(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025088070
(43)【公開日】2025-06-11
(54)【発明の名称】蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法、及び蓋付きピアスナットを備える板材
(51)【国際特許分類】
B21D 39/00 20060101AFI20250604BHJP
F16B 37/04 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
B21D39/00 D
F16B37/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202517
(22)【出願日】2023-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣井 雄一
(57)【要約】
【課題】コスト増大を抑制しつつ容易に製造可能な、蓋付きピアスナットを備える板材を実現する。
【解決手段】蓋付きピアスナット15を備える板材10の製造方法は、頭部21と、中軸部25とを有するピアスナット20と、ダイス80との間に板材10を設置して、ピアスナット20とダイス80との間を中軸部25の軸方向に加圧することで、中軸部25によって板材10の一部を打ち抜きスクラップ10Aとして切り出すスクラップ形成工程S10と、中軸部25とダイス80との間を軸方向に加圧することで、切り出されたスクラップ10Aを、中軸部25の先端開口25B1の開口縁部25Cにかしめ固定して蓋30とする蓋締結工程S20と、頭部21とダイス80との間を軸方向に加圧することで、頭部21を、スクラップ10Aが切り出された後の板材10にかしめ固定する板材締結工程S30と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と、前記頭部より外径の小さい中軸部と、を有する中空筒状のピアスナットと、前記ピアスナットの前記中軸部が挿入される挿入口を有するダイスと、の間に板材を設置して、前記ピアスナットと前記ダイスとの間を前記中軸部の軸方向に加圧することで、前記ピアスナットの前記中軸部によって前記板材の一部を打ち抜き、前記挿入口内にスクラップとして切り出すスクラップ形成工程と、
前記ピアスナットの前記中軸部と前記ダイスとの間を前記軸方向に加圧することで、前記挿入口内に切り出された前記スクラップを、前記ピアスナットの前記中軸部の先端開口の開口縁部にかしめ固定して蓋とする蓋締結工程と、
前記ピアスナットの前記頭部と前記ダイスとの間を前記軸方向に加圧することで、前記ピアスナットの前記頭部を、前記スクラップが切り出された後の前記板材にかしめ固定する板材締結工程と、を含む、蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項2】
前記スクラップ形成工程、前記蓋締結工程、及び前記板材締結工程は、前記ダイスに対して前記ピアスナットを前記軸方向に押圧することで連続して実行される、請求項1に記載の蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項3】
前記蓋締結工程、及び前記板材締結工程は同時に実行される、請求項2に記載の蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項4】
前記ダイスは、内部空間を有する第1ダイスと、前記第1ダイスの前記内部空間に挿入され、前記軸方向に沿って変位可能な第2ダイスと、を有し、
前記ダイスの前記挿入口の前記軸方向の長さは、前記第2ダイスの位置によって変更可能とされ、
前記スクラップ形成工程、前記蓋締結工程、及び前記板材締結工程の後に、前記第2ダイスを前記軸方向に沿って変位させることで、前記ピアスナットの前記中軸部を前記ダイスの前記挿入口から排出する排出工程を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項5】
前記第2ダイスの前記挿入口側の端部は、前記挿入口側が先細となる傾斜面を有する、請求項4に記載の蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項6】
前記ピアスナットの前記先端開口の前記開口縁部には、前記中軸部の軸方向と交わる方向に沿って突出し、前記蓋と嵌合する突出部が設けられており、
前記蓋締結工程において、前記スクラップは、前記ピアスナットの前記突出部と嵌合される、請求項1から3のいずれか1項に記載の蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法。
【請求項7】
頭部と、前記頭部より外径の小さい中軸部と、を有する中空筒状のピアスナットと、
前記ピアスナットの前記中軸部が貫通し、前記ピアスナットの前記頭部がかしめ固定される板材と、を備え、
