(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086564
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】水処理組成物及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/08 20060101AFI20250602BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250602BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20250602BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20250602BHJP
【FI】
A01N59/08 Z
A01P3/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 520J
C02F1/50 520K
C02F1/50 520P
C02F1/50 531L
C02F1/50 532D
C02F1/50 532J
C02F1/76 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200627
(22)【出願日】2023-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関戸 広太
【テーマコード(参考)】
4D050
4H011
【Fターム(参考)】
4D050AA08
4D050AA13
4D050AB06
4D050BB03
4D050BD08
4H011AA02
4H011BA04
4H011BB18
4H011BC07
4H011BC09
4H011BC19
4H011DA13
4H011DH02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】殺菌力の高い無機系殺菌剤とアゾール化合物を含む安定な水処理組成物とその水処理組成物を用いた水処理方法を提供する。
【解決手段】次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物において、臭素安定化剤として(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物であって、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を含むことを特徴とする水処理組成物。
【請求項2】
前記(A)スルホンアミド化合物が、トルエンスルホンアミド及び/又はベンゼンスルホンアミド、(B)スルホベンズイミド化合物が、o-スルホベンズイミドであることを特徴とする水処理組成物。
【請求項3】
前記(A)/(B)のモル比が0.2~6.0であることを特徴とする請求項1又は2記載の水処理組成物。
【請求項4】
前記水処理組成物中のカリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比が0.2以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の水処理組成物。
【請求項5】
前記水処理組成物において、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載水処理組成物。
【請求項6】
次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物であって、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を含む水処理組成物を対象水系に添加することを特徴とする水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却水系、冷温水系、集塵水系、紙パルプ工程水系、製鉄工程水系、金属加工工程水系等の各種用排水系、各種工程水系等における微生物に起因する諸障害を抑制することができる水処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、冷温水系、集塵水系、紙パルプ工程水系、製鉄工程水系、金属加工工程水系等の各種工程水中に生育する微生物は、系内で増殖してスライムやバイオファウリングと呼ばれる微生物性の付着物を形成し、熱交換器の伝熱効率低下、流路の閉塞及び嫌気性菌による微生物腐食などの微生物障害を引き起こす原因となる。
【0003】
微生物障害の対策としては、塩素系殺菌剤、臭素系殺菌剤、過酸化水素類などの酸化作用を有する酸化性殺菌剤や、第4級アンモニウム塩類、グルタルアルデヒド、3-イソチアゾロン類、有機臭素化合物類、ヒドラジン類等の非酸化性殺菌剤が使用されている。このうち次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンを生成する塩素系殺菌剤は、殺菌効果が優れ、かつ、環境中で速やかに分解して無害な塩素イオンとなることから、安全性が高く、飲料水やプールの殺菌などに広く使用されている。
【0004】
一方で、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンを生成する塩素系殺菌剤と銅材質用の防食剤であるアゾール類を併用する場合、その酸化力によりアゾール化合物が分解し、銅の防食効果が低下する問題も生じる。また、上述の様にこれらの組み合わせでは塩素系殺菌剤の酸化力によりアゾール化合物が分解してしまうため1液化できず、複数の薬液タンク及び薬注ポンプが必要になる問題があった。
【0005】
