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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025086938
(43)【公開日】2025-06-10
(54)【発明の名称】織編物、衣類及び織編物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/43 20210101AFI20250603BHJP
   D02G 3/34 20060101ALI20250603BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20250603BHJP
   D03D 15/587 20210101ALI20250603BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20250603BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20250603BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20250603BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20250603BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20250603BHJP
   A41D 31/14 20190101ALN20250603BHJP
   A41D 31/04 20190101ALN20250603BHJP
【FI】
D03D15/43
D02G3/34
D01F8/14 B
D03D15/587
D03D15/283
D04B1/16
D04B21/16
A41D31/00 502A
A41D31/00 504
A41D31/02 A
A41D31/14
A41D31/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201218
(22)【出願日】2023-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中道 慎也
(72)【発明者】
【氏名】吉開 太一
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃一
【テーマコード(参考)】
4L002
4L036
4L041
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB02
4L002AB04
4L002AC00
4L002AC05
4L002AC07
4L002BA00
4L002CA00
4L002DA01
4L002EA00
4L002EA08
4L002FA01
4L036PA03
4L036PA05
4L036PA14
4L036PA46
4L036RA10
4L036RA27
4L036UA01
4L036UA12
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA05
4L041BA21
4L041BB07
4L041BC04
4L041BD13
4L041CA05
4L041CA14
4L041DD05
4L041EE12
4L048AA20
4L048AA21
4L048AA34
4L048AA36
4L048AA46
4L048AA47
4L048AA48
4L048AB07
4L048AB08
4L048AB11
4L048AB12
4L048AB20
4L048AB21
4L048AC05
4L048AC06
4L048AC09
4L048AC18
4L048BA01
4L048CA11
4L048CA12
4L048CA15
4L048CA16
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】通気性やムラ感、柔らかさに優れた織編物、衣類及び織編物の製造方法を提供すること。
【解決手段】マルチフィラメントを少なくとも一部に含む織編物であって、
前記マルチフィラメントが熱可塑性樹脂Aを含み、長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、撚り方向が混在しており、
太さの変動係数(CV)が5~30%であり、
前記マルチフィラメントを構成する単糸の融着部の比率が5%以下である、織編物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメントを少なくとも一部に含む織編物であって、
前記マルチフィラメントが熱可塑性樹脂Aを含み、
長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、撚り方向が混在しており、
太さの変動係数(CV)が5~30%であり、
前記マルチフィラメントを構成する単糸の融着部の比率が5%以下である、織編物。
【請求項2】
前記太部におけるL*の変動係数(CV)が5~20%である、請求項1に記載の織編物。
【請求項3】
前記マルチフィラメントの強度が1.5cN/dtex以上である、請求項1又は2に記載の織編物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の織編物を少なくとも一部に含む、衣類。
【請求項5】
単糸の内層が熱可塑性樹脂A、表層が熱可塑性樹脂Bであり、Tpm≦Tpm-15(℃)である元糸を式(1)の条件で延伸する工程、
得られた延伸後の元糸を式(2)のヒーター条件で融着仮撚する工程、
