(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008797
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】スタータ
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
H02K13/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111299
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八汐 憲恭
(72)【発明者】
【氏名】清久 英之
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA03
5H613BB04
5H613BB15
5H613BB27
5H613GA15
(57)【要約】
【課題】製造コストの増大を招くことなく、ブラシホルダの空間部内でのブラシの移動不良の防止とブラシの高寿命化とを実現するブラシ保持装置を備えたスタータを提供する。
【解決手段】電機子(9)に発生する回転トルクにより、内燃機関を始動させるスタータ(20)であって、整流子(9)の摺動面を摺動し、電機子電流を整流するブラシ(10p1、10p2、10n1、10n2)を保持するブラシホルダ(13p1、13p2、13n1、13n2)は、ブラシを移動可能に保持する空間部(136)と、空間部の外側に設けられたバネ支柱(139)と、を備え、ブラシホルダの空間部に保持されたブラシは、バネ支柱に回動可能に支持されたねじりコイルバネ(12p1、12p2、12n1、12n2)により、整流子(9)の摺動面に押圧される、ように構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁磁極により発生された磁束の磁気回路を形成するヨークと、
電機子コイルを有し、前記電機子コイルに流れる電機子電流が前記ヨークからの前記磁束と鎖交することにより回転トルクを発生する電機子と、
前記電機子コイルに接続され、外周部に摺動面を有する整流子と、
前記電機子と前記整流子とを同軸に固定する回転子軸と、
前記整流子の前記摺動面を摺動し、前記電機子電流を整流するブラシと、
絶縁物により構成され、前記ブラシを、前記回転子軸の軸線に対して直交する方向に移動可能に保持するブラシホルダと、
前記ブラシホルダを保持する金属製のベースと、
を備え、
前記電機子に発生する前記回転トルクにより、内燃機関を始動させるように構成されたスタータであって、
前記ブラシホルダは、
前記ブラシを前記移動可能に保持する空間部の外側に設けられたバネ支柱を備え、
前記バネ支柱に回動可能に支持されたねじりコイルバネにより、前記ブラシホルダの前記空間部に保持された前記ブラシを、前記整流子の前記摺動面に押圧するように構成されている、
ことを特徴とするスタータ。
【請求項2】
前記ねじりコイルバネの一端部は、前記空間部に対向する外側面部に当接し、
前記ねじりコイルバネの他端部は、前記ブラシに当接し、
前記ねじりコイルバネの前記他端部が前記ブラシを押圧することにより前記ねじりコイルバネに作用する反力は、前記ねじりコイルバネの前記一端部が当接した前記外側面部で受けるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のスタータ。
【請求項3】
前記ブラシホルダの前記外側面部は、前記ねじりコイルバネの前記一端部に係合する窪み部を備えている、
ことを特徴とする請求項2に記載のスタータ。
【請求項4】
前記ねじりコイルバネは、螺旋部を備え、
前記螺旋部は、渡線部を介して前記他端部に接続され、
前記渡線部は、耐熱手段を備えている、
ことを特徴とする請求項3に記載のスタータ。
【請求項5】
前記バネ支柱は、
中空部を有する絶縁物製の筒部と、
前記筒部の前記中空部に挿入され、前記筒部を構成する材料が有する耐熱性よりも高い耐熱性を有する材料により形成された支柱芯部と、
により構成されている、
ことを特徴とする請求項1から4のうちの何れか一項に記載のスタータ。
【請求項6】
前記支柱芯部は、前記ベースに接続されている、
ことを特徴とする請求項5に記載のスタータ。
【請求項7】
前記ブラシは、2個の正極側ブラシと、2個の負極側ブラシと、を備え、
前記ブラシホルダは、前記正極側ブラシを1個ずつ保持する2個の正極側のブラシホルダと、前記負極側ブラシを1個ずつ保持する2個の負極側のブラシホルダと、を備え、
前記2個の正極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成され、
前記2個の負極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成されている、
ことを特徴とする請求項1から4のうちの何れか一項に記載のスタータ。
【請求項8】
