(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008890
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】レーダー信号処理装置、レーダー信号処理プログラム及びレーダー映像表示装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/12 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01S7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111492
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智恭
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC01
5J070AC02
5J070AC13
5J070AF05
5J070AH12
5J070AK17
5J070AK19
5J070BG06
(57)【要約】
【課題】本開示は、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、レーダー映像の表示態様を改良することを目的とする。
【解決手段】本開示は、レーダー信号に対して、クラッタの抑圧処理を実行して、第1レーダー映像を出力する第1レーダー映像出力部1と、レーダー信号に対して、クラッタの抑圧処理を実行せず、又は、クラッタの抑圧処理を第1レーダー映像と比べて弱く実行して、第2レーダー映像を出力する第2レーダー映像出力部2と、レーダー映像表示装置Dに対して、第1レーダー映像及び第2レーダー映像を重畳表示させるにあたり、第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ、第1レーダー映像を上部表示させるレーダー映像表示部3と、を備えるレーダー信号処理装置Sである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行して、第1レーダー映像を出力する第1レーダー映像出力部と、
前記レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行せず、又は、前記クラッタの抑圧処理を前記第1レーダー映像と比べて弱く実行して、第2レーダー映像を出力する第2レーダー映像出力部と、
レーダー映像表示装置に対して、前記第1レーダー映像及び前記第2レーダー映像を重畳表示させるにあたり、前記第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ、前記第1レーダー映像を上部表示させる、又は、前記第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示させ、前記第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示させるレーダー映像表示部と、
を備えることを特徴とするレーダー信号処理装置。
【請求項2】
前記第2レーダー映像において、レーダー送受信装置の周囲の前記クラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに、前記第1レーダー映像において、前記クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに、前記レーダー映像表示装置に対して、前記クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を表示させるクラッタ抑圧表示部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のレーダー信号処理装置。
【請求項3】
前記第2レーダー映像において、レーダー送受信装置の周囲の前記クラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに、前記第1レーダー映像において、前記クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに、前記第1レーダー映像出力部に対して、前記クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を通知するクラッタ抑圧通知部、
をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載のレーダー信号処理装置。
【請求項4】
前記第1レーダー映像出力部は、前記レーダー信号に対して、前記クラッタの抑圧処理を実行して、スキャン間の相関処理を実行せず、前記第1レーダー映像を出力し、
前記第2レーダー映像出力部は、前記レーダー信号に対して、前記クラッタの抑圧処理を実行せず、又は、前記クラッタの抑圧処理を前記第1レーダー映像と比べて弱く実行して、前記スキャン間の相関処理を実行して、前記第2レーダー映像を出力する
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のレーダー信号処理装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレーダー信号処理装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダー信号処理プログラム。
【請求項6】
請求項1に記載のレーダー信号処理装置が出力する前記第1レーダー映像及び前記第2レーダー映像を重畳表示するにあたり、前記第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示し、前記第1レーダー映像を上部表示する、又は、前記第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示し、前記第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示する
ことを特徴とするレーダー映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、海面反射又は雨雪反射等のクラッタを抑圧するレーダー技術に関する。
【背景技術】
【0002】
海図及びレーダー映像を合成して、船舶又はブイ等の物標を検出するレーダー技術が、特許文献1に開示されている。複数種類のレーダー映像を接続合成して、船舶又はブイ等の物標を検出するレーダー技術が、従来技術として存在している。従来技術では、自船等から遠距離のレーダー映像及び自船等から近距離のレーダー映像を接続合成して、又は、自船等の前方のレーダー映像及び自船等の後方のレーダー映像を接続合成して、船舶又はブイ等の物標を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海面反射又は雨雪反射等のクラッタを抑圧して、船舶又はブイ等の物標を検出するレーダー技術が、従来技術として知られているが、以下に示す課題を有している。
