(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025088091
(43)【公開日】2025-06-11
(54)【発明の名称】周波数シンセサイザのスプリアスを低減させる方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H03L 7/16 20060101AFI20250604BHJP
H03B 28/00 20060101ALI20250604BHJP
【FI】
H03L7/16
H03B28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202548
(22)【出願日】2023-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三津谷 幸丸
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106BB10
5J106CC15
5J106CC39
5J106DD09
5J106DD33
5J106KK26
5J106PP05
5J106QQ08
5J106RR12
5J106RR20
(57)【要約】
【課題】周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号強度を簡便に抑制できるようにする。
【解決手段】周波数シンセサイザから出力される出力信号に発生するM次スプリアスの周波数と出力信号の周波数との周波数差を特定してプロットした第1スプリアス特性データを生成するステップと、出力信号の周波数ごとに周波数差が最も小さくなるデータを抽出して、第2スプリアス特性データを生成するステップと、複数の逓倍器に対応する複数の前記第2スプリアス特性データを生成するステップと、出力信号の周波数ごとに周波数差が最も大きくなるデータを抽出して、第3スプリアス特性データを生成するステップと、DDSに接続する逓倍器を特定するステップとを有する、方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する周波数シンセサイザのスプリアスを低減させる方法であって、
前記周波数シンセサイザは、
クロック信号を出力するクロック信号源と、
前記クロック信号源から出力された前記クロック信号に基づいてDDS信号を出力するDDSと、
互いに異なる逓倍数で入力した信号の周波数を逓倍する複数の逓倍器と、
複数の前記逓倍器のそれぞれに接続されている複数のバンドパスフィルタと、
入力した第1制御信号に応じて、前記DDSと、複数の前記逓倍器のうちいずれか1つの逓倍器とを接続する第1切換部と
を備え、
前記スプリアスを低減させる方法は、
前記周波数シンセサイザから出力される出力信号の周波数に対する、前記DDS信号に含まれる所定の次数以下のM次高調波(Mは2以上かつ所定の数以下の整数)に起因して前記出力信号に発生するM次スプリアスの周波数と前記出力信号の周波数との周波数差を特定してプロットした第1スプリアス特性データを生成するステップと、
前記第1スプリアス特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も小さくなるデータを抽出して、第2スプリアス特性データを生成するステップと、
複数の前記逓倍器ごとに、前記第1スプリアス特性データを生成するステップと前記第2スプリアス特性データを生成するステップとを繰り返して、複数の前記逓倍器に対応する複数の前記第2スプリアス特性データを生成するステップと、
複数の前記第2スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も大きくなるデータを抽出して、第3スプリアス特性データを生成するステップと、
前記第3スプリアス特性データに基づき、複数の前記逓倍器のうち、前記周波数シンセサイザの前記出力信号の周波数に対応して前記DDSに接続する前記逓倍器を特定するステップと
を有する、方法。
【請求項2】
前記逓倍器を特定するステップにおいて、前記第3スプリアス特性データのうち前記周波数差が最大値を示すデータに対応する信号を出力する前記逓倍器を、前記DDSに接続する前記逓倍器として特定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記逓倍器を特定するステップにおいて、前記第3スプリアス特性データのうち前記周波数差が所定の離調周波数を超えるデータに対応する信号を出力する前記逓倍器を、前記DDSに接続する前記逓倍器として特定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
所定の前記離調周波数は、複数の前記バンドパスフィルタの通過周波数帯域の半値幅よりも大きい周波数である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1スプリアス特性データを生成するステップ、前記第2スプリアス特性データを生成するステップ、及び前記第3スプリアス特性データを生成するステップを、所定の複数のクロック周波数ごとに実行して複数の前記第3スプリアス特性データを生成するステップと、
複数の前記第3スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も大きくなるデータを抽出して、第4スプリアス特性データを生成するステップと、
前記第4スプリアス特性データに基づき、複数の前記逓倍器のうち、前記周波数シンセサイザの前記出力信号の周波数に対応して前記DDSに接続する前記逓倍器を特定するステップと
を更に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
コンピュータにより実行されると、前記コンピュータに請求項1から5のいずれか一項に記載の方法を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数シンセサイザのスプリアスを低減させる方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS:Direct Digital Synthesizer)を用いて、所定の複数の周波数の信号を切り換えて出力する周波数シンセサイザが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-176667号公報
