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特開2025-8704分離歯形を持つ平行軸はすば歯車歯形の設計法
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  • 特開-分離歯形を持つ平行軸はすば歯車歯形の設計法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008704
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】分離歯形を持つ平行軸はすば歯車歯形の設計法
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111105
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】723008183
【氏名又は名称】島地 重幸
(72)【発明者】
【氏名】島地重幸
【テーマコード(参考)】
3J030
【Fターム(参考)】
3J030BA05
3J030BB11
3J030BB14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】平行軸“はすば”歯車の歯面において、接触線に沿って希望の値の歯面相対曲率を持つラック歯形を数値積分で求める方法の開発を第一の課題、また、凹凸歯面接触し、歯面相対曲率が小さい歯形では、歯元側歯形と歯先側歯形を“連結する歯形部分”を持ち、その連結歯形部では負荷時の接触応力が大きいという問題があり、この連結歯形部分を削除出来るか否かを解明することを第二の課題とする。
【解決手段】ラック歯面曲率と被削歯車対の歯面相対曲率の微分関係式を求めた研究成果を利用して、数値積分する手法で定値の歯面相対曲率を与えるラック歯形を求める方法を開発し、また、歯形の接触点の軌跡とゼロ圧力角線との関係を解明する手段により、連結歯形部分の有無を検討した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行軸の“はすば”歯車の大歯車歯面と小歯車歯面とラック歯面は共通の接触線を持ち、ラックの歯面あるいは歯形を規定すれば歯車歯面は確定するという関係があり、そのラック歯面の曲率が既知であるとして歯面接触点の歯面相対曲率を求めた研究があり、この研究結果を用いて、N番目の接触点において、歯車歯面の相対曲率を希望の値KS、Nとして与えるラック歯形の曲率Kを求め、接触点でラック歯形法線上に歯形曲率Kから定まる歯形円弧中心点が定まり、N番接触点の近傍に、歯形円弧上の点として、N+1番目の歯形点を定め、次に、このN+1番目点が接触する位置にラックを移動させて、移動後の接触位置で、歯車歯面の相対曲率を希望の値KS、N+1として与えるラック歯形曲率KN+1を求めるという、数値積分の手法により、はすば歯面の接触線に沿って希望する値KS、Nの歯面相対曲率を持つラック歯形を求める方法。
【請求項2】
歯車軸に直角な平面内の両歯車軸点を結ぶ線を“中心線”、中心線上の“ピッチ点”、ピッチ点を通り中心線に垂直な線を“ゼロ圧力角線”と呼ぶこととし、これらが作る座標系内で、接触点の移動を捉えたものが“接触点の軌跡”であり、ラックの歯底曲線に接する歯形で、その歯形の接触点の軌跡がピッチ点を通る歯面の、ピッチ点での相対曲率の値は、インボリュート歯形のピッチ点での値のように確定するが、この相対曲率の値よりも小さい値の歯面相対曲率となる歯形を設計するとき、歯形は歯先側歯形と歯元側歯形に分離するが、その歯形の接触点の軌跡がゼロ圧力角線と交わる点まで、あるいはその交点に極近くの点まで、を歯形とすることで、歯先側歯形と歯元側歯形を“連結する歯形”を不要とするために、ラック歯形を、数値積分により求めるとき、積分を進める方向として、ラック歯底曲線とラック歯形の接点から、ラックの転がり直線とラック歯形の交点Oに向かう方向に、接触点の軌跡で言えばゼロ圧力角線に向かう方向に、数値積分する方法により、点Oから歯先端までの歯形と点Oから歯元端までの歯形の間に、“連結歯形部分”を持たない平行軸歯車歯形を求める方法。
【請求項3】