【0005】
従来技術の第1のレーダー信号処理の課題を
図1に示す。
図1の左欄では、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を、高い抑圧レベルで実行する。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが過度に抑圧されており、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標も過度に抑圧されている可能性がある。
【0006】
図1の右欄では、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を、低い抑圧レベルで実行する。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタがある程度表示されているが、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標も同程度に表示されており、クラッタと物標とが適切に区別されていない可能性がある。
【0007】
従来技術の第2のレーダー信号処理の課題を
図2に示す。
図2の左欄では、悪天候時において、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を、高い抑圧レベルで実行する。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが適度に抑圧されているが、クラッタより反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標が表示されない状態であるため、見張りに細心の注意を払い操船する必要がある。
【0008】
図2の右欄では、天候回復時において、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を、低い抑圧レベルで実行すべきことを失念して、悪天候時と同様に高い抑圧レベルで実行する。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが過度に抑圧されており、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標も過度に抑圧されている可能性がある(実際には、
図2の右欄では、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標は存在している)。
【0009】
従来技術の第3のレーダー信号処理の課題を
図3に示す。
図3の左欄では、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を、低速船舶又はブイ等の小物標(海面反射等のクラッタと同程度に強度が低い)が表示される程度の抑圧レベルで実行する。
【0010】
図3の右欄では、レーダー信号に対して、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を実行したうえで、スキャン間の相関処理を実行する。すると、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが適切に除去されており、低速船舶又はブイ等の小物標が適切に抽出されているが、高速船舶等の高速物標がスキャン毎にリアルタイムに抽出されていない可能性がある。
【0011】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、海面反射又は雨雪反射等のクラッタを抑圧するレーダー技術において、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、又は、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するために、レーダー映像の表示態様を改良することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、クラッタの抑圧処理が実行される第1レーダー映像と、クラッタの抑圧処理が実行されない、又は、クラッタの抑圧処理が第1レーダー映像と比べて弱く実行される第2レーダー映像と、を重畳表示させる。ここで、第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ(弱く認識できる程度の色調かつ多階調で表示)、第1レーダー映像を上部表示させる。あるいは、第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示させ、第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示させる。
【0013】
具体的には、本開示は、レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行して、第1レーダー映像を出力する第1レーダー映像出力部と、前記レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行せず、又は、前記クラッタの抑圧処理を前記第1レーダー映像と比べて弱く実行して、第2レーダー映像を出力する第2レーダー映像出力部と、レーダー映像表示装置に対して、前記第1レーダー映像及び前記第2レーダー映像を重畳表示させるにあたり、前記第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ、前記第1レーダー映像を上部表示させる、又は、前記第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示させ、前記第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示させるレーダー映像表示部と、を備えることを特徴とするレーダー信号処理装置である。
【0014】
この構成によれば、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、第1レーダー映像と第2レーダー映像との相対比較を通して、現状のクラッタの抑圧程度を感覚的に表示するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0015】
また、本開示は、前記第2レーダー映像において、レーダー送受信装置の周囲の前記クラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに、前記第1レーダー映像において、前記クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに、前記レーダー映像表示装置に対して、前記クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を表示させるクラッタ抑圧表示部、をさらに備えることを特徴とするレーダー信号処理装置である。
【0016】
