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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008632
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ポリケトン製多孔質膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/26 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C08J9/26 102
C08J9/26 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110954
(22)【出願日】2023-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0376738823002958?via%3Dihub Shang Xiang,張 朋飛,Saeid Rajabzadeh,Ralph Rolly Gonzales,Zhan Li,Yongxuan Shi,Siyu Zhou,Mengyang Hu,Kecheng Guan,松山 秀人らが、2023年4月5日付で、上記URLにおいて公開。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】三木 雄揮
(72)【発明者】
【氏名】橋野 昌年
(72)【発明者】
【氏名】久保田 昇
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】張 朋飛
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA56
4F074AA56A
4F074AA98
4F074AH03
4F074CB34
4F074CB45
4F074CC05X
4F074CC29Y
(57)【要約】
【課題】高い有機溶剤耐性を有するポリケトンを用いて熱誘起相分離法において最適な溶媒を選定し、耐久性等の面で優れた液液相分離型を発現させ、その膜構造を制御することを可能にする製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリケトンと、少なくとも1種類の溶媒を使用してポリケトン製多孔質膜を製造する方法であって、前記溶媒は、溶解度パラメータ(Ra)が、12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下の範囲であり、熱誘起相分離法によって多孔質膜を製造することを特徴とする、ポリケトン製多孔質膜の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリケトンと、少なくとも1種類の溶媒を使用して、ポリケトン製多孔質膜を製造する方法であって、
前記溶媒は、溶解度パラメータ(Ra)が、12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下の範囲であり、
熱誘起相分離法によって多孔質膜を製造することを特徴とする、ポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
2種類以上の溶媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記2種類以上の溶媒は、モノマー構造が同一であり、重合度の違いにより重量平均分子量が異なることを特徴とする、請求項2に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒が2種類の溶媒であり、該2種類の溶媒の一方の溶媒の重量平均分子量に対する、他方の溶媒の重量平均分子量の比が、1.0以上3.5以下の間にあることを特徴とする、請求項1に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記2種類以上の溶媒の混合比を調整することを特徴とする、請求項2に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、ポリエチレングリコールもしくはフタル酸ジプロピルであることを特徴とする、請求項1に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒がポリエチレングリコールであることを特徴とする、請求項6に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が、重量平均分子量200以上600以下のポリエチレングリコールであることを特徴とする、請求項7に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【請求項9】