前記ブラシは、2個の正極側ブラシと、2個の負極側ブラシと、を備え、
前記ブラシホルダは、前記正極側ブラシを1個ずつ保持する2個の正極側のブラシホルダと、前記負極側ブラシを1個ずつ保持する2個の負極側のブラシホルダと、を備え、
前記2個の正極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成され、
前記2個の負極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載のスタータ。
【請求項9】
前記ブラシは、2個の正極側ブラシと、2個の負極側ブラシと、を備え、
前記ブラシホルダは。前記正極側ブラシを1個ずつ保持する2個の正極側のブラシホルダと、前記負極側ブラシを1個ずつ保持する2個の負極側のブラシホルダと、を備え、
前記2個の正極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成され、
前記2個の負極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成されている、
ことを特徴とする請求項6に記載のスタータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、スタータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機のブラシ保持装置において、ブラシを摺動自在に保持するブラシホルダを、金属製とする技術は周知である。たとえば、特許文献1に開示された従来の回転電機用ブラシ装置は、金属製のブラシホルダを備え、当該ブラシホルダによりブラシを移動可能に保持し、ブラシホルダの外部に保持したバネにより、ブラシを整流子の表面に押圧するように構成されている。特許文献1に開示された従来の回転電機のブラシ保持装置において、ブラシホルダを固定する金属製のベースと負極側のブラシホルダとは、マイナス電位に保持され、プラス電位に保持される正極側のブラシホルダは、絶縁部材を介してベースに固定されている。
【0003】
一方、ブラシホルダを樹脂製としたブラシ保持装置も周知である。たとえば、特許文献2に開示された従来の回転電機のブラシ保持装置は、ブラシホルダとしてのブラシ保持枠を樹脂製とし、当該ブラシ保持枠にブラシとコイルバネとを収容し、ブラシをコイルバネにより整流子の表面に押圧するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-79750号公報
【特許文献2】特許第3486094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された従来のブラシ保持装置は、ブラシホルダの外部にブラシを押圧するバネを設けるようにしているので、ブラシの摩耗代を大きく設定することができるが、マイナス電位に保持されるベースと、プラス電位に保持される正極側のブラシホルダと、の間に、絶縁部材を介在させる必要があり部品点数が増大する。また、金属製のブラシホルダの発錆によるブラシホルダ内でのブラシの移動不良を防止するため、金属製のブラシホルダに防錆用のメッキを施す場合があるが、メッキにより製造コストが高くなり、また、使用状況によっては、ブラシホルダにメッキを施しても、必ずしもブラシの移動不良の解消につながらないことがある。
【0006】
一方、特許文献2に開示された従来のブラシ保持装置は、ブラシホルダとしてのブラシ保持枠を樹脂製としているので、当該ブラシ保持枠を固定するベースが金属製であっても、両者の間に絶縁部材介在させる必要はないが、ブラシ保持枠の空間部にブラシとこれを押圧するバネ部材とを内包させるようにしているので、ブラシの摩耗代を大きくすることができず、ブラシの寿命が低下する。また、摩耗代の大きなブラシを用いればブラシ保持枠の空間部を大きくする必要があり、ブラシ保持装置が大型化することになる。
【0007】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、製造コストの増大を招くことなく、ブラシホルダの空間部内でのブラシの移動不良の防止とブラシの高寿命化とを実現するブラシ保持装置を備えたスタータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示されるスタータは、
界磁磁極により発生された磁束の磁気回路を形成するヨークと、
電機子コイルを有し、前記電機子コイルに流れる電機子電流が前記ヨークからの前記磁束と鎖交することにより回転トルクを発生する電機子と、
前記電機子コイルに接続され、外周部に摺動面を有する整流子と、
前記電機子と前記整流子とを同軸に固定する回転子軸と、
前記整流子の前記摺動面を摺動し、前記電機子電流を整流するブラシと、
絶縁物により構成され、前記ブラシを、前記回転子軸の軸線に対して直交する方向に移動可能に保持するブラシホルダと、
前記ブラシホルダを保持する金属製のベースと、
を備え、
