(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025008950
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】スケール生成評価方法とスケール生成評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111604
(22)【出願日】2023-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】倉光 英樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃
(72)【発明者】
【氏名】細木 藍
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 暉冬
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF04
2G059FF07
2G059GG02
2G059HH02
2G059JJ01
2G059JJ17
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】より短時間でスケールを検知し、スケール生成状態を評価可能なスケール生成評価方法とスケール生成評価装置を提供する。
【解決手段】所定の帯域幅の波長の光を有した光源12と、光源12に一端が接続され光源12からの光が透過する光ファイバ14を有する。光ファイバ14の途中又は端部において部分的にクラッドが除去されたコア表面に貴金属薄膜層18が形成されて露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサ16を備える。光ファイバ14の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を通過した光のスペクトルを検出するスペクトル分析装置20を備える。スペクトル分析装置20は、光源12から光ファイバ14に透過された光のスペクトルの経時的変化を検出し、スケール30の生成状態を評価可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケールの生成状態を評価するスケール生成評価方法であって、
所定の帯域幅の波長の光を有した光源と、前記光源に一端が接続され前記光源からの光が透過する光ファイバと、前記光ファイバの途中又は端部において部分的にクラッドが除去されたコア表面に貴金属薄膜層が形成されて露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサとを用いて、
前記表面プラズモン共鳴スケールセンサをスケール検知対象エリア内に配置した状態で、前記光源からの光を前記光ファイバに透過させ、前記表面プラズモン共鳴スケールセンサを透過した前記光のスペクトルの経時的変化を検出することにより、スケールの生成状態を評価することを特徴とするスケール生成評価方法。
【請求項2】
前記光の帯域幅は、前記光のスペクトルのピーク値の波長が550nm~750nmの範囲を含むものである請求項1記載のスケール生成評価方法。
【請求項3】
前記光は、白色光であり、前記光のスペクトルの経時的変化は、前記光のスペクトルの吸光度のピーク波長の経時的変化を検出したものである請求項1記載のスケール生成評価方法。
【請求項4】
前記スケール検知対象エリアが地熱発電用の配管であり、当該配管中を地熱発電用の地熱水又は温泉水が通過する請求項1記載のスケール生成評価方法。
【請求項5】
熱水が通過する機材の表面に付着するスケールの生成状態を評価するスケール生成評価装置であって、
所定の帯域幅の波長の光を有した光源と、前記光源に一端が接続され前記光源からの光が透過する光ファイバと、前記光ファイバの途中又は端部において部分的にクラッドが除去されたコア表面に貴金属薄膜層が形成されて露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサと、前記光ファイバの前記表面プラズモン共鳴スケールセンサを通過した前記光のスペクトルを検出するスペクトル分析装置とを備え、
前記スペクトル分析装置は、前記光源から前記光ファイバに透過された光のスペクトルの経時的変化を検出し、スケールの生成状態を評価可能にすることを特徴とするスケール生成評価装置。
【請求項6】
前記光源は、LED白色光源である請求項5記載のスケール生成評価装置。
【請求項7】
前記光ファイバは、マルチモード光ファイバであり、クラッドが除去された前記コアの全周の表面に前記貴金属薄膜層として金の薄膜が形成されている請求項5記載のスケール生成評価装置。なお、前記光ファイバは、表面プラズモン共鳴励起に必要なエバネッセント光を取り出せる構造であればよく、実施例に限定されない。例えば、光ファイバの端面、ファイバクラッドをコア付近まで延伸させた構造、異径のファイバ同士を組み合わせた構造などが含まれる。
【請求項8】
前記金の薄膜は、厚さが20nm~50nmである請求項7記載のスケール生成評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバを用いた表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon
