(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008843
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】プレス機械及びプレス機械の異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B30B 15/28 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
B30B15/28 K
B30B15/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111401
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000100861
【氏名又は名称】アイダエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100143513
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 数規
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼原 成希
【テーマコード(参考)】
4E089
【Fターム(参考)】
4E089FA10
4E089FB05
4E089GA02
4E089GB01
4E089GC10
(57)【要約】
【課題】金型の異常を検知することが可能なプレス機械等を提供すること。
【解決手段】プレス機械は、被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値を検出する検出部と、検出部で検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶する記憶部と、記憶された荷重値に基づきプレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、算出された荷重中心の位置をプレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する算出部と、検出部で検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する判定部と、判定部の判定結果に基づいて異常を報知する報知部とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値を検出する検出部と、
前記検出部で検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶する記憶部と、
記憶された荷重値に基づき前記プレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、前記荷重中心の位置を前記プレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する算出部と、
前記検出部で検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて異常を報知する報知部とを含むことを特徴とする、プレス機械。
【請求項2】
請求項1において、
前記算出部は、
同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に選択された複数の偏心荷重のデータを、当該金型に対応する偏心荷重の分布データとすることを特徴とする、プレス機械。
【請求項3】
請求項2において、
同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群をプロットした画像を表示部に表示させる表示制御部を更に含むことを特徴とする、プレス機械。
【請求項4】
請求項3において、
前記表示制御部は、
前記表示部に表示された前記データ群のうちユーザによって任意に選択されたデータに対応する荷重値の波形データを前記表示部に表示させることを特徴とする、プレス機械。
【請求項5】
被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶する記憶ステップと、
記憶された荷重値に基づき前記プレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、前記荷重中心の位置を前記プレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する算出ステップと、
前記検出ステップで検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する判定ステップと、
前記判定ステップの判定結果に基づいて異常を報知する報知ステップとを含むことを特徴とする、プレス機械の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械及びプレス機械の異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス加工する際のプレス荷重を検出し、検出したプレス荷重に基づき偏心量を算出し、検出したプレス荷重が、算出された偏心量に基づくプレス荷重許容量(プレス毎にメーカーが定めた許容偏心荷重線図の範囲)を超えた場合に、プレス異常であると判断する手法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の手法は、プレス機械を保護するための機能である。