(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086416
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】渦電流探傷のデータ処理方法及びデータ処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20250602BHJP
【FI】
G01N27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200348
(22)【出願日】2023-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】西水 亮
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BC02
2G053BC14
2G053CA03
2G053CB07
2G053CB11
2G053DA01
2G053DB03
(57)【要約】
【課題】磁性体を複数回プローブ走査する場合に各回の走査開始位置がずれても、スリット信号強度の変化を精度良く評価できる渦電流探傷システムのデータ処理方法を提供すること。
【解決手段】マルチコイル式のプローブ51を、スリット4が設けられた磁性体の被検査体1に設置し、当該スリットを含む部位をプローブで走査することで初期波形と評価波形とを複数回取得する。初期波形と評価波形との偏差が最も小さくなるように評価波形を初期波形に向かって移動したときの評価波形の移動量を演算する。プローブにおける各チャンネルの位置情報と、評価波形の移動量とに基づいて評価波形の補正値を演算する。補正値に従って評価波形を移動させることで新たな評価波形を生成する。初期波形と新たな評価波形とのピーク値の差分を演算する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブを、スリットが設けられた磁性体の被検査体に設置し、当該スリットを含む部位を前記プローブで走査することで各チャンネルで初期波形と評価波形とを取得し、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記評価波形を前記初期波形に向かって移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネルの前記評価波形の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を移動させることで各チャンネルの新たな評価波形を生成し、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項2】
請求項1の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
各チャンネルの前記補正値は、二次元平面上にプロットした各チャンネルの前記評価波形の移動量を、前記評価波形を取得した際の前記プローブの走査開始位置における各チャンネルの配置に基づいて近似した値であることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項3】
請求項1の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記評価波形を取得した際の前記プローブの走査開始位置における各チャンネルが第1直線に沿って配置されているとき、
各チャンネルの前記補正値は、二次元平面上にプロットした各チャンネルの前記評価波形の移動量を、前記第1直線と傾きが同じ直線で近似した値であることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項4】
請求項1の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記初期波形及び前記評価波形は、位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に表されており、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記二次元平面上で前記初期波形に向かって前記評価波形を移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量のうち前記横軸の方向における移動量とに基づいて、各チャンネルの評価波形の前記横軸の方向の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を前記横軸の方向に移動させた後、前記初期波形と重なる位置まで前記縦軸の方向に移動して各チャンネルの前記新たな評価波形を生成することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項5】
請求項1の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
演算した前記各チャンネルの前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分をモニタに表示することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項6】
励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブを、スリットが設けられた磁性体の被検査体に設置し、当該スリットを含む部位を前記プローブで走査することで各チャンネルで初期波形と評価波形とを取得し、
位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に、各チャンネルで取得された複数の前記評価波形を配置し、前記横軸上に所定の間隔で配置される複数の基準点を設定し、
前記複数の基準点の中から1つの基準点を選択し、その選択した基準点における信号強度がゼロになるように前記二次元平面上の複数の前記評価波形をそれぞれ前記縦軸の方向に平行移動させ、その平行移動後の複数の前記評価波形のピーク値のばらつきを演算することを、前記複数の基準点の全ての基準点が選択されるまで繰り返し、