これらを解決するため、アゾール化合物を併用する場合、より酸化力の低い結合塩素や結合臭素を配合する組成物が提案されており、例えば特許文献1では、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系酸化剤と、アゾール化合物と、スルファミン酸もしくはその塩とを含有してなり、pH13以上である一剤化の殺菌殺藻剤組成物を提示している。しかしながら、特許文献1の殺菌殺藻剤組成物における殺菌成分はスルファミン酸の塩素化物(N-クロロスルファミン酸)である結合塩素であり、結合塩素は酸化性が低いため、殺菌効果が次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンと比較して低下する課題がある。
【0006】
また、特許文献2では、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物である活性臭素と、スルファミン酸化合物と、を含む次亜臭素酸の安定化組成物と、アゾール化合物とがpH13.2以上で配合されていることを特徴とする水処理剤組成物が提示されているが、当該発明においても、スライムコントロール成分はスルファミン酸の臭素化物である結合臭素(N-ブロモスルファミン酸)である。非特許文献1には、結合臭素は結合塩素と比較して殺菌効果の指標となるORPの上昇能力は高いが、次亜塩素酸や次亜臭素酸と比較するとORP上昇能力が低いことが示されている。
【0007】
以上の様に、無機系殺菌剤(次亜塩素酸や次亜臭素酸)は殺菌効果が高いが、銅防食剤であるアゾール化合物も酸化されてしまい、ハロゲン濃度の減衰や組成物の安定性が低下するため1液化は出来ず、一方で、酸化性が低い結合塩素や結合臭素化合物を用いることによりアゾール化合物との1液化は可能であるが、殺菌効果が次亜塩素酸や次亜臭素酸と比較して劣ってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3832399号公報
【特許文献2】特許6145360号公報
【非特許文献1】伊藤賢一、関戸広太、PETROTECH、第38巻、第12号、p960(2015)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、殺菌力の高い無機系殺菌剤とアゾール化合物を含む安定な水処理組成物とその水処理組成物を用いた水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物において、臭素安定化剤として(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を用いることで、アゾール化合物と無機系殺菌剤である次亜臭素酸を多く含む水処理組成物を提供できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物であって、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を含むことを特徴とする水処理組成物である。
【0012】
また、前記(A)スルホンアミド化合物が、トルエンスルホンアミド及び/又はベンゼンスルホンアミド、(B)スルホベンズイミド化合物が、o-スルホベンズイミドであることを特徴とする水処理組成物である。
【0013】
また、前記(A)/(B)のモル比が0.2~6.0であることを特徴とする請求項1又は2記載の水処理組成物である。
【0014】
また、前記水処理組成物中のカリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比が0.2以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の水処理組成物。
【0015】
また、前記水処理組成物において、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体を含むことを特徴とする請求項1又は2記載水処理組成物である。
【0016】
また、次亜臭素酸、臭素安定化剤、アゾール化合物を含むpHが13以上の水処理組成物であって、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を含む水処理組成物を対象水系に添加することを特徴とする水処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水処理剤組成物は、配合された殺菌剤成分の高温安定性が優れているため、気温の高い夏季においても性能低下することなく安心して使用できる。従って、本発明の水処理剤組成物を各種水系に適用することによって、水系で問題となる微生物障害を、年間を通じて安定的かつ効果的に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明を詳細に記述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明で用いられる次亜臭素酸は、特に限定はないが、次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸カルシウム溶液等の次亜塩素酸塩と、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム等の臭素化合物を反応させて得られるほか、臭素ガスを水に溶解させる等によっても得られる。また、次亜臭素酸ナトリウム溶液が関東化学(株)より試薬として入手可能である。
【0019】
前記臭化物化合物と次亜塩素酸塩の好ましい反応比は、Cl2換算で1モルの次亜塩素酸塩に対して0.4~1.5モルの臭化物イオンである。このモル比が0.4未満では十分な量の次亜臭素酸塩が生成せず、その結果、十分な量の結合臭素化合物が生成しないため微生物抑制効果が劣り、また、モル比が1.5を超えても次亜臭素酸塩の生成に寄与せずコストや資源の無駄であるため、いずれも好ましくない。
