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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008850
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】軽量コンクリート部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20250109BHJP
   C04B 14/02 20060101ALI20250109BHJP
   E04B 1/62 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B14/02 B
E04B1/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111414
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳城
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優志
【テーマコード(参考)】
2E001
4G112
【Fターム(参考)】
2E001DH35
2E001FA01
2E001FA02
2E001FA03
2E001FA11
2E001HA01
2E001HB02
4G112PA04
4G112PA29
(57)【要約】
【課題】CO排出量を削減できるとともに、ひび割れ抵抗性に優れた軽量コンクリート部材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る軽量コンクリート部材は、軽量コンクリートと鋼材とを備える軽量コンクリート部材であって、前記軽量コンクリートは、セメントとして高炉セメントB種のみを含有するとともに、300~400L/mの軽量粗骨材と、普通細骨材と、150~185kg/mの水と、前記高炉セメントB種に対する重量比が0.2~2.0%のコンクリート用化学混和剤と、を含有し、前記軽量コンクリートの断面積に対する前記鋼材の断面積の面積比である拘束材比が0.2~8.0%であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量コンクリートと鋼材とを備える軽量コンクリート部材であって、
前記軽量コンクリートは、セメントとして高炉セメントB種のみを含有するとともに、300~400L/mの軽量粗骨材と、普通細骨材と、150~185kg/mの水と、前記高炉セメントB種に対する重量比が0.2~2.0%のコンクリート用化学混和剤と、を含有し、
前記軽量コンクリートの断面積に対する前記鋼材の断面積の面積比である拘束材比が0.2~8.0%であることを特徴とする軽量コンクリート部材。
【請求項2】
有効材齢3~22日の湿潤養生期間に生じる圧縮応力が、0.01~0.33N/mmであることを特徴とする請求項1に記載の軽量コンクリート部材。
【請求項3】
床スラブ、梁、柱、壁、及び、カーテンウォールに用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の軽量コンクリート部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量コンクリートと鋼材とを備える軽量コンクリート部材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート材料の分野において、環境負荷の低減を目的とした技術開発が進められている。具体的には、コンクリート材料として高炉セメントB種を使用することによって、ポルトランドセメントの使用量を削減し、セメントの製造時におけるCO排出量を削減するというものである。
そして、コンクリート材料として高炉セメントB種を使用する技術は、例えば、以下のものが挙げられる。
【0003】
非特許文献1では、高炉セメントB種を使用した普通コンクリート(JIS A 5308:2019に規定)に関して、温度上昇とともに収縮ひずみが増加し、ひび割れ抵抗性(特に30℃の高温時におけるひび割れ抵抗性)が低下すると説明されている。
また、非特許文献2では、高炉セメントB種を使用した普通コンクリートのひび割れ抵抗性(特に30℃の高温時におけるひび割れ抵抗性)は、普通骨材の粗骨材の一部を軽量骨材に置換することで向上すると示されている。そして、軽量骨材に置換した湿潤養生後のコンクリートには、0.2~0.3N/mm程度の圧縮応力が導入されるため収縮拘束応力の低減に効果的であるが、その圧縮応力は、軽量骨材の置換率が25容積%以上では大きく変化しないと説明されている。加えて、軽量骨材の置換率は、置換率の増加による圧縮強度の低下、収縮拘束応力の停滞、限界応力強度比の低下などを勘案しても、25容積%以下が望ましいと説明されている。