前記電機子に発生する前記回転トルクにより、内燃機関を始動させるように構成されたスタータであって、
前記ブラシホルダは、
前記ブラシを前記移動可能に保持する空間部の外側に設けられたバネ支柱を備え、
前記バネ支柱に回動可能に支持されたねじりコイルバネにより、前記ブラシホルダの前記空間部に保持された前記ブラシを、前記整流子の前記摺動面に押圧するように構成されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願に開示されるスタータによれば、製造コストの増大を招くことなく、ブラシホルダの空間部内でのブラシの移動不良の防止とブラシの高寿命化とを実現するブラシ保持装置を備えたスタータが得られる。
【0010】
また、本願に開示されるスタータによれば、ブラシの移動不良の防止とブラシの高寿命化と製造コストの抑制とを実現するブラシ保持装置を備えたスタータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1によるスタータの一部断面正面図である。
【
図2】実施の形態1によるスタータにおける、ブラシ保持装置の斜視図である。
【
図3A】実施の形態1によるスタータにおける、ブラシホルダの組付け状態を示す斜視図である。
【
図3B】実施の形態1によるスタータにおける、ブラシホルダを示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1によるスタータにおける、ねじりコイルバネを示す斜視図である。
【
図5A】実施の形態2によるスタータにおける、ブラシホルダの平面図である。
【
図5B】
図5AのB―B線に沿う断面を矢印Aの方向から視た断面図である。
【
図6A】実施の形態3によるスタータにおける、ブラシホルダの平面図である。
【
図6B】
図6AのB―B線に沿う断面を矢印Aの方向から視た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願の実施の形態1から3によるスタータを、図に基づいて説明する。なお、各図において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるスタータの一部断面正面図である。
図1において、スタータ20は、ソレノイドスイッチ1と、モータ部2と、フロントブラケット17と、リヤブラケット6と、を備えている。
【0013】
永久磁石界磁型直流モータとしてのモータ部2は、磁気回路を形成する円筒状のヨーク4と、ヨーク4の内周面に固定された界磁磁極としての複数の永久磁石5と、これらの永久磁石5の内周面に対して、予め定められた寸法の空隙を介して外周面が対向する電機子7と、整流子9と、回転子軸8と、2個の正極側ブラシ(図示せず)と2個の負極側ブラシ(
図1には1個の負極側ブラシ10n1のみを示す)と、これらのブラシを保持するブラシ保持装置100と、を備えている。ブラシ保持装置100の詳細については後述する。
【0014】
電機子7は、電機子鉄心と、当該電機子鉄心に装着された電機子コイル3と、を含む。ヨーク4と永久磁石5とは、モータ部2の固定子を構成し、電機子7と整流子9とは、モータ部2の回転子を構成する。
【0015】
回転子軸8は、電機子7と整流子9とを軸方向に貫通し、これらを同軸に配置して固定している。回転子軸8は、リヤブラケット6の内壁部に設けられた軸受15と、フロントブラケット17の内部に設けられた軸受(図示せず)とにより、回転自在に支持されている。
【0016】
フロントブラケット17の軸方向の一方の開口した端部は、モータ部2のヨーク4の軸方向の一方の開口した端部に嵌合され、リヤブラケット6の軸方向の一方の開口した端部は、モータ部2のヨーク4の軸方向の他方の開口した端部に嵌合されている。フロントブラケット17と、リヤブラケット6と、はヨーク4を介して複数の通しボルト16により互いに接近する方向に締め付けられ、ヨーク4とともに一体に固定されている。
【0017】
リヤブラケット6の内部には、整流子9と、ブラシ保持装置100と、負極側ブラシ10n1を含む4個のブラシと、回転子軸8の一部分と、が収容されている。
【0018】
フロントブラケット17の内部には、モータ部2の電機子7に発生する回転トルクを、内燃機関に伝達する伝達機構部(図示せず)が組み込まれている。フロントブラケット17の軸方向の他方の端部には、開口部171が形成されており、当該開口部171から、前述の伝達機構部の一部を構成するピニオンギヤ21が露出している。ピニオンギヤ21は、軸方向の
図1の右方に移動することにより、内燃機関のリングギヤ(図示せず)に噛合して、内燃機関を始動させる。
【0019】
フロントブラケット17には、軸方向に直交して延びるソレノイドスイッチ取付部172が形成されている。ソレノイドスイッチ1は、ソレノイドスイッチ取付部172に、ボルト173により固定されている。
【0020】
