(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025085761
(43)【公開日】2025-06-05
(54)【発明の名称】細胞骨格修復剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20250529BHJP
【FI】
C12N5/074
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025044258
(22)【出願日】2025-03-19
(62)【分割の表示】P 2020090561の分割
【原出願日】2020-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山地 史哉
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】三谷 信
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 知佳
(57)【要約】
【課題】
細胞骨格の乱れを修復するための組成物を提供する。
【解決手段】
スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分を有効成分として含み、
前記ハマナス花エキス及び前記ブッチャーブルーム抽出液は水溶性であり、
コルチゾールの存在により細胞骨格が乱れた細胞に対して適用し、細胞内に存在する繊維状のアクチンを再配列することによって、細胞骨格を修復するものであり、
前記細胞がヒト真皮線維芽細胞である、細胞骨格修復剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分を有効成分として含み、
前記ハマナス花エキス及び前記ブッチャーブルーム抽出液は水溶性であり、
コルチゾールの存在により細胞骨格が乱れた細胞に対して適用し、細胞内に存在する繊維状のアクチンを再配列することによって、細胞骨格を修復するものであり、
前記細胞がヒト真皮線維芽細胞である、細胞骨格修復剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乱れた細胞骨格を修復するための、細胞骨格修復剤及びそのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の機能維持にとって、細胞骨格の形態を正常に維持することは、重要である。
【0003】
アクチンは、真核生物の細胞骨格を形成するタンパク質の一種であり、その重合状態は、細胞骨格の安定性や移動性に影響する。
これを利用し、腫瘍の処置のために、アクチンの重合を促進することで、細胞死を引き起こす方法が、従来開発されていた。例えば特許文献1には、細胞内でのアクチン重合を誘導して、細胞の増殖阻害及び/又は細胞死を引き起こすペプチド及びポリペプチドが記載されている。また、このペプチド又はポリペプチドを細胞に導入することによって、細胞内でのアクチン重合を誘導し、増殖阻害及び/又は細胞死を引き起こして、腫瘍を処置する方法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、細胞骨格の乱れを修復する技術を提供することを、課題とする。
【0006】
しかし上述の通り、従来は、アクチンの重合を誘導することの検討しかされておらず、細胞内で重合したアクチンを、細胞内で再配列する技術については、検討されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分を含む、細胞骨格修復剤である。
本発明によれば、乱れた細胞骨格を修復することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、上記スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分を、前記細胞骨格修復剤全体に対して、合計で0.05質量%以上含む。
本発明によれば、乱れた細胞骨格を修復することができる。
【0009】
また、上記課題を解決する本発明は、細胞骨格が乱れたモデル細胞に被験物質を適用する適用工程と、細胞骨格を修復する効果が見られた被験物質を、細胞骨格修復成分として選出する選出工程と、を含む、細胞骨格修復成分のスクリーニング方法である。
本発明によれば、乱れた細胞骨格を修復することができる成分をスクリーニングすることができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、上記選出工程において、細胞内のアクチン分布の均一性が向上している被験物質を、上記細胞骨格修復成分として選出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞骨格の乱れを修復する、細胞骨格修復剤及びそのスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】コルチゾールの存在によって、細胞骨格が乱れることを示す図である。
