(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008720
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】火災検知器及びトンネル防災システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/12 20060101AFI20250109BHJP
G08B 17/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G08B17/12 A
G08B17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111139
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(74)【代理人】
【識別番号】100228669
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 愛規
(72)【発明者】
【氏名】後藤 俊良
【テーマコード(参考)】
5C085
5G405
【Fターム(参考)】
5C085AA13
5C085AB01
5C085BA35
5C085CA25
5G405AA01
5G405AB05
5G405CA16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非火災報につながる火災検知器の劣化予兆を判定する。
【解決手段】トンネル防災システムにおいて、トンネル長手方向の壁面に沿って、例えば25メートル又は50メートル間隔で配置されている火災検知器12は、火災炎から放射される放射線エネルギーの観測による炎観測値に基づいて火災を検知し、炎観測値に基づく複数の炎判定条件を充足した場合に火災と判定する火災判定部4810と、火災判定部4810で複数の炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかった場合に、非炎候補と判定して当該非炎候補の判定結果を蓄積し、所定期間に蓄積された非炎候補の蓄積回数に基づき火災検知器の劣化予兆を判定する劣化予兆判定部4820と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災炎から放射される放射線エネルギーの観測による炎観測値に基づいて火災を検知する火災検知器であって、
前記炎観測値に基づく複数の炎判定条件を充足した場合に火災と判定する火災判定部と、
前記火災判定部で前記複数の炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかった場合に非炎候補と判定し、前記非炎候補の判定結果に基づき火災検知器の劣化予兆を判定する劣化予兆判定部と、
が設けられたことを特徴とする火災検知器。
【請求項2】
請求項1記載の火災検知器において、
前記火災判定部は、前記炎観測値又は前記炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を充足した場合に、前記複数の炎判定条件の一つを充足したものと判定し、
前記劣化予兆判定部は、前記周波数解析結果が前記所定の判定条件を充足しなかった場合に周波数解析に基づく非炎候補と判定することを特徴とする火災検知器。
【請求項3】
請求項2記載の火災検知器において、
前記劣化予兆判定部は、前記周波数解析に基づく非炎候補の判定回数が所定の期間内に所定の蓄積条件を充足した場合に前記火災検知器の劣化予兆を判定することを特徴とする火災検知器。
【請求項4】
請求項2記載の火災検知器において、
前記周波数解析結果の所定の判定条件として、前記炎観測値又は前記炎観測値に基づく値を高速フーリエ変換して得られた周波数解析結果が炎固有の周波数分布を含むかを判定し、
前記高速フーリエ変換して得られた周波数解析結果が前記炎固有の周波数分布を含む場合に、前記炎観測値又は前記炎観測値に基づく値の周波数解析結果が前記所定の判定条件を充足したとすることを特徴とする火災検知器。
【請求項5】
請求項2記載の火災検知器において、
前記劣化予兆判定部は、前記周波数解析に基づく非炎候補と判定した場合、当該判定が所定の誤判定要因による誤判定かを判定し、前記所定の誤判定要因による誤判定であると判定した場合には前記周波数解析に基づく非炎候補の判定回数に加算しないことを特徴とする火災検知器。
【請求項6】
請求項5記載の火災検知器において、
前記火災検知器は、異なる検知エリアを個別に観測することで複数の検知エリアの火災を監視し、
前記劣化予兆判定部は、
所定の検知エリアにおける周波数解析に基づき判定された非炎候補を単独非炎候補として蓄積すると共に、所定の期間内に他の検知エリアにおける周波数解析に基づき非炎候補が判定された場合には同時非炎候補として蓄積し、
前記単独非炎候補の蓄積回数と前記同時非炎候補の蓄積回数との比率に基づき前記所定の誤判定要因による誤判定かを判定することを特徴とする火災検知器。
【請求項7】
請求項1記載の火災検知器において、
前記火災判定部で火災と判定した場合に火災検知信号を外部に出力し、前記劣化予兆判定部で前記火災検知器の劣化予兆と判定した後に劣化予兆信号を外部に出力可能であることを特徴とする火災検知器。
【請求項8】
請求項1記載の火災検知器において、
前記劣化予兆判定部で前記火災検知器の劣化予兆と判定した場合に、前記火災判定部による火災判定処理を停止せずに継続することを特徴とする火災検知器。
【請求項9】
請求項1記載の火災検知器をトンネル内の長手方向に所定間隔で設置して、防災受信盤に当該火災検知器を接続したことを特徴とするトンネル防災システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知エリアからの放射線エネルギー(光エネルギー)を受光素子で受光して観測して火災を検知する火災検知器及び当該火災検知器を備え火災を含む異常を監視するトンネル防災システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車専用道路等のトンネルには、トンネル内で発生する火災を監視して火災事故から人身及び車両等を守るために、防災システムとして、トンネル内に火災検知器がトンネルの長手方向に沿って設置され、防災受信盤から引き出された信号線に火災検知器が接続されている。
【0003】
火災検知器は、トンネルの長手方向となる左右両側に検知エリアを持ち、隣に配置される火災検知器との検知エリアが相互補完的に重なるように、例えば25m間隔或いは50m間隔で連続的に配置されている。
【0004】
また、火災検知器は、火災を検知するために、透光性窓を介してトンネル内で発生する火災炎からの放射線エネルギー(光エネルギー)として、例えば赤外線エネルギーを受光素子で受光して観測しており、火災の検知機能を維持するために、受光素子の感度を監視するための感度試験や透光性窓の汚れを監視するための汚れ試験を行っている。
【0005】
受光素子の感度試験では、防災受信盤から定期的または手動操作による試験時に送信される試験信号を受信した場合に、火災炎から発せられる光に相当する試験光を試験光源から受光素子に入射して受光感度(受光値)を検出している。そして、火災検知器は、検出した受光感度に基づいてセンサ故障(感度異常)の応答信号を防災受信盤へ送信してセンサ故障警報(感度異常警報)を出力させている。
【0006】
透光性窓の汚れ試験では、防災受信盤から定期的または手動操作による試験時に送信される試験信号を受信した場合に、試験光を火災検知器の外側に設けられた試験光源から透光性窓を介して受光素子に入射して減光率を求めている。そして、火災検知器は、減光率が第1の所定の汚れ閾値以上かつ第2の所定の汚れ閾値未満にある場合は受光値を補正することで火災の検知機能を維持するとともに汚れ異常予告の応答信号を防災受信盤へ送信して汚れ予告警報を出力させている。また、減光率が第2の所定の汚れ閾値以上の場合に汚れ異常の応答信号を防災受信盤へ送信して汚れ警報を出力させている。
【0007】
また、近年にあっては、火災検知器の劣化を監視する方法として、感度試験を行い、受光素子が故障とみなされるよりも前の条件を満たしたときに劣化異常と判定する輻射式火災検知器や(特許文献1)、火災検知器における感度試験の受光感度(受光値)以外の情報(例えば消費電流等)に基づいて火災検知器の劣化を検出するトンネル防災システム(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3240586号公報
【特許文献2】特許第6900206号公報
【発明の概要】
【0009】
しかしながら、特許文献1の輻射式火災検知器にあっては、火災を検出しなくなる方向への劣化については効果的であり、特許文献2のトンネル防災システムにあっては、火災検知器の各機能部の劣化を検出することに好適だが、火災でないのに火災と検知する非火災報につながる火災検知器の劣化への効果はどちらも限定的である。
【0010】
本発明は、非火災報につながる火災検知器の劣化予兆を判定する火災検知器及び当該火災検知器を備えたトンネル防災システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(火災検知器)
本発明は、火災炎から放射される放射線エネルギーの観測による炎観測値に基づいて火災を検知する火災検知器であって、
炎観測値に基づく複数の炎判定条件を充足した場合に火災と判定する火災判定部と、
火災判定部で複数の炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかった場合に非炎候補と判定し、非炎候補の判定結果に基づき火災検知器の劣化予兆を判定する劣化予兆判定部と、
