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  • 特開-検査方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008863
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】検査方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20250109BHJP
   B23K 11/25 20060101ALI20250109BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B23K11/24 338
B23K11/25 513
B23K11/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111441
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川邉 直雄
(72)【発明者】
【氏名】関口 智彦
(72)【発明者】
【氏名】日置 亨
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 知子
(72)【発明者】
【氏名】江島 翔太
(72)【発明者】
【氏名】小原 貴也
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA01
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA25
4E165EA11
(57)【要約】
【課題】外乱存在下でも精度よく不良品を判別することができる検査方法を提供すること。
【解決手段】本開示に係る検査方法は、鋼板11、12を挟む電極21、22に通電するスポット溶接の検査方法であって、電極において、通電終了後の加圧力及び電極間変位量から鋼板の収縮量を算出し、収縮量が判別閾値以下である場合に、スポット溶接が不良であると判定するものである。さらに、本開示に係る検査方法は、電極において、通電開始時から通電終了時における加圧力及び電極間変位量の時間変化から鋼板の膨張量を算出し、膨張量の最大値と最小値の差分から収縮量を算出するものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を挟む電極に通電するスポット溶接の検査方法であって、
前記電極において、通電終了後の加圧力及び電極間変位量から前記鋼板の収縮量を算出し、
前記収縮量が判別閾値以下である場合に、スポット溶接が不良であると判定する
検査方法。
【請求項2】
前記電極において、通電開始から通電終了における前記加圧力及び前記電極間変位量の時間変化から前記鋼板の膨張量を算出し、
前記膨張量の最大値と最小値の差分から前記収縮量を算出する
請求項1に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は検査方法に関し、特にスポット溶接の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、重ね合わせた鋼板同士においてスポット溶接を用いて接合を行う溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2016/174842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、スポット溶接を用いた接合において、テスト溶接において目標値として記憶させたステップ毎の単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化曲線及び累積発熱量を基準とし、溶接を行うことが開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、いずれかのステップにおいて、散りの発生によって単位体積当たりの瞬時発熱量の時間変化量が基準である時間変化曲線から外れた場合に、外れ量を当該ステップの残りの通電時間内で補償することが開示されている。さらに、特許文献1には、本溶接での累積発熱量がテスト溶接における累積発熱量と一致するように、及びいずれかのステップにおいて散りの発生を検出した場合にはそれ以降における累積発熱量の目標値を低減するように、通電量を制御することが開示されている。
【0006】
特許文献1は、散りの発生後に累積発熱量の異常値判定の判別閾値を設定し、補正する制御が行われており、この方式は溶接不良の判別を行う検査方法にも用いられる。一方で、製造機器の稼働に対し外部から受ける干渉が大きい、即ち、外乱の大きいサンプルにおいては、通電中の膨張量が外乱の強度に応じて変動するため、異常値判定の判別閾値を設けることが困難である。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、外乱存在下でも精度よく不良品を判別することができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る検査方法は、鋼板を挟む電極に通電するスポット溶接の検査方法であって、前記電極において、通電終了後の加圧力及び電極間変位量から前記鋼板の収縮量を算出し、前記収縮量が判別閾値以下である場合に、スポット溶接が不良であると判定するものである。このようにすることで、精度よく不良品を判別することができる検査方法を提供することができる。
【0009】
また、前記電極において、通電開始時から通電終了時における前記加圧力及び前記電極間変位量の時間変化から前記鋼板の膨張量を算出し、前記膨張量の最大値と最小値の差分から前記収縮量を算出してもよい。このようにすることで、外乱存在下でも不良品を判別することができる検査方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、外乱存在下でも精度よく不良品を判別することができる検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係るスポット溶接の概略図である。
