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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008811
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 5/04 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F03D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111340
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】森吉 貴大
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 洋介
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA18
3H178AA22
3H178AA43
3H178BB41
3H178BB90
3H178DD12Z
3H178DD54X
3H178DD70X
(57)【要約】
【課題】凧落下時に対する安全領域の縮小が可能な発電装置を提供する。
【解決手段】発電装置は、支持体と、凧と、可動体と、発電機とを具備する。上記支持体は、風上側から風下側に向かって上り傾斜となる傾斜面を有する。上記凧は、飛翔体と、上記飛翔体に接続される第1の索と第2の索とを有する。上記可動体は、上記第1の索および上記第2の索に接続され、上記第1の索の長さと上記第2の索の長さとの差である索長差を変化させることで、空中において上記飛翔体を8の字軌道で飛翔させることが可能な凧制御ユニットを有し、上記凧から受ける索引力の大きさに応じて上記傾斜面上を風下側および風上側へ往復運動することが可能に構成される。上記発電機は、地上に設置された発電機構と、上記発電機構と上記可動体とを連結する連結部とを有し、上記傾斜面上における上記可動体の上記往復運動を電力に変換する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風上側から風下側に向かって上り傾斜となる傾斜面を有する支持体と、
飛翔体と、前記飛翔体に接続される第1の索と第2の索とを有する凧と、
前記第1の索および前記第2の索に接続され、前記第1の索の長さと前記第2の索の長さとの差である索長差を変化させることで、空中において前記飛翔体を8の字軌道で飛翔させることが可能な凧制御ユニットを有し、前記凧から受ける索引力の大きさに応じて前記傾斜面上を風下側および風上側へ往復運動することが可能に構成された可動体と、
地上に設置された発電機構と、前記発電機構と前記可動体とを連結する連結部とを有し、前記傾斜面上における前記可動体の前記往復運動を電力に変換する発電機と
を具備する発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発電装置であって、
前記凧制御ユニットは、前記飛翔体が受ける風力を利用して前記凧に前記可動体を風下側へ向けて牽引させる第1の操作と、前記可動体の自重を利用して前記可動体を風上側へ向けて移動させる第2の操作と、を交互に実行する
発電装置。
【請求項3】
請求項2に記載の発電装置であって、
前記凧制御ユニットは、前記凧の仰角を変化させることで、前記第1の操作と前記第2の操作を切り替える
発電装置。
【請求項4】
請求項1に記載の発電装置であって、
前記可動体は、前記8の字軌道における前記飛翔体の下降時に生じる第1の牽引力を利用した風下側への移動と、前記8の字軌道における前記飛翔体の上昇時に生じる、前記第1の牽引力よりも小さい第2の牽引力と前記可動体の自重とを利用した風上側への移動と、を交互に行う
発電装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電装置であって、
前記凧制御ユニットは、前記索長差を変化させることで、空中において前記飛翔体を8の字軌道で強制振動させる、又は、8の字軌道で自励振動させるきっかけを与えることが可能に構成される
発電装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電装置であって、
前記支持体は、前記傾斜面の方位を変更可能な回転テーブルを更に有する
発電装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電装置であって、
前記傾斜面は、前記可動体の移動をガイドするガイドレールを有する
発電装置。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電装置であって、
前記傾斜面は、風上側から風下側にいくほど傾斜の度合いが大きくなる傾斜を有する
発電装置。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の発電装置であって、
風下側に位置する前記可動体の、風下側から風上側に向かう方向への移動を付勢する付勢機構、及び/又は、風上側に位置する前記可動体の、風上側から風下側に向かう方向への移動を付勢する付勢機構を更に具備する
発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凧を用いた発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
凧(飛翔体に索が結びつけられた系)を用いてエネルギーを生成させる発電装置は、いわゆる空中風力発電(Airborne Wind Energy System)である。空中風力発電では、空中に飛翔体を飛ばし、当該飛翔体が受ける風力をエネルギーに変換する。空中風力発電としては、発電機構を地上に設置するものと、飛翔体に設置するものに大別される(非特許文献1参照。)。
【0003】
