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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025087219
(43)【公開日】2025-06-10
(54)【発明の名称】溶接部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/14 20060101AFI20250603BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20250603BHJP
   B23K 11/00 20060101ALN20250603BHJP
【FI】
B23K11/14
B62D25/04 Z
B23K11/00 570
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023201722
(22)【出願日】2023-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB54
3D203BB55
3D203CA65
3D203CA82
3D203CA84
3D203CB04
3D203CB32
(57)【要約】
【課題】取扱性に優れながらも溶接対象であるピラーの防錆性を向上させることができる溶接部材を提供する。
【解決手段】溶接部材1は、所定のパネル111に近い下側、所定のパネル111から遠い上側を有して所定のパネル111にプロジェクション溶接するための溶接部材である。溶接部材1は、本体部3と、本体部3から突出して所定のパネル111と接触すると本体部3と所定のパネル111とを非接触に隔てるための複数の突起部5と、本体部3の上端3aおよび下端3bから間隔を空けて、少なくとも本体部3の外側面の一部を覆うように設けられた外側発泡材7と、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパネルに近い下側、前記所定のパネルから遠い上側を有して前記所定のパネルにプロジェクション溶接するための溶接部材であって、
本体部と、
前記本体部から突出して前記所定のパネルと接触すると前記本体部と前記所定のパネルとを非接触に隔てるための複数の突起部と、
前記本体部の上端および下端から間隔を空けて、少なくとも前記本体部の外側面の一部を覆うように設けられた外側発泡材と、を備える溶接部材。
【請求項2】
前記本体部は、上下方向に貫通する第1貫通孔を有し、
前記第1貫通孔の上端および下端から間隔を空けて前記第1貫通孔の内周面の一部を覆い、かつ、前記上下方向に貫通する第2貫通孔を有する内側発泡材を備える請求項1に記載の溶接部材。
【請求項3】
それぞれの前記突起部は、前記本体部の前記外側面よりも前記本体部の外側に突出して一部が前記外側発泡材に覆われている突出部を含む請求項1に記載の溶接部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、溶接部材に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡材料を中空構造体に取り付けることができる中空構造体用発泡部材が知られている。この中空構造体用発泡部材は、中空構造体の内部空間を充填する発泡体を形成するための発泡部材である。中空構造体用発泡部材は、発泡体を形成するための発泡材料と、発泡材料に装着され、中空構造体に溶接可能な溶接片とを備えている。中空構造体はピラーである。発泡材料に装着された溶接片は、ピラーのインナーパネルにスポット溶接される。したがって、溶接片とインナーパネルとの合わせ面の大部分、つまり溶接されていない部分は、微少な隅間を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-340857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、中空構造体用発泡部材を固定したピラーに防錆処理を実施した場合に、スポット溶接された溶接片とインナーパネルとの合わせ面の微少な隙間は、防錆剤が入り込めずに防錆未処理部となる。ピラーの内部には、発泡材料が充填されていても水が進入する場合がある。この場合に、ピラーの内部に留まった雨水や洗車時の水は、毛細管現象によって合わせ面の微小な隙間に入り込む。そのため、防錆未処理部となった合わせ面から腐食が進行する虞がある。なお、防錆処理は、例えば、電着塗装における電着処理である。また、防錆剤とは、例えば、電着塗料である。