請求項2に関して、歯形に沿って希望の相対曲率値を与えて数値積分により歯形を求める際、 “連結歯形”を持たない歯形とするために、接触点の軌跡とゼロ圧力角線との交点の位置を数値積分の始点とし、その始点への極限値としての一方の歯車歯形のすべり率が無限大となるという要件を与え、ラックの転がり直線とラックの歯形の交点Oにおけるラック歯形の曲率を定め、交点Oからラックの歯底曲線の方向に数値積分を進めることで、 “連結歯形部分”を持たない平行軸歯車歯形を求める方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平行軸のはすば歯車の歯面形状を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インボリュート歯形は、軸間距離の変化の影響が無く、工具製作が容易であり、多くの研究、実績による知恵や知識があるなど多くの利点があるが、歯数が少ない歯形の基礎円の近くでは歯面干渉の問題や、歯面相対曲率が大きいなどの問題がある。
近年、複雑な形状を高精度で作れるようになり、インボリュート歯形では凸歯面同士の接触となるのに対して、凸面と凹面の歯面同士のかみ合いを取り入れる手法により、歯車負荷能力の評価の一つである面圧能力を向上させようとする歯形の設計が試みられている。ここに、歯面の接触点における接触応力(ヘルツ応力)は“面圧”とも呼ばれている。また、“線圧”は接触線の単位長さ当たりの荷重である。
【0003】
一方の歯車歯形の歯先が凸円弧歯形、その歯元が凹円弧歯形で両歯形の連結歯形部分を直線とし、それら円弧歯形の中心が転がりピッチ円上にあるというのがWN歯車(シンマーク歯車;特許文献1)の基本形である。円弧歯形の接触で歯形同士は瞬間的に噛み合うので、平歯車としては利用できず、はすば歯車として利用される。歯面接触の全てが凹凸歯面の接触であり、歯面相対曲率は極小さく、インボリュート歯形と比べると格段に面圧負荷能力は大きい。
WN歯車(シンマーク歯車歯形)は、転がりピッチ点を通らない接触点の軌跡を用いることで、歯先側歯形と歯元側歯形が分離した歯形とし、インボリュート歯形と比べて格段に小さい歯面相対曲率を実現した歯形である。
しかし、歯幅端で瞬間的に噛み合い始め、歯幅他端で瞬間的に噛み合いが外れるので、加振力が大きい問題点がある。また、シンマーク歯車歯形は、歯先側歯形と歯元側歯形が分離した歯形で、接合部の直線部は接触させないように設計した歯形と言える。
【0004】
一方の歯車の歯先側歯形も歯元側歯形もサイクロイド曲線とすると、歯先や歯元の歯面は凹凸の噛み合いとなるが、ピッチ点近傍の歯面相対曲率が無限大となる。そこで、ピッチ点近傍の歯形を削除した歯先側歯形部分と歯元側歯形部分を、削除した部分をインボリュート歯形で置き換えて連結する歯車がある(非特許文献1)。この歯車においては、サイクロイド部分と比べるインボリュート部分の接触応力(面圧)が未だに大きいので、この連結部分の歯形部分を窪ませ、接触させないようにした歯車もある(特許文献2)。
【0005】
凹凸噛み合いする歯先側歯形や歯元側歯形と、凸凸噛み合いとなるインボリュートのような接合曲線を滑らかに一体化した歯形として、歯形の曲率が歯形線長さに比例して大きくなるクロソイド曲線をラック歯形として採用した歯形(特許文献3)があり、また、ピッチ点近傍の曲率は小さく、π/2に近づく程、曲率が大きくなる正弦曲線をラック歯形とした歯形もある。これらの歯形は、歯溝幅内に歯形を収めようとすると、歯先や歯元に近い所では凹凸の噛み合いとして歯面相対曲率を小さくしようとすると、逆にピッチ点近傍の凸凸の噛み合い歯面の相対曲率が大きくなり、ピッチ点近傍ではインボリュート歯形の相対曲率よりも大きくなる。
【0006】
歯形の噛み合い部分により歯面の接触応力が大きい部分と小さい部分があると接触応力が大きい部分で損傷が生じるので、“すぐば”歯車の歯形に沿う歯形全体にわたり、歯形相対曲率を一定とする歯形が提案されている(特許文献4)。インボリュート歯形では、基礎円近傍での歯形干渉や歯形相対曲率が大きくなる問題があるが、これらの問題の解決にも役立つ。歯形全体ではなく、ピッチ点近傍はインボリュート歯形とし、歯先部分や歯元部分だけを定曲率歯形とすることも行われている(特許文献5)。
【0007】
