(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008605
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】物流計画作成方法及び物流計画作成装置
(51)【国際特許分類】
B21B 39/00 20060101AFI20250109BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B21B39/00 J
B21B37/00 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110907
(22)【出願日】2023-07-05
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】山元 隼
(72)【発明者】
【氏名】吉成 有介
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA01
4E124BB07
4E124BB18
(57)【要約】
【課題】操業の成立を担保した上で省エネルギーに寄与する物流計画を作成できる物流計画作成方法及び物流計画作成装置が提供される。
【解決手段】物流計画作成方法は、入力情報を取得することと、連続鋳造機から抽出された際のスラブの表面温度と、スラブヤードでの初期在庫情報と、連続鋳造機による製鋼プロセスと圧延プロセスとの間の設備諸元値と、に基づいて、スラブの加熱炉への装入温度を更新することと、加熱炉への装入計画に基づいて、スラブヤードの物流計画の候補を作成することと、物流計画の候補に対してシミュレーションを実行し、加熱制約を考慮して物流計画を選択することと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延機でスラブに熱間圧延を行う圧延プロセスにおいて、連続鋳造機から抽出されて加熱炉に装入されるスラブ又は前記加熱炉からの抽出後に前記熱間圧延を行わずに再び前記加熱炉に装入されるスラブを保管するスラブヤードの物流計画を作成する物流計画作成方法であって、
在庫情報、鋳造情報、加熱情報、圧延情報及び設備情報を含む入力情報を取得することと、
前記鋳造情報に含まれる前記連続鋳造機から抽出された際のスラブの表面温度と、前記在庫情報に含まれる前記スラブヤードでの初期在庫情報と、前記設備情報に含まれる、前記連続鋳造機による製鋼プロセスと前記圧延プロセスとの間の設備諸元値と、に基づいて、スラブの前記加熱炉への装入温度を更新することと、
前記加熱情報及び前記圧延情報に含まれる前記加熱炉への装入計画に基づいて、前記スラブヤードの物流計画の候補を作成することと、
前記物流計画の候補に対してシミュレーションを実行し、加熱制約を考慮して物流計画を選択することと、を含む、物流計画作成方法。
【請求項2】
前記加熱制約の考慮は、前記加熱炉へのスラブの装入温度の向上に関する項と前記加熱炉で隣接するスラブの装入温度の差の低減に関する項を含む評価式に基づいて物流計画を選択することによって行われる、請求項1に記載の物流計画作成方法。
【請求項3】
前記物流計画の候補を作成することは、クレーンの掴み制約及び山積みの制約を考慮して実行される、請求項1又は2に記載の物流計画作成方法。
【請求項4】
前記装入温度の更新は、スラブ間の熱移動はないものとするスラブの放熱モデル式を用いる前記加熱炉へのスラブの装入温度の予測計算によって行われる、請求項1又は2に記載の物流計画作成方法。
【請求項5】
前記放熱モデル式は、前記加熱炉に装入されるまでの滞留時間と、前記加熱炉への装入時におけるスラブ温度予測値とスラブ温度実績値の差分と、に基づく回帰式である、請求項4に記載の物流計画作成方法。
【請求項6】
熱間圧延機でスラブに熱間圧延を行う圧延プロセスにおいて、連続鋳造機から抽出されて加熱炉に装入されるスラブ又は前記加熱炉からの抽出後に前記熱間圧延を行わずに再び前記加熱炉に装入されるスラブを保管するスラブヤードの物流計画を作成する物流計画作成装置であって、
在庫情報、鋳造情報、加熱情報、圧延情報及び設備情報を含む入力情報を取得する取得部と、
前記鋳造情報に含まれる前記連続鋳造機から抽出された際のスラブの表面温度と、前記在庫情報に含まれる前記スラブヤードでの初期在庫情報と、前記設備情報に含まれる、前記連続鋳造機による製鋼プロセスと前記圧延プロセスとの間の設備諸元値と、に基づいて、スラブの前記加熱炉への装入温度を更新し、