【0005】
また、発泡材料に対して溶接片が大型であるため、インナーパネルに対しての溶接片の位置決めが困難となる。そのため、事実上、中空構造体用発泡部材は、適用部位が限定されるだけでなく、溶接片の大きさに起因して取扱性が低下する。
【0006】
そこで、本発明は、取扱性に優れながらも溶接対象であるピラーの防錆性を向上させることができる溶接部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため本発明の実施形態に係る溶接部材は、所定のパネルに近い下側、前記所定のパネルから遠い上側を有して前記所定のパネルにプロジェクション溶接するための溶接部材であって、本体部から突出して前記所定のパネルと接触すると前記本体部と前記所定のパネルとを非接触に隔てるための複数の突起部と、前記本体部の上端および下端から間隔を空けて、少なくとも前記本体部の外側面の一部を覆うように設けられた外側発泡材と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、取扱性に優れながらも溶接対象であるピラーの防錆性を向上させることができる溶接部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る溶接部材が適用される車両構造体の一例を示す概略図。
図2】(A)本発明の実施形態に係る溶接部材の斜視図、(B)本発明の実施形態に係る溶接部材の正面図。
図3】(A)本発明の実施形態に係る溶接部材の本体部および複数の突起部の拡大斜視図、(B)本発明の実施形態に係る溶接部材の本体部および複数の突起部の拡大正面図。
図4】本発明の実施形態に係る溶接部材をプロジェクション溶接する際の概略図。
図5】本発明の実施形態に係る溶接部材のプロジェクション溶接された状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る溶接部材について、図1から図5を参照して説明する。なお、複数の図面中の、同じまたは相当する構成には同一の符号が付されている。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接部材が適用される車両構造体100の一例を示す概略図である。なお図1において、車両構造体100は、車室内から視認して右側の車両構造体である。また、図1において、矢印Xは、車両の前後方向を示している。矢印Xで示される車両の前後方向を、以下、単に前後方向Xと称する場合がある。
【0012】
図1に示すように、車両構造体100は、車体を構成する骨格部材である。車両構造体100は、車両の室内の前方に設けられているフロントピラー101と、車両の室内の中央に設けられているセンターピラー103と、を備えている。
【0013】
フロントピラー101およびセンターピラー103はそれぞれ、アウターパネル(図示省略)と、インナーパネル(図示省略)と、を備えている。フロントピラー101およびセンターピラー103は、アウターパネルとインナーパネルとを接合して成る閉断面構造を有する閉断面構造体である。
【0014】
閉断面構造体であるフロントピラー101およびセンターピラー103のそれぞれの内部空間には、車両の静粛性を向上させる観点から、発泡体(図示省略)が充填される。充填された発泡体は、フロントピラー101およびセンターピラー103を透過する透過音を低減し、車両の静粛性を向上させる。
【0015】
ところで、ピラーの内部に発泡体を充填させるために、発泡体を加熱発泡させる前の状態である発泡材料と、発泡材料に装着され、ピラーのインナーパネルにスポット溶接可能な溶接片と、を備える中空構造体用発泡部材を用いることが考えられる。
【0016】
しかしながら、この中空構造体用発泡部材を固定したピラーに防錆処理を実施した場合に、スポット溶接された溶接片とピラーのインナーパネルとの合わせ面に生じる微少な隙間は、防錆剤が入り込めずに防錆未処理部となる。この防錆未処理部に水が毛細管現象により入り込むことで、防錆未処理部となった合わせ面から腐食が進行する虞がある。また、発泡材料に対して溶接片が大型であるため、インナーパネルに対しての溶接片の位置決めが困難となり、中空構造体用発泡部材の取扱性が低下する。
【0017】
図2(A)は、本発明の実施形態に係る溶接部材1の斜視図であり、図2(B)は、本発明の実施形態に係る溶接部材1の正面図である。
【0018】
