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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086903
(43)【公開日】2025-06-09
(54)【発明の名称】天敵誘引方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/02 20060101AFI20250602BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20250602BHJP
   A01N 63/16 20200101ALI20250602BHJP
   A01M 1/00 20060101ALI20250602BHJP
【FI】
A01M1/02 A
A01P7/02
A01N63/16
A01M1/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024206851
(22)【出願日】2024-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2023200604
(32)【優先日】2023-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一彦
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA12
2B121AA16
2B121AA19
2B121CA02
2B121CA90
2B121CB07
2B121CB09
2B121CC14
2B121CC28
2B121CC29
2B121CC32
2B121CC33
2B121CC34
2B121CC35
2B121CC37
2B121CC39
2B121EA26
2B121FA15
4H011AC01
4H011AC04
4H011BB20
(57)【要約】
【課題】有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより天敵を誘引する機能を見出し、その機能を利用する農薬資材を提供すること。
【解決手段】有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、前記植物体に揮発性物質を放散させて、前記植物体へ天敵を誘引する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、
植物体に施用することにより、
前記植物体に揮発性物質を放散させて、
前記植物体へ天敵を誘引する方法。
【請求項2】
酢酸および/またはその塩を有効成分とする、
植物体における揮発性天敵誘引物質の放散誘発剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、前記植物体に揮発性物質を放散させて、前記植物体へ害虫の天敵を誘引する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の農業は、病害虫防除の多くを化学合成農薬に頼らざるを得ない状況にある。その一方で、健康な食生活や持続的な生産・消費の活発化やESG投資市場の拡大を背景に、SDGsや環境を重視した農業への動きが加速しており、化学合成農薬のみへ依存した農業から脱却する試みが国内外で盛んとなっている。
また、家庭菜園や家庭園芸においては、使用者の安全志向の高まりにより、天然物由来の病害虫防除剤のニーズが高まっている。
これらの試みやニーズに対して、重曹や酢酸といった特定防除資材(特定農薬)と呼ばれる資材により、病害虫防除効果を得る提案(特許文献1、2等)がなされている。しかしながら、これらの特定防除資材(特定農薬)は、満足できる病害虫防除効果を得るためには、高濃度の散布液を用いる必要や、低濃度の散布液を多量に施用する必要があるため、植物体に薬害が生じるといった問題があった。
また、特定防除資材(特定農薬)により病害虫防除効果が得られるメカニズムについては、未だ、その詳細が解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-190198号公報
【特許文献2】特開2007-320943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより天敵を誘引する機能を見出し、その機能を利用する農薬資材の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、植物が揮発性物質を放散することに着目し、これらの植物の揮発性物質の放散を促進させることにより得られる効果について鋭意研究を重ねた結果、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、前記植物体が放散する揮発性物質が増加し、当該揮発性物質により、天敵が当該植物体に誘引されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、詳しくは以下の事項を要旨とする。
1.有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、前記植物体に揮発性物質を放散させて、前記植物体へ天敵を誘引する方法。