前記加熱情報及び前記圧延情報に含まれる前記加熱炉への装入計画に基づいて、前記スラブヤードの物流計画の候補を作成し、
前記物流計画の候補に対してシミュレーションを実行し、加熱制約を考慮して物流計画を選択する演算部と、を備える、物流計画作成装置。
【請求項7】
前記加熱制約の考慮は、前記加熱炉へのスラブの装入温度の向上に関する項と前記加熱炉で隣接するスラブの装入温度の差の低減に関する項を含む評価式に基づいて物流計画を選択することによって行われる、請求項6に記載の物流計画作成装置。
【請求項8】
前記物流計画の候補を作成することは、クレーンの掴み制約及び山積みの制約を考慮して実行される、請求項6又は7に記載の物流計画作成装置。
【請求項9】
前記装入温度の更新は、スラブ間の熱移動はないものとするスラブの放熱モデル式を用いる前記加熱炉へのスラブの装入温度の予測計算によって行われる、請求項6又は7に記載の物流計画作成装置。
【請求項10】
前記放熱モデル式は、前記加熱炉に装入されるまでの滞留時間と、前記加熱炉への装入時におけるスラブ温度予測値とスラブ温度実績値の差分と、に基づく回帰式である、請求項9に記載の物流計画作成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物流計画作成方法及び物流計画作成装置に関する。本開示は、特に熱間圧延を行う圧延プロセスの前において、スラブの加熱炉への装入時の状態を考慮して物流計画を作成する物流計画作成方法及び物流計画作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼プロセスで鋳造されたスラブ(鋳片)の多くは、圧延されるまで、一旦スラブを放熱したまま保管するヤード(以下、スラブヤード)に保管される。スラブは物流計画に組み込まれた後に圧延加工できる温度まで加熱炉で再加熱してから圧延される。スラブはスラブヤードに保管されている間に、輻射及び熱伝達によって放熱が進み、温度が低下する。スラブを可能な限り高温の状態で再加熱することは、製造能率の向上だけでなく、放熱抑止による省エネルギーの観点からも有用である。
【0003】
特許文献1には、スラブのトーチカット時刻、連続鋳造時のスラブ温度、搬送計画及びスラブヤードでの山積み情報からスラブの温度推移を計算し、スラブの加熱炉装入温度を予測する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2の技術は、冷却すべきスラブと加熱すべきスラブが混在して保管されているスラブヤードで、それら鋼片を相互に重ね合わせで保持する際に各鋼片の現時点の温度と目標温度との差をコスト関数として表現する。コスト関数が小さくなるように各鋼片の重ね合わせ状態を決定し、その決定された重ね合わせ状態に従って鋼片の配替えが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6380510号公報
【特許文献2】特許第6354952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術はスラブ装入温度を予測するものであって、さらに装入温度を向上させる手段を提供するものでない。また特許文献2の技術は、ヤード内のスラブ全体の温度を向上させることを目標とする搬送計画ガイダンスを実施できるが、コスト関数がスラブヤードの搬送負荷までを考慮するものでない。
【0007】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、操業の成立を担保した上で省エネルギーに寄与する物流計画を作成できる物流計画作成方法及び物流計画作成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の一実施形態に係る物流計画作成方法は、
熱間圧延機でスラブに熱間圧延を行う圧延プロセスにおいて、連続鋳造機から抽出されて加熱炉に装入されるスラブ又は前記加熱炉からの抽出後に前記熱間圧延を行わずに再び前記加熱炉に装入されるスラブを保管するスラブヤードの物流計画を作成する物流計画作成方法であって、
在庫情報、鋳造情報、加熱情報、圧延情報及び設備情報を含む入力情報を取得することと、
前記鋳造情報に含まれる前記連続鋳造機から抽出された際のスラブの表面温度と、前記在庫情報に含まれる前記スラブヤードでの初期在庫情報と、前記設備情報に含まれる、前記連続鋳造機による製鋼プロセスと前記圧延プロセスとの間の設備諸元値と、に基づいて、スラブの前記加熱炉への装入温度を更新することと、