前記ポリケトンと前記溶媒とを混合する際の前記ポリケトンの濃度が、20質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリケトン製多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセス、バイオ医薬品製造プロセス等において、製品の信頼性及び収率の観点から、ごく微小な粒子、ウィルス等の不純物を効率的に除去することができる濾材が求められている。濾過対象物のサイズよりも小さい孔径の濾材を使用すれば、上記不純物はある程度までは除去可能である。しかし、一般的に孔径が小さくなるほど、濾過における圧力損失が大きくなり、また透過流束が減少してしまう。そこで、極めて小さい不純物を十分に濾過でき、なおかつ圧力損失が少ない濾材が求められている。また、上記プロセスでは多種多様な薬品及び有機溶剤を使用するため、濾材には耐薬品性が必要となる。一部のフィルターは、処理気液が有機溶媒である場合、腐食性を有する場合があり、また高温環境下で使用される場合もある。このような場合、フィルターには耐薬品性、化学的安定性、耐熱性等が要求される場合が多い。現在、微小な不純物等の除去が可能で、かつ耐薬品性を持つ濾材として、ポリエチレン製多孔質膜又はポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜が用いられている。しかし、ポリエチレン製多孔質膜は耐熱性が低いという問題がある。また、ポリテトラフルオロエチレン製多孔質膜は非常に高価であり、微小な不純物を除去できる孔径を持った濾材を作りにくいという問題がある。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ等における、陽極と陰極との接触を防止するための構成部材であるセパレータとしても、多孔質膜が用いられている。近年、前記セパレータに対して、安全性及び製品寿命の観点から、耐熱性及び絶縁性の要求が高まっている。現在使用されているリチウムイオン二次電池のセパレータとしては、主にポリエチレン製又はポリプロピレン製の多孔質膜が使用されている。しかし、ポリエチレン及びポリプロピレンは耐熱性に乏しいために、これらの樹脂を用いたセパレータが高温下で溶融軟化して収縮し、陽極と陰極とが接触してショートする危険性が考えられる。電気二重層キャパシタ、及び電解コンデンサにおいては、セルロース素材の紙が主に使用されているが、耐高温用に開発されている、γ-ブチロラクトン等の溶媒に1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸等のイオン液体が電解質として溶解している電解液によって、高温下でセルロースが分解又は溶解してしまうために、製品の寿命が短いという問題がある。
【0004】
ところで、ポリケトンは、その高い結晶性により、繊維又はフィルムとしたときに、高力学物性、高融点、耐有機溶媒性及び耐薬品性等の特性を有する。従って、ポリケトンを加工して多孔質膜とすることで得られるポリケトン製多孔質膜も、耐熱性と耐薬品性とを持つ。更に、ポリケトンは水及び各種有機溶媒との親和性があること、また原料の一酸化炭素及びエチレンは比較的安価であり、ポリケトンのポリマー価格が安くなる可能性があることから、孔径の小さいポリケトン製多孔質膜は濾材として産業上の活用が期待できる。
【0005】
多孔質膜の製法としては、熱誘起相分離法が知られている。この製法では熱可塑性樹脂と有機液体を用いる。有機液体として、該熱可塑性樹脂を室温では溶解しないが、高温では溶解する溶剤、すなわち潜在的溶剤を用いる。熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂と有機液体を高温で混練し、熱可塑性樹脂を有機液体に溶解させた後、室温まで冷却することで相分離を誘発させ、更に有機液体を除去して多孔体を製造する方法である。この方法は以下の利点を持つ。
(a)室温で溶解できる適当な溶剤のないポリエチレン等のポリマーでも製膜が可能になる。
(b)高温で溶解したのち冷却固化させて製膜するので、特に熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、製膜時に結晶化が促進され高強度膜が得られやすい。
【0006】
上記の利点から、多孔性膜の製造方法として熱誘起相分離法が多用されている(例えば非特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国特許第101984059号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】プラスチック・機能性高分子材料事典編集委員会、「プラスチック・機能性高分子材料事典」、産業調査会、2004年2月、672-679頁
【非特許文献2】松山秀人、「熱誘起相分離法(TIPS法)による高分子系多孔膜の作製」、ケミカル・エンジニアリング誌、化学工業社、1998年6月号、45-56頁
【非特許文献3】滝澤章、「膜」、アイピーシー社、平成4年1月、404-406頁
【非特許文献4】D.R.Lloyd,et.al., 「Jounal of Membrane Science」、64、1991年、1-11頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1(韓国特許第101984059号)により、ポリケトンを用いて熱誘起相分離法により多孔質膜を製膜することは公知であった。しかし、上記方法により製膜された膜は、ポリケトン製の多孔質膜であるが、溶媒の選定に関する示唆は無く、膜性能の調整は限られた範囲によるものであった。
【0010】
本発明は、高い有機溶剤耐性を有するポリケトンを用いて熱誘起相分離法において最適な溶媒を選定し、耐久性等の面で優れた液液相分離型を発現させ、その膜構造を制御することを可能にする製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ポリケトンと少なくとも1種類の溶媒を使用してポリケトン製多孔質膜を製造する方法であって、
前記溶媒は、溶解度パラメータ(Ra)が、12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下の範囲であり、
熱誘起相分離法によって多孔質膜を製造することを特徴とする、ポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0012】