2.酢酸および/またはその塩を有効成分とする、植物体における揮発性天敵誘引物質の放散誘発剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物体が放散する揮発性物質が増加し、当該揮発性物質により、天敵が当該植物体に誘引されるので、害虫を防除することができ、植物体の生育を促進することが可能となる。
本発明によれば、化学合成農薬を使用することなく新たな害虫防除効果を得ることができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の「天敵誘引効果の確認試験」における、2枚のリーフディスクを用いた試験方法を示す概略図である。
図2】実施例の「天敵誘引効果の確認試験」における、試験検体1、2の何れかを処理した植物体から放散される揮発性物質を選択した、チリカブリダニの個体の割合(%)を示すグラフである。
図3】実施例の「揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験方法」における、足場としてパラフィルムを用いた試験方法を示す概略図である。
図4】実施例の「揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験1」における、試験検体である揮発性物質を選択した、チリカブリダニの個体の割合(%)を示すグラフである。
図5】実施例の「揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験2」における、試験検体である揮発性物質を選択した、タバコカスミカメ、コレマンアブラバチの個体の割合(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
<本発明における天敵誘引について>
本発明は、植物体に有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を施用することにより、放散される揮発性物質量や放散される揮発性物質の種類が増加すること、さらには、当該揮発性物質に天敵が誘引されることにより、植物体への害虫被害が抑制されるという効果を発揮するものである。すなわち、本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物の植物体への施用により、植物体から天敵が誘引される揮発性物質の放散を増加させることで、植物体に天敵を誘引し、結果として当該植物体への害虫による被害を抑制するものである。
なお、本発明における「誘引」とは、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、施用以前には当該植物体上に存在していなかった天敵を当該植物体上に誘引させること、また、誘引および定着させること、ならびに、施用以前から存在していた天敵を定着させることを意味し、「放散」とは、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、施用以前には放散していなかった揮発性物質を放散させること、および、施用以前から放散していた揮発性物質の放散量が、施用により増加することの両方を意味する。
【0010】
<有機酸および/またはその塩について>
本発明の方法における組成物の有効成分は、有機酸および/またはその塩であり、植物体に有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を施用する発明である。
本発明における有機酸としては、カルボキシル基(-COH基)を有するカルボン酸と、スルホ基(-SOH基)を有するスルホン酸が挙げられるが、中でも、カルボン酸が好ましい。カルボン酸としては、蟻酸、酢酸等の飽和カルボン酸、オレイン酸等の不飽和カルボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸、シュウ酸、コハク酸等のジカルボン酸が挙げられる。中でも、炭素数1以上10以下の有機酸が好ましく、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸等の飽和脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
これらの有機酸の中でも、本発明における有効成分として、炭素数1以上5以下の飽和カルボン酸が好適である。
また、本発明の方法における組成物の有効成分として、例えば、酢酸を用いる場合は、純粋な酢酸の他、食酢である醸造酢や合成酢が含まれる。これらは市販されており、例えば、穀物酢や特濃酢、高濃度醸造酢、粉末食酢(酢酸とデキストリン等の混合物)などを利用することができる。また、ワインビネガーやアップルビネガーといった果実酢も利用可能である。
有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられ、本発明における有効成分として、酢酸塩を使用する場合には、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましい。これらの塩は単体として、本発明の組成物中に加えてもよいが、有機酸と対応する中和剤とを別々に加えて製剤調製時に塩を形成させてもよい。例えば、酢酸と、中和剤として水酸化ナトリウムとを別々に加えて、ナトリウム塩として使用することができる。中和剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適である。
本発明における有効成分としては、上記の有機酸および/またはその塩を含有するものを、1種のみ使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
