(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025000088
(43)【公開日】2025-01-07
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20241224BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20241224BHJP
【FI】
C02F1/44 F
C02F3/34 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099744
(22)【出願日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】岡島 康信
(72)【発明者】
【氏名】石原 優香子
(72)【発明者】
【氏名】田中 健
(72)【発明者】
【氏名】藤野 創太
【テーマコード(参考)】
4D006
4D040
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA44
4D006HA93
4D006JA15A
4D006JA16A
4D006JA19A
4D006JA25A
4D006JA31Z
4D006JA53Z
4D006JA57A
4D006KA16
4D006KB22
4D006KB23
4D006MA03
4D006MA21
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC09
4D006PB08
4D006PC62
4D040BB05
4D040BB24
4D040BB32
4D040BB57
4D040BB72
(57)【要約】
【課題】コンパクトな空間に水処理装置を設置することが可能で、かつ、無駄な溶存酸素を無酸素槽に持ち込むことを抑制可能な水処理装置を提供する。
【解決手段】原水が流入する無酸素槽4と、複数の膜分離装置7が浸漬設置された処理槽3と、無酸素槽4から処理槽3に被処理水を供給する流入路5と、処理槽3から被処理水を無酸素槽4に返送する返送路6と、を備えた水処理装置1であって、膜分離装置7は、処理槽3に複数列に配列して設置され、返送路6は、膜分離装置7の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように設置され、返送路6は、各列に配された膜分離装置7に対応する部位は被覆され、膜分離装置7同士の間隙に対応する部位に被処理水を受け入れる開口部が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水が流入する無酸素槽と、複数の膜分離装置が浸漬設置された処理槽と、前記無酸素槽から前記処理槽に被処理水を供給する流入路と、前記処理槽から被処理水を前記無酸素槽に返送する返送路と、を備えた水処理装置であって、
前記膜分離装置は、前記処理槽に複数列に配列して設置され、
前記返送路は、前記膜分離装置の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように設置され、
前記返送路は、各列に配された前記膜分離装置に対応する部位は被覆され、前記膜分離装置同士の間隙に対応する部位に被処理水を受け入れる開口部が形成されている水処理装置。
【請求項2】
前記返送路は、前記処理槽の床に形成された溝で構成され、前記溝には各列に配された前記膜分離装置に対応する部位に蓋体が設置されている請求項1記載の水処理施設。
【請求項3】
前記返送路は、前記膜分離装置の直下で各列に沿う方向に延在するように、前記処理槽の床面に設置された樋で構成され、前記樋には各列に配された前記膜分離装置に対応する部位に蓋体が設置されている請求項1記載の水処理施設。
【請求項4】
前記返送路は、前記膜分離装置の直下で各列に沿う方向に延在するように、前記処理槽の床面に設置された管体で構成され、前記管体には各列に配された前記膜分離装置同士の間隙に対応する部位に開孔が形成されている請求項1記載の水処理施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水が流入する無酸素槽と、複数の膜分離装置が浸漬設置された処理槽と、前記無酸素槽から前記処理槽に被処理水を供給する流入路と、前記処理槽から被処理水を前記無酸素槽に返送する返送路と、を備えた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、畜産排水、し尿、食品工場で発生する排水などの有機性排水を浄化するため、膜分離活性汚泥法を採用した水処理装置が注目されている。