実用化されている地上に発電機構を設置する発電装置に、ポンピングサイクル(Pumping Cycle)方式がある。当該方式では、凧が風を受け上昇する際に索が引き出され、索を巻き付けたドラムを回転させることでエネルギーを取り出す。索が所定の長さまで引き出されると、凧を降下させる。この際、凧に負迎角をとらせるなどして、抗力を最小とし、索を巻きあげる際のエネルギーを最小化する。その結果、索の引き出し時のエネルギー生成量が巻きあげ時のエネルギー消費量よりも大きくなり、この1周期で正味のエネルギーを生み出すことができる(特許文献1~5参照。)。
【0004】
発電機を地上に固定した状態でエネルギーを取り出す他の方式としては、風力をねじりのエネルギーに複数の羽で変換する方式(特許文献6参照。)、凧の8の字サイクルをレバーの左右の動きに変換する方式(特許文献7参照。)、垂直軸風車の両端を凧とする方式(特許文献8参照。)等がある。
【0005】
発電機を地上に固定した状態でエネルギーを取り出す更に他の方式として、凧に発電機を載せた車両を牽引させる方式がある。この方式では、発電機が地上の特定の位置に固定される上記各方式に対して、発電機が地上の特定の位置に固定されない。この方式では、凧に牽引される車両の車輪の回転機構からエネルギーを取り出している(特許文献9、10参照。)。
【0006】
上述した各方式のうちポンピングサイクル方式以外の方式では、構造上の安定性の課題、効率性の課題から実用化には至っていない。例えば、特許文献6に記載される風力タービン装置では、複数の索と柔軟翼を組み合わせる構造であるため突風への対応がポンピングサイクル方式で使用される通常の凧に比べて弱いという構造上の安定性の課題がある。また、特許文献8に記載される風力発電システムにおいても、凧に取り付けられるタービン部が同様の構造上の安定性の課題を有する。特許文献7に記載されるカイトを略円弧状の軌跡を描くように左右に往復動させることによってパワーレバーを駆動させて動力を出力するようにしている風力エネルギー回収装置では、風下かつ上方への引張力を利用するポンピングサイクル方式よりも理論上エネルギー発生に寄与する引張力が小さくなり、効率的でない。このため、ポンピングサイクル方式、特許文献9や特許文献10に記載される車両を牽引する方式が実用的な方式となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-232461号公報
【特許文献2】特表2013-535612号公報
【特許文献3】特表2018-502799号公報
【特許文献4】特表2019-532216号公報
【特許文献5】特開2020-94521号公報
【特許文献6】特開2022-34899号公報
【特許文献7】国際公開2013/094623号
【特許文献8】特開2014-51991号公報
【特許文献9】特表2010-523865号公報
【特許文献10】特表2016-502625号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Antonello Cherubini, Andrea Papini, Rocco Vertechy, Marco Fontana, "Airborne Wind Energy System: A review of the technologies," Renewable and Sustainable Energy Reviews, Vol.51, 2015, pp.1461-1476, https://doi.org/10.1016/j.rser.2015.07.053
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~5に記載されるポンピングサイクル方式、特許文献9や10に記載される車両を牽引する方式では、生産するエネルギーを確保するために、広大な安全領域の確保を必要とする。すなわち、ポンピングサイクル方式では、索を一定長さ引き伸ばす必要があるため、飛翔体と索の落下に対する安全領域を考慮すると、少なくとも数百m程度の領域を確保しなければならない。また、車両を牽引する方式では、車両が周回するためのレールを必要とし、さらに飛翔体と索の落下に対する安全領域を確保しなければならない。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、凧落下時に対する安全領域の縮小が可能な発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る発電装置は、支持体と、凧と、可動体と、発電機とを具備する。上記支持体は、風上側から風下側に向かって上り傾斜となる傾斜面を有する。上記凧は、飛翔体と、上記飛翔体に接続される第1の索と第2の索とを有する。上記可動体は、上記第1の索および上記第2の索に接続され、上記第1の索の長さと上記第2の索の長さとの差である索長差を変化させることで、空中において上記飛翔体を8の字軌道で飛翔させることが可能な凧制御ユニットを有し、上記凧から受ける索引力の大きさに応じて上記傾斜面上を風下側および風上側へ往復運動することが可能に構成される。上記発電機は、地上に設置された発電機構と、上記発電機構と上記可動体とを連結する連結部とを有し、上記傾斜面上における上記可動体の上記往復運動を電力に変換する。
【0012】
このような構成によれば、8の字軌道で飛翔する凧を利用して、傾斜面上で可動体を往復運動させているので、効率的に力を取り出すことができ、かつ、可動体の移動範囲を縮小することができ、凧の落下を考慮した必要な安全領域を縮小することができる。
【0013】
上記凧制御ユニットは、上記飛翔体が受ける風力を利用して上記凧に上記可動体を風下側へ向けて牽引させる第1の操作と、上記可動体の自重を利用して上記可動体を風上側へ向けて移動させる第2の操作と、を交互に実行してもよい。
【0014】
上記凧制御ユニットは、上記凧の仰角を変化させることで、上記第1の操作と上記第2の操作を切り替えてもよい。
【0015】
上記可動体は、上記8の字軌道における上記飛翔体の下降時に生じる第1の牽引力を利用した風下側への移動と、上記8の字軌道における上記飛翔体の上昇時に生じる、上記第1の牽引力よりも小さい第2の牽引力と上記可動体の自重とを利用した風上側への移動と、を交互に行ってもよい。
【0016】
