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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086610
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】電池の製造方法、及び、電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/609 20210101AFI20250602BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20250602BHJP
   H01M 50/627 20210101ALI20250602BHJP
【FI】
H01M50/609
H01M10/04 Z
H01M50/627
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200702
(22)【出願日】2023-11-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】和泉 潤
(72)【発明者】
【氏名】新村 和寛
(72)【発明者】
【氏名】菱田 光
(72)【発明者】
【氏名】岡本 夕紀
(72)【発明者】
【氏名】石黒 文彦
【テーマコード(参考)】
5H023
5H028
【Fターム(参考)】
5H023AA03
5H023AS03
5H023BB05
5H023CC01
5H023CC30
5H028AA07
5H028BB03
5H028BB17
5H028CC19
5H028HH00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電池の注液口から電解液を注液する際に変形や破損が生じることを抑制する。
【解決手段】複数の電極が積層された電池であって、電極に対して電解液を注入するための注液口31と、注液口31を囲うように形成された注液枠とを有し、注液枠のうち、複数の電極の積層方向の端面には少なくとも一部に、注液枠の他の部位よりも表面粗さが大きい粗面部を具備する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極が積層された電池の製造方法であって、
前記電極に対して前記電解液を注入する注液口を囲むように形成された注液枠を介して前記電解液を供給する注液工程を有し、
前記注液枠のうち、複数の前記電極の積層方向端面は、前記注液枠の他の部位よりも表面粗さが大きい粗面部を備えており、
前記注液工程では、前記注液枠の開口を覆うように押圧して第1の治具を配置し、前記粗面部を押圧するように第2の治具を配置して、前記電解液を前記注液口に供給する、
電池の製造方法。
【請求項2】
前記第2の治具と前記粗面部との静摩擦係数が0.5以上である、請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
複数の電極が積層された電池であって、
前記電極に対して電解液を注入するための注液口と、
前記注液口を囲うように形成された注液枠と、を有し、
前記注液枠のうち、複数の前記電極の積層方向の端面には少なくとも一部に、前記注液枠の他の部位よりも表面粗さが大きい粗面部を具備する、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の製造方法、及び、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはバイポーラ電池の端部に射出成型で注液口が設けられたことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-120718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
注液口からの電解液の注液の際に注液口を囲うように形成された注液枠を押さえる必要があるが、注液枠に力がかかりすぎると注液枠に破損や変形の虞がある。
【0005】
そこで本開示は、電池の注液口から電解液の注液をする際に変形や破損が生じることを抑制することができる電池の製造方法を提供することを目的とする。また、そのための電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
詳細は後で説明するが、発明者は鋭意検討の結果、電解液の注液時における電解液のシール性を確保するために、注液の際に注液枠に対して電池の積層方向と交差する方向から押圧するため、座屈や変形が懸念される。これに対して注液枠に電池の積層方向からも拘束力を付加することで、押圧による力をキャンセルする。しかしながら、発明者は拘束力が大きくなると注液枠に破損や変形が生じる知見を得た。これに対して発明者は拘束力を小さくしても押圧力をキャンセルすることができる手段を具体化した。
【0007】
本願は、複数の電極が積層された電池の製造方法であって、電極に対して電解液を注入する注液口を囲むように形成された注液枠を介して電解液を供給する注液工程を有し、注液枠のうち、複数の電極の積層方向端面は、注液枠の他の部位よりも表面粗さが大きい粗面部を備えており、注液工程では、注液枠の開口を覆うように押圧して第1の治具を配置し、粗面部を押圧するように第2の治具を配置して、電解液を注液口に供給する、電池の製造方法を開示する。