図1には、膜分離活性汚泥法を採用した従来の水処理装置の構成が例示されている。上流側から嫌気槽AN、無酸素槽AX、前曝気槽PA、膜分離槽MBRが配置され、原水である有機性排水は、嫌気槽ANに流入して活性汚泥と混合された被処理水として、嫌気槽AN、無酸素槽AX、前曝気槽PA、膜分離槽MBRに順に流下する過程で浄化処理される。なお、前曝気槽PAは必要に応じて無酸素槽として機能させる場合もある。
【0003】
嫌気槽ANでは脱リン処理、無酸素槽AXでは脱窒処理、前曝気槽PAでは硝化(好気)処理、膜分離槽MBRでは硝化(好気)および膜分離装置MSにより膜分離処理される。膜分離槽MBRから引き抜かれた汚泥が返送路RSを介して嫌気槽ANまたは無酸素槽AXに返送される。嫌気槽ANから膜分離槽MBRの間で被処理水が循環される過程で有機性排水が浄化され、被処理水が膜分離装置MSにより処理水として引き抜かれる。
【0004】
膜分離槽MBRは、平面視が矩形で一方向に細長い直方体形状の処理槽であり、処理槽の長手方向に沿って複数の膜分離装置MSが一列に浸漬設置される。
各膜分離装置MSの下部には散気装置が設けられ、散気装置から供給される酸素により膜面の浄化処理とともに被処理水の好気処理が行われる。散気装置による好気処理で不足する酸素は、膜分離槽MBRの上流側の前曝気槽PAに設置された補助散気装置から供給される。
【0005】
膜分離装置MSのファウリングを抑制するために、前曝気槽PAから膜分離槽MBRへ流入する被処理水の溶存酸素濃度(DO濃度)を1~2mg/Lに調節することが多く、好気処理は前曝気槽PAと膜分離槽MBRの上流域でほぼ完了し、膜分離槽MBRの下流域では酸素が過剰供給された状態となる。その結果、膜分離槽MBRの下流側から溶存酸素濃度の高い汚泥が嫌気槽ANまたは無酸素槽AXに返送されることとなり、嫌気槽ANまたは無酸素槽AXに無駄に溶存酸素を持ち込むことになっていた。
【0006】
つまり、好気処理が進行する膜分離槽MBRの上流域では溶解性COD(sCOD)濃度が高く、下流域に比べて膜ファウリングが発生しやすい環境に晒され、被処理水の流れ方向において膜の汚れ方に偏りが生じる。
【0007】
また、膜分離装置MSにより行われる処理水の引抜きのため、膜分離槽MBRの下流ほどMLSS濃度が高くなり、膜間閉塞リスクが高まる。そのため、膜分離装置MSの下部に備えた散気装置からの散気量は、膜分離槽MBRの下流ほど高く設定する必要がある。
【0008】
図2(a)には、膜分離装置MSが設置された膜分離槽MBRの断面構造が例示されている。膜分離装置MSは、上下2段の膜ケースMCと、膜ケースMCの下方に備えた散気装置ADを備えている。散気装置ADからの散気により被処理水に生じる上向流により膜ケースMCに備えた膜面が浄化され、膜分離装置MSの上方から両側部に下降するように、被処理水の旋回流が形成される。そのため、
図2(b)、(c)に示すように、膜分離槽MBRに充填された被処理水の溶存酸素濃度は水面側で高くなり、底部側で低くなる。膜間差圧の算出の便宜のため水位を一定とする必要があり、膜分離槽MBRからのオーバーフロー水を末端の貯水槽で貯水し、ポンプを用いて返送汚泥として返送していたので、溶存酸素DO濃度の高い汚泥が嫌気槽ANまたは無酸素槽AXに返送される要因の一つとなっていた。
【0009】
特許文献1には、コンパクトな空間に膜分離装置設置しても安定した上向流が確保でき、しかも運転コストを低減できる汚水処理設備として、脱窒処理が行なわれる無酸素槽と、硝化処理が行なわれる好気槽と、硝化処理が行なわれた被処理水に浸漬配置され被処理水から透過水を得る固液分離処理が行なわれる複数の膜分離装置と、を備え、各膜分離装置の上方空間に無酸素槽に向けて延出するトラフが配置され、膜分離装置に備えた散気機構からの散気により生じる被処理水の上向流により固液分離処理後の濃縮水をトラフに溢流させて無酸素槽に返送するように構成されている汚水処理設備が提案されている。
【0010】