前記加熱情報及び前記圧延情報に含まれる前記加熱炉への装入計画に基づいて、前記スラブヤードの物流計画の候補を作成することと、
前記物流計画の候補に対してシミュレーションを実行し、加熱制約を考慮して物流計画を選択することと、を含む。
【0009】
(2)本開示の一実施形態として、(1)において、
前記加熱制約の考慮は、前記加熱炉へのスラブの装入温度の向上に関する項と前記加熱炉で隣接するスラブの装入温度の差の低減に関する項を含む評価式に基づいて物流計画を選択することによって行われる。
【0010】
(3)本開示の一実施形態として、(1)又は(2)において、
前記物流計画の候補を作成することは、クレーンの掴み制約及び山積みの制約を考慮して実行される。
【0011】
(4)本開示の一実施形態として、(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記装入温度の更新は、スラブ間の熱移動はないものとするスラブの放熱モデル式を用いる前記加熱炉へのスラブの装入温度の予測計算によって行われる。
【0012】
(5)本開示の一実施形態として、(4)において、
前記放熱モデル式は、前記加熱炉に装入されるまでの滞留時間と、前記加熱炉への装入時におけるスラブ温度予測値とスラブ温度実績値の差分と、に基づく回帰式である。
【0013】
(6)本開示の一実施形態に係る物流計画作成装置は、
熱間圧延機でスラブに熱間圧延を行う圧延プロセスにおいて、連続鋳造機から抽出されて加熱炉に装入されるスラブ又は前記加熱炉からの抽出後に前記熱間圧延を行わずに再び前記加熱炉に装入されるスラブを保管するスラブヤードの物流計画を作成する物流計画作成装置であって、
在庫情報、鋳造情報、加熱情報、圧延情報及び設備情報を含む入力情報を取得する取得部と、
前記鋳造情報に含まれる前記連続鋳造機から抽出された際のスラブの表面温度と、前記在庫情報に含まれる前記スラブヤードでの初期在庫情報と、前記設備情報に含まれる、前記連続鋳造機による製鋼プロセスと前記圧延プロセスとの間の設備諸元値と、に基づいて、スラブの前記加熱炉への装入温度を更新し、
前記加熱情報及び前記圧延情報に含まれる前記加熱炉への装入計画に基づいて、前記スラブヤードの物流計画の候補を作成し、
前記物流計画の候補に対してシミュレーションを実行し、加熱制約を考慮して物流計画を選択する演算部と、を備える。
【0014】
(7)本開示の一実施形態として、(6)において、
前記加熱制約の考慮は、前記加熱炉へのスラブの装入温度の向上に関する項と前記加熱炉で隣接するスラブの装入温度の差の低減に関する項を含む評価式に基づいて物流計画を選択することによって行われる。
【0015】
(8)本開示の一実施形態として、(6)又は(7)において、
前記物流計画の候補を作成することは、クレーンの掴み制約及び山積みの制約を考慮して実行される。
【0016】
(9)本開示の一実施形態として、(6)から(8)のいずれかにおいて、
前記装入温度の更新は、スラブ間の熱移動はないものとするスラブの放熱モデル式を用いる前記加熱炉へのスラブの装入温度の予測計算によって行われる。
【0017】
(10)本開示の一実施形態として、(9)において、
前記放熱モデル式は、前記加熱炉に装入されるまでの滞留時間と、前記加熱炉への装入時におけるスラブ温度予測値とスラブ温度実績値の差分と、に基づく回帰式である。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、操業の成立を担保した上で省エネルギーに寄与する物流計画を作成できる物流計画作成方法及び物流計画作成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る物流計画作成方法が適用される製造ラインを例示する図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る物流計画作成装置の構成例及び物流計画作成方法の処理のフローを示す図である。
【
図4A】
図4Aは、スラブの熱移動を説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、スラブの熱移動を説明するための図である。
【
図4C】
図4Cは、スラブの熱移動を説明するための図である。
【
図5】
図5は、物流計画候補を決定する処理を示す図である。
【
図6】
図6は、配替え対象材に関する候補群を作成する処理の流れを示す図である。
【
図7】
図7は、実行可能な配替え順候補を決定する処理を示す図である。
【
図8】
図8は、スラブ幅差を説明するための図である。
【