前記平行移動後の複数の前記評価波形のうち前記ピーク値のばらつきが最も小さいものを各チャンネルの新たな評価波形とし、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項7】
請求項6の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記評価波形は点群データで構成されており、
前記所定の間隔は、前記点群データを構成する点のピッチであることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項8】
請求項6の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記複数の基準点は、各チャンネルの前記評価波形におけるピークの位置よりも前記二次元平面の原点に近い位置に設定されることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項9】
請求項6の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記ばらつきの大きさは、分散または標準偏差で評価されることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【請求項10】
励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブと、スリットが設けられた磁性体の被検査体を前記プローブで走査することで各チャンネルで取得された初期波形と評価波形とを記憶した記憶装置と、プロセッサと、モニタとを備えた渦電流探傷システムであって、
前記プロセッサは、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記評価波形を前記初期波形に向かって移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネルの前記評価波形の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を移動させることで各チャンネルの新たな評価波形を生成し、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算し、
前記ピーク値の差分を前記モニタに表示すること特徴とする渦電流探傷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流探傷のデータ処理方法及びデータ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷とは、少なくとも1つの電気誘導コイル(以下、単にコイルという)を有する渦電流探傷プローブ(以降、単にプローブという)を用いて、被検査体を探傷する非破壊検査である。より詳しくは、プローブを被検査体に近接させ、プローブのコイル(励磁コイル)によって交流磁場を発生させると、当該被検査体の導電率と透磁率により決まる表皮深さに渦電流が発生する。被検査体に欠陥が存在すれば当該欠陥を避けるように渦電流が乱れるので、その渦電流の乱れに起因するインピーダンス変化をコイル(検出コイル)で検出することで欠陥の有無を評価する。
【0003】
特許文献1は、被検査体に生じさせた渦電流の変動を検出する渦電流検査により得られた渦電流検査信号を分析する渦電流検査信号分析装置に関して、該渦電流検査信号から低周波成分を除去し、所定の閾値と比較することにより、該被検査体において損傷が存在する可能性が高い第1の信号区間を抽出することを開示している。これにより渦電流検査信号のドリフトの影響が低減され、被検査体において損傷が存在する可能性が高い信号区間を精度よく抽出できると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
渦電流探傷検査の信頼性確保の観点からは、渦電流探傷システムを構成する機器やプローブに異常が無いことを検査の前後で確認することが好ましい。例えばこの確認作業では、深さ一定のスリットが設けられた試験体(対比試験体)にプローブを近接させ、所定の開始位置から所定の方向及び速度で当該プローブを走査装置で走査させ、当該スリットを通過したときにピークとして検出される信号(以下、スリット信号と称することがある)の強度(例えば電圧値)を取得する。そして、検査の前後で取得したスリット信号強度の偏差が所定範囲内に収まっている場合には渦電流探傷システムは正常であると判定される。
【0006】
ところで、磁性体における透磁率の分布は不均一であり、磁性体の透磁率は位置によって異なる。そのため、磁性体をプローブ走査すると、欠陥が無くとも渦電流の浸透深さが変化して信号(以下、磁性信号と称することがある)が検出される。また、通常の渦電流探傷システムでは、プローブ走査の開始位置の信号強度が0(0V)に設定される。つまり、走査開始位置の透磁率を基準とした信号が検出される。このことは、磁性材から成る試験体についてスリット信号強度の計測を2回行う場合、1回目と2回目の走査開始位置を厳密に一致させなければ、同じ方向・速度でプローブを走査しても強度の異なるスリット信号が検出され得ることを意味する。つまり、1回目と2回目の計測で走査開始位置がずれてしまった場合には、スリット信号の強度が変化した原因が渦電流探傷システムの異常にあるのかどうかの判断がつかない。なお、例えば、位置精度の高い走査装置は大型化する傾向があるが、空間的な制限が厳しくそのような装置の導入が難しい場合には、上記のような位置ずれの問題が発生し易くなる。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、磁性体を複数回プローブ走査する場合に各回の走査開始位置がずれても、スリット信号強度の変化を精度良く評価できる渦電流探傷システムのデータ処理方法及び渦電流探傷システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、渦電流探傷システムのデータ処理方法において、励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブを、スリットが設けられた磁性体の被検査体に設置し、当該スリットを含む部位を前記プローブで走査することで各チャンネルで初期波形と評価波形とを取得し、各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記評価波形を前記初期波形に向かって移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネルの評価波形の補正値を演算し、各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を移動させることで各チャンネルの新たな評価波形を生成し、各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、磁性体を複数回プローブ走査する場合に各回の走査開始位置がずれても、スリット信号強度の変化を精度良く評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る渦電流探傷システム100の構成図。