この構成によれば、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、天候回復時において悪天候時と比べて低い抑圧レベルで実行すべきことを失念している旨を警告表示するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0017】
また、本開示は、前記第2レーダー映像において、レーダー送受信装置の周囲の前記クラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに、前記第1レーダー映像において、前記クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに、前記第1レーダー映像出力部に対して、前記クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を通知するクラッタ抑圧通知部、をさらに備えることを特徴とするレーダー信号処理装置である。
【0018】
この構成によれば、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、天候回復時において悪天候時と比べて低い抑圧レベルで実行すべき旨を第1レーダー映像出力部に自動設定するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0019】
また、本開示は、前記第1レーダー映像出力部は、前記レーダー信号に対して、前記クラッタの抑圧処理を実行して、スキャン間の相関処理を実行せず、前記第1レーダー映像を出力し、前記第2レーダー映像出力部は、前記レーダー信号に対して、前記クラッタの抑圧処理を実行せず、又は、前記クラッタの抑圧処理を前記第1レーダー映像と比べて弱く実行して、前記スキャン間の相関処理を実行して、前記第2レーダー映像を出力することを特徴とするレーダー信号処理装置である。
【0020】
この構成によれば、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するために、クラッタの抑圧処理が実行されスキャン間の相関処理が実行されない第1レーダー映像と、クラッタの抑圧処理が実行されず、又は、クラッタの抑圧処理が第1レーダー映像と比べて弱く実行され、スキャン間の相関処理が実行される第2レーダー映像と、を重畳表示することができる。
【0021】
また、本開示は、以上に記載のレーダー信号処理装置が備える各処理部が実行する各処理ステップを、コンピュータに実行させるためのレーダー信号処理プログラムである。
【0022】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【0023】
また、本開示は、以上に記載のレーダー信号処理装置が出力する前記第1レーダー映像及び前記第2レーダー映像を重畳表示するにあたり、前記第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示し、前記第1レーダー映像を上部表示する、又は、前記第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示し、前記第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示することを特徴とするレーダー映像表示装置である。
【0024】
この構成によれば、以上に記載の効果を有する表示装置を提供することができる。
【0025】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本開示は、海面反射又は雨雪反射等のクラッタを抑圧するレーダー技術において、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、又は、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するために、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来技術の第1のレーダー信号処理の課題を示す図である。
【
図2】従来技術の第2のレーダー信号処理の課題を示す図である。
【
図3】従来技術の第3のレーダー信号処理の課題を示す図である。
【
図4】本開示のレーダーシステムの構成を示す図である。
【
図5】本開示のレーダー信号処理の手順を示す図である。
【
図6】本開示の第1のレーダー信号処理の具体例を示す図である。
【
図7】本開示の第2のレーダー信号処理の具体例を示す図である。
【
図8】本開示の第2のレーダー信号処理の具体例を示す図である。
【
図9】本開示の第3のレーダー信号処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0029】
(本開示のレーダーシステムの構成)
本開示のレーダーシステムの構成を
図4に示す。本開示のレーダー信号処理の手順を
図5に示す。レーダーシステムRは、レーダー送受信装置A、レーダー信号処理装置S及びレーダー映像表示装置Dを備える。レーダー信号処理装置Sは、第1レーダー映像出力部1、第2レーダー映像出力部2、レーダー映像表示部3、クラッタ抑圧設定部4、クラッタ抑圧表示部5及びクラッタ抑圧通知部6を備え、
図5に示したレーダー信号処理プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0030】
レーダーシステムRは、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタを抑圧して、船舶又はブイ等の物標を検出する。レーダー送受信装置Aは、レーダー照射波を送信して、レーダー反射波を受信して、レーダー信号を出力する。レーダー信号処理装置Sは、レーダー信号に対して、クラッタの抑圧処理及びスキャン間の相関処理を実行して、レーダー映像を出力する。レーダー映像表示装置Dは、レーダー映像を表示する。
【0031】
最初に、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するための、本開示の第1のレーダー信号処理の具体例について説明する。次に、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するための、本開示の第2のレーダー信号処理の具体例について説明する。最後に、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するための、本開示の第3のレーダー信号処理の具体例について説明する。
【0032】
(本開示の第1のレーダー信号処理の具体例)
本開示の第1のレーダー信号処理の具体例を
図6に示す。第1レーダー映像出力部1及び第2レーダー映像出力部2は、以下に示すように異なる処理を実行するが、他のレーダーシステムからの干渉波の除去処理を実行する点において共通する。
【0033】