また、非特許文献3では、高炉セメントB種を使用した普通コンクリートに関して、細骨材の一部または全部を軽量骨材に置換するか、細骨材と粗骨材の一部を軽量骨材に置換することで、非特許文献2と同様、ひび割れ抵抗性が向上すること、湿潤養生後の時点で圧縮応力が導入されること、が示されている。
また、特許文献1では、普通コンクリート組成物について、ポルトランドセメントの一部を高炉セメントB種に置換するとともに、粗骨材の一部または全部を軽量骨材で置換する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人日本コンクリート工学協会「混和材料から見た収縮ひび割れ低減と耐久性改善研究委員会報告書」pp.273-276,2010.9
【非特許文献2】百瀬,閑田,依田,笠井「高炉セメントB種コンクリートの収縮ひび割れ抵抗性の向上に与える軽量骨材の効果に関する実験検討」コンクリート工学年次論文集,Vol.35,No.1,pp.589-594,2013
【非特許文献3】清原,今本,荒井,石川「人工軽量骨材を用いた高炉セメントコンクリートの収縮ひび割れ特性に関する実験的研究」コンクリート工学年次論文集,Vol.37,No.1,pp.457-462,2015
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-116612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レディーミクストコンクリート工場やプレキャストコンクリート工場などで材料を計量する場合、セメントおよび混和材料は、材料ごとに別々の計量器で計量する必要がある。そのため、特許文献1のように結合材としてポルトランドセメントと高炉セメントB種の2種類を用いようとすると、それぞれの計量器を確保しなければならない。しかしながら、各計量器とそれに接続する材料サイロや貯蔵ビンなどの貯蔵設備との組合せは固定されているため、特許文献1の技術を適用しようとすると、これらの設備を専有することとなり、他のコンクリートが製造できなくなったり、対応可能な工場が限定されたりすることになる。
【0007】
非特許文献1~3、及び、特許文献1に係る技術は、普通コンクリートに関する技術であるため、普通骨材を軽量骨材に置換することとなる。この場合、剛性・強度の小さい軽量骨材の置換率が増加すると、弾性係数や初期の強度発現の低下が大きくなる。そのため、一般的な普通コンクリートと同程度の性能を確保しようとすると、非特許文献2に記載されているように、所要の強度性状とひび割れ抵抗性の向上効果を両立する最適な置換率について事前の実験が必要となってくる。
【0008】
非特許文献1~3、及び、特許文献1に記載の高炉セメントB種を使用するコンクリート材料は、建築物の地下躯体に適用するよりも、コンクリート使用量の多い地上躯体に適用する方が、CO排出量の削減量の観点から効果的である。
しかしながら、地上躯体は、部材断面が小さく乾燥し易いとともに、高炉セメントB種を使用したコンクリートは、乾燥時の収縮拘束力が大きく、ひび割れが生じ易い。よって、高炉セメントB種を使用したコンクリートは、地上躯体としては殆ど使用されていなかった。
【0009】
本発明者らは、このような事情を勘案し、単にCO排出量の削減が図れるだけでなく、地上躯体に適用できるようなひび割れ抵抗性に優れた軽量コンクリート部材を創出したいと考えた。
【0010】
そこで、本発明は、CO排出量を削減できるとともに、ひび割れ抵抗性に優れた軽量コンクリート部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
本発明に係る軽量コンクリート部材は、軽量コンクリートと鋼材とを備える軽量コンクリート部材であって、前記軽量コンクリートは、セメントとして高炉セメントB種のみを含有するとともに、300~400L/mの軽量粗骨材と、普通細骨材と、150~185kg/mの水と、前記高炉セメントB種に対する重量比が0.2~2.0%のコンクリート用化学混和剤と、を含有し、前記軽量コンクリートの断面積に対する前記鋼材の断面積の面積比である拘束材比が0.2~8.0%であることを特徴とする。