Resonance SPR)センサにより、配管等に付着するスケールの生成状態を評価するスケール生成評価方法とスケール生成評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー、熱交換器、温泉施設等において地下水や温泉水を使用する設備では、水中の無機成分が析出したスケールが配管等の内壁、熱交換機の通水管内表面等に付着し積層する。特に、地熱発電所や温泉施設などの地熱水利用施設では、地熱流体中に溶解していた無機塩類が温度、pH、圧力の変化に伴い過飽和状態となっており、スケールとして配管内に析出しやすい。
【0003】
例えば、炭酸カルシウムスケールは、Ca2+やHCO3
-イオンを多く含む熱水の溶存CO2が気液分離により蒸気相へ移動することによる熱水のpH上昇により、炭酸塩鉱物の溶解度が低下するため、スケールとして析出する。また、シリカスケールは地熱発電所の生産井内での気液分離により、熱水中にシリカが濃縮され過飽和となり、スケールとして析出する。これらのスケールが配管内や熱交換器等の管路内に析出すると、配管等の管路の閉塞による流量減少、熱交換効率の低下、設備の故障等多くの問題を引き起こす。
【0004】
スケール生成の対策については、従来より多くの研究による提案がなされており、スケール発生の防止条件の決定には、数日から数ヶ月の試験期間を必要としていた。これまでの評価手法としては、例えばガラス板や金属片を熱水に浸漬させ、スケール生成に伴う重量変化や目視による評価が行われていた。その他、金属製カラム(筒)に岩石やガラスビーズを充填し、これに熱水を通して、目詰まりによる通水量変化による評価試験が行われてきた。しかし、これら従来の方法は試験コストが高く、簡便性に欠けるなどの問題点がある。さらに、効果的なスケール生成防止方法の検討には、迅速かつリアルタイムでのスケール生成評価手法が求められる。
【0005】
一方、特許文献1に示すように、炭酸カルシウムスケールを定量評価する方法として、局所的に加熱できる装置を一定時間加熱した後に、対象水から取り出し、乾燥して電子天秤等を用いて装置を秤量することにより、スケールの付着を検知する方法が提案されている。さらに特許文献1には、水晶振動子マイクロバランスQCM(Quartz Crystal Microbalance)法を利用して、水晶の薄片上の両面に電極が形成された質量変化検出デバイスを対象水に浸し、質量変化検出デバイスの電極表面へのスケール付着による共振周波数の変化を測定するスケール検知方法が開示されている。
【0006】
この他、本願発明者らによる非特許文献1に開示されているように、スケール生成評価や防止条件の評価試験のために、石英やプラスチック製の光ファイバを用いたスケールセンサも提案されている。光ファイバはジャケット、クラッド、コアの三層構造をなしており、コアの部分において光が全反射しつつ伝播する。このスケールセンサは、光ファイバのジャケットとクラッドを除去し、コアを露出させて熱水に浸漬させ、コア表面にコアよりも屈折率の大きいスケールが析出することにより全反射が阻害され、伝播される光量が減少することを利用している。このセンサを利用することにより、スケール生成を数時間から数日で評価することができ、QCM法と同程度の時間でスケール生成を評価することができる。スケールセンサとして使用される光ファイバには、耐熱・耐圧性に優れているシリカコア光ファイバが用いられ、このスケールセンサを利用し、これまで地熱水を扱う各種施設において、熱水から析出する炭酸カルシウムやシリカスケールのモニタリングを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Okazaki et al. Investigation of the effects of electromagnetic fieldtreatment of hot spring water for scale inhibition using a fiber optic sensor. SCIENTIFICREPORTS.(2019)9:10719 https://doi.org/10.1038/s41598-019-47088-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示されたスケール評価方法の場合、十分な評価を行うには、数時間から半日程度の長時間が必要である。また、上記非特許文献1に開示された光ファイバを用いたスケールセンサは、光ファイバのコア部を対象熱水に浸して、表面にスケールが付着することにより、表面部の屈折率が変化して、センサ内を透過する光が減衰することを利用している。従って、シリカスケールを対象とした際には、沈殿するスケールと光ファイバの屈折率が近いことから感度が悪く、長時間の測定時間を要するものであり、この光ファイバスケールセンサを用いた場合も、十分な評価を行うには、半日程度の時間が必要である。よって、従来のスケールセンサは測定時間が長く、よりリアルタイムに近いスケール検知方法が求められている。
【0010】