図9】
図9は、実行可能な物流計画候補を決定する処理を示す図である。
【
図11】
図11は、補正式適用の有無による誤差の違いを示す図である。
【
図15】
図15は、スラブヤード内の山積み制約に関する基準テーブルである。
【
図16】
図16は、スラブヤード内のスラブについての情報を示す。
【
図21】
図21は、パターンP1の物流計画候補を示す図である。
【
図22】
図22は、パターンP2の物流計画候補を示す図である。
【
図23】
図23は、パターンP3の物流計画候補を示す図である。
【
図25】
図25は、パターンP1に基づく装入計画に関する情報を示す。
【
図26】
図26は、パターンP3に基づく装入計画に関する情報を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示の一実施形態に係る物流計画作成方法及び物流計画作成装置10(
図3参照)が説明される。
【0021】
図1は、本実施形態に係る物流計画作成方法が適用される製造ラインを例示する図である。連続鋳造機で溶鋼から鋳造して得られるスラブは、トラバース台車によって熱間圧延工場のラインに向かう。各スラブは熱間圧延機で圧延加工される前に、加熱炉で加熱される。ここで、熱間圧延工場に到着したスラブは、到着後に搬送テーブルを経由してそのまま加熱炉に装入される直送材と、スラブヤードに一時保管された後で装入される非直送材に分かれる。スラブヤードでは到着したスラブを一時的に仮置きすることができる。
【0022】
図2はスラブヤードの概略図である。非直送材をスラブヤードに搬入して仮置きする場合に、トラバース台車上のスラブはクレーンにより持ち上げられた後、スラブヤードの内部(以下「ヤード内」と称することがある)に山積みされる。ヤード内のスラブは圧延計画に組み込まれ、次に加熱炉へ装入する順番になるタイミングでクレーンによりヤードからトラバース台車上に払い出されて加熱炉に装入される。払い出しの際に、山の最上段に対象のスラブが無い場合に、対象のスラブより上段に積まれているスラブを他の山へ移す配替え作業が行われ、その後に払い出し作業が行われる。配替えによって、連続鋳造機からの到着順とは異なる順序でスラブを加熱炉に装入することが可能になる。加熱炉へ装入されたスラブは、適切な温度まで昇温された後、加熱炉から抽出される。加熱炉において先入れ先出しでスラブが抽出されて、熱間圧延される。
【0023】
図3は、本実施形態に係る物流計画作成装置10の構成例を示す図であって、矢印で物流計画作成装置10が実行する物流計画作成方法の処理のフローを示している。上記のように、物流計画作成装置10は、熱間圧延機でスラブに熱間圧延を行う圧延プロセスにおいて、スラブヤードの物流計画を作成する。スラブヤードには、非直送材として、連続鋳造機から抽出されて加熱炉に装入されるスラブ又は加熱炉からの抽出後に熱間圧延を行わずに再び加熱炉に装入されるスラブが保管される。本実施形態において、物流計画作成方法が適用される製造ラインでは、連続鋳造機による製鋼プロセスと、連続鋳造機によって鋳造されたスラブを熱間圧延機で熱間圧延を行う圧延プロセスと、の同期操業が行われている。
【0024】
物流計画作成装置10は、取得部11と、演算部12と、出力部13と、を備える。物流計画作成装置10は、ハードウェア構成として、例えばコンピュータであってよい。また、物流計画作成装置10は、以下のようなソフトウェア構成を有してよい。物流計画作成装置10の動作の制御に用いられる1つ以上のプログラムが、物流計画作成装置10からアクセス可能な記憶装置に記憶される。記憶装置に記憶されたプログラムは、物流計画作成装置10が備えるプロセッサ(例えばCPUなど)によって読み込まれると、プロセッサを取得部11、演算部12及び出力部13として機能させる。
【0025】
物流計画作成装置10は上位システム20と通信可能であるように構成されている。上位システム20は、例えば連続鋳造及び熱間圧延を含む製造ラインの管理及び制御を実行するシステムであって、例えば物流計画作成装置10と異なるコンピュータで構成されてよい。物流計画作成装置10は、物流計画作成の演算(シミュレーション、モデルを用いた装入温度予測等)に必要な、後述の入力情報を含む各種のデータを上位システム20から取得する。また、物流計画作成装置10は、作成した物流計画を含む演算の結果を上位システム20に出力する。
【0026】
