(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008798
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法
(51)【国際特許分類】
B21B 37/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B21B37/00 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111301
(22)【出願日】2023-07-06
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭志
(72)【発明者】
【氏名】小泉 重人
(72)【発明者】
【氏名】奈良井 誠大
(72)【発明者】
【氏名】原 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】白石 拓也
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124BB02
4E124BB03
4E124CC02
4E124CC03
4E124CC06
4E124DD19
4E124EE01
4E124EE02
4E124EE11
(57)【要約】
【課題】本発明は、正負にかかわらず、圧延荷重および先進率を算出できる圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法を提供する。
【解決手段】本発明の圧延荷重および先進率演算装置1000は、ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行し、これによって求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求め、これら求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める圧延荷重および先進率演算装置であって、
前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行する第1演算処理部と、
前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求める第2演算処理部と、
前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理部で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する決定処理部とを備え、
前記第1ないし第3圧延荷重モデルは、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いから求められた微分方程式に基づいて求められた、圧延荷重を求めるモデル式であり、
前記第1ないし第3先進率モデルは、前記微分方程式に基づいて求められた、先進率を求めるモデル式であり、
前記第1圧延荷重、前記第1先進率および前記第1半径は、中立点が前記ロールバイトの入側における外側にある場合の圧延荷重および先進率であり、
前記第2圧延荷重、前記第2先進率および前記第2半径は、前記中立点が前記ロールバイトの中にある場合の圧延荷重および先進率であり、
前記第3圧延荷重、前記第3先進率および前記第3半径は、前記中立点が前記ロールバイトの出側にある場合の圧延荷重および先進率である、
圧延荷重および先進率演算装置。
【請求項2】
前記決定処理部は、
前記第3先進率が負である場合には、前記第3圧延荷重および前記第3先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、
前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合には、前記第1圧延荷重および前記第1先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、
前記第3先進率が負である場合および前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合を除く場合には、前記第2圧延荷重および前記第2先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定する、
請求項1に記載の圧延荷重および先進率演算装置。
【請求項3】
前記第1ないし第3圧延荷重モデルおよび前記第1ないし第3先進率モデルは、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、圧延中における前記被圧延材の速度をvとし、前記圧延中における前記ワークロールの表面速度をvRとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面での面圧をsとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材とのの接触面でのせん断応力τとした場合に、摩擦則を、τ={μ+α・(v-vR)}・sとして、前記微分方程式を解くことによって求められたモデル式である、
請求項1に記載の圧延荷重および先進率演算装置。
【請求項4】
前記被圧延材における出側の厚さをh
2とし、圧下量を△hとし、扁平変形後の前記ワークロールの半径をRとし、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、前記ワークロールの表面速度をv
Rとし、出側の圧延張力をσ
outとし、前記被圧延材における出側の変形抵抗をσ
out,yとし、入側の圧延張力をσ
inとし、前記被圧延材における入側の変形抵抗をσ