当該汚水処理設備に拠れば、散気機構から放出される気泡によるエアリフト効果で発生した上向流により膜分離装置を下方から上方へ流れる被処理水、つまり膜ろ過後の濃縮水が、膜分離装置の上方に設けられたトラフに流れ込み、トラフを介して無酸素槽に返送されて脱窒処理されるようになる。そのため、濃縮水を無酸素槽に返送するための別途のポンプ機構を備える必要が無く、それだけ動力に費やされる運転コストを低減することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載された汚水処理設備でも、膜分離装置の水面近傍の溶存酸素濃度の高い汚泥がトラフを介して無酸素槽に返送されるため、無駄に溶存酸素を持ち込むという非効率な構成となっていた。
【0013】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、コンパクトな空間に水処理装置を設置することが可能で、かつ、無駄な溶存酸素を無酸素槽に持ち込むことを抑制可能な水処理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による汚水処理設備の第一の特徴構成は、原水が流入する無酸素槽と、複数の膜分離装置が浸漬設置された処理槽と、前記無酸素槽から前記処理槽に被処理水を供給する流入路と、前記処理槽から被処理水を前記無酸素槽に返送する返送路と、を備えた水処理装置であって、前記膜分離装置は、前記処理槽に複数列に配列して設置され、前記返送路は、前記膜分離装置の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように設置され、前記返送路は、各列に配された前記膜分離装置に対応する部位は被覆され、前記膜分離装置同士の間隙に対応する部位に被処理水を受け入れる開口部が形成されている点にある。
【0015】
処理槽に複数の膜分離装置を複数列に配列することで、一方向に細長い直方体形状の処理槽を用いる必要がなく、コンパクトな処理槽が実現できる。各膜分離装置では、被処理水を固液分離して処理水として引抜き処理が行われるとともに、分離膜の下部に備えた散気装置からの散気により生じる被処理水の上向流によって、分離膜の膜面の洗浄処理が行われる。その後、上向流は膜分離装置の上方から各列の間に下降流となって流下する。
【0016】
つまり、被処理水が膜分離装置の内部を上昇し、膜分離装置の両側である列間で下降する旋回流が生じる。下降流域では好気処理および活性汚泥中の微生物の呼吸による酸素消費が進行し、そこで酸素が不足するようであれば、補助散気装置8から酸素を供給することになるため、処理槽の底部では溶存酸素濃度は極めて低い値となる。膜分離装置の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように返送路が設置されているので、溶存酸素濃度の低い被処理水が返送汚泥として返送路を介して無酸素槽へ返送される結果、無酸素槽では無酸素処理である脱窒処理が効率的に進行する。
【0017】
溝のうち膜分離装置に対応する部位から被処理水が流出すると、散気装置からの散気があっても被処理水の上向流が妨げられるので、分離膜の膜面の洗浄処理が進まず、膜面への汚泥堆積のリスクが大きくなる。そこで、各列に配された膜分離装置に対応する部位が被覆され、膜分離装置同士の間隙に対応する部位に被処理水を受け入れる開口部を形成することで、分離膜の膜面の洗浄処理を妨げることなく、溶存酸素濃度の低い被処理水を返送汚泥として無酸素槽へ返送することができるようになる。
【0018】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記返送路は、前記処理槽の床に形成された溝で構成され、前記溝には各列に配された前記膜分離装置に対応する部位に蓋体が設置されている点にある。
【0019】
膜分離装置の各列の直下に対応するように処理槽の床に溝を形成し、その溝を返送路として機能させ、溝のうち膜分離装置に対応する部位に蓋体を設置することで、処理槽をコンパクトに構成することができる。
【0020】
同第三の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記返送路は、前記膜分離装置の直下で各列に沿う方向に延在するように、前記処理槽の床面に設置された樋で構成され、前記樋には各列に配された前記膜分離装置に対応する部位に蓋体が設置されている点にある。
【0021】
処理槽の床に溝を形成することが困難な場合には、処理槽の床面に樋を設置することで、溝の代替機能を発揮させることができる。この場合も、樋のうち各列に配された膜分離装置に対応する部位に蓋体を設置することが好ましい。