前記ピアスナットの前記中軸部のうち前記頭部と反対側の先端開口の開口縁部には、前記板材と同一材料からなる蓋がかしめ固定されている、蓋付きピアスナットを備える板材。
【請求項8】
前記ピアスナットの前記中軸部のうち前記先端開口の前記開口縁部には、前記中軸部の軸方向と交わる方向に沿って突出し、前記蓋と嵌合する突出部が設けられている、請求項7に記載の蓋付きピアスナットを備える板材。
【請求項9】
前記突出部は、前記先端開口の前記開口縁部の周方向全体に亘って設けられている請求項8に記載の蓋付きピアスナットを備える板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法、及び蓋付きピアスナットを備える板材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネジ等の締結部材を板材(取付対象物)に取り付けるための被締結具(インサート)として、板材にかしめ固定されるピアスナットが知られている。ピアスナットは、溶接ナットに比べて板材への取り付けが容易な利点がある。特許文献1には、その一例として、中空筒状の本体の一方の穴が塞ぎ体(蓋)で塞がれた、クローズタイプのインサート(蓋付きピアスナット)が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のピアスナットによれば、誤った長さの締結部材が取り付けられて、締結部材が本体から突出し、基板等の他部材に接触してしまったり、穴から切り粉やメッキ粉等の異物が流出してしまったりする事態を防止できるとされている。このような蓋付きピアスナットは、特に電気部品や電子機器の分野において需要が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1に記載のピアスナットの蓋は、ピアスナットの穴の上にシート状材が載置され、このシート状材が打ち抜かれて湾曲状に穴を塞ぐことで製造される。そして、このような蓋が取り付けられたピアスナットが、板材のバーリング穴に対して圧入され、かしめ固定される。従って蓋付きピアスナットを備える板材は、シート状材を打ち抜いてピアスナットに蓋を取り付ける前工程と、蓋が取り付けられたピアスナットを板材に圧入する後工程と、が製造工程として必要となり、蓋を備えないピアスナットに比べて前工程が追加となる。また、蓋の母材となるシート状材の材料費も追加となるのが実情である。
【0006】
本技術は上記のような実情に基づいて完成されたものであって、コスト増大を抑制しつつ容易に製造可能な、蓋付きピアスナットを備える板材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術に関わる蓋付きピアスナットを備える板材の製造方法は、頭部と、前記頭部より外径の小さい中軸部と、を有する中空筒状のピアスナットと、前記ピアスナットの前記中軸部が挿入される挿入口を有するダイスと、の間に板材を設置して、前記ピアスナットと前記ダイスとの間を前記中軸部の軸方向に加圧することで、前記ピアスナットの前記中軸部によって前記板材の一部を打ち抜き、前記挿入口内にスクラップとして切り出すスクラップ形成工程と、前記ピアスナットの前記中軸部と前記ダイスとの間を前記軸方向に加圧することで、前記挿入口内に切り出された前記スクラップを、前記ピアスナットの前記中軸部の先端開口の開口縁部にかしめ固定して蓋とする蓋締結工程と、前記ピアスナットの前記頭部と前記ダイスとの間を前記軸方向に加圧することで、前記ピアスナットの前記頭部を、前記スクラップが切り出された後の前記板材にかしめ固定する板材締結工程と、を含む。
【0008】
本技術に関わる蓋付きピアスナットを備える板材は、頭部と、前記頭部より外径の小さい中軸部と、を有する中空筒状のピアスナットと、前記ピアスナットの前記中軸部が貫通し、前記ピアスナットの前記頭部がかしめ固定される板材と、を備え、前記ピアスナットの前記中軸部のうち前記頭部と反対側の先端開口の開口縁部には、前記板材と同一材料からなる蓋がかしめ固定されている。
【発明の効果】
【0009】
本技術によれば、コスト増大を抑制しつつ容易に製造可能な、蓋付きピアスナットを備える板材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係る蓋付きピアスナットを備える板材の斜視図
【
図6】蓋付きピアスナットを備える板材の製造工程を示す断面図
【
図7】
図6に続く製造工程(スクラップ形成工程)を示す断面図
【
図8】
図7に続く製造工程(蓋締結工程及び板材締結工程)を示す断面図
【
図9】
図8に続く製造工程(排出工程)を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態1>
実施形態1に係る蓋付きピアスナット15を備える板材10、およびその製造方法を
図1から