【特許文献2】特開2016-76915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DDSの出力信号には、当該信号の周波数の高調波に起因するスプリアスが含まれている。スプリアスは、エイリアシングにより、DDSの出力信号の周波数の近傍に発生することがある。この場合、SAWフィルタ等の通過帯域が数MHz程度の狭帯域フィルタを用いても、スプリアスの信号強度を低減させることが困難になることがあり、当該出力信号に基づいて動作する機器の性能劣化等を引き起こすおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号強度を簡便に抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、コンピュータが実行する周波数シンセサイザのスプリアスを低減させる方法であって、前記周波数シンセサイザは、クロック信号を出力するクロック信号源と、前記クロック信号源から出力された前記クロック信号に基づいてDDS信号を出力するDDSと、互いに異なる逓倍数で入力した信号の周波数を逓倍する複数の逓倍器と、複数の前記逓倍器のそれぞれに接続されている複数のバンドパスフィルタと、入力した第1制御信号に応じて、前記DDSと、複数の前記逓倍器のうちいずれか1つの逓倍器とを接続する第1切換部とを備え、前記スプリアスを低減させる方法は、前記周波数シンセサイザから出力される出力信号の周波数に対する、前記DDS信号に含まれる所定の次数以下のM次高調波(Mは2以上かつ所定の数以下の整数)に起因して前記出力信号に発生するM次スプリアスの周波数と前記出力信号の周波数との周波数差を特定してプロットした第1スプリアス特性データを生成するステップと、前記第1スプリアス特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も小さくなるデータを抽出して、第2スプリアス特性データを生成するステップと、複数の前記逓倍器ごとに、前記第1スプリアス特性データを生成するステップと前記第2スプリアス特性データを生成するステップとを繰り返して、複数の前記逓倍器に対応する複数の前記第2スプリアス特性データを生成するステップと、複数の前記第2スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も大きくなるデータを抽出して、第3スプリアス特性データを生成するステップと、前記第3スプリアス特性データに基づき、複数の前記逓倍器のうち、前記周波数シンセサイザの前記出力信号の周波数に対応して前記DDSに接続する前記逓倍器を特定するステップとを有する、方法を提供する。
【0007】
前記逓倍器を特定するステップにおいて、前記第3スプリアス特性データのうち前記周波数差が最大値を示すデータに対応する信号を出力する前記逓倍器を、前記DDSに接続する前記逓倍器として特定してもよい。
【0008】
前記逓倍器を特定するステップにおいて、前記第3スプリアス特性データのうち前記周波数差が所定の離調周波数を超えるデータに対応する信号を出力する前記逓倍器を、前記DDSに接続する前記逓倍器として特定してもよい。
【0009】
所定の前記離調周波数は、複数の前記バンドパスフィルタの通過周波数帯域の半値幅よりも大きい周波数であってもよい。
【0010】
前記方法は、前記第1スプリアス特性データを生成するステップ、前記第2スプリアス特性データを生成するステップ、及び前記第3スプリアス特性データを生成するステップを、所定の複数のクロック周波数ごとに実行して複数の前記第3スプリアス特性データを生成するステップと、複数の前記第3スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、前記出力信号の周波数ごとに前記周波数差が最も大きくなるデータを抽出して、第4スプリアス特性データを生成するステップと、前記第4スプリアス特性データに基づき、複数の前記逓倍器のうち、前記周波数シンセサイザの前記出力信号の周波数に対応して前記DDSに接続する前記逓倍器を特定するステップとを更に有してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、コンピュータにより実行されると、前記コンピュータに第1の態様の方法を実行させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周波数シンセサイザの出力信号に含まれるスプリアスの信号強度を簡便に抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】従来の周波数シンセサイザ10の構成例を示す。
【
図2】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第1構成例を示す。
【
図3】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第2構成例を示す。
【
図4】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第1例を示す。
【
図5】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第1スプリアスデータの一例を示す。
【
図6】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第2スプリアスデータの一例を示す。
【
図7】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の複数の第2スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。
【
図8】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第3スプリアスデータの一例を示す。
【
図9】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第2例を示す。
【
図10】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の複数の第3スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。
【
図11】本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第4スプリアスデータの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<従来の周波数シンセサイザ10の構成例>
