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  • 特開-合成皮革 図1
  • 特開-合成皮革 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008726
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
D06N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111149
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】松村 平
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA10
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA12
4F055EA04
4F055EA08
4F055FA15
4F055FA40
4F055GA02
4F055GA13
4F055GA32
(57)【要約】
【課題】例えば、センサ用材料やモニタリング用材料として利用可能な合成皮革を提供する。
【解決手段】少なくとも基材10、接着層20、及び表皮層30を積層してなる合成皮革1であって、基材10、接着層20、及び表皮層30は、それぞれ導電性を有しており、厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率R1が、1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であり、基材10における体積抵抗率R2が、全体の体積抵抗率R1より小さくなるように設定されている合成皮革1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材、接着層、及び表皮層を積層してなる合成皮革であって、
前記基材、前記接着層、及び前記表皮層は、それぞれ導電性を有しており、
厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率が、1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であり、
前記基材における体積抵抗率が、前記全体の体積抵抗率より小さくなるように設定されている合成皮革。
【請求項2】
前記基材における体積抵抗率が、1.0×10-2~1.0×10(Ω・m)である請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記基材は、金属を含有する繊維質基材である請求項1又は2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記接着層、及び/又は前記表皮層は、金属微粒子を含有する樹脂フィルムである請求項1又は2に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記樹脂フィルムは、前記金属微粒子を15~75重量%含有する請求項4に記載の合成皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも基材、接着層、及び表皮層を積層してなる合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、外観に高級感があり、肌触りも良く、耐久性も高いため、例えば、電化製品の外装材、医療用寝具、一般家庭用寝具の表皮材等に使用されている。電化製品としては、パソコン、タブレット端末、携帯電話、ヘッドホン等が挙げられ、これらのケース、カバー等の表面に合成皮革が適用される。
【0003】
この種の合成皮革として、基材、接着層、及び表皮層が積層され、表皮層及び接着層が常温で固体の添加剤を含有し、基材が導電化処理された繊維を含有するものが提案されている(特許文献1参照)。当該合成皮革においては、表皮層における表面抵抗値が測定されており、また、常温で固体の添加剤として導電性の粒子を使用し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-72684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、合成皮革の表面に導電性を付与する(すなわち、当該表面に平行な方向に導通可能とする)ことにより、除電(すなわち、静電気を逃がすこと)を可能としている。
【0006】
ところで、合成皮革においては、除電機能の他にも、さらなる機能性を持たせることが望まれている。例えば、合成皮革の表面に平行な方向だけでなく、厚さ方向(表面に垂直な方向)にも導電性を付与することができれば、かかる三次元方向の導電性により、合成皮革を、例えば、タッチセンサ等のセンサ用材料や、モニタリング(監視)システム等のモニタリング用材料として利用することが可能となる。
【0007】
この点に関し、特許文献1を含め、従来の合成皮革においては、表面に平行な方向の導電性について検討されていたとしても、厚さ方向の導電性にまで検討されているものは見当たらない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、例えば、センサ用材料やモニタリング用材料として利用可能な合成皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは以下のとおり鋭意研究を行った。すなわち、合成皮革の全体の導電性を高めるためには、合成皮革の構成層のうち、少なくとも基材、接着層、及び表皮層が導電性を有する必要があると考え、合成皮革の一方の面と他方の面との間の導電性の指標となるパラメータについて検討した。ここで、厚さ方向の導電性を検討するうえで厚さは極めて重要な因子であるにもかかわらず、接地間抵抗値(例えば体積抵抗値)は厚さを考慮したパラメータではない。一方、体積抵抗率は厚さを考慮したパラメータである。そこで、かかる体積抵抗率を合成皮革の厚さ方向の導電性を表すパラメータとして採用し、合成皮革の全体の体積抵抗率を特定の範囲に設定するとともに、通常、他の層より厚い基材の体積抵抗率を全体の体積抵抗率より小さく設定することで、合成皮革の厚さ方向にも導電性を発現させ、これをコントロールし得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の合成皮革の特徴構成は、