[2] 2種類以上の溶媒を使用することを特徴とする、[1]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0013】
[3] 前記2種類以上の溶媒は、モノマー構造が同一であり、重合度の違いにより重量平均分子量が異なることを特徴とする、[2]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0014】
[4] 前記溶媒が2種類の溶媒であり、該2種類の溶媒の一方の溶媒の重量平均分子量に対する、他方の溶媒の重量平均分子量の比が、1.0以上3.5以下の間にあることを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0015】
[5] 前記2種類以上の溶媒の混合比を調整することを特徴とする、[2]又は[3]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0016】
[6] 前記溶媒が、ポリエチレングリコールもしくはフタル酸ジプロピル(DPrP)であることを特徴とする、[1]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0017】
[7] 前記溶媒がポリエチレングリコールであることを特徴とする、[6]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0018】
[8] 前記溶媒が、重量平均分子量200以上600以下のポリエチレングリコールであることを特徴とする、[7]に記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【0019】
[9] 前記ポリケトンと前記溶媒とを混合する際の前記ポリケトンの濃度が、20質量%以上50質量%以下であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれかに記載のポリケトン製多孔質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の多孔質膜の製造方法によれば、高い耐有機溶媒性及び耐薬品性を有するポリケトン製で熱誘起相分離法により、液液相分離型の種々の膜構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例2の2種類の溶媒の相図である。
図2】実施例2で作製した平膜の断面SEM画像である。
図3】実施例3の相図である。
図4】実施例4で作製した平膜の断面SEM画像である。
図5】実施例5で作製した平膜の断面SEM画像である。
図6】実施例6で作製した平膜の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態の多孔質膜の製造方法は、
ポリケトンと、少なくとも1種類の溶媒を使用してポリケトン製多孔質膜を製造する方法であって、
前記溶媒は、溶解度パラメータ(Ra)が、12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下の範囲であり、
熱誘起相分離法によって多孔質膜を製造することを特徴とする。
上記多孔質膜の製造方法であると、耐久性に優れた液液相分離型を発現させ、膜構造を制御することができる。
【0024】
上記熱誘起相分離法は、ポリケトン等の熱可塑性樹脂を加熱溶融させた状態でフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等の溶媒と均質混合し、これを加熱溶融状態で中空糸状または平膜状に成形した後、成形体を成形体成分の非溶解性液体(水など)への浸漬または空気中で冷却することでポリマー層と溶媒層とを相分離させ、これを溶液浸漬して膜中の溶媒等を抽出し、多孔質膜を製膜するものである。
【0025】
以下、本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜について説明する。
【0026】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜は、熱可塑性樹脂を含む。上記多孔質膜は、熱可塑性樹脂のみからなっていてもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態の製造方法で得られる多孔質膜は、前記熱可塑性樹脂としてポリケトンを使用する。多孔質膜中の前記ポリケトンとしては、種々の液体、特に水に対する親和性が高く、オイルに対する耐久性が高いものであることが好ましく、下記式(1):
【化1】
{式(1)中、複数あるRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基、炭素数1~10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数1~4のアルキル基を有するアルコキシカルボニル基であり、複数のRが互いに結合して脂環を形成していてもよい。}で表される構造の繰り返し単位を含むポリケトンを用いてもよい。
【0028】
このようなポリケトンは、オレフィンと一酸化炭素との共重合により形成された構造を有するポリケトン(即ち、オレフィンと一酸化炭素との共重合体又はそれと同じ構造を有するポリマー)であることが好ましい。ポリケトンの合成において、一酸化炭素と共重合させるオレフィンとしては、目的に応じて任意の種類の化合物を選択できる。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセン等の鎖状オレフィン;スチレン、α-メチルスチレン等のアルケニル芳香族化合物;シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン等の環状オレフィン;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化アルケン;エチルアクリレート、メチルメタクリレート等のアクリル酸エステル;酢酸ビニル等が挙げられる。強度を確保する点からは、共重合させるオレフィンの種類は、1~3種類であることが好ましく、1~2種類であることがより好ましい。