取得部11は入力情報を取得する。入力情報は、在庫情報、鋳造情報、加熱情報、圧延情報及び設備情報を含む。在庫情報は、スラブヤードにあるスラブ及び移動中のスラブなどの情報を含む。在庫情報は、演算部12が物流計画作成の演算開始時のスラブヤードにおける在庫の情報である初期在庫情報を含む。鋳造情報は、鋳造されたスラブの寸法及び鋼種などの情報を含む。また鋳造情報はトーチカット時のスラブの表面温度の情報を含む。トーチカット時の表面温度は、連続鋳造機で鋳造されて所定の長さにトーチカットされたスラブの表面温度であって、連続鋳造機から抽出された際の表面温度と称して説明することがある。加熱情報は、加熱炉内のスラブ及び加熱状況などを含む。加熱情報は加熱炉への装入計画の一部を構成する加熱炉装入予定時刻を含む。また、加熱情報は加熱炉装入前におけるスラブの温度実績値(温度実測値)を含んでよい。圧延情報は圧延計画及び圧延上の制約を含む。加熱炉への装入計画は圧延計画の一部を構成し得る。圧延計画は、例えば上位システム20によって公知の計画作成手法によって作成されてよい。物流計画作成装置10は圧延計画などから加熱炉への装入計画を抽出して、加熱炉への装入計画に従い、かつ、操業可能であるようにスラブヤードの物流計画を作成できる。設備情報は、各設備の故障有無、設備能力諸元及び置場制約などを含む。
【0027】
演算部12は、取得部11から入力情報を受け取り、物流計画を作成するための演算を実行する。本実施形態において、演算は物流のシミュレーションを含む。演算部12はシミュレーションによって操業が成立するかを判定し、成立しないと判定した候補については除外する処理を実行してよい。演算部12のシミュレーションを実行する機能部をシミュレータ部(物流シミュレータ)と称して説明することがある。演算部12が実行する演算はシミュレーションに限定されず、物流計画の作成に関連する様々な演算、判定及び決定などを実行し得る。本実施形態において、演算部12はモデル(計算式)を用いてスラブ装入温度を予測する。また、演算部12は後述の最適化を実行することができる。演算部12のモデルを用いた算出及び最適化を行う機能部をモデル部と称して説明することがある。
【0028】
出力部13は演算部12による演算の結果を出力する。結果は、演算部12によって作成された候補の中から選択された物流計画を含む。演算部12によって選択された物流計画を受け取って、その物流計画に従って製造ラインが制御されることによって、製造能率の向上及び放熱抑止による省エネルギーを実現することができる。
【0029】
以下、演算部12における処理の概要が説明される。モデル部はイベント(例えば計画変更)に応じたタイミング又は定期的なタイミングでヤード内の物流計画の候補を作成する。ここで、概算スラブヤード前到着時刻及びヤード払い出し時刻限界時刻が定義される。概算スラブヤード前到着時刻は、スラブがトラバース台車を経由してスラブヤード前に到着する時刻を、過去の実績等を用いて算出した値である。また、ヤード払い出し時刻限界時刻は加熱炉への装入予定時刻に間に合うスラブの払い出し時刻であり、過去の実績等を用いて算出した値である。詳細に述べると、ヤード払い出し時刻限界時刻は、過去の実績等の払い出し命令から加熱炉前に到着するまでのリードタイムから算出される。モデル部は作成した物流計画の候補をシミュレータ部に渡す。ここで、モデル部は、明らかに実行不可能な候補を除いた上で、シミュレータ部に物流計画の候補を渡すことが好ましい。
【0030】
シミュレータ部は、待ち行列を含む処理ロジックに基づく離散事象モデルによって、渡された物流計画の各候補について物流シミュレーションを行う。シミュレータ部は、ヤード内の配替えを含む物流計画の候補について、例えば装入予定時刻に対して配替えが間に合わない、クレーン稼働能力が足りないといった計画を実行不可能として候補群から除く。また、トーチカット時刻及び設備諸元値に基づいて、非直送材のスラブヤード到着時刻をシミュレーションし、到着時に受入が可能な山を計算し、可能な山の数だけ候補群を作成する。シミュレータ部は、候補群の各搬送命令の実施時刻をシミュレーション結果に合わせて補正した上で、実行可能計画候補とする。実行可能計画候補はモデル部に送信される。
【0031】
モデル部は補正された搬送時刻に合わせて温度推移を更新し、装入温度を予測する。モデル部は装入温度予測から得られる各スラブ温度に対して、装入に関する関数(評価式)を設定し、最適化計算を実施して、最終的に1つの物流計画を選択し、出力部13を介して出力する。
【0032】