得られた糸束を用いて製編織する工程、
前記熱可塑性樹脂Bを溶出する工程を含む、請求項1又は2に記載の織編物の製造方法。
式(1):NDR×0.75≦DR1≦NDR×0.95
式(2):Tpm-50≦H1≦Tpm-20 (℃)
(NDR:自然延伸倍率、DR1:ピン延伸倍率、Tpm:熱可塑性樹脂Aの融点、Tpm:熱可塑性樹脂Bの融点、H1:第1ヒーター温度)
【請求項6】
前記延伸する工程において、2以上の元糸をそれぞれ式(1)の条件で延伸した後、
融着仮撚する工程の前に、インターレースによって合糸する工程を含む、請求項1又は2に記載の織編物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織編物、衣類及び織編物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通気性やムラ感が特徴である麻素材の中でもリネンは柔らかさが特徴の素材である。一方で麻素材はシワになりやすいため麻調の合繊繊維素材が求められている。
【0003】
これまで通気性やムラ感を有する合繊繊維素材として、例えば特許文献1に開示されるような、長手方向に撚り方向が変化する非融着加工糸が提案されている。これにより部分的な収束部により織編物に空隙が生じて通気性が向上し、非融着加工糸であるため柔らかさが得られ、また撚り方向が変化するため形態的なムラ感が得られる。
【0004】
また、特許文献2には実撚部と捲縮部が長手方向に交互に存在し、該実撚部の繊度が該仮撚加工糸の平均繊度の1.1倍以上、且つ、捲縮部の繊度が該仮撚加工糸の平均繊度の0.93倍以下であることを特徴とする仮撚加工糸が提案されている。これによって特許文献1と同様に通気性が向上し、また繊度差に応じて染着差が生じるため色味のムラ感が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-77528号公報
【特許文献2】特開2001-329441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるような技術は通気性や柔らかさを有するものの、色のムラ感は撚り密度の変化のみに起因するものであり単調な色調になるという課題がある。
【0007】
また、特許文献2に開示される技術は実撚部と捲縮部が長手方向に交互に存在することで糸条が部分的に収束し、さらに糸条の繊度差を有するため、通気性やムラ感には優れるものの、融着部を有するため柔らかさを得ることができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、通気性やムラ感、柔らかさに優れた織編物、衣類及び織編物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は下記の構成を有する。
[1]マルチフィラメントを少なくとも一部に含む織編物であって、
前記マルチフィラメントが熱可塑性樹脂Aを含み、
長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、撚り方向が混在しており、
太さの変動係数(CV)が5~30%であり、
前記マルチフィラメントを構成する単糸の融着部の比率が5%以下である、織編物。
[2]前記太部におけるL*の変動係数(CV)が5~20%である、[1]に記載の織編物。
[3]前記マルチフィラメントの強度が1.5cN/dtex以上である、[1]又は[2]に記載の織編物。
[4][1]~[3]のいずれか[2]に記載の織編物を少なくとも一部に含む、衣類。
[5]単糸の内層が熱可塑性樹脂A、表層が熱可塑性樹脂Bであり、Tpm≦Tpm-15(℃)である元糸を式(1)の条件で延伸する工程、
得られた延伸後の元糸を式(2)のヒーター条件で融着仮撚する工程、
得られた糸束を用いて製編織する工程、
前記熱可塑性樹脂Bを溶出する工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の織編物の製造方法。
式(1):NDR×0.75≦DR1≦NDR×0.95
式(2):Tpm-50≦H1≦Tpm-20 (℃)
(NDR:自然延伸倍率、DR1:ピン延伸倍率、Tpm:熱可塑性樹脂Aの融点、Tpm:熱可塑性樹脂Bの融点、H1:第1ヒーター温度)
[6]前記延伸する工程において、2以上の元糸をそれぞれ式(1)の条件で延伸した後、融着仮撚する工程の前に、インターレースによって合糸する工程を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通気性やムラ感、柔らかさに優れた織編物が得られる。特に、本発明の織編物を用いた衣類は、ファッション衣料として着用されるアイテム、例えば、ジャケット、ボトムス、シャツ、ストール等の衣類に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】撚り係数10000の撚りをかけマルチフィラメント全体を収束させた状態の模式図である。
図2】本発明の織編物を製造する際に使用される各種装置の概略図である。
図3】2本の元糸を用いて本発明の織編物を製造する際に使用される各種装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、マルチフィラメントを少なくとも一部に含む織編物であって、前記マルチフィラメントが熱可塑性樹脂Aを含み、長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、前記太部の撚り方向と前記細部の撚り方向が逆方向であり、太さの変動係数(CV)が5~30%であり、前記マルチフィラメントを構成する単糸の融着部の比率が5%以下である、織編物である。