図3(A)は、本発明の実施形態に係る溶接部材1の本体部3および複数の突起部5の拡大斜視図であり、図3(B)は、本発明の実施形態に係る溶接部材1の本体部3および複数の突起部5の拡大正面図である。
【0019】
図4は、本発明の実施形態に係る溶接部材1をプロジェクション溶接する際の概略図である。
【0020】
図5は、本発明の実施形態に係る溶接部材1のプロジェクション溶接された状態を示す図である。
【0021】
図2から図5に示すように、本実施形態に係る溶接部材1は、所定のパネル111に近い下側、所定のパネル111から遠い上側を有して所定のパネル111にプロジェクション溶接するための溶接部材である。そして、溶接部材1は、本体部3と、本体部3から突出して所定のパネル111と接触すると本体部3と所定のパネル111とを非接触に隔てるための複数の突起部5と、本体部3の上端3aおよび下端3bから間隔を空けて、少なくとも本体部3の外側面の一部を覆うように設けられた外側発泡材7と、を備えている。
【0022】
なお、所定のパネル111とは、例えば、図1に示すフロントピラー101およびセンターピラー103等のピラーのアウターパネルおよびインナーパネルの少なくとも一方のパネルである。つまり、溶接部材1は、ピラーの内部壁面に溶接される。また、溶接部材1の上側と下側との区別、および上下の方向の区別は、所定のパネル111に溶接部材1が接合された状態を基準として所定のパネル111に近い方を溶接部材1の下側、所定のパネル111から遠い方を溶接部材1の上側、所定のパネル111から遠ざかったり近づいたりする方向を溶接部材1の上下方向と称する。つまり、突起部5の突出端が溶接部材1の最下端に相当し、突起部5の突出端から最も遠い本体部3の頂部が溶接部材1の最上端に相当する。本実施形態では、本体部3の頂部は、実質的に本体部3の上端3aである。
【0023】
溶接部材1は、アウターパネルおよびインナーパネルの少なくとも一方のパネルである所定のパネル111にプロジェクション溶接されることで、ピラーの内部空間を充填する発泡体の発泡前の部材である外側発泡材7をピラーの内部壁面に容易に設けることを可能にする。溶接部材1が溶接されたピラーを備えた車両構造体100は、車両構造体100全体に防錆性を確保する電着塗膜を形成するために電着塗装される。電着塗装された車両構造体100は、形成された電着塗膜を硬化させて電着塗装膜とするために、電着塗装の後に加熱炉において加熱される。このとき、ピラーに溶接された溶接部材1の外側発泡材7は、加熱発泡して、ピラーの内部空間を充填する発泡体となる。
【0024】
なお、これより後、特段の断りがない限り、「電着塗装」との表現は、溶接部材1がプロジェクション溶接されたピラーを備えた車両構造体100へ電着塗膜を形成するための電着塗装を意味する。「電着塗装膜」との表現は、加熱によって硬化した電着塗膜を意味する。
【0025】
本体部3は、溶接部材1を所定のパネル111に接触させた場合に、所定のパネル111に近い下端3bと、所定のパネル111から遠い上端3aと、を有する部材である。本体部3は、その外側面に外側発泡材7を保持している。図2(B)の例では、本体部3の上端3aと外側発泡材7の上端7aとは、間隔D1だけ空いており、本体部3の下端3bと外側発泡材7の下端7bとは、間隔D2だけ空いている。本体部3の材質は、金属である。本体部3の外形形状は、平面視で、例えば、略四角形状、略三角形状、略円形状、略楕円形状、または、略五角形状以上の略多角形状である。
【0026】
本体部3の上端3aは、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する際に、プロジェクション溶接装置(図示省略)の上側電極121と接触して通電される。本体部3の下端3bは、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する前には、所定のパネル111から間隔D3だけ離隔し、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接した後には、所定のパネル111から間隔D3′だけ離隔する。
【0027】
また、本体部3は、上下方向に貫通する第1貫通孔11を有していても良い。電着塗装する際に、電着塗料が第1貫通孔11を流通する。そのため、電着塗料は、ピラー内部の溶接部材1の周辺で過度に滞留することがなく流れる。
【0028】
第1貫通孔11は、通常、本体部3の中心に設けられている。第1貫通孔11の形状は、平面視で、例えば、略円形状、略楕円形状、または、略三角形状以上の略多角形状である。