少なくとも基材、接着層、及び表皮層を積層してなる合成皮革であって、
前記基材、前記接着層、及び前記表皮層は、それぞれ導電性を有しており、
厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率が、1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であり、
前記基材における体積抵抗率が、前記全体の体積抵抗率より小さくなるように設定されていることにある。
【0011】
本構成の合成皮革によれば、基材、接着層、及び表皮層がそれぞれ導電性を有し、厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率を上記範囲に設定することにより、表面と平行な方向だけではなく、厚さ方向においても導電性を発現させることができる。また、通常、基材は他の層より厚いため、当該基材の体積抵抗率が大きいと、合成皮革の導電性を低下させる傾向にある。しかし、基材における体積抵抗率を全体の体積抵抗率より小さくなるように設定することにより、基材の体積抵抗率を、表皮層及び接着層といった相対的に厚さが小さい層の体積抵抗率より小さくすることができるため、合成皮革の全体としての導電性を高めることができる。よって、本構成の合成皮革は、厚さ方向の導電性に優れたものとなり、センサ用材料やモニタリング用材料として利用可能なものとなる。
【0012】
本発明に係る合成皮革において、
前記基材における体積抵抗率が、1.0×10-2~1.0×10(Ω・m)であることが好ましい。
【0013】
本構成の合成皮革によれば、基材の体積抵抗率を上記範囲に設定することにより、合成皮革の全体の体積抵抗率を1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)に容易に設定することができる。その結果、本構成の合成皮革は、厚さ方向の導電性に優れたものとなる。
【0014】
本発明に係る合成皮革において、
前記基材は、金属を含有する繊維質基材であることが好ましい。
【0015】
本構成の合成皮革によれば、基材を、金属を含有する繊維質基材とすることにより、合成皮革の柔軟性及び可撓性を確保しつつ、導電性を付与することができる。
【0016】
本発明に係る合成皮革において、
前記接着層、及び/又は前記表皮層は、金属微粒子を含有する樹脂フィルムであることが好ましい。
【0017】
本構成の合成皮革によれば、接着層及び/又は表皮層を、金属微粒子を含有する樹脂フィルムとすることにより、合成皮革の強度を確保しつつ、導電性を付与することができる。
【0018】
本発明に係る合成皮革において、
前記樹脂フィルムは、前記金属微粒子を15~75重量%含有することが好ましい。
【0019】
本構成の合成皮革によれば、樹脂フィルムにおける金属微粒子の含有量を上記下限以上に設定することにより、合成皮革にセンサ用材料やモニタリング用材料として利用可能な導電性を付与することができる。また、上記含有量を上記上限以下とすることにより、合成皮革の強度、耐摩耗性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る合成皮革を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本実施形態に係る合成皮革の製造時において、合成皮革の表皮層に離型紙が積層された状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の合成皮革について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成や、後述する実施例に限定することを意図するものではない。なお、各図において、合成皮革の各層の実際のサイズ関係を厳密に再現したものではなく、説明容易化のため適宜誇張してある。また本明細書において、合成皮革における「表面」とは、合成皮革が被適用品の表面に設けられた際に、被適用品とは反対の側の外部に露出している面を意味する。
【0022】
<合成皮革>
図1は、本発明の一実施形態に係る合成皮革1の構造を模式的に示す断面図である。合成皮革1は、基材10、接着層20、及び表皮層30を積層してなるものである。ただし、合成皮革1は、追加の層を含むものであってもよい。追加の層としては、例えば、表皮層30の上に設けられる保護層(後述)が挙げられる。
【0023】
(基材)
基材10としては、繊維質基材又は樹脂フィルムを用いることができるが、何れも導電性を有するように構成される。以下、導電性を有する繊維質基材を「導電性繊維質基材」と称し、導電性を有する樹脂フィルムを「導電性樹脂フィルム」と称する場合がある。
【0024】
導電性繊維質基材とは、繊維質基材に金属を含有させたものである。この場合、繊維質基材としての物性が大きく損なわれないため、合成皮革1の柔軟性及び可撓性を確保しつつ、導電性を付与することができる。導電性繊維質基材の具体的態様としては、非導電性(導電性を有しない)繊維質基材を金属でメッキ処理したもの、繊維質基材を構成する糸条に金属微粒子を練り込んだもの、導電糸によって繊維質基材を構成したもの等が挙げられる。
【0025】
繊維質基材としては、天竺編、リブ編、パール編、スムース編といった編物、平織、綾織、朱子織といった織物、不織布等が挙げられる。また、繊維質基材を構成する繊維の素材は、特に限定されるものでなく、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維など、従来公知の繊維を挙げることができ、なかでも、耐熱性や耐光性などの点から、合成繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維がより好ましい。また、2種以上の繊維を組み合わせた混繊であってもよい。