本発明の放散誘発剤における有効成分は、酢酸および/またはその塩である。
【0011】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩を、組成物あるいは放散誘発剤全体の好ましくは0.04重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.06重量%以上の含有量とすることができる。また、有機酸(または酢酸)および/またはその塩をあまり多量に用いると、植物体に対する薬害のほか有機酸(または酢酸)による刺激臭が気になる使用者もいるため、10重量%以下の含有量とすることが好ましく、4重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、そのまま植物体に施用することができるが、所定の有効成分を含有した製剤を使用時に水で希釈して植物体に処理することもできる。希釈して使用する場合は、組成物あるいは放散誘発剤全体における有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩の濃度に応じて、希釈倍率を適宜調整することが好ましい。水で希釈された製剤においても、有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩の含有量を、好ましくは0.04重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.06重量%以上となるように、また、好ましくは10重量%以下、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下となるように調製して使用することが好適である。
【0012】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、各種製剤として用いることができる。
製剤としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。その中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明における組成物あるいは放散誘発剤の性能を、最大限に活用することができる製剤型として好適である。スプレー剤やエアゾール剤とするには、所定の噴霧パターン、噴霧粒子を供給する噴霧装置を備えたエアゾール缶、薬剤ボトルを用いることができる。
上記製剤の1つの製造例としては、有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩と、必要に応じて界面活性剤を用いて溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌して製剤とすることにより、使用時に希釈する必要がない、本発明における組成物あるいは放散誘発剤とする方法を挙げることができる。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、濾過処理した水、滅菌処理した水、地下水などを用いることができる。
【0013】
製剤時に用いられる液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、ハッカ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。
【0014】
製剤時に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-またはジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン、モノ-またはジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)化フェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルオキサイドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシド、レシチンなどが挙げられる。
なお、界面活性剤は展着剤としても用いることができ、製剤時に用いられる展着剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、変性シリコーンオイルなどが挙げられ、中でも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、変性シリコーンオイル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0015】
エアゾール剤とする時に用いられる噴射剤としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、代替フロン(HFO、HFC等)、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガスが挙げられる。