【0029】
複数の突起部5は、外側発泡材7を保持する本体部3を支持する。複数の突起部5の数は、本体部3を支持できれば特に限定されないが、通常、3本以上である。図3(A)の例では、4本である。複数の突起部5は、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する際に、複数の突起部5の一部が溶けて、所定のパネル111と一体化される(図5を参照)。つまり、所定のパネル111と接触する複数の突起部5の下端が、プロジェクション溶接によって溶けて、溶接部材1と所定のパネル111とを接合させる。
【0030】
複数の突起部5は、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する前のみならず、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接した後であっても、本体部3と所定のパネル111とを非接触に隔てる。これにより、本体部3の下端3bは、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する前には、所定のパネル111から間隔D3だけ離隔し、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接した後には、所定のパネル111から間隔D3′だけ離隔する。本体部3の下端3bが、所定のパネル111から間隔D3′だけ離隔することで、電着塗装した場合に、本体部3の下端3bと所定のパネル111との間にも、電着塗料が入り込み、電着塗膜を形成する。
【0031】
なお、一般に、溶接ナットを板材にプロジェクション溶接した場合には、接合強度を確保するために、本体部3に相当する溶接ナットのナット部の下端と、所定のパネル111に相当する板材とは合わせ面となる。この合わせ面は、電着塗料は入り込めないが、水は入り込める微小な隙間を有する。一方、本実施形態に係る溶接部材1では、プロジェクション溶接後であっても、本体部3の下端3bは、所定のパネル111に非接触となって、所定のパネル111から間隔D3′だけ離隔する。溶接部材1は、本体部3の下端3bが所定のパネル111から間隔D3′だけ離隔していても、外側発泡材7を、所定のパネル111に固定するのに十分な強度を有する。
【0032】
複数の突起部5の下端は、溶接部材1を所定のパネル111にプロジェクション溶接する際に、所定のパネル111を介して、電流を流すプロジェクション溶接装置の下側電極123と通電する。つまり、複数の突起部5は、電流が流れる経路となる。プロジェクション溶接を好適に実施する観点から、複数の突起部5、本体部3、および、溶接部材1が溶接される所定のパネル111の材質は、通常、同じ種類の金属である。金属の種類は、例えば、鋼鉄またはアルミニウム(アルミニウム合金を含む)である。
【0033】
複数の突起部5は、通常、本体部3と一体に成型される。一体に成型された本体部3および複数の突起部5は、例えば、プロジェクション溶接用の溶接ナットまたはプロジェクション溶接に対応した所定のスタッドボルトと同様の部材と見なしても良い。この場合に、溶接部材1は、一体に成型された本体部3および複数の突起部5に代えて、市販の溶接ナットまたは所定のスタッドボルトを用いることができる。
【0034】
外側発泡材7は、加熱されることで発泡して発泡体となる。外側発泡材7は、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、加熱分解型の発泡剤と、を混練した樹脂に由来した部材である。外側発泡材7の発泡倍率は、熱可塑性樹脂の種類および配合量、ならびに、発泡材の種類および配合量にもよるが、例えば、2倍から30倍程度である。
【0035】
熱可塑性樹脂の溶融温度は、例えば、摂氏100度から摂氏120度である。また、加熱分解型の発泡剤は、例えば、発泡条件として摂氏150度で20分間加熱されると、発泡する。
【0036】
外側発泡材7は、上下方向に厚さ(高さ)を有する固形物である。外側発泡材7の外形形状は、平面視で、例えば、略四角形状、略三角形状、略円形状、略楕円形状、または、略五角形状以上の略多角形状である。
【0037】
外側発泡材7は、本体部3の上端3aから下方へ間隔D1だけ離隔して本体部3に設けられている。そのため、絶縁体である外側発泡材7は、プロジェクション溶接装置の上側電極121と本体部3の上端3aとの接触を阻害することなく、プロジェクション溶接装置の上側電極121と本体部3の上端3aとを通電可能とする。