が設けられたことを特徴とする。
【0012】
(周波数解析を用いた判定)
火災判定部は、炎観測値又は炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を充足した場合に、複数の炎判定条件の一つを充足したものと判定し、
劣化予兆判定部は、周波数解析結果が所定の判定条件を充足しなかった場合に周波数解析に基づく非炎候補と判定する。
【0013】
(非炎候補の判定の蓄積)
劣化予兆判定部は、周波数解析に基づく非炎候補の判定回数が所定の期間内に所定の蓄積条件を充足した場合に火災検知器の劣化予兆を判定する。
【0014】
(高速フーリエ変換による周波数解析)
周波数解析結果の所定の判定条件として、炎観測値又は炎観測値に基づく値を高速フーリエ変換して得られた周波数解析結果が炎固有の周波数分布を含むかを判定し、
高速フーリエ変換して得られた周波数解析結果が炎固有の周波数分布を含む場合に、炎観測値又炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を充足したとする。
【0015】
(誤判定要因による劣化予兆の誤判定防止)
劣化予兆判定部は、周波数解析に基づく非炎候補と判定した場合、当該判定が所定の誤判定要因による誤判定かを判定し、所定の誤判定要因による誤判定であると判定した場合には周波数解析に基づく非炎候補の判定回数に加算しない。
【0016】
(外部振動や放射ノイズ等による劣化予兆誤判定の防止方法)
火災検知器は、異なる検知エリアを個別に観測することで複数の検知エリアの火災を監視し、
劣化予兆判定部は、
所定の検知エリアにおける周波数解析に基づき判定された非炎候補を単独非炎候補として蓄積すると共に、所定の期間内に他の検知エリアにおける周波数解析に基づき非炎候補が判定された場合には同時非炎候補として蓄積し、
単独非炎候補の蓄積回数と同時非炎候補の蓄積回数との比率に基づき所定の誤判定要因による誤判定かを判定する。
【0017】
(外部への信号出力)
火災判定部で火災と判定した場合に火災検知信号を外部に出力し、劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した後に劣化予兆信号を外部に出力可能である。
【0018】
(劣化予兆の判定と火災判定の継続)
劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した場合に、火災判定部による火災判定処理を停止せずに継続する。
【0019】
(トンネル防災システム)
本発明は、トンネル防災システムであって、前述した火災検知器をトンネル内の長手方向に所定間隔で設置して、防災受信盤に当該火災検知器を接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(火災検知器の効果)
本発明は、火災炎から放射される放射線エネルギーの観測による炎観測値に基づいて火災を検知する火災検知器であって、炎観測値に基づく複数の炎判定条件を充足した場合に火災と判定する火災判定部と、火災判定部で複数の炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかった場合に非炎候補と判定し、非炎候補の判定結果に基づき火災検知器の劣化予兆を判定する劣化予兆判定部と、が設けられたため、劣化異常に起因した火災検知器の火災の誤検知により非火災報が発報される前に、その劣化に至る前段階である劣化予兆を知ることができ、交換用の火災検知器を準備したり、交換作業の適切な予定を立てたりする等の劣化予兆が判定された火災検知器に対する必要な対応が可能となり、火災検知器の経年劣化が進んでも火災検知の信頼性を維持可能とする。
【0021】
また、劣化予兆と判定する条件を、火災を判定するための炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかったことを起因とした条件とすることで、非火災報につながる火災検知器の劣化に対して効果的なものとなっている。
【0022】
(周波数解析を用いた判定の効果)
また、火災判定部は、炎観測値又は炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を充足した場合に、複数の炎判定条件の一つを充足したものと判定し、劣化予兆判定部は、周波数解析結果が所定の判定条件を充足しなかった場合に周波数解析に基づく非炎候補と判定するようにしたため、火災及び非火災候補の判定精度を更に高めることを可能とする。
【0023】
(非炎候補の判定の蓄積の効果)
また、劣化予兆判定部は、周波数解析に基づく非炎候補の判定回数が所定の期間内に所定の蓄積条件を充足した場合に火災検知器の劣化予兆を判定するようにしたため、火災検知器の劣化予兆の判定精度を更に高めることを可能とする。
【0024】
(誤判定要因による劣化予兆の誤判定防止の効果)
また、劣化予兆判定部は、周波数解析に基づく非炎候補と判定した場合、当該判定が所定の誤判定要因による誤判定かを判定し、所定の誤判定要因による誤判定であると判定した場合には周波数解析に基づく非炎候補の判定回数に加算しない、より詳細には、火災検知器は、異なる検知エリアを個別に観測することで複数の検知エリアの火災を監視し、劣化予兆判定部は、所定の検知エリアにおける周波数解析に基づき判定された非炎候補を単独非炎候補として蓄積すると共に、所定の期間内に他の検知エリアにおける周波数解析に基づき非炎候補が判定された場合には同時非炎候補として蓄積し、単独非炎候補の蓄積回数と同時非炎候補の蓄積回数との比率に基づき所定の誤判定要因による誤判定かを判定するため、火災検知器の劣化ではないが、火災検知器の劣化予兆として判定して蓄積されてしまうおそれのある誤判定要因、例えば外部振動や放射ノイズ等の影響を劣化予兆の判定から取り除くことができ、劣化予兆の判定精度を更に高めることを可能とする。
【0025】
(外部への信号出力の効果)
また、火災判定部で火災と判定した場合に火災検知信号を外部に出力し、劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した後に劣化予兆信号を外部に出力可能であるため、火災検知器の外部に必要な情報を知らせることを可能とする。
【0026】
(劣化予兆の判定と火災判定の継続の効果)
また、劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した場合に、火災判定部による火災判定処理を停止せずに継続するようにしたため、火災検知器の劣化予兆と判定された場合には、火災検知器は劣化の前段階である劣化予兆の状態であって劣化異常が生じている訳ではなく、現状の火災検知機能に異常があるわけではないことから、火災検知を停止することなく継続し、火災検知を維持可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】トンネル防災システムを示した説明図である。
【
図2】防災受信盤の機能構成を示した説明図である。
【
図4】火災検知器の機能構成を示した説明図である。
【
図5】3波長方式の受光処理部の実施形態を示した説明図である。
【
図6】燃焼炎を観測して出力される受光信号の信号波形を示した説明図である。
【
図7】燃焼炎を観測して出力される受光信号の周波数分布を示した説明図である。
【
図8】火災検知器の処理動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る火災検知器及びトンネル防災システムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態により、本発明が限定されるものではない。
【0029】
[実施形態の基本的な概念]
まず、実施形態の基本的概念について説明する。実施形態は、概略的に、火災炎から放射される放射線エネルギーの観測による炎観測値に基づいて火災を検知する火災検知器に関するものであり、また他の実施形態としては、その火災検知器を備えたトンネル防災システムを含むものである。
【0030】
ここで、「炎観測値」とは、炎から発せられる放射線エネルギー(光エネルギー)、例えば燃焼炎からのCO2の共鳴放射による中心波長4.5μmの波長帯の放射線エネルギー(赤外線エネルギー)を火災検知器が受光して観測することで取得したものであり、例えば観測した放射線エネルギー(光信号)を電気信号に変換した受光値(受光感度)を含むものである。
【0031】
また、火災検知器は炎観測値に加えて、非火災観測値を取得するものを含んでも良く、「非炎観測値」とは、炎から発せられる放射線エネルギー(光エネルギー)ではない、例えば中心波長4.5μmの波長帯の放射線エネルギーに対して長波長側となる中心波長5.0μmの波長帯の放射線エネルギー(赤外線エネルギー)や、短波長側となる中心波長2.3μmの波長帯の放射線エネルギー(赤外線エネルギー)を火災検知器が受光して観測することで取得したものであり、炎観測値と同様に観測した放射線エネルギー(光信号)を電気信号に変換した受光値(受光感度)を含むものである。
【0032】
また、例えば中心波長4.5μmの波長帯の放射線エネルギーから炎観測値を取得し、5.0μmの波長帯の放射線エネルギーから非炎観測値を取得して火災を判定するような方式を2波長方式といい、これに加えて2.3μmの波長帯の放射線エネルギーから非火災観測値を取得して火災を判定するような方式を3波長方式といい、必ずしも非炎観測値は1の波長帯における放射線エネルギーに限られたものではない。
【0033】