【0020】
本発明において、次亜臭素酸とは、非乖離の次亜臭素酸(HOBr)および次亜臭素酸イオン(OBr-)を含む遊離ハロゲンのことを指す。また、本発明において、結合塩素、結合臭素とは、それぞれアミノ基やアミド基などの窒素化合物に塩素または臭素が結合している結合ハロゲンのことを指す。
【0021】
本発明におけるアゾール化合物とは分子内にアゾール骨格を有する化合物であり、使用可能なアゾール化合物は特に限定されないが、代表的なものとして、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどが挙げられる。
【0022】
本発明において、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物及び(B)スルホベンズイミド化合物を用いる。(A)スルホンアミド化合物としては、例えば、p-トルエンスルホンアミド、o-トルエンスルホンアミド、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、トルエン-4-スルホンアミド、4-クロロベンゼンスルホンアミド、4-アミノベンゼンスルホンアミド、N-ブチル-4-メチル-ベンゼンスルホンアミド、N-フェニル-ベンゼンスルホンアミド、N-フェニル-4-メチル-ベンゼンスルホンアミド、4-アミノ-N-ピリジン-2-イルベンゼンスルホンアミド、4-アミノ-N-(5-メチル-チアゾール-2-イル)-ベンゼンスルホンアミド、4-アミノ-N-チアゾール-2-イル-ベンゼンスルホンアミド、4-アミノ-N-(5-メチル-イソキサゾール-3-イル)-ベンゼンスルホンアミド、4-アミノ-N-(2,6-ジメトキシ-ピリミジン-4-イル)-ベンゼンスルホンアミド、1,2-ベンズイソチアゾール-3(2H)-オン1,1-ジオキシド、4-アミノ-6-クロロ-ベンゼン-1,3-ジスルホン酸ジアミド、6-エトキシ-ベンゾチアゾール-2-スルホン酸アミド、5-ジメチルアミノ-ナフタレン-1-スルホン酸アミド、4-ナトリウムオキシ-ベンゼンスルホンアミド、N-(4-ベンゼンスルホニルアミノ-フェニル)-ベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。ハロゲン安定性の観点から、中でも、p-トルエンスルホンアミド、o-トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミドが好ましく、p-トルエンスルホンアミドがさらに好ましい。本発明のスルホンアミド化合物は、次亜臭素酸と結合臭素を作り、製品安定性を向上させる効果がある。
【0023】
(B)スルホベンズイミド化合物としては、例えば、o-スルホベンズイミド、o-スルホベンズイミドの塩、o-スルホベンズイミド誘導体等が挙げられ、具体的には、o-スルホベンズイミド、o-スルホベンズイミドの塩としては、o-スルホベンズイミドナトリウム、o-スルホベンズイミドカリウム、o-スルホベンズイミドカルシウム、o-スルホベンズイミドマグネシウム、o-スルホベンズイミドリチウム等の金属塩やその水和物、o-スルホベンズイミド誘導体としては、チオ-o-スルホベンズイミド、N-メチル-o-スルホベンズイミド、o-スルホベンズイミドメチルエ-テル、N-プロポキシメトキシ-o-スルホベンズイミド、N-プロピル-o-スルホベンズイミド、N-(ヒドロキシメチル)-o-スルホベンズイミド、N-(2-ニトロフェニルチオ)o-スルホベンズイミド、アセチル-o-スルホベンズイミド、ブチリル-o-スルホベンズイミド、ヘキサノイル-o-スルホベンズイミド、オクタノイル-o-スルホベンズイミド、デカノイル-o-スルホベンズイミド、ラウロイル-o-スルホベンズイミド、ミリストイル-o-スルホベンズイミド、パルミトイル-o-スルホベンズイミド、ステアロイル-o-スルホベンズイミド、シンナモイル-o-スルホベンズイミド、3,4-ジメトキシシンナモイル-o-スルホベンズイミド、3,4,5-トリメトキシシンナモイル-o-スルホベンズイミド、N-ビニル-o-スルホベンズイミド等が挙げられる。前記スルホベンズイミド化合物の中でも、ハロゲン安定性の観点から、o-スルホベンズイミド及び/またはその金属塩を用いることが好ましい。o-スルホベンズイミド及び/またはその金属塩を用いることで、次亜臭素酸の分解を顕著に改善する効果がある。またo-スルホベンズイミドの金属塩を用いることで、溶解性を向上することができる。
【0024】
次亜臭素酸は酸化力が高く、そのままではアゾール化合物が分解してしまうが、臭素安定化剤として、(A)スルホンアミド化合物を配合することで、次亜臭素酸の一部がスルホンアミド化合物のアミド部位に結合し、結合臭素であるN-ブロモトルエンスルホンアミド化合物となることで、アゾール化合物の分解を抑制し、本発明である水処理組成物の安定性を改善することができる。また、(B)スルホベンズイミド化合物は次亜臭素酸と殆ど反応せず、結合臭素を生成しないため、結合臭素に比べて殺菌力に優れた遊離ハロゲンである次亜臭素酸を安定に存在させることができ、アゾール化合物の分解を抑制し、本発明である水処理組成物の安定性を改善することができる。なお、(A)スルホンアミド化合物を含まない場合、結合臭素はほとんど生成されず、水処理組成物の安定性が低下する。
【0025】
本発明において、(A)スルホンアミド化合物/(B)スルホベンズイミド化合物のモル比が0.2~6.0であることが好ましく、より好ましくは0.2~5.0であり、さらに好ましくは0.3~1.5である。(A)/(B)のモル比が0.2未満であれば、水処理組成物内の次亜臭素酸の濃度が高くなり水処理組成物の安定性が低下し、6.0を超えた場合は結合臭素の割合が高くなり、水処理組成物の殺菌効果が低下する。