図9を参照して説明する。図には、X軸、Y軸、及びZ軸を示しており、各軸方向が各図で共通した方向となるように描かれている。また、Z軸方向を上下方向とするが、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0012】
蓋付きピアスナット15を備える板材10は、
図1から
図2に示すように、蓋付きピアスナット15が板材10に対して打ち込まれ、かしめ固定された部材である。蓋付きピアスナット15は、ネジ等の締結部材を板材10(取付対象物)に取り付けるための被締結具として用いられる。
【0013】
蓋付きピアスナット15は、中空筒状のピアスナット20の一方の先端開口(後述する第2先端開口25B1)が蓋30によって覆われた袋状構造を有する。蓋付きピアスナット15には、他方の先端開口(後述する第1先端開口21A1)を通って外部から締結部材が挿入される。蓋付きピアスナット15を備える板材10の用途は限定されないが、ピアスナット20の第2先端開口25B1から切り粉やメッキ粉等の異物が流出する事態を防止できるため、例えば電気部品や電子機器のブラケットや筐体に好適である。
【0014】
板材10は、金属材料、例えば低強度鋼からなる。より具体的には、板材10として引張強度が270MPa程度から440MPa程度の範囲の圧延鋼板を用いることができる。板材10の厚さ及び形状は、用途に応じて適宜変更可能である。
【0015】
蓋30は、後述するように製造工程において板材10から切り出されたスクラップ(破片)10A(
図7参照)が塑性変形され、かしめ固定されたものである。従って、蓋30は板材10の一部から分離されたスクラップ10Aを母材とし、板材10と同一材料からなる。
【0016】
ピアスナット20は、
図3から
図5に示すように、断面略T字の中空筒状をなし、頭部21と、中軸部25と、を有する。ピアスナット20は、例えば材料記号S8からS45C、SCM435からSCM440等の鉄鋼材料からなり、各部が一体的に形成されている。頭部21及び中軸部25の中心軸は一致し、その軸方向はZ方向(上下方向)であり、軸直方向(径方向)はX-Y面内方向である。
【0017】
頭部21は、略円板状をなし、その中心軸に沿って延在する第1中空部23Aを有する。第1中空部23Aは、中軸部25の後述する第2中空部23Bと連通し、第1中空部23A及び第2中空部23Bによって中空筒状のピアスナット20の中空部23が構成されている。中空部23の形状及び大きさは、外部から挿入が想定される締結部材に対応するように形成される。例えば締結部材がネジの場合、中空部23の壁面にはネジと螺合する細溝が形成される。
【0018】
頭部21の上面21A(中軸部25と反対側の面)は、第1中空部23Aに連なる第1先端開口21A1を有する。第1先端開口21A1は、締結部材が外部からピアスナット20の第1中空部23Aに挿入される際の入口となる。第1中空部23Aの直径は、第1先端開口21A1付近において第1先端開口21A1に向かうにつれて徐々に大きくなるように形成されており、この部分に外部から挿入される締結部材の一部(例えばネジの頭部)を設置可能となっている。
【0019】
頭部21は、下面21B(中軸部25側の面)に溝22を有する。溝22は、中軸部25の外周面25Aを取り囲むように円環状をなす。中軸部25の外周面25Aと対向する溝22の内周面22Aは、
図5に示すように、下方に向かうに連れて外周面25Aに近付くように傾斜している。これにより溝22の径方向の幅は、下方に向かうにつれて徐々に小さくなっている。
【0020】
また頭部21は、
図3及び
図4に示すように、溝22の内周面22Aから三角形状に突出する突起24を有する。突起24は、内周面22Aの周方向全体に亘って、等間隔に複数(本実施形態では8つ)設けられている。溝22及び突起24を設けることで、製造工程(後述する板材締結工程S30)において頭部21が板材10にかしめ固定される際に、塑性変形して流入した板材10が溝22内から抜けにくくなり、固定力を増大できる。
【0021】
中軸部25は、
図3から
図5に示すように、頭部21から軸方向に沿って下方に延出し、頭部21より外径の小さい円柱状をなす。中軸部25の軸方向の長さ(Z方向の長さ)は、板材10の厚さ(Z方向の長さ)以上に形成されている。これにより中軸部25は、製造工程(後述するスクラップ形成工程S10)において板材10を打ち抜いて貫通可能となる。また中軸部25は、その中心軸に沿って延在する第2中空部23Bを有する。第2中空部23Bは、上記した第1中空部23Aと共に、中空筒状のピアスナット20の中空部23を構成している。
【0022】
中軸部25の下面25B(頭部21と反対側の面)は、第2中空部23Bに連なる第2先端開口25B1を有する。第2先端開口25B1は、製造工程(後述する蓋締結工程S20)において蓋30によって覆われるものとなる。第2先端開口25B1付近は、第2中空部23Bが拡径して大きく形成されており、第2先端開口25B1から軸方向に沿って深さD1(