【0026】
繊維質基材に対して行われる金属メッキ処理としては、乾式法、湿式法が挙げられる。乾式法としては、蒸着法、スパッタリング法等が挙げられ、湿式法としては、無電解メッキ法、電気メッキ法等が挙げられる。
【0027】
導電性繊維質基材は、上述した繊維質基材を構成する糸条の少なくとも一部が導電糸であればよい。導電糸としては、導電性ポリマーからなる糸、金属線、非導電糸が金属メッキ処理されてなる金属メッキ糸、非導電糸である芯糸に金属線を含む導電性鞘糸が巻回されたカバリング糸等が挙げられる。導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(p-フェニレン)等が挙げられる。非導電糸としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維等が挙げられる。
【0028】
導電性繊維質基材に含有される金属は、無電解メッキ処理及び電気メッキ処理により、繊維質基材の表面にて金属皮膜とされることが好ましい。この場合において、繊維質基材の表面にて最初に無電解メッキ処理で銅皮膜を形成した後、さらに無電解メッキ処理でニッケル皮膜を形成するといったように、多層構造の金属皮膜を形成することがより好ましい。なお、多層構造の金属皮膜を形成する場合、その積層順序は、特に限定されず、適宜設定し得る。金属の種類としては、アルミニウム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、クロム、マンガン、ケイ素、鉛、ビスマス、ホウ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、及びコバルト等の単体金属、並びにこれらの合金を用いることができ、これらのなかでも、銅又はニッケルを用いることが好ましい。金属は、上記単体金属及び合金を単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0029】
なお、導電性繊維質基材は、導電性を付与されたものであればよく、金属を含有する導電性繊維質基材の他、導電性カーボン、導電性セラミック等を含有する繊維質基材を用いてもよい。
【0030】
導電性繊維質基材における金属の含有量は、15~50重量%が好ましい。導電性繊維質基材における金属の含有量を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の柔軟性及び可撓性をより高めつつ合成皮革1にセンサとして利用可能な導電性をより十分に付与することができる。
【0031】
導電性樹脂フィルムとは、樹脂フィルム中に導電材が含有されてなるものである。樹脂フィルムの素材としては、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン(PU)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリレート、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。これらのうち、柔軟性、伸び、密着性等の点から、ポリウレタンが好ましい。
【0032】
導電材としては、上述した金属からなる金属微粒子(粉体)、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ、非金属粒子が金属でメッキ処理されてなるもの、導電性樹脂からなる有機微粒子等が挙げられる。これらのうち、導電材は、金属微粒子が好ましく、ニッケル微粒子がより好ましい。導電材として金属微粒子を採用することにより、合成皮革1の導電性をより高めることができる。
【0033】
導電材の平均粒子径は、1~10μmが好ましい。導電材の平均粒子径を上記下限以上に設定することにより、基材10中において導電材どうしが接触し易いサイズとなるため、合成皮革1の導電性をより高めることができる。上記平均粒子径を上記上限以下に設定することにより、同じ含有量で比較して、基材10中において導電材をより広範に分散させることができるため、合成皮革1の導電性をより高めることができ、また、基材10の強度の低下を防止することができる。なお、導電材の平均粒子径は、例えば、粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製、全自動乾式粒子径測定装置(Subsieve Auto Sizer))によって求められる(他の層も同様)。
【0034】
基材10の厚さは、0.01~0.3mm(10μm~300μm)が好ましい。後述するように、体積抵抗率は、体積抵抗値を厚さで除することによって算出される値である。このため、同じ体積抵抗値で比較したとき、基材10の厚さが小さくなる程、その体積抵抗率R2が大きくなり、一方、基材10の厚さが大きくなる程、その体積抵抗率R2が小さくなる傾向にある。また、基材10の厚さが小さくなる程、基材10の柔軟性、可撓性が高くなり、一方、基材10の厚さが大きくなる程、強度が高くなる傾向にある。従って、基材10の厚さを上記下限以上に設定することにより、合成皮革1の強度を確保しつつ、導電性を高めることができ、また、上記厚さを上記上限以下に設定することにより、合成皮革1の柔軟性、可撓性を高めつつ、導電性の低下を防止することができる。なお、基材10の厚さは、例えば、合成皮革1の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所の基材10の厚さを測定し、測定結果の平均値を算出することによって求められる(他の層も同様)。
【0035】
基材10中の導電材の含有量(固形分比率)は、15重量%以上が好ましい。基材10における導電材の含有量を上記下限以上に設定することにより、合成皮革1にセンサとして利用可能な導電性を付与することができる。なお、基材10中の導電材の含有量の上限値は、75重量%以下が好ましい。含有量を上記上限以下とすることにより、合成皮革の強度の低下を防止することができる。ここで、基材10中の導電材の含有量は、原料ベースの含有量であり、具体的には、基材10の形成材料中の固形成分の合計重量に対する導電材の重量の比率(百分率)として求められる(他の層も同様)。