また、「防災システム」とは、監視領域で発生し得る火災等の異常を監視して防止・対処するためのシステムであり、当然に火災検知器以外の構成を含むものや、火災以外の異常を監視するものを含む概念である。例えば火災検知器以外の構成として、監視領域を撮像する撮像部や、火災検知器から信号を受信して対応した警報を出力する防災受信盤等を備えているシステムや、異常として火災以外に人(不審者)、車両、ガス漏れ等を合わせて監視するシステムを含み、トンネルに構築した防災システム(トンネル防災システム)としては、火災検知器をトンネル内の長手方向に所定間隔で設置して、防災受信盤に当該火災検知器を接続したものを含む。
【0034】
そして、実施形態の火災検知器は、火災判定部と劣化予兆判定部を備えるものである。
【0035】
ここで、「火災判定部」とは、炎観測値に基づく複数の炎判定条件を充足した場合に火災と判定するものであり、「劣化予兆判定部」とは、火災判定部で複数の炎判定条件の一部を充足したが他の炎判定条件を充足しなかった場合に非炎候補と判定し、当該非炎候補の判定結果に基づき火災検知器の劣化予兆を判定するものである。
【0036】
つまり、火災検知器は、複数の炎判定条件を全て充足した場合には火災判定部により火災と判定し、その複数の炎判定条件の一部が充足しない場合には非炎候補と判定して非火災報に繋がる火災検知器の劣化異常に至る前段階である劣化予兆を監視している。
【0037】
また、「火災判定部」での炎判定条件にどのような判定条件を含むかは任意であるが、例えば炎観測値又は炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を含むものであり、当該周波数解析に基づく判定条件を充足した場合に、火災判定部が複数の炎判定条件の一つを充足したものと判定し、当該周波数解析に基づく判定条件を充足しなかった場合に、劣化予兆判定部が周波数解析に基づく非炎候補と判定する。
【0038】
また、「周波数解析」として、例えば高速フーリエ変換を利用したものがあり、炎観測値又は炎観測値に基づく値を高速フーリエ変換して得られた周波数解析結果が炎固有の周波数分布を含むかを判定し、当該周波数解析結果が炎固有の周波数分布を含む場合には、炎観測値又炎観測値に基づく値の周波数解析結果が所定の判定条件を充足したとする。ここで、「炎固有の周波数分布」とは、例えば炎固有の所定周波数付近に存在するゆらぎ周波数の分布等を含むものである。また、「炎観測値に基づく値」とは、取得した炎観測値に所定の処理を施したものであり、例えば複数のセンサが取得した炎観測値を加算する加算処理を行った値(後述する加算炎観測値)等を含むものである。
【0039】
また、劣化予兆判定部は、周波数解析に基づく非炎候補の判定回数が所定の期間内に所定の蓄積条件を充足した場合に火災検知器の劣化予兆を判定するものであり、「所定の蓄積条件」とは、例えば非炎候補の判定回数が設定された所定の蓄積回数に達したかを判定する条件であり、所定の蓄積回数に達した場合に所定の蓄積条件を充足したとするものを含む。
【0040】
また、「劣化予兆判定部」は、誤判定要因による劣化予兆の誤判定を防止するために、周波数解析に基づく非炎候補と判定した場合、当該判定が所定の誤判定要因による誤判定かを判定し、所定の誤判定要因による誤判定であると判定した場合には周波数解析に基づく非炎候補の判定回数に加算しない。尚、「誤判定要因」とは、火災検知器の劣化予兆を引き起こす要因ではないが、誤判定要因に起因した炎観測値又は炎観測値に基づく値の周波数解析結果により非炎候補と判定する可能性がある要因のことである。
【0041】
例えばトンネルに構築された防災システムにあっては、大型車両等の通過に伴い火災検知器に強い振動が加わると、火災炎の放射線エネルギーを観測している受光素子として使用している焦電体が圧電素子としての機能もあるため、誤判定要因として外部振動の影響を受けて劣化予兆判定部が劣化予兆を判定する場合があり、誤判定要因となる外部振動に起因した劣化予兆の誤判定を排除するためである。また、その他にも誤判定要因となる放射ノイズ等に起因した劣化予兆の誤判定を排除することが可能である。
【0042】
そして、誤判定要因による劣化予兆の誤判定を防止するために、例えば劣化予兆判定部は、所定の検知エリアにおける周波数解析に基づき判定された非炎候補を単独非炎候補として蓄積すると共に、所定の期間内に他の検知エリアにおける周波数解析に基づき非炎候補が判定された場合には同時非炎候補として蓄積し、単独非炎候補の蓄積回数と同時非炎候補の蓄積回数との比率に基づき誤判定要因による誤判定かを判定する。
【0043】
ここで、「検知エリア」とは、火災検知器が放射線エネルギーを観測可能とする視野範囲であり、「異なる検知エリアを個別に観測する」ことは、火災検知器が異なる視野範囲を持っていることになり、火災検知器は検知エリアに対応して独立した火災検知部を備えている。
【0044】
また、「単独非火災候補」とは、ある1つの検知エリアに対応した観測値に基づき判定されるものであり、「同時非火災候補」とは、複数の検知エリアに対応した観測値に基づき判定されるものである。ある1つの検知エリアに対応した火災検知部に劣化又はその予兆が現れた場合にはその火災検知部に影響を与えるものであるが、外部振動等の誤判定要因の影響は検知エリアに関係なく火災検知器全体に影響を与えるものが大多数であることから、「単独非火災候補」と「同時非火災候補」を判定することで、誤判定要因による誤判定を排除することができる。
【0045】
尚、判定条件において「所定の期間」を条件とするものが複数存在するが、「所定の期間」は、各判定条件において個別に設定される期間であり、全ての所定の期間が同じ期間であることを示すものではなく、各判定条件において設計思想等を考慮して適切に設定される。尚、適切に各「所定の期間」が設定された結果、異なる判定条件における所定の期間同士が同じ期間であることは起こり得ることである。
【0046】
また、火災検知器は、火災判定部で火災と判定した場合に火災検知信号を外部に出力し、劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した後に劣化予兆信号を外部に出力可能である。そのため、防災受信盤等の外部に対して任意のタイミング、例えば外部から呼出信号に対する応答タイミングや火災検知器での判定時等に劣化予兆信号を外部に送信して、防災システムとして必要な処理を可能とする。
【0047】
また、火災検知器は、劣化予兆判定部で火災検知器の劣化予兆と判定した場合に、火災判定部による火災判定処理を停止せずに継続する。
【0048】
以下、具体的な実施形態を説明する。以下に示す具体的な実施形態では、火災検知器をトンネル内の長手方向に所定間隔で設置して防災受信盤に接続した「トンネル防災システム」を対象とし、火災検知器が、「炎観測値を取得するために4.5μmの波長帯の放射線エネルギーを観測し、非炎観測値を取得するために5.0μmと2.3μmの波長帯の放射線エネルギーを観測して火災を判定する3波長方式」である場合で説明する。
【0049】
[実施形態の具体的内容]
火災検知器の実施形態について、より詳細に説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.トンネル防災システム
b.防災受信盤
c.火災検知器
c1.火災検知器の外観
c2.火災検知器の機能構成
d.受光処理部
d1.4.5μm受光処理部
d2.5.0μm受光処理部
d3.2.3μm受光処理部
e.火災判定部
e1.第1炎候補の判定
e2.第2炎候補の判定
f.劣化予兆判定部
f1.第1非炎候補の判定
f2.第2非炎候補の判定
f3.劣化予兆の判定
f4,外部振動による劣化予兆誤判定の防止
g.試験制御部
h.火災検知器の処理動作
h1.火災検知動作
h2.劣化予兆判定動作
i.防災受信盤の動作
j.本発明の変形例
【0050】
[a.トンネル防災システム]
まず、トンネル防災システムについて説明する。当該説明にあっては、トンネル防災システムを示した
図1を参照する。
【0051】
図1に示すように、自動車専用道路のトンネルとして、上り線トンネル1aと下り線トンネル1bが構築されている。上り線トンネル1aと下り線トンネル1bの内部には、トンネル長手方向の壁面に沿って、例えば25メートル又は50メートル間隔で火災検知器12が配置されている。
【0052】
火災検知器12は、トンネル長手方向となる左右両側に検知エリアを設定して個別に左右何れかの検知エリアを監視する2組の火災検知部を備え、隣に配置される火災検知器との検知エリアが相互補完的に重なるように連続的に配置され、検知エリア内で起きた火災による炎からの放射線エネルギー(光エネルギー)として、例えば赤外線エネルギーを観測して火災を検知し、火災を検知した場合には火災検知信号を外部に送信する機能を備える。
【0053】
また、火災検知器12は、火災検知処理にて非火災候補判定した場合には、非火災候補の判定結果に基づき火災検知器の劣化予兆を判定し、劣化予兆を判定した場合には劣化予兆判定信号を外部に送信する機能を備える。
【0054】
また、上り線トンネル1aと下り線トンネル1bには、防災システムとして、火災通報のために手動通報装置や非常電話が設けられ、火災の消火や延焼防止のために消火栓装置が設けられ、更にトンネル躯体やダクト内を火災から防護するために水噴霧ヘッドから消火用水を散水させる水噴霧などが設置されるが、図示を省略している。
【0055】
防災受信盤10からは上り線トンネル1aと下り線トンネル1bに対し電源回線、信号回線を含む伝送路14a,14bが引き出され、伝送路14a,14bには火災検知器12が接続されており、トンネル防災システムは、火災検知器12には回線単位に固有のアドレスを設定されたR型(Record-type)の防災システムとしている。尚、伝送路14a、14bを区別しない場合には伝送路14と呼ぶ場合がある。
