(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008805
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
B63H 21/20 20060101AFI20250109BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20250109BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20250109BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B63H21/20
B63H21/21
B63H21/17
B63H21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111320
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】曽我 泰経
(72)【発明者】
【氏名】紀井 信彦
(72)【発明者】
【氏名】植村 育大
(57)【要約】
【課題】エンジンを用いて推進力を発生させる船舶においてエンジンの熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法を提供する。
【解決手段】船舶の推進システムは、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、エンジンに機械的に接続され、エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、発電機に電気的に接続される電力変換器と、エンジンおよび電力変換器を制御する制御器と、を備え、制御器の処理回路は、推進力指令値を取得し、推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、推進力指令値が所定の範囲内である場合、エンジンの回転数を基準値における回転数に維持するようにエンジンを制御するとともに発電機における発電量を基準値における発電量より増加させるように電力変換器を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、
前記制御器は、処理回路を含み、
前記処理回路は、
前記推進力指令値を取得し、
前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、
前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する、推進システム。
【請求項2】
前記処理回路は、
前記推進力指令値と前記基準値との間の推進力差を算出し、
前記基準値における発電量に前記推進力差に応じた発電量を加えた発電量を発電量目標値として算出する、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
前記発電機は、前記推進プロペラに動力伝達可能に構成される電動発電機であり、
前記処理回路は、前記電動発電機が前記推進プロペラに動力を伝達している状態において、前記推進力指令値が低減した場合、前記エンジンの回転数を現在の回転数に維持しつつ、前記電動発電機が発生させる駆動力を減少させるように前記電力変換器を制御する、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項4】
前記処理回路は、前記推進力指令値が前記基準値である場合、前記エンジンから前記推進力指令値に対応する回転数より高い回転数となるように前記エンジンを制御し、前記エンジンから出力される余剰の駆動力を用いて前記発電機において発電するように前記電力変換器を制御する、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項5】
前記エンジンは、液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料を用いて駆動力を発生させるガスエンジンである、請求項1または2に記載の推進システム。
【請求項6】
推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、
前記制御プログラムは、前記制御器に、
前記推進力指令値を取得すること、
前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定すること、および
前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御することを行わせる、制御プログラム。
【請求項7】
推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、