【0038】
また、外側発泡材7は、本体部3の下端3bから上方へ間隔D2だけ離隔して本体部3に設けられている。さらに、外側発泡材7は、複数の突起部5の下端から上方へ間隔D4だけ離隔して本体部3に設けられている。そのため、溶接部材1が所定のパネル111にプロジェクション溶接された場合であっても、外側発泡材7は、所定のパネル111から間隔D4′だけ離隔して、所定のパネル111に対して非接触に隔てられた状態を維持する。したがって、電着塗装する際に、外側発泡材7の下端7bに対向したピラーの内部壁面にも電着塗料が行き渡たる。換言すると、外側発泡材7に阻害されることなく、ピラーの内部壁面は、電着塗膜を有する。
【0039】
外側発泡材7は、例えば、公知のインサート成型法を用いて形成することができる。具体的には、一体となっている本体部3および突起部5を、射出成型機の金型の中に配置する。次いで、外側発泡材7の原材料である、熱可塑性樹脂と発泡剤とを混練した樹脂を、溶融させた状態で金型の中に充填させ硬化させる。そうすることで、外側発泡材7は、少なくとも本体部3の外側面の一部を覆うように形成される。なお、インサート成型時に、外側発泡材7の原材料である、熱可塑性樹脂と発泡剤とを混練した樹脂は溶融されるが、この溶融温度は、発泡剤の発泡条件となる温度よりも低く、発泡剤の不用意な発泡を抑制する。
【0040】
また、溶接部材1は、第1貫通孔11の上端および下端から間隔を空けて第1貫通孔11の内周面の一部を覆い、かつ、上下方向に貫通する第2貫通孔21を有する内側発泡材13を備えていることが好ましい。第2貫通孔21は、通常、内側発泡材13の中心に設けられている。第2貫通孔21の形状は、平面視で、例えば、略円形状、略楕円形状、または、略三角形状以上の略多角形状である。
【0041】
内側発泡材13は、外側発泡材7と同様に、加熱されることで発泡して発泡体となる。内側発泡材13は、外側発泡材7と同様の、ベース樹脂としての熱可塑性樹脂と、加熱分解型の発泡剤と、を混練した樹脂に由来した部材である。内側発泡材13は、例えば、公知のインサート成型法を用いて、外側発泡材7とともに、本体部3に設けることができる。
【0042】
内側発泡材13は、上下方向に厚さ(高さ)を有する固形物である。内側発泡材13の外径形状は、本体部3の第1貫通孔11の形状に倣う形状であり、平面視で、例えば、略円形状、略楕円形状、または、略三角形状以上の略多角形状である。
【0043】
内側発泡材13は、加熱後には、溶接部材1の第1貫通孔11の内部を充填する。つまり、内側発泡材13は、ピラー内部において、外側発泡材7だけでは充填が困難な領域も充填する。さらに、内側発泡材13の第2貫通孔21は、電着塗装において、電着塗料を流通可能とする。つまり、第2貫通孔21は、内側発泡材13の周辺での電着塗料の滞留を防いで電着付き回りを改善する。
【0044】
内側発泡材13は、第1貫通孔11の上端から下方へ間隔を空けて第1貫通孔11の内周面の一部を覆っている。そのため、絶縁体である内側発泡材13は、プロジェクション溶接装置の上側電極121と本体部3の上端3aとの接触を邪魔することなく、プロジェクション溶接装置の上側電極121と本体部3の上端3aとを通電可能とする。
【0045】
内側発泡材13は、第1貫通孔11の下端から上方へ間隔を空けて第1貫通孔11の内周面の一部を覆っている。そのため、溶接部材1が所定のパネル111にプロジェクション溶接された場合であっても、内側発泡材13は、所定のパネル111に対して非接触に隔てられた状態を維持する。したがって、電着塗装する際に、内側発泡材13の下端に対向したピラーの内部壁面にも電着塗料が行き渡たる。換言すると、内側発泡材13に阻害されることなく、ピラーの内部壁面は、電着塗膜を有する。
【0046】
ところで、外側発泡材7は、溶接部材1が所定のパネル111にプロジェクション溶接された後に、所定のパネル111の運搬時および組み立て時に、衝撃を受けることで、本体部3の下端3bの方へずれることが起こり得る。外側発泡材7が、本体部3の下端3bの方へ過度にずれると、外側発泡材7の下端7bと、所定のパネル111との間隔が過度に狭くなり、電着塗装時に、電着塗料が、流れ込めずに、所定のパネル111に電着塗膜を形成されない虞がある。
【0047】