【0022】
同第四の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記返送路は、前記膜分離装置の直下で各列に沿う方向に延在するように、前記処理槽の床面に設置された管体で構成され、前記管体には各列に配された前記膜分離装置同士の間隙に対応する部位に開孔が形成されている点にある。
【0023】
樋に替えて、処理槽の床面に管体を設置し、各列に配された膜分離装置同士の間隙に対応する部位に開孔を形成することで、分離膜の膜面の洗浄処理を妨げることなく、溶存酸素濃度の低い被処理水を返送汚泥として無酸素槽へ返送することができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した通り、本発明によれば、コンパクトな空間に水処理装置を設置することが可能で、かつ、無駄な溶存酸素を無酸素槽に持ち込むことを抑制可能な水処理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】(a)は
図1のI―I線断面の要部の説明図、(b)は(a)に示す膜分路装置の内部におけるDO濃度分布の説明図、(c)は(a)に示す処理槽の内部におけるDO濃度分布の説明図
【
図3】(a)は本発明による水処理装置の平面視の説明図、(b)は(a)のII―II線断面図
【
図8】(a)は本発明による水処理装置の別実施形態を示す平面視の説明図、(b)は(a)のIII―III線断面図
【
図9】(a)は本発明による水処理装置の別実施形態を示す平面視の説明図、(b)は(a)のIV―IV線断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明による水処理装置を説明する。当該水処理装置は、原水として下水を流入させ、膜分離活性汚泥法を採用して浄化する水処理装置である。なお、当該水処理装置は、有機性排水であれば、下水以外に畜産排水、し尿、食品工場で発生する排水などを浄化処理することができる。
【0027】
図3(a),(b)に示すように、水処理装置1は、原水に含まれるアンモニア性窒素の硝化処理および膜分離処理を行なう処理槽3と、処理槽3を挟んで両側に配置され、脱窒処理を行なう無酸素槽4と、無酸素槽4から処理槽3に被処理水を供給する流入路5と、処理槽3から被処理水を無酸素槽4に返送する返送路6と、を備えている。
【0028】
処理槽3には、複数の膜分離装置7が複数列に配列して浸漬設置されるとともに、膜分離装置7の列間に各列に沿う方向に延在するように補助散気装置8が設置されている。この例では、処理槽3を区画する平面視矩形の一対の対向壁Wの間に複数の膜分離装置7が3列に配列され、各列には7台の膜分離装置7が均等間隔で配列設置されている。当該一対の対向壁Wを挟んで其々に無酸素槽4が配置されている。
【0029】
図4には、膜分離装置7の一例が示されている。膜分離装置7は、上下が開口した膜ケース70の内部に100枚の板状の膜エレメント71が、各膜面が縦姿勢となるように、かつ6mmから10mm程度(本実施形態では8mm)の一定間隔を隔てて上下に二段配列されており、さらに膜ケース70の下方に散気装置7Aを備えている。
【0030】
散気装置7Aは、複数の散気孔が形成された散気管72を備え、散気管72に接続された散気ヘッダ73を介して槽外に設置されたブロワBやコンプレッサなどの給気源に接続されている。本実施形態では、給気源としてブロワBが用いられている。
【0031】
膜エレメント71はチューブ75を介して集水管74に接続されるとともに、集水管74を介して槽外に設置された吸引機構としてのポンプP1が接続され、処理槽3内の被処理水が膜エレメント71の膜面を透過するように吸引ろ過される。
【0032】
図5に示すように、膜エレメント71は、縦1000mm×横490mmの樹脂製の膜支持体76の表裏両面に、スペーサ77を介して分離膜78が配置され、分離膜78の周縁の辺部78Eが膜支持体76に超音波や熱で溶着、または接着剤等を用いて接着されている。
【0033】
分離膜78は、平均孔径が約0.2μmの微多孔性膜で、不織布に多孔性を有する樹脂が塗布及び含浸された有機ろ過膜である。尚、膜エレメント71はこのような構成に限るものではなく、分離膜78を膜支持体76の表裏両面に巻き付けるように配置し、分離膜78の端部を接着または溶着処理したものであってもよい。