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0014】
[織編物]
本発明の織編物は、マルチフィラメントを少なくとも一部に含む。織編物にマルチフィラメントを含むことで、本発明の特徴である通気性やムラ感が得られる。マルチフィラメントの割合は、織編物の全質量に対して30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。織編物を構成する繊維の全てがマルチフィラメントからなることも好ましい態様である。
【0015】
本発明の織編物の布帛構造は、織物または編物である。織物組織としては、風合いや意匠性に合わせて、平織り、綾織り、繻子織りやそれらの変化組織から選択される。さらに、二重織りなどの多重織り組織としてもよい。編物組織としては、所望する風合いや意匠性に合わせて選択すればよく、緯編では、天竺編、ゴム編、パール編、タック編、浮き編、レース編やそれらの変化組織などが挙げられ、経編では、シングル・デンビー編、シングル・バンダイク編、シングル・コード編、ベルリン編、ダブル・デンビー編、アトラス編、コード編、ハーフ・トリコット編、サテン編、シャークスキン編やそれらの変化組織などが挙げられる。これらの中でも、繊細なリネン調とナチュラルなムラ感を有させるために、平織もしくはその変化組織、綾織もしくはその変化組織、サテン織等の比較的単純な織編構造がより好ましい。
【0016】
[マルチフィラメント]
前記マルチフィラメントは、溶融紡糸して得られた元糸に融着仮撚加工を行った糸束を織編物とし、溶出工程を経て得られる。
【0017】
前記マルチフィラメントは、長手方向に沿って太部と細部を交互に有し、撚り方向が混在している。ここで、「太部」と「細部」は、マルチフィラメントに撚り係数10000の撚りをかけて撚糸した状態で観察したときの長手方向の直径について、それぞれ平均値×0.9より太い部分と平均値×0.9より細い部分をいう。例えば、図1は織編物から抜き出したマルチフィラメントに対して仮撚の撚り方向と同方向に撚り係数10000の撚りをかけマルチフィラメント全体を収束させた状態の模式図であり、D1のように直径の平均値×0.9≧直径の部分を細部、D2、D3のように直径の平均値×0.9<直径の部分を太部とした。このような撚り形態の混在により織編物とした際に、リネン調のナチュラルなムラ感となり、また微細な空隙ができるため通気性に優れる。
【0018】
また、全長に対する太部の長さの総計の比を太部比率としたときに、マルチフィラメントの太部比率は10~40%であることが好ましい。太部比率が10~40%であるとよりリネン調に近いムラ感とより高い通気性が得られる。太部比率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
また、撚り方向が混在しているとは、マルチフィラメントの長さ方向において、S方向の撚りとZ方向の撚りが交互に存在している状態をいう。
【0020】
マルチフィラメントの太さの変動係数(CV)は3~30%である。太さの変動係数が3%未満であると均一に染色されムラ感が乏しく、5%以上が好ましい。また、30%を超えると操業性が悪化し、20%以下が好ましい。変動係数(CV)は実施例に記載の方法で測定することができる。マルチフィラメントの太さの変動係数(CV)を上記範囲にする方法としては、後述する通り、元糸を特定の条件で延伸する方法等があげられる。
【0021】
前記マルチフィラメントを構成する単糸の融着部の比率は5%以下であり、好ましくは1%以下である。融着部の比率が5%を超えると粗硬感が強くなりソフト性が得られない。ここで、「単糸の融着部の比率」とは、マルチフィラメントを構成する単糸の総本数に対して、横断面において単糸間が融着しているものの本数の割合をいう。融着部の比率が0%であることも好ましい様態である。融着部の比率は実施例に記載の方法により測定することができる。単糸の融着部の比率を上記範囲にする方法としては、後述する通り、糸束表面の易溶出成分を溶出する方法や糸加工時のヒーター温度を低温化して融着部を少なくする方法等が挙げられる。
【0022】
マルチフィラメントは総繊度が20~500dtex、単糸繊度が0.5~5.0dtexが好ましい。該総繊度の範囲により織編物の重量を衣服として適当な範囲に設定することができ、該単糸繊度の範囲によりリネン調のソフト感が得られる。
【0023】
マルチフィラメントは、撚糸を行ってもよい。撚糸は撚り係数が1200~25000である。上記マルチフィラメントを撚糸とし、撚り係数を上記範囲とすることにより、柔らかさを維持しつつ通気性が向上する。撚り係数は好ましくは5000~20000である。ここで、撚り係数は、以下の式により算出することができる。
撚り係数(K)=撚り数(T/m)×√(繊度(dtex)×0.9)。
【0024】
マルチフィラメントは太部においてL*の変動係数(CV)が5~20%であることが好ましい。L*の変動係数(CV)が5%以上であると染色後の色調が多段階に変化したムラ感が得られる。一方でL*の変動係数(CV)が20%以下であると、よりリネン調のナチュラルなムラ感が得られる。L*の変動係数(CV)は6~15%であることがより好ましい。L*の変動係数(CV)は実施例に記載の方法により測定することができる。L*の変動係数(CV)を上記範囲にする方法としては、後述する通り、延伸する工程において、2以上の元糸をそれぞれ特定の条件で延伸した後、加熱する工程の前に、インターレースによって合糸する方法等が挙げられる。
【0025】