そこで、それぞれの突起部5は、本体部3の外側面よりも本体部3の外側に突出して一部が外側発泡材7に覆われている突出部5aを含んでいることが好ましい。突出部5aは、外側発泡材7を支持する。そうすることで、外側発泡材7が衝撃を受けた場合に、突出部5aは、外側発泡材7が本体部3の下端3bの方へずれるのを防ぐ。したがって、外側発泡材7の下端7bと、所定のパネル111との間隔が過度に狭くならずに、電着塗装時に、外側発泡材7の下端7bと対向する所定のパネル111の面にも電着塗膜が形成される。
【0048】
以上で説明したように、本実施形態に係る溶接部材1は、所定のパネル111に近い下側、所定のパネル111から遠い上側を有して所定のパネル111にプロジェクション溶接するための溶接部材である。そして、溶接部材1は、本体部3と、本体部3から突出して所定のパネル111と接触すると本体部3と所定のパネル111とを非接触に隔てるための複数の突起部5と、本体部3の上端3aおよび下端3bから間隔を空けて、少なくとも本体部3の外側面の一部を覆うように設けられた外側発泡材7と、を備えている。
【0049】
そのため、溶接部材1は、絶縁体である外側発泡材7に阻害されることなく本体部3の上端3aと下端3bとの間で通電可能であって、プロジェクション溶接を容易に適用できる。しかも、一体に形成された本体部3および突起部5は、比較的小型である。そのため、溶接部材1は、プロジェクション溶接を用いた溶接ナットの取り付け工程と同様に自動で、ピラーのように比較的小さな内部空間を形成するピラーのパネルへの溶接に適用できる。換言すると、溶接部材1は、溶接対象となる所定のパネル111に必要とされる溶接用平面のサイズを小さくして、適用箇所の自由度を高めることができる。したがって、溶接部材1は、優れた取扱性を有することができる。
【0050】
また、溶接部材1は、本体部3の下端3bから間隔D2だけ空けて外側発泡材7を設けることで、電着塗装時に、外側発泡材7の下端7bが所定のパネル111に間隔D2よりも大きな間隔となる間隔D4′だけ離隔して非接触となる。そのため、溶接部材1は、電着塗料を外側発泡材7の下端7bと対向する所定のパネル111の面にも十分に行き渡らせて、電着塗膜を形成することできる。さらに言えば、溶接部材1は、所定のパネル111にプロジェクション溶接された後であっても、複数の突起部5によって、本体部3と所定のパネル111とを間隔D3′だけ空けて非接触に隔てるため、本体部3の下端3bと、本体部3の下端3bと対向する所定のパネル111の部位との間に生じる隙間にも、電着塗料を入り込ませて、所定のパネル111に電着塗膜を形成することできる。したがって、溶接部材1は、溶接対象であるピラーの防錆性を向上させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態に係る溶接部材1は、第1貫通孔11の上端および下端から間隔を空けて第1貫通孔11の内周面の一部を覆い、かつ、上下方向に貫通する第2貫通孔21を有する内側発泡材13を備えている。そのため、溶接部材1は、本体部3の内側にも内側発泡材13を設けて発泡材量を増やすことで、溶接部材1が設けられたピラー内部の空間をより一層充填することができる。さらに、溶接部材1は、電着塗装において、電着塗料を第2貫通孔21に流通させて、内側発泡材13が第2貫通孔21を有していない場合と比して、ピラー内部での電着塗料の滞留を防いで電着塗料の付き回り性を改善することができる。
【0052】
さらに、本実施形態に係る溶接部材1は、それぞれが、本体部3の外側面よりも本体部3の外側に突出し、かつ、一部が外側発泡材7に覆われている突出部5aを含む複数の突起部5を備えている。そのため、溶接部材1は、所定のパネル111にプロジェクション溶接された後、外側発泡材7が所定のパネル111側にずれるのを防ぐことができる。換言すると、溶接部材1は、外側発泡材7の下端7bと対向する所定のパネル111の部位に、電着塗装において、外側発泡材7により電着塗膜の形成が阻害されるのを回避することができる。
【0053】
したがって、本実施形態に係る溶接部材1によれば、取扱性に優れながらも、溶接対象であるピラーの防錆性を向上させることができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…溶接部材、3…本体部、3a、7a…上端、3b、7b…下端、5…突起部、5a…突出部、7…外側発泡材、11…第1貫通孔、13…内側発泡材、21…第2貫通孔、100…車両構造体、101…フロントピラー、103…センターピラー、111…パネル、121…上側電極、123…下側電極、D1、D2、D3、D3′、D4、D4′…間隔、X…矢印(前後方向)。
図1
図2
図3
図4
図5