一方、プレス機械のユーザは、プレス保護の他にも金型の状態や成形された製品精度を管理し、金型の異常や製品精度の不良等が発生した場合、早期に発見し、対策を行う必要がある。主に金型の異常や製品精度の不良は許容偏心荷重線図の範囲内で起こる現象であるため、従来の手法では、金型の異常や製品精度の不良等を捉えることは困難である。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、金型の異常を検知することが可能なプレス機械及びプレス機械の異常検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るプレス機械は、被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値を検出する検出部と、前記検出部で検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶する記憶部と、記憶された荷重値に基づき前記プレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、前記荷重中心の位置を前記プレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する算出部と、前記検出部で検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて異常を報知する報知部とを含むことを特徴とするプレス機械である。
【0007】
また本発明に係るプレス機械の異常検知方法は、被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値を検出する検出ステップと、前記検出ステップで検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶する記憶ステップと、記憶された荷重値に基づき前記プレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、前記荷重中心の位置を前記プレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する算出ステップと、前記検出ステップで検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する判定ステップと、前記判定ステップの判定結果に基づいて異常を報知する報知ステップとを含むことを特徴とするプレス機械の異常検知方法である。
【0008】
本発明によれば、検出部で検出された荷重値を検出時にプレス機械に取り付けられた金型の識別情報に対応付けて記憶し、記憶された荷重値からプレス機械に作用する荷重中心の位置を算出し、算出された荷重中心の位置をプレス機械の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求めて金型毎の偏心荷重の分布データを生成しておき、検出部で検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定することで、金型の異常を検知することが可能となる。ここで、荷重中心とは、荷重の重心を意味する。また、プレス機械の中心とは、スライドが移動する方向(上下方向)と直交する平面上のスライドの中心位置を意味する。
【0009】
(2)本発明に係るプレス機械では、前記算出部は、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に選択された複数の偏心荷重のデータを、当該金型に対応する偏心荷重の分布データとしてもよい。
【0010】
本発明に係るプレス機械の異常検知方法では、前記算出ステップにおいて、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に選択された複数の偏心荷重のデータを、当該金型に対応する偏心荷重の分布データとしてもよい。
【0011】
(3)本発明に係るプレス機械では、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群をプロットした画像を表示部に表示させる表示制御部を更に含んでもよい。
【0012】
本発明に係るプレス機械の異常検知方法では、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群をプロットした画像を表示部に表示させる表示制御ステップを更に含んでもよい。
【0013】
(4)本発明に係るプレス機械では、前記表示制御部は、前記表示部に表示された前記データ群のうちユーザによって任意に選択されたデータに対応する荷重値の波形データを前記表示部に表示させてもよい。
【0014】
本発明に係るプレス機械の異常検知方法では、前記表示制御ステップにおいて、前記表示部に表示された前記データ群のうちユーザによって任意に選択されたデータに対応する荷重値の波形データを前記表示部に表示させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るプレス機械の構成の一例を示す図。
【
図3】偏心荷重の分布データを生成する処理の流れを示すフローチャート。
【
図5】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群の表示の一例を示す図。
【
図6】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群の表示の一例を示す図。
【
図7】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群の表示の一例を示す図。
【