図5参照)だけ窪んだ窪み部26となっている。窪み部26の直径Φ1は、第2中空部23Bのうち第1中空部23A側(窪み部26と反対側)の部分の直径Φ2に比べて十分大きい。窪み部26には、蓋30の一部が塑性変形して流入される。窪み部26を形成することで、蓋30が第2先端開口25B1の開口縁部25Cにかしめ固定されやすいものとなる。
【0023】
次に、蓋付きピアスナット15を備える板材10の製造方法について
図6から
図9を参照して説明する。当該製造方法は、スクラップ形成工程S10と、蓋締結工程S20と、板材締結工程S30と、排出工程S40と、を含んでいる。全ての製造工程S10、S20、S30、S40において、支持体であるダイス80が用いられる。
【0024】
ダイス80は、
図6から
図9に示すように、内部空間82を有する第1ダイス81と、内部空間82に挿入された第2ダイス85と、を備える。内部空間82の内径Φ3は、ピアスナット20の中軸部25を挿入可能な大きさを有する。より詳しくは内部空間82の内径Φ3は、中軸部25の外形Φ4と同一または僅かに大きいものとされる。また第2ダイス85に塞がれた内部空間82が、ピアスナット20の中軸部25が挿入される挿入口80Sとなる。第2ダイス85は、軸方向に沿って上下方向に変位可能であり、挿入口80Sの軸方向の長さは、第2ダイス85の位置によって変更可能である。
【0025】
スクラップ形成工程S10ではまず、
図6に示すように、第1ダイス81の上端部81A(挿入口80S側の端部)の上に板材10を載置し、板材10の上にピアスナット20の中軸部25がダイス80の挿入口80Sと上下方向について重なるように載置する。これにより、板材10は、第1ダイス81と、ピアスナット20の中軸部25との間に挟まれ設置された状態となる。
【0026】
そして、この設置状態で第1ダイス81とピアスナット20との間を加圧する。本実施形態では、ピアスナット20の頭部21を下方向に加圧する(第1ダイス81に対して押圧する)ことで両者の間を加圧するが、例えば、第1ダイス81を上方向に加圧したり、ピアスナット20と第1ダイス81の両方を互いに押し合うように加圧しても構わない。ピアスナット20の中軸部25は、
図7に示すように、加圧によって板材10のうちダイス80の挿入口80Sと重なる部分を打ち抜き、挿入口80Sに挿入される。また打ち抜かれた板材10の一部は、挿入口80S内にスクラップ10Aとして切り出される。
【0027】
スクラップ形成工程S10の後、ピアスナット20の頭部21を下方向にさらに加圧し続けることで、蓋締結工程S20及び板材締結工程S30を連続して行う(
図8)。本実施形態では、第2ダイス85の位置によって挿入口80Sの長さを好適に調整することで、蓋締結工程S20及び板材締結工程S30を同時に実行可能となっている。ただし他の実施形態(1)に後述するように、蓋締結工程S20及び板材締結工程S30は、同時ではなく時系列で順番に実行されても構わない。
【0028】
蓋締結工程S20では、ピアスナット20の中軸部25とダイス80との間が軸方向に加圧される。これにより挿入口80S内に切り出されたスクラップ10Aは、
図8に示すように、中軸部25の第2先端開口25B1の開口縁部25Cにかしめ固定され、蓋30となる。より詳しくは、スクラップ10Aは、中軸部25と第2ダイス85の上端部85A(挿入口80S側の端部)との間で加圧されて塑性変形し、窪み部26内に流入することで、開口縁部25Cにかしめ固定される。このように塑性変形してかしめ固定されたスクラップ10Aが蓋30となり、蓋付きピアスナット15が製造される。
【0029】
ところで蓋締結工程S20において、スクラップ10Aは軸方向(Z方向)に圧縮するように加圧される。これにより、加圧されたスクラップ10A(蓋30)は、挿入口80Sの側壁面である第1ダイス81の内周面81Bを径方向外側に向かって加圧することとなる(
図8の白抜き矢印参照)。この蓋30による径方向の押圧力が過度に大きくなると、蓋30が第1ダイス81の内周面81Bに対して干渉したり、食い込んだりしてしまう。その結果、次に続く排出工程S40において、蓋付きピアスナット15が押し出し排出されにくくなる懸念がある。
【0030】
そこで第2ダイス85の上端部85Aの表面は、先端先細で、角部が曲面状をなす傾斜面85A1となるように形成されている。これにより、塑性変形したスクラップ10A(蓋30)が流入するスペースを拡大し、蓋30による径方向の押圧力を低減できる。その結果、排出工程S40において、蓋付きピアスナット15を容易に押し出し排出可能となる。また、傾斜面85A1の角部を曲面状にすることで、外部に露出する蓋30の表面30Aに生じる不要な突起(バリ等)も抑制できる。
【0031】