上記凧制御ユニットは、上記索長差を変化させることで、空中において上記飛翔体を8の字軌道で強制振動させる、又は、8の字軌道で自励振動させるきっかけを与えることが可能に構成されていてもよい。
【0017】
上記支持体は、上記傾斜面の方位を変更可能な回転テーブルを更に有してもよい。
【0018】
上記傾斜面は、上記可動体の移動をガイドするガイドレールを有してもよい。
【0019】
上記傾斜面は、風上側から風下側にいくほど傾斜の度合いが大きくなる傾斜を有していてもよい。
【0020】
風下側に位置する上記可動体の、風下側から風上側に向かう方向への移動を付勢する付勢機構、及び/又は、風上側に位置する前記可動体の、風上側から風下側に向かう方向への移動を付勢する付勢機構を更に具備してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、凧の制御や発電に係わる重量物を空に揚げることなく、凧落下時に対する安全領域の縮小が可能な発電装置とすることができる。
【0022】
なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態に係わる発電装置の模式図である。
図2】第1実施形態に係わる発電装置での電力生成を説明するための図である。
図3】(A)は凧の8の字軌道を説明する図であり、(B)は凧が8の字軌道で飛翔するときの右索及び左索それぞれに働く力を模式的に示した図である。
図4】飛翔体の横の8の字軌道の振幅を調整するときの凧の制御方法を説明する図である。
図5】凧を連結させた可動体を一定速度の牽引車によって直線的に牽引し、模擬的に風をあてて飛翔体を飛翔させたときの索の方位角及び仰角の変化、索の張力の変化、凧制御ユニットのスライドの動き変化を示す図である。
図6】第2実施形態に係わる発電装置での電力生成を説明するための図である。
図7】変形例3に係わる発電装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
<第1実施形態>
【0026】
[発電装置]
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態に係わる発電装置1の模式図である。発電装置1は、凧2の飛翔体20が受ける風力を利用して電力を生成(発電)するものである。発電装置1は、凧2と、可動体4と、発電機5と、支持体6とを備える。凧2は、飛翔体20と、当該飛翔体20に接続する、第1の索としての左索21L及び第2の索としての右索21Rとを有する。可動体4は、凧制御ユニット40と、当該凧制御ユニット40を駆動する電源となるバッテリ41とを有する。支持体6は、地面Gに設置されるベース63と、当該ベース63に縦軸回りに回転自在に設けられた回転テーブル64と、当該回転テーブル64上に配置される傾斜面60を有する台62とを有する。傾斜面60は、風上側12から風下側13に向かう上り傾斜を有する。可動体4は、凧2から受ける牽引力の大きさに応じて傾斜面60上を風下側13及び風上側12へ往復運動することが可能に構成されている。具体的には、本実施形態では、傾斜面60は可動体4の移動をガイドするガイドレール61を有し、可動体4はガイドレール61上をスライドするキャリッジ141を有することで、可動体4はガイドレール61上で風下側13と風上側12との間を往復運動することが可能となっている。
【0028】
飛翔体20としては、飛翔体20を横の8の字軌道(以下、単に「8の字軌道」ということがある。)で飛翔させる観点から、下反角を有し機動性に優れるものを用いることが好ましく、また、揚抗比が大きく、揚力自体も大きいものが好ましい。また、飛翔体20としては、柔軟翼を用いることが好ましい。
【0029】
左索21L及び右索21Rそれぞれの一端は飛翔体20に接続され、他端は可動体4に接続される。本実施形態では索の数を2としたが、2以上あればよい。左索21L、右索21Rというように区別する必要がない場合は、索21という。発電装置1によって電力を生成する際、索21の長さを数十m程度とすることができ、例えば65m程度の長さとすることができる。索が長すぎると絡まりが生じる場合があり、絡まり発生を抑制する観点からも索の長さは数十m程度の長さであることが好ましい。これに対し、ポンピングサイクル方式では、一般に、索の長さは数百mから1km程度であり、本発明の発電装置1は、ポンピングサイクル方式と比較して、凧落下を考慮した必要な安全領域(以下、単に「安全領域」ということがある。)の範囲を大幅に縮小することができる。また、日本国内の航空法では、航空路の直下の土地での150m(それ以外では250m)を超えた飛翔体の打ち上げには飛行通報書の提出が必要となるが、発電装置1では、飛翔体20の高度を航空法で定められる150m以下の高度とすることが可能であり、発電装置1の設置場所の制限を緩和することができる。
【0030】
台62は、回転テーブル64上に固定して配置される。回転テーブル64は、傾斜面60の方位を変更可能とする。回転テーブル64を回転させることで、風上側12から風下側13に向かって上り傾斜となるように、傾斜面60の方位を調整することができる。傾斜面60の傾斜方向は、索21の平均的な引張方向と一致する。
【0031】
ガイドレール61とキャリッジ141は、傾斜面60上で可動体4を移動させるガイド機構であるリニアガイド14を構成する。可動体4を走行させる軌道であるガイドレール61は、典型的には2本の平行なレールによって構成される。ガイドレール61は、傾斜面60の風上側12と風下側13との間を傾斜方向に平行に延びる。支持体6の傾斜面60を風上側12から風下側13に向かって上り傾斜となるように配置することで、可動体4は、ガイドレール61上を風下側13から風上側12に向かって、自重で移動することが可能となっている。尚、ガイド機構は、傾斜面60上で、風上側12と風下側13との間を可動体4が往復運動するようにガイドできればよく、リニアガイドの他、例えばガイドレールと車輪等で構成してもよく、一般的に用いられるものを使用することができる。ガイドレール61を有する傾斜面60の全長は特に限定されないが、数m~10m程度の大きさとすることができ、安全領域を縮小することができる。
【0032】