【
図2】本発明の実施形態に係るプローブ51及び被検査体1の側面図。
【
図3】
図2に示したプローブ51及び被検査体1の上面図。
【
図4】被検査体1をプローブ51で走査することで或るチャンネル11で得られた初期波形(きず信号の変化)70の一例を示す図。
【
図5】プローブ走査の開始点をL0とは異なるL1として、
図4の場合と同様に探傷して得られた評価波形80を示す図。
【
図6】プローブ51の各チャンネル11で得られた初期波形の集合であるプローブ出力信号群(探傷信号)12を示す図。
【
図7】プローブ走査の開始点をL0とは異なるL1として、プローブ51の各チャンネル11で得られた評価波形の集合であるプローブ出力信号群(探傷信号)15を示す図。
【
図8】第1実施形態に係る初期波形と評価波形のデータ処理で行われる手順をまとめたフローチャートである。
【
図9】同じスリット4(被検査体1)に対して初期波形と評価波形の2回の波形計測を実施した際のプローブ51の走査開始位置を示す図。
【
図10】横軸を走査位置、縦軸を信号強度(V)とする二次元平面に、或るチャンネル11で得られた初期波形22と評価波形23を示した図。
【
図11】評価波形を横軸にΔK、縦軸にΔVだけシフトさせたことを示す図。
【
図12】縦軸をCh番号、横軸をΔKminとする二次元平面に、Ch番号とΔKminの演算結果をプロットした結果を示す図。
【
図13】2回目の走査開始時のプローブ51の姿勢が1回目の姿勢から回転している場合を示す図。
【
図14】縦軸をCh番号、横軸をΔKminとする二次元平面に、Ch番号とΔKminの演算結果をプロットした結果を示す図。
【
図15】第2実施形態に係る初期波形と評価波形のデータ処理で行われる手順をまとめたフローチャートである。
【
図16】S113において、各評価波形の信号強度が基準点P1でゼロになるように各評価波形を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図。
【
図17】S113において、各評価波形の信号強度が基準点P2でゼロになるように各評価波形を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図。
【
図18】S113において、各評価波形の信号強度が基準点Pnでゼロになるように各評価波形を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係る渦電流探傷システム100の構成図である。この図の渦電流探傷システム100は、複数のコイルを内蔵したプローブ(渦電流探傷プローブ)51と、プローブ51を走査する走査装置52と、プローブ51に接続された渦電流探傷器53と、走査装置52及び渦電流探傷器53に接続されたコンピュータ54と、コンピュータ54に接続されたモニタ55とを備えている。
【0013】
プローブ51は、少なくとも1つの励磁コイルと少なくとも1つの検出コイルとの組み合わせであるチャンネル11(
図2,3等参照)を複数有するマルチコイル式のプローブである。走査装置52よってプローブが走査されると、各チャンネル11により波形が得られる。プローブ51内の各コイルは励磁コイル及び検出コイルの少なくとも一方として機能し得る。つまり、1つのコイルが励磁コイルと検出コイルのいずれかとして機能しても良いし(相互誘導コイル)、1つのコイルが励磁コイルと検出コイルの双方として機能しても良い(自己誘導コイル)。
【0014】
走査装置52は、コンピュータ54から入力される制御信号に基づいてプローブ51を走査する装置であり、その位置を信号(位置信号)としてコンピュータ54に出力できる。制御信号では、プローブ51の走査速度と走査方向を規定することができ、プローブ51を所定の方向に向かって所定の速度で走査することができる。
【0015】
渦電流探傷器53は、プローブ51内のコイルに励磁電流(交流電流)を供給でき、当該コイルを励磁コイルとして動作させることができる。また、プローブ51内のコイル(検出コイル)で検出された誘起電圧を入力でき、その検出信号をコンピュータ54に出力できる。
【0016】
コンピュータ54は、少なくとも1つのプロセッサ54aと、プロセッサ54aによって実行されるプログラムを含む各種データが記憶される記憶装置54bとを備えている。コンピュータ54には、オペレータから操作やデータが入力される入力装置や、他の端末と通信するための通信装置を備えても良い。コンピュータ54では、走査装置52の走査速度や走査範囲などの走査条件を設定できるとともに、渦電流探傷器53の励磁電流の周波数などの探傷条件を設定できる。また、コンピュータ54は、走査装置52からの位置信号及び渦電流探傷器53からの検出コイルの検出信号を処理して探傷データ(波形)を生成することができ、当該探傷データをモニタ55に表示させたり記憶装置54bに記憶させたりできる。
【0017】
ところで、上記のような渦電流探傷システム100の被検査体として磁性体を利用することがある。被検査体が磁性体の場合には、透磁率が不均一に分布するという磁性体の性質により、きず部でなくとも、励磁コイルが発生した渦電流の浸透深さに変化が生じ得る。磁性体における透磁率の分布は、外部より大きな磁場を印加すると異なる分布に変えることができるが、一般の渦電流探傷で利用されるコイル磁場程度では変化し得ない。すなわち、磁性体を渦電流探傷する場合、磁性信号は被検査体のきずの無い部分でも発生するが、再現性のある信号である。つまり、これを換言すると、磁性体の同じ箇所を複数回探傷しても同じ形状の磁性信号が得られることを示す。