in,yとした場合に、前記第1先進率モデル式は、次式1であり、前記第1圧延荷重モデル式は、次式2であり、前記第2先進率モデル式は、次式3であり、前記第2圧延荷重モデル式は、次式4であり、前記第3先進率モデル式は、次式5であり、前記第3圧延荷重モデル式は、次式6である、
請求項1に記載の圧延荷重および先進率演算装置。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
ただし、A
1、B
1、C
1、D
1、DD、E
+、E
-、F、t
nおよびt
Lは、次式7-1~式7-10によって定義される。
【数7】
【請求項5】
一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める、コンピュータによって実行される圧延荷重および先進率演算方法であって、
前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行する第1演算処理工程と、
前記第1演算処理工程で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求める第2演算処理工程と、
前記第1演算処理工程で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理工程で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する決定処理工程とを備え、
前記第1ないし第3圧延荷重モデルは、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いから求められた微分方程式に基づいて求められた、圧延荷重を求めるモデル式であり、
前記第1ないし第3先進率モデルは、前記微分方程式に基づいて求められた、先進率を求めるモデル式であり、
前記第1圧延荷重、前記第1先進率および前記第1半径は、中立点が前記ロールバイトの入側における外側にある場合の圧延荷重および先進率であり、
前記第2圧延荷重、前記第2先進率および前記第2半径は、前記中立点が前記ロールバイトの中にある場合の圧延荷重および先進率であり、
前記第3圧延荷重、前記第3先進率および前記第3半径は、前記中立点が前記ロールバイトの出側にある場合の圧延荷重および先進率である、
圧延荷重および先進率演算方法。
【請求項6】
前記決定処理工程は、
前記第3先進率が負である場合には、前記第3圧延荷重および前記第3先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、
前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合には、前記第1圧延荷重および前記第1先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、
前記第3先進率が負である場合および前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合を除く場合には、前記第2圧延荷重および前記第2先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定する、
請求項5に記載の圧延荷重および先進率演算方法。
【請求項7】
前記第1ないし第3圧延荷重モデルおよび前記第1ないし第3先進率モデルは、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、圧延中における前記被圧延材の速度をvとし、前記圧延中における前記ワークロールの表面速度をvRとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面での面圧をsとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面でのせん断応力τとした場合に、摩擦則を、τ={μ+α・(v-vR)}・sとして、前記微分方程式を解くことによって求められたモデル式である、
請求項5に記載の圧延荷重および先進率演算方法。
【請求項8】
前記被圧延材における出側の厚さをh
2とし、圧下量を△hとし、扁平変形後の前記ワークロールの半径をRとし、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、前記ワークロールの表面速度をv
Rとし、出側の圧延張力をσ
outとし、前記被圧延材における出側の変形抵抗をσ
out,yとし、入側の圧延張力をσ
inとし、前記被圧延材における入側の変形抵抗をσ
in,yとした場合に、前記第1先進率モデル式は、次式1であり、前記第1圧延荷重モデル式は、次式2であり、前記第2先進率モデル式は、次式3であり、前記第2圧延荷重モデル式は、次式4であり、前記第3先進率モデル式は、次式5であり、前記第3圧延荷重モデル式は、次式6である、
請求項5に記載の圧延荷重および先進率演算方法。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
ただし、A
1、B
1、C
1、D
1、DD、E
+、E
-、F、t
nおよびt
Lは、次式7-1~式7-10によって定義される。
【数14】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める圧延荷重および先進率演算装置、ならびに、圧延荷重および先進率演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対のワークロールで被圧延材を圧延する際の圧延プロセスの解析には、一般に、圧延理論が用いられる。この圧延理論は、Karmanの理論に始まり、種々の近似解析法の研究を経て、例えばNadaiの解やBland&Fordの冷間圧延理論等へ発展した。これらは、一般に、古典圧延理論と呼ばれ、これに対し、コンピュータ(計算機)の発達により、有限要素法を用いた数値解析による圧延プロセスの解析も研究、開発されている。