本発明によれば、セメントとして高炉セメントB種のみを使用することから、ポルトランドセメントの使用量を削減することができ、セメントの製造時におけるCO排出量を削減することができる。また、本発明によれば、軽量粗骨材の含有量や拘束材比などが特定されていることから、優れたひび割れ抵抗性を発揮することができる。
そして、本発明によれば、軽量コンクリートの使用を前提とし、粗骨材として軽量粗骨材を使用しているため、非特許文献2のような置換率の最適化といった余計な検討は必要ない。さらに、本発明によれば、通常の軽量コンクリートを製造する際の設備を使用することができるため、特許文献1に係る技術で予想される前記した設備上の問題も発生しない。また、非特許文献2~3、及び、特許文献1では、普通コンクリートの普通骨材を高価な軽量骨材に置換していることから、コンクリートの単価が元の単価から大幅に上昇するが、本発明は、軽量コンクリートの骨材を変更する必要はなく(軽量粗骨材のままであり)、コンクリートの単価が大きく変化するといった問題も発生しない。これらの事項に基づくと、本発明は、非特許文献1~3、特許文献1に係る技術と比較して、より実現性や実用性の高い技術であると言える。
【0012】
本発明に係る軽量コンクリート部材は、有効材齢3~22日の湿潤養生期間に生じる圧縮応力が、0.01~0.33N/mmであるのが好ましい。
本発明によれば、湿潤養生期間に生じる圧縮応力が特定されていることから、より確実に優れたひび割れ抵抗性を発揮することができる。
【0013】
本発明に係る軽量コンクリート部材は、床スラブ、梁、柱、壁、及び、カーテンウォールに用いることが好ましい。
本発明によれば、優れたひび割れ抵抗性を発揮できることから、所定の部材(所定の用途)として好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る軽量コンクリート部材は、CO排出量を削減できるとともに、ひび割れ抵抗性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】圧縮応力の算出に使用した供試体の模式図である。
図2】各供試体の拘束応力の測定結果を示したグラフである。
図3】拘束材比が4.0%である供試体の単位軽量粗骨材あたりの仕事量の測定値と計算値を示すグラフである。
図4A】各供試体の拘束材比と拘束応力の測定値をプロットするとともに、式1の低減係数を無効にした場合の計算値を併せて示したグラフである。
図4B】各供試体の拘束材比と拘束応力の測定値をプロットするとともに、式1の低減係数を有効にした場合の計算値を併せて示したグラフである。
図5A】ひび割れ抵抗性試験における供試体a4と供試体aの拘束応力の結果を示したグラフである。
図5B】ひび割れ抵抗性試験における供試体b4と供試体bの拘束応力の結果を示したグラフである。
図6図4Bのグラフに対して、拘束材比が8.0%の場合における拘束応力の結果を追加したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る軽量コンクリート部材を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
[軽量コンクリート部材]
本実施形態に係る軽量コンクリート部材は、軽量コンクリートと鋼材とを備える軽量コンクリート部材であって、軽量コンクリートは、セメントとして高炉セメントB種のみを含有するとともに、軽量粗骨材と、普通細骨材と、水と、コンクリート用化学混和剤と、を含有し、拘束材比が所定範囲内である。
以下、本実施形態に係る軽量コンクリート部材を構成する各要素について説明する。
【0017】
[軽量コンクリート]
本実施形態に係る軽量コンクリート部材は、「軽量コンクリート」と「鋼材」とを備える。そして、軽量コンクリートとは、骨材に軽量骨材を用いたコンクリートであって、詳細には、JIS A 5308:2019に規定されている要件を満たすものである。そして、軽量コンクリートは、粗骨材として軽量粗骨材を用いつつ、細骨材として普通細骨材を用いる軽量コンクリート1種(いわゆる軽量1種)であるのが好ましい。
(高炉セメントB種)
軽量コンクリートは、セメントとして高炉セメントB種のみを含有する。軽量コンクリートが高炉セメントB種を含有することから、ポルトランドセメントの使用量を削減することができ、セメントの製造時におけるCO排出量を削減することができる。
ここで、高炉セメントB種とは、セメントに所定の分量の高炉スラグを混ぜたものであり、JIS R 5211:2019に規定されている要件を満たすものである。
そして、「セメントとして高炉セメントB種のみを含有する」とは、高炉セメントB種以外に、別途、ポルトランドセメント(JIS R 5210:2019)などのセメントを使用しないという意図である。つまり、本実施形態に係る軽量コンクリートは、一般的な軽量コンクリートとは異なり、セメントが全て、高炉セメントB種で置換されている。