【0018】
磁性信号により磁性体を検査する場合の課題を以下に記す。先に記載したように渦電流探傷システムは、励磁コイルにより交流の磁場を被検査体に印加し、そのときのきずによるコイルのインピーダンスや誘起電圧の変化を検出コイルで捉える。このとき、走査開始位置(開始点)におけるプローブ検出電圧(信号強度)は基準(0V)に設定される。磁性体の場合は、健全部でも磁性信号が発生することから、きず信号の再現性の課題が発生する。例えば、磁性材の被検査体で、1回目の計測から磁性信号のレベルを超えるきず起因の信号が発生したとする。確認として2回目の計測を実施すると、厳密に1回目と同じプローブ走査の開始点から走査しなければ、きず信号の波高値は変わることになる。このため、信号変化の理由が、機器またはプローブ不調、プローブと被検査体の浮き(リフトオフ)等の試験自体に影響する要因によるものかの区別がつかない課題がある。
【0019】
図2は本実施形態に係るプローブ51及び被検査体1の側面図であり、
図3はその上面図である。被検査体1は、磁性体で形成されており、中央部に深さ一定のスリット4を備えている。被検査体1の左端の位置をゼロとし、プローブ51の走査開始位置(開始点)をLn(n=0,1)とし、スリット4の位置をKとする。
【0020】
被検査体1は、渦電流探傷システムの機器やプローブに異常が無いことを確認するために、例えば渦電流探傷検査の前後に、スリット4を含む部位をプローブ51によって走査され、それによりプローブ51の各チャンネル11で初期波形と評価波形が取得される。波形を取得する場合には、プローブ51を被検査体1の表面に配置し、位置Lnから所定の走査方向5に所定の走査速度で移動させる。初期波形は検査前に取得することが好ましく、評価波形は検査後に取得することが好ましい。但し、走査の開始位置Lnへのプローブ51の設置をオペレータの手作業で行う場合、各回で開始位置Lnがズレる可能性がある。なお、被検査体1は対比試験体とも称される。
【0021】
図4は被検査体1をプローブ51で走査することで或るチャンネル11で得られた初期波形(きず信号の変化)70の一例を示す図である。
図4の横軸は被検査体1における位置、縦軸は探傷信号の強度(例えば電圧[V])を示す。プローブ走査の開始位置L0の信号強度が所定の基準値(0V)になるようにデータが収録される。図示した初期波形70では、磁性信号6が全体にわたり発生し、スリット4を通過したときのスリット信号7が位置Kで発生している。各チャンネル11の初期波形のピーク値(スリット信号7のピーク)が図示のように所定の値(図示の例では1V)になるように渦電流探傷器53の設定を調整することが好ましい。
【0022】
図5は、プローブ走査の開始点をL0とは異なるL1として、
図4の場合と同様に探傷して得られた評価波形80を示す図である。実線で示す評価波形80はプローブ走査の開始点がL1、破線で示す信号70はプローブ走査の開始点がL0の
図4と同じ初期波形を示す。信号80は、プローブ走査の開始点が0V基準となることと被検査体1の透磁率が場所によって異なることから、スリット信号のピーク値が、初期波形70のスリット信号7と矢印9の分だけ異なる値となる。
【0023】
図6はプローブ51の各チャンネル11で得られた初期波形の集合であるプローブ出力信号群(探傷信号)12を示す。横軸は位置、縦軸は探傷信号強度を示す。プローブ走査の開始位置L0の信号強度が0V基準でデータが収録され、全チャンネル11で磁性信号13が全体にわたり発生し、全チャンネル11でスリット4のスリット信号14が位置kで発生する。例えば、この時に、全チャンネル11のスリット信号のピーク値が同じ値(図示の例では1V)になるように、渦電流探傷器53の設定値を調整する。
【0024】
図7は、プローブ走査の開始点をL0とは異なるL1として、プローブ51の各チャンネル11で得られた評価波形の集合であるプローブ出力信号群(探傷信号)15を示す。信号群15はプローブ走査の開始点L1の信号強度が0V基準となることから、磁性信号が影響してスリット信号のピーク値が矢印16に示すように変化する。つまり、信号強度が基準値である1Vに統一されない。複数のコイルを内蔵した渦電流探傷プローブ51は、コイルの並び方向の幅を一度に探傷できるが、各々のチャンネル11の開始位置L1の透磁率が異なって磁性信号が異なるために、このような現象が発生する。
【0025】
そこで、本実施形態では、システム100に係る初期波形と評価波形のデータ処理において、下記S101-105の手順を行うこととした。
図8は本実施形態に係る初期波形と評価波形のデータ処理で行われる手順をまとめたフローチャートである。
【0026】
(S101)少なくとも1つの励磁コイルと少なくとも1つの検出コイルとの組合わせであるチャンネル11を複数有するマルチコイル式のプローブ51を、スリット4が設けられた磁性体の被検査体1に設置し、当該スリット4を含む部位をプローブ51で走査することで各チャンネル11で初期波形と評価波形とを取得する。
【0027】
(S102)各チャンネル11で、初期波形と評価波形との偏差が最も小さくなるように評価波形を初期波形に向かって移動したときの評価波形の移動量を演算する。
【0028】
(S103)プローブ51における各チャンネル11の位置情報と、上記(S102)で演算した各チャンネル11の評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネル11の評価波形の補正値を演算する。
【0029】
(S104)上記(S103)で演算した各チャンネル11の補正値に従って各チャンネル11の評価波形を移動させることで各チャンネル11の新たな評価波形を生成する。
【0030】
(S105)各チャンネル11で初期波形と上記(S104)で生成した新たな評価波形とのピーク値の差分を演算する。
【0031】
なお、上記S101では、初期波形と評価波形を取得するためにプローブ51の走査は少なくとも2回行うことが好ましい。プローブ51の走査は各回で開始位置が異なるが、走査方向と走査速度は同一とする。また、初期波形と評価波形は、
図4等に示すように、位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に表すことができる。
【0032】