以下、処理の詳細が説明される。モデル部での物流計画の候補の作成は、各スラブの概算スラブヤード前到着時刻、各スラブの加熱炉装入予定時刻、装入計画更新時、鋳造後スラブの直送又は非直送材の判定時、一定間隔の時間刻み等に該当するタイミングで実行されてよい。物流計画は、装入のための配替えのパターンを含む。配替えで移動させる装入対象(以下、配替え対象材)より上段に積まれたスラブは、移動後に元の山に戻されてよいし、移動させたままでよい。物流計画の候補における配替えの作成では、クレーンの掴み制約及び山積みの制約が考慮される。
図5は、物流計画候補を決定する処理を示し、
図5の流れで配替えの候補も作成される。モデル部は、
図5のハンドリング候補群作成の処理について、入力情報で与えられるクレーン制約の諸元値を読み込み、配替え対象材に対してどのような組み合わせでクレーン移動できるかを
図6に従って作成する。クレーン掴み幅差制約、クレーン掴み長差制約は、それぞれ後述のスラブの幅差、長さの差についてのクレーンの掴み制約である。クレーン掴み重量制約は、スラブの重量についてのクレーンの掴み制約である。クレーン掴み厚制約は、スラブの厚さについてのクレーンの掴み制約である。モデル部は、これらの制約が全て満たされるハンドリング候補群(すなわち配替え対象材及び配替え対象材を運ぶ装置の候補群)を作成する。この段階で、配替えの順番は考慮されず、配替え対象材を同時に何枚搬送するかとの観点でハンドリング候補群が作成される。モデル部は、作成された候補群に対して、
図7の処理を実行する。つまり、モデル部は、配替え順候補を作成し、実行可能な配替え先の山を各種制約で絞る。モデル部は、複数の配替え先の山がある場合に、その中からより近い山を選択してよい。これによりハンドリング負荷を局所的に最小化することができる。各種制約は、山を積む際の幅及び長さの制約を含む。例えばスラブ幅差は、
図8のように山の上位のスラブ幅ω
1と下位のスラブの中で最小幅スラブω
2を比較して、ω
1-ω
2と定められる。この幅差が与えられた最大許容幅差以下であることが幅の制約となる。長さについても同様の制約がある。また、高さについては最大許容高さ以下であるように制約がある。モデル部は山積み制約に関する基準テーブル(
図15参照)を読み込み、山積みの制約を考慮して配替えの候補を絞り込む。
【0033】
シミュレータ部では、モデル部から送られた各パターンで配替えのシミュレーションを実施して、装入時刻に合わせて装入対象材の払い出しについても検証する。シミュレータ部は、装入対象材の払い出しが間に合わない物流計画の候補を削除する。また、受入可能な山を判定するため、シミュレータ部は、非直送材の到着時刻を考慮してシミュレーションを行い、
図9のように受け入れ可能な山がない計画候補を削除する。シミュレータ部は、これらの処理で絞られた候補群を実行可能計画候補とする。また、シミュレータ部は、シミュレーション結果に基づいて、各計画の搬送命令予測実施時刻を決定する。決定された搬送命令予測実施時刻を含む実行可能計画候補は、モデル部へ送られる。
【0034】
モデル部は、シミュレータ部からの実行可能計画候補に対して、以下の式(1)~(3)を用いて装入温度の予測計算を行う。
【0035】
【0036】
ここで、Ttは時刻tのスラブ表面温度(℃)である。Tt-τは時刻t-τのスラブ表面温度(℃)である。Δτは温度更新の刻み時間(秒)である。Cpはスラブの比熱(kJ/(kg・K))である。Wはスラブの重量(kg)である。Sはスラブの表面積(m2)である。θはスラブ表面温度(℃)である。Taはスラブ雰囲気温度(℃)である。σはステファンボルツマン定数(5.67×10-8E/(m2K4))である。εはスラブの放射率である。αはスラブと雰囲気間の熱伝達率(W/(m2K))である。Dはスラブ厚(m)である。λは熱伝導率(W/(mK))である。Tはスラブの断面平均温度(℃)である。
【0037】
式(1)及び式(2)はスラブの放熱モデル式であって、定常熱伝導の式、フーリエの法則又はニュートンの冷却測に基づいて得られる。また式(3)はスラブ表面温度と断面平均温度の換算を行う式である。ここで、スラブ間の熱移動はないものとしており、スラブの表面積Sは積まれているスラブの位置によって
図4A~
図4Cのように変化する。
図4Aは、スラブがヤード内で、山積みの中段に位置し、横の4面から熱移動することを示す。Dは、山においてスラブを積み上げる方向(高さ方向)のスラブの長さであって、上記のスラブ厚である。Wはスラブの幅方向の長さ、すなわちスラブ幅である。Lはスラブの高さ方向及び幅方向に直交する方向の長さ、すなわちスラブ長である。
図4Bは、スラブがヤード内で、山積みの最上段又は最下段に位置し、横の4面及び上又は下の1面の計5面から熱移動することを示す。