【0026】
本発明において、臭素安定化剤の配合量は次亜臭素酸及びその塩を結合臭素に変換させる十分な量であるが、具体的には有効ハロゲン量(Cl2換算)1モルに対して臭素安定化剤0.5~3.0モルの範囲である。このモル比が0.8未満では十分な量の結合臭素が生成しないため微生物抑制効果が劣り、また、モル比が3.0を超えても結合臭素の生成に寄与せずコストや資源の無駄であるため、いずれも好ましくない。
【0027】
本発明において、水処理組成物中のカリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比は、0.2以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1.0以上である。ここで、カリウム化合物、ナトリウム化合物とは、水処理組成物の性能に影響する水処理組成物中に配合しているカリウム化合物、ナトリウム化合物であって、具体的には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム、ベンゾトリアゾールカリウムやベンゾトリアゾールナトリウム等のアゾール化合物のカリウム塩やナトリウム塩、p-トルエンスルホンアミドのカリウム塩やナトリウム塩等のスルホンアミド化合物のカリウム塩やナトリウム塩、o-スルホベンズイミドカリウムやo-スルホベンズイミドカリウムナトリウム等のスルホベンズイミド化合物のカリウム塩やナトリウム塩、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体等のポリマーのカリウム塩やナトリウム塩等が挙げられる。カリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比は臭素安定化剤の溶解性に寄与しており、0.2未満において臭素安定化剤の溶解性が悪化し、水処理組成物の安定性が低下する。
【0028】
本発明の水処理組成物において、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体を1種以上含むことが望ましい。アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体を含む組成物は、ハロゲン残留率、水処理組成物の安定性向上させ、また水系における非晶質スケールに対し、高い分散効果を得ることが出来る。
【0029】
アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体におけるスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体に特に制限はなく、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリロキシ-ヒドロキシプロパンスルホン酸、共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル類、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル類、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸等が挙げられるが、ハロゲン残留率、水処理組成物の安定性を考慮して、好ましい共重合体はアクリル酸と2-アクリルアミド-メチルプロパンスルホン酸である。
【0030】
本発明におけるアクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体との共重合体の配合量に特に指定はないが、水処理組成物の安定性を鑑みると通常は30重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
【0031】
本発明において、水処理組成物のpHは13以上が好ましく、より好ましくは13.5以上である。pHが13未満の場合、水処理組成物における次亜臭素酸、結合臭素の安定性が低下する。
【0032】
水処理組成物のpHの調整には水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を使用することが好ましく、より好ましくは水酸化カリウムである。水酸化カリウムを使用することにより、水処理組成物におけるカリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比の調整が容易となり、水処理組成物の安定性を向上することができる。
【0033】
本発明の水処理組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲において、これら以外にも鉄系金属に対し腐食を抑制する成分を含んでもよい。
【0034】
鉄系金属の腐食を抑制する成分に特に制限はないが、一般的には無機リン酸、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸、カルボン酸重合体である。
【0035】
本発明で使用される無機リン酸化合物は、分子中にリン酸基又はリン酸骨格を有する無機化合物であり、具体的には、リン酸やリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、及びピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。
【0036】
