、
車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記照射態様は、シグモイド曲線又は三次曲線に沿って前記明るさが経時的に変化するものである、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記第1時期から前記第2時期へ至る際の前記減光範囲の移動速度を求め、当該移動速度が所定の閾値未満である場合に前記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定し、当該移動速度が前記閾値以上である場合には記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定しない、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1時期から前記第2時期へ至る際の前記前方車両の車幅方向での移動速度を求め、当該移動速度が所定の閾値未満である場合に記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定し、当該移動速度が前記閾値以上である場合には記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定しない、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
前記閾値は、自車両の所定位置を基準にした角度で表した場合に10°/秒である、
請求項3又は4に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項6】
前記照射態様は、前記明るさを増加させる場合の立ち上がり時間に比べて前記明るさを減少させる場合の立ち下がり時間を相対的に長く設定する、
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項7】
可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための方法であって、
(a)コントローラが、前方車両の位置に応じた減光範囲と、当該減光範囲の隣に配置される中間調範囲と、当該中間調範囲の隣に配置される光照射範囲とを含む配光パターンを設定すること、
(b)前記コントローラが、第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記減光範囲が当該第1時期に次ぐ第2時期において前記光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、前記第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記光照射範囲が前記第2時期において前記減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、前記第1領域及び/又は前記第2領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定すること、
(c)前記コントローラが、前記(a)にて設定される前記配光パターンと、前記(b)にて前記第1領域及び/又は前記第2領域に設定される前記照射態様に基づいて、前記車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、
を含み、
前記(b)において設定される前記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである、
車両用灯具の制御方法。
【請求項8】
請求項1に記載の車両用灯具の制御装置と、
前記制御装置に接続された車両用灯具と、
を含む、車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用前照灯の制御装置、車両用前照灯システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用前照灯の配光を制御する技術として、主にハイビームの照射範囲内において、自車両の前方に存在する他車両(先行車両、対向車両など)の位置に応じた一定範囲を減光する技術が知られている。例えば、特開2022-139713号公報(特許文献1)には、前方車両の位置に応じて減光範囲を設定するとともに、前方車両の車幅方向での移動方向に対応して減光範囲の左右何れかに拡張減光範囲を設定する車両用灯具システムが記載されている。この車両用灯具システムでは、拡張減光範囲に対応するセグメントの明るさを変化させる際の時間について、前方車両の車幅方向での移動速度が大きいほど相対的に短く当該移動速度が小さいほど相対的に長く設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、減光範囲(ないし遮光範囲)の移動に伴う視認上の煩わしさを軽減し得る技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本開示に係る一態様の車両用灯具の制御装置は、
可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための装置であって、
前記車両用灯具と接続されたコントローラを含み、
前記コントローラは、
前方車両の位置に応じた減光範囲と、当該減光範囲の隣に配置される中間調範囲と、当該中間調範囲の隣に配置される光照射範囲とを含む配光パターンを設定すること、