【0056】
また、防災受信盤10に対しては、消火ポンプ設備16、ダクト用の冷却ポンプ設備18、IG子局設備20、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30等を設けており、IG子局設備20をデータ伝送回線で接続する点を除き、それ以外の設備はP型信号回線により防災受信盤10に個別に接続されている。ここで、IG子局設備20は、防災受信盤10と外部に設けた上位設備である遠方監視制御設備32とをネットワークを経由して結ぶ通信設備である。
【0057】
換気設備22は、トンネル内の天井側に設置されているジェットファンの運転による高い吹き出し風速によってトンネル内の空気にエネルギーを与えて、トンネル長手方向に換気の流れを起こす設備である。警報表示板設備24は、トンネル内の利用者に対して、トンネル内の異常を、電光表示板に表示して知らせる設備である。ラジオ再放送設備26は、トンネル内で運転者等が道路管理者からの情報を受信できるようにするための設備である。テレビ監視設備28は、火災の規模や位置の確認、水噴霧設備の作動、避難誘導を行う場合のトンネル内の状況を把握するための設備である。照明設備30はトンネル内の照明機器を駆動して管理する設備である。
【0058】
[b.防災受信盤]
続いて、防災受信盤について説明する。当該説明にあっては、防災受信盤の機能構成を示した
図2を参照する。
【0059】
図2に示すように、防災受信盤10は盤制御部34を備える。盤制御部34は例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等が使用される。
【0060】
盤制御部34に対して伝送部36a,36bが設けられ、伝送部36a,36bから引き出された伝送路14a,14bに火災検知器12がそれぞれ複数台接続されている。尚、伝送路36a,36bを区別しない場合には、伝送部36と呼ぶ場合がある。
【0061】
また、盤制御部34に対して、その他に、スピーカ、警報表示灯等を備えた警報部38、液晶ディスプレイ、プリンタ等を備えた表示部40、各種スイッチ等を備えた操作部42、外部監視設備と通信するIG子局設備20を接続するモデム44が設けられ、更に、
図1に示した消火ポンプ設備16、冷却ポンプ設備18、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30を接続するIO部46が設けられている。
【0062】
盤制御部34は、伝送部36a,36bに指示して火災検知器12のアドレスを順次指定したポーリングコマンドを含む呼出信号を繰り返し送信しており、火災検知器12は自己アドレスに一致する呼出信号を受信すると、火災検知や試験結果等の自己の状態情報を含む応答信号を返信する。
【0063】
また、盤制御部34は、火災検知器12からの応答信号の受信により火災を検知した場合は警報部38により火災警報を出力させると共にIO部46を介し他設備の連動制御を指示する制御を行う。
【0064】
また、盤制御部34は、システムの立上げ時あるいは運用中の所定の周期毎に、火災検知器12のアドレスを順次指定した試験指示コマンドを設定した試験信号を送信し、火災検知器12に感度試験、汚れ試験及び劣化試験等の試験を行わせ、それぞれの試験結果を応答信号として返信させる制御を行う。また、操作部42により特定の火災検知器12のアドレスを指定した試験操作により、個別の火災検知器に対し試験信号を送信して試験を行わせることも可能としている。
【0065】
また、盤制御部34は、火災検知器12の感度試験により得られたセンサ故障(感度異常)の応答信号を受信した場合には、当該火災検知器のアドレスを特定したセンサ故障警報(感度異常警報)を、例えば表示部40の警報音、ディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0066】
また、盤制御部34は、火災検知器12の汚れ試験により得られた汚れ異常予告の応答信号を受信した場合には、当該火災検知器のアドレスを特定した汚れ異常の予告警報を、例えば表示部40の警報音、ディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0067】
また、盤制御部34は、火災検知器12の汚れ試験により得られた汚れ異常の応答信号を受信した場合には、当該火災検知器のアドレスを特定した汚れ警報を、例えば表示部40の警報音、ディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0068】
また、盤制御部34は、火災検知器12の劣化試験により得られた劣化の応答信号を受信した場合には、当該火災検知器のアドレスを特定した劣化の警報を、例えば表示部40の警報音、ディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0069】
また、盤制御部34は、火災検知器12が劣化予兆を判定して送信した劣化予兆判定信号を受信した場合には、当該火災検知器のアドレスを特定した劣化予兆の警報を、例えば表示部40の警報音、ディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0070】
また、盤制御部34は、火災検知器12の感度試験、汚れ試験及び劣化試験により得られた予告、異常又は劣化の応答信号、火災検知器12が劣化予兆を判定して送信した劣化予兆判定信号を受信した場合には、モデム44から
図1に示したIG子局設備20を介して遠方監視制御設備32に送信し、遠方監視制御設備32側でも同じく予告、異常、劣化予兆又は劣化の警報を報知させる制御を行う。
【0071】
更に、盤制御部34は、表示部40のディスプレイを利用した操作部42の操作等に基づき、火災検知器12に設定されている予告又は予兆を含む感度異常、汚れ異常、劣化を判定するための判定条件となる閾値等を変更させる制御を行う。この判定条件となる閾値等を変更させる制御は、伝送路14に接続される全ての火災検知器12の判定条件を一斉に変更させることも、アドレスを指定して特定の火災検知器12の判定条件を変更させることも可能である。
【0072】
[c.火災検知器]
続いて、火災検知器について説明する。当該説明にあっては、火災検知器の外観を示した
図3及び火災検知器の機能構成を示した
図4を参照する。
【0073】
ここで、
図3の説明では、X-Y-Z方向が互いに直交する方向であり、具体的には、透光性窓が設けられた前面を正面に見て、X方向を左右方向とし、Y方向を上下方向とし、Z方向を前後方向とする。また、X方向における+X側を右側、-X側を左側とし、Y方向における+Y側を上側、-Y側を下側とし、Z方向における+Z側を前側、-Z側を後側とする。
【0074】
(c1.火災検知器の外観)
まず、火災検知器の外観について説明する。
図3に示すように、火災検知器12は、筐体1210の前面に、左右に分けて2組の透光性窓80R,80Lが設けられ、透光性窓80R,80Lの各々の位置に対応した筐体1210内部に受光素子部(センサ部)が配置されている。また、透光性窓80R,80Lの近傍の、受光素子部に光を入射できる位置に、透光性窓80R,80Lの汚れ試験に使用される外部試験光源を収納した2組の試験光源用透光窓81R,81Lが設けられている。尚、透光性窓80R,80Lを区別するために、透光性窓80Rを右眼透光性窓80R、透光性窓80Lを左眼透光性窓80Lと呼ぶ場合がある。
【0075】
(c2.火災検知器の機能構成)
次に、火災検知器の機能構成について説明する。
図4に示すように、火災検知器12には、検知器制御部48、伝送部50、電源部52、試験電源部54、試験発光駆動部56、左右2組の火災検知部60R,60Lが設けられている。尚、火災検知部60R,60Lを区別するために、火災検知部60Rを右眼火災検知部60Rといい、火災検知部60Lを左眼火災検知部60Lと呼ぶ場合がある。
【0076】
右眼火災検知部60Rには、2組の受光素子部62R、受光素子部64R及び受光素子部66Rが設けられ、各受光素子部の外側には光学波長フィルタ74R,76R,78Rが個別に配置され、更に各光学波長フィルタの外側にはサファイアガラス等の赤外線透光性の部材を用いた透光性窓80Rが共通に配置されている。
【0077】
受光素子部62Rの構造は任意であるが、例えば基板の表面(透光性窓側の面)に配置された焦電体を備え、基板の表面側に4.5μmを中心波長とした赤外線を選択透過する光学波長フィルタ74Rを備えたカバー部材を設けてパッケージ化された構成としている。
【0078】
ここで、受光素子部62Rの受光素子として機能する焦電体は放外線エネルギーを受光して電気信号に変換する機能を備えると共に圧電素子としての機能も兼ね備えており、外部振動により焦電体が受けた歪を電気信号に変換して出力する。
【0079】
2組の受光素子部62Rは、燃焼炎からCO2共鳴に伴って放射される、概ね4.5μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを受光して電気信号に変換して4.5μm受光処理部68Rへ出力する。
【0080】
受光素子部64Rは、受光素子部62Rと同様の構造であり、4.5μmに対して長波長側となる5.0μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを受光して電気信号に変換して5.0μm受光処理部70Rへ出力する。
【0081】