図1は、従来の周波数シンセサイザ10の構成例を示す。周波数シンセサイザ10は、設定された周波数の出力信号を出力部11から出力する。周波数シンセサイザ10は、出力部11と、クロック信号源20と、ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)30と、第1切換部41と、第2切換部42と、第1狭帯域フィルタ51と、第2狭帯域フィルタ52と、制御部60と、記憶部61と、増幅回路70とを備える。
【0015】
クロック信号源20は、クロック信号を出力する。クロック信号源20は、例えば、制御部60から指定された周波数のクロック信号を出力可能なクロック信号源である。クロック信号源20は、例えば、1000MHz程度から4000MHz程度のクロック周波数のクロック信号を出力する。クロック信号源20が出力するクロック信号は、DDS30の基準クロック信号となる。
【0016】
DDS30は、クロック信号源20から出力されたクロック信号に基づいてDDS信号を出力する。DDS30は、制御部60から受け取った制御信号が示す周波数のDDS信号を出力する。DDS信号の周波数は、例えば、500MHz程度から3000MHz程度の間の周波数である。DDS30がDDS信号を出力する動作は既知なので、ここでは説明を省略する。
【0017】
DDS30が出力するDDS信号には、DDS信号のN次高調波(Nは2以上の自然数)に起因するスプリアスが含まれることがある。このような高次のスプリアスは、N次高調波がクロック周波数で折り返されて発生する。したがって、スプリアスが発生する周波数は、DDS信号の周波数、高調波の次数、及びクロック周波数に応じて変化する。なお、本実施形態において、DDS信号のN次高調波に起因するスプリアスをN次スプリアス、又は単にスプリアスと呼ぶ。
【0018】
従来の周波数シンセサイザ10は、狭帯域フィルタを用いてこのようなスプリアスを低減させる。なお、DDS30は、設定データに応じて種々の周波数のDDS信号を出力するので、周波数シンセサイザ10は、設定データに対応して複数の狭帯域フィルタを切り換える。
図1は、2つの狭帯域フィルタを切り換え可能な周波数シンセサイザ10の例を示す。
【0019】
第1切換部41及び第2切換部42は、制御部60から受け取った制御信号に応じて、DDS30に接続すべき狭帯域フィルタを切り換える。例えば、第1切換部41は、入力した第1制御信号に応じて、DDS30と、第1狭帯域フィルタ51と第2狭帯域フィルタ52とのうちいずれか一方の狭帯域フィルタとを接続する。また、第2切換部42は、入力した第2制御信号に応じて、第1狭帯域フィルタ51と第2狭帯域フィルタ52のうちいずれか一方の狭帯域フィルタと出力部11とを接続する。
【0020】
第1狭帯域フィルタ51は、DDS30が出力する所定の第1周波数のDDS信号に対応して、第1周波数を通過させつつDDS信号に重畳しているスプリアス成分を低減させるバンドパスフィルタである。第2狭帯域フィルタ52は、第1狭帯域フィルタ51と同様に、DDS30が出力する所定の第2周波数のDDS信号に対応して、第2周波数を通過させつつDDS信号に重畳しているスプリアス成分を低減させるバンドパスフィルタである。
【0021】
第1狭帯域フィルタ51及び第2狭帯域フィルタ52の通過帯域幅は、スプリアスを低減させるためにより小さい値であることが望ましく、例えば、数MHz程度以下であることが望ましい。第1狭帯域フィルタ51及び第2狭帯域フィルタ52は、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタ、BAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタ等である。
【0022】
制御部60は、周波数シンセサイザ10の各部を制御する。制御部60は、例えば、クロック信号源20のクロック信号の周波数を指定する制御信号をクロック信号源20に供給する。制御部60は、DDS30のDDS信号の周波数を設定する設定データをDDS30に供給する。制御部60は、第1切換部41及び第2切換部42の接続を指定する制御信号を第1切換部41及び第2切換部42にそれぞれ供給する。
【0023】
制御部60は、例えば、所定のクロック周波数のクロック信号をクロック信号源20から出力させて、所定の第1周波数のDDS信号をDDS30から出力させる。この場合、制御部60は、DDS30と、第1狭帯域フィルタ51とを接続させる制御信号を第1切換部41に供給し、第1狭帯域フィルタ51と出力部11とを接続させる制御信号を第2切換部42に供給する。
【0024】
また、制御部60は、所定のクロック周波数のクロック信号をクロック信号源20から出力させて、所定の第2周波数のDDS信号をDDS30から出力させる。この場合、制御部60は、DDS30と、第2狭帯域フィルタ52とを接続させる制御信号を第1切換部41に供給し、第2狭帯域フィルタ52と出力部11とを接続させる制御信号を第2切換部42に供給する。
【0025】
このような制御部60は、ユーザ等から出力信号の周波数を指定する入力を受け付けてもよい。この場合、周波数シンセサイザ10は、ユーザ等が周波数の情報を入力するための入力部等を更に備えてもよい。また、制御部60は、外部の機器等から出力信号の周波数を指定する制御信号を受け取ってもよい。この場合、周波数シンセサイザ10は、外部の機器等と制御信号を受信する受信回路、通信回路等を更に備えてもよい。
【0026】
制御部60は、集積回路等で構成されていることが望ましい。制御部60は、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、及び/又はCPU(Central Processing Unit)を含む。制御部60の少なくとも一部をコンピュータ等で構成する場合、記憶部61は、制御部60を実現するコンピュータ等のBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、及び作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。
【0027】