【
図2】細胞骨格が乱れたモデル細胞を、水溶性の被験物質の存在下で培養したときの、アクチン分布を示す図である。
【
図3】細胞骨格が乱れたモデル細胞を、油溶性の被験物質の存在下で培養したときの、アクチン分布を示す図である。
【
図4】細胞骨格修復成分の細胞骨格修復能の濃度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「細胞骨格が乱れる」とは、内的及び/又は外的要因によって、細胞内のアクチン分布が不均一になることで細胞骨格に変化が生じることにより、細胞の形態が、正常な細胞の形態と比較して崩れることをいう。
ここで、「内的要因」とは、細胞内で起こる現象に起因する、アクチンの重合を促進させる要因であり、例えば特定の物質の過剰な産生を例示することができる。
また、「外的要因」とは、細胞外からの刺激に起因する、アクチンの重合を促進させる要因であり、例えば特定の物質の過剰な分泌を例示することができる。
【0014】
本発明において、「細胞骨格を修復する」とは、乱れた細胞骨格を、正常な細胞の細胞骨格の状態に近づけることを意味する。
【0015】
例えば、細胞内でアクチンが重合し、太い線維状に分布するようになると、細胞骨格は乱れる。
また、細胞内に存在する太い線維状のアクチンを再配列することによって、細胞骨格を修復することができる。
【0016】
本発明の細胞骨格修復剤は、スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分を含む。
上記成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記成分は、日本において自生又は生育された植物、漢方生薬原料などとして販売される日本産のもの用いて、公知の方法で抽出したものを使用してもよく、市販されている抽出物を購入して使用することもできる。
【0018】
上記成分のうち、スイートアルモンド油及びヘーゼルナッツ油を抽出する場合は、低温圧搾法(コールドプレス法)、高温圧搾法、溶媒抽出法等、公知の方法で抽出することができる。
【0019】
上記成分のうち、ハマナス花エキス及びブッチャーブルーム抽出液を抽出する場合は、以下の方法で抽出することができる。
抽出原料となるハマナス花及びブッチャーブルーム(地上部、根茎部、種子、果実及び花弁のいずれでもよい)は、あらかじめ粉砕あるいは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物は、抽出原料又はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、ハマナス花エキス及びブッチャーブルーム抽出液を得ることができる。
【0020】
ハマナス花エキス及びブッチャーブルーム抽出液を抽出するための抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ-ル、イソプロピルアルコ-ル、ブタノ-ルなどのアルコ-ル類、1、3-ブタンジオ-ル、ポリプロピレングリコ-ルなどの多価アルコ-ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフランなどのエ-テル類が好適に例示できる。抽出溶媒は、1種類のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明の細胞骨格修復剤を、油系の剤とする場合には、スイートアルモンド油及び/又はヘーゼルナッツ油を使用することが好ましい。他方、水系の剤とする場合には、ハマナス花エキス及び/又はブッチャーブルーム抽出液を使用することが好ましい。
【0022】
上記スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分は、細胞骨格修復剤全体に対して、合計で0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。
上記成分の含有量を、上記下限値以上とすることで、細胞骨格修復効果が期待できる。
また、上記スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液から選ばれる、少なくとも1つの成分の、細胞骨格修復剤全体に対する含有量の上限値は、剤型等に応じて適宜設定することができるが、3質量%以下が好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明の細胞骨格修復剤は、細胞の機能を向上させるために使用することができる。
【0024】
本発明の細胞骨格修復剤は、外用剤の形態とすることが好ましい。外用剤としては、化粧料、医薬部外品、医薬品などを好適に例示することができる。