図8】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群の表示の一例を示す図。
【
図9】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群の表示の一例を示す図。
【
図10】同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群と荷重値の波形データの表示の一例を示す図。
【
図11】異常を検知する処理の流れを示すフローチャート。
【
図12】本実施形態の異常検知手法について説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るプレス機械(サーボプレス)の構成の一例を示す図である。プレス機械1は、回転運動を直線運動に変換する偏心機構によってサーボモータ10の回転をスライド17の上下往復運動(往復直線運動、昇降運動)に変換し、スライド17の上下往復運動を利用して被加工材料に対してプレス加工を施す。プレス機械1は、サーボモータ10、エンコーダ11、ドライブシャフト12、ドライブギア13、メインギア14、クランクシャフト15、コネクティングロッド16、スライド17、ボルスタ18、制御装置100、ユーザーインターフェース110(操作部)、ディスプレイ120(表示部)を有する。プレス機械はサーボプレスに限らず、例えば、フライホイールを用いたメカプレスでもよいし、ボールねじを用いた直動式プレスでもよい。この場合、エンコーダはクランクシャフト15の軸端やボールねじの軸端に設けてもよい。
【0018】
サーボモータ10の回転軸にはドライブシャフト12が接続され、ドライブシャフト12にはドライブギア13が接続される。ドライブギア13にはメインギア14が噛み合わされ、メインギア14にはクランクシャフト15が接続され、クランクシャフト15にはコネクティングロッド16が接続される。ドライブシャフト12やクランクシャフト15等の回転軸は適宜設けられた軸受け(図示せず)によって支持される。クランクシャフト15とコネクティングロッド16とで偏心機構が形成される。この偏心機構によって、コネクティングロッド16に接続されたスライド17は、静止側のボルスタ18に対して昇降可能になる。ここでは、プレス機械1は、クランクシャフト15とスライド17が、サスペンションとしても機能する2本のコネクティングロッド16によって接続される、2ポイント駆動のプレス機械である。スライド17には上金型20が装着され、ボルスタ18には下金型21が装着される。
【0019】
プレス機械1は、被加工材料に対してプレス加工を行う際の荷重値をプレスサイクル毎に検出するための右荷重センサ30及び左荷重センサ31を備える。
図2に示すように、右荷重センサ30は、プレス機械1の右コラム40(右サイドフレーム)に取り付けられたひずみゲージであり、左荷重センサ31は、プレス機械1の左コラム41(左サイドフレーム)に取り付けられたひずみゲージである。なお、右荷重センサ30、左荷重センサ31として、スライド17内に形成された油圧室に設けた圧力センサを用いてもよい。右荷重センサ30と左荷重センサ31の出力データ(ひずみゲージ又は圧力センサの電圧信号)は、制御装置100に入力される。
【0020】
制御装置100は、プレス制御部101、検出部102、記憶部103、算出部104、判定部105、報知部106、表示制御部107を含む。なお、制御装置100は、プレス制御部101、表示制御部107、ユーザーインターフェース110及びディスプレイ120で構成された、プレス機械を制御する独立した装置と、検出部102、記憶部103、算出部104、判定部105、報知部106、表示制御部107、ユーザーインターフェース110及びディスプレイ120で構成された、荷重を検出する独立した装置に分けてもよい。その場合、右荷重センサ30と左荷重センサ31の出力データは荷重を検出する装置に直接入力される。また、プレス機械を制御する装置から、クランク角度の情報等、プレス機械の運転情報が、必要に応じて、荷重を検出する装置に入力される。
【0021】
検出部102は、プレスサイクル毎に右荷重センサ30から出力されたデータ及び左荷重センサ31から出力されたデータを受け付けて、受け付けたデータを記憶部103に記憶された校正データに基づいて換算し、プレス加工の際の荷重値(右荷重値と左荷重値)として検出する。校正データは、電圧信号と荷重値の関係を示すもので、予めロードセル等を用いて測定し記憶部103に記憶させておく。
【0022】
記憶部103は、検出部102で検出された荷重値を、荷重値の検出時にプレス機械1
のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型(上金型20,下金型21)の識別情報(金型番号)に対応付けて記憶する。
【0023】
算出部104は、記憶された荷重値に基づきプレス機械1に作用する荷重中心の位置を算出し、算出された荷重中心の位置をプレス機械1の中心からの偏心量として算出して偏心荷重(合計荷重値と偏心量の組)を求め、金型毎の偏心荷重の分布データを生成する。生成された金型毎の偏心荷重の分布データは記憶部103に記憶される。ここで、算出部104は、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうち、ユーザによって任意に選択された複数の偏心荷重のデータを、当該金型に対応する偏心荷重の分布データ(例えば、正規分布データ)としてもよい。
【0024】
判定部105は、検出部102で検出された荷重値に基づき算出部104で求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械1のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の分布データとに基づいて、異常を判定する。