受光素子部66Rも、受光素子部62Rと同様な構造であり、4.5μmに対して短波長側となる2.3μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを受光して電気信号に変換して2.3μm受光処理部72Rへ出力する。
【0082】
また、受光素子部の各々に対応して受光素子部の感度試験に用いられる内部試験光源82Rが透光性窓80Rの内側に設けられ、また、透光性窓の汚れ試験に用いられる外部試験光源84Rが透光性窓80Rの外側に共通に設けられている。
【0083】
左眼火災検知部60Lは右眼火災検知部60Rと同様の構造であり、2組の受光素子部62L、受光素子部64L、受光素子部66L、4.5μm受光処理部68L、5.0μm受光処理部70L,2.3μm受光処理部72L、内部試験光源82L及び外部試験光源84Lが設けられている。
【0084】
検知器制御部48は、例えばプログラムの実行により実現される機能であり、ハードウェアとしてはCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用する。検知器制御部48にはプログラムの実行により実現される機能として、火災判定部4810、劣化予兆判定部4820及び試験制御部4830が設けられている。
【0085】
伝送部50は、伝送路14のシリアル伝送線SAとシリアル伝送コモン線SBにより
図2に示した防災受信盤10の伝送部36に接続され、防災受信盤10の伝送部36との間で各種信号をシリアル伝送により送受信する。
【0086】
電源部52は、伝送路14に含まれる電源線SVと電源コモン線SCにより
図2に示した防災受信盤10から電源供給を受け、例えば検知器制御部48、伝送部50、2組の火災検知部60R,60Lとなる回路ブロックに分けて、所定の電源電圧を供給している。
【0087】
試験電源部54は、伝送路14に含まれる電源線SVと電源コモン線SCにより
図2に示した防災受信盤10から電源供給を受け、試験発光駆動部56に所定の電源電圧を供給し、受光素子部の感度試験や透光性窓の汚れ試験の際に試験発光駆動部56により内部試験光源82R、82L及び外部試験光源84R、84Lを駆動させる。
【0088】
[d.受光処理部]
続いて、火災検知部に設けられた4.5μm受光処理部、5.0μm受光処理部及び2.3μm受光処理部について説明する。尚、右眼火災検知部60Rの受光処理部について説明するが、左眼火災検知部60Lについても同様となる。
【0089】
(d1.4.5μm受光処理部)
まず、4.5μm受光処理部について説明する。
図5に示すように、4.5μm受光処理部68Rは、2組の受光素子部62Rで燃焼炎からCO
2共鳴に伴って放射される、4.5μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを電気信号に変換して受光信号E0,E1,E2を検知器制御部48に出力する。
【0090】
4.5μm受光処理部68Rには、2組の受光素子部62Rに続いて、それぞれの処理系統ごとに、受光素子部62Rから入力された信号から所定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる前置フィルタ86と、前置フィルタ86を通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ88と、プリアンプ88からの出力を増幅するメインアンプ90と、プリアンプ90からの出力された受光信号E01,E02を増幅する終段アンプ92とが設けられ、終段アンプ92の各々から受光信号E1,E2(個別受光信号)を検知器制御部48に出力し、検知器制御部48のA/D変換ポート112,116で受光信号E1,E2がデジタル変換される。
【0091】
また、4.5μm受光処理部68Rには加算器94が設けられ、2組のメインアンプ90から出力された受光信号E01,E02は加算器94で加算増幅されて受光信号E0(加算受光信号)として検知器制御部48に出力され、A/D変換ポート114で受光信号E0がデジタル変換される。
【0092】
検知器制御部48に設けたA/D変換ポート112,116は所定のサンプリング周期で受光信号E1,E2をデジタル変換する。所定のサンプリング周期でA/D変換を行い、デジタル変換されたデジタル受光信号(4.5μm個別炎観測値D1,D2)を取得してメモリに記憶し、火災判定部4810は、メモリに所定時間分記憶されたデジタル受光値の積分により4.5μm個別炎観測値ΣD1,ΣD2を取得し、火災の判定に使用するために保持する。
【0093】
また、加算器94から出力される受光信号E0についても、同様に、A/D変換ポート114によりデジタル受光値(4.5μm加算炎観測値D0)が取得されてメモリに記憶され、メモリに所定時間分記憶されたデジタル受光値の積分により4.5μm加算炎観測値ΣD0を取得し、火災の判定に使用するために保持する。
【0094】
ここで、燃焼炎から4.5μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを受光した場合の2組のメインアンプ90から出力される受光信号E1,E2は、例えば
図6に示すようになる。
図6(A)、(B)は所定期間、例えば2秒間に得られる受光信号E1,E2を示し、火災検知器12の劣化が進んでいない正常な状態では、2組の処理系統の各々から出力される受光信号E1,E2の波形レベルは概ね一致しているが、火災検知器12の運用期間が長くなって火災検知器12の劣化の度合いが進むと、受光信号E1,E2の波形レベルが相違し、受光信号E1,E2の一致度合が低下する場合がある。
【0095】
(d2.5.0μm受光処理部)
次に、5.0μm受光処理部について説明する。5.0μm受光処理部70Rは、5.0μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを電気信号に変換して受光信号E3を検知器制御部48に出力する。
【0096】
5.0μm受光処理部70Rには、受光素子部64Rに続いて、受光素子部64Rから入力された信号から所定の周波数帯の信号成分のみを通過させる前置フィルタ96と、前置フィルタ96を通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ98と、プリアンプ98からの出力を増幅するメインアンプ100と、メインアンプ100からの出力を増幅する終段アンプ102とが設けられ、終段アンプ92から受光信号E3を検知器制御部48に出力し、検知器制御部48のA/D変換ポート118で受光信号E3がデジタル変換される。
【0097】
A/D変換ポート118について所定のサンプリング周期でA/D変換を行い、デジタル受光信号(5.0μm非炎観測値D3)を取得してメモリに記憶し、火災判定部4810は、所定時間分メモリに記憶されたデジタル受光値の積分により5.0μm非炎観測値ΣD3を取得し、火災の判定に使用するために保持する。
【0098】
(d3.2.3μm受光処理部)
次に、2.3μm受光処理部について説明する。2.3μm受光処理部72Rは、2.3μmを中心波長とする波長帯の赤外線エネルギーを電気信号に変換して受光信号E4を検知器制御部48に出力する。
【0099】
2.3μm受光処理部72Rには、受光素子部66Rに続いて、受光素子部66Rから出力される受光信号から所定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる前置フィルタ104と、前置フィルタ104を通過した信号成分を初段増幅するプリアンプ106と、プリアンプ106からの出力を増幅するメインアンプ108と、メインアンプ108からの出力を増幅する終段アンプ110とが設けられ、終段アンプ110から受光信号E4を検知器制御部48に出力し、検知器制御部48のA/D変換ポート120で受光信号E4がデジタル変換される。
【0100】
A/D変換ポート1209について所定のサンプリング周期でA/D変換を行い、デジタル受光信号(2.3μm非炎観測値D4)を取得してメモリに記憶し、火災判定部4810は、所定時間分メモリに記憶されたデジタル受光値の積分により2.3μm非炎観測値ΣD4を取得し、火災の判定に使用するために保持する。
【0101】
[e.火災判定部]
続いて、検知器制御部48に設けられた火災判定部4810について説明する。火災判定部4810は、4.5μm受光処理部、5.0μm受光処理部及び2.3μm受光処理部からの受光信号E0~E4に基づき取得された4.5μm炎観測値、4.5μm個別炎観測値、5.0μm非炎観測値及び2.3μm非炎観測値を使用して火災を判定する。尚、以下の説明では、4.5μm加算炎観測値を「加算炎観測値」、4.5μm個別炎観測値を「個別炎観測値」、5.0μm非炎観測値、2.3μm非炎観測値を「非炎観測値」という場合がある。
【0102】
(e1.第1炎候補の判定)
火災判定処理部4810は、所定期間のデジタル受光値をメモリに記憶し、当該メモリに記憶されたデジタル受光値の積分により取得した炎観測値ΣD0、個別炎観測値ΣD1,ΣD2、非炎観測値ΣD3及び非炎観測値ΣD4に基づき第1炎候補の判定を行う処理を繰り返す。そして、第1炎候補は、以下の手順に従って複数の炎判定条件の全てを充足した場合に判定される。
【0103】
第1炎候補の判定処理は、第1手順として、加算炎観測値ΣD0が所定の閾値以上とする判定条件を充足したかを判定する。
【0104】
第2手順として、第1手順の条件を充足した場合には、加算炎観測値ΣD0と非炎観測値ΣD3との比率(ΣD0/ΣD3)を求め、求めた比率(ΣD0/ΣD3)が所定の閾値以上とする判定条件を充足したかを判定する。
【0105】