図2】本実施の形態に係る膨張/収縮の波形を表す図である。
図3】本実施の形態に係る不良判定を説明する図である。
図4】本実施の形態に係る外乱存在下のスポット溶接を説明する図である。
図5】本実施の形態に係る外乱存在下の不良判定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態に係るスポット溶接の概略図である。
【0013】
スポット溶接は、重ね合わせた鋼板11、12を一対の電極21、22によって挟み(図1(a)参照)、加圧しながら通電を行うことによりナゲット30が形成され、接合が行われる(図1(b)参照)。ここで、通電が開始されると、ナゲット30の膨張が始まり、抵抗の増加による温度上昇や通電面積の拡大が発生し、通電が終了すると、ナゲット30は収縮し、抵抗が減少し、また収縮の影響により電極21、22の一部が鋼板11、12にめり込む(図1(c)参照)。
【0014】
図2は、スポット溶接が行われる間、即ち、通電開始から通電終了までの鋼板11、12、特にナゲット30の膨張/収縮量を、電極21、22において加圧力及び電極間変位量の計測値から取得し、その時間変化をプロットしたものである。さらに図2は、スポット溶接が行われたサンプルの良品/不良品の各断面図を示している。通電が行われている膨張区間において、ナゲット30は、鋼板11、12の間にて膨張し、通電が終了して温度が低下する収縮期間において、ナゲット30は収縮する。この時、ナゲット30が適切に膨張したサンプルは、良品と判別される。一方、ナゲット30が殆ど膨張しない、或いはナゲット30が形成されないサンプルは、不良品と判別される。このように、良品は、不良品に比べてナゲット30が大きく膨張する特徴を有する。
【0015】
図3は、膨張区間における膨張量の積分値を多数のサンプルにおいて算出し、その積分値を縦軸(単位:mm・s/1000)に、計算された区間の膨張量の最大値と最小値の差分である収縮量を横軸(単位:√mm/1000)としてプロットしたものである。なお、図3において、積分値及び収縮量を1000で割っているのは、サンプル管理上、桁数を調整するために行われたものであり、必須の処理ではない。ナゲット30が適切に膨張した良品であるサンプルと、殆ど膨張しなかった不良品であるサンプルは、膨張量の積分値において明確な差が生じており、また、良品と判定されたサンプルは、膨張量の積分値のバラツキが少ないことが分かる。
【0016】
そこで、膨張量の積分値の判別パラメータとし、判別パラメータの判別閾値を設定することにより、不良品の判別を行うことが可能となる。判別閾値の設定は、良品のバラツキの標準偏差σを用いており、例えば、図3においては、判別閾値は5σである0.060程度に設定されており、この判別閾値以下のサンプルを不良品と判定している。
【0017】
このように、膨張量の積分値の異常値を判別パラメータとして用いて判別を行う検査方法は、特に、スポット溶接の溶接不良を製造過程、即ち、インプロセスで検査することが可能であるため、非常に有用である。
【0018】
次に、スポット溶接の工程において外乱が生じた例として、鋼板の間に硬い板隙が入り込んだ場合について図4を用いて説明する。図4(a)は、例として、3枚の鋼板11、12、13の間に、複数の板隙40が入り込んだ状態におけるスポット溶接を表している。
【0019】
板隙40が軟質であれば、鋼板11、12、13を重ね合わせる時点で板隙を潰すことが可能であるが、硬質の板隙40が入り込んだ場合は板隙40を潰しきることができず、電極の周囲の分流が発生し、鋼板11、12、13が軟化し、その後、板隙40が潰れる。このようなサンプルのナゲットの膨張/収縮量をプロットすると、図4(b)の実線に示されるように、通電直後にまず膨張量が低下した後、膨張が始まるため、正常時と比較して負の膨張量を有するなど、膨張区間の波形が大きく変化したものとなる。
【0020】
加えて、板隙40の個数や潰れ具合によっても、通電直後の膨張量の低下の度合は変わるため、板隙40が入り込んだサンプルの膨張量のプロットは、板隙40のないサンプルの膨張量のプロットに比べて、非常にバラツキの大きいものとなる。
【0021】
この時の膨張区間における膨張量の積分値を縦軸に、計算された区間の膨張量の最大値と最小値の差分である収縮量を横軸にプロットしたものを図4(c)に示す。なお、膨張量の積分値と収縮量の算出及び処理は、図3と同様である。板隙40が入り込んだサンプルの膨張量のプロットは、バラツキが多いため、膨張量の積分値においてもバラツキが多くなる。また、良品と不良品とで膨張量の積分値に明確な差が生じていないことから、膨張量の積分値を判別パラメータとし、良品のバラツキの標準偏差σに基づく判別閾値の設定による不良品の判別が困難となる。このように、図4(b)に示される膨張区間の波形は、外乱の影響を大きく受ける。一方で、通電終了後、即ち、収縮期間に対する外乱の影響は少ないことを本発明者らは見出した。
【0022】
この点を利用し、図5(a)に示されるように、収縮期間における最大値と最小値の差分を収縮量として、この収縮量を判別パラメータとして用いる。図5(b)は、膨張区間における収縮量を多数のサンプルにおいて算出し、その積分値を縦軸に、計算された区間の膨張量の最大値と最小値の差分である収縮量を横軸にプロットしたものである。なお、膨張量の積分値と収縮量の算出及び処理は、図3と同様である。板隙40が入り込むような外乱存在下においても良品であるサンプルと不良品であるサンプルは収縮量において明確な差があり、また、良品と判定されたサンプルは、収縮量のバラツキが少ないことが分かる。したがって、判別閾値の設定を、良品のバラツキの標準偏差σを用いて明確に不良品の判別を行うことができる。
【0023】
このようにして、外乱存在下でも精度よく不良品を判別することができる検査方法を提供することができる。
【0024】
なお、本開示は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0025】
11、12、13 鋼板
21、22 電極
30 ナゲット
40 板隙
図1
図2
図3
図4
図5