【0008】
第2の治具と粗面部との静摩擦係数が0.5以上であるように構成してもよい。
【0009】
本願は、複数の電極が積層された電池であって、電極に対して電解液を注入するための注液口と、注液口を囲うように形成された注液枠と、を有し、注液枠のうち、複数の電極の積層方向の端面には少なくとも一部に、注液枠の他の部位よりも表面粗さが大きい粗面部を具備する、電池を開示する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、拘束力を付与する部材(第2の治具)と注液枠との摩擦が高められているため、電池の積層方向からの拘束力を低減してもシール性を得るための押圧力をキャンセルことができ、注液枠の変形や破損の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は二次電池10の概要を説明する外観図である。
図2図2は蓄電モジュール12の内部構造について説明する図である。
図3図3は注液部30について説明する斜視図である。
図4図4は注液部30について説明する断面図である。
図5図5は二次電池の製造方法S10の流れを説明する図である。
図6図6は注液工程S11について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.電池の構造
初めに本開示の1つの例にかかる二次電池10の構造について図を参照しつつ説明する。図には3次元直交座標系の方向も合わせて示した。ここではxy平面が水平面であり、z軸方向を鉛直方向とし、zが大きい方が上とする。
【0013】
図1は、二次電池10の構造を説明する概略的な外観斜視図である。本形態で二次電池10はバイポーラ型のリチウムイオン二次電池である。このように、二次電池10は、金属製の導電板11及び蓄電モジュール12をそれぞれ複数有し、これらが交互に積層されて電気的に接続されていることで直列接続をなしている。二次電池10は、典型的にはハイブリッド自動車や電気自動車等のバッテリに用いられる。
また、当該積層において積層方向(図1ではz軸方向)の両端はいずれも導電板11とされており、積層方向の一方側端部の導電板11には不図示の正極端子が接続され、積層方向の他方側端部の導電板11には不図示の負極端子が接続されている。
【0014】
蓄電モジュール12は全体として平板状の単電池であり、表裏面を有するとともに厚さを成す側面12aを具備している。
【0015】
1.1.蓄電モジュールの内部構造
図2には1つの蓄電モジュール12に注目してその内部構造を模式的に表した断面図を示した。
本形態で蓄電モジュール12は、複数のバイポーラ電極13が積層されてなる電極積層体L及び、各バイポーラ電極13に具備された複数の封止体20、及び、電解液を注入する部位である注液部30(図1参照)を備えている。複数のバイポーラ電極13が厚さ方向(z軸方向、平板状における厚さ方向)に沿って積層されており、それぞれのバイポーラ電極13に封止体20が配置されている。
【0016】
1.1.1.電極積層体
[バイポーラ電極]
以下、各部材の説明において「上面」、「下面」と記載することがあるが、図2において、「上面」はz軸方向で大きい側、「下面」はz軸方向で小さい側を意味する。便宜のためこのように記載するが、「上面」を「第1面」、「下面」を「第2面」と言い換えることができる。
バイポーラ電極13は、集電箔14、集電箔14の下面に設けられた正極活物質層15(第1活物質層)、集電箔14の上面に設けられた負極活物質層16(第2活物質層)、を備えている。
【0017】
集電箔14は、箔状の導電部材であり、例えば金属箔が用いられる。単層の金属箔である必要はなく異種の金属箔が積層されたクラッド箔や貼り合わせ箔であってもよい。金属の種類は特に限定されることはないが、例えば、上面がアルミニウム層となり、下面が銅層となるように、アルミニウム箔と銅箔とが積層された箔を挙げることができる。その他の金属として、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301等)、鋼(例えばJIS G 3141:2005にて規定される冷間圧延鋼板(SPCC等))等が挙げられる。
【0018】
正極活物質層15は、バイポーラ電極13の正極を構成し、本形態では集電箔14の下面にアセチレンブラック等の接着層を介して配置されている。
正極活物質層15は、正極活物質、導電助剤、及び結着剤を含むことができる。
正極活物質は、例えば複合酸化物、金属リチウム、及び硫黄等が挙げられる。複合酸化物の組成には、例えば鉄、マンガン、チタン、ニッケル、コバルト、及びアルミニウムの少なくとも1つと、リチウムとが含まれる。複合酸化物としては、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、LiCoO、LiNiMnCoO等が挙げられる。
結着剤は、活物質又は導電助剤を集電箔14の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、アクリル酸やメタクリル酸などのモノマー単位を含むアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体等が挙げられる。これらの結着剤は、単独又は複数で用いることができる。
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