第3手順として、第2手順の条件を充足した場合には、加算炎観測値ΣD0と非炎観測値ΣD4との比率(ΣD0/ΣD4)を求め、求めた比率(ΣD0/ΣD4)が所定の閾値以上とする判定条件を充足したかを判定する。
【0106】
第4手順として、第3手順の条件を充足した場合には、個別炎観測値ΣD1,ΣD2が所定の一致条件を充足したかを判定する。
【0107】
第5手順として、第4の条件を充足した場合には、第1炎候補と判定して、その判定結果を蓄積する。一方、第3手順の条件を充足しない場合には、後の説明で明らかにする劣化予兆の判定処理へ進むこととなる。
【0108】
ここで、個別炎観測値ΣD1,ΣD2の一致条件は任意であるが、例えば個別炎観測値ΣD1,ΣD2の区間比率(ΣD1/ΣD2)が所定の範囲内、例えば個別炎観測値ΣD1,ΣD2の差が所定値以内の場合に、一致条件が充足したと判定する。即ち、区間比率(ΣD1/ΣD2)が、1を中心とする所定比以内の場合に一致条件が充足したと判定する。
【0109】
また、前述の第5手順における「第1炎候補の判定結果を蓄積する」処理は任意であるが、例えば第1炎候補カウンタを準備し、第1炎候補と判定した場合に第1炎候補カウンタを1つ増やす(+1)する処理を行う。
【0110】
このような第1炎候補の判定処理は、第1炎候補の蓄積回数、例えば第1炎候補カウンタが所定の閾値回数に達して第1炎候補の蓄積条件が充足されるまで、第1乃至第5手順が繰り返され、第1炎候補の蓄積条件が充足された場合、即ち第1炎候補カウンタの計数値が所定の閾値回数に達した場合に、次に説明する第2炎候補の判定処理へ進むことになる。
【0111】
(e2.第2炎候補の判定)
次に、第2炎候補の判定について説明する。第2炎候補の判定処理は、メモリに記憶した、例えば2秒間の加算炎観測値D0を高速フーリエ変換(FFT)した周波数解析結果に基づいて第2炎候補の判定を行うものであり、その判定処理は以下の手順となる。
【0112】
第2炎候補の判定処理は、第1手順として、メモリに記憶された256個の炎観測値D0を対象に高速フーリエ変換を行い、例えば
図7に一例として示す周波数解析結果を取得する。
【0113】
第2手順として、取得した周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足した場合に、第2炎候補と判定して、その判定結果を蓄積する。
【0114】
第3手順として、第2炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達して蓄積条件が充足された場合に火災と判定し、火災検知信号を防災受信盤へ送信する。
【0115】
ここで、
図7に示すように、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを周波数軸で観測すると、概ね低周波側の周波数帯FLに高い出力レベルを示す周波数特性が得られることから、受光信号E0の周波数の主要な成分は低周波側の周波数帯FLに存在し、高周波側の周波数帯FHでの周波数成分は低いレベルを示す。このような周波数特性は、燃焼炎を観測した場合の信号の特徴である。
【0116】
このため、第2手順における「第2炎候補判定条件」は、低周波側の周波数帯FLの積分値ΣFL及び高周波側の周波数帯FHの積分値ΣFHを求め、両積分値の比率(ΣFL/ΣFH)が所定の閾値以上の場合に第2炎候補判定条件を充足したと判定して第2炎候補の判定結果を蓄積する。一方、比率(ΣFL/ΣFH)が所定の閾値未満となり、第2炎候補判定条件を充足しなかった場合には、後の説明で明らかにする劣化予兆の判定処理へ移行する。
【0117】
尚、第2炎候補の判定処理は、前述した1つの第2炎候補判定条件ではなく、異なる複数の第2炎候補判定条件を設け、全ての第2炎候補判定条件を充足した場合に、第2炎候補と判定して、その判定結果を蓄積するようにしてもよい。
【0118】
また、第3手順における「第2炎候補の判定結果を蓄積する」処理は任意であるが、第1炎候補の蓄積と同様に、例えば第2炎候補カウンタを準備し、第2炎候補と判定した場合に第2炎候補カウンタを1つ増やす(+1)処理を行い、第2炎候補カウンタの計数値が所定の閾値回数に達した場合に蓄積条件が充足されたとする。
【0119】
このため、第1炎候補の蓄積条件として、例えば第1炎候補カウンタの計数値に対する所定の閾値回数をm回とし、第2炎候補の蓄積条件として、例えば第2炎候補カウンタの計数値に対する所定の閾値回数をn回とした場合には、火災と判定されるまでに、第1炎候補の判定処理は(m×n)回必要であり、第2炎候補の判定処理はn回必要となる。
【0120】
[f.劣化予兆判定部]
続いて、検知器制御部48に設けられた劣化予兆判定部4820について説明する。劣化予兆判定部4820は、火災判定部4810による火災の判定処理での第1炎候補の判定処理で区画比率(ΣD1/ΣD2)が一致条件を充足しなかった場合の第1非炎候補(区間比率判定NG)の判定と、第1炎候補と判定されたが、第2炎候補の判定処理で周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しなかった場合の第2非炎候補(FFT判定NG)の判定とに基づき劣化予兆を判定して、劣化予兆と判定した場合に劣化予兆信号を防災受信盤へ送信するものである。
【0121】
(f1.第1非炎候補の判定)
まず、劣化予兆判定部4820による第1非炎候補(区間比率判定NG)の判定について説明する。劣化予兆判定部4820は、火災判定部4810で取得された個別炎観測値ΣD1,ΣD2が所定の一致条件を充足しなかった場合に、第1非炎候補(区間比率判定NG)と判定して、第1非炎候補の判定結果を蓄積し、所定の期間、例えば8時間内に第1非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合に、劣化予兆候補と判定して、劣化予兆候補の判定結果を蓄積する処理を行う。
【0122】
劣化予兆判定部4820による第1非炎候補の蓄積処理は任意であるが、例えば前述した蓄積処理と同様に、第1非炎候補カウンタを有し、個別炎観測値ΣD1,ΣD2が所定の一致条件を充足しなかった場合に第1非炎候補カウンタを1つ増やす(+1する)処理を行う。
【0123】
また、劣化予兆判定部4820による劣化予兆候補の蓄積処理も同様であり、例えば前述した蓄積処理と同様に、劣化予兆候補カウンタを有し、第1非炎候補カウンタの計数値が所定閾値に達した場合に、劣化予兆候補カウンタを1つ増やす(+1する)処理を行う。
【0124】
(f2.第2非炎候補の判定)
次に、劣化予兆判定部4820による第2非炎候補(FFT判定NG)の判定について説明する。劣化予兆判定部4820は、火災判定部4810で第1炎候補の判定処理により第1炎候補と判定されたが、第2炎候補の判定処理で炎観測値D0を高速フーリエ変換(FFT)した周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しなかった場合に第2非炎候補と判定して蓄積し、所定の期間、例えば8時間内に第2非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合に、劣化予兆候補と判定して、劣化予兆候補の判定結果を蓄積する処理を行う。即ち、前述した第1非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合と第2非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合に、劣化予兆候補の判定結果が蓄積されることになる。
【0125】
劣化予兆判定部4820による第2非炎候補の蓄積処理は任意であるが、例えば前述した蓄積処理と同様に、第2非炎候補カウンタを有し、周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しなかった場合に第2非炎候補カウンタを1つ増やす(+1する)処理を行う。
【0126】
また、劣化予兆判定部4820による劣化予兆候補の蓄積処理も同様であり、例えば前述した蓄積処理と同様に、劣化予兆候補カウンタを有し、第2非炎候補カウンタの計数値が所定閾値に達した場合に、劣化予兆候補カウンタを1つ増やす(+1する)処理を行う。
【0127】
(f3.劣化予兆の判定)
次に、劣化予兆判定部4820による劣化予兆の判定について説明する。劣化予兆判定部4820は、前述したように、所定期間ごとに、第1非炎候補(区間比率判定NG)の蓄積回数が所定の閾値回数に達したか(条件1)、第2非炎候補(FFT判定NG)の蓄積回数が所定の閾値回数に達したか(条件2)を判定し、条件1又は条件2が満たされた場合に劣化予兆候補の判定結果を蓄積させ、当該劣化予兆候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合、例えば劣化予兆候補カウンタの計数値が所定の閾値に達した場合に劣化予兆と判定する。
【0128】
(f4,外部振動による劣化予兆誤判定の防止)
次に、誤判定要因として外部振動による劣化予兆誤判定の防止について説明する。受光素子部62R、62Lに受光素子として設けられた焦電体は圧電素子としての機能を兼ね備えているため、トンネル壁面等に設置されている火災検知器12に大型車両の通行や地震等による強い振動が加わった場合に、4.5μm受光処理部の2組のメインアンプから出力される受光信号E1,E2及び加算器94から出力される受光信号E0に、外部振動に起因した2~8Hzの炎固有の周波数帯の分布を含む周波数成分が含まれる場合がある。
【0129】