本発明で使用される有機ホスホン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基と有する有機化合物であり、有機ホスホン酸としては、特に限定されないが、例えば、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等が挙げられる。
【0037】
本発明で使用されるホスホノカルボン酸とは、分子中において、1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物を意味する。ホスホノカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸(PBTC)、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸等が挙げられる。ホスホノカルボン酸としては、ローディア社製の「BRICORR(登録商標)288」や、BWA社製の「BELCOR(登録商標)585」が挙げられる。
【0038】
本発明で使用されるホスフィノポリカルボン酸とは、分子中において、1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシ基とを備える有機化合物であり、ホスフィノポリカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸とを反応させて得られるポリ(2-カルボキシエチル)(1,2-ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸とを反応させて得られるビス-ポリ[2-カルボキシ-(2-カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸との反応物等が挙げられる。 ホスフィノポリカルボン酸は、例えば、バイオ・ラボ社より「BELCLENE500」、「BELSPERSE164」、「BELCLENE400」等の商品名で市販されている。
【0039】
本発明で用いられるカルボン酸重合体としては、モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体及びその水溶性塩、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体及びその水溶性塩等が挙げられる。 モノエチレン性不飽和カルボン酸のホモ重合体としては、例えば、アクリル酸重合体、メタクリル酸重合体、マレイン酸重合体、無水マレイン酸重合体の加水分解物、イタコン酸重合体、フマル酸重合体等が挙げられ、2種以上の異なるモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体としては、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とイタコン酸の共重合体、マレイン酸とフマル酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸とマレイン酸の三元共重合体、アクリル酸とイタコン酸とフマル酸の三元共重合体等が挙げられるが、好ましくは、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体、及びホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。ここで、マレイン酸やイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、フマル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2~8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2-エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテン等;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステル等が挙げられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0040】
本発明の水処理組成物が適用できる水系に特に制限はないが、例えば、冷却水系、冷温水系、集塵水系、紙パルプ工程水系、製鉄工程水系、金属加工工程水系等の各種用排水系、各種工程水系などが挙げられる。
【0041】
本発明の水処理剤組成物を被処理水系に適用する場合、被処理水中のpHは特に限定されないが、通常はpH5~10の範囲内である。
【0042】
本発明の水処理剤組成物の添加量や添加方法などは被処理水系の状況によって異なるが、通常、被処理水系の工程水や循環水に対して、有効ハロゲン(Cl2換算)として0.1~100mg/Lを連続的ないし断続的に添加する。また、アクリル酸とスルホン酸系モノエチレン性不飽和単量体成分は活性分換算として0.1~100mg/Lとなるよう連続的ないし断続的に添加することが望ましい。この連続的な添加には、通常、薬注ポンプを使用する。また、本発明の水処理剤組成物を高濃度で一括添加することにより被処理水系内に存在するバイオフィルムや無機デポジットを剥離分散することもできる。また、本発明の水処理剤組成物の添加により被処理水系内での菌類や藻類の繁殖を抑制し、バイオフィルムの形成を抑制できる。
【0043】
本発明の水処理剤組成物中の有効ハロゲン含量ならびに被処理水中の残留ハロゲン濃度はジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)-硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法、DPD比色法、ヨード滴定法等公知の方法(JIS K 0101-1991参照)により測定できる。
【0044】