第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記減光範囲が当該第1時期に次ぐ第2時期において前記光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、前記第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記光照射範囲が前記第2時期において前記減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、前記第1領域及び/又は前記第2領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定すること、
設定された前記配光パターンと、前記第1領域及び/又は前記第2領域に設定された前記照射態様に基づいて、前記車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、
を実行するものであり、
前記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである、
車両用灯具の制御装置である。
[2]本開示に係る一態様の車両用灯具システムは
前記[1]に記載の車両用灯具の制御装置と、
前記制御装置に接続された車両用灯具と、
を含む、車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、減光範囲(ないし遮光範囲)の移動に伴う視認上の煩わしさを軽減し得る技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。
図1(B)は、コンピュータシステムの構成を例示する図である。
【
図2】
図2(A)は、可変に設定される配光パターンを例示する図である。
図2(B)は、配光パターンを可変に設定するための配光可変領域の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、各配光可変領域での光照射状態の経時的変化を説明するための図である。
【
図4】
図4(A)、
図4(B)は、配光可変領域における明るさの経時的変化について例示する図である。
【
図5】
図5は、視覚上で感得され得る減光範囲の移動を模式的に示した図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)は、減光範囲の移動速度について説明するための図である。
【
図7】
図7は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8(A)、
図8(B)は、配光可変領域における明るさの経時的変化の変形例について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(A)は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示す図である。図示の車両用灯具システムは、コントローラ10、カメラ11、一対の前照灯ユニット12L、12Rを含んで構成されている。この車両用灯具システムは、車両前方へ光照射を行うためのものである。なお、本明細書においては、コントローラ10を含んで車両用灯具の制御装置が構成されている。
【0009】
コントローラ10は、各前照灯ユニット12L、12Rによる光照射の動作を制御するものである。このコントローラ10は、例えば
図1(B)に示すようなコンピュータシステム、すなわちプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、フラッシュメモリ等の記憶デバイス204、入出力インターフェース205などを備えたコンピュータシステムを用いて構成することができる。本実施形態のコントローラ10は、予め記憶デバイス204に記憶されたプログラム206がプロセッサによって読み出されて実行されることにより、後述する各機能を発揮できる状態となる。
【0010】
カメラ11は、自車両前方の空間を撮影して得られる画像データに基づいて所定の画像認識処理を行うことにより、前方車両(先行車両、対向車両)や歩行者の位置などの状況を検出するものである。なお、画像認識処理の機能の一部又は全部はコントローラ10側に設けられていてもよい。その場合には、カメラ11から画像データがコントローラ10へ供給され、コントローラ10において所定のプログラムを実行することで画像認識処理が行われる。
【0011】
コントローラ10は、プログラム実行によって実現される機能ブロックとしての車両検出部20、配光パターン設定部21、徐変設定部22、制御信号生成部23を含む。
【0012】
車両検出部20は、カメラ11による前方車両等の検出結果に基づいて、前方車両等の実際の位置を示す情報を検出する。
【0013】
配光パターン設定部21は、車両検出部20による前方車両等の検出結果に基づいて各前照灯ユニット12L、12Rによる照射光の配光パターンを設定する。本実施形態の配光パターンは、前方車両の位置に応じた一定範囲として設定される減光範囲(ないし遮光範囲。以下同様)と、前方車両の存在しない範囲に設定される光照射範囲と、車幅方向での減光範囲の隣に設定される中間調範囲と、を含む。
【0014】