また固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、ゼオライト、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0016】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、製剤調製時に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤及び増粘剤等を添加することができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物、イソチアゾリン系化合物、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、及びビタミンE、混合トコフェロール、α-トコフェロール、エトキシキン及びアスコルビン酸等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【0017】
<天敵について>
本発明における「天敵」とは、特定の種の生物の死亡要因となり、ひいてはその種の繁殖を抑える生物種を意味する。本発明における天敵としては、餌となる生き物を捕食する「捕食性天敵」のみならず、寄生によって害虫を殺す「寄生型天敵」も含まれる。例えば、「捕食性天敵」としては、テントウムシ類、捕食性カメムシ類、ヒラタアブ類、クサカゲロウ類、ハチ類、ゴミムシ類、ハサミムシ類、ハネカクシ類、クダアザミウマ類、カブリダニ類、クモ類、「寄生型天敵」としては、寄生バチ類、寄生バエ類が挙げられる。本発明における組成物あるいは放散誘発剤によって誘引される天敵種に制限はないが、天敵種ごとの生態的観点から、「捕食性天敵」としてはテントウムシ類、捕食性カメムシ類、ヒラタアブ類、クダアザミウマ類、カブリダニ類、クモ類を、「寄生型天敵」としては寄生バチ類、寄生バエ類を誘引する点において好ましく、「捕食性天敵」としてはテントウムシ類、捕食性カメムシ類、クダアザミウマ類、カブリダニ類を、「寄生型天敵」としては寄生バチ類を誘引する点においてより好ましく、「捕食性天敵」としては、ナミテントウ、ナナホシテントウ、タイリクヒメハナカメムシ、タバコカスミカメ、オオメカメムシ、アカメガシワクダアザミウマ、スワルスキーカブリダニ、リモニカスカブリダニ、ミヤコカブリダニ、チリカブリダニ、ククメリスカブリダニを、「寄生型天敵」としてはオンシツツヤコバチ、サバクツヤコバチ、コレマンアブラバチ、ギフアブラバチ、ハモグリミドリヒメコバチを誘引する点において特に好ましい。
本発明における害虫とその「天敵」との組み合わせとしては、例えば、ハダニ類を餌とするカブリダニ類、アザミウマ類を餌とするカブリダニ類、ヒメハナカメムシ類、クダアザミウマ類、コナジラミ類やアザミウマ類を餌とするカブリダニ類、アブラムシ類を餌とするテントウムシ類、コナジラミ類に寄生するツヤコバチ類、アブラムシ類に寄生するアブラバチ類、ハモグリバエ類に寄生するヒメコバチ類などが挙げられる。
【0018】
<植物体について>
本発明における植物体としては、地上部より揮発性物質を放散し得る植物種ならば限定されるものではなく、具体的には、例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ジャガイモなどの根菜類、ハクサイ、キャベツ、ネギ、タマネギ、ブロッコリー、アスパラ等の葉茎菜類、トマト、ミニトマト、ナス、キュウリ、ピーマン、カボチャ、インゲンマメ、ソラマメ、オクラ等の果菜類、シソ、ミョウガ、ワサビ、バジル、ミント、ローズマリー、パセリ等の香辛野菜類、イチゴ、メロン、スイカ等の果実的野菜類、バラ、チューリップ、パンジー、キク、スイセン、アサガオ、マリーゴールドなどの花卉類、ブルーベリー、カキ、ミカン、ウメ、レモンなどの果樹類、サクラ、アジサイ、サツキ、ツツジ、キンモクセイ、サザンカ、ツバキなどの樹木類、ポトス、アイビー、パキラ、ガジュマルなどの観葉植物類、サボテン、アロエなどの多肉植物類等が挙げられる。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、植物体に付着させることができる限り、付着させる植物体の部位に制限はないが、吸収効率の良さの点から、植物茎葉部分や根部に対して施用することが好ましい。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤の処理時期は、植物体の生育状況に応じて適宜選択すればよい。施用頻度は、1~10日に1回、好ましくは1~7日に1回、より好ましくは1~4日に1回の頻度で施用するのがよい。施用手段は特に制限されない。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤の植物体への施用量としては、施用頻度に関わらず、有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩の積算処理量を、地上部が60cm未満の植物体に対しては、0.0001g/週以上、5g/週以下の範囲、好ましくは0.0005g/週以上、3g/週以下の範囲、より好ましくは0.001g/週以上、1g/週以下の範囲で施用するのが良く、地上部が60cm以上の植物に対しては、有機酸(または酢酸)および/またはその塩の積算処理量で0.001g/週以上、50g/週以下の範囲、好ましくは0.005g/週以上、30g/週以下の範囲、より好ましくは0.01g/週以上、10g/週以下の範囲で施用するのがよい。
【0019】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、植物体に施用することにより、植物体から天敵が誘引される揮発性物質の放散を増加させることにより、植物体に天敵を誘引し、結果として当該植物体への害虫による被害を抑制するものである。
後述する試験例に基づき、以下に説明する。