ソレノイドスイッチ1は、端子ボルト111、112を備えている。端子ボルト111に接続されたリードワイヤ18は、絶縁物製のグロメット19を貫通してリヤブラケット6の内部に導入され、後述するように、2個の正極側ブラシ10p1、10p2(
図2参照)に接続される。
【0021】
ここで、実施の形態1によるスタータ20の動作を説明する。内燃機関のイグニッションスイッチ(図示せず)が車両の運転者により閉じられたとき、ソレノイドスイッチ1がオンの状態になり、車載バッテリ(図示せず)から、各ブラシおよび整流子9を介して、電機子コイル3に電機子電流が供給される。電機子コイル3に流れる電機子電流がヨーク4からの磁束と鎖交することにより、電機子7に回転トルクが発生し、電機子7が回転する。
【0022】
電機子7が回転すると、整流子9と、整流子9の摺動面を摺動する各ブラシと、により電機子電流の整流が行われ、電機子7の回転が継続する。同時に、スタータ20に内蔵されている伝達機構部により、ピニオンギヤ21が軸方向にスライドして内燃機関のリングギヤと噛合してこれを回転させ、内燃機関を始動させる。内燃機関の始動後、ピニオンギヤ21は、元の位置に復帰し、ソレノイドスイッチ1はオフとなり、スタータ20の動作は停止する。
【0023】
つぎに、実施の形態1によるスタータのブラシ保持装置について説明する。
図2は、実施の形態1によるスタータにおける、ブラシ保持装置の斜視図である。
図2において、ブラシ保持装置100は、中央部に開口部141を備えた金属製の円板状のベース14と、4つの樹脂製のブラシホルダ13p1、13p2、13n1、13n2と、それぞれのブラシホルダ13p1、13p2、13n1、13n2に装着されたねじりコイルバネ12p1、12p2、12n1、12n2とを、備えている。ベース14は、リヤブラケット6の内壁面に固定される。
【0024】
図2に示すように、ブラシホルダ13p1と、ブラシホルダ13p2と、は互いに面対称に構成され、また、ブラシホルダ13n1と、ブラシホルダ13n2と、は互いに面対称に構成されている。ブラシホルダ13p1と、ブラシホルダ13n1と、は同一構成であり、ブラシホルダ13p2と、ブラシホルダ13n2と、は同一構成である。
【0025】
ここで、ブラシホルダ13p2を例にとり、その構成を説明する。
図3Bは、実施の形態1によるスタータにおける、ブラシホルダを示す斜視図であって、ブラシホルダ13p2を示している。
図3Bにおいて、ブラシホルダ13p2は、ベース14の表面部に対して平行に延びる四角形状の頂壁部131と、頂壁部131の側縁131aから反頂壁部側に垂直に延びる外側面部132と、を備えている。
【0026】
また、ブラシホルダ13p2は、頂壁部131の側縁131aに対向する側縁131bから反頂壁部側に垂直に延びる外側面部133と、頂壁部131の側縁131aに対して直交する側縁131cから反頂壁部側に垂直に延びる外端面部134と、頂壁部131の側縁131cに対向する側縁131dから反頂壁部側に垂直に延びる外端面部135と、を備える。
【0027】
さらに、ブラシホルダ13p2は、頂壁部131に対して平行に延びる底壁部137を備えている。底壁部137の裏面部1371は、頂壁部131の表面部1311と同様の四角形状を成している。
【0028】
ブラシホルダ13p2は、空間部136を備えている。当該空間部136には、
図2に示すように、正極側ブラシ10p2が回転子軸8の軸線Xに直交する方向に移動可能に収容される。外側面部132、133は、空間部136に対向するように延びている。
【0029】
外側面部132には、外端面部135から切り込まれ、空間部136につながる切欠き部1321が形成されている。また、外側面部133には、外端面部134から切り込まれ、空間部136につながる切欠き部1331が形成されている。
【0030】
外側面部132には、底壁部137の裏面部1371に対して平行に延びる凹溝部1322が形成されている。凹溝部1322に隣接する裏面部1371側の外側面部1322aは、外側面部132よりも、あらかじめ定められた寸法だけ空間部136側に近くなるように構成されている。
【0031】
外側面部133には、底壁部137の裏面部1371に対して平行に延びる凹溝部1332が形成されている。凹溝部1332に隣接する裏面部1371に隣接する外側面部1332aは、外側面部133よりも、あらかじめ定められた寸法だけ空間部136側に近くなるように構成されている。
【0032】
また、外側面部132には、切欠き部1321と凹溝部1322との間に、外側面部132に対して垂直に延びるバネ支持体138が設けられている。バネ支持体138の表面部138aには、バネ支持体138の表面部138aに対して垂直で、かつ外側面部132に対して平行に延びるバネ支柱139が設けられている。バネ支柱139は、ブラシホルダ13p2とバネ支持体138と同一の樹脂材料により、これらと一体に形成されている。バネ支柱139は、中実構成であっても中空構成であってもよい。
【0033】