“すぐば”歯車の歯形に沿う歯形相対曲率を一定とする歯形であるが、インボリュート歯形の歯面負荷能力よりも大きい負荷能力を得るために、インボリュート歯形のピッチ点における歯形相対曲率の値よりも小さい値を、歯形全体に亘って歯形相対曲率の値とした歯形を求め、この“すぐば”歯車用の歯形を、“はすば”歯車の歯形に転用する歯車がある(特許文献6)。この定値相対曲率の歯形はWN歯形と同様に、“歯先側の歯形部分”と“歯元側の歯形部分”が分離した歯形と、これら分離した歯形を繋ぐために、“連結歯形部分”を持つ、3つの歯形部分から構成される歯形である。
歯先および歯元の歯形部分の歯形接触応力は小さくなるが、連結歯形部分の歯形接触応力が大きくなる。ただ、連結歯形部分は狭く、実用上の問題は大きく無いとしたり、また、ピッチ点近傍の連結歯形部分が接触しないような工夫がなされたりもしてもいる(特許文献7)。
この歯形では、“すぐば”における歯形相対曲率を一定とし、その“すぐば”用の歯形を“はすば”歯車に転用しているため、“はすば”歯車歯面では、歯面相対曲率は厳密には一定とならない。このことと関係があるかは不明であるが、(特許文献8)では、歯幅と歯数比を基に、歯形相対曲率の値を決める設計方法が示されている。
【0008】
歯面の面圧負荷能力を向上させる工夫の流れを上述したが、現時点として、負荷能力向上のためには、歯面全体に亘って歯面相対曲率を一定とする “定値相対曲率の制約”を課す方向にある。また、その定値歯形相対曲率の値を、インボリュート歯形のピッチ点における歯形相対曲率の値よりも小さくし、WN歯形の相対曲率に近づける方向にある。
前項に紹介した歯形(特許文献6、7、8)はこれらの方向を満たしてはいるが、未だに、二つの課題があるといえる。
第一点は、“はすば”歯車歯面の接触線と歯筋線の成す角は、定値相対曲率歯形の場合には一定とならないので、“すぐば”歯面用の相対曲率では、“はすば”歯面の正確な相対曲率の計算は出来ない。 “はすば”歯車歯面に適用できる定値相対曲率歯面の求め方を開発する必要がある。
第二点は、凹凸歯面接触を目指し、歯面相対曲率が小さい歯面部分を歯先側と歯元側に持つ歯車はサイクロイドとインボリュートを組み合わせた歯車をも含め、幾つかの歯車歯形に共通の課題とも言えるが、歯面相対曲率が小さい二つの歯面部分を“連結する歯形部分”の歯面相対曲率が大きく、この歯面部分をどのようにするかは、幾つかの歯車の共通課題となっている。“連結歯形部分”を窪ませて接触させないという方法は有力な方法ではあるが、もう一つの可能性として、この歯形部分をゼロに出来るか、否かを解明することも意味のある課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】公開特許、昭55-132459,出願1979.4.2,松永、能上、転位円弧歯形歯車
【特許文献2】US0134184A、Filed: Jan.31,2002、R. M. Hawkins、Title: Non-involute gears with conformal contact.
【特許文献3】JP109838,出願2006.4.6、宮奥、コルヌ螺旋歯形歯車
【特許文献4】US3631736A、Filed: Dec 12.29,1969、Patented Jan. 1.4,1972、O. E. Saari 、Title: Gear tooth Form
【特許文献5】US4640149A、Filed: Mar.4,1983、R. Drago、Title: High profile contact ratio, Non-involute gear tooth form and method
【特許文献6】US6101892A、Filed:Apr.10,1998、B. E. Berlinger, J. R. Colbourne, Title: Gear Form Constructions
【特許文献7】JP523405A,出願(2003.4.21),出願人:ジェネシス・パートナー、歯車歯形
【特許文献8】JP514911A,出願(2004.12.16),出願人:ジェネシス・パートナー、歯車の歯形曲率
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】寺内、永村、西城、インボリュート・サイクロイド合成歯形歯車の設計と性能、日本機械学会論文集C,(昭56)47-417、pp.663-674.