本発明における有効成分として、酢酸を含有する組成物を施用した植物体から発せられる揮発性物質は、酢酸を含有しない組成物を施用した植物体に比べて、(Z)-3-ヘキセナール、1-ペンテン-3-オール、(E)-2-ヘキセナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニル、3-ヘキセン-1-オール、α-ファルネセンの増加が確認(表1)され、3,5-オクタジエン-2-オンは、酢酸を含有する組成物を施用した植物体でのみ放散が確認され、酢酸を含有しない組成物を施用した植物体からは放散が確認されなかった。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤が施用された植物体がこれらの成分を放散させ、天敵がこれらの成分に誘引され、結果として当該植物体への害虫による被害が抑制されるものと考える。
有機酸(塩)(または酢酸(塩))の施用により、天敵が誘引される揮発性物質の放散量の増加を誘発することは全く知られておらず、有機酸(塩)(または酢酸(塩))が有する新たな機能を本発明者らが今回初めて見出したものである。
【0020】
この他、目的に応じて、例えば、殺菌剤、防カビ剤、殺虫殺ダニ剤、忌避剤、香料、精油等を併用してもよい。例えば、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、イマザリル、ミクロブタニル、シメコナゾール、テトラコナゾール、チアベンダゾール、ペンチオピラド、マンゼブ等の殺菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等の防カビ剤;除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、デルタメトリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペントリン、シラフルオフェン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物等の殺虫殺ダニ剤;ディート、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン(ピカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)等の忌避剤の1種または2種以上を用いることができる。香料、精油としては、用途に応じて天然香料及び合成香料、天然抽出物等からなる群から適宜選択される1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。
【実施例0021】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0022】
<天敵誘引効果の確認試験>
(1)試験検体
試験検体1
酢酸0.25重量部、展着剤(ポリエーテル変性シリコーン:トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体1を調製した。
試験検体2
展着剤(トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体2を調製した。
【0023】
(2)天敵誘引効果の確認試験方法
供試植物として、育苗培土(タキイ種苗社製)で満たしたポリポット(直径7.5cm、容量220mL)に播種してから10日程度のインゲンマメ(長鶉)を使用した。供試植物に対して、試験検体1または試験検体2を、ハンドスプレーを用いて植物体の地上部全体がまんべんなく濡れるよう噴霧した(1回あたり約10~20mLを施用)。48時間後、供試植物に対して、再度、前述の方法で1回目と同じ試験検体を噴霧した。2回目の試験検体処理から72時間後、試験検体により2回処理された供試植物の初生葉からリーフディスク(直径2cm)を作製した。
水で湿らせた脱脂綿を敷いた9cmシャーレの中心部に、試験検体1を処理したリーフディスクと、試験検体2を処理したコントロールのリーフディスクを5mm離して、1枚ずつ裏向きに載置した(図1)。それぞれのリーフディスクの中心に、チリカブリダニの定着を促進させるためにパラフィルム(5mm×5mm、Bemis社製)を設置した。2枚のリーフディスク間をつなぐ橋としてパラフィルム(5mm×10mm、Bemis社製)をリーフディスク間中央に長辺(10mm)がリーフディスク間をつなぐように載置し、橋であるパラフィルム中央部にチリカブリダニ成虫(チリトップ、株式会社アグリセクト製)を1個体接種した。
チリカブリダニ接種から30分後、チリカブリダニが選択したリーフディスクとして、チリカブリダニがどちらのリーフディスク上に存在していたのかを記録した。
この確認試験を10回繰り返し、各リーフディスクを選択したチリカブリダニの個体の割合を、図2にまとめて示した。
図2中のバー内の数字は選択したチリカブリダニの個体数の平均値を意味し、バーの長さは、選択したチリカブリダニの個体数から算出された割合(%)を示す。
【0024】
図2に示すとおり、チリカブリダニは、酢酸を組成物全体に対して0.25重量%含有する試験検体1を施用した植物体に誘引されることが明らかとなった。
植物が天敵を誘引し害虫を防除する機能である間接防衛は、植物が発する揮発性物質が関与していることが報告されていることから、本発明における、上記確認試験の結果は、植物が放散する揮発性物質が関与していると考える。
【0025】
(3)植物体が放散する揮発性物質の同定試験
試験検体として、上記試験検体1、2を使用した。
<捕集方法>