本発明の水処理剤組成物の微生物障害の抑制に必要な被処理水中における添加濃度は、通常は有効ハロゲン濃度が所定の範囲内になるように管理されるが、被処理水中の酸化還元電位(ORP)が300~600mV(飽和KCl入り銀/塩化銀電極基準)の範囲になるように本発明の水処理剤組成物の添加量を調整することもできる。維持すべきORPは、システム条件、生物汚染に対する許容度、問題となる微生物や水棲生物の種類などによって異なるが、300mV未満では本発明の殺菌剤成分濃度が低く十分な殺菌効果を得られない場合がある。また、本発明の水処理剤組成物は、過剰添加してもORPは600mV程度で飽和に達するため、ORPを過度に増加させて金属の腐食を増加させることがないため好適である。本発明の水処理剤組成物は、ORPの測定結果をもとに添加量を自動的に調整することができる。本発明の水処理剤組成物の自動添加システムの具体例として、水処理剤組成物の供給装置と制御部から構成され、制御部はORPの測定値と設定値を比較して水処理剤組成物の供給装置に出力を与えるものであり、例えば、被処理水の殺菌効果が維持されるORPの範囲を設定し、ORPの測定値が設定範囲値未満に低下した場合は水処理剤組成物の添加装置を作動させる。その結果、ORPが設定範囲内に達したならば、水処理剤組成物の添加装置を停止させることによって、被処理水のORPが維持される。
【実施例0045】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例、比較例については、表1~2に示す配合組成(重量%)において、成分A、B、Cをそれぞれ番号の順番で添加し、その後成分A、B、Cを混合し製剤化を行った。製剤化は、プラスチック製の容器内でスターラーにより撹拌しながら各成分を添加して行った。なお、その際、液温が室温以下となるよう冷却しながら製剤化を行った。
【0046】
組成物の全ハロゲン濃度、遊離ハロゲン濃度はジエチル-p-フェニレンジアンモニウム(DPD)-硫酸アンモニウム鉄(II)滴定法により測定した。具体的には、組成物を1万倍に純水で希釈した溶液をサンプルとし、DPDおよびりん酸緩衝液を加え、硫酸アンモニウム鉄(II)溶液で滴定した。赤色が消えた点を終点とし、遊離ハロゲン濃度(Cl2換算)を算出した。その後、同じ溶液にヨウ化カリウムを少量添加し、再び硫酸アンモニウム鉄(II)溶液で赤色が消失するまで滴定した。ヨウ化カリウム添加後の滴定量から、結合ハロゲン濃度(Cl2換算)を算出した。遊離ハロゲン濃度と結合ハロゲン濃度を足し合わせたものを全ハロゲン濃度とした。
【0047】
ハロゲン残留率として、室温と40℃の恒温槽中で静置させた組成物において、1か月経過時点の全ハロゲン濃度を測定した。なお、期間中に析出や沈殿が見られた場合、組成物の安定性不良として、ハロゲン残留率は測定しなかった。また、1か月経過時点の室温における製品安定性について評価し、析出等がなく安定であれば○、析出等があれば×とした。結果を表1~2に示した。なお、水処理組成物中のカリウム化合物とナトリウム化合物のモル比は、以下式で算出した。
カリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比=Σ(水処理組成物中のカリウム化合物の配合量/水処理組成物中のカリウム化合物のモル質量)/Σ(水処理組成物中のナトリウム化合物の配合量/水処理組成物中のナトリウム化合物のモル質量)
【0048】
本発明を適用した実施例1~6では、組成物中の全ハロゲン濃度における大部分(50%~85%)が遊離ハロゲンであることが分かる。また、それにも拘らず、組成物は安定であり、ハロゲン残留率も高いことが分かる。一方、比較例1のように、pHが13未満であればハロゲン安定性が悪くなり、室温、40℃共に1か月後のハロゲン残留率が悪化することが分かる。また、カリウム化合物/ナトリウム化合物のモル比や(A)スルホンアミド化合物/(B)スルホベンズイミド化合物のモル比が指定値を満たさない場合、本発明である(A)スルホンアミド化合物、(B)スルホベンズイミド化合物を含まない場合(比較例2~5)では、組成物の安定性不良やハロゲンの残留率が悪いことが分かる。
【0049】
なお、参考例1は、特許文献2に記載されている臭素安定化剤としてスルファミン酸を用いた場合であるが、組成物の安定性やハロゲン残留率は高いものの、全ハロゲン濃度の大部分は殺菌力が劣る結合ハロゲンとなっているため、遊離ハロゲン主体である本発明とは組成が明確に異なった。
【0050】
本発明の水処理組成物である実施例1、3および参考例1、比較例4の水処理組成物において、組成物を添加した水道水のORPをORP計(マザーツール製 デジタル酸化還元電位計(ORP)メータ YK-23RP)にて測定し、各組成物のORP上昇力を評価した。また、新たに比較例6、7、8として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、クロラミンについても測定を行った。比較例8のクロラミンは、アンモニアと次亜塩素酸ナトリウムを1:1モルで反応させて得た。結果を
図1に示す。本発明を適用した実施例1、3の組成物は、有効ハロゲン濃度に対するORPの上昇効果が遊離ハロゲンである次亜塩素酸ナトリウム(比較例6)や次亜臭素酸ナトリウム(比較例7)に近く、殺菌力に優れることがわかる。一方、結合ハロゲンであるクロラミン(比較例8)は、有効ハロゲン濃度に対するORPの上昇効果が低く、本発明の水処理組成物に比べ、殺菌力に劣ることがわかる。また、本発明の(B)スルホベンズイミド化合物を含まない場合(比較例4)や、臭素安定化剤としてスルファミン酸を用いた場合は(参考例1)、本発明の水処理組成物と比較して、有効ハロゲン濃度に対するORPの上昇効果が低く、殺菌力が劣ることがわかる。
【0051】
【0052】