第1レーダー映像出力部1は、レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行して、第1レーダー映像を出力する(ステップS1)。ここで、第1レーダー映像出力部1は、クラッタ抑圧設定部4でのクラッタ抑圧レベルのユーザー設定に応じて、クラッタの抑圧処理を実行する。
【0034】
第2レーダー映像出力部2は、レーダー信号に対して、海面反射及び雨雪反射のうちの両方又は一方のクラッタの抑圧処理を実行せず、又は、クラッタの抑圧処理を第1レーダー映像と比べて弱く実行して、第2レーダー映像を出力する(ステップS2)。つまり、第2レーダー映像出力部2は、必要な最低限の処理(例えば、他のレーダーシステムからの干渉波の除去処理等)を実行するのみである。
【0035】
レーダー映像表示部3は、レーダー映像表示装置Dに対して、第1レーダー映像及び第2レーダー映像を重畳表示させる(ステップS3又はステップS4)。
【0036】
具体的には、レーダー映像表示部3は、第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ(より弱く認識できる程度の色調かつ多階調で表示)、第1レーダー映像を上部表示させる(より強く認識できる程度の色調かつ多階調で表示)(ステップS3)。
【0037】
あるいは、レーダー映像表示部3は、第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示させ(例えば、各画素の階調数にaを乗算)、第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示させる(例えば、各画素の階調数に1-a(>a)を乗算)(ステップS4)。
【0038】
図6の左欄では、透過表示かつ下部表示される第2レーダー映像において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理が、まったく実行されていない、又は、クラッタの抑圧処理が、第1レーダー映像と比べて弱く実行されている。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが、距離的に広い範囲に表示されている。
【0039】
図6の中欄では、上部表示される第1レーダー映像において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理が、ユーザー設定に応じて実行されている。すると、自船等から近距離において、海面反射又は雨雪反射等のクラッタが抑圧され、メインバング(送信部から受信部への漏洩信号)が表示されるだけの距離的に狭い範囲に表示されている。
【0040】
図6の右欄では、重畳表示される第1、2レーダー映像において、第1レーダー映像のクラッタの表示範囲が第2レーダー映像のクラッタの表示範囲と比べて距離的に狭いか近いかを通じて、現状のクラッタの抑圧レベルが高いか低いかが感覚的に表示されている。
【0041】
第1レーダー映像のクラッタの表示範囲が、第2レーダー映像のクラッタの表示範囲と比べて距離的に狭すぎるときには、現状のクラッタの抑圧レベルが高すぎる。よって、新たなクラッタの抑圧レベルを現状のクラッタの抑圧レベルと比べて低くすることにより、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標も過度に抑圧されている可能性を低くすることができる。
【0042】
第1レーダー映像のクラッタの表示範囲が、第2レーダー映像のクラッタの表示範囲と比べて距離的に近すぎるときには、現状のクラッタの抑圧レベルが低すぎる。よって、新たなクラッタの抑圧レベルを現状のクラッタの抑圧レベルと比べて高くすることにより、クラッタと物標とが適切に区別されていない可能性を低くすることができる。
【0043】
このように、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、第1レーダー映像と第2レーダー映像との相対比較を通して、現状のクラッタの抑圧程度を感覚的に表示するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0044】
(本開示の第2のレーダー信号処理の具体例)
本開示の第2のレーダー信号処理の具体例を
図7及び
図8に示す。第1レーダー映像出力部1、第2レーダー映像出力部2及びレーダー映像表示部3は、本開示の第2のレーダー信号処理においても、本開示の第1のレーダー信号処理と同様な処理を実行する。
【0045】
そして、クラッタ抑圧表示部5は、第2レーダー映像において、レーダー送受信装置Aの周囲のクラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに(ステップS5、YES)、第1レーダー映像において、クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに(ステップS6、YES)、レーダー映像表示装置Dに対して、クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を表示させる(ステップS7)。一方で、クラッタ抑圧表示部5は、ステップS5でNOと判定したときに、又は、ステップS5でYESと判定してステップS6でNOと判定したときに、ステップS7を実行せず、レーダー信号処理を終了する。
【0046】
あるいは、クラッタ抑圧通知部6は、第2レーダー映像において、レーダー送受信装置Aの周囲のクラッタの出現範囲が所定範囲と比べて距離的に狭いとともに(ステップS5、YES)、第1レーダー映像において、クラッタの抑圧程度が所定程度と比べて高いときに(ステップS6、YES)、第1レーダー映像出力部1に対して、クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨を通知する(ステップS8)。一方で、クラッタ抑圧通知部6は、ステップS5でNOと判定したときに、又は、ステップS5でYESと判定してステップS6でNOと判定したときに、ステップS8を実行せず、レーダー信号処理を終了する。
【0047】
図7及び
図8の左欄では、悪天候時において、ユーザーはクラッタの少ない映像に調整するため、クラッタの抑圧レベルを高くする。そして、重畳表示される第1、2レーダー映像において、第1レーダー映像のクラッタの抑圧程度が所定程度(例えば、50%以上のツマミレベル値等)と比べて適度に高いとともに(ステップS6、YES)、第2レーダー映像のクラッタの表示範囲が所定範囲(例えば、自船周辺等)と比べて距離的に広い(ステップS5、NO)。すると、自船等から近距離において、クラッタを抑圧しており、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標がクラッタと共に抑圧されている可能性があることを示しているが、ユーザーがクラッタの少ない映像に調整した結果であるから問題にならない(実際には、
図7及び
図8の左欄では、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標は存在していない)。
【0048】
図7及び