また、外側面部132には、バネ支持体138の表面部138aにつながる半円弧状の断面を有する窪み部140が形成されている。当該窪み部140には、後述するように、ねじりコイルバネ12p2の一端部が当接する。
【0034】
図3Aは、実施の形態1によるスタータにおける、ブラシホルダの組付け状態を示す斜視図であって、前述のように構成されたブラシホルダ13p2に、正極側ブラシ10p2と、ねじりコイルバネ12p2と、がそれぞれ装着された状態を示している。
図3Aに示すように、正極側ブラシ10p2は、ブラシホルダ13p2の空間部136に、外側面部132、133に対して平行に移動可能に挿入されている。
【0035】
ねじりコイルバネ12p2は、その内側空間部がバネ支柱139に回動可能に挿入されてバネ支持体138に支持されている。ねじりコイルバネ12p2の一端部12p21は、ブラシホルダ13p2の外側面部132に設けられた窪み部140に当接し、ねじりコイルバネ12p2の他端部12p22は、ブラシホルダ13p2の切欠き部1321を介してブラシホルダ13p2の空間部136に挿入され、正極側ブラシ10p2の一方の端部に当接して正極側ブラシ10p2を整流子9(
図1参照)の方向に押圧する。
【0036】
正極側ブラシ10p2の他方の端部は、ねじりコイルバネ12p2の弾性力により、ブラシホルダ13p2の外端面部134から突出し、整流子9の摺動面に当接する。
【0037】
以上、ブラシホルダ13p2の構成と、当該ブラシホルダ13p2に、正極側ブラシ10p2と、ねじりコイルバネ12p2と、を装着した場合について説明したが、ブラシホルダ13n2は、ブラシホルダ13p2と同一構成である。また、ブラシホルダ13p1、13n1の構成、およびそれらに対するブラシとねじりコイルバネの配置は、前述のブラシホルダ13p2、13n2の場合に対して面対称となる。
【0038】
図2に示すように、ブラシホルダ13p1には、正極側ブラシ10p1とねじりコイルバネ12p1とが装着され、ブラシホルダ13p2には、正極側ブラシ10p2とねじりコイルバネ12p2とが装着され、ブラシホルダ13n1には、負極側ブラシ10n1とねじりコイルバネ12n1とが装着され、ブラシホルダ13n2には、負極側ブラシ10n2とねじりコイルバネ12n2とが装着される。
【0039】
ブラシホルダ13p1とブラシホルダ13n2とは、軸線Xを介して対峙するように配置され、ブラシホルダ13p2とブラシホルダ13n1とは、軸線Xを介して対峙するように配置されている。
【0040】
グロメット19を介してリヤブラケット6の内部に導入されたリードワイヤ18は、2つのリードワイヤ181、182に分岐される。分岐された一方のリードワイヤ181は、ブラシホルダ13p1の切欠き部1331を通過して、一方の正極側ブラシ10p1に接続され、分岐された他方のリードワイヤ182は、ブラシホルダ13p2の切欠き部1331を通過して、他方の正極側ブラシ10p2に接続される。
【0041】
負極側ブラシ10n2は、リードワイヤ10wにより金属製のベース14に接続されている。同様に、負極側ブラシ10n1は、リードワイヤ(図示せず)により金属製のベース14に接続されている。
【0042】
ブラシホルダ13p1、13p2、13n1、13n2は、底壁部137の近傍の外側面部132、133に設けられた凹溝部1322、1332(
図3A、
図3B参照)に、ベース14に設けられたブラシホルダ保持体142が挿入されることにより、ベース14に保持されている。
【0043】
ブラシホルダ保持体142は、ベース14を切り起こすことにより形成されており、ベース14の外周縁部から軸線Xの方向に向かって延びるように形成されている。ブラシホルダ保持体142は、後述の実施の形態2の
図5Bに示すように、ベース14の一部分を軸線Xの方向にあらかじめ定められた寸法の長さに切り起こし、その切り起こされた切り起こし片1421、1422の先端部が、ブラシホルダの凹溝部1322、1331に係合可能なように折り曲げられている。
【0044】
ブラシホルダ保持体142は、1個のブラシホルダに対して、間隔を介して対向する一対の切り起こし片1421、1422により構成されている。ブラシホルダ保持体142は、実施の形態1、実施の形態2、および実施の形態3において、同一の構成である。
【0045】
なお、ブラシホルダ保持体142は、上記の構成に限られるものではなく、上記とは別の構成、たとえば、ベース14とは別の部材で構成され、ベース14に固定された構成であってもよい。
【0046】
以上のように構成されたブラシ保持装置100を備えた実施の形態1によるスタータにおいて、ソレノイドスイッチ1の端子ボルト111に接続されたリードワイヤ18が非導電性のグロメット19を貫通し、スタータ20内部の正極側ブラシ10p1、10p2に接続される。
【0047】