【0036】
基材10の積層前(又は合成皮革から剥離後の)体積抵抗率R2は、1.0×10-2~1.0×10(Ω・m)が好ましい。基材10の体積抵抗率R2を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の全体の体積抵抗率R1を1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)に容易に設定することができる。その結果、合成皮革1は、厚さ方向の導電性に優れたものとなる。
【0037】
基材10の体積抵抗率R2は、合成皮革1から表皮層30及び接着層20を除去し、残った基材10を縦10cm×横10cmの大きさ(測定面積、0.01m)に裁断して測定用サンプルとし、測定用サンプルを縦10cm×横10cmの大きさの2枚の金属板で挟み込み、2枚の金属板のそれぞれに接点を取り、抵抗計と接続して抵抗値(体積抵抗値、Ω)を測定し、下記式(1)に示すように、得られた体積抵抗値を、測定面積(m)と合成皮革1の厚さ(m = 1000mm)との積で除することによって測定する。
体積抵抗率 = (体積抵抗値 × 面積) / 厚さ ・・・ (1)
これにより、図1に概念的に示すように、基材10の一方の面(表面)10aと他方の面(裏面)10bとの間で測定した体積抵抗率R2、すなわち基材10における厚さ方向(図1の上下方向)の体積抵抗率R2が得られる。後述するように、基材10の体積抵抗率R2は、合成皮革1の全体の体積抵抗率R1より小さく設定されている。
【0038】
(接着層)
接着層20は、基材10と表皮層30との間に配置され、基材10と表皮層30とを接着している。接着層20は、導電性を有するように構成され、例えばポリウレタン樹脂と、導電材とを含有するものとされる。
【0039】
ポリウレタン樹脂は、特に限定されるものではないが、従来公知の合成皮革に用いられる硬化性ポリウレタン樹脂と同様のものを用いることができる。そのようなポリウレタン樹脂として、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、耐久性の観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。上記ポリウレタン樹脂は、単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0040】
接着層20において、ポリウレタン樹脂は、通常、単一層とされる。ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型、湿気硬化型を問わず使用可能であり、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。
【0041】
ポリウレタン樹脂は、水酸基を有するポリオールとポリイソシアネートとの反応により得られる。ポリウレタン樹脂の原料には、架橋剤の他、必要に応じて、濡れ性向上剤、難燃剤、消泡剤、充填剤、顔料等の任意成分を配合してもよい。架橋剤については、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0042】
導電材は、上述した基材10に使用される導電材と同様の導電材を使用することができ、このうち金属微粒子が好ましく、ニッケル微粒子がより好ましい。導電材として金属微粒子を採用することにより、合成皮革1の導電性をより高めることができる。
【0043】
導電材の平均粒子径は、1~10μmが好ましい。導電材の平均粒子径を上記下限以上に設定することにより、接着層20中において導電材どうしが接触し易いサイズとなるため、合成皮革1の導電性をより高めることができる。上記平均粒子径を上記上限以下に設定することにより、同じ含有量で比較して、接着層20中においてより広範に導電材を分散させることができるため、合成皮革1の導電性をより高めることができ、また、接着層20の強度の低下を防止することができる。
【0044】
接着層20中の導電材の含有量(固形分比率)は、15~75重量%が好ましい。接着層20(例えば樹脂フィルム)における金属微粒子の含有量を上記下限以上に設定することにより、合成皮革1にセンサとして利用可能な導電性を付与することができる。また、上記含有量を上記上限以下とすることにより、合成皮革1の強度、耐摩耗性の低下を防止することができる。
【0045】
上述したとおり、接着層20は、金属微粒子を含有する樹脂フィルムが好ましい。接着層20を、金属微粒子を含有する樹脂フィルムとすることにより、合成皮革1の強度を確保しつつ、導電性を付与することができる。
【0046】
接着層20の目付(乾燥後のドライ塗布量)は、30~150g/mが好ましく、50~80g/mがより好ましい。接着層20の目付を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の強度を高めつつ、導電性を高めることができる。
【0047】
接着層20の厚さは、0.1mm以下が好ましい。当該厚さを上記範囲に設定することにより、合成皮革1の強度を高めつつ、導電性を高めることができる。なお、接着剤が繊維質基材に浸透することに起因して、接着層20の厚さが0mmと測定される場合があり、この点を考慮すると、接着層20の厚さは、0~0.1mmが好ましい。
【0048】
接着層20の積層前の体積抵抗率は、1.0×10-1~1.0×10Ω・mに設定することが好ましく、1.0×10~1.0×10Ω・mに設定することがより好ましい。接着層20の体積抵抗率を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の全体の体積抵抗率R1を1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)に容易に設定することができる。その結果、合成皮革1は、厚さ方向の導電性に優れたものとなる。