上記S102の「偏差」の大小は、例えば、初期波形に評価波形が重なり合うように評価波形を移動し、移動後の両波形の信号強度の差分の絶対値を位置ごとに演算し、それらを積算した値の大小で評価できる。つまり当該積算値が最小となる評価波形の移動量がS102で演算される。評価波形が、位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上にプロットされているときには、評価波形の移動量は、横軸である評価波形の位置の変化量ΔKと、縦軸である信号強度の変化量ΔVとによって規定できる。
【0033】
上記S103で利用される「プローブ51における各チャンネル11の位置情報」とは、例えば、評価波形を取得した際のプローブ51の走査開始位置における各チャンネル11の配置のことである。本実施形態で例示したプローブ51におけるチャンネルの配置は、
図3に示すように複数のチャンネル11が略等間隔で直線状に配置されており、このようなプローブ51の場合、評価波形取得時の走査開始位置におけるプローブ51の傾きによって各チャンネル11の走査方向における位置が変わり得る。例えば、プローブ51の長手方向が被検査体1の奥行き方向(
図3内の上下方向)と平行であれば、各チャンネル11の走査開始位置は一致する。
【0034】
上記S103における「各チャンネル11の補正値」は、二次元平面上にプロットした各チャンネル11の評価波形の移動量を、評価波形を取得した際のプローブ51の走査開始位置における各チャンネル11の配置に基づいて近似した値とすることができる。
【0035】
また、上記S103における「各チャンネル11の補正値」は、評価波形を取得した際のプローブ51の走査開始位置における各チャンネル11が直線(第1直線)に沿って配置されているとき、二次元平面上にプロットした各チャンネル11の評価波形の移動量を、当該直線(第1直線)と傾きとが同じ直線で近似した値とすることができる。
【0036】
また、上記S105の後に、S105で演算した各チャンネル11の初期波形と新たな評価波形とのピーク値の差分をモニタ55に表示しても良い。
【0037】
次に
図8のフローに従った具体的な手順の一例について、
図9-14を用いて説明する。
【0038】
図9は同じスリット4(被検査体1)に対して初期波形と評価波形の2回の波形計測を実施した際のプローブ51の走査開始位置を示す。1回目の初期波形を計測したときの開始位置20をL0、2回目の評価波形を計測したときの開始位置21をL1としている。プローブ51の走査開始位置が異なると、透磁率の分布の影響により、スリット信号のピーク値が変化することは先に記載した通りである。この変化は、プローブ51の故障や渦電流探傷器53の設定変更が無いにも関わらず、発生するため、機器依存により再現性の低い計測となっているように見えることがある。以下、2回目の計測で得た評価波形を1回目の計測のプローブ51の走査位置と同じ位置から走査した状態に補正する方法を説明する。
【0039】
まず、プローブ51に内蔵される複数のコイルの配置構造及び駆動情報から、各チャンネル11の位置情報を得る。渦電流探傷はプローブ走査の開始点における信号強度を基準(0V)とすることから、本調整においてコイルの配置を利用する。ここでは
図3に示すように、プローブ51の長手方向に沿って各コイルが等間隔に直線状に配置されたプローブ51を利用した場合について説明する。
【0040】
次に被検査体1をプローブ51で2回走査して各チャンネル11で初期波形と評価波形を計測する(S101)。そして、各チャンネル11で評価波形を初期位置から移動して初期波形にフィッティングさせたときの、評価波形の移動量を2つのパラメータ(評価波形の位置ΔKと信号強度(直流バイアス電圧)ΔV)で表し、両波形をフィッティングして、両波形の偏差(「偏差」の評価の仕方については上述の通り)が最も小さくなるパラメータの値(位置ΔKminと直流バイアス電圧ΔVmin)を算出する。すべてのチャンネル11で得られる初期波形と評価波形に対して同様に処理してΔKminとΔVmin(評価波形の移動量)を演算する(S102)。
【0041】
図10を用いてΔKminとΔVmin(評価波形の移動量)の演算の詳細を説明する。
図10は、横軸を走査位置、縦軸を信号強度(V)とする二次元平面に、或るチャンネル11で得られた初期波形22と評価波形23を示した図である。破線は1回目の初期波形22、実線は評価波形23を示している。ここで、磁性波形は再現性があることから、評価波形23と初期波形22は、プローブ51の損傷や、機器の設定が変更されていなければ、一致することになる。そこで、
図11に示すように評価波形を横軸にΔK、縦軸にΔVだけシフトさせて、両波形の偏差を算出する。この偏差が最も小さくなるΔKとΔVをΔKmin、ΔVminとして、これらをそのチャンネルの番号(Ch番号)と合わせてコンピュータ54のメモリ(記憶装置54b)に書き込む。
【0042】
次に、メモリに書き込んだCh番号とΔKmin(横軸方向における移動量)の組み合わせに対して、プローブ51におけるコイル配列によって決まる近似式を利用して、Ch番号とその番号のチャンネルに対応する補正値ΔKcrcの関係式を作成する(つまり、各Chの横軸方向における補正値ΔKcrcを演算する)(S103)。この手順について
図12を用いて詳述する。
【0043】
図12は、縦軸をCh番号、横軸をΔKminとする二次元平面に、Ch番号とΔKminの演算結果をプロットした結果を示す。本実施形態では、プローブ51は、
図9に示したように、複数のコイル(チャンネル)が被検査体1の奥行き方向に沿って直線状に配置されており、各計測回でプローブ51が回転していない(回転角がゼロである)ことを考慮して、ΔKmin=定数の直線(回帰直線)25で近似式を作成することで、プローブ51のコイル配置を加味した精度の良い各チャンネル11の補正値ΔKcrcを導出することができる。つまり、プローブ51の角度が2回とも
図9のように保持されているときには、ΔKmin=定数の直線(回帰直線)25で近似式を作成でき、各チャンネル11の補正値はΔKcrcとなる。演算した補正値ΔKcrcはCh番号と紐付けてコンピュータ54のメモリ(記憶装置54b)に書き込んでも良い。
【0044】