正極側ブラシ10p1、10p2は、ねじりコイルバネ12p1、12p2とともに、ブラシホルダ13p1、13p2に軸線Xの方向に移動可能に保持されており、正極側ブラシ10p1、10p2から整流子9を通して電機子コイル3に流れた電機子電流は、再び整流子9を通して負極側ブラシ10n1、10n2に伝わる。当該電機子電流は、負極側ブラシ10n1、10n2からリードワイヤ10wを介してベース14に流れ、ヨーク4、フロントブラケット17を介してアースされる。
【0048】
樹脂、たとえばフェノール樹脂により形成されたブラシホルダ13p1、13p2、13n1、13n2は、金属、たとえばSUS(Stainless Used steel)を使用したねじりコイルバネ12p1、12p2、12n1、12n2を挿入するためのバネ支柱139と、ねじりコイルバネ12p1、12p2、12n1、12n2の一端部(
図3Aに示す12p21)を保持する窪み部140と、を備えている。
【0049】
ねじりコイルバネの一端部12p21が、ブラシホルダの窪み部140に保持されることにより、ねじりコイルバネが、バネ支柱139を中心として回転すること、およびバネ支柱139の軸方向に移動すること、を防止することができる。
【0050】
各ブラシホルダの窪み部140は、ブラシホルダの空間部136に挿入されたブラシに対向する外側面部132に設けられており、ブラシの移動方向に対して平行に延びている。各ブラシホルダの窪み140の曲率は、ねじりコイルバネの一端部12p21の線径の曲率より小さく設定されている。
【0051】
ねじりコイルバネの他端部12p22は、正極側ブラシ10p1、10p2、および負極側ブラシ10n1、10n2を整流子9の方向に付勢しており、その反力がバネ支柱139を介してねじりコイルバネの一端部12p21に伝わるが、ねじりコイルバネの一端部12p21がブラシホルダの窪み部140に保持されているので、上記の反力がブラシホルダの外側面部132により受け止められ、ねじりコイルバネの回転および軸方向の移動を防止することができる。
【0052】
なお、実施の形態1では、ブラシホルダの窪み部140の断面を円弧形状にしているが、円弧形状に限られるものではなく、ねじりコイルバネの一端部12p21が保持される形状であれば他の形状であってもよい。
【0053】
また、実施の形態1では、ブラシホルダの窪み部140は、ブラシホルダにおけるブラシの移動方向に対して平行に延びる形状としたが、たとえば、ねじりコイバネの一端部12p21の延びる方向と平行に延びるようにしてもよい。この場合、ねじりコイルバネの一端部12p21と、ブラシホルダの窪み部140と、の当接面積が増えるため、ねじりコイルバネの一端部12p21の押圧力によりブラシホルダの窪み部140に発生する応力を緩和することができる。
【0054】
ブラシホルダの窪み部140は、ブラシホルダの空間部136におけるブラシに対応する外側面部132に設けられているので、異常入力などで生じる連続通電によりブラシホルダが熱劣化した際に、窪み部140を起点にしてねじりコイルバネの一端部12p21が、ブラシホルダの外側面部132を空間部136に挿入されたブラシの方向に強圧して、ブラシホルダを破損させ、ねじりコイルバネの一端部12p21が空間部136に挿入されたブラシの外側面部を押圧するため、ブラシの移動を抑制することができる。
【0055】
その結果、ブラシと整流子9との接圧が低下してブラシと整流子9との接触抵抗が増加し、通電電流が低下する。これにより、モータ部2の温度の急激な上昇を抑制することができ、あるいは、ブラシと整流子9の接触を阻害させ、電気回路を開路することで、モータ部2への電流を遮断してモータ部2を停止させ、モータ部2の急激な発熱を防止することができる。
【0056】
つぎに、バネ支柱139の熱劣化を抑制する耐熱対策について説明する。
図4は、実施の形態1によるスタータにおける、ねじりコイルバネを示す斜視図である。
図4において、ねじりコイルバネ12p2は、ブラシホルダの窪み部140に当接する一端部12p21と、螺旋部12cと、ブラシに当接する他端部12p22と、螺旋部12cから他端部12p22までの間の渡線部12dと、により構成されている。
【0057】
ここで、ブラシの通電による発熱が渡線部12dに伝熱することで、樹脂製のバネ支柱139が熱劣化するが、このバネ支柱139の熱劣化を抑制するため、たとえば、渡線部12dをジグザグ形状にして伝熱の経路を増大させ、もしくは渡線部12dの表面積を増大させて熱放散を増大させ、又は、それらの双方による耐熱手段を設けるようにしてもよい。
【0058】
また、渡線部12dに、たとえば、ねじりコイルバネ12p2を形成する金属材料とは異なる種類の金属材料を用いることで、渡線部12dの熱容量を増大させ、ばね支柱139への伝熱を抑制することができる。さらに、上記異なる金属製の渡線部12dにヒートシンクを装着することで、渡線部12dの熱容量を増大させるとともに放熱効率を上げることができる。また、ブラシからねじりコイルバネに伝わる熱量を抑制するために、ブラシとねじりコイルバネの間に別部材、たとえば、セラミックなどの物質を挟むようにしてもよい。
【0059】
実施の形態2.