【0049】
(表皮層)
表皮層30は、導電性を有し、接着層20を介して基材10に接着されている。表皮層30は、例えばポリウレタン樹脂と、導電材とを含有する。
【0050】
ポリウレタン樹脂は、従来公知の合成皮革に用いられる硬化性ポリウレタン樹脂と同様のものを用いることができる。ポリウレタン樹脂の種類や樹脂フィルムの層構成は特に限定されるものではない。ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂等が挙げられる。なかでも、耐摩耗性、耐久性といった観点から、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。また、耐摩耗性をより向上させる観点から、シリコーン変性ポリウレタン樹脂がより好ましく、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂がさらに好ましい。表皮層30のポリウレタン樹脂としてシリコーン変性ポリウレタン樹脂を使用することで、耐摩耗性が向上し、また、これにより、表面層上に保護層を設けることを不要とし得る。なお、表皮層30にシリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用する場合、接着層20に使用するポリカーボネート系ポリウレタン樹脂は、シリコーン変性されていることは問わない。
【0051】
ポリウレタン樹脂の形態は、無溶剤系(無溶媒系)、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型、湿気硬化型を問わず使用可能であり、その目的と用途に応じて適宜選択すればよい。上記ポリウレタン樹脂は、単独で使用することができるが、二種以上の混合物として使用することもできる。
【0052】
ポリウレタン樹脂には、架橋剤の他、必要に応じて、着色剤(顔料、染料)、濡れ性向上剤、成膜助剤、平滑剤、艶消し剤、増粘剤、消泡剤、充填剤等の任意成分を混合してもよい。架橋剤は、工程負荷の軽減や合成皮革の特性向上のために用いられる。架橋剤は、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
【0053】
導電材は、上述した基材10に使用される導電材と同様の導電材を使用することができ、そのうち金属微粒子が好ましく、ニッケル微粒子がより好ましい。導電材として金属微粒子を採用することにより、合成皮革1の導電性をより高めることができる。
【0054】
導電材の平均粒子径は、1~10μmが好ましい。導電材の平均粒子径を上記下限以上に設定することにより、表皮層30中において導電材どうしが接触し易いサイズとなるため、合成皮革1の導電性をより高めることができる。上記平均粒子径を上記上限以下に設定することにより、同じ含有量で比較して、表皮層30中においてより広範に導電材を分散させることができるため、合成皮革1の導電性をより高めることができ、また、表皮層30の強度の低下を防止することができる。
【0055】
表皮層30中の導電材の含有量(固形分比率)は、15~75重量%が好ましい。表皮層30(例えば樹脂フィルム)における導電材の含有量を上記下限以上に設定することにより、合成皮革1にセンサとして利用可能な導電性を付与することができる。また、上記含有量を上記上限以下とすることにより、合成皮革1の強度、耐摩耗性の低下を防止することができる。
【0056】
上述したとおり、表皮層30は、金属微粒子を含有する樹脂フィルムが好ましい。表皮層30を、金属微粒子を含有する樹脂フィルムとすることにより、合成皮革1の強度を確保しつつ、導電性を付与することができる。
【0057】
表皮層30の目付(乾燥後のドライ塗布量)は、20~100g/mが好ましく、30~70g/mがより好ましい。表皮層30の目付を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の強度を高めつつ、導電性を高めることができる。
【0058】
表皮層30の厚さは、0.02~0.1mmが好ましい。当該厚さを上記範囲に設定することにより、合成皮革1の強度を高めつつ、導電性を高めることができる。また、表皮層30及び合成皮革1の耐久性を高めることができる。
【0059】
表皮層30の積層前の体積抵抗率は、1.0×10-1~1.0×10Ω・mに設定することが好ましく、1.0×10~1.0×10Ω・mに設定することがより好ましい。表皮層30の体積抵抗率を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の全体の体積抵抗率R1を1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)に容易に設定することができる。その結果、合成皮革1は、厚さ方向の導電性に優れたものとなる。
【0060】
(合成皮革の特性)
合成皮革1は、厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率R1が、1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であり、1.0×10-1~3.0×10(Ω・m)であることが好ましい。合成皮革1の体積抵抗率R1を上記範囲に設定することにより、表面と平行な方向だけではなく、厚さ方向においても導電性を発現させることができる。なお、合成皮革1の体積抵抗率R1は、基材10の体積抵抗率R2と同様に測定し得る。
【0061】