次に各チャンネル11の評価波形を、各チャンネル11の補正値ΔKcrcに従って横軸の方向に移動させた後、各チャンネル11の初期波形と重なる位置まで縦軸の方向に移動して各チャンネル11の新たな評価波形を生成する。つまり、各チャンネル11のCh番号とΔKminから求めたΔKcrcだけ評価波形の位置を補正し、初期波形のプローブ走査開始点に対応する位置が0VになるようにΔVの直流バイアス電流を加えるように評価波形を移動させる。このようにして、全てのチャンネル11について、評価波形をシフトして新たな評価波形を生成する(S104)。新たな評価波形の生成プロセスには、上記の通りプローブ51におけるコイルの配置構造の情報が加味されているので、操作者の恣意が含まれ難く精度の高い波形位置の補正を実現できる。
【0045】
次に各チャンネル11で初期波形と新たな評価波形とのピーク値の差分を演算する(S105)。当該差分はモニタ55に表示しても良い。当該差分を評価すれば、速やかにシステム異常の有無や較正の要否を検討できる。即ち、本実施形態によれば、磁性体を複数回プローブ走査する場合に各回の走査開始位置がずれても、スリット信号強度の変化を精度良く評価できる。
【0046】
なお、上記では2回のプローブ走査の開始点L0,L1が横軸方向でずれている場合(
図9)について触れたが、実際には、2回目の走査開始時のプローブ51の姿勢が
図13に示すように回転している場合も考えられる。
図13において符号30を付した破線の矩形は1回目の初期波形を計測したときの走査開始位置でのプローブ51の姿勢(プローブ51の回転角がゼロの場合)を示し、符号31を付した矩形は2回目の評価波形を計測したときの走査開始位置でのプローブ51の姿勢(プローブ51が左回りにθ回転した場合)を示す。この場合も
図9の場合と同様に補正値ΔKcrcを演算できる。すなわち、上述したように、S102で移動量ΔKminを各チャンネル11について求めた後に、S103で縦軸をCh番号、横軸をΔKminとする二次元平面上に各チャンネル11のΔKminをプロットし、その結果とプローブ51のチャンネル位置情報(すなわち各チャンネル11は直線状に配置されている)に基づいて直線状の近似式(回帰直線)32を作成する。評価波形を取得した際のプローブ51の走査開始点が回転している場合は、
図14に示すように二次元平面上のΔKminの各点は、プローブ51の回転に対応してプロットされ、その近似式も傾きを有する直線として生成される。つまり、Ch番号と各Chに対応する補正値(ΔKcrc1, ΔKcrc2, ΔKcrc3, ΔKcrc4, ΔKcrc5)の関係式(近似式)は、プローブ51の傾きθを反映したものとなることから、上記と同様の手順で補正値の演算、ひいては初期波形と新たな評価波形のピーク値の差分の評価が可能と言える。なお、プローブ51の回転角θが判明している場合には、近似式32の傾きをθに一致させることで各補正値ΔKcrc1, ΔKcrc2, ΔKcrc3, ΔKcrc4, ΔKcrc5の精度を向上することができる。
【0047】
なお、上記において説明したS101-105を含む各手順は、システム100内のコンピュータ54のプロセッサ54aによって実行させても良い。この場合、コンピュータ54はシステム100におけるデータ処理装置として機能する。
【0048】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、
図9に示すように、1回目と2回目の走査開始位置におけるプローブ51の姿勢(回転角度)が同じだが走査開始位置がずれている場合に適用できるものである。
【0049】
本実施形態では、システム100に係る初期波形と評価波形のデータ処理において、下記S101,S112-115の手順を行う。
図15は本実施形態に係る初期波形と評価波形のデータ処理で行われる手順をまとめたフローチャートである。なお、システム100のハードウェア構成は第1実施形態と同じであり、
図15のS101は
図8のものと同じである。
【0050】
(S101)少なくとも1つの励磁コイルと少なくとも1つの検出コイルとの組合わせであるチャンネル11を複数有するマルチコイル式のプローブ51を、スリット4が設けられた磁性体の被検査体1に設置し、当該スリット4を含む部位を前記プローブ51で走査することで各チャンネル11で初期波形と評価波形とを取得する。
【0051】
(S112)位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に、各チャンネル11で取得された複数の評価波形を配置し、横軸上に所定の間隔で配置される基準点Pm(m=0,1,2,3,・・・,n)を設定する。
【0052】
(S113)複数の基準点Pmの中から1つの基準点を選択し、その選択した基準点における信号強度がゼロになるように二次元平面上の複数の評価波形をそれぞれ縦軸の方向に平行移動させ、その平行移動後の複数の評価波形のピーク値のばらつきを演算することを、複数の基準点Pmの全ての基準点が選択されるまで繰り返す。
【0053】
(S114)平行移動後の複数の評価波形のうち、上記(S113)で演算したピーク値のばらつきが最も小さいものを各チャンネル11の新たな評価波形とする。
【0054】
(S115)各チャンネル11で、上記(S114)で生成した新たな評価波形と初期波形とのピーク値の差分を演算する。
【0055】
なお、上記(S112)において横軸上に複数の基準点が配置される所定の間隔は、評価波形が点群データで構成されている場合、その点群データを構成する点のピッチとすることが好ましい。
【0056】
また、複数の基準点は、各チャンネル11の評価波形におけるピークの位置よりも二次元平面の原点に近い位置に設定することとしても良い。このように基準点を設定する範囲を限定すると、上記(S113)でばらつきを演算する回数を減らせるので、新たな評価波形を生成するまでに要する時間を短縮できる。
【0057】
また、上記(S113)で演算される「ばらつき」の大きさは、平行移動後の複数の評価波形のピーク値の分散又は標準偏差で評価できる。
【0058】
また、上記(S112)において各チャンネル11で取得された複数の評価波形を二次元平面上に配置させる場合、各評価波形の左端の位置は、評価波形を取得した際の走査開始位置に設定することが好ましい。そして、当該走査開始位置に最初の基準点P0を設定し、そこから横軸上を右に向かってP1,P2,P3・・・と、残りの基準点を設定することが好ましい。
【0059】
次に
図15のフローにおけるS113で行われる手順の一例について