軽量コンクリートにおける高炉セメントB種の含有量(単位量)は、例えば、280kg/m以上、300kg/m以上、330kg/m以上であり、400kg/m以下、380kg/m以下、360kg/m以下である。
【0018】
(軽量粗骨材)
軽量粗骨材とは、普通の粗骨材と比べて軽量な粗骨材であって、JIS A 5002:2003に規定されている要件を満たすものである。
軽量コンクリートにおける軽量粗骨材の含有量(単位量)は、例えば、300L/m以上、305L/m以上、309L/m以上であり、400L/m以下、380L/m以下、350L/m以下である。
(普通細骨材)
普通細骨材とは、山砂、石灰砕砂、川砂、海砂、砕砂、硅砂、石灰砂などが挙げられ、JIS A5308:2019付属書Aに準拠したものである。
軽量コンクリートにおける普通細骨材の含有量(単位量)は、例えば、300L/m以上、320L/m以上、330L/m以上であり、450L/m以下、400L/m以下、360L/m以下である。
【0019】
(水)
軽量コンクリートにおける水の含有量(単位量)は、例えば、150kg/m以上、170kg/m以上、180kg/m以上であり、185kg/m以下である。
なお、水としては、特に限定されず、上水道水、地下水、工業用水などを用いることができる。
(コンクリート用化学混和剤)
コンクリート用化学混和剤とは、JIS A 6204:2011に規定されているものの中でも、AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤である。
軽量コンクリートにおけるコンクリート用化学混和剤(AE減水剤、及び、高性能AE減水剤の少なくとも一方の場合)は、高炉セメントB種に対する重量比(=混和剤の重量/高炉セメントB種の重量×100)が、例えば、0.2%以上であり、2.0%以下、1.5%以下、1.0%以下である。
(その他)
本実施形態に係る軽量コンクリートは、本発明の所望の効果が阻害されない範囲において、一般的な軽量コンクリートに使用される従来公知の材料を適宜含有してもよい。
【0020】
[鋼材]
鋼材は、主として引張応力を負担する鉄骨(形鋼)や鉄筋(棒鋼)などの補強材であり、湿潤養生期間に生じる軽量コンクリートの膨張を拘束する拘束材となる。軽量コンクリートの膨張を鋼材が拘束することにより、軽量コンクリート部材に圧縮応力(プレストレス)が付与される。
鋼材の種類は、後記する用途に用いられる一般的な鋼材であれば特に限定されない。また、軽量コンクリート部材における鋼材の配置箇所も特に限定されず、軽量コンクリートの内部に配置される場合、軽量コンクリートの周囲に配置される場合、両方に配置される場合がある。なお、鋼材が軽量コンクリートの内部に配置される場合は、内部拘束が作用し、鋼材が軽量コンクリートの周囲に配置される場合は、外部拘束が作用する。
(拘束材比)
軽量コンクリートの断面積に対する鋼材の断面積の面積比である拘束材比は、0.2%以上が好ましい。また、拘束材比は、8.0%以下が好ましく、5.0%以下、4.0%以下がより好ましい。拘束材比が所定範囲内であることによって、適切な圧縮応力が生じることとなり(後記する圧縮応力が所定範囲内となり)、優れたひび割れ抵抗性を発揮することができる。
そして、拘束材比とは、詳細には、主応力方向における各断面積の比(=鋼材の断面積/軽量コンクリートの断面積×100)である。例えば、主応力方向における鋼材の断面が200mm、軽量コンクリート部材(軽量コンクリート+鋼材)の断面が8200mmであった場合、拘束材比は、2.5%(=200/(8200-200)×100)となる。
なお、拘束材比を算出する際の「鋼材」とは、鋼材であれば全て含む概念であって、当然、主鉄筋なども含まれる。
【0021】
[圧縮応力]
有効材齢3~22日の湿潤養生期間に生じる圧縮応力は、0.01N/mm以上が好ましい。圧縮応力が所定値以上であることによって、より確実にひび割れ抵抗性を優れたものとすることができる。また、当該圧縮応力は、0.33N/mm以下が好ましい。圧縮応力が所定値以下であることによって、圧縮強度が低下するといった事態の発生を回避することができる。
ここで、有効材齢とは、水和反応に及ぼす養生温度の影響を養生温度が20℃の場合の水和度と等価となるように換算した材齢であって、一般社団法人日本建築学会「マスコンクリートの温度ひび割れ制御設計・施工指針・同解説 第2版」の68頁に規定のとおりである。
【0022】