【0025】
報知部106は、判定部105の判定結果に基づいて異常を報知する。例えば、報知部106は、判定部105により異常と判定された場合に、その旨の情報をディスプレイ120に出力する。
【0026】
表示制御部107は、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群をグラフにプロットした画像をディスプレイ120に表示させる。また、表示制御部107は、ディスプレイ120に表示された前記データ群のうちユーザによって任意に選択されたデータに対応する荷重値の波形データをディスプレイ120に表示させてもよい。
【0027】
ユーザーインターフェース110は、ディスプレイ120に対し操作が可能な公知の入力手段(例えば、マウス、トラックボール、キーボード等)である。また、ユーザーインターフェース110は、ディスプレイ120と一体に設けられてもよい。この場合、ディスプレイ120上に入力手段が表示される。
【0028】
ディスプレイ120は、液晶画面(LCD(Liquid Crystal Display))である。ディスプレイ120として公知の他の表示装置(例えば、有機EL(Electro Luminescence)等)を用いてもよい。また、ディスプレイ120としてタッチパネル式のディスプレイを用いてもよい。タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、表面型静電容量方式、投影型静電容量方式等の公知の方式のタッチパネルを用いることができる。タッチパネル式であれば、ディスプレイ120に対し指やペンで直接触れることにより入力操作を行うことができる。
【0029】
図3は、偏心荷重の分布データを生成する処理の流れを示すフローチャートである。
【0030】
ステップS10~S13の処理は、荷重値を記憶する処理である。荷重値の記憶は、プレス機械1に金型を取り付けて試運転(金型トライ)を行う際に行う。まず、検出部102は、右荷重センサ30から出力されたデータ及び左荷重センサ31から出力されたデータを受け付けて、受け付けたデータを記憶部103に記憶された校正データに基づいて換算し荷重値として検出する(ステップS10)。次に、制御装置100は、現在のクランク角度の情報に基づいて、プレスの1サイクルが終了したか否かを判断し(ステップS11)、1サイクルが終了していない場合(ステップS11のN)には、ステップS10に移行して荷重値の検出を継続する。1サイクルが終了した場合(ステップS11のY)には、記憶部103は、検出された1サイクル分の荷重値(右荷重の波形データと左荷重の波形データ)にタイムスタンプを付与し、検出時にプレス機械1のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型の金型番号に対応付けて記憶する(ステップS12)。図
4に、記憶される荷重値の例を示す。
図4に示すように、右荷重センサ30からのデータに基づき検出した1サイクル分の荷重波形WRと、左荷重センサ31からのデータに基づき検出した1サイクル分の荷重波形WLとを、金型番号に対応付けて荷重値として記憶する。次に、制御装置100は、荷重値の記憶を終了するか否かを判断し(ステップS13)、記憶を継続する場合(ステップS13のN)には、ステップS10に移行し、以降、プレスサイクル毎に荷重値を記憶する。
【0031】
ステップS14~S20の処理は、偏心荷重の分布データを生成する処理である。まず、制御装置100は、ユーザによるユーザーインターフェース110に対する操作に基づいて、金型番号を選択する(ステップS14)。次に、算出部104は、記憶された荷重値のデータの中から、選択された金型番号に対応する荷重値を抽出し(ステップS15)、抽出したそれぞれの荷重値からプレス機械1に作用する荷重中心の位置を算出し、算出した荷重中心の位置をプレス機械1の中心からの偏心量として算出して偏心荷重を求め、選択された金型番号に対応する偏心荷重のデータ群を生成する(ステップS16)。偏心量(偏心位置)は、左右の荷重値の波形(荷重波形WR、荷重波形WL)を合成した波形がピーク値を示したときの左右の荷重値と、右荷重センサ30と左荷重センサ31間の距離(
図2に示す距離dc)とに基づきモーメントのつり合いから算出することができる。偏心量とは、左右の荷重波形を合成した波形がピーク値を示したときに、左荷重よりも右荷重が大きい場合に正の値になり、右荷重よりも左荷重が大きい場合に負の値になり、左右の荷重の差が大きいほど絶対値が大きくなる値である。偏心荷重とは、左右の荷重波形を合成した波形のピーク値(合計荷重値)と、左右の荷重値から算出した偏心量を組とするデータである。なお、右荷重センサ30、左荷重センサ31として、スライド17内に形成された油圧室に設けた圧力センサを用いる場合、偏心量は、左右の荷重値の波形を合成した波形がピーク値を示したときの左右の荷重値と、2本のコネクティングロッド16間の距離(ポイント間隔、
図2に示す距離dp)とに基づき算出する。
【0032】
次に、表示制御部107は、生成された偏心荷重のデータ群をプロットした画像をディスプレイ120に表示させる(ステップS17)。
図5に、偏心荷重のデータ群をプロットした画像の一例を示す。
図5に示す画像は、横軸(X軸)を偏心位置(単位:mm)とし、縦軸(Y軸)を合計荷重値(単位:kN)としたグラフ(散布図)に、同一の金型(選択された金型番号)に対応する偏心荷重のデータ群をプロットした画像である。図中黒塗り点が偏心荷重の1つのデータを示す。