徐変設定部22は、配光パターン設定部22によって設定される配光パターンにおいて、光照射範囲から減光範囲に変化させる領域での明るさ(照度ないし輝度)の経時的変化の態様(以下「照射態様」という。)を設定する、また、徐変設定部22は、減光範囲から光照射範囲に変化させる領域での明るさの照射態様を設定する。また、本実施形態の徐変設定部22は、配光パターンが切り替えられる際の減光範囲の車幅方向における移動速度に応じて、徐変範囲において明るさを経時的に変化させるか否かを設定する。
【0015】
制御信号生成部23は、配光パターン設定部21によって設定される配光パターン並びに徐変設定部22によって設定される照射態様に応じた照射光を各前照灯ユニット12L、12Rに形成させるための制御信号を生成し、各前照灯ユニット12L、12Rへ供給する。
【0016】
一対の前照灯ユニット12L、12Rは、自車両前部の左右の所定位置に搭載されており、コントローラ10から与えられる制御信号に応じて動作して自車両前方へ照射される光を形成する。本実施形態の前照灯ユニット12L、12Rは、ロービーム(すれ違い灯)、ハイビーム(走行灯)の各照射光を形成可能であるとともに、ハイビームの照射範囲内において配光パターンを可変に設定できるものである。
【0017】
各前照灯ユニット12L、12Rとしては公知の種々の構成を採用することができる。例えば、光源バルブと反射鏡や遮蔽板を組み合わせた構成のランプユニットによりハイビーム、ロービーム、追加的ビームを形成することができる。また、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子が一方向または二方向に配列されており、各発光素子の点灯状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、光源と液晶素子などを備え、液晶素子の各画素の光透過状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することもできる。また、レーザダイオードなどの発光素子と、この発光素子から出射する光を走査するミラーデバイス等の走査素子などを備え、発光素子の点消灯のタイミングと走査素子による走査タイミングを制御可能なランプユニットを用いてアダプティブドライビングビームを形成することも可能である。さらに、これらの構成のランプユニットにおいてアダプティブドライビングビームに加えてハイビーム、ロービームが形成されてもよい。
【0018】
図2(A)は、可変に設定される配光パターンを例示する図である。例示する配光パターンは、自車両の前方所定位置(例えば30m前方)においてスクリーンを想定した場合にそのスクリーン上に形成される配光パターンである。本実施形態の車両用灯具システムでは、ハイビームの光照射範囲150の範囲内において、前方車両102の位置に応じた減光範囲151とこの減光範囲151の隣に配置される中間調範囲152を含んだ配光パターンが設定され、この設定された配光パターンに基づいた照射光が自車両前方に照射される。図示のように、前方車両102の位置が経時的に変化すると、これに追従して減光範囲151及び中間調範囲152の位置が変化するように配光パターンが更新される。
【0019】
光照射範囲150では、例えば予め定めた最大値の明るさとなるように照射光が制御される。減光範囲151では、予め定めた最低値としての明るさ(典型的には0)となるように照射光が制御される。中間調範囲152では、光照射範囲150と減光範囲151のそれぞれの明るさの中間的な明るさとなるように照射光が制御される。それにより、光照射範囲150から減光範囲151にかけてグラデーション状に照射光が変化するよう視認者に感得させることができる。
【0020】
図2(B)は、配光パターンを可変に設定するための配光可変領域の一例を示す図である。例示の配光可変領域Rは、4段×10列の合計40個の領域であり、それぞれ個別に光照射状態を可変に設定可能である。前方車両の位置とその見かけ上の大きさに応じてこれら配光可変領域Rのいくつかにおける光照射状態を制御することで、上記した減光範囲151並びに中間調範囲152を含んだ配光パターンの照射光を形成することができる。なお、配光可変領域Rの数やそれぞれの形状は例示のものに限定されない。平面視形状の異なる配光可変領域Rが用いられてもよいし、配光可変領域Rの数は増減されてもよい
【0021】
図3は、各配光可変領域での光照射状態の経時的変化を説明するための図である。ここでは説明の便宜上、1段分の10個の配光可変領域Rが示されており、各配光可変領域Rを相互に区別するためにR1~R10の符号が用いられている。なお、実際には上記した
図2(A)に示した配光パターンにおける光照射範囲、減光範囲及び中間調範囲は、それぞれ、いくつかの配光可変領域を組み合わせることで構成される。図中において、濃いハッチングで示されている配光可変領域は減光範囲であることを示し、薄いハッチングで示されている配光可変領域は中間調範囲であることを示し、無ハッチングで示されている配光可変領域は光照射範囲であることを示している。
【0022】
図中に矢印で示すように、例えば時刻T0から時刻T1を経て時刻T2へ至る際における配光可変領域R3に注目すると、時刻T0において光照射範囲であり、時刻がT0からT2へと推移する際に、中間調範囲を経て時刻T2において減光範囲となる。このときの配光可変領域R3における明るさ(照度ないし輝度)の経時的変化は、例えば
図4(A)に示すようにシグモイド曲線状の変化をするように制御される。ここでいうシグモイド曲線とは、一般に、y=1/(1+e
-ax)で示される関数によって描かれる曲線である。
【0023】