つぎに、実施の形態2によるスタータのブラシホルダについて説明する。
図5Aは、実施の形態2によるスタータにおける、ブラシホルダの平面図、
図5Bは、
図5AのB―B線に沿う断面を矢印Aの方向から視た断面図である。
図5A、
図5Bにおいて、ブラシホルダ13p2は、正極側ブラシ10p2を空間部136に収容して移動可能に保持する。
【0060】
バネ支持体138に設けられたバネ支柱139は、バネ支持体138と一体に形成された中空の筒部1391と、当該筒部1391の中空部に挿入された円柱形状の支柱芯部1392とにより構成されている。支柱芯部1392は、樹脂により形成された筒部1391よりも耐熱性の高い材料、たとえば、鉄により形成されている。バネ支柱139がこのように構成されているので、ブラシの通電による発熱がねじりコイルバネ12p2を介してバネ支柱139に到達した熱量によるバネ支柱139熱劣化を抑制することができる。
【0061】
他のブラシホルダ13p1、13n1、13n2におけるバネ支柱139も、上記ブラシホルダ13p2におけるバネ支柱139と同様に構成されている。実施の形態2によるスタータのその他の構成は、実施の形態1によるスタータと同様である。
【0062】
実施の形態2によるスタータによれば、ブラシの通電による発熱がねじりコイルバネを介してバネ支柱に到達した熱量によるバネ支柱の熱劣化を抑制することができる。
【0063】
実施の形態3.
つぎに、実施の形態3によるスタータのブラシホルダについて説明する。
図6Aは、実施の形態3によるスタータにおける、ブラシホルダの平面図、
図6Bは、
図6AのB―B線に沿う断面を矢印Aの方向から視た断面図である。
図6A、
図6Bにおいて、ブラシホルダ13p2は、正極側ブラシ10p2を空間部136に収容して移動可能に保持する。
【0064】
バネ支持体138に設けられたバネ支柱139は、バネ支持体138と一体に形成された中空の筒部1391と、当該筒部1391の中空部に挿入された円柱形状の支柱芯部1392とにより構成されている。支柱芯部1392は、樹脂により形成された筒部1391よりも耐熱性の高い材料、たとえば、鉄により形成され、その端部が金属製のベース14に設けられた貫通穴143に嵌合されている。
【0065】
バネ支柱139が上記のように構成されているので、ブラシの通電による発熱による熱量が、ねじりコイルバネ12p2を介してバネ支柱139に到達し、さらに支柱芯部1392からベース14に伝達される。これにより、バネ支柱139の温度上昇を抑制することができ、バネ支柱139の耐熱性をさらに向上させることができる。
【0066】
ブラシホルダ13p1、13n1、13n2におけるバネ支柱139も、上記ブラシホルダ13p2におけるバネ支柱139と同様に構成されている。実施の形態3によるスタータのその他の構成は、実施の形態1によるスタータと同様である。
【0067】
なお、支柱芯部1392は、ベース14と機械的に接続されていればよく、たとえば、ベース14をバーリング加工により切り起こして支柱芯部1392として用いるようにしてもよい。
【0068】
実施の形態3によるスタータによれば、ブラシの通電による発熱がねじりコイルバネを介してバネ支柱に到達した熱量により、バネ支柱が熱劣化することを抑制することができる。
【0069】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合又は省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0070】
つぎに、本願に開示したスタータの態様を、以下に付記として記載する。
(付記1)
界磁磁極により発生された磁束の磁気回路を形成するヨークと、
電機子コイルを有し、前記電機子コイルに流れる電機子電流が前記ヨークからの前記磁束と鎖交することにより回転トルクを発生する電機子と、