前述したように、基材10の体積抵抗率R2は、合成皮革1の全体の体積抵抗率R1より小さく設定されている(R2<R1)。合成皮革1において、基材10、接着層20及び表皮層30は、直列回路を形成している。このため、基材10の体積抵抗率R2を合成皮革1の全体の体積抵抗率R1より小さく設定することにより、接着層20及び表皮層30の体積抵抗率は、基材10の体積抵抗率R2より大きく設定されることになる。接着層20及び表皮層30は基材10より相対的に薄いため、体積抵抗率が相対的に大きくなっても、合成皮革1の全体の導通性に与える影響は比較的小さい。一方、基材10の体積抵抗率R2が大きくなる程、接着層20及び表皮層30の体積抵抗率は相対的に小さくなるが、この場合、基材10の体積抵抗率R2の増加(すなわち、導電性の低下)が合成皮革1の全体の体積抵抗率R1の増加に及ぼす影響が大きくなる。しかし、基材10における体積抵抗率R2を全体の体積抵抗率R1より小さく設定することにより、基材10の体積抵抗率R2を、表皮層30及び接着層20といった相対的に厚さが小さい層の体積抵抗率より小さくすることができるため、合成皮革1の全体としての導電性を高めることができる。本実施形態の合成皮革1は、合成皮革1の体積抵抗率R1が1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であることと、基材10の体積抵抗率R2が合成皮革1の体積抵抗率R1より小さく設定されていることとが相俟って、厚さ方向の導電性に優れたものとなり、センサ用材料やモニタリング用材料として利用可能なものとなる。
【0062】
合成皮革1は、JIS K7204 テーバー摩耗試験法に準拠し、ロータリーテーバー摩耗機を使用し、回転数を60回/min、一対の摩擦輪の荷重を1kgに設定して表面層に載置したとき、基材が露出するまでの回転数(限界回転数)が1000回以上であることが好ましく、3000回以上であることがより好ましく、5000回以上であることがさらに好ましい。限界回転数が上記範囲を満たすことにより、耐摩耗性により優れた合成皮革となる。
【0063】
(その他の層)
合成皮革1には、基材10、接着層20、及び表皮層30以外の層が積層されていてもよい。その他の層としては、例えば保護層が挙げられる。保護層は、表皮層30上(接着層20とは反対の側)に積層され、表皮層30の表面(接着層20とは反対の側の面)を保護するための層である。保護層としては、非導電性ポリウレタン樹脂フィルム、導電性ポリウレタン樹脂フィルムが挙げられる。これらのうち、非導電性ポリウレタン樹脂フィルムが、手触りが良好である点で、好ましい。保護層として非導電性ポリウレタン樹脂フィルムを使用する場合、合成皮革1における保護層も含めた全体の体積抵抗率R1が1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)となり、基材10の体積抵抗率R2が合成皮革1の全体の体積抵抗率R1より小さくなるような目付、厚さに設定される必要がある。この点において、保護層の目付(乾燥後のドライ塗布量)は、5g/m以下が好ましい。
【0064】
(合成皮革の製造方法)
本実施形態の合成皮革1は、以下の各工程を実施することにより製造することができる。すなわち、表皮層30を形成するための塗布液(表皮層形成用塗布液)、及び接着層20を形成するための塗布液(接着層形成用塗布液)を調製する(調製工程)。離型紙50上に、表皮層形成用塗布液を塗布し、乾燥して硬化させ、表皮層30を形成する(表皮層形成工程)。形成された表皮層30上(すなわち、表皮層30における離型紙50とは反対の側の面上)に、接着層形成用塗布液を塗布し、完全に硬化しないように乾燥させて半硬化状態の接着層20を形成する(接着層形成工程)。半硬化状態の接着層20上に基材10を載置し、加圧し、その後、乾燥して半硬化状態の接着層20を硬化させる(エージングにより架橋を進行させる)ことにより、接着層20を介して表皮層30と基材10とを接着させる(接着工程)。これにより、図2に示すように、離型紙50、表皮層30、接着層20、及び基材10が、この順に積層された離型紙付きの積層体1´が得られる。そして、得られた離型紙付きの積層体1´(すなわち、積層体60(合成皮革1)の表皮層30上に離型紙50が積層されたもの)から離型紙50を剥離する(剥離工程)。このように、表皮層形成工程、接着層形成工程、接着工程、及び剥離工程を行うことによって、合成皮革1を製造することができる。なお、表皮層30上に保護層を積層する場合には、離型紙50上に表皮層形成用塗布液を塗布する前に、保護層を形成するための塗布液(保護層形成用塗布液)を塗布し、乾燥させた後、保護層上に対して、上記と同様に、表皮層形成工程、接着層形成工程、接着工程、及び剥離工程を行えばよい。
【0065】
上述した通り、本実施形態の合成皮革1によれば、少なくとも基材10、接着層20、及び表皮層30がそれぞれ導電性を有し、厚さ方向で測定される全体の体積抵抗率R1を上記範囲に設定することにより、合成皮革1の全体としての導電性を高めることができる。よって、合成皮革1は、厚さ方向の導電性に優れたものとなり、センサ用材料やモニタリング用材料として利用可能なものとなる。
【0066】
(合成皮革の用途)
合成皮革1の用途は、特に限定されるものではないが、例えば合成皮革1の一方の面、及び/又は他方の面と、タッチセンサやモニタリングシステム等の本体とを導線で接続することにより、タッチセンサ等のセンサ用材料や、モニタリングシステム等のモニタリング用材料として利用することができる。
【実施例0067】
本発明の特徴構成を有する合成皮革(実施例1~12)を作製し、各種特性を測定した。また、比較のため、本発明の特徴構成を有しない合成皮革(比較例1~11)を作製し、同様に特性を測定した。測定項目は、表皮層、接着層、及び合成皮革(製品)の厚さ、これらの体積抵抗値、体積抵抗率、合成皮革の耐摩耗性とした。
【0068】
[使用原料]
以下に、実施例1~12、及び比較例1~11の合成皮革の作製に使用した原料を示す。各原料の固形分比率(重量%)は、表1~6に示す。なお、表1~6においては、固形分比率(重量%)を「固形分(%)」と略記する。また、表1~6において、「-」は、成分が配合されないことを示す。
【0069】
<表皮層形成用塗布液>
NY-328(クリスボン、DIC株式会社製、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂):ポリウレタン主剤(PU主剤)
NY-373(クリスボン、DIC株式会社製、シリコーン変性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂):ポリウレタン主剤(PU主剤)