また、記憶部61は、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、及び/又は当該アプリケーションプログラムの実行時に参照されるデータベースを含む種々の情報を格納してよい。記憶部61は、HDD(Hard Disk Drive)及び/又はSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置を含んでもよい。CPU等のプロセッサは、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することによって制御部60として機能する。
【0028】
記憶部61は、例えば、第1周波数のDDS信号を出力させるための設定データと、第2周波数のDDS信号を出力させるための設定データとを記憶する。また、記憶部61は、DDS30と第1狭帯域フィルタ51とを接続させ、第1狭帯域フィルタ51と出力部11とを接続させる制御信号又は制御信号を生成するための情報を、第1周波数のDDS信号を出力させるための設定データに対応づけて記憶することが望ましい。
【0029】
記憶部61は、同様に、DDS30と第2狭帯域フィルタ52とを接続させ、第2狭帯域フィルタ52と出力部11とを接続させる制御信号又は制御信号を生成するための情報を、第2周波数のDDS信号を出力させるための設定データに対応づけて記憶することが望ましい。
【0030】
増幅回路70は、第2切換部42と出力部11との間に設けられており、入力した信号を増幅する。増幅回路70は、増幅した信号を出力部11から出力する。なお、第2切換部42から出力する信号の信号強度が所定の強度レベル以上の大きさの場合、増幅回路70はなくてもよい。
【0031】
以上の従来の周波数シンセサイザ10は、出力するDDS信号の周波数に応じて、DDS信号の周波数を通過させる狭帯域フィルタを切り換える。このような構成において、狭帯域フィルタの通過帯域幅をより小さくすることで、DDS信号に含まれているスプリアスを低減することができる。
【0032】
しかし、クロック信号の周波数と、出力すべきDDS信号の周波数の組み合わせによっては、折り返しスプリアスの周波数が出力すべきDDS信号の周波数に近接してしまうことがあり、狭帯域フィルタを用いてもスプリアスの信号強度を低減しきれないことがあった。また、周波数シンセサイザ10から異なる複数の周波数の出力信号を出力させる場合、出力したい周波数の数だけ狭帯域フィルタが必要になり、システムの回路規模が大きくなってしまう。
【0033】
また、SAWフィルタ、BAWフィルタ等の狭帯域フィルタは高価であり、用いる周波数の数だけ狭帯域フィルタを準備すると、周波数シンセサイザ10のコストが増加してしまうことになる。そこで、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100は、狭帯域フィルタを用いなくても、スプリアスの信号強度を抑制できるようにする。このような周波数シンセサイザ100について次に説明する。
【0034】
<周波数シンセサイザ100の第1構成例>
図2は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第1構成例を示す。周波数シンセサイザ100は、出力すべき出力信号の周波数に対応して、複数の逓倍器及びフィルタの組み合わせを切り換える。
図2は、2組の逓倍器及びフィルタを切り換え可能な周波数シンセサイザ100の例を示す。
【0035】
周波数シンセサイザ100は、出力部11、クロック信号源20、DDS30、第1切換部41、第2切換部42、制御部60、記憶部61、増幅回路70、第1逓倍器81、第2逓倍器82、第1バンドパスフィルタ91、及び第2バンドパスフィルタ92を備える。なお、
図2に示す周波数シンセサイザ100において、
図1に示された従来の周波数シンセサイザ10の動作と略同一のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。
【0036】
第1逓倍器81は、入力した信号の周波数を逓倍した第1逓倍信号を出力する。第2逓倍器82は、入力した信号の周波数を逓倍した第2逓倍信号を出力する。第1逓倍器81の逓倍数は、第2逓倍器82の逓倍数とは異なる逓倍数である。例えば、第1逓倍器81の逓倍数は3倍であり、第2逓倍器82の逓倍数は4倍である。
【0037】
第1バンドパスフィルタ91は、第1逓倍器81が出力した第1逓倍信号を通過させる。第2バンドパスフィルタ92は、第2逓倍器82が出力した第2逓倍信号を通過させる。第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92は、後述するように、所定の通過帯域幅をそれぞれ有する。
【0038】
周波数シンセサイザ100の第1切換部41は、入力した制御信号に応じて、DDS30と、第1逓倍器81と第2逓倍器82とのうちいずれか一方の逓倍器とを接続する。なお、本実施形態において、制御部60が第1切換部41に供給する制御信号を第1制御信号と呼ぶことがある。
【0039】
周波数シンセサイザ100の第2切換部42は、入力した制御信号に応じて、第1バンドパスフィルタ91と第2バンドパスフィルタ92のうちいずれか一方のフィルタと当該周波数シンセサイザ100の出力部11とを増幅回路70を介して接続する。なお、本実施形態において、制御部60が第2切換部42に供給する制御信号を第2制御信号と呼ぶことがある。
【0040】
言い換えると、制御部60は、DDS30と、第1逓倍器81と第2逓倍器82とのうちいずれか一方の逓倍器とを接続させるための第1制御信号を第1切換部41に供給する。また、制御部60は、第1切換部41がDDS30と接続した逓倍器に接続されているフィルタと、出力部11とを接続するための第2制御信号を第2切換部42に供給する。
【0041】
例えば、
図1で説明した従来の周波数シンセサイザ10は、クロック周波数とDDS信号の周波数の設定によって、DDS信号の周波数と最もDDS信号の周波数に近いスプリアスの周波数との差が0MHzから数十MHz程度に変化する。ここで、DDS信号の周波数とスプリアスの周波数との周波数差を離調周波数と呼ぶ。
【0042】
ここで、DDS信号を逓倍器で逓倍すると、DDS信号の周波数だけでなく、スプリアスの周波数も逓倍されるので、離調周波数も逓倍されることになる。言い換えると、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100のようにDDS信号を逓倍器に通すと、DDS信号の周波数に最も近いスプリアスの離調周波数を逓倍にすることができ、フィルタの通過帯域幅を大きくすることができる。
【0043】