可動体4は、凧制御ユニット40と、バッテリ41と、可動体4の底部に設けられるキャリッジ141を有する。可動体4には凧2の索21及び発電機5の連結部52が接続される。凧制御ユニット40は、左索21Lの第1の索の長さと右索21Rの第2の索の長さとの索長差を変える索長差可変機構であり、索長差を変化させることで、空中において飛翔体20を8の字軌道で飛翔させることが可能となっている。より詳細には、凧制御ユニット40は、索長差を変化させることで、空中において飛翔体20を8の字軌道で強制振動させる、又は、自励振動するきっかけを与えることが可能となっている。凧制御ユニット40は、左索21Lの巻き取り及び引き出しをする第1のウィンチとしての左ウィンチ(図示せず)と、右索21Rの巻あげ及び引き出しをする第2のウィンチとしての右ウィンチ(図示せず)を有する。尚、バッテリ41は、可動体4の外にあってもよい。
【0033】
索長差を変える凧制御ユニット40としては、特開2013-527893号公報に記載されるシステム等を用いることができる。凧制御ユニット40において、左ウィンチと飛翔体20との間に亘って設けられる左索21Lは、図示しない支点によって途中が折り曲げられている。当該折り曲げられた部位を第1折り曲げ部位といい、第1折り曲げ部位から飛翔体20までの索の索長を「第1の索の長さ」という。右ウィンチと飛翔体20との間に亘って設けられる右索21Rは、図示しない支点によって途中が折り曲げられている。当該折り曲げられた部位を第2折り曲げ部位といい、第2折り曲げ部位から飛翔体20までの索の索長を「第2の索の長さ」という。本明細書において、「索長差」は、「第1の索の長さ」と「第2の索の長さ」との差を指す。凧制御ユニット40は、ウィンチから飛翔体20までの索の長さを固定した状態で、索長差を制御できるように構成される。特開2013-527893号公報に記載されるシステムにおいて、折り返しブロック(符号4a及び4b)が支点に対応し、当該支点に接触して折り曲げられたケーブル(本明細書における「索」に対応する。)部分が折り曲げ部位に対応する。特開2013-527893号公報における、スライダ(符号2a及び2b)、折り返しブロック(符号4a及び4b)及びモータ(符号3)は、本明細書における「凧制御ユニット」に対応する。特開2013-527893号公報に記載されるシステムでは、駆動するモータによってスライダが移動することで索長差が制御される。
【0034】
空中に凧2を上昇させた状態で、凧制御ユニット40を用いて、第2の索の長さが第1の索の長さよりも長くなるようにした場合、飛翔体20は左方向に傾くように揺れる。一方、凧制御ユニット40を用いて、第1の索の長さが第2の索の長さよりも長くなるようにした場合、飛翔体20は右方向に傾くように揺れる。この飛翔体20が左側に傾くようにする凧2の制御と右側に傾くようにする凧2の制御とを凧制御ユニット40を用いて交互に繰り返すことで、意図的に、飛翔体20が8の字軌道を描くように調整することができる。8の字軌道を描くように飛翔体20を調整することで、凧2に風下かつ上方に高い牽引力を生じさせることができる。
【0035】
図4は、飛翔体20の横の8の字軌道10の振幅11を調整するときの凧の制御方法を説明する図である。8の字軌道を描く飛翔体20を、当該飛翔体20が軌道の所定の位置にきたときに、凧制御ユニット40によって凧2の左右方向の傾きを制御することで、8の字軌道10の振幅11を変える(増幅又は減衰)ことができる。
【0036】
図4に示すように、8の字軌道10の中央部で斜めに下降するように飛翔体20が軌道を描くとき、振幅11を増幅する場合は、飛翔体20が、8の字軌道10において図上左ループ10Lにおける上昇から下降に転じる位置M付近に位置したときに、飛翔体20が右方向に傾くように索長差を凧制御ユニット40によって制御する。更に、飛翔体20が、8の字軌道10において図上右ループ10Rにおける上昇から下降に転じる位置N付近に位置したときに、飛翔体20が左方向に傾くように索長差を凧制御ユニット40によって制御する。これを左右交互に行うことで、飛翔体20の振幅11を増幅することができる。8の字軌道10の振幅11を大きくしていくことで、左索21Lと右索21Rとで張力に差分が生じ、張力が一定以上になると、凧制御ユニット40によって積極的に索長差を制御せずとも、飛翔体20は、自励振動で横の8の字軌道10を描くようになる。
【0037】
一方、振幅11を減衰する場合は、飛翔体20が、8の字軌道10において図上左ループ10Lにおける上昇から下降に転じる位置M付近に位置したときに、飛翔体20が左方向に傾くように索長差を凧制御ユニット40によって制御する。更に、飛翔体20が、8の字軌道10において図上右ループ10Rにおける上昇から下降に転じる位置N付近に位置したときに、飛翔体20が右方向に傾くように索長差を凧制御ユニット40によって制御する。これを左右交互に行うことで、飛翔体20の振幅11を減衰することができる。
【0038】
凧制御ユニット40は、飛翔体20が受ける風力を利用して凧2に可動体4を風下側13へ向けて牽引させる第1の操作と、可動体4の自重を利用して可動体4を風上側12へ向けて移動させる第2の操作と、を交互に実行する。第1の操作による可動体4の風下側13への移動を「上りの直線運動」という。第2の操作による可動体4の風上側12への移動を「下りの直線運動」という。第1の操作は、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を相対的に大きい状態とする操作であり、第2の操作は、振幅11を相対的に小さい状態とする操作である。第1の操作で凧制御ユニット40が凧2から受ける牽引力の大きさは、第2の操作で凧制御ユニット40が凧2から受ける牽引力の大きさよりも大きくなる。
【0039】