圧縮応力は、詳細には、以下の式1、2に基づいて算出することができる。
なお、以下の式1、2は、辻幸和「コンクリートにおけるケミカルプレストレスの利用に関する基礎研究」(土木学会論文報告集第235号、1975年3月)に記載の式を参考にしつつ、本発明者らが実験の結果に基づいて導き出したものである。
≪式1≫
σex=-α[{2×Er×(pr/100)}0.5]×[(Ug×Vg)0.5]+β
(式1中の記号の説明)
σex:鋼材によって拘束を受ける軽量コンクリートが、湿潤養生期間に膨張することにより生じる圧縮応力(N/mm)[負の拘束応力を圧縮応力とする]
Er:拘束材(鋼材)のヤング係数(N/mm
pr:拘束材比(%)[=Ar/Ac×100]
Ar:主応力方向の拘束材(鋼材)の断面積(mm
Ac:主応力方向の軽量コンクリートの断面積(mm
Ug:湿潤養生期間te(日)の単位軽量粗骨材あたりの仕事量([N/mm]・[L/m-1)、
(ここで「単位軽量粗骨材あたりの仕事量」とは、詳細には、「単位体積あたりの軽量粗骨材が拘束材に対してなす仕事量」である。)
Vg:軽量コンクリート1mあたりの単位軽量粗骨材容積(L/m
α、β:圧縮応力の安全を考慮する場合の低減係数
なお、低減係数を無効にする場合は、α=1.0、β=0.0を用いればよく、低減係数を有効にする場合は、例えば、α=0.9、β=-0.03を用いればよい。
前記式1における、湿潤養生期間teの単位軽量粗骨材あたりの仕事量Ugは、以下の式2に基づいて算出することができる。
【0023】
≪式2≫
Ug=Uref×exp[1.15×{1-(7/te)0.65}]
(式2中の記号の説明)
Uref:基準となる仕事量(N/mm)・(L/m-1
te:有効材齢に換算した湿潤養生期間(日)
そして、基準となる仕事量Urefは、拘束材比4.0%の場合の湿潤養生期間(有効材齢)7日の値を表しており、9.27×10-9(N/mm)・(L/m-1とする。
なお、式2におけるUrefの値と、定数(1.15、0.65)とは、後記する図3の実線(Ugの計算値)と図3のプロット(Ugの測定値)が近づくように、最小二乗法によって決定した。
【0024】
[用途]
本実施形態に係る軽量コンクリート部材は、ひび割れ抵抗性に優れることから、「床スラブ」、「梁」、「柱」、「壁」などの地上躯体に好適に適用することができる。そして、地上躯体の中でも、工場などであらかじめ製造しておく、プレキャストコンクリート用(プレキャストコンクリートカーテンウォールなど)として適用することもできる。
なお、例えば、カーテンウォールを製造する場合、一般的な製造方法で製造すればよいが、部材の表面が乾燥しないよう、透水性の小さいせき板を存置するか、水密シートで覆うなどした状態で所定期間の湿潤養生を施すこととなる。
【実施例0025】
[実施例1:圧縮応力の計算方法の有効性を確認するための試験]
(供試体の準備)
図1は、圧縮応力の算出に使用した供試体の模式図である。
供試体の形状は、JIS A 6202:2017の附属書B「膨張コンクリートの拘束膨張及び収縮試験方法」のB法を参考とし、図1のとおりである。
詳細には、軽量コンクリート1は、高さ100mm×幅100mm×長さ385mmであり、この軽量コンクリート1の内部に拘束材2(SS400)を埋設し、軽量コンクリート1の左右の両端を、ナット3(NACH10T)と端板4(SS400、長さ19mm)で拘束した。そして、拘束材2の中央付近には、ひずみゲージ5を配置させた。なお、径の異なる拘束材2を用いることで(呼び径:M6、M12、M24)、拘束材比を変化させた。
供試体に使用した軽量コンクリートの各材料は、表1に示すとおりであり、組成は表2に示すとおりであった。
そして、表2に示すとおり、コンクリートの練上りからの湿潤養生期間の温度(表では単に温度と示す)を20℃と30℃の2水準とし、拘束材比を0.2%と0.9%と4%の3水準とし、6種類の供試体(a1~a3、b1~b3)について、それぞれ2体を準備した。
なお、打込み後の供試体は、表面が乾燥しないように被覆した。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(試験内容:図2について)
図2は、各供試体の拘束応力の測定結果を示したグラフである。
湿潤養生期間における各供試体の「拘束応力」は、ひずみゲージで計測された拘束材のひずみに対して、拘束材のヤング係数(20.5kN/mm)、及び、鋼材と軽量コンクリートとの断面積の比(=鋼材の断面積/軽量コンクリートの断面積)を乗じて算出した後、得られた2体の値を平均することで算出した。なお、拘束材のひずみは、材齢14日まで測定した。