【0019】
負極活物質層16は、バイポーラ電極13の負極を構成し、本形態では集電箔14の上面に配置されている。
負極活物質層16は、負極活物質、導電助剤、及び、結着剤を含むことができる。導電助剤及び結着剤は正極活物質層15と同様に考えることができる。
負極活物質は、例えば黒鉛、人造黒鉛、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、ハードカーボン、ソフトカーボン等のカーボン、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素若しくは当該元素の化合物、ホウ素添加炭素等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0020】
[セパレータ]
隣り合うバイポーラ電極13の間にはセパレータ17が配置されている。セパレータ17は、例えば、液体電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布であり、本形態では、z軸方向に隣り合う電極の正極活物質層15と負極活物質層16との間に配置される。
セパレータ17を構成する材料は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ17は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。
セパレータ17に吸収保持される電解質は、例えば、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質(電解液)が挙げられる。セパレータ17に電解質が含浸される場合、その電解質塩として、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCF3SO、LiN(FSO、LiN(CFSO等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。
【0021】
[各層の大きさ等]
集電箔14、正極活物質層15、負極活物質層16、及び、セパレータ17は、平面視で大きさが異なるように構成されている。より具体的には集電箔14が最も大きく、次にセパレータ17が大きく、その次が負極活物質層16であり、正極活物質層17が最も小さい。図2からわかるように、集電箔14、正極活物質層15、負極活物質層16、及び、セパレータ17は平面視で中央が揃って配置され、大きさの違いは縁の突出(張り出し)の程度に表れる。従って集電箔14の縁が最も突出し、その内側となるようにセパレータ14、負極活物質層16、正極活物質層15の順に縁が突出している。
【0022】
正極活物質層15及び負極活物質層16を集電箔14に形成するには、例えばロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法等の従来から公知の方法が用いられる。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び導電助剤を混合してスラリー状の活物質層形成用組成物を製造し、当該活物質層形成用組成物を集電箔14の上面、下面に塗布後、乾燥する。溶剤は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水である。
【0023】
[電極積層体の積層構造]
電極積層体Lで、電極の積層方向(z軸方向)に隣り合うバイポーラ電極13は、一方のバイポーラ電極13の正極活物質層15と他方のバイポーラ電極13の負極活物質層16の間にセパレータ17が介在された状態で重なるように積層されている。
ここで、電極積層体Lの平面視の大きさ(xy平面方向大きさ)は特に限定されることはないが、1m×1mのような大きな電極積層体Lとしてもよい。
【0024】
その他、電極積層体Lは、バイポーラ電極13による積層体の積層方向端部には、その上端に正極終端電極18、下端に負極終端電極19を有している。
正極終端電極18は、集電箔14及び集電箔14の下面に設けられた正極活物質層15を有している。正極終端電極18の正極活物質層15と、隣接するバイポーラ電極13の負極活物質16との間にはセパレータ17が介在されている。
負極終端電極19は、集電箔14及び集電箔14の上面に設けられた負極活物質層16を有している。負極終端電極19の負極活物質層16と、隣接するバイポーラ電極13の正極活物質層15との間にはセパレータ17が介在されている。
正極終端電極18および負極終端電極19の集電箔14には、導電板11が積層される。
【0025】
1.1.2.封止体
封止体20は、バイポーラ電極13の外周端部に配置されることにより、バイポーラ電極13を封止する部材である。これにより合わせて、積層方向に隣り合うバイポーラ電極13の間の封止もする。本形態で、封止体20は、第1シール部材21、第2シール部材22、及び、スペーサ23を有している。
【0026】
[第1シール部材]
第1シール部材21は枠状の部材であり、これがバイポーラ電極13の外周端部(外縁)に沿って配置される。具体的には、図2からわかるように、第1シール部材21は、バイポーラ電極13の外周端部において、集電箔14の上面とスペーサ23の下面との間に配置及び接合されることで負極活物質層16がその枠内に配置される。