この発明は、上記従来の背景技術に鑑みて成されたもので、より短時間でスケールを検知し、スケール生成状態を正確に評価可能なスケール生成評価方法とスケール生成評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、スケールの生成状態を評価するスケール生成評価方法であって、所定の帯域幅の波長の光を発する光源と、前記光源に一端が接続され前記光源からの光が透過する光ファイバと、前記光ファイバの途中又は端部において部分的にクラッドが除去されたコア表面に貴金属薄膜層が形成されて露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサとを用いて、前記表面プラズモン共鳴スケールセンサをスケール検知対象エリア内に配置した状態で、前記光源からの光を前記光ファイバに透過させ、前記表面プラズモン共鳴スケールセンサを透過した光のスペクトルの経時的変化を検出することにより、スケールの生成状態を評価するスケール生成評価方法である。
【0012】
前記光の帯域幅は、前記光のスペクトルのピーク値の波長が550nm~750nmの範囲を含むものである。前記光は、白色光であり、前記光のスペクトルの経時的変化は、前記光のスペクトルの吸光度のピーク波長の経時的変化を検出するものである。
【0013】
前記スケール検知対象エリアが地熱発電用の配管であり、当該配管中を地熱発電用の地熱水又は温泉水が通過するものである。
【0014】
またこの発明は、スケールの生成状態を評価するスケール生成評価装置であって、所定の帯域幅の波長の光を発する光源と、前記光源に一端が接続され前記光源からの光が透過する光ファイバと、前記光ファイバの途中又は端部において部分的にクラッドが除去されたコア表面に貴金属薄膜層が形成されて露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサと、前記光ファイバの前記表面プラズモン共鳴スケールセンサを通過した光のスペクトルを検出するスペクトル分析装置とを備え、前記スペクトル分析装置は、前記光源から前記光ファイバに透過された光のスペクトルの経時的変化を検出し、スケールの生成状態を評価可能にするものである表面プラズモン共鳴スケールセンサによるスケール生成評価装置。
【0015】
前記光源は、LED白色光源を用いると良い。前記光ファイバは、マルチモード光ファイバであり、クラッドが除去された前記コアの全周の表面に前記貴金属薄膜層として金薄膜が形成されているものである。前記金の薄膜は、厚さが20nm~50nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明の表面プラズモン共鳴センサによるスケール生成評価方法とスケール生成評価装置によれば、より迅速な測定及び評価が可能であり、より多くのスケール種を検出が可能になる。特に、シリカスケールにおいても迅速且つ正確な検出及び評価が可能となり、適時適切なスケール対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の一実施形態のスケール生成評価装置を示す概略図である。
【
図2】この発明の一実施形態の光ファイバを用いた表面プラズモン共鳴スケールセンサの拡大概略図(a)、表面プラズモン波による検出原理を示す模式図(b)、スケールが付着した状態での表面プラズモン波による検出原理を示す模式図(c)である。
【
図3】この発明のスケール生成評価装置の一実施例の測定結果による波長のピークシフトを示すグラフである。
【
図4】この発明のスケール生成評価装置の一実施例のセンサの浸漬時間とピーク波長の変化を示すグラフである。
【
図5】従来の光ファイバスケールセンサの浸漬時間と光の透過率の変化を示すグラフである。
【
図6】この発明の実施例の光ファイバを用いた表面プラズモン共鳴スケールセンサの金薄膜の厚さが15nmの場合の吸光度の変化を示すグラフ(a),(b)と、屈折率とピーク波長の関係を示すグラフ(c)である。
【
図7】この発明の実施例の光ファイバを用いた表面プラズモン共鳴スケールセンサの金薄膜の厚さが30nmの場合の吸光度の変化を示すグラフ(a),(b)と、屈折率とピーク波長の関係を示すグラフ(c)である。
【
図8】この発明の実施例の光ファイバを用いた表面プラズモン共鳴スケールセンサの金薄膜の厚さが60nmの場合の吸光度の変化を示すグラフ(a),(b)と、屈折率とピーク波長の関係を示すグラフ(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の一実施形態の表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon
Resonance SPR)を利用した光ファイバセンサによるスケール生成評価方法とスケール生成評価装置について、図面を基にして説明する。この発明のスケール生成評価装置は、例えば地熱発電用の地熱水や温泉水等の熱水を用いる装置において、その熱水が接触して通過する管路である配管等の機材表面に付着するスケールの生成状態を評価するものである。その他、例えば二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and
Storage CCS)分野や地熱増産システム(Enhanced Geothermal Systems EGS)においても、CO2の鉱物化反応などの評価にも活用できるものである。
【0019】
この発明の一実施形態のスケール生成評価装置10は、
図1、
図2に示すように、光源12と、光源12に一端が接続され光源12からの光が透過する光ファイバ14を備えたものである。光ファイバ14の途中又は端部には、部分的に光ファイバ14のクラッドが除去されたコア表面に、貴金属薄膜層である金薄膜16が形成され、金薄膜16が露出した表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を備えている。