【0033】
次に、ユーザは、ディスプレイ120に表示された偏心荷重のデータ群の中から正規分布とする範囲(正常範囲)を選択する(ステップS18)。算出部104は、選択された範囲内のデータを、ステップS14で選択された金型番号に対応する偏心荷重の正規分布データとして記憶部103に記憶させる(ステップS19)。
【0034】
ステップS18において、偏心荷重のデータ群には、金型内への材料通し中に検出された荷重値に基づく偏心荷重のデータや、空打ち時に検出された荷重値に基づく偏心荷重のデータなど、正常とはいえないデータが含まれている可能性があるため、
図6に示すように、ユーザが偏心荷重のデータ群のうち正規分布とする範囲Rをディスプレイ120上で指定する。範囲Rの指定は、ディスプレイ120に対しユーザーインターフェース110を用いて指定する方法と、ディスプレイ120に対し指やペンで直接触れて指定する方法がある。しかし、実際にユーザが範囲Rを指定するに当っては、多数のデータ群の中からどのデータを範囲Rとして指定すればよいか判断に迷うことが想定される。そこで、その判断材料をユーザに提供する方法を以下に述べる。
【0035】
(その1)
図7に示すように、プレス機械1の運転情報を基に偏心荷重のデータ群を、それぞれ凡例(シンボル)別に表示してもよい。例えば、プレス運転中に運転選択スイッ
チ(微速・寸動・切り・安一・連続)において「連続(連続運転)」が選択された状態にある場合は、定常運転時に得られたデータ群として白抜き点で表示してもよい。その一方で、運転選択スイッチが「微速」、「寸動(寸動運転)」或いは「安一(安全一工程)」が選択された状態にある場合は、金型内への材料通し中や空打ちなどの非定常運転時に得られたデータ群として黒塗り点で表示してもよい。予めそれぞれの荷重値のデータに対応するプレス機械1の運転情報をプレス機械1のショット数(プレス機械1の生産数カウンタの値)によって対応付けし記憶部103に記憶させることで、それぞれの偏心荷重のデータにも対応付けることができる。また、画面上に運転選択スイッチの状態に応じてデータ群を表示或いは非表示にするためのボタンを設けてもよい。
【0036】
(その2)
図8に示すように、成形された製品の精度の情報を基に偏心荷重のデータ群を、それぞれ凡例別に表示してもよい。例えば、製品精度が「良」と判断された場合は得られたデータ群を白抜き点で表示し、製品精度が「不良」と判断された場合は得られたデータ群を黒塗り点で表示してもよい。製品精度の良否判定は「良」と「不良」だけに限らず、更に細分化しそれぞれに応じて凡例別に表示してもよい。予めそれぞれの荷重値のデータに対応する製品精度の情報をプレス機械1のショット数(プレス機械1の生産数カウンタの値)によって対応付けし記憶部103に記憶させることで、それぞれの偏心荷重のデータにも対応付けることができる。製品精度の良否判定は検査装置(図示せず)からプレス運転中にリアルタイムで自動的に記憶部103に入力されてもよく、抜き取り検査の結果を手動で記憶部103に入力してもよい。入力された良否判定の結果は記憶部103に記憶される。
【0037】
(その3)
図9に示すように、タイムスタンプの情報を基に任意の経過時間単位で偏心荷重のデータ群を、それぞれ凡例別に表示してもよい。例えば、運転開始から30分毎にデータ群を経過時間単位に応じて凡例別に表示してもよい。新しい金型で生産する場合、運転開始後の初期摩耗(部材の微細な凸凹が取れた状態)からその後の定常摩耗に移行する過程で荷重値のデータが変化する場合がある。このような場合でも経過時間単位に応じて凡例別に表示すれば、偏心荷重の経時的な変化を認識し易く、定常摩耗に移行した後の偏心荷重のデータを選択し易くすることができる。
【0038】
(その4)
図10に示すように、ディスプレイ120に表示された偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に選択されたデータに対応する荷重値の波形データをディスプレイ120に表示するようにしてもよい。
図10に示す例では、偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に選択された図中白抜き点で示す偏心荷重ELに対応する荷重値の波形データ(荷重波形WR、荷重波形WL)が偏心荷重のデータ群の画像の上方に表示されている。このとき、荷重値の波形データとともにデータが検出された日時を表示してもよい。このようにすると、ユーザは、偏心荷重の各データの波形を基にどのデータを正規分布とする範囲Rに入れるかを判断することができる。
【0039】
以上の方法によれば、ユーザに対し範囲Rを指定する際の判断材料を提供することができ、ユーザはどのデータを正規分布とする範囲Rとして指定すればよいか後からでも容易に判断することができる。
【0040】
次に、制御装置100は、処理を継続する(別の金型番号に対応する偏心荷重の正規分布データを生成する)か否かを判断し(ステップS20)、処理を継続する場合(ステップS20のY)には、ステップS14に移行する。
【0041】
図11は、異常を検知する処理の流れを示すフローチャートである。異常の検知は、通常のプレス運転時に行う。
【0042】
まず、検出部102は、右荷重センサ30から出力されたデータ及び左荷重センサ31から出力されたデータを受け付けて、受け付けたデータを記憶部103に記憶された校正データに基づいて換算し荷重値として検出する(ステップS30)。次に、制御装置100は、現在のクランク角度の情報に基づいて、プレスの1サイクルが終了したか否かを判断し(ステップS31)、1サイクルが終了していない場合(ステップS31のN)には、ステップS30に移行して荷重値の検出を継続する。1サイクルが終了した場合(ステップS31のY)には、算出部104は、検出された1サイクル分の荷重値(右荷重の波形データと左荷重の波形データ)から偏心量を算出して偏心荷重(合計荷重値と偏心量の組)を求める(ステップS32)。