本形態で第1シール部材21の内縁と負極活物質層16との間には所定の間隔が設けられ空間Sが形成されている。一方、第1シール部材21の外縁は第1シール部材21が集電箔14より外側に突出するように構成されている。
また、本形態では、第1シール部材21にセパレータ17の周縁部が溶着固定されている。
【0027】
第1シール部材21は電気絶縁性を有しており、公知の材料である例えば、酸変性ポリエチレン(酸変性PE)、酸変性ポリプロピレン(酸変性PP)、ポリエチレン、又は、ポリプロピレン等の耐電解質性を有する樹脂材料により構成できる。
【0028】
[第2シール部材]
第2シール部材22は枠状の部材であり、これがバイポーラ電極13の外周端部(外縁)に沿って配置される。具体的には、図2からわかるように、第2シール部材22は、バイポーラ電極13の外周端部において、集電箔14の下面とスペーサ23の上面との間に配置及び接合されることで正極活物質層15がその枠内に配置される。
本形態で第2シール部材22の内縁と正極活物質層15との間には所定の間隔が設けられ空間Sが形成されている。一方、第2シール部材22の外縁は第2シール部材22が集電箔14より外側に突出するように構成され、第2シール部材22の上面と第1シール部材21の下面とが接合されている。
第2シール部材22の材料は第1シール部材21と同様に考えることができる。
【0029】
[スペーサ]
スペーサ23は枠状の部材であり、これがバイポーラ電極13の外周端部に沿って配置される。具体的には、図2からわかるように、スペーサ23は、第1シール部材21および第2シール部材22との間に配置されている。互いに隣接する第1シール部材21とスペーサ23と第2シール部材とが接合されることで、各セルの空間Sが封止される。組み合わされることで、バイポーラ電極13の外周端部において、第2シール部材22の下面と、隣接するバイポーラ電極13のセパレータ17の上面との間に配置及び接合され、正極活物質層15がその枠内に配置される。
本形態でスペーサ部材23の内縁は正極活物質層15および負極活物質層16と離隔して配置されている。一方、スペーサ23の外縁はス集電箔14の縁部ペーサ23がセパレータ17よりも外側に突出しており、その下面がその外縁が隣接する封止体20の第1シール部材21および第2シール部材22の上面に接合されている。
スペーサ23の材料は第1シール部材21と同様に考えることができる。
【0030】
1.1.3.注液部
注液部30は蓄電モジュール12の側面12aの一部に形成されており、電解液を蓄電モジュール12の内部に注入(注液)するための部位である。図3には図1のうち、1つの蓄電モジュール12に注目し、その側面12aのうち注液部30が配置された部位の一部を拡大した斜視図(分かりやすさのため封止材33は省略)を表した。また、図4には図3のうち、z軸に平行なA-A線に沿った断面図(封止材33を分離していない。)を示した。
【0031】
本形態で注液部30は、注液口31、注液枠32、及び、封止材33を有している。
【0032】
[注液口]
注液口31は、蓄電モジュール12の側面12aに形成され、封止体20を貫通して空間Sと外部とを連通する孔(不図示)のうち、側面12a側に形成された開口である。注液口31(貫通孔)は例えば1つのバイポーラ電極13に対して1つ設けることができ、その場合には具備されるバイポーラ電極13の数に対応した数の注液口31が形成される。上記したように複数のバイポーラ電極13は積層されていることから図3におけるz軸方向の位置が異なるため、注液口31のz軸方向の位置もバイポーラ電極13の位置に応じて変えられている。
【0033】
本形態で各注液口31(貫通孔)は、側面12aを一周する方向に長辺が延びる横長のスリットである。この形状は特に限定されることはないが、貫通孔31が連通する空間Sの形状はその性質上バイポーラ電極13の積層方向(図3ではz軸方向)に小さく、平面方向(図3ではxy平面方向)には大きいことから、注液口31(貫通孔)をスリットにすることで電解液の注入を効率よく行うことができる。
【0034】
[注液枠]
注液枠32は、枠状の部材であり側面12aに配置されている。注液枠32は、各注液口31を囲むように配置されている。これにより注液枠32の厚さ(図3でy軸方向大きさ)が注液口31を有する側面12aを底として注液枠32に囲まれた開口を有する凹部32aが形成される。また、注液枠32のうち側面12aに接触する側とは反対側の面32bは封止体33との溶着面、及び、後述する第1の治具40との接触面になる。
【0035】
本形態で注液枠32は、その外形を形成する矩形の外枠32cを有し、外枠32cの枠内が隔壁32dで区画されて各凹部32aが形成されている。
外枠32cは、xーz平面に沿った矩形の枠体であり、z軸方向に対してx軸方向に長く延びる形状を有している。また、隔壁32dにより区画された各凹部32aもz軸方向に対してx軸方向に長い形状である。
【0036】
注液枠32を構成する材料は特に限定されることはないが、樹脂により構成されることが好ましく、典型的にはポリエチレンである。そしてこのような注液枠は射出成型により作製することができる。
【0037】
本形態で注液枠32は、電極積層体Lの積層方向(z軸方向)端面のうち少なくとも一部(後述の第2の治具41が接触する部位)が粗面部Tとされている。粗面部Tの程度は特に限定されることはないが、注液枠32の表面のうち、粗面部T以外の面のうち最も滑らかな面よりも表面粗さが大きくなるように形成されている。