同様に、例えば時刻T2から時刻T3を経て時刻T4へ至る際における配光可変領域R2に注目すると、時刻T2において減光範囲であり、時刻がT2からT4へと推移する間際に、中間調範囲を経て時刻T4において光照射範囲となる。このときの配光可変領域R2における明るさ(照度ないし輝度)の経時的変化についても
図4(B)に示すようにシグモイド曲線状の変化をするように制御される。
【0024】
なお、明るさの経時的変化については、シグモイド曲線に限られず、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量(変化度合い)が始点と終点の中間における変化量(変化度合い)に比べて少ないという経時的変化をするものであればよい。具体的には、例えば一般にy=ax3+bx2+cxで示される三次関数によって描かれる曲線(三次曲線)に沿って明るさの経時的変化を実現してもよいし、その他任意の曲線を用いてもよい。ここでいう「始点近傍」とは、例えば、始点から終点へ向かい、始点から終点までの間の長さに対して1/4以下の長さまでの期間をいう。同様に、「終点近傍」とは、例えば、終点から始点に向けて遡り、始点から終点までの間の長さに対して1/4以下の長さまでの期間をいう。
【0025】
上記したように、各配光可変領域Rが減光範囲から光照射範囲へ切り替わる際やその逆に光照射範囲から減光範囲に切り替わる際に、直ちに切り替えるのではなくシグモイド曲線等に基づいて明るさを徐々に変化させることで、視認者に対し、擬似的に配光可変領域Rの解像度が上がったように感得させることができる。具体的には、
図5に例示するように、実際には各配光可変領域Rが配光変化の最小単位であるところ、それよりも高い解像度で減光範囲の移動が滑らかになったように視覚上で感じられるようになる。
【0026】
ここで、本願発明者の検討したところによると、減光範囲の移動速度が比較的に遅い場合には明るさを徐々に変化させることがより効果的であるが、減光範囲の移動速度によってはその効果を感得しにくくなる傾向があることが見出された。ここでいう減光範囲の移動速度とは、原理的には
図6(A)に示すように減光範囲の単位時間当たりの移動距離Lの変化量で表すことができる。
【0027】
実際の制御では、
図6(B)に示すように、自車両の所定位置pを基準とした相対的な角度によって減光範囲の位置が特定される場合が多いので、移動速度は、減光範囲の単位時間当たりの角度θ
Lの変化量表すこともできる。例えば後者の角度による表現を用いた場合、本願発明者の検討によると、例えば10°/秒という値を閾値として用いることで、明るさの徐変を用いるか否かの切り分けを好適に実施し得るという知見が得られた。
【0028】
すなわち、減光範囲の移動速度が10°/秒より小さいときには移動速度が遅い場合であるとして、明るさの徐変処理を介在させることが有効である。他方で、減光範囲の移動速度が10°/秒以上であるときには、移動速度が速い場合であるとして明るさの徐変処理を介在させないようにして、明るさ制御に要する演算負荷を低減させることができる。
【0029】
図7は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。なお、ここに示す各処理については情報処理の結果に矛盾や不整合を生じない限りにおいて、それらの順序を入れ替えることも可能であり、またここでは明示しない他の処理を追加することも可能である。
【0030】
コントローラ10の車両検出部20により前方車両が検出されると(ステップS11)、配光パターン設定部21は、前方車両の位置に応じて配光パターンを設定する(ステップS12)。
【0031】
次に、徐変設定部22は、減光範囲の移動速度を算出する(ステップS13)。移動速度の算出は、前回処理時の減光領域の位置と今回ステップS12で設定された減光領域の位置に基づいて行われる。なお、初回処理時などで前回処理時の減光範囲が存在しない場合には、例えば移動速度が0とされる等の例外処理が行われる。
【0032】
徐変設定部22は、ステップS13で求めた減光範囲の移動速度が所定の閾値(一例として、10°/秒)よりも小さい場合には(ステップS14;NO)、明るさの徐変処理を「あり」に設定する(ステップS15)。
【0033】
他方、徐変設定部22は、ステップS13で求めた減光範囲の移動速度が所定の閾値以上である場合には(ステップS14;YES)、明るさの徐変処理を「なし」に設定する(ステップS16)。
【0034】
次に、制御信号生成部23は、配光パターン設定部22によって設定された配光パターン、並びに徐変設定部22によって設定された徐変処理の有無に応じた照射光が形成されるように制御信号を生成し、各前照灯ユニット12L、12Rへ出力する(ステップS17)。その後、ステップ11に戻り、以降の処理が繰り返される。
【0035】
以上のような実施形態によれば、減光範囲(ないし遮光範囲)の移動に伴う視認上の煩わしさを軽減し得る。
【0036】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態では、配光可変領域における明るさ(照度ないし輝度)の経時的変化は、立ち上がり時間(
図4(A)参照)と立ち下がり時間(
図4(B)参照)を同じ長さにした例を挙げていたが、
図8(A)及び
図8(B)に示すように立ち上がり時間T
onと立ち下がり時間T
offを異なる長さにしてもよい。この場合においては、例示したように立ち上がり時間T
onを立ち下がり時間T
offよりも短くすることが好ましい。
【0037】