前記電機子コイルに接続され、外周部に摺動面を有する整流子と、
前記電機子と前記整流子とを同軸に固定する回転子軸と、
前記整流子の前記摺動面を摺動し、前記電機子電流を整流するブラシと、
絶縁物により構成され、前記ブラシを、前記回転子軸の軸線に対して直交する方向に移動可能に保持するブラシホルダと、
前記ブラシホルダを保持する金属製のベースと、
を備え、
前記電機子に発生する前記回転トルクにより、内燃機関を始動させるように構成されたスタータであって、
前記ブラシホルダは、
前記ブラシを前記移動可能に保持する空間部の外側に設けられたバネ支柱を備え、
前記バネ支柱に回動可能に支持されたねじりコイルバネにより、前記ブラシホルダの前記空間部に保持された前記ブラシを、前記整流子の前記摺動面に押圧するように構成されている、
ことを特徴とするスタータ。
(付記2)
前記ねじりコイルバネの一端部は、前記空間部に対向する外側面部に当接し、
前記ねじりコイルバネの他端部は、前記ブラシに当接し、
前記ねじりコイルバネの前記他端部が前記ブラシを押圧することにより前記ねじりコイルバネに作用する反力は、前記ねじりコイルバネの前記一端部が当接した前記外側面部で受けるように構成されている、
ことを特徴とする付記1に記載のスタータ。
(付記3)
前記ブラシホルダの前記外側面部は、前記ねじりコイルバネの前記一端部に係合する窪み部を備えている、
ことを特徴とする付記2に記載のスタータ。
(付記4)
前記ねじりコイルバネは、螺旋部を備え、
前記螺旋部は、渡線部を介して前記他端部に接続され、
前記渡線部は、耐熱手段を備えている、
ことを特徴とする付記3に記載のスタータ。
(付記5)
前記バネ支柱は、
中空部を有する絶縁物製の筒部と、
前記筒部の前記中空部に挿入され、前記筒部を構成する材料が有する耐熱性よりも高い耐熱性を有する材料により形成された支柱芯部と、
により構成されている、
ことを特徴とする付記1から4のうちの何れか一つに記載のスタータ。
(付記6)
前記支柱芯部は、前記ベースに接続されている、
ことを特徴とする付記5に記載のスタータ。
(付記7)
前記ブラシは、2個の正極側ブラシと、2個の負極側ブラシと、を備え、
前記ブラシホルダは、前記正極側ブラシを1個ずつ保持する2個の正極側のブラシホルダと、前記負極側ブラシを1個ずつ保持する2個の負極側のブラシホルダと、を備え、
前記2個の正極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成され、
前記2個の負極側のブラシホルダは、互いに面対称に構成されている、
ことを特徴とする付記1から6のうちの何れか一つに記載のスタータ。
【符号の説明】
【0071】
1 ソレノイドスイッチ、2 モータ部、3 電機子コイル、4 ヨーク、
6 リヤブラケット、7 電機子、8 回転子軸、9 整流子、
10p1、10p2 正極側ブラシ、10n1、10n2 負極側ブラシ、
12p1、12p2、12n1、12n2 ねじりコイルバネ、12c 螺旋部、
12d 渡線部、12p21 一端部、12p22 他端部、
13p1、13p2、13n1、13n2 ブラシホルダ、
131 頂壁部、1311 表面部、131a、131b、131c、131d 側縁、
132、133 外側面部、134、135 外端面部、
136 空間部、1321、1331 切欠き部、1322、1332 凹溝部、
137 底壁部、1371 裏面部、138 バネ支持体、138a 表面部、
139 バネ支柱、1391 筒部、1392 支柱芯部、140 窪み部、
14 ベース、141 開口部、142 ブラシホルダ保持体、15 軸受、
16 通しボルト、17 フロントブラケット、18、181、182、
10w リードワイヤ、19 グロメット、20 スタータ、
100 ブラシ保持装置、111、112 端子ボルト、171 開口部、
172 ソレノイドスイッチ取付部、173 ボルト