【非特許文献2】酒井、ハイポイド歯車の歯形に関する研究、日本機械学会論文集、(昭30)21-102、pp.164-170
【非特許文献3】島地、藤井,食違軸歯車の設計基準点に関する研究(第2報、交せつ干渉に関して)、日本機械学会論文集、(1977-4)43-368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
“はすば”歯車の歯幅中央部では、歯丈の歯元から歯先まで接触線が伸びている全長接触領域がある。はすば歯車歯面の全長接触領域の接触線において、凹凸歯面同士の接触を取り入れようとすると、歯面相対曲率を部分的に小さくすると残りの部分の歯面相対曲率は大きくなる。そこで、限られた歯丈において面圧負荷能力を最大とするには、接触線に沿う接触応力分布を平坦化する、言い換えれば歯面相対曲率を接触線に沿って一定値あるいはその値を制御する “定値相対曲率の制約”を与える方法が有効である。
“定値相対曲率の制約”を適用した特許文献4や特許文献6では、“すぐば”歯車(平歯車)に適用される、歯形相対曲率を一定とする接触点の軌跡の関係式を用いている。“はすば”歯車歯面の場合、歯筋線と接触線の成す角が歯形に沿って変化するため、“すぐば”歯車の関係式を用いることは出来ない。この問題に対するため、本発明では、“はすば”歯車歯面の相対曲率を、接触線に沿って希望する値とする方法を開発することを最初の課題とする。
【0012】
凹凸歯面接触を目指した結果として、凹凸歯面で歯面相対曲率が小さい歯面部分が歯先側と歯元側に出来るが、逆に、ピッチ点近傍では凸凸歯面で歯面相対曲率が大きい歯面部分が生じる。歯面相対曲率が大きい歯面部分は、歯先歯面部分と歯元歯面部分を“連結する歯形部分”である。このような歯車は、WN歯車やサイクロイドとインボリュートを組み合わせた歯車をも含め、幾つかの歯車歯形に共通の課題とも言える。歯面相対曲率が大きい歯面部分である“連結歯形部分”をゼロに出来るか、否かを解明することは、意味のある課題である。本発明では、“定値相対曲率の制約”の下で“連結歯形部分”をゼロに出来るか、否かを解明することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一般歯車歯形の理論では、被削歯車対と線接触関係にある工具歯車歯面の曲率を与えると被削歯車対の歯面相対曲率が求まる関係が示されている。これを用いれば、希望する値を歯面相対曲率の値として与えて、逆にラック歯形の曲率を定めることが出来るので、N番目の接触点において、ラック歯形の法線上に歯形曲率Kから定まる歯形円弧中心点が定まり、N番目点の近傍で歯形円弧上にN+1番目の歯形点を定めるという、数値積分の手段によりラック歯形を求めることが出来る。
【0014】
“定値相対曲率の制約”の下で“連結歯形部分”の形態を調べる課題である。特許文献6ではピッチ点の近傍の点を歯形の出発点としているが、この近傍点を如何に与えるかには触れていない。ピッチ点と近傍点の間の歯形が“連結歯形部分”であり、この課題に取り組む手段として、平行軸歯車において、歯面相対曲率の値が一定となる歯面の接触点の軌跡がどのような形態となるかを基に、ピッチ点近傍の歯形を調べることがこの課題に取り組む手段となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平行軸“はすば”歯車歯面の歯形に沿う歯面相対曲率が希望する値となるような歯面を正確に求めることが出来ることで歯面の面圧負荷能力の評価が簡単になり、歯面設計システムを簡明なものにすること、また、歯面相対曲率が小さい歯先側歯面と歯元側歯面を“連結する歯形部分”を無くすことが出来る計算手法を示すことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】歯形のN番目の歯形点、法線、曲率半径が与えられたとして、N+1番目の歯形点、法線を求める手順のイメージを示す。
図2】歯面相対曲率の値による接触点の軌跡の変化を示す。
図3】ラック歯形上の接触線が、分離している様子を示す。
図4】ラック歯形と、歯車回転に伴う歯形同士の接触の進行状況の例を示す。
図5】軸間距離の短縮量を変えたときの、両ラック歯形間の隙間の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