【0034】
膜支持体76の表面には長手方向に沿って深さ2mm、幅2mm程度の溝部76Gが複数本形成され、その上端部には各溝部76Gを連通する水平溝部76Hが形成されている。表裏両面に形成された水平溝部76Hが連通孔71Hを介して連通され、膜支持体76の上縁部に形成されたノズル71Nに連通されている。
【0035】
各ノズル71Nは、チューブ75を介して集水管74に接続され、集水管74には吸引機構としてのポンプP1が接続され、ポンプP1で吸引された透過水が処理水として処理水槽に移送されるように構成されている。
【0036】
このような膜分離装置7の散気装置7Aを作動させることにより膜エレメント71の間隙に下方から上方に向けて被処理水の上向流が形成され、分離膜78の膜面にファウリング物質や夾雑物が堆積することを防止でき、吸引機構を作動させることにより被処理水を分離膜78に透過させた透過水を得ることができる。
【0037】
図3(a),(b)に戻って説明を続ける。流入路5は、膜分離装置7の列間に各列に沿う方向に延在する2本の管体50で構成され、各管体50の端部が各無酸素槽4に延出するように配置されている。管体50は、処理槽3に充填された被処理水の液面近傍、具体的には、液面より僅かに下方に水平姿勢で配置されている。なお、管体50は、液面近傍であればよく、液面より僅かに上方に配置されていてもよい。
【0038】
図6(a)には、左方に側面視の管体50が示され、右方に管体50の断面が示されている。各管体50の延在方向に被処理水が分散して処理槽3に供給されるように、各管体50には複数の開口部5Hが軸心方向に分散するように形成されている。各無酸素槽4から管体50を介して処理槽3に流入する被処理水が、各管体50の延在方向に均等に供給されるように、軸心方向に形成される開口部5Hの径や間隔が調整されていることが好ましい。例えば、被処理水の流入圧力が高い中央部側の径を端部側の径よりも小径に形成し、或いは、端部側の間隔を中央部側の間隔よりも小に形成すればよい。
【0039】
図3(b)に示すように、膜分離装置7の下部に備えた散気装置7Aからの散気により被処理水に生じる上向流が、膜ケース70の内部に備えた膜エレメント71の隙間に沿って上昇し、分離膜78(
図5参照。)の膜面の洗浄処理が行われる。その後、上向流は、膜分離装置7の上方から各列の間に下降する。つまり、被処理水が膜分離装置7の内部を上昇し、膜分離装置7の両側である列間で下降する旋回流が生じる。流入路5から流入する被処理水は、列間に生じる下降流に沿って補助散気装置8に向けて下降するため、効率的に好気処理が進行する。なお、補助散気装置8から放出される気泡の粒径は、膜分離装置7の下部に備えた散気装置7Aから放出される気泡の粒径よりも極めて小さく、また散気量も少ない値に設定されているため、被処理水の下降流との十分な接触機会が得らえる。
【0040】
返送路6は、膜分離装置7の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように設置されている。
図7には返送路6が例示されている。返送路6は、処理槽3の床に形成された溝60で構成され、溝60のうち各列に配された膜分離装置7に対応する部位は、旋回流となる被処理水が膜分離装置7の下方から上方に案内されるように、溝60への被処理水の流入を阻止する蓋体61で被覆され、膜分離装置7同士の間隙に対応する部位から被処理水が溝60に流入するように開口部62が形成されている。
【0041】
開口部62から溝60に流入した被処理水は、対向壁Wを挟んで隣接された各無酸素槽4に返送される。
【0042】
処理槽3に複数の膜分離装置7を複数列に配列することで、一方向に細長い直方体形状の処理槽に形成する必要がなく、コンパクトな処理槽3が実現できる。そして、膜分離装置7の列間に各列に沿う方向に延在するように処理槽3の底部に補助散気装置8を設置するとともに、膜分離装置7の列間に各列に沿う方向に分散して被処理水を供給するように流入路5を設置することで、膜分離装置7の列間で均質に好気処理されるようになる。
【0043】
また、被処理水はその近傍の膜分離装置7により固液分離されて処理水として引き抜かれる。つまり、処理槽3内で分散して均質に好気処理および膜分離処理が行われることとなり、一方向に細長い直方体形状の処理槽を用いた場合に生じる被処理水の流れ方向に沿った溶存酸素濃度の傾斜分布やMLSS濃度の傾斜分布に起因する膜分離装置への影響を効果的に抑制することができる。