この「拘束応力」について、湿潤養生温度の違いによる影響を等価な材齢で評価するために、材齢を有効材齢に換算した。なお、材齢14日までの測定期間を有効材齢で換算すると、20℃の場合は14日、30℃の場合は22日となる。
このように算出した各供試体の「拘束応力」と「有効材齢」をプロットした結果を図2に示した。
なお、図2の圧縮応力は、負の値の拘束応力として示している。
【0029】
(試験内容:図3について)
図3は、拘束材比が4.0%である供試体の単位軽量粗骨材あたりの仕事量の測定値と計算値を示すグラフである。
拘束材比4.0%の供試体a3、b3について、前記の方法で得られた拘束応力(図2に示した値)の経時データの中から、所定の湿潤養生期間(有効材齢で3、5、7、11、22日)についてデータを抽出し、供試体a3とb3の拘束応力の平均値を算出した。
そして、前記式1(α=1.0、β=0.0)の圧縮応力σexに抽出したデータを代入し、単位軽量粗骨材あたりの仕事量Ugを算出した。
このように算出したUgを測定値として図3にプロットした。また、前記式2に基づいて得られる、単位軽量粗骨材あたりの仕事量Ugの計算値を図3に線で示した。
【0030】
(試験内容:図4について)
図4は、各供試体の拘束材比と拘束応力の測定値をプロットしたグラフであって、図4Aは、式1の低減係数を無効にした場合の計算値を併せて示したグラフであり、図4Bは、式1の低減係数を有効にした場合の計算値を併せて示したグラフである。
各供試体について、前記の方法で得られた拘束応力(図2に示した値)の経時データの中から、所定の湿潤養生期間(有効材齢で3、5、7、11、22日)についてデータを抽出した。そして、同じ拘束材比である供試体の拘束応力の値について、所定の湿潤養生期間ごとに平均値(つまり、a1とb1、a2とb2、a3とb3の拘束応力の平均値)を算出した。
このように算出した各供試体の拘束材比と拘束応力とを図4A、4Bにプロットした。
また、図4Aには、低減係数を無効(α=1、β=0)とした前記式1に基づいて得られる、拘束材比と拘束応力との曲線を示した。一方、図4Bには、低減係数を有効(α=0.9、β=-0.03)とした前記式1に基づいて得られる、拘束材比と拘束応力との曲線を示した。
【0031】
(実施例1の図2に示す結果の考察)
図2の結果によると、拘束材比が増加するほど、圧縮応力が増加することが確認でき、有効材齢が長くなるほど、圧縮応力が増加することが確認できた。
また、図2の結果によると、湿潤養生期間の温度が異なる供試体a1とb1、供試体a2とb2、供試a3とb3との間で圧縮応力がほとんど同じ値を示すことが確認できた。
よって、圧縮応力は、有効材齢を用いて湿潤養生期間における温度の影響を考慮することで、「拘束材比」と「有効材齢」とで表されることが確認できた。
(実施例1の図3に示す結果の考察)
図3の結果によると、単位軽量粗骨材あたりの仕事量Ugの測定値と計算値とが一致していたことから、Ugは式2に基づいて適切に算出できることが確認できた。
(実施例1の図4に示す結果の考察)
図4Aの結果によると、圧縮応力の測定値と計算値(式1の低減係数を無効にした場合)とがほとんど一致していたが、拘束材比が1%未満において、計算値の方が高くなってしまう場合があることが確認できた。
一方、図4Bの結果によると、いずれの拘束材比であっても、圧縮応力の計算値(式1の低減係数を有効にした場合)の方が、確実に測定値よりも低くなっていることが確認できた。
つまり、図4A、Bの結果から、圧縮応力は、低減係数を無効にした場合の式1に基づいて適切に算出できるが、もし、圧縮応力をより安全側となるように算出したい場合(算出される圧縮応力よりも実際の圧縮応力が大きくなるようにしておきたい場合)は、式1の低減係数を有効にする方が好ましいことがわかった。
以上より、実施例1の図2~4の全ての結果に基づくと、式1および式2に基づいて、非常に簡便に圧縮応力を算出できることが確認できた。
【0032】
[実施例2:ひび割れ抵抗性などを確認するための試験]
(供試体の準備)
供試体a4、b4の軽量コンクリートの材料は、表1に示すものを使用した。一方、供試体a、bの軽量コンクリートの材料は、セメントとして「普通ポルトランドセメント(密度:3.16(g/cm)、比表面積3250(cm/g))」(表での記号はN)を使用した以外は、表1に示すものを使用した。そして、各供試体の組成は、表3に示すとおりであった。
【0033】
(試験内容:ひび割れ抵抗性試験)
ひび割れ抵抗性試験は、前記した非特許文献2に記載の「コンクリートの収縮ひび割れ評価試験方法」に沿って実施したが、詳細には以下のとおりであった。