前記マルチフィラメントの強度は1.5cN/dtex以上であることが好ましく、1.9cN/dtex以上であることがより好ましい。また、強度の上限は特に限定されないが、10cN/dtex以下であるとソフトな風合いが得られやすい。強度が1.5cN/dtex以上であることで織編物として十分な強度が得られる。強度1.5cN/dtex以上とする方法としては、後述する通り、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bからなる元糸を用い、熱可塑性樹脂Aの耐アルカリ性を高くする方法や、熱可塑性樹脂Bとして容易に溶出する成分を用いる方法等が挙げられる。
【0026】
[熱可塑性樹脂A]
本発明の織編物を構成するマルチフィラメントは、熱可塑性樹脂Aを含む。熱可塑性樹脂Aを含むことで、熱によるセット性が生じ、寸法安定性が得られる。熱可塑性樹脂Aの一例としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性を有する樹脂を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂Aは、複数種を用いての混合物や、芯鞘やサイドバイサイドなど複合紡糸されていてもよい。なかでも加工性や寸法安定性の観点からポリエステル系樹脂が好ましく、その具体例としては、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエチレンテレフタレート系樹脂、又は主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートであるポリトリメチレンテレフタレート系樹脂、又は主たる繰り返し単位がブチレンテレフタレートであるポリブチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ここで、「主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートである」とは、繰り返し単位中に含まれるエチレンテレフタレート由来の構造の割合が60モル%以上であることをいう。以下、同様である。
【0027】
上記のポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、必要に応じて少量(通常30mol%未満(酸成分、ジオール成分の総量100mol%に対する量))の共重合成分を有していてもよい。熱可塑性樹脂Aの共重合成分が8mol%以下であると、アルカリ減量後も強度を維持するためソフト性を得ることが容易となり好ましい。また、好ましくは熱可塑性樹脂Aの共重合成分が5mol%以下であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂Aに共重合成分が含まれないポリエチレンテレフタレート樹脂である。共重合成分が含まれないポリエチレンテレフタレートとすることで強度に優れ、また耐アルカリ性にも優れる。
【0028】
なお、熱可塑性樹脂Aには、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、抗菌剤、無機微粒子等が1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0029】
[衣類]
本発明の衣類は、本発明の織編物を少なくとも一部に含む。このようにすることで、本発明の織編物が有する、リネン調の通気性やムラ感、柔らかさを有する衣類とすることができる。本発明の衣類とは、ファッション衣料、スポーツ衣料、アウトドア衣料として着用されるアイテム、特に、ジャケット、スーツ、ボトムス、シャツ、ストール及び、これらの一部分、たとえば、前身頃、後身頃、襟部、袖部、胸ポケット、サイドポケットを含むものや、インナー、靴下、帽子などである。
【0030】
[織編物の製造方法]
次に、本発明の織編物の好ましい製造方法の一例について述べる。
【0031】
本発明の織編物を構成するマルチフィラメントは、熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bからなる元糸を融着仮撚加工し、得られた糸条を織編物とし、アルカリ減量を行い、熱可塑性樹脂Bを溶解することで製造できる。すなわち、図2に例示する仮撚加工装置を用いて、所定の条件にて、元糸を延伸する工程、仮撚する工程、製編織する工程、溶出する工程を含む。
【0032】
[紡出工程]
初めに、延伸する工程に用いられる元糸について説明する。まず熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとをそれぞれ溶融し、これらを公知の芯鞘型の紡糸口金から吐出して、好ましくは1400m/分~3800m/分の紡糸速度にて未延伸糸又は半延伸糸として巻き取る。本発明においては、紡糸速度を2500m/分~3800m/分として、半延伸糸として巻き取ることが好ましい。
【0033】
本発明においては、半延伸糸から糸条とすると、安定したパターンで融着が形成されるため好ましい。半延伸糸は未延伸糸に比べ結晶化が進んでいるため、加工温度に対する融着量の変化が鈍感であり、制御が容易である。
【0034】
元糸として単糸の内層と表層が異なる熱可塑性樹脂を用いることにより、アルカリ処理による重量減少速度に差を設けることができ、溶出工程において選択的に表層の樹脂を除去することができる。表層が熱可塑性樹脂Bで表層に用いられる熱可塑性樹脂Bは、内層に用いられる熱可塑性樹脂Aに対してアルカリ処理による重量減少速度が速い熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂Bは、減量速度を向上させるための共重合成分を含むこと以外は熱可塑性樹脂Aと同様なものを使用することができる。
【0035】