【0029】
本発明は、下記の一般式(2)と(3)で表される繰り返し単位からなるポリケトン三元系共重合体を用いてもよい。
-(CHCH-CO)- (2)
-(CHCH(CH)-CO)- (3)
(x、yは、ポリマー中の一般式(2)及び(3)のそれぞれのモル%)
yは、多孔質膜の強度を維持するために、好ましくは30モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下である。
【0030】
前記ポリケトンについては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、5,000以上5,000,000以下であることが好ましく、10,000以上1,000,000以下であることがより好ましく、50,000以上750,000以下であることが更に好ましく、特に好ましくは100,000以上500,000以下である。
【0031】
ポリケトンは、例えば、パラジウム、ニッケル等を触媒として用いて、一酸化炭素とオレフィンとを重合させることにより得ることができる。
【0032】
本実施形態の製造方法により製造される多孔質膜は、前記ポリケトンを加工することによって得られることを特徴とする多孔質膜、もしくはポリケトンを主成分として含むことを特徴とする多孔質膜である。ここで、「主成分として含む」とは、高分子成分の固形分換算で50質量%以上含むことを意味する。上記高分子成分は、一種のみであってもよいし、同一高分子成分で複数の分子量の高分子成分の組み合わせであってもよい。
【0033】
本実施形態の製造方法により製造される多孔質膜は、前記多孔質膜の一方の表面の孔径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。前記多孔質膜の一方の表面孔径が1.0μm以下であると、多孔質膜として十分な阻止性能を有することができる。
なお、孔径は、FE-SEMを用いて観察した画像で画像解析により測定する。
【0034】
本実施形態の多孔質膜(好ましくは中空糸状多孔質膜)の製造方法において用いられる熱可塑性樹脂は、常温では弾性を有し、塑性を示さないが、適当な加熱により塑性を現し、成形が可能になる樹脂である。また、熱可塑性樹脂は、冷却して温度が下がると再びもとの弾性体に戻り、その間に分子構造など化学変化を生じない樹脂である(たとえば「化学大辞典編集委員会編集、化学大辞典6縮刷版、共立出版、第860頁及び867頁、1963年」参照)。
【0035】
本実施形態における熱可塑性樹脂は、上述のようなポリケトンが好ましい。
【0036】
ポリケトンと溶媒を混合する際のポリケトンの濃度は、20質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以上45質量%以下である。20質量%以上であれば、多孔質膜の機械的強度、開孔率を担保しやすく、50質量%以下であれば、多孔質膜の透水性能の低下が生じない。
【0037】
前記溶媒は、本実施形態で用いる熱可塑性樹脂に対し、潜在的溶剤となるものを用いる。本実施形態では、潜在的溶剤とは、該熱可塑性樹脂を室温(25℃)ではほとんど溶解しないが、室温よりも高い温度では該熱可塑性樹脂を溶解できる溶剤を言う。熱可塑性樹脂との溶融混練温度にて液状であればよく、必ずしも常温で液体である必要はない。
【0038】
前記溶媒の例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等のフタル酸エステル類;セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類;アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル類;メチルベンゾエイト、エチルベンゾエイト等の安息香酸エステル類;リン酸トリフェニル、リン酸トリブチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル類;プロピレングリコールジカプレート、プロピレングリコールジオレエート等のグリセリンエステル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;流動パラフィン等のパラフィン類;γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネイト、プロピレンカーボネイト、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン類;およびこれらの混合物等を挙げることができる。
これらの中でも、ポリエチレングリコール及びフタル酸ジプロピル(DPrP)が好ましい。
【0039】
上記熱可塑性樹脂と溶媒の混合物に占める溶媒の質量割合は、10質量%以上70質量%以下が好ましく、より好ましくは20質量%以上60質量%以下である。溶媒の質量割合が10質量%以上であれば、熱可塑性樹脂を安定的に溶解でき、70質量%以下であれば、多孔質膜の製造に十分な粘度を有するため、安定的に多孔質膜を製造することができる。
【0040】
多孔質膜の形状は、例えば、平膜状、中空糸状等の任意の形状であってよい。多孔質膜は、支持体を持たない自立膜であってもよいし、支持体上に多孔質膜を有する複合膜として存在していてもよい。支持体は、例えば、平膜状、中空糸状等の任意の形状であってよい。