“はすば”歯車において、接触線に沿う歯面相対曲率が希望する値となる歯面の設計方法を開発することが最初の課題である。特許文献4では、軸直角断面内で接触点の軌跡の微分関係から、“すぐば”歯形が定値相対曲率となる“接触点の軌跡の形状”を決める方式を採用している。また、特許文献6では、接触点の軌跡上の点における大小歯車の一対の歯形曲率の間の関係を示すオイラー・サバリの関係式から、“すぐば”歯車歯形を求める方式を用いている。これらに対して、ここでは、歯面相対曲率の値が希望するような値となる“はすば”歯車用ラック歯形の形状を決める方式を採用する。
【0018】
一般歯車の歯形を論じ、工具歯車歯面の曲率と線接触歯車歯面の接触点における歯面相対曲率の関係式を求めた研究があり、平行軸歯車においてラックを工具歯車とする条件をその関係式に加えて、接触線に垂直な断面の歯面相対曲率kは式(1-a)で求められる。式(1-a)は、一般歯車歯面間の接触と包絡関係を扱う歯面形状関係をベクトル演算式で記述され、歯面法線の微分量がアフィノール表現されており、誤用を防ぐために、利用される際には、非特許文献2を読んでもらうのが最良と考えている。
【0019】
【数1】
【0020】
希望するkから逆にkを求める方法は幾つかあるが、例えばラック歯形の曲率kを試行錯誤的に逐次近似法で決めることも出来るので、問題はない。
図1において、N番目のラック歯形点rN、その点の歯面法線nN及び曲率kNが与えられたとするときに、N+1番目の点を求める数値積分のイメージを示す。N番目の点rNの曲率kNの逆数である曲率半径をRNとして、点rNから法線nNの延長線上に距離RNの点ONを定め、点Nをこの点ONの周りに微小角δNだけ回転させた位置rN+1を、点N+1番目の点とする。点N+1番目の点の面法線は、点Nの法線nNを同じように微小角δN回転させた法線nN+1として与える。これで、N+1番目の点の位置rN+1と法線nN+1とが求まる。次に、ラックの位置を変えてN+1番目の点が接触する位置を探し、その接触点の位置におけるラック歯形の曲率kN+1を求める。以下同様に繰り返すことになる。
【0021】
ラック歯形の設計では、1ピッチの幅の中に歯と歯溝を設置する。例えば標準ラック歯形で転位が無い場合、ラックの転がり直線上の歯厚幅と歯溝幅は等しく設定され、ラックの転がり直線と歯形の交点Oの位置が確定する。
特許文献6では、交点Oの近傍の点Aを歯形積分開始点として、歯溝底に設定される歯元曲線に接する方向に数値積分を進めて歯形を求めるとしている。点Aをどのように定めるかの記述はなく、接触点の軌跡を表す極座標系内で、単に、点Aを極座標(s、φ)で示すとして、半径sとラック転がり直線と半径線の成す角φを与えるとしている。
ここでは、三つの方法を示し、本発明の課題である“連結歯形部分”を無くすことが出来るかを解明する。
第1の方法では、歯溝底の曲線(歯元円)上に積分開始点Bを置き、定値歯面相対曲率のラック歯形が交点Oに到達するように積分を進め、積分開始点Bの位置とラック歯形長を調整して、歯形を求める。この方法では点Bから点Oまで、希望する相対曲率の歯形が得られる。
第2の方法では、逆に、交点Oから伸びる歯面圧力角φを持つ短い長さeの直線歯形の端点Aを積分開始点として、点Aからラック歯形と歯元円との接点Bまでの歯形の長さと直線歯形の長さeを調整する。特許文献6はこの方法に似ている。この方法では、点Aまでの直線歯形部分の歯面相対曲率はかなり大きいが、その大きい値が希望する小さい相対曲率になるまで徐々に変化することになり、点Aの近傍の歯形は希望する相対曲率になっていない。
第3の方法については、後述するが、交点Oから歯底曲線の方向に積分を進める方法である。
第1の方法は、本発明において、希望する歯面相対曲率を持つラック歯形を求める基本的な方法である。
第2の方法において、短い直線歯形部分の歯面相対曲率の値(ピッチ点の歯面相対曲率の値)と、定値として与える歯面相対曲率の値とを同値に定めて、歯形を求めるとインボリュート歯形に似た歯形が得られる、この歯形を便宜上IS歯形と呼ぶことにする。第2の方法はIS歯形を高精度に求めるための有力な方法となる。
第2-1の方法がある。この方法では、第2の方法でラック歯形を求めた後に、距離OAの2~3倍の点Eから、点Aから点Oに向かう逆方向に、数値積分する方法である。この方法では歯形が交点Oに到達できないという問題が生じることがあり、別の対策が必要となるが、ここでは省略する。
【実施例0022】