また、熱可塑性樹脂Bと熱可塑性樹脂Aのアルカリ処理による減量速度比(熱可塑性樹脂Bの重量減少率/熱可塑性樹脂Aの重量減少率)は50倍以上であることが好ましい。高い減量速度を有する熱可塑性樹脂の一例として、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルボン酸成分に対し5~10mol%、ポリエチレングリコールを全重量に対し5~15wt%共重合したポリエチレンテレフタレートが挙げられる。上記の重量減少速度比とすることで、後述するアルカリ処理によって熱可塑性樹脂Bが優先的に溶出され、熱可塑性樹脂Aに対するダメージを抑制でき、マルチフィラメントの強度を高くすることができる。
【0036】
また、後述する通り、熱可塑性樹脂Bの融点(Tpm)は熱可塑性樹脂Aの融点(Tmp)より15℃以上低いことが好ましい。上記の融点差とすることで熱可塑性樹脂Aの強度低下を引き起こさずに糸条を得ることができる。
【0037】
なお、本発明における熱可塑性樹脂Bには、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、抗菌剤、無機微粒子等が1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0038】
紡糸温度は、熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bの融点(Tpm、Tpm)に対し、いずれも+20℃~+50℃であることが好ましい。(Tpm、Tpm)+20℃以上であることによって、溶融した熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bが紡糸機配管内で固化して閉塞することを防ぐことができる。一方、(Tpm、Tpm)+50℃以下であることによって、溶融した熱可塑性樹脂A、熱可塑性樹脂Bが熱劣化してしまうことを抑制することができる。
【0039】
元糸の単糸は、表面の50%以上が熱可塑性樹脂Bで構成されており、好ましくは単糸表面の90%以上が熱可塑性樹脂Bであり、熱可塑性樹脂Bが単糸表面をすべて覆っていることも好ましい様態である。複合形態は略芯鞘型、略偏心芯鞘型、海島型など、上記の単糸表面の熱可塑性樹脂B比率を満たす構成であればよい。
【0040】
熱可塑性樹脂Aの面積(S)と熱可塑性樹脂Bの面積(S)との比S:Sは60:40~95:5が好ましく、70:30~90:10がより好ましい。本複合比とすることで熱可塑性樹脂Bが安定的に単糸表面に配置され、強度も維持できる。
【0041】
元糸はNDR(自然延伸倍率)が1.3~2.0、MDR(最大延伸倍率)は1.5~3.0であることが好ましい。上記のNDRおよびMDRの範囲を見たすことで糸加工の安定性を維持しつつ、任意の延伸条件で加工できる。
【0042】
元糸の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形、三角形などの断面形状を採用することができるが、円形であることが、安定的に糸条を得ることができるためより好ましい。
【0043】
元糸の製造方法において用いられる口金は、品質および操業安定的に紡糸することが可能であれば、公知のいずれの内部構造のものであっても良い。
【0044】
[延伸工程]
紡出工程にて準備した、単糸の内層が熱可塑性樹脂A、表層が熱可塑性樹脂Bであり、Tpm≦Tpm-15(℃)である元糸を下記式(1)の条件で延伸する。
式(1):NDR×0.75≦DR1≦NDR×0.95
ここでNDRは元糸の自然延伸倍率、MDRは破断延伸倍率、DR1はピン延伸倍率である。すなわち、図2に示す通り、束糸(1)は第1フィードローラー(2)と第2フィードローラー(4)の間で、ホットピン(3)で加熱延伸される。
【0045】
式(1)について、NDR×0.75≦DR1≦NDR×0.95とすることで、マルチフィラメントに太さムラを付与し、太さの変動係数(CV)を3~30%とすることができるため、染着差によるナチュラルなムラ感が得られる。また、DR1によって得られる太さムラは配向差を有し、太い部分は細い部分よりも低配向であるため、選択的に融着させることができる。すなわちDR1によって融着パターンを安定化させ、さらにDR1を調整することで融着量を制御できる。DR1がNDR×0.95以下であることでマルチフィラメントに太部と細部を設け、太さの変動係数(CV)を高めることができ、DR1がNDR×0.75以上であると安定的に太部と細部が得られる。DR1の範囲はNDR×0.78≦DR1≦NDR×0.90が好ましい。
【0046】
[融着仮撚工程]
次に、得られた延伸後の元糸を式(2)のヒーター条件で融着仮撚する。
式(2):Tpm-50≦H1≦Tpm-20 (℃)
ここでH1は第1ヒーター温度である。具体的には、第2フィードローラー(4)と第3フィードローラー(8)の間で延伸(DR2)を行いながら第1ヒーター(5)、冷却板(6)、ツイスター(7)で融着仮撚加工を行う。
【0047】
式(2)について、Tpm-50≦H1とすることで、熱可塑性樹脂Bを融着させることができ、H1≦Tpm-20(℃)とすることで熱可塑性樹脂Bのみを融着させ、後のアルカリ処理で熱可塑性樹脂Bを溶出することで単糸間の融着がなくなり、柔らかい風合いが得られる。H1はTpm-35≦H1≦Tpm-25がより好ましい。
【0048】