【0041】
本発明の多孔質膜は、ある実施態様において平膜である。平膜は、濾材として好適である。平膜の厚みは、特に制限はなく用途に応じて任意の厚みとできるが、好ましくは0.1~1,000μmであってよい。多孔膜を濾材として用いる場合、モジュールの小型化及び有効濾過面積の広さの観点から、多孔膜の厚みは小さい方が好ましい。
なお、平膜の厚みは、顕微鏡を使用して測定する。
【0042】
本発明においては、多孔質膜の構造を評価する際は、簡便な平膜の製造方法を以下のように実施した。ホットステージを使用し、熱可塑性樹脂と溶媒を加熱することで均一な溶液を形成し、冷却することで平膜を製造した。冷却方法としては、例えば10℃や50℃の水浴に浸漬して急冷してもよく、また、ある一定の冷却速度に制御して冷却してもよい。その後、前記溶媒をアルコール等の溶媒で抽出することで多孔質膜を得ることができる。
【0043】
また別の平膜の製造方法として、次の方法を実施できる。熱可塑性樹脂と溶媒を温調したタンク等に投入し、脱気したのちに、所定の厚み、及び所定の大きさのテフロン製フィルムを貼付した、事前に予熱したステンレス製のプレート上に、前記熱可塑性樹脂と溶媒をキャストする。その後、水浴に浸漬し、次いで、アルコール等の溶媒で熱可塑性樹脂と混合した溶媒を抽出することで多孔質膜を得ることができる。
【0044】
本実施形態では、熱可塑剤樹脂としてポリケトンを用い、溶媒として、溶解度パラメータ(Ra)が12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下である溶媒を使用する。溶解度パラメータ(Ra)が12MPa0.5以上であると、液液相分離になり固液相分離による球晶構造が発現しないため、透水性能や強度に優れた膜構造を得ることができる。また、溶解度パラメータ(Ra)が17.5MPa0.5以下であると、高温にすることでポリケトンを溶解させることができ、熱誘起相分離を発現させることができる。本発明において、上記溶解度パラメータ(Ra)の範囲にある溶媒としては、ポリエチレングリコールやフタル酸ジプロピルが望ましい。
【0045】
前記溶解度パラメータ(Ra)は以下の式により求められる。
以下の式は、ポリケトンの三次元溶解度パラメータと、溶媒の三次元溶解度パラメータの関係式であり、ポリケトンと溶媒の溶解性を評価するものである。下記式の右辺は、三次元的にHansen溶解度パラメータの溶解範囲を表すものであり、ポリケトンの三次元溶解度パラメータ(σdp、σpp、σhp)から溶媒の三次元溶解度パラメータ(σdm、σpm、σhm)までの距離(Ra)を定量的に表す。
Ra=(4×(σdm-σdp+(σpm-σpp+(σhm-σhp)^0.5
[式中、σdm及びσdpは溶媒及びポリケトンの分散力項をそれぞれ示し、σpm及びσppは溶媒及びポリケトンの双極子結合力項をそれぞれ示し、σhm及びσhpは溶媒及びポリケトンの水素結合項をそれぞれ示す。]
ポリケトンの三次元溶解度パラメータ(σdp、σpp、σhp)は、文献(D.W.V. krevelen, K.T. Nijenhuis, Properties of Polymers: Their correlation with chemical structure; their numerical estimation and prediction from additive group contributions, Fourth ed., Elsevier B.V., Amsterdam, Noord-Holland, 2008.)を参考に、下記式(S1)~(S3)を用いて算出した。
【数1】
【数2】
【数3】
上記式(S1)~(S3)中、Vはモル体積を表し、Fdpi、Fppi、Ehpiの化学構造の寄与は、上記文献(D.W.V. krevelen, K.T. Nijenhuis, Properties of Polymers: Their correlation with chemical structure; their numerical estimation and prediction from additive group contributions, Fourth ed., Elsevier B.V., Amsterdam, Noord-Holland, 2008.)より引用した。また、Vは、文献(M.M. Coleman, J.F. Graf, P.C. Painter, Specific interactions and the miscibility of polymer blends, Technomic Publishing, Lancaster, Pennsylvania, 1991.)、及び文献(M.M. Coleman, X. Yang, H. Zhang, P.C. Painter, Ethyleneco-vinyl alcohol blends, J. Macromol. Sci. Phys. B, 32 (1993) 295-326.)を参照して算出した。
また、溶媒の三次元溶解度パラメータ(σdm、σpm、σhm)は、主に文献(C.M. Hansen, Hansen solubility parameters: a user's handbook, second ed., CRC Press, New York, 2007)より引用した。なお、DPrPは、ソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice、HSPiP)を用いて算出した。PEG200,PEG300,PEG400,PEG600は、文献(Bo Liu, Qiangguo Du, Y. Yang, The phase diagrams of mixtures of EVAL and PEG in relation to membrane formation, J. Membr. Sci., 180 (2000) 81-92)より引用した。DPCは、文献(C. Fang, S. Jeon, S. Rajabzadeh, L. Cheng, L. Fang, H. Matsuyama, Tailoring the surface pore size of hollow fiber membranes in the TIPS process, J. Mater. Chem. A, 6 (2018) 535-547)より引用した。