また、形態に応じて、流動性や粘弾性等の物性は、適宜調節することができる。
【0025】
本発明の細胞骨格修復剤は、化粧料とすることが好ましい。化粧料としては、例えば、化粧水や乳液等のスキンケア化粧品、ボディーローションやボディクリーム等のボディケア化粧品、日焼け止め等のUVケア化粧品等が挙げられる。細胞骨格の修復という目的から、継続的に使用するスキンケア化粧料とすることが好ましい。
【0026】
本発明の細胞骨格修復剤を、化粧料とする場合、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常化粧料に使用される成分を配合することができる。例えば、美白成分、しわ改善成分、抗炎症成分等が挙げられる。
【0027】
美白成分としては、一般的に化粧料に用いられているものであれば特に限定はない。例えば、4-n-ブチルレゾルシノール、アスコルビン酸グルコシド、3-О-エチルアスコルビン酸、トラネキサム酸、アルブチン、1-トリフェニルメチルピペリジン、1-トリフェニルメチルピロリジン、2-(トリフェニルメチルオキシ)エタノール、2-(トリフェニルメチルアミノ)エタノール、2-(トリフェニルメチルオキシ)エチルアミン、トリフェニルメチルアミン、トリフェニルメタノール、トリフェニルメタン及びアミノジフェニルメタン、N-(o-トルオイル)システイン酸、N-(m-トルオイル)システイン酸、N-(p-トルイル)システイン酸、N-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸、N-ベンゾイル-セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリン、N-(p-エチルベンゾイル)セリン、N-(p-メトキシベンゾイル)セリン、N-(p-フルオロベンゾイル)セリン、N-(p-トリフルオロメチルベンゾイル)セリン、N-(2-ナフトイル)セリン、N-(4-フェニルベンゾイル)セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリンメチルエステル、N-(p-メチルベンゾイル)セリンエチルエステル、N-(2-ナフトイル)セリンメチルエステル、N-ベンゾイル-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-アセチルセリン、N-(2-ナフトイル)-O-メチルセリン、パンテノール、ナイアシンアミド等が挙げられる。
これらの美白成分は、市販されているものを使用することも、合成したものを使用することもできる。また、美白成分の含有量は、化粧料全体に対して通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0028】
しわ改善成分としては、一般的に化粧料に用いられているものであれば特に限定はない。例えば、ビタミンA又はその誘導体としてレチノール、レチナール、レチノイン酸、トレチノイン、イソトレチノイン、レチノイン酸トコフェロール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、ウルソール酸ベンジルエステル、ウルソール酸リン酸エステル、ベツリン酸ベンジルエステル、ベンジル酸リン酸エステル、三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸Na、ナイアシンアミド等が挙げられる。また、しわ改善成分の含有量は、化粧料全体に対して通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0029】
抗炎症成分としては、クラリノン、グラブリジン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、パントテニルアルコール等が挙げられ、好ましくは、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸アルキル及びその塩、並びに、グリチルレチン酸、ナイアシンアミド、トラネキサム酸及びその塩等が挙げられる。また、抗炎症成分の含有量は、化粧料全体に対して通常0.01~30質量%であり、0.1~10質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0030】
上記美白成分、しわ改善成分、抗炎症成分のほか、動植物由来の抽出物(スイートアルモンド油、ハマナス花エキス、ヘーゼルナッツ油、ブッチャーブルーム抽出液を除く)、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、表面処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面処理されていても良い、酸化コバルト、群青、紺青、酸化亜鉛の無機顔料類、表面処理されていても良い、酸化鉄二酸化チタン焼結体等の複合顔料、表面処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテート、ビタミンB6ジオクタノエート、ビタミンB2又はその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類等を含んでいてもよい。