また、MDR×0.55≦DR1×DR2≦MDR×0.70とすることで、配向結晶化を十分に進行させ、糸条の強度を高めることができる。たとえば、紡糸速度2500m/分~3800m/分で複合紡糸して得た半延伸糸を、糸速100~800m/分で、後述のピン延伸倍率(DR1)、ホットピン温度70~120℃でピン延伸した後に、後述のヒーター延伸倍率(DR2)、ヒーター温度180~220℃で仮撚加工する(条件の一例:紡糸速度3000m/分で複合紡糸して得た半延伸糸(Tpm:257℃、Tpm:230℃、NDR:1.6、MDR:2.8)を、糸速400m/分で、ピン延伸倍率1.3倍、ホットピン温度80℃でピン延伸した後に、ヒーター延伸倍率1.30倍、ヒーター温度200℃仮撚加工する)ことで糸束を得ることが出来る。
【0049】
また、前記延伸する工程において、2以上の元糸をそれぞれ式(1)の条件で延伸した後、融着仮撚する工程の前に、インターレースによって合糸することが好ましい。すなわち、図3に例示するような仮撚加工装置を用いて、2本以上の元糸を各々ピン延伸し、交絡ノズルによって交絡させた後に、上述の方法で糸束とすることもできる。すなわち、図2の装置に加え、元糸2(12)を元糸2の第1フィードローラー(13)と第2フィードローラー(4)の間で、ホットピン(3)で加熱延伸(DR1)され、交絡ノズル(15)によって元糸と合わさり、融着仮撚加工される。
【0050】
2本以上の元糸を各々ピン延伸した後に合糸することで、各々の元糸の太さムラのパターンがずれる為、染色時の染差が多段階で生じ、よりナチュラルなムラ感が得られる。特に融着する際に、各元糸の太部同士からなる融着部と、太部と細部からなる融着部が混在するため、染ムラが得られる。2本以上の元糸は別の種類の元糸でもよく、同じ元糸でもよい。
【0051】
さらに各々ピン延伸した後に交絡ノズルによって各元糸を1本に合わせることも重要な工程である。交絡ノズルによって各元糸の単糸同士がマイグレーションを起こすことで、複数の元糸を安定的に融着させることができる。
【0052】
さらに、巻き取り部(11)で巻取り糸束を得ることができる。またトルク調整のため、第3フィードローラー(8)と第4フィードローラー(10)の間で第2ヒーター(9)を用いて熱セットを行ってもよい。
【0053】
[製編織工程]
次に、融着仮撚後の糸束を用いて製編織する。織物の場合は、エアジェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、プロジェクタイル織機、シャトル織機などを使用して製織する。編物の場合は、横編機、フルファッション編機、丸編機、コンピュータージャガード編機、ソックス編機、筒編み機といった緯編み機や、トリコット編機、ラッセル編機エアジェット織機、ミラニーズ編機とった経編み機を使用して編成する。
【0054】
織編物を製造する際の工程張力は糸条の融着破壊応力×0.6以下に制御することで、糸条の形態が維持され通気性が得られやすいため好ましい。
【0055】
[溶出工程]
さらに、上記の織編物の形成工程で得られた織編物を、熱可塑性樹脂Bの複合比の-5~20%、より好ましくは熱可塑性樹脂Bの複合比+0~5%の減量率となるようにアルカリ処理し、前記熱可塑性樹脂Bを溶出する。熱可塑性樹脂Bを溶出することにより、融着による粗硬感が無くなり柔らかい風合いを得ることができる。
【0056】
アルカリ減量工程は、揉み効果によって柔らかな風合いが得られやすいバッチ式の減量プロセス(例えば液流減量)が好ましい。
【0057】
[染色工程]
さらに必要に応じて、上記のアルカリ処理工程の前及び/又は後に、あるいは同時に、常法の精練、リラックス処理、中間熱セット、染色加工、仕上げ熱セットを施してもよい(本発明では、これらの加工を総称して「染色工程」と称する場合がある)。
【0058】
染色は、熱可塑性樹脂Aあるいは織編物に含まれ得る他の糸条の染色性にもよるが、分散染料、カチオン染料あるいは酸性染料を用いて好ましくは100~130℃の染色液中で行う。上記のマルチフィラメントは長手方向に配向差を有する太さムラがあるため、染色工程において染料の染着性が長手方向に異なることで、ナチュラルなムラ感が得られる。
【実施例0059】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、上述した方法に基づいて測定を行ったものである。
【0060】
[測定方法]
(1)熱可塑性樹脂の融点
JIS K7121:2012に準じて、融解ピーク温度 (Tpm)を測定した。試料は真空乾燥機によって水分率200ppm以下とし、約5mgを秤量し、TAインスツルメント社製示差走査熱量計(DSC)“Q2000”型を用いて、0℃から300℃まで昇温速度16℃/分で昇温後、300℃で5分間保持してDSC測定を行った。測定は1試料につき3回行い、その平均値を融点とした。なお、融解ピークが複数観測された場合には、最も低温側の融解ピークを用いた。
【0061】
(2)熱可塑性樹脂の減量速度比
熱可塑性樹脂を真空乾燥機によって水分率200ppm以下とし、融点(Tpm)+30℃で溶融紡糸し、繊度84dtex、フィラメント数36本のマルチフィラメント(伸度30~40%)を紡糸し編地を作製した。前記編地を水酸化ナトリウム10g/L水溶液で90℃、20分アルカリ処理を行い、次式で重量減少率を求めた。
重量減少率(%)=(アルカリ処理前重量-アルカリ処理後重量)/アルカリ処理前重量×100
熱可塑性樹脂Aおよび熱可塑性樹脂Bの重量減少率から、次式で減量速度比を求めた。
減量速度比=熱可塑性樹脂Bの重量減少率/熱可塑性樹脂Aの重量減少率。
【0062】
(3)元糸のNDRおよびMDR
元糸を、引張試験機(株式会社島津製作所製“AG-IS”)を用い、JIS L1013:2010に従い、掴み間隔は5cm、引張速度は40cm/分で、荷重-伸び曲線(S-S曲線)を測定した。NDRはS-S曲線上で一定の応力で伸長される定応力伸長領域の最大試料長を元長で除した値とした。またMDRはS-S曲線における破断強力を示した点の試料長を元長で除した値とした。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を求めた。