このため、当該外部振動に起因してメモリに記憶されたデジタル受光値に基づき劣化予兆を判定して、その判定結果を蓄積してしまうおそれがある。そこで、劣化予兆判定部4820は、第2非炎候補の判定の際に、第2非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合に、第2非炎候補の判定が外部振動の影響を受けたか否か判定し、外部振動の影響を受けたと判定した場合には、第2非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合でも劣化予兆候補の判定を蓄積しない処理を行わない。
【0130】
劣化予兆判定部4820による劣化予兆候補の判定を蓄積しない抑止処理は任意であるが、例えば以下のような処理を行う。
【0131】
まず、火災検知器12は、異なる2つの検知エリアを個別に監視しており、左右2組の火災検知部60R,60Lを備えている。つまり、火災判定部4810及び劣化予兆判定部4820での判定処理は、右眼火災検知部60Rに対応した検知エリアと左眼火災検知部60Lに対応した検知エリアで観測された観測値に基づき個別に行われることになる。
【0132】
そのため、劣化予兆判定部4820は、右眼火災検知部60Rに対応した検知エリアで観測されメモリに記憶した炎観測値D0を高速フーリエ変換した周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しない場合に判定される第2非炎候補を「右眼の単独非炎候補」として蓄積する。
【0133】
同じく、劣化予兆判定部4820は、左眼火災検知部60Lに対応した検知エリアで観測されメモリに記憶した炎観測値D0を高速フーリエ変換した周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しない場合に判定される第2非炎候補を「左眼の単独非炎候補」として蓄積する。
【0134】
また、劣化予兆判定部4820は、所定の期間内に右眼火災検知部60Rに基づく「右眼の単独非炎候補」と左眼火災検知部60Lに基づく「左眼の単独非炎候補」の双方を判定した場合には「同時非炎候補」として蓄積する。
【0135】
そして、劣化予兆判定部4820は、何れかの単独非炎候補の蓄積回数が所定の閾値回数に達した場合に、単独非炎候補の蓄積回数N1と同時非炎候補の蓄積回数N2との比率(N1/N2)を求め、比率(N1/N2)が所定の比率判定条件を充足した場合に劣化予兆候補と判定して蓄積するが、比率(N1/N2)が比率判定条件を充足しなかった場合には、外部振動の影響を受けたとして劣化予兆候補と判定せず蓄積を行わない。
【0136】
このような処理は、火災検知器12が検知エリアに対応させて異なる火災検知部60R、60Lを備えており、何れか一方の火災検知部に劣化又はその予兆が現れた場合には他方の火災検知部に影響を与えるものではなく、「同時非炎候補」として蓄積することはないが、火災検知器12が外部振動の影響を受けた場合には、火災検知部60R、60Lの双方に影響を及ぼす可能性が高く、「同時非炎候補」として蓄積する可能性が高いためであり、単独非炎候補を劣化予兆として、同時非炎候補を外部振動の影響として扱ったものである。
【0137】
そして、外部振動に起因した同時非炎候補の蓄積回数N2は単独非炎候補の蓄積回数N1に対しては相当少ない回数であり、また、単独非炎候補の蓄積回数N1から同時非炎候補の蓄積回数N2を差し引いた蓄積回数(N1-N2)が外部振動の影響を除いた火災検知器12の劣化予兆を判定するための真の非災候補の蓄積回数となる。
【0138】
例えば、単独非炎候補の蓄積回数N1を100とすると同時非炎候補の蓄積回数N2は2程度であり、比率判定条件として、例えば比率閾値TH=50を設定し、比率(N1/N2)が比率閾値50を下回るのであれば、外部振動の影響ありと判断し、劣化予兆候補の判定を蓄積しない抑止処理とする。
【0139】
尚、外部振動の影響は、その発生頻度が極めて低いことが予想されるため、誤判定要因として主に外部振動を考慮している場合には、劣化予兆誤判定の防止の処理機能を火災検知器12に設けないようにしてもよい。
【0140】
[g.試験制御部]
続いて、検知器制御部48に設けられた試験制御部4830について説明する。試験制御部4830は、防災受信盤10から定期的、例えば24時間に1回(1日1回)の試験信号による試験指示を受けた場合、受光素子部の感度を監視するための感度試験や透光性窓の汚れを監視するための汚れ試験を行っている。なお、防災受信盤10が手動操作されて試験信号を送信する場合も同様である。
【0141】
感度試験として、右眼火災検知部60Rの受光素子部62Rの感度試験を例にとると、試験制御部4830は、防災受信盤10から定期的に送信される試験信号を受信した場合に、疑似的な炎からの光に相当する試験光を内部試験光源82Rから受光素子部62Rに入射して受光感度(受光値)を検出し、検出値が所定の感度閾値に低下した場合には、センサ故障(感度異常)の応答信号を防災受信盤10へ送信してセンサ故障警報(感度異常警報)を出力させている。なお、防災受信盤10が手動操作されて試験信号を送信する場合も同様である。
【0142】
汚れ試験として、右眼火災検知部60Rの透光性窓80Rの汚れ試験を例にとると、防災受信盤10から定期的に送信される試験信号を受信した場合に、試験制御部4830は、火災検知器10の外側に設けられた外部試験光源84Rから試験光を透光性窓80Rに入射し、受光素子部62Rで受光して減光率を求め、減光率が第1の所定の汚れ閾値以上かつ第2の所定の汚れ閾値未満にある場合は受光値を補正することで火災の検知機能を維持し、減光率が第2の所定の汚れ閾値以上の場合に汚れ異常の応答信号を防災受信盤へ送信して汚れ警報を出力させている。なお、防災受信盤10が手動操作されて試験信号を送信する場合も同様である。
【0143】
[h.火災検知器の処理動作]
続いて、火災検知器の処理動作について説明する。当該説明にあっては、火災検知器の処理動作を示したフローチャートである
図8を参照する。また、説明する火災検知器の処理動作は、火災検知器12の検知器制御部48に設けられた火災判定部4810及び劣化予兆判定部4820による処理動作となる。尚、火災検知器の処理動作は、右眼火災検知部60Rにより取得した観測値に基づくものとして説明するが、左眼火災検知部60Lにより取得した観測値の場合も同様である。
【0144】
(h1.火災検知動作)
まず、火災検知器12の右眼火災検知部60に対応した検知エリアの火災による燃焼炎からの赤外線エネルギーを火災検知器12で検知した場合の火災検知動作について説明する。
【0145】
図8に示すように、検知器制御部48の火災判定部4810は、所定期間に右眼火災検知部60Rから出力された所定数のデジタル受光値を取得してメモリに記憶し、メモリに記憶されたデジタル受光値の積分により3波長の観測値として、加算炎観測値ΣD0、個別炎観測値ΣD1、個別炎観測値ΣD2、非炎観測値ΣD3及び非炎観測値ΣD4を取得する(ステップS1~S2)。
【0146】
続いて、火災判定部4810は、取得した3波長の観測値が判定条件を充足したか、即ち「e1.第1炎候補の判定」で前述した第1手順~第3手順の、加算炎観測値ΣD0が所定の閾値以上とする判定条件、比率(ΣD0/ΣD3)が所定の閾値以上とする判定条件及び比率(ΣD0/ΣD4)が所定の閾値以上とする判定条件を充足したかを判定する(ステップS3)。
【0147】
続いて、火災判定部4810は、3波長の観測値が判定条件を充足した場合には、区間比率(ΣD1/ΣD2)が一致条件を充足したか、即ち「e1.第1炎候補の判定」で前述した第4手順の、個別炎観測値ΣD1,ΣD2が所定の一致条件を充足したかを判定し、区間比率が一致条件を充足した場合には、第1炎候補と判定して第1炎候補の判定結果を蓄積する(ステップS4~S5)。
【0148】
続いて、火災判定部4810は、第1炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足したかを判定し、蓄積条件の充足を判定した場合には、メモリに記憶されている加算炎観測値D0を高速フーリエ変換して周波数解析結果を取得し、取得した周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足したかを判定し、周波数解析結果が判定条件を充足した場合には、第2炎候補と判定して第2炎候補の判定結果を蓄積する(ステップS6~S8)。
【0149】
続いて、火災判定部4810は、第2炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足したかを判定し、蓄積条件の充足を判定した場合には、火災を検知して火災検知信号を防災受信盤10へ送信し、所定の火災警報動作とトンネル防災設備の連動動作を行わせる(ステップS9~S10)。
【0150】
また、ステップS1で所定数のデジタル受光値を取得していない場合、ステップS3で3波長の観測値が判定条件を充足しない場合、ステップS6で第1炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足しない場合及びステップS9で第2炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足しない場合については、処理がステップS1前に戻る。
【0151】
また、ステップS4で区間比率が一致条件を充足しない場合及びステップS7で周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しない場合には、次に説明する劣化予兆判定の処理に進む。
【0152】
(h2.劣化予兆判定動作)
次に、前述した火災検知動作に伴う劣化予兆判定動作について説明する。