供試植物として、上記(2)と同様の方法で育成したインゲンマメと、育苗培土(タキイ種苗社製)で満たしたポリポット(直径7.5cm、容量220mL)に播種してから30日程度のキャベツ(輝)を使用した。加えて、2種類の供試植物に対して、上記(2)と同様に試験検体1、2を処理し、その供試植物が放散する揮発性物質を、以下の方法にて捕集を行った。
活性炭にて洗浄した空気を、流量計にて0.3L/分に調整し、地上部以外をアルミホイルで覆った供試植物1株を入れたガラス容器(直径12.5cm、容量2L)を経由させ、ガラス製捕集管TenaxTA(60/80mesh、180mg充填、Camsco社製)を用いて、供試植物が放散する揮発性物質を3時間捕集した。揮発性物質の捕集後、捕集管に内部標準物質としてヘキサンで希釈したノニルアセテート(1μg/mL)を5μL添加した。内部標準物質を添加した捕集管に、活性炭にて洗浄された空気を、流量計にて0.05L/分に調整し、1分間通過させることで捕集管を乾燥させた。
上記供試植物が放散する揮発性物質を捕集し、内部標準物質を添加した捕集管に捕集された揮発性物質について、下記に説明する加熱脱離法にて分析を行った。
本分析は15回繰り返した。
【0026】
<分析方法>
サーマルディソープション:TD-30(株式会社島津製作所製)
ガスクロマトグラフィー質量分析計:GCMS-TQ8040 NX(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
[TD-30条件]
チューブデソーブ温度:250℃
チューブデソーブ流量:0.07L/分(10分)
トラップ冷却温度:-25℃
トラップデソーブ温度:250℃(2分)
ジョイント温度:220℃
バルブ温度:220℃
トランスファライン温度:220℃
[GC条件]
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス圧力:61.8kPa
注入モード:スプリットレス
カラムオーブン温度:40℃(5分)-(5℃/分)-220℃(5分)
[MS条件]
イオン源温度:200℃
インタフェース温度:250℃
測定モード:シングルMSモード
Scan質量範囲:m/z45-500
試験検体2を施用した植物体が放散する揮発性物質と、試験検体1を施用した植物体が放散する揮発性物質のピーク面積を内部標準物質にて補正後、比較を行い、同じ成分における、試験検体2の揮発性物質に対する試験検体1の揮発性物質の平均相対比を「揮発性物質増加度」として、インゲンマメの結果を表1に、キャベツの結果を表2に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表1に示すとおり、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体(インゲンマメ)が放散した揮発性物質は、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体(インゲンマメ)が放散した揮発性物質に比べて、(Z)-3-ヘキセナール、1-ペンテン-3-オール、(E)-2-ヘキセナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニル、3-ヘキセン-1-オール、α-ファルネセンの増加が認められた。
表2に示すとおり、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体(キャベツ)が放散した揮発性物質は、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体(キャベツ)が放散した揮発性物質に比べて、(Z)-3-ヘキセナール、1-オクテン-3-オール、酢酸ヘキセニル、ヘプタナール、オクタナールの増加が認められた。
また、3,5-オクタジエン-2-オンは、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体(インゲンマメ)では放散が確認されず、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体(インゲンマメ)でのみ放散したことが確認された。
これらの揮発性物質は、植物の香りとして知られ、特に(Z)-3-ヘキセナール、(E)-2-ヘキセナール、3-ヘキセン-1-オール、酢酸ヘキセニルは植物の防衛に関わることが知られる成分である。したがって、揮発性物質に対する天敵誘引効果の確認試験の結果は、揮発性物質の放散量の増加によって説明される。
【0030】
<揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験1>
(1)試験検体
上記「天敵誘引効果の確認試験」の「(3)植物体が放散する揮発性物質の同定試験」において、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体(インゲンマメ、キャベツ)が放散した揮発性物質量と、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体が放散した揮発性物質量とを比較して、増加が確認された酢酸ヘキセニル、ヘキサナール、(E)-2-ヘキセナール(東京化成工業社製)を試験検体として使用した。
【0031】
(2)試験方法