板材締結工程S30では、ピアスナット20の頭部21とダイス80との間が軸方向に加圧される。これにより板材10のうち、スクラップ10Aとして打ち抜かれた貫通口の開口縁部10Bは、
図8に示すように、ピアスナット20の頭部21の溝22に流入する。より詳しくは、板材10の貫通口の開口縁部10Bは、頭部21と第1ダイス81の上端部81Aとの間で加圧されて塑性変形し溝22内に流入し、かしめ固定される。
【0032】
上記した蓋締結工程S20及び板材締結工程S30の後に、排出工程S40を行う。排出工程S40では、
図9に示すように、第2ダイス85を上方に変位させる。これにより、蓋付きピアスナット15の中軸部25をダイス80の挿入口80Sから押し出して排出する。このようにして蓋付きピアスナット15を備える板材10が製造される。
【0033】
以上説明した本実施形態に係る構成及び製造方法によれば、スクラップ形成工程S10(
図7)において打ち抜かれた板材10の一部(スクラップ10A)を、蓋締結工程S20(
図8)においてピアスナット20の蓋30として有効活用できる。すなわち、蓋付きピアスナット15の蓋30には、先行技術のような別部材(シート状材)ではなく、板材10と同一材料を用いることができる。これにより、先行技術のように別部材(シート状材)を打ち抜いて蓋として取り付ける工程が不要となる。また、蓋の母材となるシート状材の材料費も不要となる。また仮に、蓋を取り付けるのではなく、蓋付きピアスナットを金型成型等によって一体形成する場合、蓋付近にメッキ液の液溜まりが生じたりエアポケットが生じたりして、メッキ加工の品質低下、外観の劣化を招く懸念がある。その点、本実施形態に係る製造方法によれば、品質低下及びコスト増大を抑制しつつ、容易に製造可能な、蓋付きピアスナット15を備える板材10を実現できる。
【0034】
また上記した製造方法によれば、スクラップ形成工程S10、蓋締結工程S20、及び板材締結工程S30は、ダイス80に対してピアスナット20を軸方向に押圧し続けることで、連続して実行できる。さらに蓋締結工程S20及び板材締結工程S30は、挿入口80Sの長さを予め調整することで、同時に実行できる。これにより、一連の工程S10、S20、S30を短時間で連続的に実行でき、蓋付きピアスナット15を備える板材10をより容易に効率よく製造できる。
【0035】
<実施形態2>
実施形態2に係るピアスナット120について
図10から
図12を参照して説明する。ピアスナット120は、中軸部125の窪み部126の形状が実施形態1に係るピアスナット20と異なる。実施形態2において、実施形態1と同様の構成、作用及び効果については同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0036】
ピアスナット120の第2先端開口25B1の開口縁部125Cには、径方向に沿って窪み部126内に突出する突出部27が設けられている。突出部27は、周方向全体に亘って連続して設けられ、円環状をなす。突出部27は、蓋締結工程S20において蓋30と嵌合される。このように突出部27を設けることで、蓋30を開口縁部125Cに対してより強固にかしめ固定できる。また、蓋30の封止性を向上でき、蓋30に止水効果や遮蔽効果を持たせることも可能となる。
【0037】
<他の実施形態>
本技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本技術の技術的範囲に含まれる。
【0038】
(1)蓋締結工程S20及び板材締結工程S30は同時に実行されるものとしたが、いずれか一工程を時系列順で先に行い、他工程を後に行っても構わない。例えば、蓋締結工程S20において第2ダイス85を上方に変位してスクラップ10Aを押圧することで、蓋締結工程S20を板材締結工程S30より先に実行しても構わない。また例えば、挿入口80Sの長さが中軸部25の長さより大きくなるように第2ダイス85の位置を予め調整しておくことで、板材締結工程S30を蓋締結工程S20より先に実行しても構わない。
【0039】
(2)ピアスナット20、120の形状及び大きさは図示に限られない。例えば、ピアスナット220の中軸部225の第2先端開口25B1の開口縁部225Cには、
図13から
図15に示すように、窪み部226内に突出する突出部127が周方向に並んで点在するように、間隔を空けて複数設けられていてもよい。また、各突出部127の下方に凹部28が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10…板材、10A…スクラップ、15…蓋付きピアスナット、20、120、220…ピアスナット、21…頭部、25、125、225…中軸部、25B1…第2先端開口、25C、125C、225C…開口縁部、27、127…突出部、30…蓋、80…ダイス、80S…挿入口、81…第1ダイス、85…第2ダイス、85A1…傾斜面、S10…スクラップ形成工程、S20…蓋締結工程、S30…板材締結工程、S40…排出工程