【0003】
この古典圧延理論では、被圧延材における出側の速度vとワークロールの表面速度(ロール周速)vRとの比である先進率fS(=(v-vR)/vR)は、正の値となり、被圧延材における出側の速度vよりワークロールの表面速度vRが速くなる領域(負の先進率領域)は、存在しない。しかしながら、実際の圧延では、圧延中に先進率fSが負になることが知られている。圧延装置を制御する場合、現実に起こる負の先進率を考慮しなければならず、例えば、特許文献1に提案されている。
【0004】
この特許文献1に開示された冷間圧延における圧延スケジュールの設定方法は、冷間タンデムミルにおけるストリップの圧延の際に、圧延時の各スタンドのロール速度と各スタンド出側の板速度から先進率を求め、得られた先進率から摩擦係数予測式を、先進率が正の領域と負の領域についてそれぞれ作成し、これらの摩擦係数予測式から、目標の先進率となるように各スタンドの圧下配分、張力、圧延速度を修正し、圧延スケジュールを設定する。より具体的には、前記速度v、vRの実測により先進率fsが求められ、先進率fSが負である場合には、|fs|として、先進率fSが正である場合に用いる摩擦係数予測式を用いて先進率fSが負である場合の摩擦係数μが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、ハイテン材(高張力鋼材、High Tensile Strength Steel Sheets)の需要が伸びている。このハイテン材の製造では、しばしば、負の先進率が生じるため、正の先進率領域だけでなく、負の先進率領域でも先進率や圧延荷重の算出が要望されている。前記特許文献1では、先進率fSは、実測されており、算出されていない。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、正負にかかわらず、圧延荷重および先進率を算出できる圧延荷重および先進率演算装置、ならびに、圧延荷重および先進率演算方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる圧延荷重および先進率演算装置は、一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める装置であって、前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行する第1演算処理部と、前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求める第2演算処理部と、前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理部で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する決定処理部とを備える。本発明の他の一態様にかかる圧延荷重および先進率演算方法は、一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める、コンピュータによって実行される方法であって、前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行する第1演算処理工程と、前記第1演算処理工程で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求める第2演算処理工程と、前記第1演算処理工程で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理工程で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する決定処理工程とを備える。ここで、これら上述の圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法において、前記第1ないし第3圧延荷重モデルは、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いから求められた微分方程式に基づいて求められた、圧延荷重を求めるモデル式であり、前記第1ないし第3先進率モデルは、前記微分方程式に基づいて求められた、先進率を求めるモデル式であり、前記第1圧延荷重、前記第1先進率および前記第1半径は、中立点が前記ロールバイトの入側における外側にある場合の圧延荷重および先進率であり、前記第2圧延荷重、前記第2先進率および前記第2半径は、前記中立点が前記ロールバイトの中にある場合の圧延荷重および先進率であり、前記第3圧延荷重、前記第3先進率および前記第3半径は、前記中立点が前記ロールバイトの出側にある場合の圧延荷重および先進率である。
【0009】
このような圧延荷重および先進率演算装置ならびに圧延荷重および先進率演算方法は、3個に場合分けすることによって初めて微分方程式に基づき近似的に求められた解析解の第1ないし第3圧延荷重モデル式ならびに第1ないし第3先進率モデル式に基づいて圧延荷重および先進率を求めるので、正負にかかわらず、圧延荷重および先進率を算出できる。
【0010】
他の一態様では、これら上述の圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法において、前記決定処理部および前記決定処理工程それぞれは、前記第3先進率が負である場合には、前記第3圧延荷重および前記第3先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合には、前記第1圧延荷重および前記第1先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、前記第3先進率が負である場合および前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合を除く場合には、前記第2圧延荷重および前記第2先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定する。