前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、
前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、
前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、
前記推進力指令値を取得し、
前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、
前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンで発生した駆動力を推進力として用いる船舶において、燃料消費量を低減することは重要である。
【0003】
下記特許文献1では、推進プロペラとして翼角を変更可能な可変ピッチプロペラを採用し、可変ピッチプロペラの翼角変更時に翼角指令値が増加方向に変化しているか、減少方向に変化しているかに基づいて、電動発電機においてエンジンの動力に基づいて発電を行った場合の発電電力または電動発電機に接続される蓄電器からの電力に基づいて電動発電機を駆動するための電動電力を制御することが提案されている。これにより、下記特許文献1では、可変ピッチプロペラの翼角を変更することによるエンジンの負荷変動を低減できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1には定常的な運転時において燃料消費効率を高くするための対策について提案されていない。船舶において、目的に到達するまでに時間的な余裕がある場合、エンジン回転数を低減させることで燃料消費を抑える低速運転をすることが考えられる。推進力指令値の低下に応じてエンジンの回転数を低くすることで燃料消費は低減するが、エンジンの回転数が低くなるとエンジンが低負荷域での運転となり、エンジンの熱効率が低下する恐れがある。特に、エンジンが液化天然ガス等の液化ガスを気化して燃料として使用するガスエンジンである場合、低負荷域では燃焼が不安定となり、未燃ガスの発生が多くなるため、連続運転が困難な場合がある。一方、可変ピッチプロペラを搭載した船舶であれば、エンジンの回転数を下げずに可変ピッチプロペラの翼角を調整することで船速を低減させることはできるが、船速を低減することで燃料消費効率を高くすることはできない。
【0006】
本開示は上記に鑑みなされたものであり、エンジンを用いて推進力を発生させる船舶においてエンジンの熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる船舶の推進システム、制御プログラムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る推進システムは、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、前記制御器は、処理回路を含み、前記処理回路は、前記推進力指令値を取得し、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する。
【0008】
本開示の他の態様に係る制御プログラムは、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、前記制御プログラムは、前記制御器に、前記推進力指令値を取得すること、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定すること、および前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御することを行わせる。
【0009】
本開示の他の態様に係る制御方法は、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、前記推進力指令値を取得し、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、エンジンを用いて推進力を発生させる船舶においてエンジンの熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の一実施の形態に係る船舶の推進システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態における第1制御モード時の制御態様を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施の形態1において基準値による制御時および回転数維持制御時のそれぞれにおけるエンジン出力、推進力指令値および発電量目標値を模式的に示すイメージ図である。
【
図4】
図4は、実施の形態2において基準値による制御時および回転数維持制御時のそれぞれにおけるエンジン出力、推進力指令値および発電量目標値を模式的に示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0013】