なお、上記の考え方はポリケトンに限るものではなく、他の熱可塑性樹脂にも適用することが可能である。
【0046】
前記溶媒は、1種類でもよいが、2種類以上の溶媒を用いてもよい。ここで、2種類以上の溶媒とは、化合物が異なる2種類以上の溶媒であってもよいし、化合物が同一であるが、分子量が異なる2種類以上の溶媒、例えば、モノマー構造が同一であるが、重合度の違いにより重量平均分子量が異なる2種類以上の溶媒であってもよい。熱可塑性樹脂(ポリケトン)との相溶性が異なる2種類の溶媒を混合することにより膜構造の制御が可能になる。2種類の溶媒は分子量が異なる2種類の溶媒であってもよく、さらに、異なる2種類の溶媒の混合比を変えることにより膜構造を調整することができる。本実施形態では、熱可塑性樹脂としてポリケトンを使用しつつ、たとえば分子量の異なるポリエチレングリコールを混合することが好ましい。また、2種類のポリエチレングリコールの混合比を調整してもよい。例えば、混合比としては、2種類のポリエチレングリコールを、ポリエチレングリコールA、Bとすると、ポリエチレングリコールA:ポリエチレングリコールB=9:1~5:5であることが好ましい。
分子量が異なる2種類の溶媒を混合する場合、該2種類の溶媒の一方の溶媒の重量平均分子量に対する、他方の溶媒の重量平均分子量の比が、1.0以上3.5以下であることが好ましい。重量平均分子量の比が上記範囲であると、熱可塑性樹脂との相溶性を調整し、好適な膜構造を得られるため好ましい。また、ポリケトンの溶媒にポリエチレングリコールを用いる場合は、ポリエチレングリコールの分子量は、200以上600以下であることが好ましい。ポリエチレングリコールの分子量が上記範囲であると、液液相分離型を発現させることができるため好ましい。
【0047】
前記溶媒の抽出除去では、用いた熱可塑性樹脂を溶解あるいは変性させずに溶媒とは混和する、抽出に適した液体(抽出用液体)を用いる。具体的には浸漬等の手法により、多孔質膜を前記抽出用液体に接触させることで行うことができる。前記抽出用液体は、抽出後に多孔質膜から除去しやすいように、揮発性であることが好ましい。前記抽出用液体の例としては、アルコール類や塩化メチレン等がある。また、使用する溶媒が水溶性であれば、水も抽出用液体として使うことが可能である。
【実施例0048】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
本実施の形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0050】
以下の測定は、特に記載がない限り、全て25℃で行っている。以下では、評価方法について説明した後、実施例の製造方法及び評価結果について説明する。
【0051】
また、膜の配合組成及び製造条件、並びに各種性能を表1及び表2に示す。
【0052】
(1)使用したポリケトン
ポリケトンホモポリマー(HPK) 旭化成社製
ポリケトンコポリマー(CPK) ヒョソン社製、製品名「M630A」
【0053】
(2)溶媒のスクリーニング
ポリケトンと各溶媒を試験管に入れ、オイルバスで250℃に加熱した。加熱した溶液を液体窒素で急冷させて固化させたのち、小片に切り出した。切り出したサンプルをホットステージ(LK-600PH、Linkam社製)で加熱したのち、25℃まで10℃/minの冷却速度で冷却した。冷却時、光学顕微鏡(BX50、オリンパス社製)にて、曇点や結晶化挙動を観察し、固液相分離(S-L)か液液相分離(L-L)かを判定した。
【0054】
(3)相図の作成
ポリケトンと溶媒をホットステージ(LK-600PH Hotstage、Linkam、Surrey、UK)上で加熱し、10℃/minで冷却した。冷却中、光学顕微鏡(Olympus BX50)にて観察し、溶液が曇り始める温度を曇点とした。
また、DSC(DSC-8500、PerkinElmer、USA)にて20℃/minで昇温し、2分保持したのち、10℃/minで冷却した。発熱ピークの開始温度を結晶化温度とした。
【0055】
(4)平膜の製作方法1
ホットステージ(LK-600PH Hotstage、Linkam、Surrey、UK)を使用し、ポリケトンと溶媒を加熱することで均一な溶液を形成し、冷却することで平膜を製造した。冷却は10℃/minもしくは50℃/minの冷却速度で降温、又は10℃もしくは50℃の水浴に浸漬させて急冷させた。その後、溶媒をエタノールで抽出することで多孔質膜を得た。
【0056】
(5)平膜の製作方法2
ポリケトンと溶媒とを温調したタンクに入れ脱気したのち、15×15cmの大きさで200μmの厚みのテフロン製フィルムを貼付した、予熱したステンレス製のプレート上にキャストした後、10℃の水浴に浸漬した。エタノールで溶媒を抽出し、多孔質膜を得た。
【0057】
(6)膜構造
FE-SEM(JEOL社製、JSF-7500F)を用いて膜の形態を観察した。膜断面を観察する際は、液体窒素に浸漬して割断した。12時間真空乾燥したのち、四酸化セシウムを表面に蒸着して観察を実施した。
【0058】
(実施例1)