【0044】
さらに、溶存酸素濃度(DO濃度)の低い処理槽3の底部の被処理水が無酸素槽4に返送され、溶存酸素濃度(DO濃度)の高い処理槽3の上層の被処理水は流入路5から流入する被処理水と効率的に接触するようになる。
【0045】
上述したように、各膜分離装置7では、被処理水を固液分離して処理水として引抜き処理が行われるとともに、分離膜78の下部に備えた散気装置7Aからの散気により生じる被処理水の上向流によって、分離膜78の膜面の洗浄処理が行われる。その後、上向流は膜分離装置7の上方から各列の間に下降流となって流下する。
【0046】
つまり、被処理水が膜分離装置の内部を上昇し、膜分離装置の両側である列間で下降する旋回流が生じる。下降流域では好気処理および活性汚泥中の微生物の呼吸による酸素消費が進行し、そこで酸素が不足するようであれば、補助散気装置8から酸素を供給することになるため、処理槽3の底部では溶存酸素濃度は極めて低い値となる。膜分離装置7の各列の直下に、各列に沿う方向に延在するように返送路6が設置されているので、溶存酸素濃度の低い被処理水が返送汚泥として返送路6を介して無酸素槽4へ返送される結果、無酸素槽4では無酸素処理である脱窒処理が効率的に進行する。
【0047】
溝のうち膜分離装置7に対応する部位から被処理水が流出すると、散気装置7Aからの散気があっても被処理水の上向流が妨げられるので、分離膜78の膜面の洗浄処理が進まず、膜面への汚泥堆積のリスクが大きくなる。そこで、各列に配された膜分離装置7に対応する部位が被覆され、膜分離装置7同士の間隙に対応する部位に被処理水を受け入れる開口部を形成することで、分離膜78の膜面の洗浄処理を妨げることなく、溶存酸素濃度の低い被処理水を返送汚泥として無酸素槽4へ返送することができるようになる。
【0048】
無酸素槽4から処理槽3に被処理水が流入する流入路5、または、処理槽3から無酸素槽4被処理水が返送される返送路6の経路の何れかにポンプ機構を設けることで、無酸素槽4と処理槽3との間で被処理水が安定的に循環するようになる。なお、処理槽3の余剰汚泥を引く抜く余剰汚泥引抜路を別途設置することで、処理槽3のMLSS濃度を一定に保持することができる。
【0049】
以下、水処理装置1の別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、処理槽3の一対の対向壁Wを挟んで其々に無酸素槽4が配置され、無酸素槽4に原水が流入する態様を説明したが、無酸素槽4を挟んで処理槽3の反対側にリンを除去する嫌気槽を設けて、嫌気槽に原水が流入する態様であってもよい。この場合、嫌気槽と無酸素槽4との間に汚泥の返送路をさらに備えればよい。無酸素槽4に隣接して嫌気槽を設ける構成は、後に説明する水処理装置1の別実施形態にも適用可能であることは言うまでもない。
【0050】
上述した実施形態では、処理槽3の一対の対向壁Wを挟んで其々に無酸素槽4が配置される態様を説明したが、処理槽3の一対の対向壁Wのうち、一方の壁Wを挟んで一槽の無酸素槽4が配置される態様であってもよい。また、その無酸素槽4を挟んで処理槽3の反対側に嫌気槽を設ける態様を採用してもよい。この場合、流入路5と返送路6を流れる被処理水は一方向のみになる。
【0051】
上述した実施形態では、処理槽3を区画する平面視矩形の一対の対向壁Wの間に複数の膜分離装置7が列状に配列され、各列に複数台の膜分離装置7が均等間隔で配列設置され、さらに一対の対向壁Wを挟んで其々に無酸素槽4が配置された態様を説明したが、本発明は、このような配列に限るものではない。
例えば、
図8(a),(b)に示すように、一対の対向壁Wの間に複数の膜分離装置7が列状に配列され、各列に複数台の膜分離装置7が均等間隔で配列設置され、一対の対向壁Wとは異なる対向壁W´を挟んで無酸素槽4が配置される態様であってもよい。
【0052】
この態様では、一対の対向壁Wに配された複数の管体50を其々連通する連通管53を介して無酸素槽4からの被処理水が処理槽3に流入し、一対の対向壁Wに配された複数の返送路6を其々連通する連通管63を介して処理槽3から無酸素槽4に返送汚泥が返送されるように構成することができる。なお、この例では、連通管53に被処理水を送水するポンプPを設置している。
【0053】
また、
図9(a),(b)に示すように、