[実施の形態1]
図1は、本開示の一実施の形態に係る船舶の推進システムの概略構成を示すブロック図である。本実施の形態においては、船舶として、エンジン3および電動発電機4を推進プロペラ2への駆動力の発生源として使用可能なハイブリッド推進船を例示する。
【0014】
本実施の形態における推進システム1は、推進プロペラ2、エンジン3、電動発電機4および第1電力変換器7を備えている。推進プロペラ2は、推進力指令値に従って翼角を変更可能に構成された可変ピッチプロペラである。
【0015】
エンジン3は、液化天然ガスを気化させた燃料ガスを含む燃料を用いて駆動力を発生させるガスエンジンである。なお、エンジン3は、液化天然ガスを気化させた燃料ガスを専焼するガス専焼エンジンでもよいし、燃料ガスと、重油等の液体燃料とを切り替えて燃焼可能なデュアルフューエルエンジンでもよいし、液体燃料を燃料とするディーゼルエンジンでもよい。
【0016】
エンジン3および電動発電機4は、減速機5を介して推進プロペラ2に機械的に接続されている。電動発電機4は、第1電力変換器7に電気的に接続される。第1電力変換器7は、直流配線6と電動発電機4との間に介装される。電動発電機4は、直流配線6を通じて供給される電力から動力を発生させることにより、推進プロペラ2に動力を伝達可能である。このとき、第1電力変換器7は、直流配線6における直流電圧を交流電圧に変換して、電動発電機4に出力する。さらに、電動発電機4は、エンジン3の駆動力を利用して発電を行い、直流配線6に電力を供給することもできる。このとき、第1電力変換器7は、電動発電機4が発電することにより生じた交流電圧を直流電圧に変換して直流配線6に出力する。
【0017】
さらに、直流配線6には、蓄電器9が接続される。蓄電器9は、二次電池またはキャパシタ等であり、直流配線6の直流電圧を所定の直流電圧に変換するDC-DCコンバータ等の電力変換器を含む場合もある。また、直流配線6には、第2電力変換器10を介して交流配線11が接続される。第2電力変換器10は、直流配線6の直流電圧を交流電圧に変換して、交流配線11に出力し、交流配線11の交流電圧を直流電圧に変換して、直流配線6に出力する。交流配線11または直流配線6には、船内負荷が接続され得る。
【0018】
このような推進システム1によれば、機械的推進部であるエンジン3および電気的推進部である電動発電機4との間で協調的に船舶の推進力を発生させることができる。また、推進システム1によれば、エンジン3により生じた推進力の余剰分を電動発電機4により電力として回収し、交流配線11に電力を供給したり、蓄電器9に蓄電したりすることができる。
【0019】
推進システム1は、制御器14を備えている。制御器14は、各種の信号処理を行う処理回路15を備えている。処理回路15は、例えばマイクロコントローラ、パーソナルコンピュータ、PLC(Programmable Logic Controller)等のコンピュータを有する。より具体的には、処理回路15は、プロセッサ、記憶器および周辺回路を含む。プロセッサは、例えば、CPUまたはMPU等を含む。記憶器は、ROM、RAM、レジスタ、不揮発性のストレージ等を含む。周辺回路は、入出力インターフェイス等を含む。制御器14は、ハイブリッド推進船を操作する操作入力器16に接続される。制御器14は、制御状態を表示するモニタまたは音声出力を行うスピーカ等に接続されてもよい。
【0020】
なお、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本明細書において、回路、ユニット、手段、または部は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、ユニット、または手段はハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0021】
制御器14の記憶器には、制御対象を制御するための制御プログラムが記憶される。制御器14は、制御プログラムに基づいて制御対象を制御する。制御器14の制御対象は、推進プロペラ2、エンジン3、および第1電力変換器7を含む。制御器14は、これらの構成2,3,7を制御する1つの制御器として構成されてもよいし、2以上の制御器により構成されてもよい。また、制御器14は、蓄電器9、第2電力変換器10、または、交流配線11に接続される負荷を制御可能に構成されてもよい。
【0022】
制御器14は、推進力指令値Foに基づいて推進プロペラ2の翼角、エンジン3の出力および第1電力変換器7を制御する。推進力指令値Foは、操作入力器16から入力される。操作入力器16は、例えば、船舶の速度調整および前進と後進との切り替えを操作するための操作レバーまたは操作ハンドルにより構成され得る。例えば、操作レバーは、第1方向に最大量操作した位置が前進側の最大船速に対応し、第1方向とは反対の第2方向に最大量操作した位置が後進側の最大船速に対応し、中立位置が船速0に対応するように構成されている。