【0020】
さらにこの実施形態のスケール生成評価装置10は、光ファイバ14の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を通過した光のスペクトルを検出する汎用的なスペクトル分析装置20を備えている。
【0021】
光源12は、光の強度のピーク値の波長が550nm~750nmの範囲を含むものであり、白色光の光源が好ましい。例えば、所定の帯域幅を有したLED光源等の白色光源を用いることができる。さらに、単色光を用いても良くその場合、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を通過した光の変化を検出することにより、スケールの検知・評価を行う。
【0022】
光ファイバ14は、マルチモード光ファイバであり、シリカコア光ファイバを用いることが好ましい。光ファイバ14に形成された表面プラズモン共鳴スケールセンサ18は、クラッドが除去されたコア14aの表面全周に、貴金属薄膜層として金薄膜16が形成されている。金薄膜16は、厚さが20nm~50nmであることが好ましい。金薄膜16の形成は、蒸着等の公知の方法を用いることができる。
【0023】
スペクトル分析装置18は、光源12から光ファイバ14に透過された白色光等のスペクトルの吸光度のピーク波長の経時的変化を検出し、所定の波形でディスプレイに表示して、後述するようにスケールの生成状態を評価可能にする。
【0024】
次に、ここで利用する表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の原理について説明する。
図2に示すように、金薄膜16の裏面側からコア14a内で全反射するように、矢印で示す入射光Lが透過する。このとき、金薄膜16の表面に表面プラズモン波pの共鳴励起が生じる。金薄膜16に表面プラズモン波が共鳴励起されると、その分だけ入射光のエネルギーが消費され、光ファイバ14のコア14a内を通過する反射光の強度低下(反射率低下)が生じる。さらに、金薄膜16の表面にスケール30が付着することにより、金薄膜16の表面屈折率が変化し、表面プラズモン波pの強度も変化する。この変化は、スケール30の付着量と相関関係にあり、スケールの付着量は、後述する実施例の通り、光源12から照射された光のピーク波長の変化として表れる。
【0025】
この実施形態のスケール生成評価装置10を用いたスケール生成評価方法は、
図1に示すように、スケール検知対象エリアが、地熱発電に使用する地熱水や温泉水等の熱水22をモニタリングするための評価用熱水経路24である。この評価用熱水経路24に熱水22を通し、その評価用熱水経路24の熱水22中に、光ファイバ14の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を浸漬してスケールの測定及び評価を行う。熱水22は、その取水井戸等の熱水供給源26から所定の配管である熱水供給経路28に設けられた評価用熱水経路24に供給され、評価用熱水経路24を経由した熱水22は、元の熱水供給経路28に投入される。また、評価用熱水経路24を分岐しても良く分岐した熱水22は廃棄しても良い。また、使用する熱水22を常時流して評価するほか、評価用熱水経路24に一定期間溜めておいてスケールの測定及び評価を行うものでも良い。
【0026】
この発明は、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を用いて、コア14aの表面の金薄膜16に付着するスケールの量を、光ファイバ14内を透過する光のピーク波長の経時的変化として、スペクトル分析装置20により測定するものである。スケールの付着状態の測定は、熱水が通過する機材に付着するスケールの生成状態をほぼリアルタイムで検知し、その生成状態の程度や良否、その他機材に対する影響等を評価することができる。ここで言う熱水は、地熱発電用の地熱水や温泉水であり、地下から噴出する水蒸気も含むものであり、またCCSやEGSを目的として地下に注入した二酸化炭素を含むものであってもよい。また、機材は熱水を通す配管や熱交換器等の管路を含むものである。さらに、光源12に単色光を用いた場合でも、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を通過した光の変化を検出することにより、簡易的にスケールの検知や付着状態の変化等を認識することができ、スケールの生成評価を行うことができる。
【0027】
この実施形態の表面プラズモン共鳴センサによるスケール生成評価装置10とスケール生成評価方法によれば、より迅速な測定及び評価が可能であり、より多くのスケール種を検出が可能になる。特に、シリカスケールにおいても迅速な検出及び評価が可能となり、適時適切なスケール対策を行うことができる。
【0028】
なお、この発明の表面プラズモン共鳴センサによるスケール生成評価方法とスケール生成評価装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、光源12の光の帯域幅や光源の種類は適宜設定可能であり、表面プラズモン共鳴スケールセンサの光ファイバ14の材料や構造も、センサの用途や使用する熱水等に合わせて、選択可能なものである。さらに、適用される熱水等の地下水は、地熱発電用の地熱水の他、温泉水やその他の地下水を含み、水蒸気も含むものである。