図16-18を用いて説明する。ここでは各基準点Pmの間隔をΔKとする。
【0060】
図16は、S113において、各評価波形の信号強度が基準点P1でゼロになるように各評価波形を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図である。図示された複数の評価波形の集合40は平行移動後のものであり、S113では、平行移動後の複数の評価波形の集合40のピーク値41のばらつき(例えば、標準偏差や分散)が演算される。評価波形の集合40は、
図16の状態に至る前、S112で、各チャンネル11で取得された複数の評価波形を、各波形の左端が走査開始位置L1上に位置するように二次元平面上に配置されている。
【0061】
図17は、基準点P2で信号強度がゼロになるように各評価波形40を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図であり、この状態でピーク値42のばらつきが演算される。
図18は、基準点Pnで信号強度がゼロになるように各評価波形40を縦軸方向に平行移動させた状態を示す図であり、この状態でピーク値43のばらつきが演算される。演算したピーク値のばらつきは、選択した基準点の符号(番号でも良い)と、平行移動後の各評価波形の位置とに紐付けられて、コンピュータ54の記憶装置54bに記憶しても良い。
【0062】
このように全ての基準点Pmで信号強度がゼロになるように平行移動させた評価波形の集合について、それぞれのピーク値のばらつきを演算し、その中で最もばらつきが小さいものを新たな評価波形の集合(つまり、各チャンネル11の新たな評価波形)とする。例えば、
図17の評価波形の集合40のピーク値42のばらつきが最も小さいかった場合には、基準点P2を初期波形と評価波形の走査開始位置とみなし、
図17上の各評価波形とそれに対応する初期波形のピーク値の差分をS115で演算することになる。すなわち、本実施形態を利用しても、磁性体を複数回プローブ走査する場合に各回の走査開始位置がずれたときにスリット信号強度の変化を精度良く評価できる。
【0063】
なお、ピーク値のばらつきが最も小さい評価波形の集合を、上記のように速やかに新たな評価波形と決定する前に、各評価波形とそれに対応する初期波形との一致度を示す相関係数を評価し、当該相関係数が所定の値より大きく、所望の一致度が確保されていることを確認してから当該評価波形を新たな評価波形として決定しても良い。
【0064】
なお、上記において説明したS101及びS112-115を含む各手順は、システム100内のコンピュータ54のプロセッサ54aによって実行させても良い。この場合、コンピュータ54はシステム100におけるデータ処理装置として機能する。
【0065】
また、本発明は、上記の各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の各実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0066】
また、上記のコンピュータ54に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現しても良い。また、上記のコンピュータ54に係る構成は、プロセッサ54a(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該コンピュータ54の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
【0067】
<付記>
上記において説明した実施形態には下記の特徴が含まれる。
【0068】
(1)励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブを、スリットが設けられた磁性体の被検査体に設置し、当該スリットを含む部位を前記プローブで走査することで各チャンネルで初期波形と評価波形とを取得し、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記評価波形を前記初期波形に向かって移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネルの前記評価波形の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を移動させることで各チャンネルの新たな評価波形を生成し、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0069】
(2)上記(1)の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
各チャンネルの前記補正値は、二次元平面上にプロットした各チャンネルの前記評価波形の移動量を、前記評価波形を取得した際の前記プローブの走査開始位置における各チャンネルの配置に基づいて近似した値であることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0070】
(3)上記(1)の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記評価波形を取得した際の前記プローブの走査開始位置における各チャンネルが第1直線に沿って配置されているとき、
各チャンネルの前記補正値は、二次元平面上にプロットした各チャンネルの前記評価波形の移動量を、前記第1直線と傾きが同じ直線で近似した値であることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0071】
(4)上記(1)の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記初期波形及び前記評価波形は、位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に表されており、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記二次元平面上で前記初期波形に向かって前記評価波形を移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量のうち前記横軸の方向における移動量とに基づいて、各チャンネルの評価波形の前記横軸の方向の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を前記横軸の方向に移動させた後、前記初期波形と重なる位置まで前記縦軸の方向に移動して各チャンネルの前記新たな評価波形を生成することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0072】