なお、逓倍器の逓倍数を大きくすると離調周波数も大きくなるが、スプリアスによっては折り返しの次数が増加してしまい、DDS信号の周波数に近づくスプリアスが発生することがある。したがって、周波数シンセサイザ100のクロック周波数とDDS信号の周波数の設定に対応して、適切な逓倍数の逓倍器を設定されていることが望ましい。また、周波数シンセサイザ100は、異なる逓倍数の複数の逓倍器を備え、クロック周波数とDDS信号の周波数の設定に基づいて、適切な逓倍器を切り換えて選択できるように構成されていることがより望ましい。
【0044】
例えば、周波数シンセサイザ100から1689MHzの信号を出力させたい場合に、制御部60がクロック周波数を3000MHz、DDS信号を563MHzに設定した例を考える。ここで、制御部60は、DDS30と第1逓倍器81とを接続させ、第1バンドパスフィルタ91と出力部11とを接続させたとする。
【0045】
これにより、周波数シンセサイザ100の出力信号は、第1逓倍器81がDDS信号を3逓倍した第1逓倍信号となり、出力信号の周波数は1689MHzとなる。この場合、2次から10次のスプリアスの周波数のうち、第1逓倍信号に最も近いスプリアスの離調周波数は185MHzとなる。したがって、第1バンドパスフィルタ91は、通過帯域に1689MHzを含み、通過帯域幅を離調周波数程度にすることで、第1逓倍信号に最も近いスプリアスを低減させることができる。
【0046】
次に、周波数シンセサイザ100から1803MHzの信号を出力させたい場合を考える。例えば、制御部60がクロック周波数を3000MHz、DDS信号を601MHzに設定すると、第1逓倍器81がDDS信号を3逓倍した第1逓倍信号の周波数は1803MHzとなる。しかし、この場合、2次から10次のスプリアスの周波数のうち、第1逓倍信号に最も近いスプリアスの離調周波数は5MHzとなる。したがって、第1バンドパスフィルタ91の通過帯域幅を数MHz程度の狭帯域フィルタにしないと、第1逓倍信号に最も近いスプリアスを低減させることが困難になってしまう。
【0047】
そこで、制御部60がクロック周波数を3000MHz、DDS信号を450.75MHzに設定した例を考える。ここで、制御部60は、DDS30と第2逓倍器82とを接続させ、第2バンドパスフィルタ92と出力部11とを接続させたとする。
【0048】
これにより、周波数シンセサイザ100の出力信号は、第2逓倍器82がDDS信号を4逓倍した第2逓倍信号となり、出力信号の周波数は1803MHzとなる。この場合、2次から10次のスプリアスの周波数のうち、第2逓倍信号に最も近いスプリアスの離調周波数は155MHzとなる。したがって、第2バンドパスフィルタ92は、通過帯域に1803MHzを含み、通過帯域幅を離調周波数程度にすることで、第2逓倍信号に最も近いスプリアスを低減させることができる。
【0049】
このように、制御部60は、第1逓倍器81と第2逓倍器82とのうち、所定の設定周波数の逓倍信号を出力するためのDDS信号を入力した場合に、所定の次数以下のスプリアスの周波数と設定周波数との周波数差が所定の離調周波数を超える逓倍信号を出力する逓倍器を特定する。ここで、所定の設定周波数と、所定の離調周波数を超える逓倍信号を出力する逓倍器との組み合わせは、予め記憶部61に記憶されていることが望ましい。
【0050】
言い換えると、記憶部61は、第1逓倍器81と第2逓倍器82とのうち、設定周波数に対応して予め特定した逓倍器の情報を設定周波数に対応づけて記憶する。記憶部61は、更に、クロック周波数と対応づけて逓倍器の情報を記憶してもよい。なお、所定の離調周波数は、例えば、第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92の通過周波数帯域の半値幅よりも大きい周波数である。また、所定の離調周波数は、第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92の通過周波数帯域幅と同程度の周波数か、又は、通過周波数帯域幅よりも大きい周波数であってもよい。
【0051】
これにより、制御部60は、設定周波数に対応する逓倍器の情報を記憶部61から読み出すことで、逓倍信号を出力する逓倍器を特定できる。これに代えて、制御部60は、方程式を用いてスプリアスが発生する周波数を算出し、算出した結果に基づいて設定周波数に対応する逓倍器を特定してもよい。
【0052】
例えば、DDS信号の周波数をFDDS、DDS信号の周波数とN次スプリアスの周波数との差分をFdelta,Np,Fsn(FDDS)とすると、当該差分は、次式のように算出される。ここで、Npはスプリアスの次数、Fsnはクロック信号のクロック周波数、floor()は、小数点以下を切り捨てる関数、mod(x,y)は、xをyで除算した際の余りを求める関数とする。
【0053】
(数1)
Fdelta,Np,Fsn(FDDS)=
-FDDS+mod{floor(FDDS×Np/(Fsn/2)),2}×{(Fsn/2)-mod(FDDS×Np,Fsn/2)}
+[1-mod{floor(FDDS×Np/(Fsn/2)),2}]×mod(FDDS×Np,Fsn/2)
【0054】
そして、制御部60は、特定した逓倍器の逓倍数に対応して、周波数シンセサイザ100から所定の設定周波数の出力信号を出力するために、クロック周波数とDDS信号の周波数とを設定する。また、制御部60は、特定した逓倍器とDDS30とを接続するための第1制御信号を第1切換部41に供給し、特定した逓倍器に接続されているフィルタと出力部11とを接続するための第2制御信号を第2切換部42に供給する。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100は、スプリアスとの離調周波数がより大きくなる方の逓倍器を選択して所定の設定周波数の出力信号を出力する。これにより、例えば、数十MHz程度から100MHz程度を超える通過帯域幅のバンドパスフィルタでも、スプリアスを低減させることができる。
【0056】
したがって、周波数シンセサイザ100は、第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92として、SAWフィルタ、BAWフィルタ等の高価な狭帯域フィルタを用いなくてもよい。第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92は、例えば、インダクタ素子及びコンデンサ素子等によって形成できるLCフィルタ等でよい。言い換えると、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100は、安価なフィルタを用いて、周波数シンセサイザ100の出力信号に含まれるスプリアスの信号強度を簡便に抑制できる。