【0023】
操作入力器16は、操作レバーの操作位置に対応する船舶速度が速いほど大きい推進力指令値Foを生成する。処理回路15は、推進力指令値Foに基づいて推進プロペラ2の翼角目標値Woを生成する。処理回路15は、推進力指令値Foが大きいほど翼角が大きくなるような翼角目標値Woを生成する。例えば、操作レバーが第1方向の位置にある場合には、正の翼角となる翼角目標値Woが生成され、操作レバーが第2方向の位置にある場合には、負の翼角となる翼角目標値Woが生成される。
【0024】
なお、本実施の形態において、推進システム1は、推進プロペラ2の翼角を検出する翼角センサ17を備えている。制御器14は、翼角センサ17が検出する値を取得し、推進プロペラ2の翼角が翼角目標値Woになるようにフィードバック制御を行う。
【0025】
さらに、制御器14は、推進力指令値Foに従ってエンジン3の回転数を制御する。処理回路15は、推進力指令値Foからエンジン回転数目標値Eoを生成する。制御器14は、エンジン3の回転数がエンジン回転数目標値Eoを維持するように、エンジン3を制御する。
【0026】
さらに、制御器14は、電力変換指令値に従って第1電力変換器7を制御する。例えば、制御器14は、航行時における通常の制御モードにおいて、電動発電機4で所定の電力を発電し、直流配線6に供給するように制御する。本実施の形態では、通常の航行時における第1電力変換器7に対する制御モードを、第1制御モードと称する。第1制御モードでは、電動発電機4は常時発電を行う。このため、エンジン回転数目標値Eoは、推進プロペラ2で発生する出力より大きな出力を発生するような回転数に設定される。
【0027】
第1制御モードにおいて、第1電力変換器7から直流配線6に供給された電力は、第2電力変換器10を介して交流配線11に供給される。余剰の電力は、直流配線6から蓄電器9に供給され、蓄電器9に蓄えられる。蓄電器9の充電率が所定値以上である場合、制御器14は、蓄電器9に蓄えられた電力を交流配線11または電動発電機4に供給するように蓄電器9を制御し得る。この場合、制御器14は、電動発電機4から直流配線6に供給される電力を第1制御モード時より低減させる、または、直流配線6から電動発電機4に供給する制御を行う。
【0028】
本実施の形態では、蓄電器9の放電時における第1電力変換器7に対する制御モードを、第2制御モードと称する。第2制御モードは、エンジン3の駆動力と電動発電機4の駆動力とで推進力を発生させるハイブリッドモードである。
【0029】
処理回路15は、第1制御モードにおいて、推進力指令値Foが基準値より低い所定の範囲内である場合に、エンジン3の回転数を維持する回転数維持制御を行う。以下の例では、推進力指令値Foの基準値を第1指令値Fo1とし、回転数維持制御を行う範囲を、第1指令値Fo1より小さい第2指令値Fo2以上かつ第1指令値Fo1より小さい範囲、すなわち、Fo2≦Fo<Fo1とする。例えば、第1指令値Fo1は、操作レバーの操作位置がナビゲーションフル(Nav. FULL)である場合の推進力指令値に対応し、第2指令値Fo2は、操作レバーの操作位置がフル(FULL)である場合の推進力指令値に対応する。
【0030】
図2は、本実施の形態における第1制御モード時の制御態様を示すフローチャートである。また、
図3は、実施の形態1において基準値による制御時および回転数維持制御時のそれぞれにおけるエンジン出力、推進力指令値および発電量目標値を模式的に示すイメージ図である。なお、エンジン出力は、エンジン回転数目標値Eoから換算されるエンジン出力値であり、
図3においてエンジン回転数目標値Eoで表している。
【0031】
上述した通り、第1制御モードにおいては、電動発電機4は常時発電を行うため、エンジン回転数目標値Eoは、推進プロペラ2で発生する出力より大きな出力を発生するような回転数に設定される。すなわち、処理回路15は、推進力指令値Foが基準値である第1指令値Fo1である場合、エンジン3から第1指令値Fo1に対応する回転数より高いエンジン回転数目標値Eo1を生成し、当該エンジン回転数目標値Eo1となるようにエンジン3を制御する。さらに、処理回路15は、エンジン3から出力される余剰の駆動力を用いて電動発電機4において発電するように第1電力変換器7を制御する。
【0032】
図3に示すように、推進力指令値Foが第1指令値Fo1であるときのエンジン回転数目標値をEo1とすると、トルクまたは電力換算で、Eo1=Fo1+Go1となる。なお、Go1は、電動発電機4が発電する発電量の目標値を示す発電量目標値である。処理回路15は、第1電力変換器7が発電量目標値Go1に応じた電力を電動発電機4から受け取り、直流配線6に供給するような電力変換指令値を生成する。本実施の形態において、Fo1は、推進力指令値Foの基準値であり、Eo1は、エンジン回転数目標値Eoの基準値であり、Go1は、発電量目標値Goの基準値である。