図4Cは、スラブがヤード内で1つだけで山を構成しており、横の4面及び上下の2面の計6面から熱移動することを示す。
【0038】
また、スラブ雰囲気温度(T
a)は過去の実績値による推測値など、定数として与えられる。スラブの比熱(C
p)及び熱伝導率(λ)は、一般に炭素濃度及び温度への依存性が知られている。そのため、スラブの比熱(C
p)及び熱伝導率(λ)は、
図12のようなスラブの炭素濃度毎にまとめられた物性値テーブルを用いて決定される。ここで、スラブの比熱(C
p)及び熱伝導率(λ)は、物性値テーブルにない温度又は炭素濃度の場合に、線形補間によって決定されてよい。スラブの断面平均温度(T)がT
1、T
2の間に位置する場合、補間で用いられる重み係数q
1、q
2は式(4)(5)を用いて行われる。
【0039】
【0040】
また、
図12のようなテーブルが炭素濃度c
A、c
B、c
Cに対して存在する場合に、重み係数p
A、p
B、p
Cは
図13のように表される。例えば熱伝導率λについて、補間式は(6)のように表される。
【0041】
【0042】
ここで、λn1(n=A、B、C)は炭素濃度cnのテーブルにおける、温度T1の熱伝導率の値である。また、λn2(n=A、B、C)は炭素濃度cnのテーブルにおける、温度T2の熱伝導率の値である。
【0043】
モデル部は以下の式(7)を用いて最適化を行う。ここで、式(7)は各スラブの装入温度の最大化及び燃焼制御の負荷低減を考慮している。すなわち式(7)のような評価式で最大値又は最小値(本実施形態では最小値)を取る物流計画を選択することが、加熱制約を考慮することに対応する。ここで、式(7)の評価式を用いる場合に、準最適解が最適値と評価されてよい。つまり、必ずしも最大値又は最小値でなくても、評価式の値が最大値の近傍又は最小値の近傍であれば最適値と評価してよい。このように、加熱制約の考慮は、評価式に基づいて物流計画を選択することによって行われる。式(7)の第1項は加熱炉で隣接するスラブの装入温度の差の低減に関する項である。また、式(7)の第2項は加熱炉へのスラブの装入温度の向上に関する項である。
【0044】
【0045】
ここで、Iは装入順が決定済みのスラブの集合を表している。またTiはスラブ「i」の装入温度(℃)である。最適化は、各物流計画に対して全てのスラブ温度を計算するため、全探索で最良解を導出することができる。以上の方法により、物流を考慮したうえで、装入に関して最適化された計画を選択することができる。このことによって、製造能率の向上及び放熱抑止による省エネルギーの実現が可能になる。
【0046】
以下、本開示の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
図14は設備緒元値を示す。
図15はスラブヤード内の山積み制約に関する基準テーブルを示す。
図16は入力情報の読み込み時のスラブヤード内に置かれたスラブ属性及びスラブの位置情報を示す。
図16はスラブヤードでの初期在庫情報に対応する。スラブは各スラブに固有の番号であるスラブ番号で区別される。例えばスラブ番号が5であるスラブは、スラブ「5」のように表記される。また、スラブヤード内の山は最大で7つであり、山名(山の名称)をそれぞれトラバース台車側からD1、D2、…、D7のように定める。1つの山には最大で9枚のスラブが積み上げられる。また、山におけるスラブの積順は、最下段を1とする。例えばある山において、下から3番目のスラブの積順は3である。スラブヤード内の雰囲気温度(スラブ雰囲気温度)は700℃に設定されている。搬送テーブルは区分けして管理され、区分けされた搬送テーブルがTB1、TB2…のように名称を有する。
【0048】
図17は計画更新の起点である2021/8/1の8:00:00における鋳造予定計画に関する情報を示す。
図18は計画更新の起点における装入計画に関する情報を示す。直送材は直送材(直/非)の欄で「直」と示されている。また非直送材は直送材(直/非)の欄で「非直」と示されている。物流計画の更新は、鋳造情報及び装入情報から得られる概算スラブヤード前到着時刻、スラブヤード内の各装入対象スラブのヤード払い出し時刻限界時刻のタイミングで行われてよい。本実施例において、2021/8/1の8:05:00に、装入計画が
図19に更新されたとする。
図19の装入計画に対して、配替えが必要なスラブは
図16よりスラブ「4」である。つまり、スラブ「4」は積順が1であって山(D2)の一番下に配置されている。配替え対象材は山(D2)に積まれている他のスラブ「5」、スラブ「6」である。