水で湿らせた脱脂綿を敷いた9cmシャーレの中心部に、チリカブリダニを自由に歩行させるための足場としてパラフィルム(25mm×50mm、Bemis社製)を設置した。足場としたパラフィルム長辺の両端から5mm、かつ、短辺から10mm離した位置にそれぞれ揮発性物質を含浸させるためのろ紙(5mm×5mm、ADVANTEC社製)を配置した(図3)。片方のろ紙は無処理区としてアセトン5μLを含侵させて、もう片方のろ紙は試験区として、誘引効果を確認するための試験検体5μL(酢酸ヘキセニル:99.7μg、ヘキサナール:100.9μg、(E)-2-ヘキセナール:100.5μgをアセトン10mLで希釈した)を含浸させた。含浸後、それぞれのろ紙の上に、チリカブリダニの定着を促進させるために山折りにしたパラフィルム(7mm×7mm、Bemis社製)を被せた。定着を促進させるためのパラフィルムを設置後、足場としたパラフィルム中央部にチリカブリダニ成虫(チリトップ、株式会社アグリセクト製)を10個体接種した。
チリカブリダニ接種から60分後、チリカブリダニが試験区/無処理区何れの定着を促進させるためのパラフィルム上もしくはその下に存在していたのかを確認した。
この確認試験を、(E)-2-ヘキセナールは3回、酢酸ヘキセニルとヘキサナールは2回繰り返し、試験区/無処理区を選択したチリカブリダニの個体の割合を、図4にまとめて示した。
図4中のバーの長さは、選択したチリカブリダニの個体数から算出された割合(%)を示す。なお、試験区/無処理区の何れにも移動しなかったチリカブリダニがいた。
【0032】
図4に示すとおり、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体の放散量が、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体の放散量より増加した酢酸ヘキセニル、ヘキサナール、(E)-2-ヘキセナールに対して、チリカブリダニが誘引されることが明らかとなった。
【0033】
<揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験2>
(1)試験検体
上記「天敵誘引効果の確認試験」の「(3)植物体が放散する揮発性物質の同定試験」において、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体(インゲンマメ、キャベツ)が放散した揮発性物質量と、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体が放散した揮発性物質量とを比較して、増加が確認された酢酸ヘキセニル、(E)-2-ヘキセナール(東京化成工業社製)を試験検体として使用した。
【0034】
(2)試験方法
クエン酸トリエチル(0.75g)と、酢酸ヘキセニルまたは(E)-2-ヘキセナール(0.25g)の混合物を、スクリューバイアル瓶(4mL)(ジーエルサイエンス株式会社製)に入れ、セプタム付スクリューキャップ(ジーエルサイエンス株式会社製)で封じた天面に、マイクロキャピラリー(1.0μL)を2cmに切断した管状のものを貫通させて香気源A(試験区)とした。また、クエン酸トリエチル(1.0g)のみを入れたものを、香気源B(無処理区)とした。
背面がメッシュのアクリル製ケージ(奥行24cm×幅36cm×高さ24cm、背面のみメッシュ製)の底面中央に、天敵であるタバコカスミカメ(20個体)またはコレマンアブラバチ(10個体)を導入するプラスチックシャーレ(直径9cm、高さ2cm)を配置し、そのシャーレから左右に3cm離した位置に、台(底面:直径8cm、高さ18cm)を2つ置き、それぞれの台の天面中央に香気源A、Bをそれぞれ載置した。
前記シャーレに天敵を導入して5分後に、前記2つの台の外周及び台の天面上方向空間内に存在する天敵数をカウントした。酢酸ヘキセニルを用いてタバコカスミカメを、(E)-2-ヘキセナールを用いてコレマンアブラバチの確認試験の確認試験を、それぞれ実施した。
この確認試験を4回繰り返し、試験区/無処理区を選択したタバコカスミカメまたはコレマンアブラバチの個体の割合を、図5にまとめて示した。
図5中のバーの長さは、選択したタバコカスミカメまたはコレマンアブラバチの個体数から算出された割合(%)を示す。なお、試験区/無処理区の何れにも移動しなかったタバコカスミカメまたはコレマンアブラバチがいた。
【0035】
図5に示すとおり、酢酸を含有する試験検体1を施用した植物体の放散量が、酢酸を含有しない試験検体2を施用した植物体の放散量より増加した酢酸ヘキセニル、(E)-2-ヘキセナールに対して、タバコカスミカメまたはコレマンアブラバチが誘引されることが明らかとなった。
【0036】
「揮発性物質による天敵誘引効果の確認試験1、2」の結果より、有機酸(または酢酸)および/またはその塩を有効成分とする組成物を植物体に施用することにより、植物体が放散する揮発性物質が、天敵であるチリカブリダニ、タバコカスミカメまたはコレマンアブラバチの当該植物体への誘引に関与し、当該揮発性物質の放散量の増加が、チリカブリダニ、タバコカスミカメ、コレマンアブラバチ等の天敵を植物体に誘引するものと考えられる。
なお、第2回目の試験検体1および試験検体2の各処理から72時間後の供試植物から、揮発性物質を捕集し、捕集した揮発性物質をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析した結果、供試植物より放散される酢酸の量は試験検体1および試験検体2で差が認められなかった。この結果より、供試植物が放散する酢酸に起因して、植物体へ天敵が誘引されたものでは無いことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5