本実施形態では、凧制御ユニット40は、凧2の仰角を変化させることで第1の操作と第2の操作を切り替える。詳細には、図2(C)に示すように、凧制御ユニット40を用いて飛翔体20の振幅11を減衰することで、凧2の牽引方向Fを変化させ、凧2の仰角θ1を増加させて仰角θ2となるように調整することができる。凧2の仰角を増加させることで、風向き方向Wに対して飛翔体20がほぼ平行となり、凧2の風下側13への牽引力が低減する。これにより、風力による抵抗が重力よりも小さくなることで、可動体4は、自重で、傾斜面60の風下側13から風上側12へと下るように移動する(下りの直線運動)。上りの直線運動及び下りの直線運動を繰り返すことで、可動体4は、ガイドレール61上で往復運動することができる。
【0040】
発電機構51は、回転テーブル64上に固定して配置され、発電機構51は地上に設けられる。発電機5は、可動体4の往復運動を電力に変換する。発電機5は、発電機構51と、連結部52と、変換機構53とを有する。発電機構51は、例えば磁石を有するロータとコイルが巻装されたステータとを有する。連結部52は、一端が可動体4と接続し、他端が変換機構53に接続する。連結部52は、可動体4の直線往復運動を変換機構53に伝達する。変換機構53は、伝達された直線往復運動を回転運動に変換し、当該回転運動を用いてコイルの中の磁石を回転することで電力を生成する。変換機構53として偏心カム機構、ラック&ピニオン機構、スライダクランク機構等を用いることができる。変換機構53には必要に応じて増速ギヤなどが組み込まれてもよい。
【0041】
尚、発電機構51の構成はここに記載する構成に限定されない。例えば、本実施形態では、可動体の直線往復運動を回転運動に変換し電力を生成する例をあげたが、直線往復運動を回転運動に変換することなく電力を生成するように構成してもよい。例えば、コイルの中の磁石を直線往復運動させることで電力を生成するようにしてもよい。
【0042】
[8の字軌道について]
【0043】
図3(A)は飛翔体20の8の字軌道10を説明するための模式図であり、図3(B)は飛翔体20が8の字軌道10で飛翔するときの右索21R及び左索21Lそれぞれに働く力(張力)を模式的に示したものである。飛翔体20が8の字軌道で飛翔する際、右索21R及び左索21Lには張力の変化が生じる。飛翔体20が風力をうけて上昇することで索21には常に張力が働くが、8の字軌道10上、特に飛翔体20が下降するときに索21に大きな張力が働く。
【0044】
図3(A)及び(B)に示すように、飛翔体20が8の字軌道10の中央部で左から右に向かって下降する下降付近aでは、左索21L及び右索21Rに働く張力が大きくなる。更に、左索21Lに働く張力は右索21Rに働く張力よりも大きくなり、左右で張力差が生じる。飛翔体20が8の字軌道10の中央部で右から左に向かって下降する下降付近cでは、左索21L及び右索21Rに働く張力が大きくなる。更に、右索21Rに働く張力は左索21Lに働く張力よりも大きくなり、左右で張力差が生じる。これらに対し、飛翔体20が下から上に向かって上昇する上昇付近b及び上昇付近dでは、左索21L及び右索21Rに働く張力は小さくなり、左右間での張力差も小さい。
【0045】
下降付近a及びcで、左索21Lと右索21Rとの張力差が生じるのは、飛翔体20と左右の索21の支点との距離関係、換言すると第1の索の長さ及び第2の索の長さに依存していると考えられ、これが、自励振動が発生するメカニズムの一つと考えられる。尚、自励振動のメカニズムは十分に解明されておらず、凧自体の変形や、それに伴い発生する空気力にも依存している可能性が高く、より複雑なメカニズムとなっていると考えらえる。
【0046】
発電装置1では、風力を利用し凧制御ユニット40によって凧2を8の字軌道10で飛翔させることで大きな力を得ることができ、当該力を用いて傾斜面60上で可動体4を往復運動させることで、効率よく電力を生成することができる。
【0047】
[電力生成方法]
【0048】
発電装置1による電力生成方法について図2を用いて説明する。図2では、発電機5、バッテリ41及びキャリッジ141の図示を省略し、図を簡略化している。尚、後述する第2実施形態の説明で用いる図6においても同様である。図中、符号Wが付されている矢印は風向きを示す。符号Eが付されている矢印は可動体4の進行方向を示す。符号Fが付されている矢印は飛翔体20の生成する力の方向(牽引方向)を示す。
【0049】
図2(A)に示すように、傾斜面60の風上側12から風下側13に向かって上り傾斜となるように、回転テーブル64を回転させて台62の位置を決定する。初め、可動体4は傾斜面60の風上側12に位置し、索21はある程度の長さが引き出されており、飛翔体20は傾斜面60の風下側13に設置される。その後、索長が所定の長さとなるまで左索21L及び右索21Rの両方を均等に右ウィンチ及び左ウィンチで巻きあげることで、飛翔体20は風を受け、上昇する。索21の索長が所定の長さとなったら、各ウィンチの使用を停止し、各ウィンチによる巻きあげ及び引き出しを行わない。つまり、各ウィンチから飛翔体20までの索21の長さは固定される。その後、凧制御ユニット40を用いて索長差を制御することで飛翔体20を左右交互に繰り返し傾け、8の字軌道を描くように飛翔体20の姿勢を調整する。そして、上述で図4を用いて説明したように、飛翔体20の振幅11が増幅するように、凧制御ユニット40によって索長差を制御する。つまり、8の字軌道10を描く飛翔体20が、軌道10において所定の位置に位置したときに、当該所定の位置の側(右側又は左側)と反対側の方向に飛翔体20が傾くよう索長差を凧制御ユニット40によって制御する。これを左右で繰り返し行うことで、飛翔体20の振幅11を増幅していく。左索21Lと右索21Rとの張力に差分が生じ、索21の張力が一定以上となるまで飛翔体20の振幅11を増幅する。そして、凧制御ユニット40を用いた積極的な索長差可変制御を行わなくとも、飛翔体20が自励振動で横の8の字軌道を描き続けるようになったところで、凧制御ユニット40による制御を停止する。
【0050】
凧制御ユニット40による積極的な索長差可変制御は、手動により行われてもよいし、飛翔体20の軌道の画像をカメラで取得し、当該画像情報に基づいて自動で行われてもよい。例えば、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を増幅する場合は、凧制御ユニット40は、画像情報に基づいて飛翔体20が位置M付近(図4参照。)に位置したときに、飛翔体20が右側に傾くようにスライダを移動させて凧2を制御し、飛翔体20が位置N付近(図4参照)に位置したときに、飛翔体20が左側に傾くようにスライダを移動させて凧2を制御する。