【0011】
このような圧延荷重および先進率演算装置ならびに圧延荷重および先進率演算方法は、各場合に応じて最終的な圧延荷重および先進率を決定するものであり、実際に実現象として存在できるものは、上記の場合分けと矛盾の無い先進率が算出させたものであり、この場合のみ適切に圧延荷重および先進率を求めることができる。
【0012】
他の一態様では、これら上述の圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法において、前記第1ないし第3圧延荷重モデルおよび前記第1ないし第3先進率モデルは、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、圧延中における前記被圧延材の速度をvとし、前記圧延中における前記ワークロールの表面速度をvRとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面での面圧をsとし、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面でのせん断応力τとした場合に、摩擦則を、τ={μ+α・(v-vR)}・sとして、前記微分方程式を解くことによって求められたモデル式である。
【0013】
これによれば、摩擦則に、τ={μ+α・(v-vR)}・sを用いた圧延荷重および先進率演算装置ならびに圧延荷重および先進率演算方法が提供できる。
【0014】
他の一態様では、これら上述の圧延荷重および先進率演算装置ならびに該方法において、前記被圧延材における出側の厚さをh2とし、圧下量を△hとし、扁平変形後の前記ワークロールの半径をRとし、摩擦係数をμとし、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数をαとし、前記ワークロールの表面速度をvRとし、出側の圧延張力をσoutとし、前記被圧延材における出側の変形抵抗をσout,yとし、入側の圧延張力をσinとし、前記被圧延材における入側の変形抵抗をσin,yとした場合に、前記第1先進率モデル式は、後述の式1であり、前記第1圧延荷重モデル式は、後述の式2であり、前記第2先進率モデル式は、後述の式3であり、前記第2圧延荷重モデル式は、後述の式4であり、前記第3先進率モデル式は、後述の式5であり、前記第3圧延荷重モデル式は、後述の式6である。
【0015】
これによれば、第1先進率モデル式、第1圧延荷重モデル式、第2先進率モデル式、第2圧延荷重モデル式、第3先進率モデル式および第3圧延荷重モデル式に、後述の式1ないし式6を用いた圧延荷重および先進率演算装置ならびに圧延荷重および先進率演算方法が提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる圧延荷重および先進率演算装置、ならびに、圧延荷重および先進率演算方法は、正負にかかわらず、圧延荷重および先進率を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態における圧延荷重および先進率演算装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いを説明するための図である。
【
図3】前記圧延荷重および先進率演算装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】一例として、実施例の演算結果と比較例の演算結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0019】
実施形態における圧延荷重および先進率演算装置は、一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める装置である。この圧延荷重および先進率演算装置は、前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行する第1演算処理部と、前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求める第2演算処理部と、前記第1演算処理部で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理部で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定する決定処理部とを備える。以下、このような圧延荷重および先進率演算装置、ならびに、これに実装された圧延荷重および先進率演算方法について、より具体的に説明する。
【0020】
図1は、実施形態における圧延荷重および先進率演算装置の構成を示すブロック図である。
【0021】
実施形態における圧延荷重および先進率演算装置1000は、一対のワークロールで被圧延材を圧延する圧延装置における圧延荷重および先進率を求める装置であり、例えば、
図1に示すように、制御処理部1と、入力部2と、出力部3と、インターフェース部(IF部)4と、記憶部5とを備える。
【0022】
前記圧延装置は、任意の型式(種類)の装置であってよく、例えば、複数の圧延スタンドを連続的に配置したタンデム型圧延装置や、1基の圧延機を往復するリバース型圧延装置等であってよく、これらにおいて、一対のワークロールのみの二重式ロールや、一対のバックアップロールをさらに含む四重式ロールや、バックアップロールが複数であるクラスタミル等であってよい。
【0023】