(5)上記(1)-(4)のいずれか1つの渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
演算した前記各チャンネルの前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分をモニタに表示することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0073】
(6)励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブを、スリットが設けられた磁性体の被検査体に設置し、当該スリットを含む部位を前記プローブで走査することで各チャンネルで初期波形と評価波形とを取得し、
位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に、各チャンネルで取得された複数の前記評価波形を配置し、前記横軸上に所定の間隔で配置される複数の基準点を設定し、
前記複数の基準点の中から1つの基準点を選択し、その選択した基準点における信号強度がゼロになるように前記二次元平面上の複数の前記評価波形をそれぞれ前記縦軸の方向に平行移動させ、その平行移動後の複数の前記評価波形のピーク値のばらつきを演算することを、前記複数の基準点の全ての基準点が選択されるまで繰り返し、
前記平行移動後の複数の前記評価波形のうち前記ピーク値のばらつきが最も小さいものを各チャンネルの新たな評価波形とし、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算することを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0074】
(7)上記(6)の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記評価波形は点群データで構成されており、
前記所定の間隔は、前記点群データを構成する点のピッチであることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0075】
(8)上記(6)または(7)の渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記複数の基準点は、各チャンネルの前記評価波形におけるピークの位置よりも前記二次元平面の原点に近い位置に設定されることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0076】
(9)上記(6)-(8)のいずれか1つの渦電流探傷システムのデータ処理方法において、
前記ばらつきの大きさは、分散または標準偏差で評価されることを特徴とする渦電流探傷システムのデータ処理方法。
【0077】
(10)励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブと、スリットが設けられた磁性体の被検査体を前記プローブで走査することで各チャンネルで取得された初期波形と評価波形とを記憶した記憶装置と、プロセッサと、モニタとを備えた渦電流探傷システムであって、
前記プロセッサは、
各チャンネルで、前記初期波形と前記評価波形との偏差が最も小さくなるように前記評価波形を前記初期波形に向かって移動したときの前記評価波形の移動量を演算し、
前記プローブにおける各チャンネルの位置情報と、各チャンネルの前記評価波形の移動量とに基づいて、各チャンネルの前記評価波形の補正値を演算し、
各チャンネルの前記補正値に従って各チャンネルの前記評価波形を移動させることで各チャンネルの新たな評価波形を生成し、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算し、
前記ピーク値の差分を前記モニタに表示すること特徴とする渦電流探傷システム。
【0078】
(11)励磁コイルと検出コイルとの組合わせであるチャンネルを複数有するマルチコイル式のプローブと、スリットが設けられた磁性体の被検査体を前記プローブで走査することで各チャンネルで取得された初期波形と評価波形とを記憶した記憶装置と、プロセッサと、モニタとを備えた渦電流探傷システムであって、
前記プロセッサは、
位置を示す横軸と、信号強度を示す縦軸とからなる二次元平面上に、各チャンネルで取得された複数の前記評価波形を配置し、前記横軸上に所定の間隔で配置される複数の基準点を設定し、
前記複数の基準点の中から1つの基準点を選択し、その選択した基準点における信号強度がゼロになるように前記二次元平面上の複数の前記評価波形をそれぞれ前記縦軸の方向に平行移動させ、その平行移動後の複数の前記評価波形のピーク値のばらつきを演算することを、前記複数の基準点の全ての基準点が選択されるまで繰り返し、
前記平行移動後の複数の前記評価波形のうち前記ピーク値のばらつきが最も小さいものを各チャンネルの新たな評価波形とし、
各チャンネルで前記初期波形と前記新たな評価波形とのピーク値の差分を演算し、
前記ピーク値の差分を前記モニタに表示することを特徴とする渦電流探傷システム。
【符号の説明】
【0079】
1…被検査体,2…走査装置,4…スリット,5…走査方向,6…磁性信号,7…スリット信号,11…チャンネル,12…プローブ出力信号群,13…磁性信号,14…スリット信号,15…信号群,15…プローブ出力信号群,20…開始位置,21…開始位置,22…初期波形,23…評価波形,25…直線(回帰直線),32…直線(回帰直線),40…評価波形,41…ピーク値,42…ピーク値,43…ピーク値,51…プローブ(渦電流探傷プローブ),52…走査装置,53…渦電流探傷器,54…コンピュータ,54a…プロセッサ,54b…記憶装置(メモリ),55…モニタ,70…初期波形,80…評価波形,100…渦電流探傷システム,Pm…基準点,ΔKcrc…補正値,ΔKmin…横軸の移動量,ΔVmin…縦軸の移動量,θ…プローブ51の回転角