数値積分における第1の方法で、接触線に沿って歯面相対曲率を一定値とし、その定値の値を幾つか変えて接触点の軌跡を試算した。試算例の諸元は次のとおりである。
歯数:15/45、
ラック歯溝幅と歯厚幅の比を設計要件から決めて転がりピッチ線と歯形の交点Oを定める、
半径0.38mの歯元円中心を(1/4)ピッチの位置に置き、
ラック歯形の歯底深さ=1.25m(m:モジュール)、
捩れ角30°の“はすば”歯車。
【0023】
接触点の軌跡を説明するための座標系を説明する。歯車軸に直角な平面内の両歯車軸点を結ぶ線を“中心線”、中心線上の“ピッチ点”、ピッチ点を通り中心線に垂直な線を“ゼロ圧力角線”と呼ぶこととし、これらが作る座標系内で、接触点の移動を捉えたものが“接触点の軌跡”である。
“接触点の軌跡の形状”は、“はすば”や“すぐば”歯車やラックなどの歯面形状と一対一の対応関係にあり、歯車歯形の性能の特徴を捉える目的には有用である。また、歯車軸に直角な平面を軸方向のどの位置に定めても、“はすば”や“すぐば”歯車の接触点の軌跡の形は変わらない。
【0024】
ピッチ点近傍、およびゼロ圧力角線近傍の接触点の軌跡の様子に注目するために、数値積分のステップを極度に細かくして接触点の軌跡を求めた結果を図2aに示す。図2aは小歯車の歯元側の接触点の軌跡だけを示してある。
歯面相対曲率k=0.12の場合の接触点の軌跡はほぼ直線であり、ラック歯形はインボリュート歯形の場合の直線に近い歯形になる。便宜上、この型の歯形をIS歯形と呼ぶことにする。
歯面相対曲率k=0.12よりも大きいk=0.24の場合の接触点の軌跡は、両歯車軸を結ぶ中心線と交わり、ゼロ圧力角線から離れている。この型の歯形をFS歯形と呼ぶことにする。
歯面相対曲率k=0.12よりも小さい相対曲率の場合の接触点の軌跡を持つ型の歯形を、SS歯形と呼ぶことにする。
注目すべき点は、SS型の接触点の軌跡が、歯車軸を結ぶ中心線と交わるのか否か、ゼロ圧力角線と交わるのか否かである。数値計算による軌跡曲線からは明確に出来なかった。
【0025】
歯形論では、専門書にも書いてあるように、「ゼロ圧力角線を横切るような接触点の軌跡」を持つ歯形は、横切る点で歯面相対曲率の正負の符号が変わるため、利用できない。また、「接触点の軌跡がゼロ圧力角線に近い」ということは、歯面圧力角がゼロに近いということであり、それだけで歯面干渉が生じることが知られている。
WN歯形にはこれらの事項が当てはまり、接触線(WN歯形では接触点の軌跡でもある)をゼロ圧力角線近傍に近づけることは出来ない。SS歯形がこれらの事項を回避できるためには、常識によれば、SS歯形の接触点の軌跡はゼロ圧力角線に沿うように伸びていなければならないことになる。しかし、SS歯形の接触点の軌跡は、非常識に、ゼロ圧力角線を横切っていることを次に説明する。
【0026】
歯車歯形の相対曲率Kの理論式(非特許文献2の基礎部分)は分数式で表され、その分母は相対速度Vの2乗、その分子は歯面圧力角φの正弦値sin(φ)と歯面のすべり率σ1、σ2の積である。値がゼロや無限大などの特別なことが無い場合、接触点の軌跡とゼロ圧力角線との交点におけるすべり率は特別の値にはならない。この場合、前項で述べた常識的な結果になる。
そこで、交点が「一方の歯面のすべり率が無限大である」という特別な点であると考えることにする。
先ず、「ゼロ圧力角線を横切るような接触点の軌跡」を持つ歯形は、横切る点で歯面相対曲率の正負の符号が変わるため、利用できないという点に関して検討する。
特別な点の場合、両歯形それぞれのすべり率σ1、σ2の積は(無限大×1)となり、歯面接触点の圧力角φがゼロであるために、交点への極限で歯面相対曲率は(ゼロ×無限大)の不定形となり、相対曲率Kは有限値を保つことが出来る。
ここに、すべり率が無限大とは、接触点の軌跡の注目点での法線が歯車軸を通る特異な条件を満たすことである。図2に示す相対曲率値0.04の軌跡線がゼロ圧力角線に接近する部分(丸で囲った部分)に注目する。同図には当該軌跡に接するような、すべり率が無限大となる円弧軌跡も書いてある。丸で囲った部分で軌跡線はゼロ圧力角線との交点ですべり率が無限大となって、ゼロ圧力角線を横切ると考えて、矛盾はない。
歯形論的には、この交点はすべり率σ1、σ2の両者が不定形となる点である。しかし、すべり率本来の定義に戻ると、σ1が大きい値を保ったまま交点に近づくと、σ21は1に近い値を保ったまま交点に近づくと理解できる。図2aの丸で囲った部分は、この説明と符合する。