【0033】
第1制御モードにおいて、処理回路15は、推進力指令値Foを取得する(ステップS1)。処理回路15は、推進力指令値Foが所定の範囲内であるか否か、すなわち、推進力指令値FoがFo2≦Fo<Fo1を満たすか否かを判定する(ステップS2)。推進力指令値Foが所定の範囲外である場合(ステップS2でNo)、処理回路15は、取得した推進力指令値Foに応じてエンジン回転数目標値Eo、翼角目標値Woおよび発電量目標値Goを設定する(ステップS7)。例えば、推進力指令値Foが第1指令値Fo1である場合、処理回路15は、上記の通り、発電量目標値GoをGo1に設定し、エンジン回転数目標値EoをEo1に設定する。また、推進力指令値Foが第1指令値Fo1より大きい場合および推進力指令値Foが第2指令値Fo2より小さい場合も同様である。
【0034】
一方、推進力指令値Foが所定の範囲内である場合(ステップS2でYes)、処理回路15は、回転数維持制御を実行する。この場合、処理回路15は、取得した推進力指令値Foによらずエンジン回転数目標値Eoを一定値に設定する(ステップS3)。このときのエンジン回転数目標値Eoは、基準値であるエンジン回転数目標値Eo1である。また、処理回路15は、取得した推進力指令値Foに応じて翼角目標値Woを設定する(ステップS4)。
【0035】
さらに、処理回路15は、電動発電機4における発電量を基準値における発電量より増加させるような発電量目標値Goを生成する。より具体的には、処理回路15は、推進力指令値Foと基準値である第1指令値Fo1との間の推進力差Fdを算出する(ステップS5)。推進力差Fdは、Fd=Fo1-Foで示される。処理回路15は、基準値における発電量目標値Go1に推進力差Fdに応じた発電量を加えた発電量を発電量目標値Goとして算出する(ステップS6)。発電量目標値Goは、Go=G1+Fdで示される。
【0036】
図3に示すように、推進力指令値Foが所定の範囲内である場合、基準値である第1指令値Fo1に比べて、推進力指令値Foは、小さくなっているにもかかわらず、エンジン回転数目標値Eoは、エンジン回転数目標値の基準値Eo1に維持される。そのため、本実施の形態では、エンジン3の駆動力のうち、発電に使用される割合を増大させる。これにより、エンジン3の回転数を維持しながら船舶の速度を低減させる低速運転を行うことができる。推進力は船速の3乗に比例するため、低速運転を行うことにより、燃料消費量を低減することができる。したがって、本実施の形態によれば、エンジン3を用いて推進力を発生させる船舶においてエンジン3の熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる。これにより、環境負荷の低い船舶を実現することができる。また、エンジン3の駆動力を効率よく発電に利用することができるため、推進システム1において発電を行う構成を主機であるエンジン3の駆動力を用いて発電する電動発電機4のみとすることも可能である。この場合、発電機を別途備えた構成に比べて船舶を小型化および軽量化することができる。
【0037】
[実施の形態2]
以下に、本開示の実施の形態2について説明する。本実施の形態においても推進システム1の構成は、
図1に示す実施の形態1と同様である。本実施の形態の説明においては、実施の形態1と同様の構成について同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
本実施の形態が実施の形態1と異なる点は、回転数維持制御を行う所定の範囲が、エンジン3の駆動力を船舶の推進力と電動発電機4での発電とに振り分ける第1制御モード時の回転数目標値範囲と、エンジン3の駆動力と電動発電機4の駆動力とで推進力を発生させる第2制御モード時の回転数目標値範囲との両方を含むことである。
【0039】
図4は、実施の形態2において基準値による制御時および回転数維持制御時のそれぞれにおけるエンジン出力、推進力指令値および発電量目標値を模式的に示すイメージ図である。本実施の形態において、処理回路15は、推進力指令値Foに応じて第1制御モードと第2制御モードとを切り替える。
図4の例では、
図3の例と同様に、推進力指令値Foの基準値が第1指令値Fo1である。処理回路15は、推進力指令値Foが第2指令値Fo2以上かつ第1指令値Fo1未満である場合、
図3の例と同様に、低速運転のための回転数維持制御を実行する。
【0040】
さらに、処理回路15は、推進力指令値Foが第1指令値Fo1より大きく第3指令値Fo3未満である場合、エンジン回転数目標値Eoを基準値Eo1に維持しつつ発電量目標値Goを低減する制御を実行する。処理回路15は、推進力指令値Foが第3指令値Fo3である場合、発電量目標値Goをゼロにする。すなわち、第3指令値Fo3は、エンジン回転数目標値Eoの基準値Eo1におけるエンジン出力に相当する推進力値に設定される。