【0031】
本発明は、細胞骨格修復成分のスクリーニング方法にも関する。
本発明のスクリーニング方法は、細胞骨格が乱れたモデル細胞に被験物質を適用する適用工程と、細胞骨格を修復する効果が見られた被験物質を、細胞骨格修復成分として選出する選出工程と、を含む。
【0032】
「細胞骨格が乱れたモデル細胞」とは、上記に定義した「細胞骨格が乱れた」状態、すなわち、内的及び/又は外的要因によって、アクチンが太い繊維状に重合し、細胞内におけるアクチンの分布が不均一になった細胞を指す。
【0033】
「細胞骨格が乱れたモデル細胞」は、例えば、市販されている細胞に対して、細胞内におけるアクチン分布を不均一化させる成分を添加することによって、入手することができる。
また、本発明のスクリーニングに使用する細胞の種類は特に制限はなく、例えば正常ヒト線維芽細胞や正常ヒト角化細胞等を使用することができる。
【0034】
例えば、コルチゾールの存在によって、アクチン分布が不均一化し、細胞骨格が乱れることが知られている(例えば、「培養ヒト皮膚線維芽細胞の機能と形態に及ぼすHydrocortisoneの影響―特に増殖能と細胞骨格,フィブロネクチンに対する影響―」、江川 政昭、日本皮膚科学会雑誌、1986 年 96 巻 12 号 p. 1259-1273)。したがって、コルチゾールを含む培地で細胞を培養することによって、細胞骨格が乱れたモデル細胞を得ることができる。
コルチゾールを使用する場合、例えば50μg/mLの濃度でコルチゾールを含む培地で細胞を培養すれば、上記細胞骨格が乱れたモデルを得ることができる。
【0035】
上記適用工程においては、あらかじめ用意した細胞骨格が乱れたモデル細胞に対して、被験物質を適用する。
被験物質としては特に制限はなく、動植物から抽出した抽出物や、合成した化合物を被験物質としてスクリーニングすることができる。
【0036】
適用工程は、細胞骨格が乱れたモデル細胞に対して被験物質が作用し得る方法で行えばよく、例えば、被験物質を含む培地で、細胞骨格が乱れたモデル細胞を培養することで、適用工程を実施することができる。
また、被験物質を含まない培地で、細胞骨格が乱れたモデル細胞を培養している際に、適当なタイミングで被験物質を投与することでも、適用工程を実施することができる。
【0037】
選出工程においては、細胞骨格が乱れたモデル細胞に適用した結果、細胞骨格を修復する効果があると認められた被験物質を、細胞骨格修復成分として選出する。
例えば、被験物質の適用後に細胞内のアクチン分布を観察した場合に、細胞骨格が乱れたモデル細胞と比較して、アクチン分布の均一性が向上しているときに、当該被験物質を、細胞骨格修復成分として選出することができる。
【0038】
細胞内におけるアクチン分布の観察は、公知の方法で行うことができる。例えば、公知の方法で細胞を固定し、細胞内のアクチンを染色した後、顕微鏡で観察することができる。
【0039】
顕微鏡で観察した場合に、細胞骨格が乱れたモデル細胞におけるアクチン分布と、被験物質を投与した後の細胞におけるアクチン分布を比較して、被験物質を投与した後の細胞のほうが、太い繊維状のアクチンが減少している場合に、アクチン分布の均一性が向上したと判断することができる。
【実施例0040】
以下、実施例を参照して、より具体的に本発明を説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0041】
<試験例1>
本試験例においては、コルチゾールによって、アクチン分布が不均一になり、細胞骨格が乱れることを検証した。
【0042】
試験方法は、以下の通りである。
(1)正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDF)を、5.0×10
3cells/wellとなるようにチャンバーに播種して、10%FBS+抗生物質含有D-MEM培地(1mL/well)で24時間培養した。
(2)培地を除去し、新たにコルチゾール含有培地(コルチゾール濃度:0、1、10、及び50μg/mL)を、1ウェルあたり500μL添加し、24時間培養した。コルチゾールは、コルチゾール原液を100%エタノールで希釈したものを、所定の濃度になるように添加した。
(3)培地を除去し、PBS(-)で洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した(室温、30分間)。
(4)PBS(-)で洗浄後、0.5%TritonX-100/PBSを添加し、室温で10分間静置した。