図8の中欄では、天候回復時において、ユーザーはクラッタの抑圧レベルを低くすることを忘れている。そして、重畳表示される第1、2レーダー映像において、第1レーダー映像のクラッタの抑圧程度が所定程度(例えば、50%以上のツマミレベル値等)と比べて過度に高いとともに(ステップS6、YES)、第2レーダー映像のクラッタの表示範囲が所定範囲(例えば、自船周辺等)と比べて距離的に狭い(ステップS5、YES)。すると、自船等から近距離において、クラッタの抑圧が必要ないにも関わらずクラッタの抑圧程度が過度に高いことを示しており、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標が過度に抑圧されている可能性がある(実際には、
図7及び
図8の中欄では、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標は存在しており、第2レーダー映像において、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標が低い強度でしか表示されていない)。
【0049】
図7の右欄では、天候回復時において、重畳表示される第1、2レーダー映像において、クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨の警告表示がされる(ステップS7)。すると、ユーザーは、クラッタの抑圧レベルを忘れずに低くすることができる。
【0050】
図8の右欄では、天候回復時において、重畳表示される第1、2レーダー映像において、クラッタの抑圧程度を現状程度と比べて下げるべき旨の自動設定がされる(ステップS8)。すると、自船等から近距離において、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標が過度に抑圧されている可能性を低くすることができる(実際には、
図8の右欄では、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標は存在しており、第2レーダー映像のみならず、第1レーダー映像においても、反射強度の弱い小型船舶又はブイ等の物標が高い強度で表示されており、クラッタが距離的に狭い範囲でしか表示されていない)。
【0051】
このように、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、天候回復時において悪天候時と比べて低い抑圧レベルで実行すべきことを失念している旨を警告表示するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0052】
あるいは、クラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、天候回復時において悪天候時と比べて低い抑圧レベルで実行すべき旨を第1レーダー映像出力部1に自動設定するように、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【0053】
(本開示の第3のレーダー信号処理の具体例)
本開示の第3のレーダー信号処理の具体例を
図9に示す。第1レーダー映像出力部1及び第2レーダー映像出力部2は、以下に示すように異なる処理を実行するが、他のレーダーシステムからの干渉波の除去処理を実行する点において共通する。
【0054】
第1レーダー映像出力部1は、レーダー信号に対して、クラッタの抑圧処理を実行して、スキャン間の相関処理を実行せず、第1レーダー映像を出力する(ステップS1)。ここで、第1レーダー映像出力部1は、高速船舶等の高速物標をリアルタイムに抽出することができるように、クラッタの抑圧レベルを適度に設定することが望ましい。
【0055】
第2レーダー映像出力部2は、レーダー信号に対して、クラッタの抑圧処理を実行せず、又は、クラッタの抑圧処理を第1レーダー映像と比べて弱く実行して、スキャン間の相関処理を実行して、第2レーダー映像を出力する(ステップS2)。ここで、第2レーダー映像出力部2は、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出することができるように、反射強度が高めの物標を強く認識できる色調で表示することが望ましい。
【0056】
レーダー映像表示部3は、レーダー映像表示装置Dに対して、第1レーダー映像及び第2レーダー映像を重畳表示させる(ステップS3又はステップS4)。
【0057】
具体的には、レーダー映像表示部3は、第2レーダー映像を透過表示かつ下部表示させ、第1レーダー映像を上部表示させる(ステップS3、
図9の右欄)。
【0058】
あるいは、レーダー映像表示部3は、第2レーダー映像をより小さい重み付けで表示させ、第1レーダー映像をより大きい重み付けで表示させる(ステップS4)。
【0059】
図9の左欄では、上部表示される第1レーダー映像において、クラッタの抑圧処理は実行されているが、スキャン間の相関処理は実行されていない。すると、高速船舶等の高速物標がスキャン毎にリアルタイムに抽出されている可能性を高くすることができる。
【0060】
図3の右欄と同様に、透過表示かつ下部表示される第2レーダー映像において、スキャン間の相関処理は実行されているが、クラッタの抑圧処理は実行されていない、又は、クラッタの抑圧処理は第1レーダー映像と比べて弱く実行されている。すると、低速船舶又はブイ等の小物標が適切に抽出されている可能性を高くすることができる。
【0061】
図9の右欄では、重畳表示される第1、2レーダー映像において、高速船舶等の高速物標がスキャン毎にリアルタイムに抽出されている可能性を高くすることができ、低速船舶又はブイ等の小物標が適切に抽出されている可能性を高くすることもできる。そして、クラッタの抑圧処理及びスキャン間の相関処理により、クラッタが適切に除去されているため、自船等の近傍の物標が適切に抽出されている可能性を高くすることもできる。
【0062】
このように、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するために、クラッタの抑圧処理が実行されスキャン間の相関処理が実行されない第1レーダー映像と、クラッタの抑圧処理が実行されず、又は、クラッタの抑圧処理が第1レーダー映像と比べて弱く実行され、スキャン間の相関処理が実行される第2レーダー映像と、を重畳表示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示のレーダー信号処理装置、レーダー信号処理プログラム及びレーダー映像表示装置は、海面反射又は雨雪反射等のクラッタの抑圧処理を適度な抑圧レベルで実行するために、又は、低速船舶又はブイ等の小物標を適切に抽出するとともに、高速船舶等の高速物標もリアルタイムに抽出するために、レーダー映像の表示態様を改良することができる。
【符号の説明】
【0064】
R:レーダーシステム
A:レーダー送受信装置
S:レーダー信号処理装置
D:レーダー映像表示装置
1:第1レーダー映像出力部
2:第2レーダー映像出力部
3:レーダー映像表示部
4:クラッタ抑圧設定部
5:クラッタ抑圧表示部
6:クラッタ抑圧通知部