【0057】
また、周波数シンセサイザ100は、第1バンドパスフィルタ91及び第2バンドパスフィルタ92の通過周波数帯域幅を大きくできるので、周波数シンセサイザ100の出力信号として設定可能な設定周波数の数を増加させることができる。
【0058】
例えば、(数1)式より、3000MHzのクロック信号において、第1逓倍器81から出力される第1逓倍信号を1664MHzから1688MHzにすると(DDS30のDDS信号を554.7MHzから562.7MHzにすると)、離調周波数は101MHzから187MHzへと徐々に増加する。そして、第1逓倍信号を1688MHzから1740MHzにすると(DDS30のDDS信号を562.7MHzから580MHzにすると)、離調周波数は187MHzから100MHzへと徐々に減少する。
【0059】
言い換えると、1664MHzから1740MHzまでの第1逓倍信号を出力させる場合、離調周波数は100MHz以上となる。そこで、例えば、第1バンドパスフィルタ91の通過帯域の中心周波数を1702MHz程度とし、通過帯域幅を100MHz程度とすると、1664MHz程度から1740MHz程度までの第1逓倍信号を出力させても、スプリアスを低減できることがわかる。
【0060】
同様に、3000MHzのクロック信号において、第2逓倍器82から出力される第2逓倍信号を1772MHzから1846MHzにすると(DDS30のDDS信号を443MHzから461.5MHzにすると)、離調周波数は101MHzから231MHzへと徐々に増加する。そして、第2逓倍信号を1846MHzから1933MHzにすると(DDS30のDDS信号を461.5MHzから483.3MHzにすると)、離調周波数は231MHzから101MHzへと徐々に減少する。
【0061】
言い換えると、1772MHzから1933MHzまでの第2逓倍信号を出力させる場合、離調周波数は100MHz以上となる。そこで、例えば、第2バンドパスフィルタ92の通過帯域の中心周波数を1853MHz程度とし、通過帯域幅を100MHz程度とすると、少なくとも、1803MHz程度から1903MHz程度までの第2逓倍信号を出力させても、スプリアスを低減できることがわかる。
【0062】
なお、以上の第1逓倍信号及び第2逓倍信号の値は、クロック信号によって変化するので、クロック信号を異なる周波数に設定することで、上述した周波数とは異なる周波数の第1逓倍信号及び第2逓倍信号を出力させることもできる。
【0063】
このように、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100は、所定のクロック周波数において、所定の周波数帯域の設定周波数の出力信号を出力するためのDDS信号を入力した場合に、所定の次数以下のスプリアスの周波数と設定周波数との周波数差が所定の離調周波数を超える逓倍信号を出力する逓倍器を特定し、特定した逓倍器を用いることにより、スプリアスを低減させた出力信号を出力できる。このような所定の周波数帯域の設定周波数の情報は、記憶部61に記憶されていることが望ましい。
【0064】
以上の本実施形態に係る周波数シンセサイザ100において、逓倍器とバンドパスフィルタの組を2つ備える例を説明したが、これに限定されることはない。周波数シンセサイザ100は、逓倍器とバンドパスフィルタの組を3つ以上備えてもよい。なお、複数の逓倍器の逓倍数は互いに異なる値であり、複数のバンドパスフィルタは同じ組の逓倍器に対応し、互いに異なる通過帯域を有することは言うまでもない。
【0065】
<周波数シンセサイザ100の第2構成例>
図3は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第2構成例を示す。第2構成例の周波数シンセサイザ100は、逓倍器とバンドパスフィルタの組を3つ備える例を示す。周波数シンセサイザ100は、第3逓倍器83と第3バンドパスフィルタ93とを更に備える。また、第1切換部41は、第1制御信号に応じて、第1逓倍器81から第3逓倍器83のうち1つの逓倍器とDDS30とを接続する。第2切換部42は、第2制御信号に応じて、第1バンドパスフィルタ91から第3バンドパスフィルタ93のうち1つの逓倍器と出力部11とを接続する。
【0066】
このように、周波数シンセサイザ100は、第1逓倍器81及び第2逓倍器82の逓倍数とは異なる逓倍数の1又は複数の逓倍器と、1又は複数の逓倍器にそれぞれ接続されている1又は複数のバンドパスフィルタとを更に備えてよい。言い換えると、周波数シンセサイザ100は、互いに異なる逓倍数で入力した信号の周波数を逓倍するN個の逓倍器と、複数の逓倍器のそれぞれに接続されているN個のバンドパスフィルタとを備える(Nは3以上の整数)。
【0067】
この場合、第1切換部41は、第1制御信号に応じて、DDS30と、第1逓倍器81から第N逓倍器のうちいずれか1つの逓倍器とを接続する。そして、制御部60は、第1逓倍器81から第N逓倍器のうち、周波数差が所定の離調周波数を超える信号を出力する逓倍器と、DDS30とを接続するための第1制御信号を第1切換部41に供給する。
【0068】
同様に、第2切換部42は、第2制御信号に応じて、第1バンドパスフィルタ91から第Nバンドパスフィルタのうちいずれか1つのバンドパスフィルタと出力部11とを接続する。そして、制御部60は、DDS30と接続した逓倍器に接続されているバンドパスフィルタと出力部11とを接続するための第2制御信号を第2切換部42に供給する。
【0069】
このような構成にすることにより、周波数シンセサイザ100は、スプリアスを低減させた出力信号を出力する際に設定するパラメータの自由度を向上させることができる。ここで、パラメータは、クロック信号のクロック周波数、DDS信号の周波数、所定の離調周波数、用いる逓倍器の逓倍数等である。また、周波数シンセサイザ100の出力信号として設定可能な設定周波数の数を増加させることもできる。
【0070】
以上の本実施形態に係る周波数シンセサイザ100において、複数の逓倍器のうち、出力信号の周波数に対応して用いる逓倍器を特定して切り換えることと、出力信号の周波数に対応する逓倍器を予め特定して記憶部61に記憶しておく例等を説明した。そこで、出力信号の周波数に対応する逓倍器を予め特定する方法について説明する。