後述する第2の治具41との関係では、静摩擦係数が0.5以上となるように表面が粗面化されていることが好ましい。これにより、後述する注液工程S11において注液枠32の変形や破壊が発生することを抑制することができる。
粗面部Tの具体的態様は特に限定されることはなく、あや目形状や並目形状の幾何学形状を具備する粗面のほか、やすりや薬品処理による不規則な形状による粗面を挙げることができる。
【0038】
なお、本形態では好ましい形態としてz軸方向の両端面に粗面部Tを設けているが、いずれか一方の端面にのみ粗面部Tが設けられてもよい。
【0039】
[封止材]
封止材33はシート状の封止材であり、注液枠32により形成された凹部32aを覆うように注液枠32に被せられ、面32bに溶着される。これにより、注入された電解液が二次電池10から漏れることを防止する。
封止材33は公知のシートにより形成されていればよく、例えばアルミ箔が樹脂により覆われた層構成を有するアルミラミネートシートが典型的である。
【0040】
2.二次電池の製造方法
二次電池10は例えば、図5に流れを示したように、製造方法S10で製造することができる。図5からわかるように、二次電池の製造方法S10は、注液工程S11、初充電工程S12、高温エージング工程S13、及び、封止工程S14を含む。以下に詳しく説明する。
【0041】
2.1.注液工程
注液工程S11ではバイポーラ電極13に電解液を注入する。図6に説明のための図を示した。図6図4と同じ視点による図であり、見易さのために省略した符号は図4を参照することができる。
【0042】
注液工程S11では、電解液注入前の二次電池10(封止材33は未溶着)に対して、凹部32aの開口を塞ぎ面32bを押圧するように(図6の矢印F1)、第1の治具40を配置する。これによりこの後、液供給装置から電解液が供給されたときのシール性が確保される。そのため、第1の治具40は弾性率が小さい材料が好ましく、より好ましくはゴムのような粘弾性材料である。
なお、第1の治具40には、真空引きの際の空気や供給装置からの電解液が通過する流路40aが設けられている。
【0043】
これに合わせて、注液枠32の粗面部Tを含んで、電極積層体Lの積層方向に沿って(z軸方向)、注液枠32を挟んで拘束力(F2)を生じるように第2の治具41を配置する。これにより第1の治具40による押圧力F1が電極積層体Lに及ぼす影響を大きく減らすことができる。第2の治具41はせん断力で変形が生じ難いように弾性率が大きい(剛性が高い)材料が好ましく、例えばステンレス鋼等の金属を挙げることができる。
【0044】
第1の治具40により上記したように電解液の注入時におけるシール性を確保することができる。一方で第1の治具40による押圧力F1は、その向きからわかるように電極積層体Lに対しても押圧力を及ぼし得るものであり、電極積層体Lへの影響(変形等)が懸念される。
これに対して第2の治具41により注液枠32をz軸方向から拘束するように押圧(F2)することで第2の治具41と注液枠32との接触面に生じる摩擦力(μ・F2(μは静摩擦係数))が、第1の治具40による押圧力F1に抗する方向に働く。これにより押圧力F1が減殺(キャンセル)されて電極積層体Lに及ぼす影響を減じることができる。
ここで、第2の治具41による摩擦力で第1の治具40による押圧力F1に抗するためには、拘束力F2を大きくする必要があるが、この拘束力F2を大きくしすぎると注液枠32を挟む力が大きくなりすぎて注液枠の変形や破損が懸念される。これに対して本開示では、第2の治具41に接触する注液枠32の面を粗面部Tとすることで静摩擦係数が高められていることから、拘束力F2を大きく高めることなく摩擦力を得ることができるため、注液枠32の変形や破損の発生を抑制することが可能である。
【0045】
以上のように第1の治具40及び第2の治具41が配置された状態で、第1の治具40のうち注液枠32とは反対側に液供給装置が接続される。液供給装置に配置されたバルブを開いた真空引き管を介して真空ポンプによって流路40aを介してバイポーラ電極13内の真空引きが行われ、バルブが閉じられて減圧状態に保たれる。その状態で液供給管のバルブが開けられ、電解液が流路40aを介して凹部32a、注液口31から貫通孔を通じてバイポーラ電極13に送り込まれて電解液がバイポーラ電極13内に注入される。
【0046】
2.2.初充電工程
初充電工程S12では、初回の充電を行う。初充電工程の条件は特に限定されることなく公知の通りである。
【0047】
2.3.高温エージング工程
次に高温エージング工程S13が行われる。高温エージングの工程は公知の通りであるが、例えば二次電池10を65℃で15時間静置するような手順で慣らしを行う。
【0048】
2.4.封止工程
封止工程S14では、注液枠32により形成された凹部32aを覆うように、封止材33を注液枠32に被せ、封止材33を注液枠32の面32bに溶着する。溶着方法は特に限定されることはなく、加熱体を押し当てる方法やレーザーの照射等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0049】
10…二次電池、11…導電板、12…蓄電モジュール、13…バイポーラ電極、20…封止部、30…注液部、31…注液口、32…注液枠、33…封止材、40…第1の治具、41…第2の治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6