入力部2は、制御処理部1に接続され、例えば、演算開始を指示するコマンド等の各種コマンド、および、演算の件名や後述の演算に必要な各種パラメータ等の、圧延荷重および先進率演算装置1000を動作させる上で必要な各種データを前記圧延荷重および先進率演算装置1000に入力する機器であり、例えば、キーボード、マウス、および、所定の機能を割り付けられた複数の入力スイッチ等である。出力部3は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、入力部2から入力されたコマンドやデータおよび演算結果等を出力する機器であり、例えばCRTディスプレイ、LCD(液晶表示装置)および有機ELディスプレイ等の表示装置やプリンタ等の印刷装置等である。
【0024】
なお、入力部2および出力部3は、タッチパネルより構成されてもよい。このタッチパネルを構成する場合において、入力部2は、例えば抵抗膜方式や静電容量方式等の操作位置を検出して入力する位置入力装置であり、出力部3は、表示装置である。このタッチパネルでは、表示装置の表示面上に位置入力装置が設けられ、表示装置に入力可能な1または複数の入力内容の候補が表示され、ユーザが、入力したい入力内容を表示した表示位置に触れると、位置入力装置によってその位置が検出され、検出された位置に表示された表示内容がユーザの操作入力内容として圧延荷重および先進率演算装置1000に入力される。このようなタッチパネルでは、ユーザは、入力操作を直感的に理解し易いので、ユーザにとって取り扱い易い圧延荷重および先進率演算装置1000が提供される。
【0025】
IF部4は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、例えば、外部の機器との間でデータを入出力する回路であり、例えば、シリアル通信方式であるRS-232Cのインターフェース回路、Bluetooth(登録商標)規格を用いたインターフェース回路、および、USB規格を用いたインターフェース回路等である。また、IF部4は、例えば、データ通信カードや、IEEE802.11規格等に従った通信インターフェース回路等の、外部の機器と通信信号を送受信する通信インターフェース回路であってもよい。
【0026】
記憶部5は、制御処理部1に接続され、制御処理部1の制御に従って、各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御処理プログラムが含まれ、前記制御処理プログラムには、例えば、制御プログラム、第1演算処理プログラム、第2演算処理プログラムおよび決定処理プログラム等が含まれる。前記制御プログラムは、圧延荷重および先進率演算装置1000の各部2~5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するプログラムである。前記第1演算処理プログラムは、前記ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行するプログラムである。前記第2演算プログラムは、前記第1演算処理プログラムで求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求めるプログラムである。前記決定処理プログラムは、前記第1演算処理プログラムで求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理プログラムで求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定するプログラムである。前記各種の所定のデータには、例えば、演算の件名や前記演算に必要な各種パラメータや演算結果等の、これら各プログラムを実行する上で必要なデータが含まれる。
【0027】
このような記憶部5は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部5は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部1のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。また、記憶部5は、比較的記憶容量の大きいハードディスク装置を備えて構成されてもよい。
【0028】
制御処理部1は、圧延荷重および先進率演算装置1000の各部2~5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、圧延装置における圧延荷重および先進率を求めるための回路である。制御処理部1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部1には、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部11、第1演算処理部12、第2演算処理部13および決定処理部14が機能的に構成される。
【0029】
制御部11は、圧延荷重および先進率演算装置1000の各部2~5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、圧延荷重および先進率演算装置1000の全体の制御を司るものである。
【0030】
第1演算処理部12は、ワークロールの第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3圧延荷重モデルによって第1ないし第3圧延荷重を求める圧延荷重演算処理と、前記第1ないし第3圧延荷重に基づきロール扁平変形の計算によって前記第1ないし第3半径を求める半径演算処理とを、初期値を前記ワークロールの半径として、前記第1ないし第3圧延荷重および前記第1ないし第3半径が収束するまで交互に実行するものである。
【0031】