【0153】
前述したように、火災判定部4810で火災検知動作(ステップS1~S10)が行われている際に、ステップS4で区間比率(ΣD1/ΣD2)が一致条件を充足しなかった場合には、劣化予兆判定部4820は、第1非炎候補と判定して第1非炎候補の判定結果を蓄積する。尚、第1非災候補の蓄積は所定時間ごとにリセットされる。(ステップS4、S11~S12)。
【0154】
続いて、劣化予兆判定部4820は、第1非炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足したかを判定し、蓄積条件の充足を判定した場合には、劣化予兆候補と判定して劣化予兆候補の判定結果を蓄積する(ステップS13~S14)。一方、ステップS13で第1非炎候補の蓄積回数が蓄積条件を充足していない場合には、処理がステップS1前に戻る。
【0155】
また、火災判定部4810で火災検知動作(ステップS1~S10)が行われている際に、ステップS7で周波数解析結果が第2炎候補判定条件を充足しなかった場合には、劣化予兆判定部4820は、第2非炎候補と判定して第2非炎候補(右眼の単独非炎候補)の判定結果を蓄積する。尚、第2非災候補の蓄積は所定時間ごとにリセットされる。(ステップS7、S19~S20)。一方、ステップS21で第2非炎候補の蓄積回数が蓄積条件を充足していない場合には、処理がステップS1前に戻る。なお、左眼の単独非炎候補の判定についても同様に行う。
【0156】
続いて、劣化予兆判定部4820は、第2非炎候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足したかを判定し、蓄積条件の充足を判定した場合には、外部振動による誤判定、即ち「f4.外部振動による劣化予兆誤判定の防止」で前述した右眼の単独非炎候補(右眼火災検知部60Rに起因した第2非炎候補)と左眼の単独非炎候補(左眼火災検知部60Lに起因した第2非炎候補)の双方に基づく同時非炎候補の蓄積回数N2に対する右眼の単独非炎候補の蓄積回数N1の比率(N1/N2)が所定の比率判定条件を充足したかを判定し、外部振動による誤判定ではない(比率が所定の比率判定条件を充足した)と判定した場合には、劣化予兆候補と判定して劣化予兆候補の判定結果を蓄積する(ステップS21~S22、S14)。一方、ステップS22で外部振動による誤判定と判定した場合には、劣化予兆候補を蓄積することなく、処理がステップS1前に戻る。
【0157】
そして、劣化予兆判定部4820は、劣化予兆候補と判定した蓄積回数が所定の蓄積条件を充足したかを判定し、蓄積条件の充足を判定した場合には、劣化予兆と判定し、防災受信盤10から所定のタイミングで送信される試験指示を検出した場合に、その応答タイミングで劣化予兆を示す劣化予兆信号を防災受信盤10へ送信し、所定の警報動作を行わせる(ステップS15~S18)。一方、ステップS15で蓄積条件が充足しない場合及びステップS17で試験指示を検出しない場合には、処理がステップS1前に戻る。劣化予兆の判定は左眼、右眼それぞれについて行われ、また劣化予兆信号も左眼、右眼それぞれについて出力される。
【0158】
尚、劣化予兆信号の送信は、防災受信盤10からの試験指示に関係なく、ステップS15で蓄積条件の充足を判定した場合に行なうようにしても良い。
【0159】
また、ステップS22の外部振動による誤判定は、外部振動による影響を受ける頻度が極めて低いことから、ステップS22の処理を行うことなく、ステップS21で第2非炎候補の蓄積回数が蓄積条件を充足した場合に、劣化予兆候補と判定して劣化予兆候補の判定結果を蓄積するようにしても良い。
【0160】
[i.防災受信盤の動作]
続いて、防災受信盤の動作について説明する。
【0161】
防災受信盤10は火災検知器12から劣化予兆信号を受信した場合に、所定の警報動作として、例えば劣化予兆表示を行う。防災受信盤10は、劣化予兆表示として、例えば表示部40のディスプレイの画面上に劣化予兆を判定した火災検知器を特定可能な情報(検知器アドレス等)と共に劣化予兆を判定した旨を表示する。
【0162】
また、劣化予兆を判定した火災検知器12への対応が完了した場合には、対応完了したことを防災受信盤10の操作により入力できるようにしても良く、対応完了したことが入力された場合には劣化予兆表示から当該火災検知器が自動的に削除されるようにしても良い。
【0163】
また、防災受信盤10は、火災検知器12から劣化予兆信号を受信した場合に、劣化予兆の履歴情報を生成して記憶し、劣化予兆について履歴表示を可能としている。防災受信盤10は、履歴表示として、例えば劣化予兆だけではなく、その他火災、障害等を含めた履歴一覧の表示を可能とする。また、履歴一覧は、全ての状態を表示可能とするのではなく、劣化予兆のみ等の履歴の表示や障害と劣化予兆の履歴の表示等のように任意の状態について表示可能とするものであっても良く、何れかの状態を表示するかを操作により切り替えられるものであっても良い。
【0164】
また、劣化予兆表示や履歴表示は、その状態の特定の火災検知器10について一覧表示されるようにしても良い。当該一覧表示は、例えばアドレス順や判定順に並べられるようにしても良く、その一覧順序を切り替えられるようにしても良い。
【0165】
また、防災受信盤10は、各火災検知器の現在の状態情報を表示してもよい。状態情報の表示として、例えば各火災検知器をアイコンとして並べて表示して、アイコン表示は火災検知器の状態に応じて変更されるものであり、例えば通常時は白色アイコンとし、火災検知時は赤色アイコンとし、故障時(感度異常、汚れ異常等)は黄色アイコンとし、劣化予兆時は橙色アイコンとするように変化させる。また、1つの火災検知器において表示すべき情報が重複した場合には、例えば優先順位が(火災検知時)→(故障時)→(劣化予兆時)→(通常時)の順に優先順位が低くなるように設定して表示を行うようにしても良く、アイコンを分割して表示すべき情報の色を全て表示するようにしても良い。
【0166】
また、防災受信盤10は、火災検知器12から火災検知信号を受信した場合には、所定の火災警報動作として、例えば火災発生を表示する。防災受信盤10は、火災発生を表示する際に、火災検知信号を受信した火災検知器12から別途劣化予兆信号を受信していた場合には、当該火災検知器12が劣化予兆を判定していた旨を示す表示を行うようにしても良い。
【0167】
[j.本発明の変形例]
本発明による火災検知器及びトンネル防災システムの変形例について説明する。本発明の火災検知器及びトンネル防災システムは、上記の実施形態以外に、以下の変形を含むものである。
【0168】
(火災検知器)
上記の実施形態は3波長方式の火災検知器を例にとっているが、他の方式でも良く、例えば、4.5μmを中心波長とする波長帯の受光信号と、5.0μmを中心波長とする波長帯の受光信号に基づいて火災を検知すると共に劣化予兆を判定する2波長方式の火災検知器としてもよい。
【0169】
(区間比率の判定)
上記の実施形態では、2組の受光素子部62R、62Lによる燃焼炎からの放射線エネルギーの受光に対応して得られたデジタル受光値を積分した個別炎観測値ΣD1,ΣD2が所定の一致条件を充足することを第1炎候補と判定するための1つの条件としているが、これに限定されず、デジタル受光値の区間を複数区間、例えば、前区間、中区間、後区間に分け、各区間を積分した個別炎観測値(ΣD11,ΣD12)、(ΣD21,ΣD22)、(ΣD31,ΣD32)の区間比率R1=(ΣD11/ΣD12)、R2=(ΣD21/ΣD22)、R3=(ΣD31/ΣD32)の全てが所定の一致条件を充足することを第1炎候補と判定するための条件としても良く、区間比率R1~R3の全てが条件を充足しない場合には第1非炎候補と判定することで、区間比率の判定精度を更に高めるようにしてもよい。
【0170】
そして、区間比率R1~R3の一致条件として、例えば、
所定値A≦R1≦所定値B
所定値A≦R2≦所定値B
所定値A≦R3≦所定値B
といった条件や、
所定値A・R1≦R2≦所定値B・R1
所定値A・R1≦R3≦所定値B・R1
といった条件としてもよい。尚、所定値Aは1以下の所定値とし、所定値Bは1以上の所定値とする。
【0171】
(その他)
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0172】
1a:上り線トンネル
1b:下り線トンネル
10:防災受信盤
12:火災検知器
1210:筐体
14,14a,14b:伝送路
16:消火ポンプ設備
18:冷却ポンプ設備
20:IG子局設備
22:換気設備
24:警報表示板設備
26:ラジオ再放送設備
28:テレビ監視設備
30:照明設備
32:遠方監視制御設備
34:盤制御部
36,36a,36b:伝送部
38:警報部
40:表示部
42:操作部
44:モデム
46:IO部
48:検知器制御部
4810:火災判定部
4820:劣化予兆判定部
4830:試験制御部
50:伝送部
52:電源部
54:試験電源部
56:試験発光駆動部
60R,60L:火災検知部
62R,62L,64R,64L,66R,66L:受光素子部
68R,68L:4.5μm受光処理部
70R,70L:5.0μm受光処理部
72R,72L:2.3μm受光処理部
74R,74L,76R,76L,78R,78L:光学波長フィルタ
80R,80L:透光性窓
81R,81L:試験光源用透光窓
82R,82L:内部試験光源
84R,84L:外部試験光源
86,96,104:前置フィルタ
88,98,106:プリアンプ
90,100,108:メインアンプ
92,102,110:終段アンプ
94:加算器
112,114,116,118,120:A/D変換ポート