DMF(ジメチルホルムアミド):希釈剤(溶剤)
DN9590(バーノック、DIC株式会社製):架橋剤
Black L-1770S(DIALAC、DIC株式会社製):カーボンブラック顔料
Ni粉体(ニッケル粉体、平均粒子径1~10μm、DIC株式会社製):導電材
MHIブラック#273(御国色素株式会社製):導電材
デントール WK-200B(大塚化学株式会社製):導電材
【0070】
<接着層形成用塗布液>
TA205FT(クリスボン、DIC株式会社製、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂):ポリウレタン主剤(PU主剤)
DMF(ジメチルホルムアミド):希釈剤(溶剤)
MEK(メチルエチルケトン):希釈剤(溶剤)
アクセルF(クリスボン、DIC株式会社製):架橋促進剤(触媒)
NE架橋剤(レザミン、大日精化工業株式会社製):架橋剤(イソシアネート系架橋剤)
Ni粉体(ニッケル粉体、平均粒子径1~10μm、DIC株式会社製):導電材
MHIブラック#273(御国色素株式会社製):導電材
WK-200B(デントール、大塚化学株式会社製):導電材
【0071】
<保護層形成用塗布液>
BAYDERM Finish 61D(ランクセス株式会社製、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂):ポリウレタン主剤(PU主剤)
HYDRHOLAC UD-2(ランクセス株式会社製、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂):ポリウレタン主剤(PU主剤)
HM-186(ランクセス株式会社製):シリコーン系接着剤(シリコーン)
AQUADERM XL-50(ランクセス株式会社製):架橋剤
AQUADERM Fluid H(ランクセス株式会社製):レベリング剤
水:希釈剤(溶剤)
【0072】
<導電性基材>
非導電糸として、ポリエステル糸(南亞塑膠加工廠股ふん有限公司社製、フィラメント数6本のマルチフィラメント糸、総繊度33dtex)を用いた。当該非導電糸を用い、織機により、非導電性平織物(タフタ 経密度:70本/2.54cm、緯密度:90本/2.54cm)を得た。非導電性平織物を銅、次いでニッケルでメッキ処理(Cu/Niメッキ)することにより、金属の含有量が30重量%である導電性平織物を基材として得た。
【0073】
<非導電性基材>
上記導電性平織物の作製において、メッキ処理される前の非導電性平織物を基材として使用した。
【0074】
[実施例1~12]
表1~2の処方に従い、表皮層形成用塗布液、及び接着層形成用塗布液を調製した。表皮層形成用塗布液は、粘度を2000mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.3、10rpm、23℃)に調整した。接着層形成用塗布液は、粘度を200mPa・s(BH型粘度計、ローター:No.1、12rpm、23℃)に調整した。
【0075】
皮革様のシボ模様(凹凸模様)を有する離型紙(AR-209、旭ロール株式会社製)上に、コンマコーターにて表皮層形成用塗布液を塗布厚さ(乾燥前のウェット厚さ)が200μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して、硬化させることにより、表皮層を形成した。表皮層の目付(乾燥後のドライ塗布量)は表1~2に示す値に設定した。
【0076】
次いで、表皮層上に、コンマコーターにて接着層形成用塗布液を塗布厚さ(乾燥前のウェット厚さ)が130μmになるようにシート状に塗布し、該接着層形成用塗布液が粘稠性を有する状態(半硬化状態)のうちに導電性基材を貼り合わせ、マングルにて49N/mの荷重で圧締した。次いで、温度40℃、相対湿度65%の雰囲気下で2日間エージング処理することにより、接着層を硬化させた後、離型紙を剥離して、実施例1~12の合成皮革を得た。接着層の目付(乾燥後のドライ塗布量)は表1~2に示す値に設定した。また、表1~2には、表皮層形成用塗布液中の固形分の含有量、表皮層中の導電材の含有量、接着層形成用塗布液中の固形分の含有量、及び接着層中の導電材の含有量を示す。
【0077】
[比較例1]
表3の処方に従い、保護層形成用塗布液を調製した。表3の処方に従い、実施例1~12と同様にして、離型紙上に表皮層、接着層、及び基材を積層した後、離型紙を剥離した。露出した表皮層上に、ロールコーターにて保護層形成用塗布液を、保護層の目付(乾燥後のドライ塗布量)が表3に示す値となるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して保護層を硬化させることにより、比較例1の合成皮革を得た。保護層の厚さは15μmであった。表3には、保護層形成用塗布液中の固形分の含有量、表皮層形成用塗布液中の固形分の含有量、表皮層中の導電材の含有量、接着層形成用塗布液中の固形分の含有量、及び接着層中の導電材の含有量を示す。
【0078】
[比較例2~10]
表3~6の処方に従い、表皮層形成用塗布液、及び接着層形成用塗布液を調製したこと以外は実施例1~12と同様にして、比較例2~10の合成皮革を得た。表3~6には、比較例2~10の表皮層の目付(乾燥後のドライ塗布量)、表皮層形成用塗布液中の固形分の含有量、表皮層中の導電材の含有量、接着層の目付(乾燥後のドライ塗布量)、接着層形成用塗布液中の固形分の含有量、及び接着層中の導電材の含有量を示す。
【0079】
[比較例11]
表6の処方に従い、表皮層形成用塗布液、及び接着層形成用塗布液を調製し、非導電性基材を使用したこと以外は実施例1~12と同様にして、比較例11の合成皮革を得た。
【0080】
実施例1~12、及び比較例1~11の合成皮革について、下記の試験方法に従い、合成皮革の特性として、厚さ、体積抵抗値、体積抵抗率、及び耐摩耗性を測定した。また、実施例1~12、及び比較例1~11で使用した基材及び各層について、下記の試験方法に従い、各単独の厚さを測定した。
【0081】
[合成皮革の厚さ試験]