【0063】
(4)太部比率、太さの変動係数(CV)
織編物から抜き出したマルチフィラメントに対して仮撚の撚り方向と同方向に撚り係数10000の撚りをかけマルチフィラメント全体を収束させた。撚糸後のマルチフィラメントを0.11cN/dtexの荷重をかけた状態で固定し、固定した試料の側面を株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ“VHX-2000”にて200倍の倍率で撮影した画像において、マルチフィラメントの直径を長手方向に連続して1.0mm間隔で500か所測定し平均値を求めた。平均値×0.9より直径が太い部分を太部、平均値×0.9より直径が細い部分を細部とし、測定部全長に対する太部の長さの総計の比を太部比率とした。また測定は織編物の任意の5カ所で行いその平均値を太部比率とした。
【0064】
また、得られた直径から変動係数(CV)=標準偏差(σ)/平均値×100(%)を求めた。太さの変動係数は小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁で求めた。
【0065】
(5)撚り方向の混在
織編物から抜き出したマルチフィラメントを0.11cN/dtexの荷重をかけた状態で固定し、固定した試料の側面を株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ“VHX-2000”にて200倍の倍率で撮影した画像において撚り方向を確認した。撚り方向が30cm以上連続している場合を撚り方向の混在「無」、30cm未満の長さで撚り方向が入れ替わっている場合を撚り方向の混在「有」とした。
【0066】
(6)融着部の比率
織編物から抜き出したマルチフィラメントの太部の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて150倍以上に拡大して観察した画像から、マルチフィラメントを構成する総単糸本数および融着している単糸本数をカウントし、融着している単糸本数/総単糸本数×100で融着部の比率を算出した。観察は長手方向について5カ所で行い、その平均値の小数点以下1桁目を四捨五入して整数で求めた。
【0067】
(7)強度
織編物から抜き出したマルチフィラメントを引張試験機(株式会社島津製作所製“AG-IS”)を用いて、JIS L1013:2010に従い、掴み間隔は10cm、引張速度は10cm/分で、荷重-伸長曲線を測定し強度を求めた。測定は1試料につき5回行い、その平均値を強度とした。
【0068】
(8)太部のL*の変動係数(CV)
後述の実施例1の方法で染色した織編物から抜き出したマルチフィラメントを(4)の方法で太部と細部を判別し、0.11cN/dtexの荷重をかけた状態で固定し、固定した試料の側面を株式会社キーエンス製デジタルマイクロスコープ“VHX-2000”にて200倍の倍率で撮影した。得られた画像を富士フィルム株式会社製複合機“C5570”で解像度300dpi以上、256階調で白色度80%以上の上質紙にカラー印刷し、太部の色調(L*)をコニカミノルタ株式会社製の測色計“CM-2600d”を用いてマルチフィラメントの5.0mm間隔で100カ所測定し、変動係数(CV)=標準偏差(σ)/平均値×100(%)を求めた。太部L*の変動係数は小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁で求めた。なお太部が短い場合は複数の太部にまたがって測定した。
【0069】
(9)通気度
JIS L1096:2010 8.26.1 A法「フラジール法」により測定した。測定は1試料につき3回行い、その平均値の小数点以下1桁目を四捨五入して整数で求めた。
【0070】
(10)曲げ剛性(gf/cm/cm)
カトーテック株式会社製の「KES-FB2-S」を使用し、KES法による標準試験で、任意に3箇所を10cm四方の大きさでサンプリングしてタテ方向とヨコ方向について曲げ剛性B(gf/cm/cm)を測定し、その平均値を求めた。この時の該システムにおけるトルク感度(SENS)を「2×1」(標準)とし、最大曲率±2.5(cm-1)、25℃、湿度60%の条件で測定した。曲げ剛性は小数点以下4桁目を四捨五入して小数点以下3桁で求めた。この曲げ剛性の値が小さいほど、柔らかさに優れていることを示す。
【0071】
(11)ナチュラルなムラ感
実施例にて得られた織編物を、健康な成人10名(男性と女性各5名)を評価者として、織編物のナチュラルなムラ感を目視によって、リネン調のナチュラルなムラを5点、目視にてムラ感が認められない状態を1点として5段階で官能評価し、各検査者の平均値の小数点以下2桁目を四捨五入して小数点以下1桁で求めた。なお、比較としてはリネン(番手80s)の織物を5点、実施例、比較例と同総繊度、同フィラメント数のポリエチレンテレフタレートの延伸糸からなる織物を1点とした。
【0072】
[実施例1]
熱可塑性樹脂Aとしてポリエチレンテレフタレート(PET、Tmp:257℃)、熱可塑性樹脂Bとして、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルボン酸成分に対し8mol%、ポリエチレングリコールを全重量に対し9wt%共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET1、Tmp:230℃)とし、紡糸温度280℃、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bとが80:20の質量複合比となるように、熱可塑性樹脂Aを芯成分とした吐出孔36Hの芯鞘型口金に流入させた。この熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの減量速度比は100であった。口金から吐出された熱可塑性樹脂は、空冷装置により冷却、油剤付与後、ワインダーにより2600m/分の速度で巻き取り、総繊度240dtex-単糸数36フィラメント、NDR:1.6、MDR:2.8の半延伸糸として安定的に元糸を得た。