図14のクレーン制約に基づいて、
図20のP1、P2のようにスラブ「6」を搬送した後、スラブ「5」を搬送するハンドリングが作成される。また、
図20のP3のようにスラブ「5」とスラブ「6」を同時に搬送するハンドリングも含めて計3パターンが作成される。
【0049】
次に、各ハンドリングから搬送が可能な配替え候補が作成される。山積み基準値テーブルから配替え先として可能な山を絞り込み、各ハンドリングの命令毎に、
図10のように配替え先として可能な山のうち最も搬送距離の小さい山が選択される。ここで、
図10において「D」がスラブ「4」に、「E」がスラブ「5」に、「F」がスラブ「6」に対応する。
【0050】
シミュレータ部は、3パターンについての物流シミュレーションを実行する。P1、P2については、非直送材をD4に受け入れて、
図21-
図22の搬送命令予測実施時刻を含んだ物流計画候補が得られた。また、P3については、
図23の物流計画候補が得られた。ここで、P2は装入予定時刻に対してスラブ「5」の払出が間に合っていないため、候補から削除された。したがって、P1、P3が実行可能な計画候補として扱われた。モデル部はP1、P3について装入温度を予測した。上記の式及び
図24の物性値テーブルを用いて計算が行われて、P1、P3について
図25、
図26の装入計画情報が得られた。式(7)を用いる最適化の計算により、P1の評価値は式(8)で計算された。また、P3の評価値は式(9)で計算された。
【0051】
【0052】
その結果、P3の物流計画が選択された。ここで、装入予測温度に対して、さらに装入時に実際に測定した温度をフィードバックすることによって、予測値と実績値から装入温度予測計算の式を、式(10)及び式(11)とすることができる。
【0053】
【0054】
ここで、cは予測温度と実測温度の差分から得られる予測誤差の補正を意味する。t(分)はトーチ切断時刻から装入温度実測時刻までのリードタイムである。α、βは、各スラブから得られる予測誤差の回帰式に関するパラメータである。このパラメータは最小二乗法などから求めることができる。つまり、式(10)及び式(11)は鋳造後又は加熱炉から抽出後から、加熱炉に装入されるまでのスラブの滞留時間と、加熱炉への装入時におけるシミュレーションでのスラブ温度予測値とスラブ温度実績値の差分と、に基づく回帰式である。
【0055】
図26の最良解を実行した際に、
図27の装入温度の実績値が得られた。このとき、α=-0.0646、β=4.0096が得られた。式(10)及び式(11)を用いて装入温度を補正することで、予測温度の誤差を低減することができる。長期間(2021/11/15~2022/1/4)において、この補正式の適用前後での装入温度予測値と実績値との誤差を比較したところ、
図11に示すように補正式適用によってRMSEが改善したことが確認された。
図11の横軸はt(分)である。
図11の縦軸は装入温度予測値と実績値の誤差(℃)である。
図11の左図が補正式を適用しない場合を示し、右図が補正式を適用した場合を示す。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る物流計画作成方法及び物流計画作成装置10は、上記の工程及び構成によって、操業の成立を担保した上で省エネルギーに寄与する物流計画を作成できる。物流シミュレーションによる検証によって多段プロセスを含めて操業の成立が担保された物流計画に従うことによって、実操業時の物流能力ネックによる実行調整を回避でき、効率的な鋼製品の製造が可能になる。また、加熱炉への装入温度の向上及び軽負荷な加熱炉の加熱パターン操業を提供するように、複数候補から物流計画が選択されるため、省エネルギーを実現することができる。
【0057】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形又は修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本開示に係る実施形態は装置が備えるプロセッサにより実行されるプログラム又はプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものである。本開示の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【符号の説明】
【0058】
10 物流計画作成装置
11 取得部
12 演算部
13 出力部
20 上位システム