ひび割れ抵抗性試験に使用した供試体は、軽量コンクリートの寸法が高さ100mm×幅100mm×長さ1,100mmであって、100mm×100mmの断面の中央に、拘束材として呼び径M33相当のネジきり加工した鋼材(拘束材比8.0%)を埋設した。そして、拘束材の中央300mmの区間はテフロン(登録商標)シートで軽量コンクリートとの付着を除去し、拘束材の中央には、ひずみゲージを配置させた。なお、供試体の形状としては、図1の軽量コンクリート1の両端におけるナット3や端板4などがない状態であった。
作製した供試体について、7日間の湿潤養生の経過後に脱型し、その後、高さ100×長さ1,100mmの側面2面以外をアルミテープで被覆して、表3に示す条件下で乾燥させた。そして、各供試体の「拘束応力」は、ひずみゲージで計測された拘束材のひずみに対して、拘束材のヤング係数(20.5kN/mm)、及び、鋼材と軽量コンクリートとの断面積の比(=鋼材の断面積/軽量コンクリートの断面積)を乗じて算出した。
なお、ひび割れ抵抗性試験は、各供試体について、それぞれ2体の試験を実施した。
【0034】
(試験内容:強度性状に関する試験)
各供試体の材齢28日における軽量コンクリートについて、圧縮強度試験はJIS A 1108:2018に記載の方法、静弾性係数試験はJIS A1149:2017に記載の方法、割裂引張強度試験は、JIS A 1113:2018に記載の方法で実施した。
なお、これらの試験は、各供試体について、それぞれ3体の試験を実施し、平均値を算出した。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
(実施例2の表4に示す強度性状の考察)
表4の強度性状に関する試験の結果によると、本発明の要件を満たす供試体a4、b4について、供試体a4の割裂引張強度が若干低い値となったものの、その他は、従来の軽量コンクリート(供試体a、b)と同等の値となった。
【0038】
(実施例2の表4と図5に示すひび割れ抵抗性試験の結果の考察)
図5は、ひび割れ抵抗性試験における拘束応力の結果であって、図5Aは供試体a4と供試体aの結果であり、図5Bは供試体b4と供試体bの結果である。
なお、図5中の「×」は、ひび割れが発生したことを示す。
図5A、5Bの結果によると、湿潤養生期間における圧縮応力は、従来の軽量コンクリート(供試体a、b)でも生じているものの、本発明の要件を満たす供試体a4、b4の方がやや大きいことがわかった。
そして、乾燥開始後の引張応力は、従来の軽量コンクリート(供試体a、b)が2~2.5N/mmであるのに対して、本発明の要件を満たす供試体a4、b4が0.5~1.5N/mmであり、大幅に抑制されることが確認できた。
よって、表4や図5A、5Bに示すとおり、本発明の要件を満たす供試体a4(実験条件の温度20℃)のひび割れ発生までの期間は、従来の軽量コンクリート(供試体a)と比較して、大幅に延びる結果となった。また、実験条件が高温の30℃であっても、本発明の要件を満たす供試体b4のひび割れ発生までの期間は、従来の軽量コンクリート(供試体b)と比較して、同程度以上の長さとなった。
つまり、軽量コンクリート部材が本発明の要件を満たすことによって、優れたひび割れ抵抗性を発揮できることが確認できた。
【0039】
(実施例2の図6に示す結果の考察)
図6は、図4Bのグラフに対して、拘束材比が8.0%の場合における拘束応力の結果を追加したグラフである。
なお、図6に追加した結果は、ひび割れ抵抗性試験で使用した供試体a4、b4について、実施例2の試験で得られた拘束応力の値を所定の湿潤養生期間(有効材齢で3、5、7、11、22日)ごとに平均値を算出した結果である。
図6の結果によると、拘束材比が8.0%の場合であろうと、圧縮応力の計算値は測定値よりも低くなっていることが確認できた。
よって、図6の結果から、拘束材比が8.0%の場合であろうとも、低減係数を有効にした場合(α=0.9、β=-0.03)の式1に基づくと、圧縮応力をより安全側となるように算出できることがわかった。つまり、式1(低減係数を有効にした場合)に基づいて算出した圧縮応力が本発明で規定する下限値よりも大きくなる場合は、当然、実際の圧縮応力は当該下限値よりも大きくなることから、優れたひび割れ抵抗性の発揮をより確実なものとすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 軽量コンクリート
2 拘束材(鋼材)
3 ナット
4 端板
5 ひずみゲージ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6