【0051】
図2(B)に示すように、凧制御ユニット40は、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を増幅させていき、飛翔体20が受ける風力を利用して、凧2に可動体4を風下側13へ向けて牽引させる第1の操作を実行する。可動体4が傾斜面60の風上側12から風下側13まで移動する際、飛翔体20は複周期、8の字軌道を描く。
【0052】
尚、ここでは、凧制御ユニット40によって飛翔体20が8の字軌道10で自励振動するきっかけを与え、凧制御ユニット40による制御を停止させ、飛翔体20を8の字軌道で自励振動させる例をあげたが、凧制御ユニット40による制御を継続して飛翔体20を8の字軌道10で強制振動させてもよい。しかしながら、エネルギー効率向上の観点からは、積極的な索長差可変制御を実行せずとも飛翔体20が自励振動で横の8の字軌道を描き続けるようになったところで、凧制御ユニット40による積極的な制御を停止することが好ましい。これにより、凧制御ユニット40の制御に費やすエネルギーを低減することができ、結果として装置全体のエネルギー効率を向上させることができる。
【0053】
次に、図2(C)に示すように、可動体4が傾斜面60の風下側13まで到達すると、凧制御ユニット40は、凧2の仰角を変化させることで第1の操作から第2の操作へ切り替える。凧制御ユニット40は、可動体4の自重を利用して可動体4を風上側12へと移動させる第2の操作を実行する。具体的には、凧制御ユニット40は、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を減衰することで、凧2の牽引方向Fを変化させ、凧2の仰角θ1を増加させて仰角θ2となるように調整する(第1の操作から第2の操作への切り替え)。このように、凧制御ユニット40によって、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を変えることで、索21をウィンチで巻き上げることなく、凧2の仰角を変えることができる。仰角が増加することで、飛翔体20は風向きに対してほぼ平行となり、凧2の風下側13への牽引力が低減する。これにより、図2(D)に示すように、可動体4は、自重で、風上側12へ向かって傾斜面60を下るように移動する。
【0054】
次に、図2(E)に示すように、可動体4が傾斜面60の風上側12まで戻ると、凧制御ユニット40は、索長差を制御して、飛翔体20の8の字軌道の振幅11が増幅するように凧2を制御し、仰角を減少するように変化させる(第2の操作から第1の操作への切り替え)。凧制御ユニット40は、図2(A)及び(B)を用いて説明したように、再び飛翔体20が受ける風力を利用して凧2に可動体4を風下側13へ向けて牽引させる第1の操作を実行する。
【0055】
図2(A)~(E)を繰り返す、つまり、凧制御ユニット40が、第1の操作と第2の操作を交互に実行することで、傾斜面60上で可動体4を往復運動させることができる。そして、発電機5にて傾斜面60上における可動体4の往復運動を電力に変換することができる。
【0056】
図5は、模擬的に風を発生させて凧を飛翔させ、ある系で凧を飛翔させることで、凧制御ユニット40のスライダの制御を停止しても、飛翔体を自励振動させることができる一例を示す。図5は、平面上で、凧2を連結させた可動体4を、一定速度(ここでは26km/h)で直線的に走行する牽引車によって牽引して模擬的に風を発生させて飛翔体20を飛翔させた実験を行ったときの、右索21R及び左索21Lそれぞれの張力の変化、凧制御ユニット40のスライダの動きの変化、各索21の仰角及び方位角それぞれの変化を示す。牽引車の走行中、凧制御ユニット40から飛翔体20までの右索及び左索それぞれの索長が一定となるように保ち、ここでは右索及び左索それぞれの索長を45mとした。飛翔体20として、スパン長が1346mm、翼面積が0.56m、重量が0.312kg、構成素材がリップストップポリエステルのものを用いた。実験時、風速2m/sの南西の風がふく中、牽引車を東から西に向かって走行させた。
【0057】
図5において、極太実線は凧制御ユニット40の一部を構成するスライダの動きの変化を示す。太実線は、右索21Rと水平方向とがなす角度である右索の仰角θRightの変化を示す。細実線は左索21Lと水平方向とがなす角度である左索の仰角θLeftの変化を示す。太破線は、風向き方向を基準とした右索21Rの水平成分の方向である方位角ΦRightの変化を示す。細実線は風向き方向を基準とした左索21Lの水平成分の方向である方位角ΦLeftの変化を示す。細一点鎖線は右索21Rの張力を示す。太一点鎖線は左索21Lの張力を示す。極太破線は、牽引車の速度を示す。
【0058】
図5に示すように、実験では、牽引車の走行が開始すると、凧2が上昇し、仰角が高くなっていく。走行開始から40秒くらいまでは、飛翔体20の揺れが大きくなりすぎないように、凧制御ユニット40のスライダによって飛翔体20の揺れを抑制するように索長差可変制御を行った。その後、スライダによる制御を停止しても、凧2が8の字軌道で自励振動することが確認された。また、図5及び図3(B)に示すように、飛翔体20が8の字軌道を描いて飛翔することで、右索21R及び左索21Lに大きな張力が生じることが確認された。尚、空力的にどのような系とすることで、スライダによる積極的な制御をせずとも飛翔体が横の8の字軌道で自励振動を生じるのかは十分に解明されていないが、飛翔体に接続する2本の索(左索及び右索)の張力に差分が生じ、索の張力が一定以上になるときをきっかけとして、自励振動が生じるようになるのではないかと考えられる。
【0059】