【0071】
<DDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第1例>
図4は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第1例を示す。
図4に示す動作フローは、例えば、周波数シンセサイザ100の製造工程、周波数シンセサイザ100の動作中等において実行される。当該動作フローは、周波数シンセサイザ100の制御部60が実行してもよく、これに代えて、周波数シンセサイザ100とは別個のサーバ等のコンピュータが実行してもよい。
【0072】
本実施形態において、周波数シンセサイザ100が出力する出力信号の周波数帯域を1500MHzから2000MHzとし、当該周波数帯域の出力信号に含まれるスプリアスを低減させる方法について説明する。周波数シンセサイザ100は、
図3に示すように、3個の逓倍器を備えるものとする。ここで、第1逓倍器81の逓倍数を3、第2逓倍器82の逓倍数を4、第3逓倍器83の逓倍数を5とする。また、考慮するスプリアスは10次までのスプリアスとする。
【0073】
まず、周波数シンセサイザ100の逓倍器を第1逓倍器81とする(周波数シンセサイザ100の逓倍器を第1逓倍器81から開始する)(S20)。そして、周波数シンセサイザ100から出力される出力信号の周波数に対する離調周波数を特定してプロットした第1スプリアス特性データを生成する(S21)。ここで、離調周波数は、M次スプリアスの周波数と出力信号の周波数との周波数差である。M次スプリアスは、DDS30が出力するDDS信号に含まれる所定の次数以下のM次高調波(Mは2以上かつ所定の数以下の整数)に起因して出力信号に発生するスプリアスである。本実施形態において、Mは2以上かつ10以下の整数とする。
【0074】
図5は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第1スプリアスデータの一例を示す。第1スプリアスデータの横軸は周波数シンセサイザ100の出力信号の周波数を示し、縦軸は離調周波数を示す。
図5は、クロック信号のクロック周波数を3000MHzとした場合に、第1逓倍器81が出力した第1逓倍信号を出力信号として算出した結果である。言い換えると、横軸の出力信号の周波数を1/3にした周波数が、DDS30が出力したDDS信号の周波数となる。
【0075】
図5は、第1逓倍信号に含まれる2次から10次のスプリアスの離調周波数をプロットした結果の例を示す。このような出力信号の周波数に対する離調周波数は、(数1)式を用いて算出することができる。
【0076】
次に、第1スプリアス特性データにおいて、出力信号の周波数ごとに離調周波数が最も小さくなるデータを抽出して、第2スプリアス特性データを生成する(S22)。
図6は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第2スプリアスデータの一例を示す。
図6は、
図5に示す第1スプリアスデータにおいて、離調周波数が最も小さいデータを出力信号の周波数ごとに抽出した結果を示す。言い換えると、
図6より、所定のクロック周波数において、周波数シンセサイザ100の出力信号の周波数を決めると、第1逓倍器81の第1逓倍信号の周波数に最も近いスプリアスの離調周波数を特定することができる。
【0077】
次に、複数の逓倍器ごとに、第1スプリアス特性データを生成するステップ(S21)と第2スプリアス特性データを生成するステップ(S22)とを繰り返して、複数の逓倍器に対応する複数の第2スプリアス特性データを生成する(S20~S23)。例えば、第2逓倍器82が出力した第2逓倍信号を周波数シンセサイザ100の出力信号として第1スプリアスデータ及び第2スプリアスデータ生成し、次に、第3逓倍器83が出力した第3逓倍信号を周波数シンセサイザ100の出力信号として第1スプリアスデータ及び第2スプリアスデータ生成する。
【0078】
次に、複数の第2スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データを生成する(S24)。
図7は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の複数の第2スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。より具体的には、
図7は、第1逓倍信号、第2逓倍信号、及び第3逓倍信号の3つの信号に基づいて生成された3つの第2スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。
【0079】
次に、複数の第2スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、出力信号の周波数ごとに離調周波数が最も大きくなるデータを抽出して、第3スプリアス特性データを生成する(S25)。
図8は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第3スプリアスデータの一例を示す。
図8は、
図7に示す周波数特性データから、出力信号の周波数ごとに離調周波数が最も大きくなるデータを抽出した結果を示す。
【0080】
言い換えると、
図8より、所定のクロック周波数において、周波数シンセサイザ100の出力信号の周波数を決めると、最も離調周波数が大きくなるスプリアスを含む逓倍信号を出力する逓倍器を特定することができる。そこで、次に、第3スプリアス特性データに基づき、複数の逓倍器のうち、周波数シンセサイザ100の出力信号の周波数に対応してDDS30に接続する逓倍器を特定する(S26)。
【0081】
例えば、第3スプリアス特性データのうち離調周波数が最大値を示すデータに対応する信号を出力する逓倍器を、DDS30に接続する逓倍器として特定する。
図8の例の場合、例えば、周波数シンセサイザ100の出力信号が1589MHz~1661MHzの範囲において、離調周波数としてプロットしているデータは第2逓倍信号の離調周波数なので、DDS30に接続する逓倍器を第2逓倍器82と特定できる。
【0082】
また、周波数シンセサイザ100の出力信号が1662MHz~1730MHzの範囲において、離調周波数としてプロットしているデータは第1逓倍信号の離調周波数なので、DDS30に接続する逓倍器を第1逓倍器81と特定できる。同様に、周波数シンセサイザ100の出力信号が1731MHz~1791MHzの範囲において、離調周波数としてプロットしているデータは第3逓倍信号の離調周波数なので、DDS30に接続する逓倍器を第3逓倍器83と特定できる。