【0041】
このように、処理回路15は、推進力指令値Foが第3指令値Fo3未満である場合に第1制御モードを実行する。一方、処理回路15は、推進力指令値Foが第3指令値Fo3より大きい値である場合に、第2制御モードを実行する。すなわち、処理回路15は、推進力指令値Foが第3指令値Fo3を基準として第1制御モードと第2制御モードとを切り替える。本例において、第3指令値Fo3より大きい値に設定される第4指令値Fo4は、第2制御モードにおいて、電動発電機4が駆動力を発生させる場合の基準値である。第4指令値Fo4において、電動発電機4が発生させる駆動力すなわち加勢力目標値Ao4が、エンジン3に対する電動発電機4の加勢力についての基準値となる。処理回路15は、第1電力変換器7が加勢力目標値Aoに応じた電力を直流配線6から電動発電機4に供給するような電力変換指令値を生成する。
【0042】
処理回路15は、第2制御モードにおいて、推進力指令値Foが第4指令値Fo4から低減した場合、エンジン3の回転数を現在の回転数に維持しつつ、電動発電機4が発生させる駆動力を減少させるように第1電力変換器7を制御する。より具体的には、処理回路15は、推進力指令値Foが第3指令値Fo3より大きくかつ第4指令値Fo4より小さい場合、エンジン回転数目標値Eoを基準値Eo1に維持する。この場合、処理回路15は、取得した推進力指令値Foと第4指令値Fo4との間の推進力差Fdaを算出する。推進力差Fdaは、Fda=Fo4-Foで示される。処理回路15は、第4指令値Fo4における加勢力目標値Ao4から推進力差Fdaに応じた加勢力を減じた加勢力を加勢力目標値Aoとして算出する。加勢力目標値Aoは、Ao=Ao4-Fdaで示される。
【0043】
上記実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、推進力指令値Foが第1発電モードにおいて基準値である第1指令値Fo1より低い所定の範囲内、すなわち、Fo2≦Fo<Fo1である場合、基準値である第1指令値Fo1に比べて、推進力指令値Foは、小さくなっているにもかかわらず、エンジン回転数目標値Eoは、エンジン回転数目標値の基準値Eo1に維持される。そのため、本実施の形態では、エンジン3の駆動力のうち、発電に使用される割合を増大させる。これにより、エンジン3の回転数を維持しながら船舶の速度を低減させる低速運転を行うことができる。したがって、本実施の形態によれば、エンジン3を用いて推進力を発生させる船舶においてエンジン3の熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる。
【0044】
さらに、電動発電機4から出力される駆動力を用いてエンジン3の出力に加勢する第2制御モードにおいてもエンジン3の回転数を一定に維持したまま電動発電機4の出力を変化させる。これにより、第2制御モードにおいてもエンジン3の回転数を維持しながら船舶の速度を増減させることができる。このように、エンジン3の回転数を維持しつつ推進力を連続的に変化させることができ、第1制御モードと第2制御モードとの間の切り替えをスムーズに行うことができる。
【0045】
本実施の形態では、上記のように、回転数維持制御が行われる所定の範囲が第1制御モード時の回転数目標値範囲だけでなく第2制御モード時の回転数目標値範囲を含むため、エンジン3の回転数を維持しながら船舶の速度を変更できる範囲を広くすることができる。これにより、推進システム1として出力可能な出力最大値が同じでもエンジン3における出力最大値を低く抑えることができる。したがって、同じクラスの船舶に搭載されるエンジン3を小型化しつつ出力最大値を維持することができる。
【0046】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0047】
[他の実施の形態]
例えば、上記実施の形態においては、推進プロペラ2に動力伝達可能に構成される電動発電機4を発電機として備えたハイブリッド推進船のための推進システム1を例示したが、エンジン3の駆動力を用いて発電機が発電可能である構成であれば、どのような推進システムであってもよい。例えば、本開示の制御態様は、推進プロペラ2に駆動力を出力しない、すなわち、エンジン3の駆動力を用いて発電を行う機能のみを有する発電機を備えた推進システム1においても適用可能である。
【0048】
また、上記実施の形態においては、エンジン3および電動発電機4が減速機5を介して推進プロペラ2に並列に接続される構成を例示したが、これに限られない。例えば、推進システム1は、エンジン3の出力軸と推進プロペラ2の回転軸との間に接続された中間軸に発電機の回転子が固定された中間軸方式の電動発電機4を備えてもよい。