さらに、確認検証のために行った別の数値計算でも、定値相対曲率となる接触点の軌跡がゼロ圧力角線と交わり、この線を通過した後でも正負の符号も変わらず定値相対曲率の要件を満たし、歯形理論と矛盾がないことが確認できた。
次に、「接触点の軌跡がゼロ圧力角線に近い」ということは、歯面圧力角がゼロに近いということであり、それだけで歯面干渉が生じることに関して検討する。
歯面干渉に関しては、平行軸歯車の歯面の圧力角がゼロである場合、一般にはNQ(交せつ)干渉が生じるが、すべり率が無限大である特異な点では干渉を回避できる(非特許文献3に、一般歯車歯面においてNQ干渉の解明がなされている)。この点においても問題はない。図4に示すように、歯形のかみ合い進行図でも、干渉が生じていないことが確認できる。
このように、特異な条件を満たせば、ゼロ圧力角線に接触点の軌跡が通過出来る“穴”を作ることが出来る。
【0027】
歯形として利用する接触点の軌跡がゼロ圧力角線と交わる点まで利用するということは、圧力角がゼロとなる点を歯形が含むことになる。歯面を創成加工などで作るとき、正確に歯形を作れるかが問題となるだろうことは予想できる。圧力角がゼロとなる点の近傍の歯形は、圧力角が大きい歯形部分と比べて、創成加工の際には切れ刃が何度もゼロ圧力角点の近傍を切削することになる部分であり、歯形が削り過ぎとなる部分ではないかと予想される。歯面修整については最後に触れるが、軸間距離誤差への対応として希望される、理論的には不可能な、窪んだような歯面修整効果が得られる可能性もあると考えている。また、理論通りの歯面であっても後述するような方法が考えられる。
【0028】
歯元円に接するラック歯形において、ゼロ圧力角線に接触点の軌跡が通過出来る穴の位置は、歯面相対曲率の値によって決まることを示しており、数値積分の第1の方法では自動的にその穴を通過できる。これに対して、その穴の位置が分からないこと、またゼロ圧力角線から遠ざかる方向に積分を進める数値積分の第2の方法では、 “連結する歯形部分”が不可避的に付属するということになる。また、連結歯形の接触点の軌跡はピッチ点を通る。
【0029】
第3の方式で、歯形に沿う相対曲率値を与えて歯形を求める方法の説明を行う。接触点の軌跡が通過出来るゼロ圧力角線上の穴の位置を数値積分の始点とし、接触点の軌跡を求める方式の可能性が存在する。この方法では、一方の歯車歯形のすべり率が無限大となるように、穴位置・積分開始点での接触点の軌跡の接線方向を与えることが必要条件となる。具体的には、ラックの転がりピッチ線とラック歯形の交点Oを積分開始点とし、開始点およびその極近傍で式(1-b)を満たすようなラック歯形の曲率とすることである。
歯車歯形を求める方式では一方の歯車歯形のすべり率が無限大、即ち歯形曲率半径がゼロとなる問題があるが、本発明の方式であるラック歯形を求める方式では、一方の歯車のすべり率が無限大となっても、ラック歯形の曲率が極端な値になることは無い。第3の方式で試算したラック歯形、接触点の軌跡、交点O近傍の接触点の軌跡とすべり率無限大の線が接触する様子、の一例を図2bに示す。
【0030】
数値積分の第1の方法で求めたSS歯形の接触点の軌跡が、ゼロ圧力角線まで伸びているということは、ラックの転がりピッチ線を境に歯先側歯形と歯元側歯形に分けると、歯形は転がりピッチ線と歯形の交点から歯先端あるいは歯元端までの全部の歯形上で、歯面相対曲率が一定となる歯形となっていることになる。即ち、ラック歯形に“連結歯形部分”が無いということになる。
【0031】
図3に、IS歯形とSS歯形のラック歯面上の接触線の一例を示す。また、図4に、SSラック歯形、および、SS歯車歯形の噛み合いの進行の一例を示す。
【0032】
本発明により、 “はすば”歯車の歯面相対曲率は計算が出来るようになった。実際の歯車の歯は撓み、接触点の歯面荷重方向は一定ではないため、歯面相対曲率が一定の歯面であっても接触線単位長さ当たりの荷重(線圧)は厳密には一定ではない。しかし、歯面荷重方向である歯面圧力角の、歯面全体での平均値はインボリュート歯形の圧力角に近い。そこで、歯形の種類による面圧負荷能力を概略的に比較するため、「接触線に沿って歯面相対曲率は一定」であり、「線圧も一定」であるとして、面圧負荷能力を計算してみることにする。
線接触する二円筒に負荷をかけるとき、接触部の最大ヘルツ応力Pは、式(2)で表される。“最大ヘルツ応力”は単に“ヘルツ応力”あるいは“面圧”と呼ばれる。