第2演算処理部13は、前記第1演算処理部12で求めた前記第1ないし第3半径に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率を求めるものである。
【0032】
決定処理部14は、前記第1演算処理部12で求めた前記第1ないし第3圧延荷重および前記第2演算処理部13で求めた前記第1ないし第3先進率の中から最終的な圧延荷重および先進率を決定するものである。より具体的には、決定処理部14は、前記第3先進率が負である場合には、前記第3圧延荷重および前記第3先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合には、前記第1圧延荷重および前記第1先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定し、前記第3先進率が負である場合および前記第1先進率が前記第2先進率より大きい場合を除く場合には、前記第2圧延荷重および前記第2先進率を前記最終的な圧延荷重および先進率に決定する。
【0033】
制御部11は、決定処理部14で求めた最終的な圧延荷重および先進率を演算結果として出力部3に出力する。
【0034】
前記第1ないし第3圧延荷重モデルは、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いから求められた微分方程式に基づいて求められた、圧延荷重を求めるモデル式である。前記第1ないし第3先進率モデルは、前記微分方程式に基づいて求められた、先進率を求めるモデル式である。前記第1圧延荷重P+、前記第1先進率fS+および前記第1半径R’+は、中立点が前記ロールバイトの入側における外側にある場合の圧延荷重Pおよび先進率fSである。前記第2圧延荷重P0、前記第2先進率fS0および前記第2半径R’0は、前記中立点が前記ロールバイトの中にある場合の圧延荷重Pおよび先進率fS0である。前記第3圧延荷重P-、前記第3先進率fS-および前記第3半径R’-は、前記中立点が前記ロールバイトの出側にある場合の圧延荷重Pおよび先進率fSである。
【0035】
これら第1ないし第3圧延荷重モデルおよび第1ないし第3先進率モデルについて、より具体的に説明する。
【0036】
これら第1ないし第3圧延荷重モデルおよび第1ないし第3先進率モデルは、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いから求められた微分方程式に基づいて求められる。
【0037】
図2は、ロールバイトの被圧延材における微小領域に作用する力の釣り合いを説明するための図である。
図2では、被圧延材の微小領域MRが図示され、一対のワークロールは、省略されている。
図2を正面視した場合、紙面右側が圧延装置の入側であり、紙面左側が圧延装置の出側である。
【0038】
ロールバイトの被圧延材における微小領域MRには、例えば、
図2に示すように、圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面CFでの面圧sと、前記圧延中における前記ワークロールと前記被圧延材との接触面CFでのせん断応力τとが作用する。垂直方向を基準として、ワークロールの中心点(回転軸)CP1と接触面CFの中央位置点CP2とを結ぶ線分の成す角をθとし、微小領域MRの幅をdxとすると、接触面CFの長さ(接触弧長)は、dx/cosθとなるから、微小領域MRに作用する力における垂直方向の釣り合いは、次式W1で表され、微小領域MRに作用する力における水平方向の釣り合いは、次式W2で表される。
【0039】
【0040】
【0041】
ここで、hは、微小領域MRにおける出側の板厚であり、h+dhは、微小領域MRにおける入側の板厚であり、qは、微小領域MRにおける圧延の長手方向の応力であり、q+dqは、微小領域MRにおける微小距離離れて位置での前記長手方向の応力である。Pは、単位幅当たりの圧延荷重である。
【0042】
式W2におけるdhdqを他の項に較べて十分に小さいとして無視し、式W1を用いて式W2から面圧sを消去すると、次式W3で表される微分方程式が得られる。
【0043】
【0044】
さらに、Bland&Fordの近似式;d(hk)/dx=0を用いると、式W3は、次式W4となる。この式W4が解析的に解くべき微分方程式となる。この微分方程式W4を解く際の摩擦則として、公知の、τ={μ+α・(v-vR)}・sが用いられる。なお、Bland&Fordの近似式におけるkは、圧延方向位置での材料の変形抵抗である。
【0045】
【0046】
微分方程式W4を解くためには、境界条件を満足するように積分定数を決定する必要があることから、本実施形態では、3個の場合に分けて微分方程式W4が解かれた。
【0047】
第1の場合は、中立点がロールバイトの入側におけるロールバイトの外側にある場合(すなわち、第1先進率fS+が第2先進率fS0より大きい場合)であり、この場合、圧延荷重(第1圧延荷重)P+は、次式1で表され、先進率(第1先進率)fS+は、次式2で表される。
【0048】
【0049】
【0050】
第2の場合は、中立点がロールバイトの中にある場合(すなわち、第3先進率fS-が負である場合および第1先進率fS+が第2先進率fS0より大きい場合を除く場合)であり、この場合、圧延荷重(第2圧延荷重)P0は、次式3で表され、先進率(第2先進率)fS0は、次式4で表される。
【0051】
【0052】
【0053】
第3の場合は、中立点がロールバイトの出側におけるロールバイトの外側にある場合(すなわち、第3先進率fS-が負である場合)であり、この場合、圧延荷重(第3圧延荷重)P-は、次式5で表され、先進率(第3先進率)fS-は、次式6で表される。
【0054】
【0055】
【0056】
ここで、A1、B1、C1、D1、DD、E+、E-、F、tnおよびtLは、次式7-1~式7-10で表される。
【0057】