【0043】
次に、判定部105は、記憶部103に記憶された金型毎の偏心荷重の正規分布データのうち、ステップS30の荷重値の検出時にプレス機械1のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型の金型番号に対応する偏心荷重の正規分布データの平均値と標準偏差σに基づいて、ステップS32で求められた偏心荷重の当該平均値からの距離(偏差)を求め(ステップS33)、当該距離が所定距離内であるか否かを判定する(ステップS34)。ステップS32で求められた偏心荷重が正規分布データの平均値から所定距離(例えば、3σ乃至6σ)以上離れている場合(ステップS34のN)には、報知部106は、異常を報知する(ステップS35)。
【0044】
次に、制御装置100は、異常を検知する処理を継続するか否かを判断し(ステップS36)、処理を継続する場合(ステップS36のY)には、ステップS30に移行し、以降、プレスサイクル毎に求められた偏心荷重に基づき異常を検知する。
【0045】
本実施形態によれば、予め、検出部102で検出された荷重値を荷重値の検出時にプレス機械1のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型の金型番号に対応付けて記憶し、記憶された荷重値から偏心荷重を求めて金型毎の偏心荷重の正規分布データを生成しておき、プレス運転時に検出部102で検出された荷重値に基づき求められた偏心荷重と、荷重値の検出時にプレス機械1のスライド17及びボルスタ18に取り付けられた金型に対応する偏心荷重の正規分布データとに基づいて、異常を判定することで、金型の異常を検知することができる。例えば、
図12に示すように、プレス運転時に検出された荷重値に基づく偏心荷重ELが、金型の異常や製品精度の不良に起因して正常時の偏心荷重の正規分布NDの平均値から所定距離以上離れている場合に、当該偏心荷重ELが許容偏心荷重線
図ADの範囲内であっても異常を検知することができる。一方、従来の手法では、当該偏心荷重ELが許容偏心荷重線
図ADの範囲内である限り、異常を検知することができない。また、本実施形態によれば、同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうちユーザによって任意に指定された範囲のデータを当該金型に対応する偏心荷重の正規分布データとすることで、金型内への材料通し中や空打ち時に検出された荷重値に基づく偏心荷重のデータを排除して、適正な偏心荷重の正規分布データを作成することができる。
【0046】
また、本実施形態では、同一の金型に対応する偏心荷重の分布の変化から、金型の変化を推定することが可能である。例えば、金型のメンテナンス直後の正常な偏心荷重の分布が
図6に示す範囲R内の分布であり、数万ショット後の同一金型に対応する偏心荷重の分布が
図13に示す分布となった場合、偏心荷重の分布が左上方向に移動している傾向がみられるため、金型の上流側のパンチとダイスにおける摩耗の進行や、なんらかの異常が発生していると推定される。このように、同一の金型に対応する偏心荷重の分布の変化から金型の変化や異常を素早く捉えることができ、最適なタイミングでの金型メンテナンスが可能になる。
【0047】
上記例では、偏心荷重の分布データを正規分布データとし、正規分布データの平均値から対象までの距離(偏差)を算出して異常を判定する場合について説明したが、異常判定
の手法はこれに限られない。例えば、MT(Maharanobis-Taguchi)法を用いて、偏心荷重の分布データ(同一の金型に対応する偏心荷重のデータ群のうちユーザによって選択された複数の偏心荷重のデータ)を単位空間とし、単位空間の中心から対象までのマハラノビスの距離を算出して異常を判定するようにしてもよい。
【0048】
なお、特許文献1に2ポイント駆動のプレス機械における許容荷重線図(
図12のADに相当)を作成するための算出方法が開示されているが、これは当業者の間では古くからよく知られている方法である。この算出方法で作成された許容偏心荷重線図はポイント能力のみで制限され、スライドの傾きの影響などは考慮されていない。このため、プレス機械を偏心荷重の許容値以内の荷重で使用した場合でも、スライドの傾きによる製品精度の悪化やスライドガイドの焼付き、金型の破損、更にはプレス機械のフレームやポイントの損傷など、不具合の発生が懸念される。このような不具合の発生を避けるため、各プレスメーカはポイント能力の制限を基本として、安全率やスライドの傾き量の制限を加味した合成の許容荷重線図を作成し、ユーザに提供している。
【0049】
なお、上記のように本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0050】
1…プレス機械、10…サーボモータ、11…エンコーダ、12…ドライブシャフト、13…ドライブギア、14…メインギア、15…クランクシャフト、16…コネクティングロッド、17…スライド、18…ボルスタ、20…上金型、21…下金型、30…右荷重センサ、31…左荷重センサ、40…右コラム(右サイドフレーム)、41…左コラム(左サイドフレーム)、100…制御装置、101…プレス制御部、102…検出部、103…記憶部、104…算出部、105…判定部、106…報知部、107…表示制御部、110…ユーザーインターフェース、120…ディスプレイ