【0049】
また、上記実施の形態においては、推進プロペラ2として可変ピッチプロペラを備えた推進システム1を例示したが、推進システムは、翼角が一定の推進プロペラを備えていてもよい。
【0050】
上記実施の形態における制御プログラムは、外部のコンピュータからダウンロードすることによって提供される、または記録媒体に記録されるプログラム製品として構成されてもよいし、制御プログラムが予めインストールされたコンピュータ製品として構成されてもよい。
【0051】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る推進システムは、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の推進システムであって、前記制御器は、処理回路を含み、前記処理回路は、前記推進力指令値を取得し、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する。
【0052】
上記構成によれば、推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内である場合、推進力指令値が基準値より小さくなっているにもかかわらず、エンジンの回転数は、基準値に対応する回転数に維持される。その分、エンジンの駆動力のうち、発電に使用される割合を増大させる。これにより、エンジンの回転数を維持しながら船舶の速度を低減させる低速運転を行うことができる。したがって、エンジンを用いて推進力を発生させる船舶においてエンジンの熱効率が低減することを抑制しつつ燃料消費効率の高い運転を行うことができる。
【0053】
[項目2]
項目1の推進システムにおいて、前記処理回路は、前記推進力指令値と前記基準値との間の推進力差を算出し、前記基準値における発電量に前記推進力差に応じた発電量を加えた発電量を発電量目標値として算出してもよい。
【0054】
[項目3]
項目1または2の推進システムにおいて、前記発電機は、前記推進プロペラに動力伝達可能に構成される電動発電機であり、前記処理回路は、前記電動発電機が前記推進プロペラに動力を伝達している状態において、前記推進力指令値が低減した場合、前記エンジンの回転数を現在の回転数に維持しつつ、前記電動発電機が発生させる駆動力を減少させるように前記電力変換器を制御してもよい。これによれば、電動発電機から出力される駆動力を用いてエンジンの出力に加勢する際も、エンジンの回転数を一定に維持したまま電動発電機の出力を変化させる。これにより、電動発電機が加勢状態か発電状態化にかかわらずエンジンの回転数を維持しながら船舶の速度を増減させることができる。
【0055】
[項目4]
項目1から3の何れかの推進システムにおいて、前記処理回路は、前記推進力指令値が前記基準値である場合、前記エンジンから前記推進力指令値に対応する回転数より高い回転数となるように前記エンジンを制御し、前記エンジンから出力される余剰の駆動力を用いて前記発電機において発電するように前記電力変換器を制御してもよい。
【0056】
[項目5]
項目1から4の何れかの推進システムにおいて、前記エンジンは、液化ガスを気化した燃料ガスを含む燃料を用いて駆動力を発生させるガスエンジンであってもよい。
【0057】
[項目6]
本開示の他の態様に係る船舶の制御プログラムは、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御プログラムであって、前記制御プログラムは、前記制御器に、前記推進力指令値を取得すること、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定すること、および前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御することを行わせる。
【0058】
[項目7]
本開示の他の態様に係る船舶の制御方法は、推進プロペラに機械的に接続され、推進力指令値に従って回転数が制御されるエンジンと、前記エンジンに機械的に接続され、前記エンジンの駆動力を利用して発電可能な発電機と、前記発電機に電気的に接続される電力変換器と、前記エンジンおよび前記電力変換器を制御する制御器と、を備えた船舶の制御方法であって、前記推進力指令値を取得し、前記推進力指令値が基準値より低い所定の範囲内であるか否かを判定し、前記推進力指令値が前記所定の範囲内である場合、前記エンジンの回転数を前記基準値における回転数に維持するように前記エンジンを制御するとともに前記発電機における発電量を前記基準値における発電量より増加させるように前記電力変換器を制御する。
【符号の説明】
【0059】
1 推進システム
2 推進プロペラ
3 エンジン
4 電動発電機(発電機)
7 第1電力変換器(電力変換器)
14 制御器
15 処理回路