【0058】
また、Rは、扁平変形後のワークロールの半径(ロール半径)である。h1は、圧延装置における入側の板厚(被圧延材における入側の厚さ)であり、h2は、圧延装置における出側の板厚(被圧延材における出側の厚さ)である。△hは、圧延装置の圧下量である。μは、ワークロールと被圧延材との間の摩擦係数である。σinは、圧延装置における入側の圧延張力であり、σoutは、圧延装置における出側の圧延張力である。σin,yは、圧延装置における入側での被圧延材の変形抵抗であり、σout,yは、圧延装置における出側での被圧延材の変形抵抗である。vは、圧延中における板速度(被圧延材の速度)である。vRは、圧延中におけるワークロールの表面速度である。αは、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数である。
【0059】
このように第1ないし第3圧延荷重モデルおよび第1ないし第3先進率モデルの各モデル式が求められるので、より具体的には、第1演算処理部12は、まず、ワークロールの半径R0を初期値として、前記ワークロールの第1ないし第3半径R+、R0、R-(ここでは、R+=R0=R-=R0)に基づき式1、式3および式5によって、第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-を求める圧延荷重演算処理(初回(1回目)の圧延荷重演算処理)を実行する。続いて、第1演算処理部12は、この求めた第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-に基づきロール扁平変形の計算によって第1ないし第3半径R’+、R’0、R’-を求める半径演算処理(初回(1回目)の半径演算処理)を実行する。前記ロール扁平変形の計算には、ヒッチコックの扁平変形式である次式8が用いられる。続いて、第1演算処理部12は、これら第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-および第1ないし第3半径R’+、R’0、R’-が収束したか否かを判定する。この判定の結果、収束していない場合には、第1演算処理部12は、1回目の半径演算処理によって求められた第1ないし第3半径R’+、R’0、R’-を2回目の圧延荷重演算処理に用いる第1ないし第3半径R+、R0、R-として、この2回目の圧延荷重演算処理を実行し、この結果を用いて2回目の半径演算処理を実行し、収束判定を実行する。一方、前記半径の結果、収束している場合には、第1演算処理部12は、その処理を終了し、その処理の終了を第2演算処理部13に通知する。
【0060】
【0061】
ここで、Rは、ロール扁平変形計算前のワークロールの半径であり、R’は、ロール扁平変形計算後のワークロールの半径である。εは、ワークロールのヤング率であり、ηは、ワークロールのポアソン比である。πは、円周率である。
【0062】
前記収束判定は、例えば、上述の収束までの繰り返し演算における今回の演算による第1ないし第3半径R+、R0、R-および第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-それぞれと前回の第1ないし第3半径R+、R0、R-および第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-(今回の演算に用いた第1ないし第3半径R+、R0、R-および第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-)それぞれとの差の絶対値|△R+|、|△R0|、|△R-|、|△P+|、|△P0|、|△P-|をそれぞれ求め、これら差の絶対値|△R+|、|△R0|、|△R-|、|△P+|、|△P0|、|△P-|それぞれが所定の閾値(収束判定閾値)thR+、thR0、thR-、thP+、thP0、thP-以下であるか否かを判定し、これら差の絶対値|△R+|、|△R0|、|△R-|、|△P+|、|△P0|、|△P-|それぞれが収束判定閾値thR+、thR0、thR-、thP+、thP0、thP-以下である場合には、収束したと判定し、前記場合を除く場合には、収束していないと判定する。収束判定閾値thR+、thR0、thR-、thP+、thP0、thP-は、予め適宜に設定され、収束判定閾値thR+、thR0、thR-は、互いに同値であってよく、異値であってもよく、収束判定閾値thP+、thP0、thP-は、は、互いに同値であってよく、異値であってもよい。
【0063】
ここで、式3および式7-8から、圧延荷重演算処理の第2圧延荷重P0の演算には、第2先進率fS0の演算が含まれていると見ることもできる。このため、第1演算処理部12は、圧延荷重演算処理の第2圧延荷重P0の演算の際に、第2半径R0に基づき第2先進率fS0を求めて第2圧延荷重P0を求めていると見ることもできる。
【0064】
第1演算処理部12から、その処理の終了が通知されると、第2演算処理部13は、第1演算処理部12で求めた第1ないし第3半径R+、R0、R-に基づき式2、式4および式6によって第1ないし第3先進率fS+、fS0、fS-を求める。
【0065】
そして、決定処理部14は、上述のように、第3先進率fS-が負である場合には、第3圧延荷重P-および第3先進率fS-を最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSに決定し、第1先進率fS+が第2先進率fS0より大きい場合には、第1圧延荷重P+および第1先進率f+を前記最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSに決定し、第3先進率fS-が負である場合および第1先進率fS+が第2先進率fS0より大きい場合を除く場合には、第2圧延荷重P0および第2先進率fS0を前記最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSに決定する。