各合成皮革の垂直断面を、マイクロスコープ(キーエンス株式会社製、デジタルHFマイクロスコープVH-8000)を用いて撮影し、得られた画像(写真)における任意の10箇所の表皮層の厚さを測定し、測定結果の平均値を算出することにより、表皮層の厚さを測定した。接着層、及び合成皮革の全体の厚さについても、同様に測定した。結果を表1~6に示す。
【0082】
[基材及び各層の単独の厚さ試験]
実施例1~12、及び比較例1~11において使用した各基材(導電性基材、非導電性基材)の積層前の単独の厚さを、デジタルシックネスゲージ(株式会社尾崎製作所製、ピーコックG2N-255)を用い、任意の3箇所にて測定し、測定値の平均値を算出した。実施例1~12、及び比較例1~11において使用した各表皮層の積層前の単独の厚さを、上記基材と同様にして測定した。実施例1~12、及び比較例1~11において使用した接着剤形成用塗布液を、表皮層上に塗布する代わりに、表面が平坦な剥離紙上に塗布厚さ(乾燥前のウェット厚さ)が130μmになるようにシート状に塗布し、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して、硬化させることにより、各接着層を形成し、剥離紙を剥離した後、各接着層の厚さを、上記基材と同様にして測定した。かかる接着層の厚さは、積層前の接着層の厚さに相当し得る。上記の結果、基材、及び表皮層の単独の厚さは、合成皮革中の厚さと差異がなかった。これに対し、接着層は、積層時に基材に浸透するため、合成皮革中の厚さは、単独の厚さよりも小さくなった。このため、接着層の単独の厚さの測定結果のみを表1~6に示す。
【0083】
[体積抵抗値、及び体積抵抗率の測定試験]
各合成皮革をそれぞれ縦10cm×横10cmの大きさ(測定面積、0.01m)に裁断して測定用サンプルとし、測定用サンプルを縦10cm×横10cmの大きさの2枚の金属板で挟み込み、2枚の金属板のそれぞれに接点を取り、抵抗計(日置電機株式会社製、HIOKI RM3544)と接続して抵抗値(体積抵抗値、Ω)を測定した。得られた体積抵抗値と、測定面積(m)と、合成皮革の厚さ(m = 1000mm)とから、下記式(1)により体積抵抗率(Ω・m)を算出した。また、積層前の各基材、各接着層、及び各表皮層の体積抵抗値、及び体積抵抗率についても、上記合成皮革と同様にして測定した。結果を表1~6に示す。なお、抵抗計の測定限界は、合成皮革、及び表皮層の場合は3000000.000(Ω)、接着層の場合は3000000.00(Ω)、基材の場合は3000000.0000(Ω)であった。
体積抵抗率 = (体積抵抗値 × 面積) / 厚さ ・・・ (1)
【0084】
[耐摩耗性試験]
各合成皮革について、JIS K7204 テーバー摩耗試験法に準拠して耐摩耗性を評価した。具体的には、ロータリーテーバー摩耗機を使用し、回転する水平円盤(回転数:60回/min)に試験片としての合成皮革を表皮層が上方に位置する(すなわち、基材が水平円盤に接触する)ように取り付け、研磨紙を貼り付けた一対の摩擦輪(摩耗輪タイプ:CS-10、荷重1kg)を合成皮革の表皮層上に載置して転がし、基材が露出するまでの回転数(限界回転数)を調べた。回転数が大きい程、耐摩耗性は良好である。回転数の上限を5000回(限界上限)とし、5000回の回転後に基材が露出しなかった場合は、「5000回以上」と評価した。結果を表1~6に示す。
【0085】

【表1】
【0086】


【表2】
【0087】


【表3】
【0088】


【表4】
【0089】


【表5】
【0090】


【表6】
【0091】
合成皮革の全体の体積抵抗率が1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)であり、
基材における体積抵抗率が全体の体積抵抗率より小さく設定されている実施例1~12の合成皮革は、表面と平行な方向だけではなく、厚さ方向においても導電性を発現させ得ることが示された。実施例2と、実施例1、3~12との比較より、表皮層を構成する樹脂フィルムの原料としてシリコーン変性ポリウレタン樹脂を使用する場合には、合成皮革の耐摩耗性が向上することが示された。基材における体積抵抗率が1.0×10-2~1.0×10(Ω・m)であることにより、合成皮革の全体の体積抵抗率を1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)に容易に設定し得ることが示された。
【0092】
接着層、表皮層を構成する樹脂フィルム中の金属微粒子の含有量を15~75重量%に設定することにより、合成皮革にセンサとして利用可能な導電性を付与することができ、また、このように金属微粒子を比較的多く含有させることにより、合成皮革の強度、耐摩耗性の低下を防止し得ると合理的に推察される。
【0093】
これに対し、保護層が厚すぎる比較例1、表皮層中の導電材の含有量が0(配合無し)~11.1重量%と少なすぎる比較例2~5、接着層中の導電材の含有量が0(配合無し)~11.1重量%と少なすぎる比較例6~10、及び基材が導電性を有していない比較例11の合成皮革は、合成皮革の全体の体積抵抗率が1.0×10-1~1.0×10(Ω・m)の範囲外となり、厚さ方向において導電性を発現させ得ないことが示された。
【0094】
なお、表皮層、接着層、及び基材中の導電材の含有量を大きくする程、体積抵抗率は小さくなる傾向にあるが、各層中において70重量%以上となるように添加しても、合成皮革の体積抵抗率は1.0×10-1(Ω・m)で頭打ちとなる傾向にあることを確認している。この点を考慮すると、各層中の導電材の含有量の上限は、体積抵抗率以外の要因(例えば強度等)を考慮して、例えば15重量%以上の範囲において適宜設定することが好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の合成皮革は、例えば、センサ用材料やモニタリング用材料として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 合成皮革
10 基材
20 接着層
30 表皮層
50 離型紙
60 積層体
図1
図2