上記溶媒のスクリーニングにて、下記表1の26種類の溶媒及び下記表2の5種類の混合溶媒と、ポリケトンホモポリマー及びポリケトンコポリマーとで溶解性、相分離挙動を確認した。表1及び表2に、実施例1の溶媒のスクリーニングの結果と溶解度パラメータの計算結果を示す。
なお、表1において、上述の通り、「S-L」は固液相分離を表し、「L-L」は液液相分離を表す。また、下記表1及び表2において、σdpはポリケトンの分散力項、σppはポリケトンの双極子結合力項、σhpはポリケトンの水素結合項であり、σdmは溶媒の分散力項、σpmは溶媒の双極子結合力項、σhmは溶媒の水素結合項であり、Raは溶解度パラメータである。
ポリケトンの三次元溶解度パラメータ(σdp、σpp、σhp)は、文献(D.W.V. krevelen, K.T. Nijenhuis, Properties of Polymers: Their correlation with chemical structure; their numerical estimation and prediction from additive group contributions, Fourth ed., Elsevier B.V., Amsterdam, Noord-Holland, 2008.)を参考に、下記式(S1)~(S3)を用いて算出した。
【数4】
【数5】
【数6】
上記式(S1)~(S3)中、Vはモル体積を表し、Fdpi、Fppi、Ehpiの化学構造の寄与は、上記文献(D.W.V. krevelen, K.T. Nijenhuis, Properties of Polymers: Their correlation with chemical structure; their numerical estimation and prediction from additive group contributions, Fourth ed., Elsevier B.V., Amsterdam, Noord-Holland, 2008.)より引用した。また、Vは、文献(M.M. Coleman, J.F. Graf, P.C. Painter, Specific interactions and the miscibility of polymer blends, Technomic Publishing, Lancaster, Pennsylvania, 1991.)、及び文献(M.M. Coleman, X. Yang, H. Zhang, P.C. Painter, Ethyleneco-vinyl alcohol blends, J. Macromol. Sci. Phys. B, 32 (1993) 295-326.)を参照して算出した。
また、溶媒の三次元溶解度パラメータ(σdm、σpm、σhm)は、主に文献(C.M. Hansen, Hansen solubility parameters: a user's handbook, second ed., CRC Press, New York, 2007)より引用した。なお、DPrPは、ソフトウェア(Hansen Solubility Parameters in Practice、HSPiP)を用いて算出した。PEG200,PEG300,PEG400,PEG600は、文献(Bo Liu, Qiangguo Du, Y. Yang, The phase diagrams of mixtures of EVAL and PEG in relation to membrane formation, J. Membr. Sci., 180 (2000) 81-92.)より引用した。DPCは、文献(C. Fang, S. Jeon, S. Rajabzadeh, L. Cheng, L. Fang, H. Matsuyama, Tailoring the surface pore size of hollow fiber membranes in the TIPS process, J. Mater. Chem. A, 6 (2018) 535-547)より引用した。
【0059】
【表1】
【0060】
*1 HPK: ポリケトンホモポリマー(旭化成社製)
*2 CPK: ポリケトンコポリマー(ヒョソン社製、商品名「M630A」)
*3 PC: プロピレンカーボネート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*4 SFL:スルフォラン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*5 CPL: カプロラクタム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*6 DMSO: ジメチルスルフォン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*7 DMP: フタル酸ジメチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*8 DEP: フタル酸ジエチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*9 DPrP: フタル酸ジプロピル(東京化成工業株式会社製)