【0083】
これに代えて、第3スプリアス特性データのうち周波数差が所定の離調周波数を超えるデータに対応する信号を出力する逓倍器を、DDS30に接続する逓倍器として特定してもよい。例えば、
図8の例において、離調周波数が100MHzを超えている逓倍信号を出力する逓倍器を、DDS30に接続する逓倍器として特定する。
【0084】
例えば、周波数シンセサイザ100の出力信号が1551MHz~1579MHzの範囲において、第1逓倍信号から第3逓倍信号の離調周波数はいずれも100MHzを超える。したがって、第1逓倍器81、第2逓倍器82、及び第3逓倍器83のうちいずれか1つをDDS30に接続する逓倍器として特定できる。
【0085】
また、周波数シンセサイザ100の出力信号が1580MHz~1656MHzの範囲において、第2逓倍信号の離調周波数が100MHzを超えるので、第2逓倍器82をDDS30に接続する逓倍器として特定できる。同様に、周波数シンセサイザ100の出力信号が1723MHz~1812MHzの範囲において、第3逓倍信号の離調周波数が100MHzを超えるので、第3逓倍器83をDDS30に接続する逓倍器として特定できる。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る動作フローによれば、周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定することができる。特定した逓倍器の情報は、周波数シンセサイザ100のクロック周波数、出力信号に対応づけて記憶部61に記憶することが望ましい。これにより、周波数シンセサイザ100は、記憶部61に記憶されている情報を読み出して、出力すべき信号の周波数に対応して用いる逓倍器を特定することができる。したがって、周波数シンセサイザ100は、上述のように、出力信号に含まれるスプリアスの信号強度を簡便に抑制できる。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る動作フローにおいて、クロック周波数を3000MHzとしてDDS30に接続する逓倍器を特定する例を説明したが、これに限定されることはない。例えば、複数の異なるクロック周波数を用いて、DDS30に接続する逓倍器を特定してもよい。このような逓倍器を特定する動作について次に説明する。
【0088】
<DDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第2例>
図9は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定するための動作フローの第2例を示す。第2例の動作フローにおいて、
図4に示された動作フローの動作と略同一のものには同一の符号を付け、重複する説明を省略する。
【0089】
第2例の動作フローは、第1スプリアス特性データを生成するステップS21、第2スプリアス特性データを生成するステップS22、及び第3スプリアス特性データを生成するステップS23~S24を、所定の複数のクロック周波数ごとに実行して複数の第3スプリアス特性データを生成する(S31~S32)。
【0090】
そして、生成した複数の第3スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データを生成する(S33)。
図10は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の複数の第3スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。より具体的には、
図10は、クロック周波数を2000MHz、2500MHz、3000MHzにした場合に生成された3つの第3スプリアスデータを同一のグラフに描画した例を示す。
【0091】
次に、複数の第3スプリアス特性データを同一のグラフに描画した周波数特性データにおいて、出力信号の周波数ごとに離調周波数が最も大きくなるデータを抽出して、第4スプリアス特性データを生成する(S34)。
図11は、本実施形態に係る周波数シンセサイザ100の第4スプリアスデータの一例を示す。
図11は、
図10に示す周波数特性データから、出力信号の周波数ごとに離調周波数が最も大きくなるデータを抽出した結果を示す。
【0092】
そして、S26において、第4スプリアス特性データに基づき、複数の逓倍器のうち、周波数シンセサイザの出力信号の周波数に対応してDDS30に接続する逓倍器を特定する。第2例の動作フローのS26における動作は、第1例の動作フローのS26における動作において、用いるデータを第3スプリアスデータから第4スプリアスデータにする。そして、例えば、第4スプリアス特性データのうち離調周波数が最大値を示すデータに対応する信号を出力する逓倍器とクロック周波数とを、DDS30に接続する逓倍器と用いるクロック周波数として特定する。
【0093】
これに代えて、第4スプリアス特性データのうち周波数差が所定の離調周波数を超えるデータに対応する信号を出力する逓倍器とクロック周波数とを、DDS30に接続する逓倍器と用いるクロック周波数として特定してもよい。以上のように、第2例の動作フローにおいても、周波数シンセサイザ100のDDS30に接続する逓倍器を特定することができる。
【0094】
第2例の動作フローは、複数のクロック周波数を用いることにより、周波数シンセサイザ100の動作条件を増加させているので、出力信号のより広い帯域で離調周波数を大きくすることができる。例えば、1500MHzから2000MHzの帯域において、
図8の第3スプリアス特性データは離調周波数が100MHz以下となる周波数帯域が存在するが、
図11の第4スプリアス特性データは全ての離調周波数が100MHzを超えていることがわかる。
【0095】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0096】
10 周波数シンセサイザ
11 出力部
20 クロック信号源
30 DDS
41 第1切換部
42 第2切換部
51 第1狭帯域フィルタ
52 第2狭帯域フィルタ
60 制御部
61 記憶部
70 増幅回路
81 第1逓倍器
82 第2逓倍器
83 第3逓倍器
91 第1バンドパスフィルタ
92 第2バンドパスフィルタ
93 第3バンドパスフィルタ
100 周波数シンセサイザ