【実施例0029】
この発明の表面プラズモン共鳴センサによるスケール生成評価方法とスケール生成評価装置の実施例について以下に説明する。先ず、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の金薄膜16の表面に付着するスケール30により、光ファイバ14を透過する光を測定し、測定した吸光度のピーク波長の経時的変化を
図3に示す。
図3は、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18(金薄膜16の膜厚30nm)を熱水に浸漬した状態で、矢印に示す時間の経過とともに、スペクトルのピーク値の波長がシフトしていることが測定されたことを表している。
図4は、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を熱水に浸漬した状態での
図3で示した各ピーク波長について、時間(横軸)とピーク波長(縦軸)の値をプロットしたものである。これにより、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の浸漬時間とスケールの付着により、測定されるピーク波長の時間的変化が極めて正確に正の相関関係を示していることが分かる。表面プラズモン共鳴スケールセンサ18によるスケール30の付着状態を検知可能な時間は、
図4に示すようにほぼ分単位で検知可能であり、リアルタイムでスケールの付着状態を評価可能であることが分かった。
【0030】
図5は、従来の光ファイバセンサを用いた場合の浸漬時間と光の透過率の変化を示すものであり、初期反応(0~180分)について上記表面プラズモン共鳴スケールセンサ18による
図4と比較すると、
図4の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の方が浸漬後すぐに応答が見られており、直線性にも優れていた。なお、計測後180分以降においては、
図5に示す従来の光ファイバセンサの場合も直線性が見られたが、本発明の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18による
図4に示す変化の方が変化率が大きく、より高感度であることが分かる。よって、本発明の表面プラズモン共鳴スケールセンサ18を用いた、ピーク波長の経時的変化によるスケール生成状態の評価方法は、高精度に迅速にスケールの生成状態を評価することができ、表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の有用性が示された。
【0031】
次に、室内試験による表面プラズモン共鳴スケールセンサ18の金薄膜16の膜厚の評価を行った。膜厚の異なる3種類の表面プラズモン共鳴スケールセンサを用いて、室内試験の吸光度変化に対する表面プラズモン共鳴スペクトルを測定した。その結果、
図6~
図8に示すように、3種類のセンサにおいてそれぞれの屈折率の増加に伴って表面プラズモン共鳴により、光スペクトラムのピーク波長が長波長側にシフトすることが確認できた。
【0032】
特に、
図6(a),(b)、
図7(a),(b)、
図8(a),(b)に示すように、膜厚が大きくなるほどピーク波長のシフト量が大きくなった。また、全ての表面プラズモン共鳴スケールセンサにおいて、
図6(c)、
図7(c)、
図8(c)に示すように、屈折率変化に対する表面プラズモン共鳴スペクトルのピークシフトに直線性が見られた。膜厚15nm、30nm、60nmの各センサの屈折率感度(nm/refractive index unit;RIU)は、それぞれ833nm/RIU、2141nm/RIU、2575nm/RIUであり、膜厚60nmが最も屈折率感度が高く、周囲の屈折率変化に鋭敏であった。
【0033】
なお、
図6(a)、
図7(a)、
図8(a)に示すように、試験時にセンサを投入した溶液の屈折率が大きくなるほど表面プラズモン共鳴とは関係のないピークが530nmあたりに出現した。これは、この実施例の表面プラズモン共鳴スケールセンサの光ファイバは、コア径200μmのマルチモード光ファイバを使用していることに起因していると考えられる。そこで、屈折率感度が比較的高く、530nmに出現するピークの影響が小さい30nmを、金薄膜16の最適な膜厚とした。金薄膜16は、厚さが10nm~60nmの範囲で適宜設定しうるが、厚さが20nm~50nmであることが好ましい。
この発明は、例えば地熱発電所や温泉バイナリー発電所で、定期的に配管内あるいは熱水タンク等の評価用熱水経路に表面プラズモン共鳴スケールセンサを浸漬することにより、1時間以内でスケールの沈殿速度を測定することが可能となり、配管の洗浄などのスケジュール作成に反映できる。評価装置は、バッテリーによる駆動が可能であり、商用電源がない場所でのスケール生成の評価が可能であり、利用範囲が広いものである。表面プラズモン共鳴スケールセンサの取扱いは、特殊技能を有さない技術者でも簡単に操作可能なデバイスの開発に発展する。さらに、この発明は、二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage CCS)分野においても利用可能であり、例えばCO2の鉱物化反応などの評価に活用できる。