【0073】
続いて、得られた元糸をフリクション仮撚機(ATF21:TMTマシナリー株式会社製)を用いてフィードローラーから給糸し、加工速度:400m/min、ピン延伸倍率(DR1):1.30倍、ピン温度80℃、ヒーター延伸倍率(DR2):1.30倍、ヒーター温度(H1):200℃で仮撚を行い、繊度:142dtexの糸条を得た。
【0074】
次に、上記仮撚加工糸を経糸および緯糸として用い、経糸密度105本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmで、平組織の織物を作製した。
【0075】
さらにこの織物に、精練、リラックス処理、中間熱セットを施した。その後、アルカリ減量加工(減量率20%、熱可塑性樹脂Bの比率と同じ。)を行い単糸の融着部を溶解し、さらに染色工程として分散染料「Dystar Navy BlueS-GL」を用いて濃度1.0owf%、130℃の温度で30分間染色し、160℃での仕上げ熱セットを施した。この際、得られた織物におけるマルチフィラメントには融着部がなく、撚り方向が混在しており、太さの変動係数(CV%)は6.0であった。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例2]
実施例1において、半延伸糸の総繊度を120dtex、フィラメント数は18本とした。得られた元糸を2本用い、各々ピン延伸倍率:1.30倍で延伸した後に交絡ノズルで合わせ、実施例1と同様に糸条および織物を得た。この際、得られた織物におけるマルチフィラメントの収束部のL*の変動係数(CV%)は6.5であった。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例3]
実施例1において、熱可塑性樹脂Bとして、5-ナトリウムスルホイソフタル酸を全ジカルボン酸成分に対し5mol%共重合したポリエチレンテレフタレート(共重合PET2、Tmp:240℃)とし、熱可塑性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの減量速度比を10とした。さらにヒーター温度(H1)を210℃とした以外は、実施例1と同様に糸条および織物を得た。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例4]
実施例1において、熱可塑性樹脂Aを重量平均分子量25000のポリエチレンテレフタレートと重量平均分子量15000のポリエチレンテレフタレートのサイドバイサイド型とした以外は実施例1と同様に糸条および織物を得た。得られた織物の伸長率は経15%、緯20%でありストレッチ性に優れていた。結果を表1に示す。
【0079】
[実施例5]
ピン延伸倍率(DR1):1.20倍、ヒーター延伸倍率(DR2):1.40倍とした以外は実施例1と同様に糸条および織物を得た。織物の太部比率は15%と低めであった。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例6]
ピン延伸倍率(DR1):1.50倍、ヒーター延伸倍率(DR2):1.12倍とした以外は実施例1と同様に糸条および織物を得た。得られた織物の太部比率は25%と高めであり、通気性が強調された織物であった。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例7]
ヒーター温度(H1)を220℃とした以外は実施例1と同様に仮撚加工糸および織物を得た。得られた織物の太部比率は30%と高めであり、通気性が強調された織物であった。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例1]
ピン延伸倍率(DR1)を行わずに、ヒーター延伸倍率(DR2):1.69倍とした以外は実施例1と同様に糸条および織物を得た。得られた織物におけるマルチフィラメントの太さの変動係数(CV%)は2.2%であり染ムラが無いため、ナチュラルなムラ感に乏しい外観であった。結果を表2に示す。
【0083】
[比較例2]
元糸を熱可塑性樹脂Aのみで構成した以外は実施例1と同様に糸条および織物を得た。得られた織物はアルカリ処理後も融着部を有しており粗硬感の強いものであった。結果を表2に示す。
【0084】
[比較例3]
ヒーター温度(H1)を170℃とした以外は実施例1と同様に仮撚加工糸および織物を得た。得られた織物は、融着仮撚する工程においても融着部を有さないため、溶出工程後の織物中のマルチフィラメントに撚り方向の混在がなく、リネン調のムラ感に劣る物であった。結果を表2に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【符号の説明】
【0087】
1:元糸
2:第1フィードローラー
3:ホットピン
4:第2フィードローラー
5:第1ヒーター
6:冷却板
7:ツイスター
8:第3フィードローラー
9:第2ヒーター
10:第4フィードローラー
11:巻き取り部
12:元糸2
13:元糸2の第1フィードローラー
14:元糸2のホットピン
15:交絡ノズル
D1:直径の平均値×0.9≧直径の部分
D2:直径の平均値×0.9<直径の部分
D3:直径の平均値×0.9<直径の部分
図1
図2
図3