*10 DPC: ジフェニルカーボネート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*11 TEG: トリエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*12 DEG: ジエチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*13 DBS: セバシン酸ジブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*14 GTA: グリセロールトリアセテート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*15 TEC: クエン酸トリエチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*16 ATEC: アセチルクエン酸トリエチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*17 ATBC: アセチルクエン酸トリブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*18 DIBA: アジピン酸ジイソブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*19 PEG300: ポリエチレングリコール300(東京化成工業株式会社製)
*20 PEG400: ポリエチレングリコール400(東京化成工業株式会社製)
*21 PEG600: ポリエチレングリコール600(東京化成工業株式会社製)
*22 PEG200: ポリエチレングリコール200(東京化成工業株式会社製)
*23 DPM: ジフェニルメタン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*24 EG: エチレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
*25 グリセロール(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0061】
【表2】
【0062】
表1及び表2より、溶媒の溶解度パラメータ(Ra)が、12MPa0.5以上17.5MPa0.5以下の間で液液相分離を発現することが分かる。
【0063】
(実施例2)
ポリケトンコポリマー、及び溶媒にPEG300、又はDPrPを用いて相図(図1)を作成した。膜構造を評価するために、上記平膜の製作方法1に基づき、ポリケトンコポリマー25質量%を用いて、以下の冷却速度で平膜を製作した。図2に、製作した平膜の断面図を示す。なお、図1及び図2において、(a)は、CPK/PEG300の系であり、(b)は、CPK/DPrPの系である。また、a及びbの後ろについている数字は、下記冷却速度の数字を表す。
1:10℃の水浴で急冷
2:50℃の水浴で急冷
3:50℃/minで冷却
4:10℃/minで冷却
【0064】
図1に示すとおり、PEGとDPrPは液液相分離領域を発現できることが分かる。
断面構造を確認したところ(図2に示す)、(a)及び(b)のいずれも固液相分離に見られるような球晶構造は観察されず、液液相分離構造を発現していることが確認できた。
【0065】
(実施例3)
ポリケトンホモポリマーを用いて、実施例1と同様の方法で、図3のとおり相図を作成した。2種類のPEGを混合することにより、液液相分離領域を制御できることが分かる。
【0066】
(実施例4)
濃度25質量%のポリケトンホモポリマーを用いて、平膜の製作方法1に基づき、溶媒としてPEG200単体を使用し、或いはPEG200及びPEG300、PEG200及びPEG400、又はPEG200及びPEG600を混合し、以下の冷却速度で平膜を製作した。2種類のPEGはPEG200:PEG300=9:1、PEG200:PEG400=9:1、PEG200:PEG600=9:1で混合した。なお、図4において、aはPEG200単体であり、bはPEG200/PEG300であり、cはPEG200/PEG400であり、dはPEG200/PEG600である。また、a、b、c及びdの後ろについている数字は、下記冷却速度の数字を表す。
1:10℃の水浴で急冷
2:50℃の水浴で急冷
3:50℃/minで冷却
4:10℃/minで冷却
【0067】
断面構造を確認したところ(図4に示す)、PEG200単体では固液相分離に見られるような球晶構造が確認されたが、PEG200と、PEG300、PEG400、又はPEG600とを混合することで液液相分離構造を発現していることが確認できた。
【0068】
(実施例5)
濃度25質量%のポリケトンホモポリマーを用いて、平膜の製作方法1に基づき、溶媒としてPEG200とPEG300を用いて、以下の冷却速度で平膜を製作した。2種類のPEGは、混合比をPEG200:PEG300=10:0、9:1、8:2、6:4とし、以下の冷却速度で平膜を製作した。なお、aはPEG200:PEG300=10:0であり、bはPEG200:PEG300=9:1であり、cはPEG200:PEG300=8:2であり、dはPEG200:PEG300=6:4である。また、a、b、c及びdの後ろについている数字は、下記冷却速度の数字を表す。
1:10℃の水浴で急冷
2:50℃の水浴で急冷
3:50℃/minで冷却
4:10℃/minで冷却
【0069】
断面構造を確認したところ(図5に示す)、2種類のポリエチレングリコール(PEG)混合比を調整することで、液液相分離構造を制御できていることが確認できた。
【0070】
(実施例6)
ポリケトンコポリマー、及び溶媒にPEG300を用いて、ポリケトンコポリマーの濃度を、25質量%、30質量%、40質量%、及び50質量%とし、平膜の製作方法1に基づき、10℃の水浴で急冷して平膜を製膜した。
図6で示すように、ポリケトンコポリマーが高濃度であるほど、孔が小さく緻密な構造となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6