また、上記した実施形態では、減光範囲の移動速度に基づいて明るさの徐変処理を行うか否かを決めていたが、自車両を基準にした見かけ上における前方車両の車幅方向での移動速度に基づいて明るさの徐変処理の有無を決定してもよい。この場合には、上記した減光範囲の場合と同様にして(
図6(A)、
図6(B)参照)、前方車両の位置の単位時間当たりの変化量を求めることで移動速度を得ることができる。
【0038】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための装置であって、
前記車両用灯具と接続されたコントローラを含み、
前記コントローラは、
前方車両の位置に応じた減光範囲と、当該減光範囲の隣に配置される中間調範囲と、当該中間調範囲の隣に配置される光照射範囲とを含む配光パターンを設定すること、
第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記減光範囲が当該第1時期に次ぐ第2時期において前記光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、前記第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記光照射範囲が前記第2時期において前記減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、前記第1領域及び/又は前記第2領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定すること、
設定された前記配光パターンと、前記第1領域及び/又は前記第2領域に設定された前記照射態様に基づいて、前記車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、
を実行するものであり、
前記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである、
車両用灯具の制御装置。
(付記2)
前記照射態様は、シグモイド曲線又は三次曲線に沿って前記明るさが経時的に変化するものである、
付記1に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記3)
前記コントローラは、前記第1時期から前記第2時期へ至る際の前記減光範囲の移動速度を求め、当該移動速度が所定の閾値未満である場合に前記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定し、当該移動速度が前記閾値以上である場合には記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定しない、
付記1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記4)
前記コントローラは、前記第1時期から前記第2時期へ至る際の前記前方車両の車幅方向での移動速度を求め、当該移動速度が所定の閾値未満である場合に記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定し、当該移動速度が前記閾値以上である場合には記第1領域及び/又は前記第2領域を前記照射態様に設定しない、
付記1又は2に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記5)
前記閾値は、自車両の所定位置を基準にした角度で表した場合に10°/秒である、
付記3又は4に記載の車両用灯具の制御装置。
(付記6)
前記照射態様は、前記明るさを増加させる場合の立ち上がり時間に比べて前記明るさを減少させる場合の立ち下がり時間を相対的に長く設定する、
付記1~5の何れかに記載の車両用灯具の制御装置。
(付記7)
可変配光パターンの車両用灯具の動作を制御するための方法であって、
(a)コントローラが、前方車両の位置に応じた減光範囲と、当該減光範囲の隣に配置される中間調範囲と、当該中間調範囲の隣に配置される光照射範囲とを含む配光パターンを設定すること、
(b)前記コントローラが、第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記減光範囲が当該第1時期に次ぐ第2時期において前記光照射範囲に切り替わる第1領域、及び/又は、前記第1時期に設定された前記配光パターンにおける前記光照射範囲が前記第2時期において前記減光範囲に切り替わる第2領域が生じる場合において、前記第1領域及び/又は前記第2領域の明るさを徐々に変化させる照射態様に設定すること、
(c)前記コントローラが、前記(a)にて設定される前記配光パターンと、前記(b)にて前記第1領域及び/又は前記第2領域に設定される前記照射態様に基づいて、前記車両用灯具へ出力するための制御信号を生成すること、
を含み、
前記(b)において設定される前記照射態様は、始点近傍と終点近傍での明るさの変化量が当該始点と終点の中間における変化量に比べて少ないという経時的変化をするものである、
車両用灯具の制御方法。
(付記8)
付記1~7の何れかに記載の車両用灯具の制御装置と、
前記制御装置に接続された車両用灯具と、
を含む、車両用灯具システム。
【符号の説明】
【0039】
10:コントローラ、11:カメラ、12L、12R:前照灯ユニット、20:車両検出部、21:配光パターン設定部、22:徐変設定部、23:制御信号生成部、102:前方車両、150:光照射範囲、151:減光範囲、R、R1~R10:配光可変領域