(5)10%ブロックエースを添加し、30分間静置した後、抗体を添加し、室温で30分静置した。
(6)PBS(-)で洗浄後(5分間洗浄×3回)、超純水で2回洗浄した。
(7)アクチンをPhalloidin、 Rhodamine Conjugate、Actin-stain 535(コスモバイオ社)で、細胞核をDAPI Fluoromount-G(登録商標)でそれぞれ染色、封入して乾燥した後、細胞内のアクチン分布の均一性について、顕微鏡観察を行った。
顕微鏡観察において撮影した写真を、
図1に示す。
【0043】
図1に示す通り、コルチゾールを添加しない(コルチゾール濃度:0μg/mL)培地で培養した場合、アクチンは、特定の方向性を持たずに、細胞内に分布している状態が観察できる。
他方、コルチゾール濃度が50μg/mLの培地で培養した場合には、細胞内では、特定の方向性を持った、太いすじ状のアクチンが細胞内に分布していることが観察できる。
また、細胞内と細胞外の境界があいまいになっていることが確認できる。
本試験例より、細胞内においてアクチンが太い線維状に分布することにより、細胞骨格が乱れることが示された。
【0044】
<試験例2>
本試験例においては、細胞骨格が乱れたモデル細胞に対して被験物質を投与し、アクチン分布の均一性を観察することにより、細胞骨格修復成分をスクリーニングした。
【0045】
試験方法は、以下の通りである。
(1)正常ヒト真皮線維芽細胞を、5.0×10
3cells/wellとなるようにチャンバーに播種して、10%FBS+抗生物質含有D-MEM培地(1 mL/well)で24時間培養した。
(2)培地を除去し、コルチゾール含有培地(コルチゾール濃度:50μg/mL)を、1ウェルあたり500μL添加して24時間培養した。
(3)培地を除去し、被験物質を添加した培地を1ウェルあたり500μL添加して24時間培養した。被験物質の濃度は、当該被験物質の細胞毒性により決定した。
(4)培地を除去し、PBS(-)で洗浄後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定した(室温、10分間)。
(5)PBS(-)で洗浄後、0.5%TritonX-100/PBSを添加し、室温で10分間静置した。
(6)10%ブロックエースを添加し30分間静置した後、抗体を添加し、室温で30分間静置した。
(7)PBS(-)で洗浄後(5分間×3回)、超純水で2回洗浄した。
(8)アクチンをPhalloidin、 Rhodamine Conjugate、
Actin-stain 535(コスモバイオ社)で、細胞核をDAPI Fluoromount-G(登録商標)でそれぞれ染色、封入して乾燥した後、細胞内のアクチン分布の均一性について、顕微鏡観察を行った。
顕微鏡観察において撮影した写真を、
図2及び
図3に示す。
【0046】
図2に示した通り、ハマナス花エキス、及びブッチャーブルーム抽出液を添加した培地で培養した細胞においては、コルチゾール含有培地で培養した細胞(細胞骨格が乱れたモデル細胞)においてみられた太い線維状のアクチンが減少し、細胞内でのアクチン分布の均一性が向上していた。
一方、その他の被験物質を添加した培地で培養した細胞では、太い線維状のアクチンが減少しておらず、細胞内でのアクチン分布の均一性に、変化はなかった。
【0047】
図3に示した通り、スイートアルモンド油及びヘーゼルナッツ油を添加した培地で培養した細胞においては、コルチゾール含有培地で培養した細胞(細胞骨格が乱れたモデル細胞)においてみられた太い線維状のアクチンが減少し、細胞内でのアクチン分布の均一性が向上していた。
一方、その他の被験物質を添加した培地で培養した細胞では、太い線維状のアクチンが減少しておらず、細胞内でのアクチン分布の均一性に、変化はなかった。
【0048】
上記の通り、ハマナス花エキス、ブッチャーブルーム抽出液、スイートアルモンド油及びヘーゼルナッツ油は、細胞内におけるアクチン分布の均一性を向上させることから、上記4成分を細胞骨格修復成分として選出した。
【0049】
<試験例3>
本試験例においては、上記試験例2で細胞骨格修復成分として選出したハマナス花エキス、ブッチャーブルーム抽出液、スイートアルモンド油及びヘーゼルナッツ油について、細胞骨格修復能の濃度依存性を試験した。
【0050】
上記試験例2の(3)において、被験物質をハマナス花エキス、ブッチャーブルーム抽出液、スイートアルモンド油及びヘーゼルナッツ油とし、各成分について、培地中の濃度を0%、0.05%、0.1%及び0.3%とした以外は、試験例2と同様にして、細胞内でのアクチン分布の均一性を評価した。
結果を
図4に示す。
【0051】
図4に示された通り、ハマナス花エキス及びスイートアルモンド油は0.05%以上で、ブッチャーブルーム抽出液及びヘーゼルナッツ油は0.1%以上で、細胞内でのアクチン分布の均一性を向上させる効果を示すことが明らかになった。