図3(a),(b)で示した水処理装置1に加えて、補助散気装置8は、膜分離装置7と処理槽3の側壁W´´との間に各列に沿う方向に延在するように設置され、流入路5は、膜分離装置7と処理槽3の側壁W´´との間に各列に沿う方向に分散して被処理水を供給するように設置されていてもよい。このように構成することで、膜分離装置の列間のみならず、膜分離装置と処理槽の側壁との間でも均質に好気処理され、処理槽全体としてより均質に好気処理が行われることとなる。
【0054】
さらに、
図8(a),(b)に示す水処理装置1に、
図9(a),(b)に示す構成を組み合わせてもよい。つまり、補助散気装置8は、膜分離装置7と処理槽3の側壁W´との間に各列に沿う方向に延在するように設置され、流入路5は、膜分離装置7と処理槽3の側壁W´との間に各列に沿う方向に分散して被処理水を供給するように設置されていてもよい。
【0055】
図6(b)~(d)には、流入路5の様々な態様を示している。
図6(b)には、左方に側面視の管体50が示され、右方に管体50の断面が示されている。流入路5を構成する管体50に、軸心方向に沿ってスリットを形成し、当該スリットを開口部5Hとして機能させる態様が示されている。この例では、管体50の中心を通る鉛直線に対して、左右に所定角度θ傾斜した位置に、管体50の長手方向に其々1本のスリットを形成した例を示している。所定角度θの値は特に限定するものではなく、適宜設定すればよい。所定角度θを0°として、直下に1本のスリットを形成してもよい。これらの点は
図6(a)も同様である。
【0056】
スリットは管体50の長手方向に沿って複数に分割形成されていてもよい。各無酸素槽4から管体50を介して処理槽3に流入する被処理水が、各管体50の延在方向に均等に供給されるように、スリットの幅や長さが調整されていることが好ましい。例えば、被処理水の流入圧力が高くなる中央部側のスリット幅を端部側のスリット幅よりも狭く形成することができる。また、処理槽3の対向壁Wの何れか一方にのみ無酸素槽4が配置されている場合には、無酸素槽4側に位置する管体50の管端部とは反対側の管端部側で被処理水の流入圧力が高くなるので、反対側の管端部側に向けて次第にスリット幅が狭くなるようにスリットを形成すればよい。
【0057】
図6(c)には、樋状の流入路5が示されている。流入路5の底部が無酸素槽4の水面よりも僅かに低い位置に配置され、無酸素槽4で樋に流入する被処理水が、処理槽3に溢流するように上端縁にノッチ5Nが形成されている。
図6(a),(b)と同様に、無酸素槽4から流入路5を介して処理槽3に流入する被処理水が、流入路5の延在方向に均等に供給されるように、ノッチ5Nの深さや間隔が調整されていることが好ましい。
【0058】
図6(a)~(c)では、流入路5が1本の管体50または樋で構成された例を示したが、
図6(d)に示すように、流入路5の延在方向に沿って開口端が分散するように配された複数の管体50で構成されてもよい。一方の開口端50Aから流入した被処理水が他方の開口端50Bから処理槽3に流出する複数本の管体50により流入路5が形成され、各管体50の他方の開口端50Bが流入路5の延在方向に沿って分散するように、他方の開口端50Bの位置を異ならせればよい。処理槽3の一対の対向壁Wを挟んで一方にのみ無酸素槽4が配置されている場合に好適に用いることができる。
【0059】
上述した実施形態では、返送路6が処理槽3の床に形成された溝60で構成された態様を説明したが、返送路6は、膜分離装置7の直下で各列に沿う方向に延在するように、処理槽3の床面に設置された樋で構成され、樋には各列に配された膜分離装置7に対応する部位に蓋体が設置された態様であってもよい。コンクリート躯体で構成される処理槽3の底部に溝を形成することが困難な場合でも、膜分離装置7の直下で処理槽3の床面に樋を設置することで返送路6を構成することができる。
【0060】
また、返送路6を、膜分離装置7の直下で各列に沿う方向に延在するように、処理槽3の床面に設置された管体で構成し、当該管体のうち各列に配された膜分離装置7同士の間隙に対応する部位に返送汚泥が流入する開孔を形成してもよい。
【0061】
上述した実施形態は本発明の一態様の説明であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1:水処理装置
3:処理槽
4:無酸素槽
5:流入路
6:返送路
7:膜分離装置
8:補助散気装置