Eを二つの円筒のヤング率、νiをポアソンン比、Riを円筒の半径、Lを円筒の接触線長さとして、
【0033】
【数2】
【0034】
式(2)によれば、許容面圧P、およびSS歯形の場合には希望する歯面相対曲率ksである相対曲率(1/R)が与えられると、単位接触線長さ当たりの荷重である線荷重(P/L)が式(3)のように定まることになり、歯先限界内にある接触線の全体に対して、線荷重を積分すると歯面総負荷が求まる。
【0035】
【数3】
【実施例0036】
定式(3)による計算は、設計の初期段階の評価としては有用であろうが、現実には、接触点に掛かる力の方向や歯の撓みなどを考慮しなければならず、単純なものではない。定値歯面相対曲率の歯車歯面の接触応力を、たとえば有限要素法などのシミュレータで求めて、歯面全体で接触応力値は一定となるように、与える歯面相対曲率の値を接触線の位置によって調整することになると考えられる。ただ、歯形の種類による概略の負荷能力の比較には、式(3)による評価法は十分に役に立つと考える。
試算歯車の主要諸元は、実施例1の主要諸元と同じである。試算は、小歯車歯面に関して行う。歯面総負荷は、許容最大面圧P=200Kgf/mmとして求める。希望する歯面相対曲率を与えて、試算した結果を表1の上部に示す。比較のため、インボリュート歯形の場合も表1の下部に示す。
IS、SS歯形の場合、インボリュートとの比較のため、小歯車歯元歯形の諸量を2倍して表示してある。また、接触線の大歯車歯先限界内を有効とした。
インボリュート歯形で、転位なしの場合、歯数比が3であり小歯車の歯元で切り下げ干渉限界に近く、歯面相対曲率が異常に大きくなるために、総負荷が1128Kgfと小さな値となっている。これでは、比較対象として好ましくないので、0.7m転位に相当する歯面の値も示した。
【0037】
【表1】
【0038】
特許文献8では、“すぐば”歯形において、インボリュート歯形のピッチ点での歯形相対曲率を基準として、一定値として与える歯形相対曲率の値を、「歯数比と歯幅」によって唯一に定めるという設計法を示している。
本発明のSS歯形の設計では、“はすば”の歯面相対曲率kをどのような値とするかに、歯数比と歯幅が関わるとは考えず、歯車装置に要求される要件次第であると考えている。
定値歯面相対曲率kが小さい程、歯面の接触線の長さは短くなり、WN歯形に近づく。
はすば歯面の端面から接触し始め、他端から接触線が消えてゆく。長さが変わり移動する接触線への荷重が、歯幅中央線の周りに生じさせるモーメントは歯車回転と共に変化する。その変化は歯車振動の加振力の一つと考えられている。
曲率kが小さく、接触線長さが短いと、この加振力は大きくなる傾向を持ち、加振力が大きいとされるWN歯形に近づく。言い換えれば、加振力が問題とならない用途では、歯面相対曲率kの値を理論限界に近いと考えられる表1における0.01程度まで小さくすれば、面圧負荷の能力はIS歯形の3~4倍となる。
インボリュートのような軸間距離変化に対する鈍感さ、加振力が小さいことを求めるときには、歯面相対曲率kの値はIS歯形の値に近い方を選ぶことになる。
【0039】
歯車の負荷能力の評価の代表的なものとして、面圧強度、曲げ強度、スコーリング損傷がある。これらの歯車負荷能力だけではない。加工誤差や組み立て誤差のため、歯車が組み立てられた後の軸間距離が誤差δだけ設計値と異なると考えておかなければならない。
軸間距離誤差対策としての歯形修整では、歯先側歯形と歯元側の歯形のそれぞれのほぼ中央に歯当たり中心点を定め、中心点から離れるほど例えば二次曲線状に歯面を削る方向に歯形修整することになる。このとき、ピッチ点近傍の歯面は窪むことになる。しかし、“連結歯形部分”が無いSS歯形の場合、ピッチ点の歯面圧力角はゼロであり、理論的には、成形加工法では可能かもしれないが、創成加工法でピッチ点近傍の歯面を窪ませることは出来ない。
そこで、一つの歯形修整の方法として、図5に示すように、大小両歯車において、歯先側歯面の歯当たり中心点から歯先側だけを歯形修整し、歯車を組み立てる際に中心間距離を、正規の位置よりも少しだけ短くする方法が考えられる。
図5では、モジュール2.5の歯において、歯先端で0.015の歯形修整を行ったときに、正規の軸間距離0.000及び、-0.050、-0.100とした場合の歯形間隙間を示す。組み立て軸間距離を-0.050とすれば、±0.050の軸間距離誤差が許容される、一例を示す。

図1
図2
図3
図4
図5