以上のように、発電装置1では、凧制御ユニット40は、飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を増幅又は減衰することで、凧2の風下側13への牽引力を増加又は減少させ、これを利用して可動体4を傾斜面60上で往復移動させている。このように可動体4を往復移動させることで、可動体の移動範囲を、従来の車両を牽引する方式と比べて縮小することができ、安全領域を縮小することができる。また、本実施形態の発電装置1の電力生成方法では、8の字軌道の振幅の増幅又は減衰によって凧の仰角を変化させて凧2の風下側13への牽引力を増加又は減少させているので、索を大幅に巻き上げたり引き出したりすることなく、風下側13へ向けた牽引力の大きさを変化させることができる。このように発電装置1では、ウィンチから飛翔体20までの索の長さを大きく変化させないため、従来の車両を牽引する方式やポンピングサイクル方式と比較して索の長さを短くすることができ、安全領域を縮小することができる。また、発電装置1では、既存の風力発電施設のように大型の支柱や大型の剛体翼が不要である。
【0060】
このように、発電装置1は、安全性が高く、設置場所の制限を緩和でき、設置・撤退時のコストを削減でき、景観を損ねにくいものとなっている。このため、発電装置は、高圧電線や、海岸線であっても民家が近いなど、落下時の影響を特に考慮する必要がある、設置場所が制限されやすい地域への設置に特に有効である。また、発電装置では、気象悪化時、凧を地上に配置することができ、防風、降雪、落雷などの被害を回避することができる。更に、発電装置1では、重量物である凧制御ユニットや発電機等を飛翔体に搭載することなく地上に設けることができるので、安全領域の縮小の実現に加えて、重量物が落下するといったことがなく安全性を高めることができる。これに対し、例えば重量物であるモータを飛翔体に搭載して上空にあげて発電するタイプの発電装置では、安全領域を縮小できるものの、モータの落下の可能性があり安全性が低下する。
【0061】
<第2実施形態>
【0062】
上述の実施形態では、第1の操作と第2の操作の切り替えを、凧制御ユニット40が積極的に飛翔体20の8の字軌道10の振幅11を変化させ、凧2の仰角を変化させることで実行する例をあげたが、これに限定しない。例えば、本実施形態のように、凧2の仰角を積極的に変えることなく、可動体4を往復運動させてもよい。以下、図3(A)及び図6を用いて、本実施形態における電力生成方法について説明する。本実施形態で用いる発電装置1は、第1実施形態の発電装置とほぼ同様のものを用いることができる。
【0063】
本実施形態の発電装置1での電力生成方法では、8の字軌道上、飛翔体20が下降するときは索に働く張力が大きくなって牽引力(第1の牽引力という。)が相対的に大きくなり、飛翔体20が上昇するときは索に働く張力が小さくなって牽引力(第2の牽引力という。)が相対的に小さくなることを利用している。具体的には、本実施形態では、可動体4が、飛翔体20の8の字軌道10において飛翔体20の下降時に生じる第1の牽引力を利用して風下側13へと移動し、飛翔体20の上昇時に生じる第2の牽引力と可動体4の自重を利用して風上側12へと移動するように、構成される。このため、第1実施形態とくらべて、可動体4のストロークを小さくすることができ、支持体6の全長を短くすることができる。従って、全体的に発電装置の大きさをより小型化することができ、安全領域をより縮小することができる。
【0064】
図3(A)を参照する。本実施形態では、図6(A)に示すように、8の字軌道10において、飛翔体20が左ループ10Lから右ループ10Rにかけて下降する下降付近aでは、可動体4は第1の牽引力を利用して風下側13へ移動する(上り直線運動)。続いて、右ループ10Rの飛翔体20が上昇する上昇付近bでは、可動体4は第2の牽引力及び可動体4の自重を利用して風上側12へ移動する(下り直線運動)。続いて、飛翔体20が右ループ10Rから左ループ10Lにかけて下降する下降付近cでは、可動体4は第1の牽引力を利用して風下側13へ移動する(上り直線運動)。続いて、左ループ10Lの飛翔体20が上昇する上昇付近dでは、可動体4は第2の牽引力及び可動体4の自重を利用して風上側12へ移動する(下り直線運動)。このように、本実施形態では、飛翔体20が8の字軌道で1回りする間(1周期)に可動体4はガイドレール61上を二往復する。本実施形態においても第1実施形態と同様に、発電機5により可動体4の往復運動が電力に変換される。
【0065】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、安全領域を縮小することができ、安全性が高く、設置場所の制限を緩和でき、設置・撤退時のコストを削減でき、景観を損ねにくい発電装置とすることができる。
【0066】
また、本実施形態では、凧の仰角を積極的に変更する必要がなく、仰角を変更するための凧制御ユニットの制御に用いるエネルギーを削減することができ、よりエネルギー効率を向上させることができる。
【0067】
<変形例>
【0068】
以上、本発明の様々な実施形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、本発明はここで開示された特定の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0069】
[変形例1]
【0070】
上述の実施形態では、凧2の索21が2本である例をあげたが、これに限定されず、索21は、2本以上あればよい。飛翔体20を8の字軌道で飛翔させるために、飛翔体20の左右両端部それぞれに接続され、可動体に接続される索が、少なくとも左右1本ずつあればよい。
【0071】
[変形例2]
【0072】
上述の実施形態では、ガイドレール61を有する傾斜面60の傾斜が固定されている例をあげたが、発電装置1は、風速条件に応じてガイドレール61を有する傾斜面60の傾斜を変化させる変化機構を有してもよい。ガイドレール61を有する傾斜面60の傾斜を変化させる方法としては、ガイドレール61単体の傾斜を変化させてもよいし、ガイドレール61が固定される台62の傾斜面60の傾斜を変化させてもよい。これにより、可動体4の風上側12への移動時(下り直線運動時)、可動体4が、風力による抵抗が重力よりも大きく自重で下り方向の移動が困難な場合、変化機構によってガイドレール61の傾斜がより急となるように変化させることで、可動体4の下り方向の移動を促すことができる。