【0066】
なお、式1ないし式8の演算に必要なワークロールの半径R0、入側の板厚h1、出側板厚h2、圧下量△h、摩擦係数μ、入側の圧延張力σin、出側の圧延張力σout、σin,yは、圧延装置における入側での被圧延材の変形抵抗σin,y、出側での被圧延材の変形抵抗σout,y、板速度v、ワークロールの表面速度vRは、ワークロール表面と被圧延材間の相対速度によるせん断応力係数α、ワークロールのヤング率ε、ワークロールのポアソン比ηは、前記演算の前に、前記各種パラメータとして、例えば入力部2やIF部4から入力され、記憶部5に記憶される。
【0067】
これら制御処理部1、入力部2、出力部3、IF部4および記憶部5は、例えば、デスクトップ型やノート型等のコンピュータによって構成可能である。
【0068】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図3は、前記圧延荷重および先進率演算装置の動作を示すフローチャートである。
【0069】
このような構成の圧延荷重および先進率演算装置1000は、その電源が投入されると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。制御処理部1には、その制御処理プログラムの実行によって、制御部11、第1演算処理部12、第2演算処理部13および決定処理部14が機能的に構成される。
【0070】
図3において、例えば、演算開始の指示が入力部2から入力されると、圧延荷重および先進率演算装置1000は、制御処理部1の第1演算処理部12によって、前記圧延荷重演算処理と前記半径演算処理とを、初期値をワークロールの半径R
0として、第1ないし第3圧延荷重P
+、P
0、P
-および第1ないし第3半径R
+、R
0、R
-が収束するまで交互に実行し、これによって第1ないし第3半径R
+、R
0、R
-および第1ないし第3圧延荷重P
+、P
0、P
-を求め、記憶部5に記憶する(S1、第1演算処理工程)。
【0071】
続いて、圧延荷重および先進率演算装置1000は、制御処理部1の第2演算処理部13によって、前記処理S1で第1演算処理部によって求めた第1ないし第3半径R+、R0、R-に基づき第1ないし第3先進率モデルによって第1ないし第3先進率fS+、fS0、fS-を求め、記憶部5に記憶する(S2、第2演算処理工程)。
【0072】
続いて、圧延荷重および先進率演算装置1000は、制御処理部1の決定処理部14によって、第1演算処理部12で求めた第1ないし第3圧延荷重P+、P0、P-および第2演算処理部13で求めた第1ないし第3先進率fS+、fS0、fS-の中から最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSを決定(選定)し、記憶部5に記憶する(S3、決定処理工程)。
【0073】
そして、圧延荷重および先進率演算装置1000は、制御処理部1の制御部11によって、前記処理S3で決定処理部14によって決定した最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSを出力部3に出力し(S4)、本処理を終了する。なお、制御部11は、必要に応じてIF部4を介して外部の機器に前記最終的な圧延荷重Pおよび先進率fSを出力してもよい。
【0074】
次に、実施例および比較例について説明する。
【0075】
図4は、一例として、実施例の演算結果と比較例の演算結果を説明するための図である。
図4Aは、実施例の演算結果を示し、
図4Bは、比較例の演算結果を示す。
図4Aおよび
図4Bの各横軸は、先進率の実績値であり、これら各縦軸は、先進率の演算値(予測値)である。
【0076】
実施例の演算結果は、上述の圧延荷重および先進率演算装置1000によって求めた先進率の演算値である。これに対し、比較例の演算結果は、Bland&Fordの冷間圧延理論における先進率式によって求めた演算値である。
図4Aおよび
図4Bを比較すると分かるように、比較例では、実績値で先進率が負であっても、演算値は、正であり、適切に演算できていない。これに対し、実施例では、実績値で先進率が負である場合、演算値も負となっており、より適切に演算できている。もちろん、正の先進率領域も先進率が適切に演算できている。
【0077】
したがって、実際に圧延することなく、実施形態における圧延荷重および先進率演算装置1000を用いることによって、圧延荷重および先進率演算が予測でき、シミュレーションできる。
【0078】
以上、説明したように、実施形態における圧延荷重および先進率演算装置1000およびこれに実装された圧延荷重および先進率演算方法は、3個に場合分けすることによって初めて微分方程式に基づき近似的に求められた解析解の第1ないし第3圧延荷重モデル式(式1、式3、式5)ならびに第1ないし第3先進率モデル式(式2、式4、式6)に基づいて圧延荷重Pおよび先進率fSを求めるので、正負にかかわらず、圧延荷重Pおよび先進率fSを算出できる。
【0079】
上記圧延荷重および先進率演算装置1000および圧延荷重および先進率演算方法は、各場合に応じて最終的な圧延荷重および先進率を決定するものであり、実際に実現象として存在できるものは、上記の場合分けと矛盾の無い先進率が算出させたものであり、この場合のみ適切に圧延荷重および先進率を求めることができる。
【0080】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0081】
1 制御処理部
2 入力部
3 出力部
4 インターフェース部(IF部)
5 記憶部
11 制御部
12 第1演算処理部
13 第2演算処理部
14 決定処理部