【0073】
[変形例3]
【0074】
図7を用いて、変形例として発電装置1Aについて説明する。上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略する。
【0075】
上述の実施形態では、傾斜面60の傾斜の度合いが風上側12から風下側13に向かって変化しない均一な構成としたが、図7に示す発電装置1Aのように、風上側12から風下側13にいくほど傾斜の度合いが大きくなるように、支持体6Aの傾斜面60A及びガイドレール61Aを構成してもよい。これにより、ガイドレール61A上を移動する可動体4は、風下側13に向かって一定距離以上すすむと、風上側12に向かって下りやすいようにすることができ、可動体4の下り方向の移動を促すことができる。
【0076】
[変形例4]
【0077】
上述の実施形態において、下り直線運動時、可動体4が、風力による抵抗が重力よりも大きく自重で下り方向の移動が困難な場合、風下側13に位置する可動体4の、風下側13から風上側12に向かう方向への可動体4の下り方向の移動を付勢する付勢機構を設けてもよい。ここで、発電装置1では、傾斜面60のガイドレール61の風下側13の先端付近に、可動体4の上り方向の移動を制限するストッパ(図示せず)が典型的には設けられ、可動体4が支持体6から落下しない構成となっている。上記付勢機構として、例えばストッパを弾性体で構成してもよく、ストッパに衝突した可動体4はストッパの弾性によって跳ね返されて可動体4の下り方向に向かう移動の勢いがつき、可動体4の下り方向の移動を促すことができる。また、他の付勢機構として、ストッパ及び可動体4それぞれに、ストッパ及び可動体4が接近すると反発するように磁石を設けてもよく、ストッパに接近した可動体4の磁石とストッパの磁石とが反発することで、可動体4の下り方向に向かう移動の勢いがつき、可動体4の下り方向の移動を促すことができる。また、更に他の付勢機構として、可動体4を風下側13から風上側12に向かって牽引する牽引機構が設けられてもよい。当該牽引機構によって可動体4の下り方向に向かう移動の勢いがつくようにしてもよく、可動体4の下り方向の移動を促すことができる。牽引機構は、例えば、可動体4と発電機構51とを連結紐で繋ぎ、発電機構51側で連結紐を巻き取って可動体4を牽引するように構成されてもよい。
【0078】
上述では、風下側に位置する可動体4の下り方向の移動を付勢する付勢機構について説明したが、風上側に位置する可動体4の風上側12から風下側13へ向かう上り方向の移動を付勢する付勢機構を設けてもよい。可動体4の上り方向の移動を付勢する付勢機構としては、上述の可動体4の下り方向の移動を付勢する付勢機構と同様のものを用いることができる。すなわち、傾斜面60のガイドレール61の風上側12の先端付近に設けられる、可動体4の下り方向の移動を制限して可動体4が支持体6から落下を防ぐストッパを弾性体で構成してもよい。これにより、ストッパに衝突した可動体4はストッパの弾性によって跳ね返されて可動体4の上り方向に向かう移動の勢いをつけることができる。また、他の付勢機構として、ストッパ及び可動体4それぞれに接近すると反発するように磁石を設け、磁石の反発を利用して、可動体4の上り方向に向かう移動の勢いをつけることができる。また、更に他の付勢機構として、可動体4を風上側12から風下側13に向かって牽引する牽引機構が設けられてもよく、当該牽引機構によって可動体4の上り方向に向かう移動の勢いがつくようにしてもよい。
【0079】
このように、可動体4の下り方向の移動を付勢する付勢機構及び/又は上り方向の移動を付勢する付勢機構を設けることで、可動体4の往復運動を補助することができる。
【0080】
[変形例5]
【0081】
回転テーブル64に加えて、或いは、替えて、ガイドレール61の下部に回転機構を設置し、ガイドレール61の延在方向を傾斜面60内で調整可能としてもよい。これにより、風向きとガイドレール61の延在方向とが略平行となるように調整することができ、より効率的に風力を利用することができる。
【0082】
[変形例6]
【0083】
上述の第1実施形態において、第1の操作から第2の操作への切り替え時に行う凧2の仰角変化(図2(C)のフェーズ)の完了後に、ウィンチから索を急速に引き出すようにしてもよい。これにより、牽引力を急速に低下させることができ、可動体4の往復運動に有利である。尚、仰角が低い条件で索を急速に引き出してしまうと凧2が墜落する場合があるため、ある程度の仰角を有している場合に実施することが好ましい。
【0084】
また、上述の第1実施形態において、第2の操作から第1の操作への切り替え時に行う凧2の仰角変化(図2(E)のフェーズ)の完了後に、索21をウィンチで巻き取ってもよい。これにより、凧2の対気速度が増し、牽引力が増加するため往復運動に有利である。
【0085】
[変形例7]
【0086】
上述の第1実施形態において、図3(A)に示すように、8の字軌道10での飛翔体20の飛翔方向を、8の字軌道10の中央部(左ループ10Lと右ループ10Rとの間付近)で飛翔体20が下降するようにしたが、飛翔体20が上昇するようにしてもよい。
【0087】
[変形例8]
【0088】
上述の第1実施形態では、飛翔体の離陸時(図2(A)参照。)、可動体4が傾斜面60の風上側12に位置する例をあげたが、風下側13に位置するようにしてもよい。この場合、可動体4を下降させながらウィンチで索を巻くことで、下降速度に加え、ウィンチの巻きこみ速度及び風速が、離陸に寄与する速度となり、より効率的に飛翔体20を飛翔させることができ効率的な発電に有利となる。
【符号の説明】
【0089】
1、1A…発電装置
2…凧
20…飛翔体
21L…左側の索(第1の索)
21R…右側の索(第2の索)
4…可動体
40…凧制御ユニット
5…発電機
51…発電機構
52…連結部
6、6A…支持体
60…傾斜面
61、61A…ガイドレール
64…回転テーブル
10…8の字軌道
12…風上側
13…風下側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7